|
|
|
|
|
アルバム『マッカートニーII』の制作過程などの解説はこちらをごらんください。
'80年代のポール最初の1枚であり、異色作として知られるアルバム『マッカートニーII』(1980年)のリマスター盤。2007年にヒア・ミュージックに移籍したポールは、過去に発表したアルバムを「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」というシリーズとしてヒア・ミュージックから再発売するプロジェクトに着手し、2010年には第1弾として『バンド・オン・ザ・ラン』がリリースされましたが、この『マッカートニーII』はその第3弾にあたります。シリーズ第2弾の『ポール・マッカートニー』(1970年・『マッカートニーII』と同じくポールがほぼ1人で完成させたソロ・アルバム)と同時発売されました。『マッカートニーII』の大規模な再発売は、1993年のリマスター盤「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズ以来となります。
【発売形態】
今回の再発売では、『マッカートニーII』は3種類の仕様で登場しました。1つは、アルバム本編のみを収録したCD1枚組の「通常盤(Standard Edition)」。次に、アルバム未収録曲やアウトテイクを収録したボーナス・ディスクを1枚追加したCD2枚組の「デラックス・エディション(Special Edition)」。そして最後に、「デラックス・エディション」のCD2枚に加えてさらなるアウトテイクを収録したボーナスCDもう1枚と、アルバムに関連する映像を集めたDVDが付き、128ページに及ぶハード・カヴァー・ブック(ポールの愛妻リンダ撮影の貴重な写真や、アルバム制作過程の完全解説などを掲載)に収めたCD3枚組+DVD1枚組の「スーパー・デラックス・エディション(Deluxe Edition)」です。「スーパー・デラックス・エディション」は、インターネットを介して高音質楽曲データをダウンロードできる特典付き。日本では、まず「デラックス・エディション」と「スーパー・デラックス・エディション」が完全生産限定盤として発売され、遅れて「通常盤」が発売されました。CDは、すべてのCDプレイヤーで再生可能な高音質CDであるSHM-CDが採用されています(日本盤のみ)。
【収録内容】
では、全ディスクを網羅した「スーパー・デラックス・エディション」を基に収録内容を見てゆきましょう。まず全仕様共通のCD 1には、1980年に発売されたオリジナルの『マッカートニーII』が収録されています。オリジナル通りの曲目であるため、「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズに収録されていたボーナス・トラック3曲は未収録。全曲がロンドンのアビイ・ロード・スタジオにてデジタル・リマスタリングされていて、過去の再発盤に比べて音質が向上しています。
続いて、「デラックス・エディション」と「スーパー・デラックス・エディション」のボーナス・ディスクであるCD 2には、『マッカートニーII』の関連楽曲を8曲収録しています。CD 1と同じくデジタル・リマスタリングが施されていますが、これまで未発表だった音源が多く含まれているのが魅力的です。CD 1収録曲と異なり、ブックレットには歌詞(日本盤は対訳も)は掲載されていません。
既発表のものから見てみると、「チェック・マイ・マシーン」と「シークレット・フレンド」はアルバムと同時期にレコーディングされシングルB面に収録された曲です。この2曲は「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズでのボーナス・トラックでした。なお、もう1曲ボーナス・トラックだった「グッドナイト・トゥナイト」は今回未収録ですが、レコーディング時期が異なるウイングス名義の曲であることを考えれば妥当な措置と言えるでしょう。また、以前のCDでは前作の『バック・トゥ・ジ・エッグ』のボーナス・トラックだったシングル曲「ワンダフル・クリスマスタイム」も、『マッカートニーII』セッションでレコーディングされたことを踏まえ今回収録されています。さらに、シングルB面が初出の「カミング・アップ」のライヴ・ヴァージョン(ウイングスの1979年全英ツアーより)も追加されましたが、当時のシングルとは異なる編集が施されている点には注意が必要です。
残る4トラックが未発表音源で、「ボギー・ウォブル」「ミスター・H・アトム/ユー・ノウ・アイル・ゲット・ユー・ベイビー」「オール・ユー・ホース・ライダーズ/ブルー・スウェイ」の実質5曲はアルバム・セッションで取り上げられたもののお蔵入りになってしまったアウトテイクです。これらはブートでは既に出回っていて存在自体は知られていましたが、ブートでは一様にピッチが高くなっていた所をここでは本来あるべき状態で収録している上に、スクラッチ・ノイズも除去され高音質で手軽に楽しむことができます。いずれもインスト・ナンバーやそれに準ずるものであり、お世辞にも完成度は高くありませんが、テクノ・ポップの影響を強く感じられるのが興味深いです。惜しむらくは、「ボギー・ウォブル」「ミスター・H・アトム/ユー・ノウ・アイル・ゲット・ユー・ベイビー」がブートで聴くことのできるものより編集で短くなっている点でしょうか(「ミスター・H・アトム」はミックスも異なる)。「ユー・ノウ・アイル・ゲット・ユー・ベイビー」が独立したトラックになっていなく、頭出しできないのも難点。それでも、未発表曲をまとめて30年の歳月を経て世に送り出してくれたポールには素直に敬意を表したいですね。もう1曲、「ブルー・スウェイ」の1986年ヴァージョンは白眉で、ブートにも一切流出していなかった完全初登場音源です。
そして、「スーパー・デラックス・エディション」のみのボーナス・ディスクであるCD 3には、『マッカートニーII』セッションのアウトテイクをさらに8曲収録しています。こちらもすべてデジタル・リマスタリングが施されています。うち7曲はアルバムやシングルでの公式発表にあたって編集される前の段階のヴァージョンで、そのほとんどが公式発表版では聴くことのできない箇所を大幅に含む完全版なのがうれしい所。終盤に第1節に戻る「カミング・アップ」や、シャウト気味のヴォーカルが飛び出す「ダークルーム」など興味深い側面を垣間見せる曲もあります。「サマーズ・デイ・ソング」はヴォーカルをオーバーダブする前のインスト・ヴァージョン。CD 2の未発表曲と同様ブートでは出回っていましたが、やはりピッチやノイズといった問題をすべて克服しています。また、「ワンダフル・クリスマスタイム」の完全版はブートでも聴くことのできなかった完全初登場音源です。最終トラックの「ウォーターフォールズ(DJエディット)」は、ベスト盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』に収録されていた既発表のショート・ヴァージョン。
最後に、「スーパー・デラックス・エディション」のみ付属のDVDには、『マッカートニーII』関連の映像が収録されています。既に発表されているものと、これまで公式には未発表だったものとで構成されています。まず、「カミング・アップ」「ウォーターフォールズ」「ワンダフル・クリスマスタイム」のプロモ・ヴィデオ。いずれも公式プロモ・ヴィデオ集「ポール・マッカートニー・アンソロジー(The McCartney Years)」に収録されていましたが、「カミング・アップ」「ウォーターフォールズ」の2曲はその時と全く同じ内容が再収録され、天地がカットされて1980年当時とは画面サイズが異なっています。一方、「ワンダフル・クリスマスタイム」は別ソースが使用され、1979年当時に忠実な画面サイズで収録されています(ただし従来品ほどは画質向上を徹底していない)。
続いて、アルバム発売当時のインタビュー番組「ミート・ポール・マッカートニー」は初ソフト化。レコーディング・セッションの話はもちろん収録曲のエピソードや自らの音楽活動に対する姿勢などをポールが詳しく語る25分の作品です。「カミング・アップ」に関しては、先述のプロモ・ヴィデオのメイキング映像が新たに制作されたほか、公式未発表だった「カンボジア難民救済コンサート」とリハーサル・セッションにおけるウイングスの各演奏シーンを収録する大盤振る舞いで、容易に入手できる映像が顕著に少ない最終ラインアップのウイングスによる同曲を高画質で楽しむことができます。未発表曲「ブルー・スウェイ」(1986年ヴァージョン)のイメージ・ヴィデオは今回のリマスターのために新たに制作されたものですが、曲想にマッチした幻想的で美しい仕上がりに注目です。
「スーパー・デラックス・エディション」付属のハード・カヴァー・ブックでは、『マッカートニーII』が完成するまでをポール本人へのインタビューと、貴重な写真・資料で詳しく知ることができます。ウイングスの行き詰まりをポールはどう感じていたのか?『マッカートニーII』セッションはどのように進められたのか?ファンなら誰もが知りたかったことを教えてくれます。全収録曲を詳細に解説したアルバム発売当時のインタビューが全文掲載されているのはうれしい所。ポール直筆のトラック・シートや2枚組当時のマスター・テープ・ボックスのインデックス、当時発売されたシングルのジャケットなども掲載されています。また、アルバムのアートワークに使用されたものも含め主にリンダが撮影した写真が多数収められていて、視覚的にも制作過程をうかがい知ることができます。巻末にはアルバム本編の収録曲の歌詞と、ボーナス・トラックを含めた全曲の詳細なレコーディング・データがあります。
【管理人の評価】
以上見てきたように、全曲がデジタル・リマスタリングされて高音質に生まれ変わっただけでも、「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの『マッカートニーII』は以前の再発盤に比べて断然お勧めできます。「デラックス・エディション」ではアルバム未収録曲や未発表音源が追加収録されていて、さらにお勧めです(ベスト盤にも収録されている「グッドナイト・トゥナイト」を除けば、「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズの代用になります)。そして一番強力で、一番お勧めなのは「スーパー・デラックス・エディション」。さらなる未発表ヴァージョンが収録されたことで『マッカートニーII』セッションを完全網羅できますし、入手困難なものを多く含んだ貴重な映像を収録したDVDに、『マッカートニーII』の歴史を詳細に凝縮したハード・カヴァー・ブックまでも付いてくるのですから、ファンなら必携のアイテムです!完全生産限定盤のため今後入手が困難になる上、他の仕様に比べて価格も高めですが、苦労して手に入れる価値は十分あります。「なかなか手を出しづらいと思っている」、あまりディープに聴き込んでいない方や、これからポールのソロ・アルバムを集めようとしている方も、せめて「デラックス・エディション」を入手するようにしましょう。そうでないと今回の再発売の魅力を知らないままになってしまいます。
『バンド・オン・ザ・ラン』『ポール・マッカートニー』そして『マッカートニーII』をグレードアップして甦らせた「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズでは、今後もポールの旧作品を継続して再発売するとのこと。数々の名盤が新たなマテリアルと共に帰ってくることを皆さんで期待しましょう!
アルバム『マッカートニーII』発売30周年記念!収録曲+aを管理人が全曲対訳!!
【曲目解説】
CD 1
曲目解説はこちらをごらんください。
CD 2
1.ブルー・スウェイ
今回のリマスター盤で初めて陽の目を浴びた未発表曲。1979年夏にポールが自宅スタジオで1人行った『マッカートニーII』セッションでレコーディングされ、アルバムにもそのまま収録される予定だったが、1枚組に再編された際にオミットされお蔵入りに。その当時は「オール・ユー・ホース・ライダーズ」とのメドレー形式で登場するインスト・ナンバーだったが(本ボーナス・ディスクの8トラック目)、本トラックは7年後の1986年秋に、未発表曲を集めたアルバム『コールド・カッツ』のために制作されたリミックス・ヴァージョンである。『コールド・カッツ』はウイングス時代からたびたび構想が浮かんでは消えてきたプロジェクトだが、この曲が取り上げられたのはこれが初めてであった。しかし、『コールド・カッツ』を発売する計画がまもなく完全に頓挫したため再びお蔵入りとなってしまった。
当初のヴァージョンがブートで出回っていたためこの曲の存在自体は既に知られていたが、この『コールド・カッツ』ヴァージョンはブートでも一切聴くことができなかった上に、そもそも『コールド・カッツ』の収録候補だったことも全く知られていなかったという、ポール・マニアも驚きの音源。1979年の演奏を土台にし、リチャード・ナイルズのアレンジによるストリングスとサックス、ポールのヴォーカルや打ち込みドラムスなどが新たに加えられ、インストだった頃よりも完成度が格段に高くなっている。'80年代後半という時代柄か、どことなくアルバム『プレス・トゥ・プレイ』(1986年)にありそうな無機質でミステリアスなサウンドだ。
2.カミング・アップ
1979年後半に敢行されたウイングスの全英ツアーより、最終日・グラスゴー公演(12月17日)のライヴ・ヴァージョン。まだ公式未発表だったこの曲をウイングスで先に披露しているというのが興味深い。翌年に『マッカートニーII』に収録されることとなるポールのソロ・ヴァージョンに比べると、ストレートでロック色が強い。シングル発売の際にポールはA面にスタジオ・ヴァージョンを、B面にライヴ・ヴァージョンを収録したが、米国ではA・B面が逆に扱われ、このライヴ・ヴァージョンが全米1位の快挙を成し遂げたのは有名な話(さらに『マッカートニーII』と抱き合わせで1曲入りシングルも発売された)。そのせいか、『オール・ザ・ベスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』の各ベスト盤には米国盤のみライヴ・ヴァージョンが収録された。
このように既におなじみの音源であるが、今回ボーナス・トラックに収録されたものは、実はシングルB面ともベスト盤とも(さらにはブートとも)内容が異なる。最大の違いは、商品化にあたってカットされてしまった途中の1節分(本来の第3節)が復活し、(ブートでは既に出回っていたものの)実際のライヴで演奏されたフル・ヴァージョンで楽しめるという点。また、後で追加録音された手拍子がない上に、ブートでは聞こえていた一部ブラス・セクションとタンバリンもオフにされ、今までになくシンプルになっている。一方で、冒頭のカウントが「4」で始まっていたり、演奏後ポールのMCが入る前に早々とフェードアウトしてしまったりと、既発のものよりも微妙なショート・ヴァージョンなのが不可解(汗)。シングルやベスト盤ではカウントが「1」から始まり、演奏後のMCと歓声を(特にシングルでは長く)聴くことができる。おかげで当初のシングルB面ヴァージョンは未CD化のままですが、未発表だった箇所も聴け、そもそも米国以外ではライヴ・ヴァージョン自体初CD化と、スタジオ・ヴァージョンしか聴いていない方にはうれしい収録です。
3.チェック・マイ・マシーン
1980年6月に発売されたシングル「ウォーターフォールズ」のB面で、アルバム未収録曲。初CD化以来一貫して『マッカートニーII』のボーナス・トラックであった。『マッカートニーII』セッションの序盤に録音機材をチェックするため即興で作った、お遊び要素が非常に強い曲。ポールのファルセット・ヴォーカルに無機質なシンセやバンジョーの音色、そしてテクノとレゲエと日本の音頭を混ぜたかのようなユニークなリズムが変てこでとっても面白い。普段のポールのイメージからあまりにもかけ離れた異質ぶりゆえに、一部のコアなファンの間ではこの曲を「最高傑作」に推す動きも見られる(笑)。個人的にはものすごくツボにはまっている曲です!冒頭の数秒だけでもぶっ飛んでいてたまりません。
4.ボギー・ウォブル
『マッカートニーII』セッションでレコーディングされたものの今までお蔵入りのままだった未発表曲の1つ。『マッカートニーII』は当初2枚組になる予定で、テスト・プレスのアセテート盤が制作され曲順も決まっていたが、その後1枚組に絞られ、この曲を含む数曲はオミットされてしまった。これらの未発表曲は外部に流出したアセテート盤を基にしたブートで聴くことができたが、30年を経た今回、正常なピッチとノイズ除去された高音質でようやく公式発表されることに。
この曲は、『マッカートニーII』に収録された「ボギー・ミュージック」と同様レイモンド・ブリッグズ作の小説「Fungus The Bogeyman」にインスパイアされて書かれたインスト・ナンバーで、作品の舞台である海底都市・ボギーランドを想起させる泡の音のようなSEとシンセ・サウンドをフィーチャーしている。確固たるテーマがあり、一連の未発表曲の中でも特に芸術性が高い。ただし、今回発表されたものはオリジナルのアセテート盤よりもイントロが大幅に短く、終盤のドラム・ソロが1小節カットされているなど編集が施されている。
5.シークレット・フレンド
1980年9月に発売された12インチシングル「テンポラリー・セクレタリー」のB面で、アルバム未収録曲。同シングルが英国のみの数量限定生産だったため当初は超レアな1曲だったが、『マッカートニーII』がCD化された際にボーナス・トラックに追加され、以降一貫して『マッカートニーII』のボーナス・トラックであった。『マッカートニーII』セッションでレコーディングされ、シーケンサーを基軸としたワールド・ミュージック風のリズムにのせてシンセ・サウンドが10分以上にもわたって展開される、不思議なテンションの曲。
6.ミスター・H・アトム/ユー・ノウ・アイル・ゲット・ユー・ベイビー
『マッカートニーII』セッションでレコーディングされ、今回初めて公式発表される2つの未発表曲。2曲は元々個別に作られたが、ここでは同じトラックに収められている(そのため「ユー・ノウ・アイル・ゲット・ユー・ベイビー」は頭出しができない)。前半の「ミスター・H・アトム」には、『マッカートニーII』セッションでは珍しく愛妻リンダが参加していてリード・ヴォーカルを取っている。また、モデルのツイッギーなどポールの友人たちがコーラスを入れている。パンク風のサウンドやポールの台詞が楽しい。タイトルの「H」は水素(hydrogen)、「Atom」は原子のこと。今回発表されたものはオリジナルのアセテート盤とは別ミックスで、全編を通して入っていたリンダのヴォーカルがここでは一部カットされているほか、ハードなエレキ・ギターがオフになっている。逆に、当初はオフになっていたリンダの笑い声がフィーチャーされ(1'55"辺り)、冒頭の話し声を少し長く聴けるなど新たな発見も。
後半の「ユー・ノウ・アイル・ゲット・ユー・ベイビー」は、無機質なテクノ・サウンドをバックにポールが変てこな声でタイトルを延々と繰り返し歌うという、音と声とのギャップが面白い曲。ファルセットから超低音まで、様々なスタイルのヴォーカルを1人で多重録音している。右チャンネルから聞こえるフィドルのような音がその奇妙さを強調している。「ボギー・ウォブル」と同じく、今回発表されたものはアセテート盤よりも前半が1節分短いエディット・ヴァージョンである。
7.ワンダフル・クリスマスタイム
「アナザー・デイ」以来8年半ぶりのポールのソロ・シングルとなったクリスマス・ソング。『マッカートニーII』セッションでポール1人で録音され、1979年11月に一足早くシングル発売された(英国で最高6位)。シンセを多用し、ポールらしさが炸裂した覚えやすいメロディと陽気な仕上がりが大いに受け、いまやクリスマスには必ず流されるスタンダードとなっている。アルバム未収録曲で、初CD化以来これまで前作『バック・トゥ・ジ・エッグ』のボーナス・トラックだったが、レコーディング時期を考慮して今回初めて『マッカートニーII』へ鞍替えに。
オリジナルのレコーディングにウイングスは参加していないが、シングル発売にあたって制作されたプロモ・ヴィデオにはウイングスのメンバーが揃って登場し、直後に始まったウイングスの全英ツアーでもセットリスト入りしている。ソロになってからは2009年の「グッド・イヴニング・ヨーロッパ」ツアーなど主に12月にライヴ演奏されることがある。
8.オール・ユー・ホース・ライダーズ/ブルー・スウェイ
『マッカートニーII』セッションでレコーディングされ、今回初めて公式発表される2つの未発表曲で、メドレー形式で登場する。ブートでは個別のトラックに分けられていたが、ここでは同じトラックに収められている(そのため「ブルー・スウェイ」は頭出しができない)。前半の「オール・ユー・ホース・ライダーズ」は、テクノ風の単調なリズム・トラックをバックにポールが乗馬の掛け声を延々と繰り広げるという、ラップみたいな変てこな曲。いかにも『マッカートニーII』らしいお遊び要素たっぷりのチープな出来ゆえに、ブートのライナーノーツにすら「ポール・マッカートニー史上最悪の曲」とこき下ろされていた(汗)。でも楽しくてクレイジーで最高だと思います、個人的には。なお、この曲はリンダの愛馬を特集したドキュメンタリー作品「Blankit's First Show」(1986年放送)にも使用されている。
「オール・ユー・ホース・ライダーズ」が終わると、シンセ・ソロを挟んで「ブルー・スウェイ」のオリジナル・ヴァージョンにつながる。1986年制作のリミックス・ヴァージョンとは違い純然たるインスト・ナンバーで(ただし後半ポールの声が遠くから聞こえる)、演奏時間も2分ほど長い。リミックスでは重厚なオーバーダブが施されているが、元々は驚くほど薄っぺらな音作りで、「ワンダフル・クリスマスタイム」のメロディに似たシンセがはっきりと聞こえる。曲が進むにつれ即興的な雰囲気が強まり、最後はテンポ・アップもする。
CD 3
1.カミング・アップ
「スーパー・デラックス・エディション」のみ付属しているCD 3には、『マッカートニーII』セッションからの公式発表曲の、レコーディング当初の別ヴァージョンが7曲収録されている。すべて公式では初登場の未発表音源で、そのほとんどは2枚組アセテート盤を基にしたブートで聴くことができたが、公式ならではの正常なピッチとノイズ除去された高音質で楽しむことができる。気ままに録音したことから演奏時間が長くグダグダな箇所も多かった『マッカートニーII』収録曲は、1枚組にまとめられた際に演奏の一部をカットして短く編集されたが、今回その編集前の段階である完全版が一挙に陽の目を浴びた。
ヒット曲の「カミング・アップ」もそうした1曲で、ここには5分半にわたる完全版が収録されている。編集ポイントは6ヶ所あり、幻の第4節(“You want a better kind of future〜”を崩さず歌っている)があったり、終盤の繰り返しが長い上に突如第1節に戻ったりと、公式ヴァージョンではカットされてしまった部分がたっぷりで興味深い。中でも特筆すべきは、ライヴ・ヴァージョンでのアドリブと思われていた“Pretty baby, I say”が最後の最後で登場する点。CD 3の音源でも特に必聴&必携です!なお、ベスト盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』(米国盤を除く)に収録された「カミング・アップ」はこの完全版を基に新たにエディットしたもので、所々別ミックスのように聞こえるのは『マッカートニーII』ヴァージョンとは編集ポイントが異なるためであることが、完全版を聴くとよく分かる(例えば、完全版での第2節直後の4小節のうち、『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』では前2小節を、『マッカートニーII』では後2小節を採用しているため、前者でサックス・ソロが長めに持続している)。
2.フロント・パーラー
この曲もアルバムに収録する際に編集が施されており、アルバムで発表されたヴァージョンは実際の演奏よりも1分半短い。ここには編集前の完全版が収録されている。編集ポイントは2ヶ所あり、公式ヴァージョンでは開始早々13秒で2節分を丸ごと大胆に削ったことが分かる。もっとも、カットされた箇所も他と似通ったメロディとアレンジで、あっと驚くような演奏は登場しませんが・・・。完全版の後半では、「字余り」状態のため削られた数小節も聴くことができる。なお、2枚組当初の曲順ではこの曲がアルバムのオープニング・ナンバーであった(そしてアルバムを締めくくる2枚目の最終トラックは「カミング・アップ」だった)。
3.フローズン・ジャパニーズ
もう1つのインスト・ナンバーであるこの曲もまた、アルバムに収録されたのはショート・ヴァージョンだった。ここで聴くことができる完全版はアルバムよりも2分も長い。編集ポイントは4ヶ所。「フロント・パーラー」同様カットされた部分のメロディやアレンジは他とさほど変わらないが、完全版ではドラム・ソロが2度登場し(しかも長い)、後半シンセのメロディが輪唱になる箇所も1回分増えている。また、各楽器のステレオ配置やエフェクトの有無が公式ヴァージョンとは異なる別ミックスである。この曲は2枚組当初「フロント・パーラー」に続く2曲目に収録されていて、他にインスト版の「サマーズ・デイ・ソング」と「ユー・ノウ・アイル・ゲット・ユー・ベイビー」「オール・ユー・ホース・ライダーズ/ブルー・スウェイ」が1枚目のA面を占有していた。この形で公式発表されていたら、『マッカートニーII』を理解するのはいっそう難しかったに違いありません。
4.ダークルーム
この曲についてポールは「元々はすごく長い曲だったけど、好きだったから短く編集してアルバムに収録した」と発表当時コメントしていたが、これがその当初のヴァージョン。アルバムで発表されたものより1分半も長い。編集ポイントは公式ヴァージョンの1'43"で、実際にはこの間にタイトルコールの繰り返しがアドリブ風に延々と続いていた。様々なノイズが相変わらず不気味だが(2005年のリミックス・アルバム『ツイン・フリークス』ヴァージョンの冒頭のSEもこの部分から)、そんな中でポールが地声でシャウトしたり、“Wait a minute”と(自分自身に)声をかけていたりと公式ヴァージョンではうかがえない意外な側面も。公式発表された箇所でも、最初の間奏でのミックスがアルバムとは異なる(一部ノイズがオフになっている)。
5.チェック・マイ・マシーン
シングルB面に回されたこの曲は、発表にあたって元々の演奏から随所を大幅にカットし3分も短くされた。シングル収録のヴァージョンは約6分だが、ここに収録された完全版はなんと9分にわたる。編集ポイントは実に9ヶ所で、全く異なる内容のアドリブの歌詞があったり、お囃子みたいなブレイクが多かったり、例の変なファルセットで「パラッ、パッパッ・・・」とおどけるくだりが終盤に復活したりと、歴然とした違いがCD 3の一連の完全版で最多である。また、最後は台詞がかぶさらないままフェードアウトせず完奏し、続いてシンセの即興演奏にのせて先述の台詞が登場するという意外な結末を見せる。一方で、冒頭のやりとりは公式ヴァージョンより短く、“Hi, George”“Morning, Terry”と「ウーイ」(いずれもルーニー・テューンズのアニメ「たのしい動物園(Tweet Zoo)」より)が省かれている。さらに、公式ヴァージョンは最初のブレイクで完全版の7'05"〜7'17"を移植してタイトルコールを2回分増やしていることも分かる。よく聴き込まないと最初は違いが分かりづらいかもしれませんが、既存のシングルよりもポールのぶっ壊れ方が凄まじい完全版はこの曲が好きなマニアなら必聴です!(笑)
6.ワンダフル・クリスマスタイム
クリスマスの定番となったこの曲も、シングルで発表されたヴァージョンは編集が施されていて実際の演奏は30秒ほど長い。この完全版は、アセテート盤を基にしたブートには未収録だったためこれまで一切聴くことができなかった。まさに今回が完全初登場のレア音源である。編集ポイントは6ヶ所で、他の例に比べると大胆にカットされた部分は少ないが、本来は“Simply having a Wonderful Christmastime”の繰り返しがかなり多かったことが分かる。また、2度目の間奏後には余分なシンセのフレーズが存在していた。それを絶妙な編集で違和感なく減らしているのだが、完全版を聴いた後に通常のエディット・ヴァージョンを聴くと編集ポイントが以前よりも露骨に感じられます(苦笑)。
7.サマーズ・デイ・ソング
「スーパー・デラックス・エディション」付属のハード・カヴァー・ブックで触れられているように、この曲は元々インスト・ナンバーで、アルバムのミキシングを行っていた1979年10月にポールが自身のレプリカ・スタジオでヴォーカルをオーバーダブしたものが公式発表されるに至った。そして今回、ヴォーカルを追加する前のインスト・ヴァージョンが初めて陽の目を浴びることに(ただしブートでは既に聴くことができた)。基本的に公式ヴァージョンのカラオケだが、全体にもやがかかったようなエコーがまだない。讃美歌のような荘厳さをたたえた完成形ももちろん感動的ですが、こちらはバックで奏でられるシンセやメロトロンの美しい音色を余すことなく堪能でき、お勧めです。
8.ウォーターフォールズ(DJエディット)
この曲のみレコーディング当初のヴァージョンではなく、シングルカットされる際にラジオ局向けに配布されたエディット・ヴァージョンが収録されている。当時は一般発売されなかった音源だが、2001年のベスト盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』に既に収録済みである(よって現在はレアではない)。後半を1節分カットし、エンディングをフェードアウト処理で短くしたもので、アルバムともプロモ・ヴィデオの演奏とも異なる。個人的には4分半のフル・ヴァージョンの方をお勧めします。
DVD
1.ミート・ポール・マッカートニー
『マッカートニーII』発売から3日後の1980年5月19日に収録が行われた約25分のインタビュー番組。監督は当時ポールやウイングスのプロモ・ヴィデオを多く手がけていたキース・マクミラン、インタビュアーは作家・作詞家のティム・ライス。この番組は同年8月7日と10月27日に英国ITVで放送されたほか、米国でも「ジョン・デヴィッドソン・ショー」で紹介されたが、ソフト化されるのは今回が初めて。なお、パンク歌手の格好をしたヴィクター・スピネッティ(ビートルズの映画でおなじみの俳優)がポールに手錠をかけスタジオから連れ去るという辛辣なシーンが放送時にカットされたが、今回もカットされたままとなっている。
番組は「カミング・アップ」のプロモ・ヴィデオで始まるが、プロモ・ヴィデオ集「The McCartney Years」に収録されたものと異なり天地をカットせず1980年当時に忠実な画面サイズとなっている(ただし一部のみの抜粋でテロップがかぶさる)。インタビューは2部構成となっており、前半の「パート1」ではまずポールが『マッカートニーII』のレコーディングから発売に至る経緯を語る。気分転換が目的で、公式発表するつもりはなかったことを強調している。続いて、今までのアルバムとの作風の違いや、曲作りについての質問に答えてゆく。ポールいわく、作曲より作詞の方が難しく、曲の方が先にできるケースがほとんどとのこと。また、「ノーボディ・ノウズ」の歌詞について触れ、お気に入りだと発言している。
後半の「パート2」では「ワン・オブ・ディーズ・デイズ」の話題に行きかけるがすぐに「フローズン・ジャパニーズ」の話となる。日本人なら気になるタイトルの由来や、歌詞を加える予定だったことをポールが正直に明かす。その後、作曲のモチベーションや、他分野への進出の可能性について答えているが、ミュージカルが嫌いだと断言するシーンが面白い。「作曲家として成長していると感じるか?」という質問には「満足したことはない」と消極的で、「どうすればヒットさせることができるかなんて僕には分からない。努力するだけだよ」と付け加える。インタビューの後は「ウォーターフォールズ」のプロモ・ヴィデオが登場し、こちらも天地をカットせずオリジナルに忠実な画面サイズとなっている。また、「The McCartney Years」ではカットされてしまった「オチ」を見ることができる(テロップがかぶさっているものの)。
2.カミング・アップ(ミュージック・ビデオ)
ポールのソロ&ウイングス時代の数あるプロモ・ヴィデオの中でも最も有名で、最も人気の高い作品の1つ。監督はキース・マクミラン。すべての楽器とヴォーカルをポールが1人で担当したことに引っかけ、ポールの1人10役・リンダの1人2役によるバンド「プラスティック・マックス」が登場する(バンド名はジョン・レノン&ヨーコ・オノの「プラスティック・オノ・バンド」をもじったもので、直訳すると「レインコート」の意味)。同じステージに10人ものポールが一堂に会するのは合成技術の賜物で、'80年代初頭にこれだけ違和感のないレベルに仕上げたマクミランの手腕は神業と言えよう。1980年3月26日に始まった撮影には2日・計25時間を要した。
ポール演じるバンドの個性的なメンバーにはそれぞれ元ネタがあり、眼鏡をかけたギタリストはザ・シャドウズのハンク・マーヴィン、つまらなそうにキーボードを弾いているのはスパークスのロン・メイル、そしてマッシュルーム・ヘアーでヘフナーのバイオリン・ベースを抱えているのはもちろん初期ビートルズのポール本人(約18年前の自分に扮しているのがすごい!)。ジョン・ボーナムを意識したというひげ面のドラマーや、日本語で「プラスティック・マックス」と書かれたシャツを着たギタリスト、1人だけ終始ステップがずれているサックス奏者なども面白い。リンダがポールの各キャラクターを撮影した写真は、「スーパー・デラックス・エディション」付属のハード・カヴァー・ブックに掲載されている。既に「The McCartney Years」でも見ることができたが、今回も同じ内容がそのまま収録されている。そのため、天地がカットされ1980年当時とは画面サイズが異なっている。
3.ウォーターフォールズ(ミュージック・ビデオ)
『マッカートニーII』発売当時に制作されたプロモ・ヴィデオ。監督は「カミング・アップ」と同じキース・マクミラン。自宅スタジオで作曲をしていたポールが氷原や庭園を散歩しながら歌い、再び自宅へ戻ってくる・・・という、歌詞中のキーワードを反映させた構成となっている。各シーンをつなぐために登場する噴水が美しく、曲が持つ幻想的な雰囲気を強調している。「白熊を追いかけないで」と歌われる箇所で登場する白熊は本物で(「オラフ」という名前でサーカス用に訓練されていた)、撮影時には万が一に備えて麻酔銃を持ったハンターがそばで待機していた。プロモに使用された音源はDJエディットとは異なる1節分をカットし、エンディングも短いエディット・ヴァージョンで、さらにエレキ・ピアノのイントロが加えられている。こちらも「The McCartney Years」に収録されているものと同じ内容で、天地がカットされ1980年当時とは画面サイズが異なっているほか、本来エンディングに用意されていた「どんがらがっしゃーん」というオチがなぜか欠落している。
4.ワンダフル・クリスマスタイム(ミュージック・ビデオ)
このプロモ・ヴィデオも、当時盛んに放送された比較的有名な作品。監督はラッセル・マルケイ。大部分はサセックスにあるザ・ファウンテンというパブで撮影され、クリスマス・ソングらしくパーティーの様子を映している。ポールのワンマン・レコーディングでポールのソロ名義の曲なのに、リンダと共になぜか当時のウイングスのメンバー(デニー・レイン、ローレンス・ジュバー、スティーヴ・ホリー)も大々的に参加しているのが興味深い。一般市民と思われる多くのエキストラを交えた和気藹々としたアットホームな雰囲気がいかにも英国らしく、見ていて楽しい。ウイングス全員での電車ごっこもどきや、謎のコーラス隊と胡散臭い天使(悪魔のようにも見える)が登場するのもまた楽しい(苦笑)。演奏シーンもあり、ステージでの模様はウイングスの1979年全英ツアー(この曲もセットリスト入りしていた)のリハーサルを捉えたもの。既に「The McCartney Years」にも収録されているが、今回は天地をカットせず1979年当時に忠実な画面サイズとなっている。一方、「The McCartney Years」ほどはノイズ除去等は徹底されていない。
5.カミング・アップ(ライヴ・アット・カンボジア難民救済コンサート1979)
カンボジア難民を救済する目的で、ワルトハイム国連事務総長(当時)とポールが提唱して開催されたチャリティ・コンサート「カンボジア難民救済コンサート(Concerts For The People Of Kampuchea)」(1979年12月26〜29日)より、29日の最終公演(ロンドン、ハマースミス・オデオン)にウイングスがトリとして出演した際の映像。この日ウイングスは、直前まで行われていた全英ツアーとほぼ同じ曲目を披露した後、ポールが企画した一大ロック・プロジェクト「ロケストラ」を名立たる顔ぶれで再現している。そしてこの日が、結果的にウイングス最後のコンサートとなってしまった。
「カンボジア難民救済コンサート」の模様はたびたび放送されてきており、ブートでも定番アイテムの1つだったが、一部ながら公式にソフト化されるのは初めてのこと(ぜひ単体の映像作品としてコンサート全編を公式発表してほしいのですが・・・)。同時発売されたリマスター盤『ポール・マッカートニー』のボーナスDVDに収録された「エヴリナイト」「燃ゆる太陽の如く」と共に、高画質・高音質で楽しむことができる。この「カミング・アップ」のオーディオ・トラックは「カンボジア難民救済コンサート」の模様を抜粋した同名のオムニバス・アルバムにも収録されていたが、現在も未CD化のままである。シングルB面に収録されたグラスゴー公演と同じく、当時は未発表の新曲という状態での演奏だった。熱いロック・ヴォーカルを繰り広げるポールの傍らで、普段はギターが担当楽器のデニーがキーボードを弾いているのを確認できる。一段高いステージで華やかな演奏を聞かせ、映像にもたっぷり映っているはずのブラス・セクション4人がブックレットのクレジットから抜け落ちているような・・・(汗)。
6.カミング・アップ(リハーサル・セッション・アット・ロウアー・ゲート・ファーム1979)
未発表映像。1979年後半に、『マッカートニーII』をレコーディングしたサセックスにあるポールの自宅スタジオで行われたウイングスのリハーサル・セッションの模様を捉えた貴重なフィルムである。監督(恐らく撮影も)は近年までポールのアシスタントを長くつとめてきたジョン・ハメル。別のシーンでポールが日本のファンに向けたメッセージを語っていることから、このリハーサルは1980年1月に予定されていた(そして言わずもがな中止となった)日本公演のためのものとも言われている。直近の全英ツアーでは演奏されなかった「しあわせの予感」「エリナー・リグビー」や、「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」のレゲエ・ヴァージョンなどを披露しているのが興味深い。
ここに収録された「カミング・アップ」はそんなリハーサルの一部分で、他のシーンと共にTV放送を録画したヴィデオがソースと思われるものが既にブートで流通していた。基本的に全英ツアーの構成・アレンジを踏襲しつつも、スタジオ・ヴァージョンにしかない“Feel it in my bones”を歌っていたり、デニーがキーボードでブラス・セクションの音を代奏していたりしている。ポールの締まったベース・プレイもかっこいい。ブートでは曲の後半しか見ることができず画質も悪かったが、ここではオリジナルのフィルムからフル収録していて、途中で映像と音がヨレヨレになってしまっていた箇所も問題なく楽しめる。
7.カミング・アップ(メイキング・ビデオ)
今回のリマスター盤のために制作された、「カミング・アップ」のプロモ・ヴィデオのメイキング・ヴァージョン。オリジナルのプロモを下敷きに、未発表の撮影シーンが随所に登場する。曲が始まる前にカウントダウンするポールの表情が面白い(笑)。がらがらのステージに次々とポールやリンダが増えてゆく流れには合成技術の威力を再確認させられる。また、リンダが撮ったポール扮する各キャラクターの写真もふんだんに盛り込まれている。ポール本人が寄せるオーディオ・コメンタリーの大半は「The McCartney Years」に収録されていたものと同じだが、順序が見直された上に、そちらではカットされてしまったコメントも含んでいる。各キャラクターの元ネタや、撮影中の苦労話(サックス奏者の動きを1人だけずらすのが難しかったとのこと)などをたっぷり話してくれます。
8.ブルー・スウェイ
本DVD最大の目玉かも?今回のリマスター盤で初めて公式発表されることとなった未発表曲「ブルー・スウェイ」(1986年ヴァージョン)のために新たに制作されたイメージ・ヴィデオ。『マッカートニーII』セッションでも公私共にポールを支えたリンダに捧げられている。ポール本人は登場しないが、様々な表情の“青”で魅せるタヒチの海と、波間を自由自在に行き来するサーファーの姿を様々な深度と角度から捉えた、視覚的に美しい内容だ。あたかもサーファーの視線で見ているかのような絶妙なカメラワークには思わず惹きつけられてしまうはず。
この映像を撮影したのは、サーフィン映画を多く手がけてきたことで世界的に知られるハワイ育ちの巨匠ジャック・マッコイ。クリス・トーマスの紹介でマッコイの作品を見て感動したポールが直々に依頼したもので、サーフィンの歴史をたどるドキュメンタリー映画「ディーパー・シェイド・ブルー(A Deeper Shade Of Blue)」(2011年)の撮影と並行して制作された。DVDに登場する直筆メッセージを見るに、出来映えにはポールも大満足の模様。