ディスコグラフィ 〜鈴木康博・1983-1988〜

 

Sincerely

Sincerely

(1983年8月21日発売・東芝EMI)

1.愛をよろしく  2.君の誕生日  3.瑠璃色の夜明け  4.夏の日の午后  5.僕と海へ

6.今は確かに  7.入り江  8.ラララ〜愛の世界へ〜  9.帰らないで

 1982年、オフコースからの衝撃的な脱退を行ったYassさん(鈴木康博)。その翌年には、もうソロデビューを果たしています。オフコースが4人編成で再始動するよりも、前のことでした。ソロデビューシングル(1)と、ファースト・ソロアルバムであるこのアルバムが発売されたのです。オフコースがファンハウスに移籍したのに対し、Yassさんはエキスプレス・レーベルに残留しました。

 このアルバムの作風は、オフコース時代のYassさんの楽曲の作風、ことに直近のアルバム『I LOVE YOU』の作風をそのまま受け継いでいます。演奏はほぼすべてYassさん自らが行っていて、それも『I LOVE YOU』に共通します。シンセ・キーボードを多用したサウンドが耳に残ります。また、楽曲はゆったりめのバラードナンバーが多く、Yassさん節を十二分に堪能できます。

 オフコースの作風に似ているからか、発表から20年以上経った今でも、ファンの間では大変根強い人気があります。Yassさんもお気に入りのソロデビューシングルとなった(1)はもちろん、ファン投票では必ず上位に入る(7)や、知名度の高いやさしいバラード(4)、アルバムのラストに収録されたメロウなバラード(9)など、ソロにおけるYassさんの傑作がぎっしり詰まっています。小田さんの『K.ODA』と双璧を成すアルバム、といっても過言ではないでしょう。

 このアルバムは、オフコースでYassさんを知った人(ほとんどそうでしょうけど・・・)には大変なじみやすい、お勧めのアルバムです。このアルバムから入ると、ソロのYassさんに親しみがわきやすくなるはずです。しかし、一度はCD化されたものの、現在は廃盤の憂き目にあっています。皮肉的にも、Yassさんの諸作でも一番入手困難な作品となっています。私も、持っていません(かろうじてベスト盤で半数の曲を聴くことができる)。再発を強く希望します。アルバムをイメージした同名の映像作品は、入手可能ですが・・・。

 

Hello Again

Hello Again

(1984年9月29日発売・東芝EMI)

1.Hello Again  2.雨がノックしてる  3.ALONE  4.Holly Night  5.SO LONG

6.Starlight Serenade  7.夏が過ぎても  8.もう一度 愛を  9.届かないLove Song  10.去りゆく日々よ

 Yassさん2枚目のソロアルバム。1984年といえばちょうどオフコースが活動を再開した年でもあります。そんな中Yassさんはオフコース関係なしに地道に活動を続けてゆきました。郷ひろみに大ヒット曲「素敵にシンデレラ・コンプレックス」を提供したのもこの頃です(自身はシングル「Starlight Serenade」B面に収録)。このアルバムは、そんなYassさんの充実ぶりを示すような曲がたっぷり収録されています。(3)(5)(6)と3曲もシングルカットがされたことが象徴的です。

 曲は、前作以上にヴァラエティ豊かなラインアップで、ポップな仕上がりとなっています。シングルにもなった(5)はストリングスをフィーチャーしたゆったりとした別れ歌ですし、(2)(6)は「メインストリートを突っ走れ」を思い浮かべるロックナンバー。(9)はファンの間で人気のラヴソングです。同じバラード系でも、(8)は後半からハードになる展開が印象的な反面、(10)はハーモニカをフィーチャーした穏やかなワルツと様々なカラーが揃っています。そして(3)では'50年代のオールディーズに挑戦。松本隆の書いた別れの歌詞と曲調・ユニークなコーラスとのギャップもまた面白いものがあります。

 このアルバムも、『Sincerely』と同じくファンの間では人気の高い一枚です。オフコース的なニュアンスを残しつつも、オフコースでは表現できなかったものを表現できていると思います。曲のカラーが豊富なので、飽きずに聴くことができるでしょう。しかし、これまた現在は廃盤で、アナログ盤かネット配信でしか手に入れられないのが残念な所です。私も、ベスト盤収録曲しか聴けていません。

 

Long Slow Distance

Long Slow Distance

(1985年9月6日発売・東芝EMI)

1.エレガント プログラム  2.Shinin' Inside  3.琥珀色のつぶやき  4.Long Slow Distance

5.永遠の3分  6.エアポートの二人  7.ある晴れた日に  8.City Woman

 Yassさんの創作意欲はソロ活動開始から全然衰えませんでした。1年に1度のペースでアルバムを世に送り出します。そして、このアルバムでYassさんは新たなサウンド作りに挑戦します。時代の最先端だった、コンピュータを使用した打ち込みサウンドを大々的に繰り広げたのです。それが、このアルバムです。

 元々オフコースでも、メロディ系の小田さんに対してリズム主義のYassさんという印象が強かったのですが、ここに来てそれを鮮明にしたかのようです。当時の日本のミュージックシーンは、大多数のアーティストが打ち込みサウンドに傾倒していましたが(オフコースも例外ではなかった)、Yassさんは打ち込みに積極的な関心を示していました。徹底的に計算された鋭角的なドラムビートが、アルバムのカラーを決定付けています。シングル発売されて話題になった(8)をはじめとして、(1)(4)といったハードロックが目白押しです。歌詞も、オフィスや都会といった無機質な場所を舞台にしています。そんな中、(7)は打ち込み色を抑えた普段のYassさん節が光るメロディアスな曲で、Yassソロの代表曲としてファンに強い支持を得ています。

 Yassさんの創作意欲、オフコースではできなかった音作りが思うがままに表現されたこのアルバムですが、'80年代サウンドが色濃く表れているためか、現在ではあまり評価は芳しくありません。「Yassさんらしくない」という声も聴かれますし、「Yassさんのソロ諸作で最低のでき」という酷評まであります・・・。しかし、旧来のファンはともかくこれから聴く人(特に若年層)にはとっつきやすいのでは、とも思います(私はこういうサウンド好きなので)。特に(7)はYassさんらしい名曲なので聴くことをお勧めします。ただし、このアルバムを最初に聴くとYassサウンドを誤解するおそれがあるので注意が必要です。

 この後Yassさんの曲にプログラミングが(このアルバムほどではないが)使用されることを考えても、Yassさんの歴史にとっては大きな転換点となったアルバムではないか、と思います。ちなみに、このアルバムも現在廃盤でアナログ盤かネット配信でしか聴けません(私が聴けるのも半数のみ・・・)。Yassさんソロの初期3枚はぜひ再発してほしいです。

 

SING MODE

SING MODE

(1986年7月31日発売・東芝EMI)

1.SEASON OFF  2.BORDERLINE LOVE  3.TOGETHER(LPバージョン)  4.まぶしすぎる季節  5.エンドレス・サマー

6.HIDE AND SEEK  7.夏の君  8.東京っていう街で  9.Million Miles Mystery

10.10番街の殺人(A SLAUGHTER ON 10TH AVENUE)[CD only]

 前作でコンピュータ・サウンドに挑戦したYassさん。その1年後に発表したこのアルバムでも、打ち込みドラムスを使用しています。しかし、前作と大きく異なる点は、露骨にコンピュータ色を出すのではなく、生楽器も交えながらあくまでもスパイス(特にドラムス)として使用している曲が増えているところです。そのため、リズムはアグレッシブながらも、いつものYassさんらしいメロディラインがくっきり浮き上がった仕上がりとなりました。また、アレンジを初めて他人(大野久雄)に任せている点も注目です。'80年代サウンド的なアプローチがされているのは、大野氏の趣向といったところでしょうか。

 収録曲は非常にポップ色が強く、リズミカルな曲が集合しています。オフコース時代とは一線を画した、「ポップでモダンな鈴木康博」を前面に打ち出しています。そんな中から、ヒット曲(3)が輩出されたのです。ただし、この曲はカヴァー曲なのが残念。しかし、キリンビールのCMソングとなったこともあって、このYassさんのヴァージョンは有名です。また、キャッチーこの上ない(5)もCMソングとなり話題を呼びました。この曲のみYassさん本人のアレンジ。その他、アコギの生演奏から始まる(1)、アルバムで一番機械的な(2)、ブギー風のリズムの(9)など、明るい雰囲気でほぼ統一されています。そのためバラード系の曲が少ないのですが、そんな中でサックスが味わい深い(8)が光ります。

 このアルバムは、前作と同じく非常に'80年代サウンド色が強く、打ち込みドラムスが露骨な面もあります。そのため、今になって聴くと少し違和感を感じる面もあります。しかし、前作に比べると曲のバラエティもサウンドのカラーも豊富で聴きやすくなっています。また、メロディが非常にYassさんらしさを感じる曲が多く、特に(1)(5)(7)(8)はお勧めできます。しっかりメロディでYass節を強調してあります。打ち込みを多用していた時期のアルバムでは、一番お勧めできます。コンピュータ・サウンドを嫌う方には、お勧めできませんが・・・。私は全部のアルバムを聴いていませんが、現時点ではこのアルバムが一番好きです・・・一番好きなYassナンバー(5)が入っているので。

 なお、このアルバムは現在廃盤となっています。また、こんなにキャッチーなアルバムなのになぜかYassさん本人の選曲によるベスト盤『Anthology 1983-1988』にはこのアルバムから1曲も選曲されていません(汗)。ちなみに(10)はリチャード・ロジャースのスタンダードのカヴァーでインストゥルメンタル。当時はCDのみのボーナス・トラックでした。

 

MY PLEASURE

MY PLEASURE

(1987年7月6日発売・東芝EMI)

1.STEP INTO THE SUNSHINE  2.二人きりの部屋  3.GOOD BYE 昭和  4.遠ざかる日々  5.SUMMER BREEZE

6.MOONLIGHT SERENADE  7.I LOVE JAPANESE  8.遥かなる願い  9.きらめきの向こう側  10.LOUISIANA MAMA

11.LASTING JOURNEY

 年に1度のアルバム発表を続けるYassさんの5枚目のアルバム。作風は前作とほぼ同じく、打ち込みドラムスをバックに生楽器を交えながらのアレンジになっていますが、今回は再びYassさん本人がアレンジを行っています。そのため、前作に比べると圧倒的に'80年代サウンド色は薄まりぐっと聴きやすくなっています。また、曲における生楽器の占める割合も高くなり、アコースティック・ギターやパーカッションなど暖かみある音になっています。この後'90年代のYassサウンドを予感させるような、ちょうど過渡期といっていいようなアルバムです。

 収録曲は、前作よりも派手さが薄まっています。リズムが強調されたアグレッシブな曲も(3)(7)(9)と少なくなりました。うち(3)は昭和への決別を、(7)は米国化への警鐘を題材にした詞作が印象的です。(1)は「エンドレス・サマー」の雰囲気を継いだキャッチーなシングル曲。かえって増えたのがバラード系の曲で、こうした曲では生楽器の出番が多くなっています。久々にアコースティック・ギターがメインの(4)をはじめ、ラテン風の(5)、キーボード弾き語りで始まる(8)、そして全編アカペラによるカヴァー曲(6)と、穏やかな作風が大半を占めています。(10)は有名なオールディーズのカヴァー、(11)はYassさん作曲のインスト・ナンバーです。

 このアルバムは前作に比べるときらびやかさ・キャッチーさには欠けますが、その分本来のYassさんの持ち味が引き出されています。打ち込みドラムスを使いながらも、生楽器を最優先させた作風がこの時代の音楽にしては聴きやすいです。また、Yassさんのアコースティックな魅力も詰まっています。『SING MODE』のような打ち込みサウンドが苦手な方には、こちらの方がお勧めできます(この辺りは好みが分かれそうです)。アルバムの重要性は高くありませんし、別段有名曲が入っているわけでもありませんが、ぜひ聴いてみてください。

 

LULLABY

LULLABY

(1988年4月27日発売・東芝EMI)

1.蒼いままの旅が俺たちの時代  2.危機  3.恋はALL RIGHT!  4.君について  5.星の子供たち

6.今宵 踊ろう  7.十月の波  8.SLOW MELODY  9.夢で会いましょう  10.旅の夜  11.時代(とき)を越えて

 さらに1年が経過し発表されたアルバム。このアルバムでYassさんはギタリストの吉川忠英とタッグを組みます。アレンジは全曲Yassさんと吉川氏の2人によるものです。そのためか、このアルバムは前作以上にアコースティックな仕上がりとなりました。特に、アコースティック・ギターを使用した曲が多く収録されているのは、2人ともギタリストだからでしょう。打ち込みドラムスを使用せずパーカッションを使用している曲もあります。このアルバムを境に、Yassさんのサウンドは再びアコースティックに回帰してゆくことになります。

 アコースティックな作風になったことは、収録曲にも作用しています。アルバムタイトルは「子守唄」を意味しますが、その名の通り子守唄のような静かで穏やかな曲が主体となっています。リズミカルな曲もいくつかありますが、以前のようにアグレッシブに強調されたものではなく、(1)(6)(7)のように生楽器による穏やかなタッチです。特に(5)(8)といったアコギ弾き語りや、(10)のようなストリングスによるバラードは、まさに子守唄のようです。一番ポップなのが(3)(11)ですが、それらにいたってもアコギなどを使用して派手さのないアレンジです。

 '80年代のコンピュータ・サウンドの波に飲まれながら、ここでようやくYassさんの原点に戻ったといえるでしょう。どんなにYassさんがリズム主義でも、やっぱり彼にはアコギサウンドが似合っているのです。このアルバムでアコースティック・サウンドを見直したYassさんは、この後アコースティックに回帰してゆきます。その記念すべき第一歩として、このアルバムは重要な一枚です。全体的に薄味のアレンジでバラードが多いため、派手でキャッチーな曲を求める人には物足りないアルバムになることでしょう(汗)。しかし、多少無理しているような前作までの時期に比べ、Yassさんらしいサウンドが満喫できます。オフコースのYassさんの曲(とりわけ初期)を親しんで聴いている方には大変お勧めです。

  

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