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アルバム『ヴィーナス・アンド・マース』の制作過程などの解説はこちらをごらんください。
全英1位・全米1位のヒットとなったウイングス4枚目のアルバム『ヴィーナス・アンド・マース』(1975年)のリマスター盤。2007年にヒア・ミュージックに移籍したポールは、過去に発表したアルバムを「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」というシリーズとしてヒア・ミュージックから再発売するプロジェクトに着手していますが、この『ヴィーナス・アンド・マース』はその第6弾にあたります。シリーズ第7弾の『スピード・オブ・サウンド』(1976年・『ヴィーナス・アンド・マース』の次作)と同時発売されました。『ヴィーナス・アンド・マース』の大規模な再発売は、1993年のリマスター盤「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズ以来となります。
【発売形態】
今回の再発売では、『ヴィーナス・アンド・マース』は2種類の仕様で登場しました。1つは、アルバム本編を収録したCDと、アルバム未収録曲やアウトテイクを収録したボーナス・ディスクによるCD2枚組の「デラックス・エディション(Standard Edition)」。もう1つは、「デラックス・エディション」のCD2枚に加えてアルバムに関連する映像を集めたDVDが付き、128ページに及ぶハード・カヴァー・ブック(ポールの愛妻リンダ撮影の貴重な写真や、アルバム制作過程の完全解説などを掲載)に収めたCD2枚組+DVD1枚組の「スーパー・デラックス・エディション(Deluxe Edition)」です。「スーパー・デラックス・エディション」は、インターネットを介して高音質楽曲データをダウンロードできる特典付き。これまでの「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズではアルバム本編のみを収録した「通常盤」も併せて発売されていましたが、今回は輸入盤・日本盤共に用意されていません。CDは、すべてのCDプレイヤーで再生可能な高音質CDであるSHM-CDが採用されています(日本盤のみ)。
【収録内容】
では、全ディスクを網羅した「スーパー・デラックス・エディション」を基に収録内容を見てゆきましょう。まず全仕様共通のCD 1には、1975年に発売されたオリジナルの『ヴィーナス・アンド・マース』が収録されています。オリジナル通りの曲目であるため、「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズに収録されていたボーナス・トラック3曲は未収録(ただし「ランチ・ボックス〜オッド・ソックス」「マイ・カーニヴァル」はCD 2で聴くことができる)。全曲がロンドンのアビイ・ロード・スタジオにてデジタル・リマスタリングされていて、過去の再発盤に比べて音質が向上しています。
しかし、今回再発売されたCDは輸入盤・日本盤、「デラックス・エディション」「スーパー・デラックス・エディション」共に「磁石屋とチタン男」「コール・ミー・バック・アゲイン」の2曲において音声データの欠落による音飛びがわずかに発生していて、大きな難点となっています。ざっと聴いただけでは気づきにくい程度なのが不幸中の幸いですが、こうした欠陥は「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズ初の出来事であり、一流のプロを結集しての質の高い編集作業が評価されているだけに残念でなりません・・・。販売元のユニバーサルミュージックでは、商品そのものの不良ではないとして、回収・交換等の対応はしないとのこと。なお、同時発売されたアナログ盤とデジタル・ダウンロードでは音飛びは発生していないため、煩わしいと感じる方はそちらを別途チェックするのがよいでしょう。
続いて、全仕様共通のボーナス・ディスクであるCD 2には、『ヴィーナス・アンド・マース』の関連楽曲を14曲収録しています。CD 1と同じくデジタル・リマスタリングが施されていますが、これまで未発表だった音源が多く含まれているのが魅力的です。また、収録曲数が少なめなのが消化不良気味だった一連のボーナス・ディスクでは最大級の全14曲・演奏時間50分とてんこ盛りなのもうれしいです。CD 1収録曲と異なり、ブックレットには歌詞は掲載されていません(ただし日本盤には歌詞・対訳が掲載されたブックレットが別途用意されている)。
既発表のものから見てみると、「マイ・カーニヴァル」と「ランチ・ボックス〜オッド・ソックス」はアルバムと同時期にレコーディングされシングルB面に収録された曲です。この2曲は「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズでのボーナス・トラックでした(なお、もう1曲ボーナス・トラックだった「ズー・ギャング」は既に「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの第1弾『バンド・オン・ザ・ラン』のボーナス・ディスクに収録済み)。また、以前のCDでは次作の『スピード・オブ・サウンド』のボーナス・トラックだったシングル曲「サリー・G」「エロイズ」「ブリッジ・オン・ザ・リヴァー・スイート」の3曲も、『ヴィーナス・アンド・マース』の前年にレコーディングされたことを踏まえ今回収録されています。さらに、同じく前年のシングル曲で、これまでベスト盤以外では聴くことのできなかった「ジュニアズ・ファーム」がアルバムのボーナス・トラックとしては初収録。そして極めつけに、当時のシングルのみに収録され長年入手困難だった「ワインカラーの少女」のシングル・エディットが今回初CD化を果たしました。『ヴィーナス・アンド・マース』収録曲・関連楽曲の別ヴァージョンは他にも「あの娘におせっかい」「ヴィーナス・アンド・マース〜ロック・ショー」「歌に愛をこめて」のシングル・ヴァージョン、「ジュニアズ・ファーム」のDJエディット、「マイ・カーニヴァル」のリミックス・ヴァージョン(未CD化)があり、これらを網羅できてはいませんが、聴き所は一通り押さえてあります。
残る7曲が未発表音源で、ウイングスが再び5人編成になってから『ヴィーナス・アンド・マース』完成に至る1974年〜1975年のセッションで取り上げられたもののお蔵入りになってしまったアウトテイクが中心です。弾き語りによるデモ・テープからリハーサル・テイク、スタジオでの即興演奏まで内容は多彩です。1970年に最初に取り上げられた際の演奏が「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの前々作『ラム』で陽の目を浴びた「ヘイ・ディドル」は、オーバーダブが施され完成度が増した別ミックス。「ソイリー」と「ベイビー・フェイス」はウイングスのドキュメンタリー・フィルム「ワン・ハンド・クラッピング」のオーディオ・トラック。「ロック・ショー(オールド・ヴァージョン)」はアルバム・セッションが始まった頃の初期テイクで、公式テイクと比べ印象はがらりと変わっています。「ゴーイング・トゥ・ニューオリンズ(マイ・カーニヴァル)」では、レコーディングの地をニューオーリンズに移したポールが憧れのプロフェッサー・ロングヘアをカヴァーしています。これらはブートでは既に出回っていて存在自体は知られていましたが、非正規でしか入手できなかったものを高音質で手軽に楽しめる喜びはひとしおです。そして、他アーティストに提供した「レッツ・ラヴ」と「7月4日」をポールが歌うデモ・ヴァージョンは、ブートでも聴くことのできなかった完全初登場の貴重な音源です。全体的に前哨戦にあたる1974年夏の録音が多く、『ヴィーナス・アンド・マース』セッションが本格始動してからのものが「ゴーイング・トゥ・ニューオリンズ(マイ・カーニヴァル)」「ロック・ショー(オールド・ヴァージョン)」の2曲のみというのはマニア的には少し物足りない所でしょうか。ブートではアルバム収録曲の制作途上の別ミックスが豊富に出回っているので、欲を言えばこれらのうちいくつかと、先述の公式発表された別ヴァージョン、未発表曲「Proud Mum」などその他の関連音源でもう1枚ボーナス・ディスクを付けてほしかったですが・・・それでも十分すぎる大盤振る舞いをしてくれたポールには素直に敬意を表したいですね。なお、今回の再発売に合わせて、ポールの公式サイトでは「ワインカラーの少女(エクステンデッド・ヴァージョン)」「ラヴ・マイ・ベイビー」「ロック・ショー(ニュー・ヴァージョン)」という3曲の未発表音源が無料公開されていて、こちらも注目です(「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズには未収録)。
そして、「スーパー・デラックス・エディション」のみ付属のDVDには、『ヴィーナス・アンド・マース』関連の映像が収録されています。これまで公式には未発表だったものが中心で、すべて今回が初のソフト化となります。ウイングスのドキュメンタリー作品「夢の翼(Wingspan)」やブートで断片的に出回っていた映像も含まれますが、ここでは1つの完成した作品としてまとめて楽しむことができます。それぞれ古いフィルムで撮られたものを可能な限り修復してあるので、画質も視聴に十分耐えうる鮮明な仕上がりです。ニューオーリンズのスタジオでの歌入れを捉えた「「マイ・カーニヴァル」レコーディング」は、「夢の翼」とは違いオリジナルの音声でフル・コーラス収録。船上での打ち上げパーティーを撮影した「ボン・ヴォヤジュール」も「夢の翼」ではカットされていたシーンが多く、当日の楽しい雰囲気が手に取るように分かります。「ウイングス・アット・エルストリー」は、2年かけて世界中を駆け巡ることとなるワールド・ツアーのためのリハーサル映像で、完全初登場の演奏を実に6曲も堪能できます。「ヴィーナス・アンド・マース TVコマーシャル」はブートではおなじみのアイテムでしたが、画質・音質共に本DVDの方に圧倒的に軍配が上がるのは言うまでもありません。惜しむらくは、ワールド・ツアー序盤の全英ツアーの足跡を基に編集された「ワインカラーの少女」「ヴィーナス・アンド・マース〜ロック・ショー」のプロモ・ヴィデオが割愛されていることでしょうか・・・。
「スーパー・デラックス・エディション」付属のハード・カヴァー・ブックでは、『ヴィーナス・アンド・マース』が完成するまでをポール本人やデニー・レイン、ジョー・イングリッシュなどの関係者へのインタビューと、貴重な写真・資料で詳しく知ることができます。ウイングスはどのようにメンバーチェンジをしていったのか?ナッシュビルやニューオーリンズではどんな出会いが待っていたのか?豪華なアートワーク制作の舞台裏や各曲解説・・・など、ファンなら誰もが知りたかったことを教えてくれます。ミキシング用に作成された収録曲のトラック・シートや当時各国で発売されたシングルのジャケットなども掲載されています。また、主にリンダとオーブリー・パウエル(アートワークを担当)が撮影した写真が多数収められていて、ポールたちがアルバム制作を楽しむ姿をうかがい知ることができます。巻末にはアルバム本編の収録曲の歌詞と、ボーナス・トラックを含めた全曲の詳細なレコーディング・データがあります。これまで「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズのハード・カヴァー・ブックは革張りでしたが、本作(と『スピード・オブ・サウンド』)は厚紙の表紙にそのままアートワークが印刷されています。特にこの『ヴィーナス・アンド・マース』は黒地なので指紋が目立ちやすく、取り扱いには注意が必要です(汗)。
ハード・カヴァー・ブックの随所には『ヴィーナス・アンド・マース』に関連した付録が挟み込まれています。順に見てゆくと、「Nashville Diary 1975」は1974年夏にナッシュビルを訪れた際のウイングスを写した16ページ型ミニ写真集。ポールが作詞中に作った手書きの歌詞シート(「歌に愛をこめて」)の複製と共に収められている巻物状の歌詞シートは、ポールがアルバムの曲順を練る際に作ったものの復刻版。公式発表された曲順と微妙に異なる点に注目です。続いて、見開きジャケット内側撮影時のウイングスの生写真1枚と、ステッカー2枚。そして最後に、全英ツアー直前の1975年9月6日にロンドンのエルストリー・フィルム・スタジオで行われたドレス・リハーサル用のポスターと招待状が1枚ずつ収められています。これだけ豊富なラインアップにもかかわらず、オリジナル・アルバム発売当時の付録(2枚のポスターと2枚の惑星ステッカー)の復刻に至らなかったのは不思議でなりません。日本限定発売の紙ジャケット盤(1999年)で一度再現済みだからかもしれませんが・・・。
【管理人の評価】
以上見てきたように、全曲がデジタル・リマスタリングされて高音質に生まれ変わっただけでも、「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの『ヴィーナス・アンド・マース』は以前の再発盤に比べて断然お勧めできます。「デラックス・エディション」ではアルバム未収録曲や未発表音源も追加収録されています(「ズー・ギャング」を収録したシリーズ第1弾『バンド・オン・ザ・ラン』を合わせれば、「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズの代用になります)。しかしより強力で、よりお勧めなのは「スーパー・デラックス・エディション」。入手困難なものを多く含んだ貴重な映像を収録したDVDに、『ヴィーナス・アンド・マース』の歴史を詳細に凝縮したハード・カヴァー・ブックまでも多彩な付録と共に付いてくるのですから、ファンなら必携アイテムです!完全生産限定盤のため今後入手が困難になる上、他の仕様に比べて価格も高めですが、苦労して手に入れる価値は十分あります。「なかなか手を出しづらいと思っている」、あまりディープに聴き込んでいない方や、これからポールのソロ・アルバムを集めようとしている方も、せめて「デラックス・エディション」を入手するようにしましょう。CDでは前述の通り音飛びが発生していますが(汗)、「スーパー・デラックス・エディション」であれば特典で高音質楽曲データをダウンロードできますので、環境がある方はそちらを利用すれば解決できます。
『バンド・オン・ザ・ラン』に始まり『ヴィーナス・アンド・マース』までもグレードアップして甦らせた「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズでは、今後もポールの旧作品を継続して再発売するとのこと。数々の名盤が新たなマテリアルと共に帰ってくることを皆さんで期待しましょう!
アルバム『ヴィーナス・アンド・マース』発売40周年記念!収録曲+aを管理人が全曲対訳!!
【曲目解説】
CD 1
曲目解説はこちらをごらんください。
なお、今回のリマスターでは「ロック・ショー」の頭出しの位置が1993年発売の旧盤に比べ若干前寄りに変更されています。
CD 2
1.ジュニアズ・ファーム
1974年10月25日に発売されたシングルで、英国で最高16位・米国で最高3位。ジミー・マッカロク(ギター)とジェフ・ブリトン(ドラムス)が加わり再び5人編成になったウイングスは、1974年6月にリハーサル・セッションのため米国テネシー州のナッシュビルを訪れているが、その際滞在した地元の作曲家クロード・“カーリー”・プットマン・ジュニアの農場にインスパイアされて書かれた曲である。レコーディングもナッシュビルで行われた。ストレートで軽快なロック・ナンバーで、ポールも高評価したジミーのギター・プレイが曲に若々しさを与えている。エンディングに向けてのドラマチックな展開とポールのシャウトも聴き所。
ヒット曲にもかかわらず、1975年のワールド・ツアー(英国とオーストラリア)で取り上げられた後長らくライヴではご無沙汰だったが、2011年の「アップ・アンド・カミング」ツアー最終日で久々に演奏された。その後も2011年〜2012年の「オン・ザ・ラン」ツアーや2016年〜2017年の「ワン・オン・ワン」ツアー(一部公演のみ)などでセットリスト入りしている。『オール・ザ・ベスト』(米国盤のみ)『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』(後者はデラックス・エディションのみ)の各ベスト盤にもフル・ヴァージョンが、『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』にはDJエディットが収録されている。この曲がオリジナル・アルバムのボーナス・トラックに収録されるのは今回が初めて。
2.サリー・G
シングル「ジュニアズ・ファーム」のB面でアルバム未収録曲。初CD化以来これまで次作『スピード・オブ・サウンド』のボーナス・トラックだったが、レコーディング時期がより近いことを考慮して今回初めて『ヴィーナス・アンド・マース』へ鞍替えに。「ジュニアズ・ファーム」同様ナッシュビルで作曲・録音された曲で、本場のミュージシャンを招いて本格的なカントリー・アレンジに仕上げている。歌詞に登場する「プリンターズ・アリー」とは音楽クラブが多く立ち並ぶナッシュビルの一角の名前。1975年2月に「ジュニアズ・ファーム」とA・B面を逆にして再発売されたが、チャートでは振るわなかった。
3.エロイズ
「ザ・カントリー・ハムズ」の変名名義で1974年10月にシングル発売されたインスト・ナンバーで、アルバム未収録曲。初CD化以来これまで『スピード・オブ・サウンド』のボーナス・トラックだったが、今回初めて『ヴィーナス・アンド・マース』へ鞍替えに。若い頃はセミプロのジャズ・ミュージシャンでもあったポールの父親ジェームズが書いた曲で、ナッシュビル滞在中にチェット・アトキンスとお互いの父親について会話したことをきっかけに当地でレコーディングが行われた。演奏にはウイングスのほかチェット・アトキンスがギターで、フロイド・クレイマーがピアノで参加している。家族思いのポールだからこそ実現した究極の親孝行シングルですね。
4.ブリッジ・オン・ザ・リヴァー・スイート
シングル「エロイズ」のB面でアルバム未収録曲。当時の邦題は「河に架ける橋組曲」。初CD化以来これまで『スピード・オブ・サウンド』のボーナス・トラックだったが、今回初めて『ヴィーナス・アンド・マース』へ鞍替えに。「エロイズ」のようにジャズ・アレンジで聞かせるインスト・ナンバーだが、こちらの作曲はポールとリンダ。『ヴィーナス・アンド・マース』でブラス・セクションやストリングスのアレンジを手がけたトニー・ドーシーにとって、この曲がポールとの初仕事となった。
5.マイ・カーニヴァル
1985年11月に発売されたソロ・シングル「スパイズ・ライク・アス」のB面で、アルバム未収録曲。初CD化以来一貫して『ヴィーナス・アンド・マース』のボーナス・トラックであった。『ヴィーナス・アンド・マース』のレコーディングのためニューオーリンズを訪れていたポールが、1975年2月11日に開催されたマルディグラの祭りに触発され1日で書き上げたパーティー・ナンバー。レコーディングは翌12日に行われ、ベニー・スペルマン、ジョージ・ポーターJr.(ミーターズ)ら地元の重鎮たちがコーラスや騒ぎ声で参加している。ドラムスはジェフと交代でウイングスに加入したジョー・イングリッシュ。12インチシングルに収録されていたロング・ヴァージョン「party mix」(未CD化)も今回収録してほしかったですが・・・。
6.ゴーイング・トゥ・ニューオリンズ(マイ・カーニヴァル)
『ヴィーナス・アンド・マース』セッションで録音されたもののお蔵入りとなり、今回初めて公式発表される曲(既にブートでは出回っており存在は知られていた)。副題にある通り「マイ・カーニヴァル」のプロトタイプとなったピアノ・ブルースで、レコーディングの地・ニューオーリンズでは典型的なスタイルである。当地の音楽シーンを長年牽引し、ドクター・ジョンやアラン・トゥーサンなどの父親的存在であるプロフェッサー・ロングヘアがスタジオを訪れた際に即興で演奏された。ピアノはポール、ドラムスはジェフ。
作曲・作詞のクレジットはポールとリンダになっているが、実はプロフェッサー・ロングヘアの代表曲でマルディグラの祭りでもよく知られる「マルディグラ・イン・ニューオリンズ」(1949年)とほぼ同じ曲である。ヴォーカルのメロディはもちろん、ピアノのリフや歌詞もよく似ているし、間奏に口笛を入れるのもそのまま踏襲(おまけにリンダの「プロフェッサー」という一言も聞こえる)。これが別タイトルの「似て非なる曲」になっている辺り、本人たちの間では結構アバウトだったのかもしれません。憧れの人の前で演奏を披露できて、歌っているポールもとっても楽しそう。
7.ヘイ・ディドル
ポールが'70年代初頭に書いたシンプルなカントリー・ナンバー。リンダのコーラスが全面的にフィーチャーされ、一部ではリード・ヴォーカルも取っている。元々はビートルズ解散後初のアルバム『ラム』に収録する予定で、1970年10月にヒュー・マクラッケン(ギター)やデニー・シーウェル(ドラムス)と一緒にレコーディングを行ったがお蔵入りとなってしまった。その後、未発表曲を集めたアルバム『コールド・カッツ』の構想が4度(1978年・1980年・1981年・1986年)にわたり持ち上がった際に収録曲候補となり、断続的にリミックスが繰り返されたものの、アルバム自体の計画が頓挫したため再度お蔵入りに。一方、1971年に録音されたポールの弾き語りデモが2001年のベスト盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』に収録され、曲自体は30年を経てようやく公式発表された。そして、2012年に『ラム』が「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの一環として再発売された際には、1970年当初のスタジオ・テイクがボーナス・トラックとして収録された。
ここに収録されたヴァージョンは、1974年6月〜7月にウイングスのナッシュビルでのセッションで、1970年当初のテイクにカントリー風のオーバーダブを施した時のミックスである(今回初の公式発表)。手がけたのはアーニー・ウィンフリー。これを基に後年『コールド・カッツ』の作業が行われており、うち1978年ヴァージョンとはほとんど(あるいは全く)同じである。『コールド・カッツ』は'80年代後半からブートで出回っており、このミックスも既に知られていた。『ラム』のボーナス・トラックに収録された1970年ヴァージョンとの大きな違いを挙げると、まずはロイド・グリーンのペダル・スチールギターとケイツ・シスターズのフィドルが加わった点。カントリーならではの陽気さが強調され、間奏以降のイメージががらりと変わっている。また、左右両極端に完全に分離されていたポールとリンダのヴォーカルは中央寄りに修正されている。リンダがリード・ヴォーカルを取る箇所のポールのコーラスが大幅にカットされ、ポールとリンダが交互に歌っていることをより鮮明にしている。さらにイントロとエンディングは音量がフルでフェードイン/アウトしない。一方、1980年以降の『コールド・カッツ』で加えられることになる金属質のパーカッションはこの時点ではまだない。『コールド・カッツ』の最終ミックスは未発表のままですが、「2度あることは3度ある」で後続の「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズで陽の目を浴びるのでしょうか・・・?
8.レッツ・ラヴ
ポールが米国の女性歌手ペギー・リーにプレゼントしたラヴ・バラード。ペギー・リーは'40年代からジャズや映画音楽を歌ってきた大ベテランで、柔らかなヴォーカルに定評があった。この手の音楽に子供の頃から親しんできたポールにとっては憧れの存在であり、ビートルズ時代にカヴァーした「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」は彼女のヴァージョンを参考にしたほどである。ポールいわく、ペギーがディナーに誘ってくれたのでお返しに「シャンパンの代わりに曲」を用意したとのこと。ペギーによるカヴァー・ヴァージョンはポール自ら編曲とプロデュースを手がけ、アルバム『レッツ・ラヴ』(1974年10月発売)に収録された。
ポール自身は、1974年8月にウイングスのリハーサル・セッションを撮影したドキュメンタリー・フィルム「ワン・ハンド・クラッピング」の中でこの曲を披露している。「ワン・ハンド・クラッピング」は長年お蔵入りになっていたが、2010年にアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』が「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズとして再発売された際ボーナスDVDに収録され、この曲の演奏シーンも陽の目を浴びた。一方、今回ボーナス・トラックに収録されたのはこれとは全く異なるデモ・テイクで、ブートでも聴くことのできなかった完全初登場の音源である。レコーディングは1974年8月28日。クレジットによるとロンドンのアビイ・ロード・スタジオでジェフ・エメリックをエンジニアに迎えているので、明記はされていないが「ワン・ハンド・クラッピング」と同じセッションと推測される(同日には「ワン・ハンド・クラッピング」の「ジェット」「恋することのもどかしさ」「ラヴ・マイ・ベイビー」などを録音)。ピアノ弾き語りという点は「ワン・ハンド・クラッピング」ヴァージョンと共通しているが、そちらが一節歌った後すぐ即興曲(通称「Sitting At The Piano」)に移るのに対し、ここではメロディ・歌詞共に全部完成した状態で完奏している。キーはペギーのヴァージョンより半音落としている。演奏を終えるとポールが「ペギー・リーに乾杯」とつぶやくのが印象深い。
9.ソイリー
1972年頃に書かれた硬派のロック・ナンバー。同年夏に行われたウイングスのヨーロッパ・ツアーで初披露され、その後はウイングスのライヴでの定番曲となった。1975年〜1976年のワールド・ツアーでは一部公演を除きアンコールで演奏され、うち1976年全米ツアーの模様は同年のライヴ盤『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』で公式発表された。年を経るごとにアレンジはどんどんハードかつ派手に成長していった。一方、スタジオ・アルバムでは一度も取り上げられなかったという珍しい経歴を持つ曲でもある。歌詞は極めて政治的な意味合いを持っていると考えられる。
今回収録されたヴァージョンは、ドキュメンタリー・フィルム「ワン・ハンド・クラッピング」のセッションより。「ワン・ハンド・クラッピング」セッションで存在が確認されている「ソイリー」のリハーサル・テイクは2ヴァージョンあり、いずれもブートで聴くことができたが、ここに収められているヴァージョンは映像版に使用されたテイクで、ブートで聴くことができる演奏前のやりとりでは「テイク7」とアナウンスされている。リハーサル・テイクながら、この曲のスタジオ・ヴァージョンが公式発表されるのは初めてのこと。リード・ギターはジミー、ドラムスはジェフ。他時期のライヴ・ヴァージョンと比較すると、前年までののっしりした雰囲気は姿を消し、圧倒的に軽快に生まれ変わっている。リンダのムーグ・シンセが初めてフィーチャーされている。その反面、ブラス・セクションが入っていない点やイントロのアレンジなどを見ると翌年以降の演奏よりはあっさりとしている。いつでも変わらないのは、ポールの熱いロック・ヴォーカルである。レコーディングは10月9日。ポールはジェフのドラミングを気に入っていなかったようで、映像版では演奏後の「反省会」でジェフをなじるシーンが登場する。
10.ベイビー・フェイス
オリジナルはハリー・アクスト作曲、ベニー・デイヴィス作詞のスタンダード・ナンバーで、1926年の発表以来リトル・リチャードやビング・クロスビーなど数多くのアーティストがカヴァーしてきた。日本では1960年のブライアン・ハイランドによるヴァージョンが「空耳アワー」のテーマ曲として有名かもしれません(苦笑)。ポールお気に入りの曲らしく、ウイングスやソロでのライヴでは「恋することのもどかしさ」や「ヘイ・ジュード」を演奏する前にフェイントとしてちょっとだけ弾き語ることがしばしばある。
ここに収録されたヴァージョンは、「ワン・ハンド・クラッピング」のエンディングで燕尾服を着たポールがキャバレー風にピアノを弾き語るシーンより。映像版ではポールの語りがかぶっていたため、純粋に演奏だけを堪能できるオーディオ・トラックは今回が初登場である。それまでは公式のみならず、ブートでも映像版の音源しか出回っていなかった。映像版では冒頭で演奏をトチって仕切り直しているが、その箇所はカットされている。レコーディングは1974年11月で、この時はポールのピアノとヴォーカルのみだった。その後、『ヴィーナス・アンド・マース』セッション中の1975年1月にニューオーリンズで地元のタキシード・ブラス・バンドによるブラス・セクションとドラムスがオーバーダブされた。ある段階までは『ヴィーナス・アンド・マース』収録曲と一緒に保管されていたようで、アルバム収録も視野に入れていたのではないかと思われる。
11.ランチ・ボックス〜オッド・ソックス
1980年4月に発売されたソロ・シングル「カミング・アップ」のB面で、アルバム未収録曲。初CD化以来一貫して『ヴィーナス・アンド・マース』のボーナス・トラックであった。『ヴィーナス・アンド・マース』セッション中にニューオーリンズで録音されたピアノ主体のインスト・ナンバーで、アルバムから収録漏れになった後は未発表曲集『コールド・カッツ』の収録曲候補にもなっていた(「マイ・カーニヴァル」も同様の経過をたどっている)。リンダがムーグ・シンセを、ジェフがドラムスを、トニー・ドーシーがベースをそれぞれ担当している。
12.7月4日
ポールがオーストラリア出身の男性歌手ジョン・クリスティーにプレゼントしたバラード・ナンバー。1970年頃に「Why Am I Crying」のタイトルで書かれたと言われ、1973年にはTV番組「ジェイムズ・ポール・マッカートニー」のリハーサルでこの曲の一節を歌っているのが確認されている。ポールは1974年、元デイヴ・クラーク・ファイヴのデイヴ・クラークから当時プロデュースしていた新人・ジョンのための楽曲を依頼され、数年温めてきたこの曲を提供することに決めた。ジョンによるカヴァー・ヴァージョンは1974年7月にシングルとして発売されたが、全くヒットしなかった。ポールとしては珍しく物悲しいラヴ・ソングで、タイトルの「7月4日」とはアメリカの独立記念日のこと。
今回ボーナス・トラックに収録されたのはそのポール・ヴァージョンで、アコースティック・ギター弾き語りによるホーム・デモである。ポールが歌うこの曲は、先述の「ジェイムズ・ポール・マッカートニー」での一節を除きこれまでブートにも一切流出せず、その存在すら知られていなかったため大変貴重な大発見と言えよう。もちろん公式発表されるのも今回が初めて。録音時期は不明で、作曲当時のものとも、楽曲提供用に制作されたものとも考えられる。キーはジョンのヴァージョンより2音半高く、ほとんどファルセットで歌っている。また、テンポも大幅に落としているので歌詞の物悲しさはこちらの方がよりひしひしと伝わってくる。メロディ・歌詞・曲構成共に、この時点で既に完成している。ジョンのヴァージョンは未CD化で、公式での入手が極めて困難なため知る人ぞ知る曲となっていますが、本当にいい曲です。それだけにまさかこんな形でポールが歌うヴァージョンを聴くことができるとは・・・!この喜びはポール・マニアであればあるほど大きいかもしれませんね(苦笑)。
13.ロック・ショー
1974年11月1日、『ヴィーナス・アンド・マース』セッションの最初期にロンドンのアビイ・ロード・スタジオでレコーディングされたアウトテイクで、今回が初の公式発表となる。ただし、ブートでは以前から聴くことができた。この時のドラマーはジェフで、約3ヶ月後の1975年1月27日にニューオーリンズで結果的に公式テイクとなるリメイク・ヴァージョンに取りかかった時にはジョーがその代わりをつとめた。公式テイクでは様々なオーバーダブが加えられているが、この初期ヴァージョンはギター、ベース、ドラムス、ムーグ・シンセのみという非常にシンプルで骨太なバンド・サウンドとなっている。特にポールが弾くベースと、リンダが弾く前作『バンド・オン・ザ・ラン』さながらのムーグ・シンセが強調され、公式テイクとは違う雰囲気を楽しめる。一方で第2パートのハンドベルのアレンジが既に固まっている点は面白い。
3つあるすべてのパートが歌詞と共に完成しているが、第2パートが終わった後は公式テイクのように第1パートに戻らず間奏を挟んで第3パートへ向かう。リンダやデニー・レインのコーラスは入らず、ポールのリード・ヴォーカルのみが生々しく響く。聴き所は終盤で、ムーグ・シンセがうなりを上げる中ポールがシャウト交じりの熱唱でどんどんテンションを上げてゆく。演奏はまだまだ単調気味ですが、ヴォーカルはタイトル通り最高に「ロック」しています。公式テイクでもこれくらいシャウトしてほしかった!と思う人も多いのではないでしょうか。数ある『ヴィーナス・アンド・マース』関連のアウトテイクでも最重要の必聴アイテムだと思っていたので、案の定公式発表されたことを歓迎したいですね。
14.ワインカラーの少女(シングル・エディット)
1975年9月に『ヴィーナス・アンド・マース』からの第2弾シングル(英国41位・米国39位)となった際に収録されたリミックス・ヴァージョン。長い間シングルでしか聴くことができず、ウイングス時代で数少ない未CD化音源だったが、今回ようやくファン念願の初CD化を果たした。アルバム・ヴァージョンと同じテイクが基になっているものの、アルバム発売後の1975年8月にアビイ・ロード・スタジオで追加のオーバーダブを施したものが使用されている。リミックスを手がけたのは、初期ウイングスのアルバムでたびたびエンジニアを任されたアラン・パーソンズ(アルバム・ヴァージョンはアラン・オダフィ)。アルバム・ヴァージョンでのドラムスはジェフだが、シングル・ヴァージョンではジョーの演奏に差し替えられている。また、リンダのオルガンが強調され、全体にかけられていたエコーが取り払われるなど、印象はがらりと変わっている。ポールのヴォーカルも極めてドライに響く。さらにイントロとエンディングの大部分がカットされ、アルバム・ヴァージョンより1分も短くなっている。
DVD
1.「マイ・カーニヴァル」レコーディング
1975年2月12日、ニューオーリンズのシー・セイント・スタジオで完成したばかりの新曲「マイ・カーニヴァル」のレコーディングを行うウイングスを地元のTV局が取材に訪れた際に撮影された映像。同日夜のニュース番組「ニュース・シーン・エイト」で使用されたが、これを基にした音源が知る人ぞ知るビートルズのアナログ・ブート「20x4」に収録され、10年後の1985年まで公式未発表だったこの曲の存在をファンに知らしめることとなった。映像はウイングスのドキュメンタリー「夢の翼」(2001年)でほんの一部見ることができたが、音声は公式テイクに差し替えられていた。今回は映像・音声共にオリジナル通りの姿でフル・コーラス収録されている(初ソフト化)。なお、この時即興で演奏されたピアノ・インストは音源がブートで出回ったほか、映像が公式プロモ・ヴィデオ集「ポール・マッカートニー・アンソロジー(The McCartney Years)」のメニュー画面に使用されている。
この映像が撮られた時点で大半のレコーディングは済んでいて、ゲスト参加者によるコーラスも収録済みである。ウイングスのメンバーは曲をプレイバックしながらそこにコーラスをオーバーダブしてゆく。同時にデニーはウッド・ベースを弾き、他のメンバーは手拍子を入れる。前日に開催されたマルディグラの祭りの余韻もあってみんな笑顔で楽しそう。特にポールとリンダがノリノリで、手振りを交えてはしゃいでいる。ベニー・スペルマンの“It's a lovely day”という低音ヴォーカルが入る所で、ポールが渋い顔して口パクで真似るのが面白い。一方、プレイバックされている演奏は公式テイクとはミックスが大幅に異なる(未発表曲集『コールド・カッツ』の初期段階のミックスに近い)。第1節のコーラスや間奏末尾のブラス・セクションなど、公式テイクではカットされてしまったものも確認できる。
2.ボン・ヴォヤジュール
未発表映像。ニューオーリンズでの新曲の録音が一通り終わったのを受け、1975年2月13日に関係者や地元のミュージシャンたち、それに記者やカメラマンなどを招いて行われた打ち上げパーティーの模様である。このパーティーのためにミシシッピ川を下る遊覧船ヴォヤジュール号が貸切られた。映像はジョイ・フック・ジュニアの監督により「ヴォヤジュール」というドキュメンタリー・フィルムにまとめられたが、今回はそれに編集を加えたものが収録されている。BGMは「あの娘におせっかい」「磁石屋とチタン男」「幸せのアンサー」「ヴィーナス・アンド・マース」。これまで「夢の翼」や、「The McCartney Years」のメニュー画面でも断片的に見ることができたが、ここまでまとまった形で公式発表されるのは初めてである。
映像はまず、多くの人々に出迎えられウイングス一行が波止場に到着する所から始まる。歓迎の演奏を披露しているのはタキシード・ブラス・バンド。ポールたちはシルクハットをかぶり陽気なダンスでそれに応じる(ポールは途中タキシード・ブラス・バンドの帽子と日傘を着用している)。このシーンは「マイ・ブレイヴ・フェイス」(1989年)のプロモ・ヴィデオにも一瞬登場する。続いて、船上でのインタビューでマルディグラの祭りの話題が出て、その時の写真のスライドショーが展開される。ポールとリンダは気兼ねなく祭りを楽しむためにピエロの仮装をして出かけたが、その姿も現れる。華やかな仮装行列にBGMの「磁石屋とチタン男」が図らずもぴったり。さらなるインタビューを挟んで、マスコミを降ろしてのセカンド・クルーズの模様へ。食事や記念撮影、生演奏にのせてのダンスとリラックスした雰囲気が伝わってくる。そして締めくくりは地元ミュージシャンによるミニ・ライヴとセッション・タイム。ここではミーターズの「ジャングル・マン」(1974年)の演奏シーンが抜粋されている。セッション・タイムではポールやリンダもパーカッションで参加し、アドリブ・ヴォーカルを入れている。音楽を愛する者ばかりが集って、とっても楽しく盛り上がっています。
3.ウイングス・アット・エルストリー
未発表映像。『ヴィーナス・アンド・マース』発売後の1975年9月に初のワールド・ツアーの前哨戦として敢行した全英ツアーに向け、ウイングスはロンドンのエルストリー・フィルム・スタジオでリハーサルを繰り返したが、その風景を(恐らく数日にわたって)撮影したものである。クレジットでは7月となっているが、関係者やファンクラブの会員などを招待したドレス・リハーサルを同じエルストリーで9月6日に行っている(その頃の音源はブートで出回っている)ので、9月とする向きもある。リハーサルの映像は「ジェット」と「007/死ぬのは奴らだ」のみ断片がブートで出回っていたが、今回はモノクロで不完全ながら初登場となる『ヴィーナス・アンド・マース』収録曲の演奏を実に6曲も楽しむことができる。
スタジオにメンバーが集まってくるシーンと共に始まる「ヴィーナス・アンド・マース」はワールド・ツアーのオープニングを飾った曲で、本番と同じくデニーが6弦と12弦のダブルネック・ギターを弾いているのが確認できる。続く「ワインカラーの少女」はこの段階ではブラス・セクション抜きのためシンプルで、リンダのコーラス含め気だるさが漂う。その後同曲のスタジオ・ヴァージョンをBGMに、ジミーが持ち込んだボールでスタジオ内で(!)サッカーに興じるシーンが登場する。「コール・ミー・バック・アゲイン」もブラス・セクション抜きで、ピアノを弾きながら熱唱するポールを横から映している。「ロック・ショー」は唯一フル収録されていて、本番をほうふつさせるかっこいい演奏を余すことなく堪能できる。休憩中の様子が途中かぶるが、デニーが『ヴィーナス・アンド・マース』のTシャツを着ている。ポールやリンダがチップスを食べるシーンや即興曲を挟み「磁石屋とチタン男」が続くが、なぜかデニーがメインで映りっぱなしである(個人的にはおいしいですが)。最後の「あの娘におせっかい」ではポールはリンダの傍らでエレクトリック・ピアノを弾く。イントロでステップを踏むデニーや、コーラスを入れ間違えて照れ笑いするジョーがお茶目(笑)。演奏はクロスフェードでスタジオ・ヴァージョンにつながり、それをBGMにポールとリンダは愛車でスタジオを後にする。
4.ヴィーナス・アンド・マース TVコマーシャル
アルバム『ヴィーナス・アンド・マース』を宣伝するためにポールの楽曲版権会社(MPL)が制作したTVCMで、1975年6月26日に英国ITVで初めて放送された。監督はカレル・ライス。撮影は5月にロンドン西部の家で行われ、ビリヤードの球を使ったアルバム・ジャケットになぞらえてウイングスの5人がスヌーカー(ビリヤードの一種)を楽しむ姿を捉えている。ただし真剣に取り組んでいるシーンはわずかで、みんなで球を転がし合ったり、リンダが突いた球をポールが息とこぶしでポケットに落としたりとふざけてばかりである(苦笑)。上流階級風に着飾ったポールも新鮮だが、一番目立っているのはやはりデニーであろう。珍しくひげ面と思いきやピアノを弾いていたり、居眠り中をキューでたたき起こされて大急ぎでプレーに加わったり・・・しかもその仕草が大げさでいちいち笑いを誘うから面白くて仕方ありません(笑)。BGMには「ヴィーナス・アンド・マース」「幸せのアンサー」「あの娘におせっかい」「トリート・ハー・ジェントリー〜ロンリー・オールド・ピープル」「メディシン・ジャー」「ヴィーナス・アンド・マース(リプライズ)」がメドレー形式で登場する(ピッチはオリジナルより一律にやや高い)。以前からブートでは定番アイテムだったが、圧倒的に向上した画質・音質で楽しめる。ウイングス好きならぜひ押さえておきたいです。