Jooju Boobu 第119回

(2006.5.23更新)

Kicked Around No More(1993年)

 更新が滞って申し訳ないです(汗)。今回も前回に引き続き、アルバム「オフ・ザ・グラウンド」の時期にシングルのカップリングのみで発売された佳曲を紹介してゆきます。今回紹介する曲は、その佳曲の中でももっとも人気の高い曲ではないでしょうか。よく「この曲は大好き」というファンの声を目に・耳にするからです。その曲とは『Kicked Around No More』。シングル「Hope Of Deliverance(明日への誓い)」のカップリングだった曲です。どんな所がファンに愛されているのか、この曲の魅力を語ってゆきましょうか。

 この曲は、アルバム「オフ・ザ・グラウンド」のセッションで録音されました。ご存知の通りこのアルバムはポールが当時のツアーバンドのメンバーと一緒に制作したものであり、バンドサウンドが生かされた音作りとなりました。アルバム本体は、そのためかスタジオライヴ的だったりリハーサルテイクだったりと若干ラフな面がありますが、シングルのみで発表された曲の方はけっこう凝った音作りがされています。この曲も、その例に漏れずかなり凝った作りとなっています。

 その大きな要因が、打ち込みサウンドの使用です。アルバムではタイトルソング『Off The Ground』にか使用されていない打ち込みですが、この曲では曲の骨組みとなるパーカッションに打ち込みを使用しています。終始同じリズムを刻み続けるその雰囲気は、あたかも1986年のポールのソロアルバム「プレス・トゥ・プレイ」のようです。あのアルバムは打ち込みサウンドを大胆に取り入れた冒険作で、それゆえ大敗を喫したのですが・・・(汗)。この曲ではそれほど違和感のない程度に抑えているので「ポールらしくない」といった感じはありません。「プレス・トゥ・プレイ」でいえば『Footprints』程度の使用です。残りのサウンドはバンドによる生楽器ですが、ほとんどバッキングが同じに聴こえるのが印象的です。あたかも、サンプリングした音をループさせているかのようで、「プレス・トゥ・プレイ」的といえばそう言えないこともありません。しかし、あくまでも生楽器。機械的な匂いは一切しません。ここらへんが、ポールの失敗から学んだ教訓が生かされている証明でしょう。私は「プレス・トゥ・プレイ」が大好きなのであんまりその悪口は言いたくないのですがね・・・。

 曲自体は、'80年代以降ポールが好んで作るようになったAOR風バラードです。先の打ち込みパーカッションと合わせて'80年代をほうふつさせる感じに仕上がっています。ポールにとって'80年代サウンドが満開した時期といえば「プレス・トゥ・プレイ」で、またしてもこの曲が「プレス・トゥ・プレイ」的なオーラが漂っている裏づけになります。確かに、この曲をPTPのアウトテイクだと紹介されたら信じてしまうかもしれません。全体的に哀愁が漂い、楽器の音とあわせて暗い感じですが、その中にいかにもAORといった深い味わいを味わえます。この手の曲をたくさん作ってきたからか、ポールのAORバラードを作曲する腕もこの曲ではぴかいちです。メロディも非常に美しく、アルバム本編の一部の曲よりもいい出来をしています。一度聴いただけで、「なんでこんな美しくて味わい深いメロディがアルバム未収録・・・!?」と耳を疑ってしまうことでしょう。

 先ほど打ち込みチックな凝ったバッキングと言いましたが、パーカッション以外でもっとも目立つのがピアノです。低音を生かしたメロディが延々とほぼ変化せず繰り返されているだけなのは先述の「サンプリングのよう」ですが、曲に哀愁と不思議な心地よさを与えています。しかしこの曲はサンプリングみたいな音ばかりではありません。実はギターもけっこう多く入っていて、しっかりこれがバンドの演奏であることをアピールしています。後半になるとエレキギターのパートが多く入ります。右チャンネルから聴こえるアコギもヘッドホンで注意深く聴くと新鮮です。しかも意外にも始終演奏されています。重々しい中ですきっとした音です。ピアノとパーカッションが主役のように見えて、意外とギターサウンドなのです。他にも、ヴォーカルとユニゾンになるキーボードなども聴き所です。

 このようにこの曲は、「オフ・ザ・グラウンド」期の曲の中でも1,2を争うほど凝ったつくりとなっています。'80年代風AORなのと、打ち込みを使用していることから、あたかもスタジオにこもって時間をかけて制作したかのような印象を与えますが、ツアーを一緒にやってきた仲間との演奏というのが面白いです。そう、意外にも「バンドの演奏」といったものが見え隠れする曲です。凝ったつくりとなったことで、当然ながら完成度も非常に高いです。それに美しいメロディがあって、この曲のクオリティーはポールの全曲の中でもかなり上位に位置します。それが、アルバム未収録になったのは本当に不可解です。バンドサウンドをアルバムで濃く出したかったのか、選曲したポールたちのセンスが悪かったのか・・・。

 ポールのヴォーカルもいかにもAOR、といった歌い方をしています。すっかり味を占めたのでしょう。深みのある歌い方がムーディーです。悲しさを漂わせているようで、どこか心地よさも感じてしまうのは低音のピアノと同じです。声が高くなるところで少しかすれてしまっているのは「おやおや・・・」と心配になってしまいますが、それもいい味になっています。面白いのは、冒頭のカウント。少し大げさにエコーがかかっています。これまた、「プレス・トゥ・プレイ」でやってそうなアレンジです。'80年代の雰囲気を出したかったのでしょうか。少し『Loveliest Thing』に似たカウントです。他メンバーはハモることなくひたすらコーラスに徹しています。しかも終始「ウーアー」だけです。パーカッション、ピアノ共々サンプルをループさせた感じです。とはいっても、もちろん生で歌ったものですので、違和感なんかありません。曲の持つ深みを、ますます出してAOR漬けにさせてくれます。

 歌詞は、恋人が行ってしまった後の惨めな気持ちを歌った失恋ソングです。哀愁漂うAORバラードにはもってこいの詞作です。'80年代以降ここまで純粋なラヴソングはなかなかなくなってしまいましたが(特にこの時期は動物愛護やら環境保護やらを歌っているので余計)、やっぱりポールの書くラヴソングはいいですね。ちなみにタイトルは「いじめられたくない」という意味です。

 こんなにムードたっぷりで美しく、完成度も高いのに、この曲はアルバムに収録されることはありませんでした。(アルバムの某2曲目や11曲目なんかより十分よい曲なのに・・・)英国・米国ではシングル「Hope Of Deliverance」のCDシングルにのみ収録されました(アナログ盤には未収録)。日本ではシングルにすら収録されず、アルバム「オフ・ザ・グラウンド」の初回限定版に付属していた8cmシングルでしか聴くことができませんでした。なんともひどい扱われ方です。その後日本とドイツのみ発売されたアルバム「オフ・ザ・グラウンド・コンプリート・ワークス」に収録されたのですが、これも初回限定生産。結局今この曲を聴こうと思っても入手が非常に困難なのです。いい曲を聴くことができない、なんとももったいない話です。特にこの曲に関しては!

 ポールやバンドメンバーにはそのよさが分からなかったようですが(少なくとも『Looking For Changes』より低く評価したのは確か)、この曲の美しさや心地よさは熱心なポール・ファンはとてもよく理解しています。その証拠に、この曲はファンの間で非常に人気が高いです。人気が高いだけでなく、きちんとした評価が下されています。「オフ・ザ・グラウンド」期のシングルのみに収録された数々の佳曲の中でも、この曲が一番人気です。中にはポールの曲全体でもとても大好きという声すら耳にします。「アルバムに収録されなかったのが不思議」というのはみんな異口同音。この曲のレベルが伊達でないことを、多くのファンの声が証明しています。

 そんな私も、この曲が大好きなファンのひとりです。「Jooju Boobu」の紹介順(=お気に入り順)でも最初の方に登場していたはずです(開始時にはまだこの曲を聴いていなかったので今になっての紹介ですが・・・)。特に私は「プレス・トゥ・プレイ」が大好きなので、'80年代風のこの曲は見事にはまりました。最初「オフ・ザ・グラウンド」の初回限定8cmシングルで聴いたのですが(再発前だったので私は「オフ・ザ・グラウンド」は中古品を買ったのです)、こんな美しい曲が埋もれていたなんて信じられませんでした。PTPでいえば『Tough On A Tightrope』のように「隠れた名曲」的オーラが漂っていてすぐに惹かれました。歌詞も純粋なラヴソングだし、すごく好きです。私が「オフ・ザ・グラウンド」の選曲を任されていたら、真っ先にアルバム入りを決めていたでしょう。『Looking For Changes』や『Winedark Open Sea』なんか入れるよりこの曲を入れたほうが、100倍いいです(あ、さっきの某曲名指ししちゃった・・・)。

 なかなか入手困難ですが、中古品を探してでも聴く価値ありです。なんていったって数多くのファンのお墨付きですから。自信持って手に入れてください(「コンプリート・ワークス」をお勧めします)。'80年代風打ち込みアレンジが嫌いな方は若干打ち込みパーカッションが気になるかもしれませんが、それ以上にメロディやヴォーカルが美しい曲なのでそうした方にも強くお勧めします。ポールのファンなら、この曲を聴かずに死ぬのはもったいなさすぎます。探して探して、ようやく見つけてこの曲を聴いた時の感動は、人生にまたとない至福の時でしょう。今のは少し大げさですが、それほどに聴いていただきたい1曲です。私の個人的な好みで言っているのではないのです。この曲を聴いたほとんど誰もがそう勧めるはずですよ〜。ぜひご一聴あれ!

 イラストは前回の『I Can't Imagine』に続き明石裕奈@ネギま!です。というのも、実はこの曲も個人的には裕奈のイメージがする・・・というより裕奈へのラヴソング(爆)になっているからです。『Tough On A Tightrope』に似たオーラがあるからかもしれません。

 さて、次回紹介する曲も「オフ・ザ・グラウンド」期のシングルのみに収録された佳曲です。ヒントは・・・「とってもはじけたポップ」。お楽しみに!

  

(左)シングル「Hope Of Deliverance」。アナログ盤および日本版CDシングルには未収録なので注意。

(右)限定盤アルバム「オフ・ザ・グラウンド・コンプリート・ワークス」。CD 2の佳曲の数々に涙してください(爆)。

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