ポール・マッカートニー

アルバム未収録曲・ヴァージョン一覧

〜未CD化曲・CD化はされているが現在・及び今後入手困難なアルバム未収録曲・ヴァージョン〜

PART 2(1987〜1997)

太字は未収録曲、細字は未収録ヴァージョン)

 

Get Back(live)

Long Tall Sally(live)  未CD化

I Saw Her Standing There(live)  未CD化

【出典】Omnibus Album『The Prince's Trust 10th Anniversary Birthday Party』

    Single「Long Tall Sally」A・B面

 

スタジオワークに没頭していた'80年代のポールにとって久々のライヴ活動となったコンサートは、チャールズ皇太子の主催する慈善事業「プリンシズ・トラスト」10周年記念を祝したものでした(1986年6月20日、ウェンブリー・アリーナにて開催)。エルトン・ジョン、エリック・クラプトン、ティナ・ターナー、ロッド・スチュワート、フィル・コリンズなど豪華ゲスト陣が顔を揃えたライヴでポールは3曲を披露。いずれもビートルズ時代に発表した曲で、オリジナル・キーで歌えたことがポールにとって大きな刺激となり、数年後のコンサート・ツアー再開への道につながっていったのはご存じの通り。

3曲のうち、1曲は当日の演奏を抜粋して収録したオムニバス盤(1987年4月発売)に、残り2曲はその付録シングル(英国・ドイツのみ)に収録され、ポールがヴォーカルを取った曲はすべて公式発表されるに至りました。

 

まず、アルバム本編に収録された「Get Back」は伝説のルーフトップ・コンサートを除けばこの日がライヴ初披露。ポールは第1節のみを歌い、ポール・ヤングが第2節を、ティナ・ターナーが第3節をそれぞれ歌っています。これがまた尋常でない盛り上がり方で、特にティナが歌い始めてからのグルーヴがたまりません。それにつられてか、ポールもティナとの熱い掛け合いで終盤楽しませてくれます。アルバム、そしてコンサートを締めくくるにはもってこいの名演です。

付録シングルA面は、リトル・リチャードのカヴァーでビートルズ時代はアンコールの代名詞だった「Long Tall Sally」です。ただでさえキーが高くて歌いづらいのに、当時と寸分変わらぬハイテンションでシャウトしまくるのですから、ファンは「まだまだ現役じゃん!」と大いに驚かされたことでしょう。豪華ゲスト陣によるパワフルな演奏も聴き所。ポールの十八番なのに、ソロとしてはここでしか公式発表されていないのが意外な1曲です。

一方のB面は「I Saw Her Standing There」で、ビートルズ以来の再演です。ポールの威勢の良いカウントで始まり、やはりオリジナル・キーで元気よく突っ走ってゆきます。この時の自信が、後にコンサート・ツアーの定番となるきっかけとなったのではないでしょうか。ちなみに、盟友ジョン・レノンがエルトン・ジョンのコンサートでポールよりも先にこの曲の再演を果たしています。面白いですね。

 

ポールにとってターニング・ポイントとなったコンサートですが、オムニバス盤の方(すなわち「Get Back」)はCD化されているものの、付録シングルの2曲は残念ながら未CD化です。

 

Once Upon A Long Ago

Once Upon A Long Ago(extended version)  未CD化

【出典】7"Single「Once Upon A Long Ago」A面、12"Single「Once Upon A Long Ago」A面

 

ベスト盤『All The Best !』で発表された新曲「Once Upon A Long Ago」には、4種類ものヴァージョン違いが存在します。このうち、現在も容易に入手できるのが『All The Best !』収録ヴァージョン(エンディングがインストのままフェードアウト)と、12インチシングルの「long version」(ギター・ソロをバックにアドリブ風のヴォーカルが入り、完奏)の2種類で、「long version」はアルバム『Press To Play』(1993年の再発版)のボーナス・トラックに収録されています。

 

そして意外なことに、7インチシングルで発売された元々のオリジナル・ヴァージョンが、現在入手困難の憂き目に遭っています。『All The Best !』でこの曲を知った後追い世代(私も含む)には信じられない事実です。アルバムとシングルとでヴァージョンが異なることを知らなかった方も多いことでしょう。7インチヴァージョンは、「long version」からアドリブ風のヴォーカルが入る部分をカットしたもので、『All The Best !』収録ヴァージョンとはまた違った編集で、完奏しています。プロモ・ヴィデオはこの7インチヴァージョンを使用しています。なお、このシングルから導入されたCDシングルにも収録されたため、CD化はされています。

 

一方でいまだにCD化されていないのが「extended version」です。12インチは、最初に先述の「long version」が発売され、その1週間後に(カップリングも差し替えた形で)“別の”12インチが発売されたのですが、そこに収録されたのが「extended version」です。その名の通り、「long version」よりもさらに1分半長くなっていて、冒頭とエンディングにインスト部分が追加されています。冒頭はおなじみの「チーン」の後にドラムのフィルインが入り、続いてストリングスのパートが物悲しさを強調しています。エンディングはギターとトランペットのソロが交互に登場し、他のヴァージョンよりもさらに壮大になっています。その他の箇所は「long version」と同じ内容です。

 

Ou Est Le Soleil?(Extended Pettibone mix)

Ou Est Le Soleil?(tub dub mix)

Ou Est Le Soleil?(Instrumental mix)

【出典】12"Single「Ou Est Le Soleil?」A・B面  未CD化

 

アルバム『Flowers In The Dirt』の発売と時を同じくして、CD版のボーナス・トラックだった「Ou Est Le Soleil?」のリミックスのみを、しかも3種類も収録した12インチシングルが、米国や一部ヨーロッパで発売されました。英国や日本では発売されず、さらには数量限定だったようで、入手困難な超レア・アイテムになっています。

 

リミックスはいずれもシップ・ペティボーンが手がけていて、A面には7分にも及ぶロング・ヴァージョン、通称「Extended Pettibone mix」が収録されました。このシングルを発端に繰り広げられる一連の「Ou Est〜」のリミックスでは最も凝った仕上がりで、いきなり曲後半の(ポールの普通の声と低音の男性の声との)コーラス掛け合いから、しかもアカペラ状態で始まるのが面白いです。この出だしが私はすごく好きです。ウエ、ウエー、レソレ、レソレー(笑)。その後も歌が始まるまでのインスト部分では、先の低音の男性の声が小刻みに繰り返されたりピッチが変わったりして、最初の2分間だけでもう笑いが止まりません。オリジナル以上にダンス・ミュージックを意識した音作りで、次から次へと新たなアレンジが展開されてゆくので、リズムにのせて踊っていたら7分という時間もあっという間の楽しいリミックスです。

B面の1曲目に収録されたのは「tub dub mix」で、こちらはA面よりも前衛的な仕上がりです。イントロから入る「ディンダ、ディンダ」という謎のヴォーカルが印象に残ります。以降も奇妙な構成が続き、リード・ヴォーカルもほとんどなくまるで別曲のような趣です。後半、突如としてパーカッション乱打と例の低音の男性による「ウエー、レソレー」が登場するめちゃくちゃな展開を迎えるのがちょっと面白いかも。

なお、「Extended Pettibone mix」と「tub dub mix」は同年11月のシングル「Figure Of Eight」(一部12インチのみ)B面に再録されていますが、CDシングルには未収録のため未CD化です。

 

そして本12インチでしか聴くことができない超レア音源が、B面のもう1曲「Instrumental mix」です。その名の通りほぼインスト状態で(厳密にはほんの一部だけコーラスが入る)、他のリミックスとは違い構成は基本的にオリジナルに沿った形となっています。全体的にダークな雰囲気で、シンセが斬新に響きます。また、このリミックスのみオリジナルとは異なるエンディングとなっています。「Instrumental mix」も、当然ながら未CD化です。

 

以上のリミックスの中では、「Extended Pettibone mix」が圧倒的にお勧めですが、「Ou Est〜」がよほど好きな人(私みたいな!)でないと少し退屈するかもしれません。

 

The First Stone

I Wanna Cry

I'm In Love Again(edit)

The Long And Winding Road(Video Version)

Good Sign  未CD化

【出典】7"Single「This One」B面、12"Single「This One」B面

 

アルバム『Flowers In The Dirt』からのシングルは、7インチ・12インチさらにはCDと、多彩なフォーマットに数々のアルバム未収録曲・未収録ヴァージョンが散りばめられています。もはやポール自身も把握しきれていないのではないでしょうか(苦笑)。

 

まずはセカンド・シングルの「This One」ですが、カップリングがフォーマットによって違う曲が収録されていました。未CD化曲もあり、さぁ大変です!

7インチ・12インチ・CDのほぼすべてのヴァージョンに共通して収録されたのがアルバム未収録曲「The First Stone」です。1990年から1993年までポールのツアーバンドにも参加することとなるこの時代の相棒、ヘイミッシュ・スチュワートとの初共作曲です。エレキギターをガンガン鳴らしまくったハードな曲調のロックナンバーで、ヘイミッシュの影響が表れているようです。途中でレゲエ風になるのが面白いです。歌詞もジャーナリズムを辛辣に皮肉った痛快なもの。『Flowers In The Dirt』セッションでの録音ですが、アルバム入りは果たせませんでした。

 

12インチとCDには、1987年の『CHOBA B CCCP』セッションのアウトテイクが2曲追加されています。『CHOBA B CCCP』は当時ソ連以外では未発売で、英米ではシングルのB面でばら売りされていたのですが、この2曲に関してはソ連でも当時未発表でした。

「I Wanna Cry」は他の『CHOBA〜』収録曲とは違い、ポールが書いたオリジナルです。しかし、「On The Way」の再来のようなオーソドックスなブルースナンバーで、一瞬カヴァー曲かと勘違いしてしまう程です。『CHOBA〜』収録の「Summertime」にも似ていて、ギター・ベース・ピアノ・ドラムスというシンプルなバンドサウンドと、渋いヴォーカルスタイルを堪能できます。ポールらしくポップのセンスもほんのり感じられますが・・・。

続いてファッツ・ドミノのカヴァー「I'm In Love Again」。これは1991年に『CHOBA〜』が世界規模で公式発売された際にボーナス・トラックとして追加収録され、今では容易に入手できます。しかし、このシングルで発表された音源は、アルバムに収録されたものとは微妙に異なるエディット・ヴァージョンなのです!1つは冒頭のカウントで、アルバムでは「1-2,1-2-3」ですが、シングルでは「2-3」から始まっています。そして、後半は1節分カットされています(2度目の間奏の次の次の節)。なぜシングルでは短くしたのか、何とも不可解です。

 

豪華仕様で発売された7インチのボックス・セットでは、B面に「The First Stone」に代わって「The Long And Winding Road」のリハーサル・テイクを収録。翌年の「ゲットバック・ツアー」と同じく、キーボードによるストリングスを入れつつも、ポール好みのシンプルなアレンジです。後にCDシングル「Figure Of Eight」カップリングや、日本限定発売の『Flowers In The Dirt Special Package』にも収録されているので、比較的入手しやすいでしょう。

そして、追加発売された12インチはB面が差し替えられ、「Good Sign」が収録されました。この曲も『Flowers In The Dirt』セッションの曲で、最終段階でアルバムから外されてしまった、アルバム未収録曲です。当時のブームだったハウス・ミュージックをポールが自分なりに解釈したダンスナンバーで、華やかなブラス・セクションとパーカッションが印象的。「Coming Up」にも似たポップで楽しい1曲で、ついつい踊り出したくなること間違いなしです。ヘイミッシュのコーラスがまたいい味出しています。ちなみに、この曲のリミックス「groove mix」がクラブのDJ向けに200枚限定で単独シングルとして配布されました。超レア音源ですが、実際にこれを流したDJはいたのでしょうか・・・?

 

このように大量のアルバム未収録音源を残した「This One」ですが、未CD化なのは「Good Sign」のみです。「The First Stone」や「I Wanna Cry」も、シングルが廃盤のため同じく入手困難ではありますが・・・。

ポール・ファンには、特に「The First Stone」「Good Sign」は聴いて頂きたいですね。私は「Good Sign」がかなりのお気に入りだったりします(笑)。

 

Figure Of Eight(Single Version)

Figure Of Eight(Single Version Edit)

Ou Est Le Soleil?(7" mix)

This One(Club Lovejoys Mix)  未CD化

Rough Ride(Video Version)

【出典】12"Single「Figure Of Eight」A・B面、CD Single「Figure Of Eight」カップリング

 

ポール史上最多のフォーマットで発売され、当時のファンを泣かせたのが「Figure Of Eight」です。7インチ・12インチ・CDを合わせて実に6種類あり、そんな状況では必然的にアルバム未収録ヴァージョンの嵐となっています。中にはアナログ盤のみ収録で、未CD化の音源まであります。(そんなシングルが日本では未発売だったのですが・・・)

 

まず、タイトルナンバー「Figure Of Eight」のシングルヴァージョン。アルバム『Flowers In The Dirt』収録の演奏とは全くの別物ですが、これは来たる「ゲットバック・ツアー」リハーサル中に録り直したものです。ご存知のように、ポールが久々にステージに復帰した同ツアーのオープニングを飾った曲なので、その宣伝を兼ねての再録だったのでしょう。

このシングルヴァージョンは、ファンの間ではアルバムヴァージョンより人気が高いです。というのも、アルバムヴァージョンはプログラミングを多用したために躍動感に欠ける反面、エンディングなどラフな仕上がりで今一つ盛り上がらない感があるのですが、シングルヴァージョンはツアーバンドによる生演奏で、迫力の違いが一目瞭然だからです。ポールのヴォーカルもシングルの方がより溌剌としていますし、曲構成も練り直され中途半端さを払拭しています。ロビー・マッキントッシュがギターソロを披露する間奏が追加されたのは特に高得点です。

なお、面白いことに曲の長さが異なる2つのヴァージョンが出回っていて、エディット・ヴァージョンは随所を細かくカットして1分以上短くなっています。アナログ盤はすべて5分ほどのフル・ヴァージョンを収録していますが、CDでは5インチにエディット・ヴァージョンを、3インチにフル・ヴァージョンを収録していてややこしいです。より長く演奏を楽しめるフル・ヴァージョンの方がお勧めです。

 

7インチB面には、「Ou Est Le Soleil?」の別ミックス、ずばり「7" mix」を収録。先行して単独発売された12インチの一連のリミックスと同じく、これもシップ・ペティボーンが手がけています。アルバムヴァージョンよりも軽快なリズムと明瞭なシンセサウンドで、出だしがやや大仰な点以外はアルバムより聴きやすいかもしれません。7インチの他にも、3インチCDでCD化されている上に、日本では来日記念盤『Flowers In The Dirt Special Package』に収録済みなので、日本のファンなら比較的入手しやすいです。

続いて12インチ(7インチと同日に発売されたもの)B面には、1つ前のシングル「This One」のマット・バトラーによるダンス・ミックスが収録されています。その名も「Club Lovejoys Mix」。ダンス・ミックスといっても、「Good Sign」や「Ou Est〜」のように派手なアレンジではなく、力強いとも言い難い単調なビートをバックにリアレンジされた、結構退屈するリミックスです。あまりクラブでもかかりそうにないですね・・・(苦笑)。イントロの印象はオリジナルとはがらりと変わっていて、最初聴いた時は「Letting Go」でも始まったのかと思ったほどのブルージーさ。後半はコーラスを小刻みに繰り返したりピッチを変えたりして遊んでいます。なお、2007年にアルバム『Flowers In The Dirt』がiTunesで発売された際にボーナス・トラックとなっていますが、CD化されたことは一度もありません。まぁ、この内容ではしょうがないかな。

 

そして最後に、3インチCDのカップリングには「Rough Ride」のリハーサル・テイクが収録されました。もちろん『Flowers In The Dirt』収録のヴァージョンとは別テイクで、ツアーバンドによる生演奏です。打ち込みサウンドを駆使したアルバムヴァージョンよりは圧倒的に「ラフ」ですが、リンダとポール・“ウィックス”・ウィッケンズのキーボード隊が雰囲気を再現しようと頑張っています。これも『Flowers In The Dirt Special Package』に収録されているので、日本でなら入手は比較的容易です。

 

この他にもシングル「Figure Of Eight」には「Ou Est Le Soleil?」のリミックスや「The Long And Winding Road」のリハーサル・テイクなど過去のシングルで発表した音源が各フォーマットに散りばめられ、ポール・マニアをさらなる混乱に陥れるのでした・・・(苦笑)。

ここでしか聴くことのできない音源の中では、やはり「Figure Of Eight」のシングルヴァージョンがお勧めです。

 

Party Party

【出典】Single「Party Party」A面

 

アルバム『Flowers In The Dirt』が、久々のワールド・ツアー(後の「ゲットバック・ツアー」)を記念して「ワールド・ツアー・パック」として再発売された際に、豪華な付録と共についてきたボーナス・ディスクの収録曲。当時のツアーメンバー全員の共作曲で、ジャム・セッションから発展したようなダンス・ナンバー。軽快なリズムにのせてポールがアドリブ風に熱唱し、そこに他のメンバーがタイトルコールを歌うというシンプルな構成で、タイトルそのままのパーティーぽい騒ぎ声も入って楽しそうです。サイケデリックな味付けのプロモ・ヴィデオも制作されました。

 

「ワールド・ツアー・パック」はCD版も制作されたのでCD化はされています。また、日本では来日記念盤『Flowers In The Dirt Special Package』に再度収録されたので、比較的入手しやすい部類となります。逆に、英米ではいまだボーナス・ディスクのみの発売で、レア・アイテムとなってしまっています・・・。

なお、公式未発売ながら、当時のプロモCD『Paul McCartney Rocks』には3分45秒のエディット・ヴァージョンが、12インチプロモ・シングルには6分27秒にも及ぶ「Bruce Forest Club Mix」が収録されています。ややこしいですね。

 

Same Time Next Year

【出典】12"Single「Put It There」B面

 

アルバム『Flowers In The Dirt』からの第4弾シングル「Put It There」の12インチ及びCDに収録されたのが、同シングルの「Mama's Little Girl」と共に未発表曲集「Cold Cuts」に収録予定だった「Same Time Next Year」です。ウイングス時代の『Back To The Egg』セッションでのアウトテイクで、元々は同名映画の主題歌として書き下ろされたものですが、お蔵入りになってしまいました。

なぜ10年以上も未発表になっていたのか不思議でならない、ポールらしい洗練されたラヴ・バラードで、せつなげなヴォーカルでピアノを弾き語るポールを美しいオーケストラが支えます。リンダとデニー・レインのコーラスも健在!

 

日本では『Flowers In The Dirt Special Package』に収録されているので割と入手が容易ですが、英米ではシングルのみとなり正規での入手が困難。ただし、ブートの名盤として君臨する「Cold Cuts」諸シリーズには公式発表版と同じものが(音質は劣りますが)収録されています。

 

PS Love Me Do

【出典】Album『Flowers In The Dirt Special Package』

 

ビートルズのデビュー・シングルの両面を合体させてダンス・ナンバー化してしまうという、ファンの間で話題となった「PS Love Me Do」。ビートルズナンバーの版権をほとんどマイケル・ジャクソンに持っていかれた中、この2曲だけMPL(ポールが運営する版権会社)所有ということが制作のきっかけか?レコーディングは1987年にフィル・ラモーンとのセッションの最中に行われました。

そのスタジオ・ヴァージョン、実は欧米では未発表です。それもなんと、日本のみの限定発売だったからです!2度も来日公演が中止になった日本のファンへのサービス精神あふれた来日記念盤『Flowers In The Dirt Special Package』に、純然たる新曲として収録されました。そして、待ちに待ったその来日公演で、ポールはこの曲をライヴで初披露したのでした。

 

現在、『Flowers In The Dirt Special Package』は入手困難ですが、欧米ではさらに輪をかけて入手困難、というより正規での入手が限りなく不可能に近いことを考えれば、我々日本のファンは非常に恵まれているというわけです。

 

It's Now Or Never

【出典】Omnibus Album『The Last Temptation Of Elvis』

 

英国の音楽誌「New Musical Express」が企画したチャリティ・アルバム『The Last Temptation Of Elvis』にポールが提供したのが「It's Now Or Never」。このアルバムではタイトルが示すように、ブルース・スプリングスティーンやロバート・プラントといった様々なアーティストがエルビス・プレスリーの曲をカヴァーしているのですが、ポールはこのエルビス・ナンバーを取り上げました。とはいっても、このアルバムのために新たにレコーディングしたものではなく、実は1987年のアルバム『CHOBA B CCCP』セッション時のアウトテイクでした。

原曲はポールがライヴのフェイントでも使う「O Sole Mio」で、1960年に発表されたエルビスのヴァージョンは英米で1位を獲得するヒットとなりました。ポールのヴァージョンはといえば、『CHOBA B CCCP』セッション特有のリラックスした雰囲気の中、オルガンを交えて若干トロピカルな仕上がりです。ポールはすっかりエルビスになりきったつもりで歌っています。

 

『The Last Temptation Of Elvis』は英国のみでの発売だったため、現在では非常に入手困難です。プロモ・シングルも作られましたが、当然ながらそちらも入手困難。どうせなら「I Wanna Cry」と共に『CHOBA〜』のボーナス・トラックに入れてほしかったです。

 

Coming Up(live)

Hey Jude(live)

【出典】Omnibus Album『Knebworth The Album』

 

1990年6月30日に英国のネブワースで開催されたチャリティ・コンサートに、当時ワールド・ツアー中だったポール一行が参加。他にエルトン・ジョン、エリック・クラプトン、ジェネシス、ピンク・フロイド、ステイタス・クオーといった豪華な顔ぶれが登場したこの日のライヴで、ポールは当時のセットリストの縮小版を披露しました。うち、「Birthday」がライヴ盤『Tripping The Live Fantastic』に収録されましたが、それとは別に、コンサートの総集編といえる2枚組オムニバス盤『Knebworth The Album』には、ポールの演奏が2曲収録されました。

 

「Coming Up」は、通常の「Figure Of Eight」に代わってこの日のオープニング・ナンバーでした。ファンならご存知の、当時の流行を反映したハウス風アレンジのヴァージョンで、ポールの登場を待ちわびていた観客の興奮を一気に高めるにはもってこいでした。『Tripping〜』に収録された東京公演とは、イントロ・間奏に登場するサンプリング・ボイスが異なるのが面白い点です。リンダの「イェー!」も健在。

もう1曲は、ライヴのレパートリーに加わって間もなかった「Hey Jude」。言わずもが、その後のポールのコンサートでは欠かせない定番曲に成長してゆきます。ここでも、歌い始めると共に大歓声が起こり、人気の高さがうかがえます。終盤のコーラス部分ではピアノ・ソロ中にポールが「左側の席の人!」「反対側の席!」「真ん中!」と観客に一緒に歌うように促し、観客が大合唱でそれに応えるおなじみの展開となりますが、この日も例外なく感動的な仕上がりとなっています。

 

「ゲットバック・ツアー」関連の音源では一番忘れられがちですが、要チェックです。

 

Good Day Sunshine(live)

PS Love Me Do(live)

Let 'Em In(live)

【出典】Single「Birthday」カップリング

 

1989年〜1990年のワールド・ツアー、通称「ゲットバック・ツアー」の模様を収録したライヴ盤『Tripping The Live Fantastic』からのシングル。メインの「Birthday」は『Tripping〜』と同じ演奏ですが、カップリングは惜しくもライヴ盤から収録漏れとなった曲でした。

 

まず、7インチB面でもあった「Good Day Sunshine」は、ライヴではこのツアーが初披露だったビートルズナンバーで、モントリオール公演(1989年12月9日)の模様が収録されています。冒頭のMCでポールが「メルシー、メルシー」と言っているのはカナダでもフランス語圏だから。ビートルズのオリジナルはピアノ中心でしたが、こちらではエレキ・ギターも使用されているのが新鮮です。間奏のピアノ・ソロもちゃんと再現されています。しかし、ツアー通してセットリストにとどまっていたというのに、なぜライヴ盤未収録となったのかは謎です・・・。

来日記念盤『Flowers In The Dirt Special Package』での「新曲」だった「PS Love Me Do」は日本が初演でしたが、ここではその後のリオデジャネイロ公演(1990年4月21日)の演奏を収録。このシングルに収録されることで、欧米のファンはかろうじてライヴ・ヴァージョンは入手できたのでありました。シンセサウンド全開のエレクトリック・ポップを、ライヴでも忠実に再現しているのはお見事。なお、この曲ではポールは楽器を弾かずハンドマイク片手に歌っています。賛否両論あったようですが(苦笑)。

そしてウイングス以来の再演となった「Let 'Em In」は、日本のファンのために特別に演奏されました!シングルに収録されたのももちろん、東京公演(1990年3月5日)です。「素直に僕を入国させてよね」というメッセージが隠されているという憶測が流れ、これも賛否両論あったようですが(苦笑)。ウイングス時代と違いスタジオ・ヴァージョンと同じ長さのフル・ヴァージョンで、ブラス・セクションはポール・“ウィックス”・ウィッケンズがキーボードで再現、小太鼓はリンダがたたいています。曲全体を通しての手拍子が日本の観客らしくて微笑ましいですね。

 

この辺りからCDの発売が当たり前になり、未CD化曲はぐっと減りますが、シングルが廃盤となって現在入手困難となっているケースが逆に増えてきます。この3曲もその一例です。

 

C Moon(soundcheck)

Mull Of Kintyre(live)

Strawberry Fields Forever〜Help!〜Give Peace A Chance(live)

【出典】Single「All My Trials」カップリング

 

「ゲットバック・ツアー」からのシングルカット第2弾。メインの「All My Trials」はライヴ盤『Tripping The Live Fantastic Highlights !』(『Tripping The Live Fantastic』の1枚組ダイジェスト版。現在入手困難)の英日盤に収録されていますが、カップリングは『Tripping〜』と同じ演奏の「Put It There」を除き、またしてもライヴ盤未収録の音源でした。

 

まず、ポールとリンダお気に入りの「C Moon」は本番では取り上げられませんでしたが、サウンドチェックでの定番曲でした。ここでは「All My Trials」が録られる前日のミラノ公演(1989年10月26日)での模様を収録しています。お気に入りだけあって、リラックスしつつも息の合った演奏です。シロホンやトランペットのフレーズもキーボードで再現されています。ポールはピアノを弾きながらボブ・マーリーよろしくレゲエぽいアドリブを入れまくっていますが、これは後年のサウンドチェックやライヴではさらにすごいことになります。

「Mull Of Kintyre」は地元スコットランド・グラスゴー公演(1990年6月23日)のみの特別演奏。さすがご当地ソングだけあって観客の盛り上がり方が普段と全く違います。もう最初から最後まで大合唱ですから!その反応を知ってか、ポールも随所で喜びの雄叫びを上げています。もちろん間奏からは本物のバグパイプ・バンドの演奏もあり。この後も地域限定(主にスコットランド)で披露され続ける曲ですが、これを聴くと日本でもぜひ演奏してほしいという思いが強まります。大好きな曲だけに!

 

そして、ビートルズ・ファンなら必聴なのが、故郷への凱旋となったリバプール公演(1990年6月28日)で初めて披露された「ジョン・レノン・メドレー」です!ビートルズ出身の地で、ポールの無二の親友ジョンが書いた曲を一気に3曲も演奏したのです。「深く愛する人に捧げます」の言葉で始まったこのトリビュートで、今まで避け続けてきたビートルズのことをポールが完全に許容できたことが分かります。

キーボードを使ってオリジナルのようなサイケデリックさを強調した「Strawberry Fields Forever」、生前のジョンが望んでいたスロー・スタイルで演奏される「Help !」、そしてまさかのソロ・キャリアからの選曲で観客と一緒に歌って締めくくった「Give Peace A Chance」。特に「Give Peace A Chance」では、いったん演奏が終了した後も観客の大合唱が続き、ポールたちも演奏を再開する、という感動的な展開となりました。'70年代初頭の険悪な関係、仲直りした矢先の1980年のジョンの死と、それを克服しようとするポール。その長い道の終着点がこの日まで温めていたトリビュート・メドレーと考えると、涙なしでは聴いていられません。それまでのポールだったら、ジョンの曲をライヴで演奏するなんて想像すらできなかったでしょうから。

 

なお、CDシングル「All My Trials」は2種類発売され、黒地の方に「Mull Of Kintyre」が、白地にポールの写真の方に「ジョン・レノン・メドレー」が、両方に「C Moon」が収録されています。日本では、黒地の方は未発売で、代わりにメインサイドが「The Long And Winding Road」に差し替えられたシングルが発売されました。

 

Long Leather Coat

Big Boys Bickering

Kicked Around No More

【出典】Single「Hope Of Deliverance」カップリング

 

アルバム『Off The Ground』期のシングルには、レコーディング・セッションの充実ぶりを物語るように多くのアルバム未収録曲がカップリングとして収録されました。現在、それらをシングルで入手するのは難しいですが、日本・ドイツのみで発売された2枚組限定盤『Off The Ground The Complete Works』でほぼ全部まとめて入手できます(ただし、そちらも現在廃盤のため、このページに記載しています)。

 

アルバムからの先行シングルとなった「Hope Of Deliverance」には、3曲のアルバム未収録曲が収録されています。7インチB面でもあった「Long Leather Coat」は久々にポールとリンダの共作名義で発表された曲で、毛皮のコートを否定することで動物愛護を強烈にアピールしたメッセージソングです。少々どぎつい気もしますが(汗)、演奏の方はバンドの一体感あふれる力強いロカビリー・スタイルで素直に楽しめます。ポールのシャウトも最高!

「Big Boys Bickering」も超ストレートなメッセージソングで、今度は環境保護に取り組まない無能な政治家への批判がテーマです。歌詞に4文字ワードを使用したことで放送禁止にもなったほどですが、曲調はなぜかのんびりしたカントリー。ドブロやアコーディオンをフィーチャーしているのが当時のポールのアンプラグド志向を象徴しています。

もう1曲の「Kicked Around No More」は一転して失恋を歌った'80年代の雰囲気たっぷりのAORバラードです。打ち込みパーカッションとコーラスの繰り返しが印象に残ります。『Off The Ground』期のアルバム未収録曲には、アルバム本編よりも秀逸な出来の曲が多いとよく言われますが、この曲はその代表格ではないでしょうか。ファンの間でも人気が高く、「なぜアルバム未収録!?」と不思議に思えてなりません。

 

日本では、シングルのカップリングに収録されたのは「Big Boys Bickering」のみで、「Long Leather Coat」と「Kicked Around No More」は『Off The Ground』の初回限定盤の付録CDに収録されました。その後、3曲とも前述の『Off The Ground The Complete Works』に収録されました。この3曲では「Kicked Around No More」がやはり必聴ですね。

 

Deliverance

Deliverance(dub mix)

【出典】12"Single「Deliverance」A・B面

 

白地スリーブの12インチシングルとしてひっそりと発表されたのが、ポール史上稀に見る本格派リミックス「Deliverance」です。手がけたのはディスコ・ミックス・クラブ(DMC)のスティーブ・アンダーソン。タイトルで容易に推測できる通り「Hope Of Deliverance」のリミックスなのですが、もはや原形をとどめないまでに改造してあるのが以前のリミックスとは異なる点です。打ち込みによるディスコ・ビートが軽快なダンスナンバーに変貌していて、中盤以降タイトルコールが登場してくるまで、これが「Hope Of Deliverance」だと誰も判別できないでしょう。 

もう1つの大きな特徴が、ポールの意向により『Off The Ground』セッションで録音された曲の断片を随所にサンプリングしている点です。単なる冗長なリミックスで終わらせず、ファンを思わずニヤリとさせてしまう工夫が隠されているのです。

最も分かりやすいのは「Style Style」の最後に一度だけ登場する「オーオ、オーオ」でしょう。それから、「Keep Coming Back To Love」のタイトルコール、「Looking For Changes」の「オーオー」というコーラス、「Cosmically Conscious」のSE風コーラス、「Big Boys Bickering」の最後の叫び声などが確認できます。

 

「Deliverance」には2種類のヴァージョンがあり、シングルB面には「dub mix」が収録されています。明るいピアノのリフがメインのA面に対し、こちらは謎めいたシンセのリフとグルーヴィーなベース・サウンドを前面に押し出してダークなイメージが強いです。その日の気分によって流すサイドを変えるという趣旨なのでしょうか(苦笑)。使用されているサンプリングは基本的にA面と同じですが、ブラス・セクションや呪文ぽいコーラスなどA面にはない音も登場します。

オリジナルの12インチはCD化されませんでしたが、英国では「C'mon People」の、一部ヨーロッパでは「Hope Of Deliverance」のカップリングとしてどちらのヴァージョンもCD化を果たしました。ただし、アルバム『Off The Ground The Complete Works』には収録漏れとなり、今でもシングルでしか聴けないアイテムとなってしまいました。日本での発売はなく、入手困難です。

 

後のザ・ファイアーマンへの布石となるリミックスですが、ポールの前衛音楽の中では比較的聴きやすく普通のマッカートニー・ミュージックとして楽しめると思います。

 

I Can't Imagine

Keep Coming Back To Love

Down To The River

【出典】Single「C'mon People」カップリング

 

アルバム『Off The Ground』のセカンド・シングル「C'mon People」にも、アルバム未収録曲が3曲収録されています。まず、「I Can't Imagine」はポールらしいメロディが光るさわやかなポップ・ナンバーで、7インチB面にも収録されました。愛について肯定的に歌った詞作もいかにもポール。間奏のソロなどあくまでアコースティックな仕上がりなのがこの時期ならではでしょうか。ヘイミッシュ・スチュワートが随所で入れる追っかけコーラスがいい味出しています。

続いての「Keep Coming Back To Love」は「The First Stone」以来2曲目となるポールとヘイミッシュの共作曲です。タイトルは作曲時の「歌詞がどうしてもラヴ・ソングになっちゃうんだ」という2人のやり取りから思いついたとか。そんな2人がほぼ全編にわたって大人のハーモニーを聞かせる、ミドル・テンポのポップ・ナンバーです。

そして、「Down To The River」はカントリーやフォークの影響を強く感じる超シンプルなメロディの曲で、ハーモニカ(演奏はポール!)やアコーディオンがノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。アンプラグド志向の集大成とも言えそうですが、実際、1991年に行ったアンプラグド・ツアーで公式発表前のこの曲が披露されたことがありました。

 

3曲とも限定盤『Off The Ground The Complete Works』に収録されています(日本ではシングルのカップリングが「I Can't Imagine」のみで、残る2曲は当初未発表状態でしたが・・・)。また、「I Can't Imagine」は2007年に『Off The Ground』がiTunesで発売された際にボーナス・トラックとなっています。

この3曲の中では、私は「I Can't Imagine」をお勧めします。アルバムに収録されなかったのが非常に惜しいです。

 

Off The Ground(remix)

Cosmically Conscious

Style Style

Sweet Sweet Memories

Soggy Noodle

【出典】Single「Off The Ground」

 

アルバム『Off The Ground』からの第3弾シングルにしてタイトル曲の「Off The Ground」。実はシングルには、アルバムヴァージョンとは違うミックスで収録されています。このリミックスを手がけたのはKeith Kohenで、イントロの前に「ララーララ、ラーララ」というコーラスがドラムソロ&手拍子をバックに追加されているのが一番の違いです。本編に入ってからも各楽器のバランスが変更されていて、ドラムスは心なしかプログラミング主体に差し替えられている気がします。また、エンディングもドラムソロが終わった後の手拍子がカットされています。

なお、米国ではアルバムヴァージョンをそのまま収録、英国ではシングル自体が未発売のため、このリミックスはドイツなど英国以外のEU諸国と日本でしか聴くことのできないレア・アイテムとなっています。残念ながら限定盤『Off The Ground The Complete Works』には未収録ですが、日本のファンは公式発売されているだけで世界でも恵まれている方なのです。

プロモ盤は3種類が用意され、アルバムヴァージョンに限りなく近い「Bob Clearmountain Mix」、シングルヴァージョンにさらに手を加えドラムソロなしで曲が終わる「Keith Cohen Remix」、さらにそのイントロを若干差し替えた「Keith Cohen AC Edit」がそれぞれに収録されています。はっきり言って、ややこしいです!

 

また、カップリングは再度アルバム未収録曲で占められました。しかも豪華に4曲も!まず、「Cosmically Conscious」は『Off The Ground』の最後にシークレット・トラックとして収録されていましたが、ここで聴くことができるのは4分半に及ぶフル・ヴァージョン。ポールが1968年に書いた曲で、完全版だとサイケデリック期のビートルズの作風を意識しているのがさらに明確に分かります。エンディングはなぜか「Down To The River」が連結されています。

「Style Style」はポールには珍しいアメリカン・ロックで、「Looking For Changes」に似た路線ですが、サウンド面もヴォーカル面もこちらの方が断然かっこいいです。エンディングの繰り返しが冗長気味なのが少し残念ですが、タイトなバンドサウンドを堪能できます。歌詞では理想の女性について歌われていますが、ポールにとってはリンダのことなのでしょう。

続く「Sweet Sweet Memories」もリンダと思われる理想の女性を歌った曲(実は歌詞は18世紀英国の詩人アレキサンダー・ポープ作「On A Certain Lady At Court」のほぼ丸パクリ)で、ポール節たっぷりのポップなメロディが爽快です。間奏以降転調するのがまた実に心地よく響きます。蛇足ですが、2013年のアルバム『NEW』のボーナス・トラック「Turned Out」がこの曲そっくりだと思うのは私だけでしょうか?

「Sweet Sweet Memories」と同じトラックには、「Soggy Noodle」という短いインスト・ナンバーが収録されています。これは、「Off The Ground」のプロモ・ヴィデオの冒頭でポールがエレキ・ギター1本で弾いている曲です。なぜ「ふやけた麺」というタイトルをつけたのでしょうか・・・?

 

カップリングの4曲はいずれも『Off The Ground The Complete Works』に収録されています。その際、「Sweet Sweet Memories」と「Soggy Noodle」は別々のトラックに分離されました。しかし、ポールの母国・英国では全曲今なお未発表というのが信じられませんね。

 

Things We Said Today(live)

Midnight Special(live)

【出典】Single「Biker Like An Icon」カップリング

 

アルバム『Off The Ground』からの最後のシングルは、一部ヨーロッパのみで発売された「Biker Like An Icon」でした。このシングルのカップリングにもアルバム未収録の音源が2曲収録されましたが、さすがに『Off The Ground』セッションでの新曲は底ついたのか、1991年にMTVの音楽番組「アンプラグド・ショー」で披露した曲のうち、同年のアルバム『Unplugged』で収録漏れになっていたアウトテイクが代わりに陽の目を浴びることとなりました。

初期ビートルズナンバーの再演「Things We Said Today」は、1989年のワールド・ツアーからセットリストに復帰していましたが、番組の趣旨に合わせてエレキ・ギターを使用していないのがこれまでと違う点です。ピアノが主要な役を担っているのも新鮮なアレンジ。曲構成も、間奏を含めオリジナルより繰り返しが多いものとなっています。

もう1曲の「Midnight Special」はアルバム『CHOBA B CCCP』でも取り上げたことのあるトラッドのスタンダードで、こちらも以前のヴァージョンに比べアコースティックな仕上がりです。ロビー・マッキントッシュが弾くドブロと、ポール・“ウィックス”・ウィッケンズが弾くアコーディオンがカントリーぽさを出しています。ヘイミッシュ・スチュワートのハーモニーも光ります。

 

どちらも後に限定盤『Off The Ground The Complete Works』に収録されました。そのため日本では比較的入手が容易ですが、英米では現在も未発表状態(米国では「Things We Said Today」のみ7インチB面でごく少数流通したようですが、主にプロモーション用の配布だったようです・・・)。なお、プロモ盤には「Unplugged」セッションからもう1曲、「Mean Woman Blues」が収録されていますが、これは残念ながら一般発売はされませんでした。既出の「Biker Like An Icon」のライヴ・ヴァージョンを入れるくらいなら、こっちを収録してほしかったです。

 

Looking For You

Broomstick

Oobu Joobu Main Theme(Oobu Joobu)

I Love This House(Oobu Joobu - Part 1)

Atlantic Ocean(Oobu Joobu - Part 2)

Bouree(Oobu Joobu - Part 2)

【出典】Single「Young Boy」カップリング

 

1997年に発売されたポール久々の新譜、シングル「Young Boy」。ここにも多数のアルバム未収録曲が存在します。これを含めて、アルバム『Flaming Pie』からの一連のシングルにアルバム未収録曲が多い理由は、1995年5〜9月にポールがDJを担当したラジオ番組「Oobu Joobu」(米国・ウエストウッドワン系列にて放送)が、CDシングルのカップリングとして再現・シリーズ化されたことにあります。この頃深く携わっていた「ビートルズ・アンソロジー」プロジェクトに触発されたのか、番組ではポールが長いキャリアの中でお蔵入りにしていた未発表曲が次々と陽の目を浴びました。そうした未発表曲が、1回1曲の配分でCD版「Oobu Joobu」にそのまま収録されたのです(DJ部分は構成を見直した上で再録してある)。

その影響で、「Oobu Joobu」以外のカップリングも含め、この時期のシングルで発表されたアルバム未収録曲のほとんどが新たに録音したものでなく、'80年代の未発表曲でした。

 

まず、通常のカップリングから見てゆきましょう。「Young Boy」は2種類のCDシングルが発売され、ジャケットが色違いなのですが、緑のジャケットの方のカップリングで、アナログ盤のB面にも収録されたのが「Looking For You」。『Flaming Pie』に収録された「Really Love You」に続くリンゴ・スターとの共演で、同じ日のジャム・セッションから生まれた曲です。リンゴの堅実なドラミングに支えられながら、ポールがアドリブでシャウト風のヴォーカルを入れてゆきます。ジェフ・リンがここでもエレキ・ギターとコーラスでサポートしています。なお、この曲は2007年に『Flaming Pie』がiTunesで発売された際にボーナス・トラックとなっています。

もう一方の、ピンクのジャケットのカップリングは「Broomstick」で、こちらは「Young Boy」などで共演したスティーヴ・ミラーとの2人きりのセッションで録音されました。スティーヴの影響が色濃く現れた渋ーいブルースで、スティーヴの弾くギター・フレーズとポールのブルージーなヴォーカルが大人の世界に誘ってくれます。ギター以外はポールの1人多重録音で、やたらとエフェクト処理されたシンバルと、間奏のピアノ・ソロが印象に残ります。

 

CD版「Oobu Joobu」は、緑の方に「Part 1」が、ピンクの方に「Part 2」がそれぞれ収録されましたが、その双方(というより、このシリーズ全部)に登場するのが番組のテーマ曲「Oobu Joobu Main Theme」です。ポールとリンダがタイトルコールを繰り返すだけの陽気で楽しい小曲ですが、曲自体は'80年代に既に存在していたようです。CD版「Oobu Joobu」でも随所で様々な長さで(時には面白い効果音つきで)使用されており、もしそれらをすべてヴァージョン違いとしてカウントすると大変なことになりそうです(汗)。

「Oobu Joobu - Part 1」では、「I Love This House」が陽の目を浴びることとなりました。アルバム『Flowers In The Dirt』収録の「We Got Married」と同じく、1984年にデヴィッド・フォスターのプロデュースで行われたセッションで録音されたものの、お蔵入りになっていた曲です。打ち込みドラムやシンセを多用した力強いロックで、翌年に制作を開始するアルバム『Press To Play』に収録されていても違和感ない、いかにも'80年代的なサウンドが強烈です。

一方、「Oobu Joobu - Part 2」では「Atlantic Ocean」が発表されました。これまたアグレッシブで機械的な音作りなのですが、こちらは「Once Upon A Long Ago」などと同じく1987年にフィル・ラモーンをプロデューサーに迎えた一連のセッション(通称「The Lost Pepperland Album」)で録音されました。ハーフスポークンのヴォーカルを聞かせますが、完成に至るまで何度も作り直したようで、間奏以前は当初のヴァージョンとは歌い方や演奏が大幅に異なります。

最後に「Part 2」に登場する「Bouree」ですが、これはご存知クラシック界の大御所・バッハの「ブーレ・ホ短調」をポールがアコギで爪弾いているだけの、一種のジングル。ポールいわく「Blackbird」を書くきっかけとなった曲だそうで、学生時代にジョージ・ハリスンと一緒によく演奏したそうです。2005年の全米ツアーを筆頭にステージでも稀に演奏することがあります。

 

どの曲もシングル以外のCDに収録されたことがなく現在は入手困難です。「Broomstick」は隠れた名曲としてファンの間で人気が高いです。「I Love This House」と「Atlantic Ocean」の当初のテイク(どちらも完奏する)は、ブートの名盤「Pizza And Fairy Tales」で聴くことができます。

 

Squid(Oobu Joobu - Part 3)

Don't Break The Promise(Oobu Joobu - Part 4)

Daisy Roots Reggae(Oobu Joobu - Part 4)

【出典】Single「The World Tonight」カップリング

 

アルバム『Flaming Pie』からの第2弾シングル「The World Tonight」にもCD版「Oobu Joobu」が収録され、その中で未発表曲が陽の目を浴びました。今回も、例によって2種類のCDシングル(ジャケットが青とオレンジの色違い)に2種類の「Oobu Joobu」(前者に「Part 3」、後者に「Part 4」)が用意されました。なお、英国以外の国ではカップリングが異なるため公式未発表の状態となっています。日本なんかカップリングが第1弾シングルでしたから・・・。

 

「Oobu Joobu - Part 3」からの未発表曲は「Squid」です。この曲も、「Atlantic Ocean」と同じく1987年の「The Lost Pepperland Album」の頃の録音です。ただし、この曲はポールの単独セッションで、楽器もポール1人で演奏しています。アコギの澄んだメロディとエレキ・ギターのハードなメロディが交互に訪れるインスト・ナンバー。これも「Pizza And Fairy Tales」などのブートで完全版を聴くことができます。なお、「Oobu Joobu」放送時のタイトルは「Be A Vegetarian」でした。「イカ」→「ベジタリアンになれ」というのも妙なタイトル変更ですね・・・。

 

「Oobu Joobu - Part 4」では「Don't Break The Promise」が発表されました。これは、アルバム『Press To Play』でタッグを組んだエリック・スチュワートとの共作曲で、エリックの方が先に10ccの再結成アルバム『Meanwhile』(1992年)で発表したため、ここでは「ソロ・ヴァージョン」と銘打たれています。アルバム『Flowers In The Dirt』セッションで録音したもののお蔵入りになっていた音源です。面白いことに、10ccの方はバラードのアレンジなのに、ここで聴くことのできるポールのヴァージョンはなんとレゲエ・アレンジです!おまけに終始変なファルセットで歌っています。「本当に同じ曲!?」と思わず疑ってしまう激変ぶりです。

なお、この曲と同時期にポールとエリックが共作し、1995年に発表された「Yvonne's The One」(10ccのアルバム『Mirror Mirror』に収録、ポールのヴァージョンは未発表)では全く逆の現象が起きています(10ccの方がレゲエで、ポールの方がバラードのアレンジ)。

 

「Part 4」はレゲエがテーマになっていて、「Don't Break The Promise」の後にはポールがレゲエについて語るパートがあるのですが、そのBGMとして流れるレゲエ・ナンバー「Daisy Roots Reggae」はブートでは「Little Daisy Root」というタイトルで表記されています。打ち込み主体の演奏にのせてポールがアドリブ・ヴォーカルを披露していますが、レコーディング時期など詳細は明らかになっていません。“Ou est samba listen?”という歌詞が聞き取れます。

 

Love Come Tumbling Down

Same Love

Beautiful Night(Original Version, Oobu Joobu - Part 5)

Strawberry Fields Forever(Paul Solo, Oobu Joobu - Part 6)

Come On Baby(Oobu Joobu - Part 6)

Love Mix(Oobu Joobu - Part 6)

【出典】Single「Beautiful Night」カップリング

 

アルバム『Flaming Pie』からの第3弾シングル「Beautiful Night」も、2種類のCDが発売されました。またもやジャケットが色違いで(黄色と紫)、それぞれのカップリングにアルバム未収録曲と、CD版「Oobu Joobu」(黄色の方に「Part 5」、紫の方に「Part 6」)が収録されました。すっかり定番化したスタイルはポールの一つ覚えの表れでしょうか(苦笑)。なお、このシングルは英国と一部ヨーロッパのみの発売で、ここに収録されたアルバム未収録曲は米国や日本ではすべて公式未発表ということになります。

 

まず、黄色のジャケットの方のカップリングで、アナログ盤B面にも収録されたのが「Love Come Tumbling Down」です。これまた、1987年のフィル・ラモーンとの「The Lost Pepperland Album」セッションで録音されたのですが、これが名曲です!ポールがちょっと風変わりな甘いヴォーカルで恋が終わる瞬間を歌いかけるラヴ・ソングなのですが、ビリー・ジョエルを手がけたラモーンのプロデュースによってAORの雰囲気たっぷりに仕上がっています。シンセの使い方をはじめ、'80年代ポールのAOR系ナンバーが好きな人には何ともたまらない作風です。ファンの間でも隠れた人気を集めていて、私自身も全マッカートニー・ナンバーでも指折りに大好きな曲であります。これがアルバム未収録、まして10年間お蔵入りだったなんて実にもったいない!身も心もフニャフニャです。

紫のジャケットのカップリングは「Same Love」で、これも名曲です!ビートルズの「Revolution」に参加したことでも知られるニッキー・ホプキンスが弾くピアノがメインのバラードで、1988年6月の録音。ヘイミッシュ・スチュワートがギターで参加しています。これまたAORっぽい仕上がりで、ポールならではの美しいメロディとせつないヴォーカルが心を打ちます。特に中盤以降の高揚する展開は感動的で、ポール・ファンの心を鷲掴みにすること間違いなし。これがボツになって、今でもシングルのカップリングでしか聴くことができないことが信じられません!もはやポールの選曲センスを疑いたくなります(笑)。

 

続いてCD版「Oobu Joobu」ですが、「Oobu Joobu - Part 5」ではメインサイドの「Beautiful Night」がテーマとなっている関係で同曲のオリジナル・ヴァージョンが登場します。実はこれまた「The Lost Pepperland Album」セッションでの録音です。1986年8月に「Loveliest Thing」と同じセッションで取り上げられ、ビリー・ジョエルのバックバンドが演奏に参加しています。「Oobu Joobu」でポールが語るように満足いく仕上がりでなかったためお蔵入りとなり、10年後の『Flaming Pie』セッションでリメイクした上で公式発表に至るわけです。

オリジナル・ヴァージョンはフィル・ラモーン色の濃いAOR風アレンジで、ポールのヴォーカルもやや大仰です。曲構成も大きく異なり、テンポアップするコーダも登場しません。ここでは途中でフェードアウトしますが、完奏するヴァージョンは「Pizza And Fairy Tales」などのブートで聴くことができます。

 

「Oobu Joobu - Part 6」ではポールがメロトロンを演奏する場面がありましたが、ここでポールが取り上げたのが、かつての相棒ジョン・レノンのビートルズ時代の代表曲「Strawberry Fields Forever」です。1990年に「ジョン・レノン・メドレー」の1曲として演奏して以来のことでした。メロトロンといえば、やはりこの曲ですからね。歌い出しでの音程の変化も口と音でしっかり再現しています。

続いてポールはメロトロンのプリセット音源を使ってデモを披露していますが、この曲はシングルでは「Come On Baby」と題されています。中断を挟んで2つの異なるデモから成っていますが、どちらもフランス風というかキャバレー風というか・・・そんな感じの曲です。おふざけなのは明らかで、声色を変えながら映画のワンシーンのようなおどけた台詞を入れて周りのスタッフの笑いを誘っています(苦笑)。

その後に登場する未発表曲「Love Mix」は再度「The Lost Pepperland Album」セッションでの録音です。フィル・ラモーンとは喧嘩別れに終わり、それが制作中だったアルバムがお蔵入りとなった理由と噂されていますが、この時期の曲を後年たくさん発表していることを考えると、結局ポールにとって思い入れのある時代だった、ということなのでしょう。曲の方は、陽気なブギウギナンバーで、ポールらしくポップで覚えやすいメロディが特徴です。レコーディングにはロビー・マッキントッシュがギターで参加。スタジオで取り上げたのは1987年ですが、曲自体は1974年頃には書かれていて、ピアノ・デモも存在します。この時のタイトルは「Waiting For The Sun To Shine」。ここに収録するにあたってリミックスが行われており、曲の長さも若干短く編集されていて、初期テイクは例のごとくブート「Pizza And Fairy Tales」で聴くことができます。

 

公式ではこのシングルでしか聴くことのできない「Love Come Tumbling Down」「Same Love」「Love Mix」のいずれもが、アルバム収録曲と比べても遜色ない名曲だと思います。入手は困難ですが、ポール・ファンならぜひ入手して聴いて頂きたいです。個人的には特に「Love Come Tumbling Down」を推します!

 

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