|
|
|
アルバム『ポール・マッカートニー』(以下、『マッカートニー』と表記)の制作過程などの解説はこちらをごらんください。
ビートルズ解散を決定付けたことで多大な注目を集めたポールのソロ・デビュー作であるアルバム『マッカートニー』(1970年)のリマスター盤。2007年にヒア・ミュージックに移籍したポールは、過去に発表したアルバムを「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」というシリーズとしてヒア・ミュージックから再発売するプロジェクトに着手し、2010年には第1弾として『バンド・オン・ザ・ラン』がリリースされましたが、この『マッカートニー』はその第2弾にあたります。シリーズ第3弾の『マッカートニーII』(1980年・ウイングスから再びソロへとシフトするきっかけとなった)と同時発売されました。『マッカートニー』の大規模な再発売は、1993年のリマスター盤「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズ以来となります。
【発売形態】
今回の再発売では、『マッカートニー』は3種類の仕様で登場しました。1つは、アルバム本編のみを収録したCD1枚組の「通常盤(Standard Edition)」。次に、アウトテイクやアルバム収録曲のライヴ・ヴァージョンを収録したボーナス・ディスクを1枚追加したCD2枚組の「デラックス・エディション(Special Edition)」。そして最後に、「デラックス・エディション」のCD2枚に加えてアルバムに関連する映像を集めたDVDが付き、128ページに及ぶハード・カヴァー・ブック(ポールの愛妻リンダ撮影の貴重な写真や、アルバム制作過程の完全解説などを掲載)に収めたCD2枚組+DVD1枚組の「スーパー・デラックス・エディション(Deluxe Edition)」です。「スーパー・デラックス・エディション」は、インターネットを介して高音質楽曲データをダウンロードできる特典付き。日本では、まず「デラックス・エディション」と「スーパー・デラックス・エディション」が完全生産限定盤として発売され、遅れて「通常盤」が発売されました。CDは、すべてのCDプレイヤーで再生可能な高音質CDであるSHM-CDが採用されています(日本盤のみ)。
【収録内容】
では、全ディスクを網羅した「スーパー・デラックス・エディション」を基に収録内容を見てゆきましょう。まず全仕様共通のCD 1には、1970年に発売されたオリジナルの『マッカートニー』が収録されています。全曲がロンドンのアビイ・ロード・スタジオにてデジタル・リマスタリングされていて、過去の再発盤に比べて音質が向上しています。
続いて、「デラックス・エディション」と「スーパー・デラックス・エディション」のボーナス・ディスクであるCD 2には、『マッカートニー』の関連楽曲を7曲収録しています。CD 1と同じくデジタル・リマスタリングが施されていますが、全曲これまで公式では未発表だった音源です。その大半は既にブートでは出回っていたものの、「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズでは1曲もボーナス・トラックが収録されていなかっただけに、非正規でしか入手できなかったものを高音質で手軽に楽しめる喜びはひとしおです。CD 1収録曲と異なり、ブックレットには歌詞(日本盤は対訳も)は掲載されていません。
CD 2収録の7曲のうち、実際に『マッカートニー』セッションでレコーディングされたアウトテイクは「スーサイド」「ドント・クライ・ベイビー」「ウーマン・カインド」の3曲(ただし「ウーマン・カインド」は1970年に取り上げられたという確証はなく、あくまでポールの記憶に基づく)。曲数が少ない上に、ファンの間で期待されていたアルバム収録曲のセッション時の別テイク(これらはブートでも出回っていない)も「ウー・ユー」のインスト・ヴァージョン(=「ドント・クライ・ベイビー」の一部)しかない点は惜しまれます。しかし、たった3曲でも非常にレアな音源であることは確かで、「スーサイド」「ドント・クライ・ベイビー」はブートでも聴くことができなかった完全初登場の超レア音源。膨大なテープの中から発掘してくれたポールには素直に敬意を表したい所です。注目はやはり、「燃ゆる太陽の如く/グラシズ」の最後にほんの一部だけ入っていた「スーサイド」の完全版でしょう!
残る4曲は、『マッカートニー』収録曲の未発表ライヴ・ヴァージョンです。いずれも'70年代にウイングスとして取り上げた時のもので、ポールの『マッカートニー』収録曲への強い思い入れが伝わってきます。1974年のリハーサル・セッション「ワン・ハンド・クラッピング」と1979年の全英ツアー・グラスゴー公演は、ブートでは定番アイテムとなっていた音源で、無論この4曲もブートでは聴くことができましたが、公式発表されるのは初めてです。オリジナルのスタジオ・ヴァージョンよりもバンド色の濃いしっかりとしたアレンジは聴き応えも抜群です。1曲ごとバラ売りではなく、ライヴ全体をまとめて個別のアルバムとして発売してほしい・・・というのは、マニアの贅沢な要求でしょうか。
そして、「スーパー・デラックス・エディション」のみ付属のDVDには、『マッカートニー』関連の映像が収録されています。こちらは既に発表されているものと、これまで公式には未発表だったものとで構成されています。CD 2と同じく、アルバム・セッションに直接関係するものが一部にとどまっているのは残念な点かもしれません。そんな中でも、収録曲をBGMにポールが当時を回想する「アルバム・ストーリー」と、1970年にスコットランドで撮影されたホーム・ムービー「ビーチ」は、ビートルズ解散前夜のポールを克明に記録した貴重な映像で必見です。続く「恋することのもどかしさ」のプロモ・ヴィデオは、公式プロモ・ヴィデオ集「ポール・マッカートニー・アンソロジー(The McCartney Years)」に収録されたものと基本的には同じ内容ですが、1970年当時に忠実な画面サイズで収録されています(一方で従来品ほどは画質向上を徹底していない)。
後半は、『マッカートニー』収録曲や関連楽曲を後年ウイングスやソロで再演した際の映像が収録されています(1974年「ワン・ハンド・クラッピング」、1979年「カンボジア難民救済コンサート」、1991年「MTVアンプラグド」)。「MTVアンプラグド」の「きっと何かが待っている」を除いては、すべて公式初登場というのがうれしいです。ただ、CD 2ライヴ音源と同じく、コンサート単体で1つの映像作品として発売しても十分受けがよいであろう素晴らしい内容だけに、1曲ごとバラ売りというのは少しじれったさも感じさせます・・・。特に、「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズ第1弾の『バンド・オン・ザ・ラン』で公式発表された「ワン・ハンド・クラッピング」から唯一なぜかオミットされていた「スーサイド」の演奏シーンが、本DVDでバラ売りの形で収録されているのは、さすがに不可解で納得いきません。
「スーパー・デラックス・エディション」付属のハード・カヴァー・ブックでは、『マッカートニー』が完成するまでをポール本人へのインタビューと、貴重な写真・資料で詳しく知ることができます。ビートルズ解散を前にポールは何を思っていたのか?『マッカートニー』セッションではどんな楽器が使用されたのか?ファンなら誰もが知りたかったことを教えてくれます。ポール直筆の楽譜やマスター・テープ・ボックスのインデックスなども掲載されています。また、アルバムのアートワークに使用されたものも含めリンダが撮影した写真が多数収められていて、ポールのプライベートを垣間見るかのようです。そして一番必見なのは、ビートルズ解散の引き金を引いてしまった悪名高い「ビートルズ脱退宣言」。マスコミ関係者のみに配布されたものが、全ページもれなく掲載されています。巻末にはアルバム本編の収録曲の歌詞と、ボーナス・トラックを含めた全曲の詳細なレコーディング・データがあります。
【管理人の評価】
以上見てきたように、全曲がデジタル・リマスタリングされて高音質に生まれ変わっただけでも、「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの『マッカートニー』は以前の再発盤に比べて断然お勧めできます。「デラックス・エディション」では未発表音源が追加収録されていて、さらにお勧めです。そして一番強力で、一番お勧めなのは「スーパー・デラックス・エディション」。入手困難なものを多く含んだ貴重な映像を収録したDVDに、『マッカートニー』の歴史を詳細に凝縮したハード・カヴァー・ブックまでも付いてくるのですから、ファンなら必携アイテムです!完全生産限定盤のため今後入手が困難になる上、他の仕様に比べて価格も高めですが、苦労して手に入れる価値は十分あります。「なかなか手を出しづらいと思っている」、あまりディープに聴き込んでいない方や、これからポールのソロ・アルバムを集めようとしている方も、せめて「デラックス・エディション」を入手するようにしましょう。そうでないと今回の再発売の魅力を知らないままになってしまいます。
『バンド・オン・ザ・ラン』『マッカートニー』そして『マッカートニーII』をグレードアップして甦らせた「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズでは、今後もポールの旧作品を継続して再発売するとのこと。数々の名盤が新たなマテリアルと共に帰ってくることを皆さんで期待しましょう!
アルバム『ポール・マッカートニー』発売50周年記念!収録曲+aを管理人が全曲対訳!!
【曲目解説】
CD 1
曲目解説はこちらをごらんください。
なお、今回「ザット・ウッド・ビー・サムシング」は「きっと何かが待っている」に、「燃える太陽の如く」は「燃ゆる太陽の如く」に邦題が変更になっています(1970年当初に戻った)。
CD 2
1.スーサイド
今回のリマスター盤で初めて陽の目を浴びた未発表曲。とはいえ、『マッカートニー』収録曲の「燃ゆる太陽の如く/グラシズ」の最後にほんの一部だけ登場し、厳密には公式に聴くことはできた。「スーパー・デラックス・エディション」付属のハード・カヴァー・ブックに掲載されたインタビューで触れられているように、ポールが16歳の頃にフランク・シナトラをイメージして書いた曲で、後年実際にシナトラに曲をプレゼントしたが、歌詞に難色を示したシナトラから提供を拒まれてしまった。そのため単体の楽曲としては長い間未発表の状態となってしまったが、ポールはビートルズ時代の「ゲット・バック・セッション」(1969年)からウイングス時代の映像作品「ワン・ハンド・クラッピング」(1974年)、TV番組「マイケル・パーキンソン・ショー」(1999年)に至るまで様々な時代に様々な形でこの曲を取り上げていて、コアなファンの間ではすっかり有名な曲である。
今回発表されたヴァージョンは、「燃ゆる太陽の如く/グラシズ」の最後で聴くことができたあの演奏の完全版。これはブートにも流出していなかった音源で、42年ぶりに長年の謎が紐解かれたこととなる。「グラシズ」に連結されていたくだりは、この完全版では冒頭に登場する(ややフェードインして始まるのが気になりますが・・・)。その後は、ブートでおなじみのメロディ&歌詞を途中でテンポを変えながらポールがピアノで弾き語りするが、大げさな歌い方からして完全にお遊び目的であろう。なお、2010年5月にポールがミキシングを行ったものが採用されていて、ヴォーカルにエコーがかかる箇所があったり、「グラシズ」の音が遠くから入ってくるのはそのためと思われる。
2.恋することのもどかしさ
ジミー・マッカロク(ギター)とジェフ・ブリトン(ドラムス)を新メンバーに迎えたウイングスが、1974年8月にアビイ・ロード・スタジオで行ったリハーサル・セッションの模様を撮影したドキュメンタリー・フィルム「ワン・ハンド・クラッピング」のオーディオ・トラック。「ワン・ハンド・クラッピング」自体は2010年にアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』が「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズとして再発売された際ボーナスDVDに収録され初めて公式発表され、この曲の演奏シーンを見ることができるが、映像版ではポールやデニー・レインの語りがかぶっていた。よって、純粋に演奏だけを堪能できるオーディオ・トラックは今回が公式初登場である(ただしブートでは出回っていた)。基本的には翌1975年から始まるワールド・ツアーでのライヴ・ヴァージョンと同じ構成・アレンジだが、ポールがピアノの代わりにエレクトリック・ピアノを弾いているのと、リンダが弾くメロトロンがフィーチャーされているため印象はかなり異なる。ポールのアドリブ交じりの熱唱は相変わらずですね。締めの“Yeah!”もかっこいい。
3.エヴリナイト
ローレンス・ジュバー(ギター)とスティーヴ・ホリー(ドラムス)を迎えて最終ラインアップとなったウイングスが、1979年後半に敢行した全英ツアーより、最終日・グラスゴー公演(12月17日)のライヴ・ヴァージョン。ポールは当初この日の演奏をライヴ・アルバムとして正式に発売する予定で、セットリスト全曲が良質なサウンドボード音源として残されたが結局お蔵入りとなり、「カミング・アップ」のみシングルB面で陽の目を浴びた。その後音源は外部に流出し、「LAST FLIGHT」というタイトルで名盤と呼ばれるほどにブートの定番アイテムとなった。今回のリマスター盤では、そのグラスゴー公演から3曲が公式発表されることに(実に32年越しに!)。
今なお時折披露することのある「エヴリナイト」をポールが初めてライヴで取り上げたのは、この全英ツアーだった。オリジナルのスタジオ・ヴァージョンは軽いアコースティック・ナンバーだったが、この時は直近のアルバム『バック・トゥ・ジ・エッグ』のようにロック色の強いエレクトリック・アレンジでブルージーに聞かせる。ローレンスによる間奏のギターはその象徴と言えよう。気だるさを強調しているデニーのコーラスも味わい深い。曲構成も見直されているこのライヴ・ヴァージョンを「完成版」と評する意見が多いですが、私も「エヴリナイト」で一番好きなヴァージョンです。
4.燃ゆる太陽の如く
同じく1979年全英ツアー・グラスゴー公演より。アルバムの目立たない位置に収録されたインスト・ナンバーをあえてライヴで取り上げた所にポールの『マッカートニー』収録曲への強い思い入れをうかがわせる(この時のツアー自体、「別れの時」とか「ノー・ワーズ」とか全体的にマニアックな選曲がされたセットリストでしたが・・・)。コンサートでは静かなピアノ・コーナーが終わった後の盛り上げ役として登場し、ポールのギター・ソロや華やかなブラス・セクションを大々的にフィーチャーした行進曲風のアレンジだった。オリジナルに比べて思い切りアップテンポにしているが、曲の雰囲気を壊していないのがまた面白い。なお、この曲は1979年以外にライヴで演奏されたことはない。
5.恋することのもどかしさ
続いても1979年全英ツアー・グラスゴー公演より。ポール自身思い入れの強い曲であり、ファンの間でも最も人気の高いマッカートニー・ナンバーの1つだけあって、ウイングスのライヴでは欠かさず取り上げられていた。この時はピアノ・コーナーの冒頭を飾る形で登場(他に「フール・オン・ザ・ヒル」「レット・イット・ビー」を演奏)。イントロのフレーズが演奏されるや否や観客から盛大な拍手が沸き起こる。ピアノを弾き語りながらのポールの熱唱や、間奏のギター・ソロなど従前のライヴ・ヴァージョンを引き継いだアレンジだが、曲構成は直近のコンサート・ツアーでありシングルカットもされた有名な1976年全米ツアーのヴァージョンとは異なる。惜しむらくは、この曲を演奏する前にポールがお定まりのフェイント曲「ホエン・ザ・レッド、レッド・ロビン・カムズ・ボブ、ボブ・ボビン・アロング」を演奏する箇所がカットされている点でしょうか・・・。
6.ドント・クライ・ベイビー
今回のリマスター盤で初めて陽の目を浴びた未発表曲で、ブートでも聴けなかった完全初登場音源。ただし、タイトルの「ドント・クライ・ベイビー」に相当する部分は冒頭のほんの一部であり、残りは『マッカートニー』収録曲「ウー・ユー」の初期テイクである。冒頭の「ドント・クライ・ベイビー」は曲というよりは短い詩のようなもので、ポールが子供(恐らく赤ん坊のメアリー)に子守唄を聞かせようとする話し声である。カウントに続いて始まる「ウー・ユー」は、『マッカートニー』に収録された13曲で唯一陽の目を浴びたスタジオ・アウトテイクという貴重なトラック(他はブートですら明らかになっていない)。公式テイクとの大きな違いは、まずヴォーカルが一切入っていないインスト・ヴァージョンであること。歌詞が後付けだったことの証明となっている。また、ギター・ベース・ドラムスのステレオ配置がそれぞれ異なるほか、カウベルやエアゾール・スプレーなどのパーカッションがまだ加えられていない。
7.ウーマン・カインド
今回のリマスター盤で初めて陽の目を浴びた未発表曲。ライナーノーツによると、この曲は盗難に遭ったデモ・テープから取ったもので、ポールは『マッカートニー』の頃に録音したものだと記憶しているという(正式なレコーディング時期は不明)。公式初登場ではあるが、実はブートでは「The Piano Tape」というタイトルのピアノ・デモ集に収録されていて、コアなファンの間では以前から知られていた。「The Piano Tape」には、ポールがカセット・テープに何回かに分けて直接録音したと思われる約1時間に及ぶピアノ・デモが収録されており、1974年にロサンゼルスの自宅で録音されたというのが通説だった。この一連のデモにはアルバム『ヴィーナス・アンド・マース』(1975年)収録曲が多く含まれているほか、少なくとも「夢の旅人」「ゲッティング・クローサー」「ミリオン・マイルズ」といったウイングス後期の曲が「ウーマン・カインド」と連続して(途中でテープの録音を止めた形跡がない)演奏されているので、ポールの記憶通り1970年録音とは考えづらいのですが・・・。
この曲では、ポールが変なスタイルのヴォーカルを披露していて、恐らく即興で完全にお遊び目的で演奏したと思われる。途中で低い声で合いの手を入れたり、最後に「おなら」のような音を入れたり、やりたい放題で非常に面白いです。曲調もどこか昔の英国のコメディ番組にありそうだし。歌詞に至っては「女性というのは10歳の頃から男に追われて罪なやつさ」というバカバカしいもの。個人的には「The Piano Tape」で聴いた時からお気に入りだったので、唐突な公式発表に驚きつつも素直にうれしく思っています(笑)。
DVD
1.アルバム・ストーリー
今回のリマスター盤のために制作された『マッカートニー』のミニ・ドキュメンタリー。ポールが自身のソロ・デビューアルバムについて40年ぶりに振り返り、自らの口で制作過程や当時の心境を語ってくれる。解散前夜のビートルズについて、レコーディング・セッションについて、アルバムのアートワークについて、そして有名な「ビートルズ脱退宣言」や、リンダとの出会いについて・・・。ポールが音楽活動に最も行き詰まり、リンダの愛や家族との団欒を最も必要としていた時期だっただけに、一言一句から強い思いがひしひしと感じられます。「ママ・ミス・アメリカ」「ウー・ユー」「エヴリナイト」「クリーン・アクロア」「テディ・ボーイ」「ジャンク」「恋することのもどかしさ」をBGMに、実写とイラストを交えた効果的なアニメーションがフィーチャーされ、視覚的にも『マッカートニー』の歴史を分かりやすく解説していて、ファンなら必見です!
2.ビーチ
未発表映像。1970年当時ポールが引きこもっていたスコットランドの田舎で撮影されたホーム・ムービー。ポールとリンダ、2人の娘(ヘザーとメアリー)そして愛犬マーサのマッカートニー一家の様子を捉えている。当時のポールにとって家族との平穏な生活がいかに大切なものであったかがよく伝わってくる。この映像に登場する、メアリーを分厚いコートの中に抱いたひげ面のポールは、『マッカートニー』の裏ジャケットになり強い印象を残した。BGMとして流れる「ジャンク」のストリングス・ヴァージョンは、1999年にリンダへの追悼を込めて発売したクラシック・アルバム『マイ・ラヴ〜ワーキング・クラシカル』収録のもので、ローマー・マー・カルテットによる演奏。
3.恋することのもどかしさ(ミュージック・ビデオ)
ポールのソロ史上初のプロモ・ヴィデオで、元々は曲の宣伝というよりアルバムの宣伝用に制作されたものである(当時この曲はシングルカットされていない)。監督はチャーリー・ジェンキンス。ビートルズの「ゲット・バック・セッション」や、その後ポールが田舎に引きこもった頃に撮影されたマッカートニー一家の写真をスライドショーのように映してゆくだけというシンプルな仕上がり。ただそれだけなのに、こんなにも感動してしまうのはポールの家族愛がダイレクトに伝わってくるからでしょう。曲同様に「神がかった」作品です。なお、このプロモは既にプロモ・ヴィデオ集「The McCartney Years」にも収録されているが、今回は天地をカットせず1970年当時に忠実な画面サイズとなっている。一方、「The McCartney Years」ほどはノイズ除去等は徹底されていない。どうせなら、2001年のベスト盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』用に再編集されたヴァージョンも入れてほしかったような・・・。
4.スーサイド(フロム・ワン・ハンド・クラッピング)
1974年8月にロンドンのアビイ・ロード・スタジオで撮影されたウイングスのドキュメンタリー・フィルム「ワン・ハンド・クラッピング」のワン・シーン。ジェフ・ブリトンが在籍していた頃の短命に終わったラインアップによるリハーサルの様子を捉えた貴重な映像作品としてファンの間で高い人気を誇る「ワン・ハンド・クラッピング」は、しっかりとした作品に仕上がったにもかかわらず長年お蔵入りになっていたが、2010年に「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズの第1弾として再発売されたアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』のボーナスDVDに収録され陽の目を浴びた。しかし、その際なぜかこの「スーサイド」の演奏シーンのみオミットされていて、今回本DVDに収録されるまで未発表のままであった(なぜこの曲だけバラ売りしたのか、非常に疑問・・・)。
このシーンは本来「ブルーバード」の後に登場し、続く「レッツ・ラヴ」「オール・オブ・ユー」「アイル・ギヴ・ユー・ア・リング」と同じくポールのピアノ弾き語りで披露される。黒いスーツで着飾ったポールが、キャバレー風におどけた歌い方や仕草をするのが面白い。他のシーンにも共通するが、画質・音質の向上が図られなかったのは残念。
5.エヴリナイト(ライヴ・アット・カンボジア難民救済コンサート1979)
カンボジア難民を救済する目的で、ワルトハイム国連事務総長(当時)とポールが提唱して開催されたチャリティ・コンサート「カンボジア難民救済コンサート(Concerts For The People Of Kampuchea)」(1979年12月26〜29日)より、29日の最終公演(ロンドン、ハマースミス・オデオン)にウイングスがトリとして出演した際の映像。この日ウイングスは、直前まで行われていた全英ツアーとほぼ同じ曲目を披露した後、ポールが企画した一大ロック・プロジェクト「ロケストラ」を名立たる顔ぶれで再現している。そしてこの日が、結果的にウイングス最後のコンサートとなってしまった。
「カンボジア難民救済コンサート」の模様はたびたび放送されてきており、ブートでも定番アイテムの1つだったが、一部ながら公式にソフト化されるのは初めてのこと(ぜひ単体の映像作品としてコンサート全編を公式発表してほしいのですが・・・)。本DVDでは2曲を高画質・高音質で楽しむことができる(なぜか「恋することのもどかしさ」は未収録)。うち「エヴリナイト」は、オーディオ・トラックは「カンボジア難民救済コンサート」の模様を抜粋した同名のオムニバス・アルバムにも収録されていたが、現在も未CD化のままである。ポールはもちろん、曲調そのままに気だるい表情でコーラスを入れるデニーや、渾身のギター・ソロを披露するローレンスにも注目!
6.燃ゆる太陽の如く(ライヴ・アット・カンボジア難民救済コンサート1979)
同じく「カンボジア難民救済コンサート」の演奏シーン。大胆なアレンジで生まれ変わった、今では演奏することもないであろうレア・ナンバーを高画質&高音質で堪能できる。デニーが演奏前のMCで「カリブ風の曲をやります」と話しているのが印象的。また、そのMCや映像からリード・ギターをポールが弾いていることも判明。さすが元祖マルチ・プレイヤー。しかし、後半で華やかな演奏を聞かせ、演奏後の映像にちらっと映っているはずのブラス・セクション4人がブックレットのクレジットから抜け落ちているような・・・(汗)。
7.ジャンク(MTVアンプラグド)
ポールが米国MTVの音楽番組「アンプラグド・ショー」に出演した時の映像で、1991年1月25日にロンドンのライムハウス・テレビスタジオで収録された。この時ポールをサポートするバンドとして参加したのは、リンダ、ロビー・マッキントッシュ、ヘイミッシュ・スチュアート、ポール・“ウィックス”・ウィッケンズ、ブレア・カニンガムで、この5人は後にアルバム『オフ・ザ・グラウンド』(1993年)のレコーディングに参加し、同年のワールド・ツアーのツアー・バンドにもなった。すべての楽器を「Unplugged(=プラグを通さない、つまりアコースティック)」で演奏するという番組の趣旨から、ポールとしては珍しく全曲アコースティック・スタイルのセットリストだった。この「MTVアンプラグド」の模様は1991年5月にアルバム『公式海賊盤』として大半の楽曲が公式発表された。一方映像は、「The McCartney Years」に数曲が収録された以外は公式にはソフト化されていない(ブートでは流通している)。本DVDには「ジャンク」「きっと何かが待っている」の2曲が収録され、前者が公式初ソフト化された(「カンボジア難民救済コンサート」同様、単体の映像作品として全編公式発表してほしい所です・・・)。
この「ジャンク」は『公式海賊盤』には収録されていた曲で、タイトルは「ジャンク」ながら実質的にはインスト・ヴァージョンの「シンガロング・ジャンク」である。ポールとロビーがアコースティック・ギターを、ヘイミッシュがアコースティック・ベースを、ウィックスがピアノを、リンダがオルガンを、ブレアがドラムスを演奏。オリジナルに負けず劣らずしんみりした雰囲気が漂っている。なお、演奏前のMCでポールが「blackboard(黒板)」と言って観客の笑いを誘っているが、これは数曲前に演奏した「ブラックバード」でADの女性がタイトルを「blackboard」と呼び間違えたのをポールがネタにしたというエピソードの続き。ポールの「馬鹿の一つ覚え」です(苦笑)。
8.きっと何かが待っている(MTVアンプラグド)
同じく「MTVアンプラグド」の演奏シーン。演奏前のMCでポールは『マッカートニー』というアルバム・タイトルの由来を聞かれ「いいタイトルだと思ったから」と答えている。この曲ではロビーがドブロというギターを弾いているが、これがいい味を出している。リンダはパーカッションに徹している。オリジナルのスタジオ・ヴァージョンとは違い、ポールは高音域のヴォーカルも出していて、ヘイミッシュがハーモニーをつけている。この曲も音源は『公式海賊盤』に収録されている上に、映像も「The McCartney Years」に既に収録済みであった(ただし今回は天地をカットせずオリジナルに忠実な画面サイズとなっている)。蛇足ですが、ブックレットでは問題ないのに、DVDでは前曲共々バンドのクレジット表記からヘイミッシュの名前が抜け落ちている(さらには収録日が1991年12月と誤記されている)のが気になります・・・(汗)。