Jooju Boobu 第1回

(2005.2.13更新)

With A Little Luck(1978年)

 記念すべき第1回に輝いたのは、やっぱりこの曲!『With A Little Luck』です。邦題は「しあわせの予感」(さらに発表当初は「愛の幸運」だったらしい!)。言わずもが、当サイトのサイト名の由来であり、私のHN(ハンドルネーム)の由来であります。まさにこの曲抜きで当サイトは語れないわけなのですが、それもそのはず。この曲こそ私が一番好きなポール・マッカートニーの曲なのです!今回は、そんなまさに私のお気に入りのこの曲を語ってゆきます。

 この曲は、1978年にウイングスのアルバム「ロンドン・タウン」に収録され、アルバムからの第1弾シングルとして先行発売されています。アルバム「ロンドン・タウン」は、ポール率いるウイングスが夢の全米ツアーを制覇し、まさに人気絶頂だった頃に制作が始まったのですが、このアルバムが様々な紆余曲折を経て完成したのは有名な話です。一連のレコーディング当初は、ウイングスは黄金期を作り上げた5人編成でした。一番有名なラインアップです。しかし、かの名曲『Mull Of Kintyre(夢の旅人)』のレコーディングを境に、ジミー・マッカロク(ギター)とジョー・イングリッシュ(ドラムス)が脱退。ジミーはドラッグが原因だとか言われていますがとにかく、2人もメンバーを失ったウイングスは痛手を受けます。ちょうど愛妻リンダさんの出産もあり、ポールは仕方なしに残りを相棒デニー・レイン(ギター)と共に完成させます。アルバムジャケットにはポール・リンダ・デニーの3人しか映っていませんが、収録曲の多くにジミーとジョーが参加しています。さらに、アルバム発売前後には脱退した2人の後釜として、メンバーを2人追加。そうした状況で、まさにこの曲はメンバーチェンジの真っ只中のリリースだったのです。(まぁ、ウイングスにメンバーチェンジは付き物なんですけどね・・・)

 そんな複雑な「ロンドン・タウン」セッションの中で、この曲はジミーとジョーも含めた5人編成で録音されました。「ロンドン・タウン」セッションは、場所を変えながらのレコーディングで、5人編成の時期もロンドンでのセッションもあったのですが、この曲が録音された場所は、なんと!西インド諸島の海に浮かぶヨットの上。「フェア・キャロル号」というヨットの上に、楽器やら機材やらを持ち込み、さらにはポールは一家揃って西インド諸島へ連れて来て、別のヨットの上で生活し始めたのです。この途方もない企画を持ち出したのは意外にもデニーだったようですが、好奇心旺盛のポールが飛びついたのは言うまでもありません(笑)。そりゃあ、誰だって青い海と空の下で、のんびりと仕事をしたいものですから。しかし、物事そんなに上手くいかず、ポールは現地でサメに襲われたそうですが(苦笑)。とにかく、そんな誰も思いつかないような場所で、この曲は録音されました。

 さて、話をそろそろ『With A Little Luck』の方に。ポールといえば「バラード」か「ポップ」というのが基本のイメージ(先入観とも言う)ですが、この曲では後者のポップセンスを存分に味わうことができます。そう、ポールらしさ満開のポップチューンなのです!とはいえ、はちきれるようなポップさではなく、ミドルテンポで心地よさの漂う落ち着いた雰囲気がこの曲には流れています。そこが、『Listen To What The Man Said』や『Silly Love Songs』などとの違いです。「ロンドン・タウン」でポールは音楽的に「英国回帰」の傾向を見せ、英国・アイルランドのトラッド(伝統音楽)嗜好に走っていますが、これには、人気絶頂の全米ツアーを終えたポールが、華々しい喧騒から抜け出して、一息つきたいという気分が作用していると思われます。デニーの無鉄砲な洋上セッションの計画に飛びついたのも、「リラックスしながらアルバムを作りたい!」という思いがあったから、かもしれません。とにかく、『With A Little Luck』には、そんなポールの気持ちが反映された、穏やかな空気が流れています。シングルヒットなのに、地味な雰囲気のアルバムで浮いていないのは、この空気感が共通しているからです。そして、私はそんな空気感が大好きです。もちろん、曲調のみならず、メロディもポールならではの覚えやすく親しみやすいものです。

 アレンジ面では、5人編成ウイングスということでバンド・サウンドを聞かせてくれます。しかし、一聴すればお分かりかと思いますが、曲の中心に据えているのはギターではなく、幾重にもオーバーダビングされたシンセサイザーです。昨年まで、全米ツアーでエレキギターをガンガン鳴らしていたバンドと同じとはとても思えません。シンセといえば、ウイングスでも数年前からムーグ(リンダさんの指一本弾き!)を使用していましたが、この曲ではその頃のムーグの音色よりしつこくない、やさしく、柔らかな音を聞かせます。これが無性に心地よいのです。なんとなくかわいらしい感じもします。所々で入る波のような音が耳に残ります。開放的で爽快な雰囲気は、きっとデニーご推奨の洋上セッションが影響しているのでしょう。確かに、海沿いのドライヴとか、ヨットのセーリング中に聴くとはまるかもしれませんね。まだ、現在のシンセに比べればチープぽい音ですが、これくらいの音の方が耳ざわりがよいです。

 逆に目立たないのがギターの音。というより、ギターは使用されていないのではないでしょうか?(第2節辺りでギターの弦が触れるような音が聴こえなくはないですが・・・)ここまでギターレスな曲というのも、ウイングスでは珍しいことです。デニーは恐らく、後述のプロモのようにシンセを弾いているのでは、と思われます。ジミーは・・・参加していないかもしれませんね(汗)。シンセ主体でギターが裏手というパターンは、翌年に『Arrow Through Me』でより実験的アプローチで登場します。

  

 シンセがかわいらしいこの曲は、意外にも演奏時間がとても長く、なんと6分近くもあります。(まぁ、『Silly Love Songs』も同じくらいですが・・・)この長い演奏時間の大きな要因が、間奏です。それもそのはず、1分48秒もあるからです!昔の曲なら1曲まるごと入ってしまう長さです。1分48秒と聞くと、冗長でだれてしまうような気がしますが、実はそうでもありません。この間奏は、いろいろと聴き所があるからです。印象的なのは強弱の付け方。いったん曲が終わった後、シンセの持続音と共に再びリズムが入りますが、この部分は非常に静か。続くシンセソロは、1972年の『I Am Your Singer』のリコーダー・ソロに似たメロディも登場する、かわいらしいメロディです。ここでもシンセが多重録音されています。その後、徐々に力強くなってゆき、終盤のリフレインにつながるわけですが、ここではドラミングの変化に注目。微妙にパターンを変えながら、徐々に盛り上げてゆく構成はさりげないけれど感心します。さすが、ウイングスの一時代を築いたジョー・イングリッシュのドラミングだけあります。ポールとしても一般的にも非常に長い間奏ですが、これがないとどこか物足りなくなる、そんな間奏です。中には長すぎてだれる、という人もいるようですが(汗)、私はもちろんそんなことは全然ありません!

 ポールらしさはメロディのみならず、歌詞にも表れています。心地よく爽快な曲にのせて歌われる歌詞も、心が晴れてゆくような楽観的なもの。「ちょっとした運があればうまくいくよ」と歌いかける内容は、自信をなくした時に希望を与えかけてくれるような、やさしい励ましのメッセージです。楽観的な詞作はビートルズ時代からポールの得意分野で、『We Can Work It Out』なんて曲もありました。この曲はよくそれと比較されることが多いのですが、はちきれた感じでなく、穏やかに包み込まれるような『With A Little Luck』の詞作は、聴いているうちに自然と元気が出てくる、そんな曲です。同じポジティブでも、すっと体に溶け込むこの曲こそ、元気になるには最適と私は確信しています(笑)。まさに、「しあわせの予感」を感じることでしょう!ちなみに、そんなこの曲になぜか「da*n」というおなじみの4文字の単語が出てくるのにはちょっと驚かされます。といっても、「どんなことでも(whole thing)」を強調しているだけなので、気にするほどではありませんが。ちなみに、私自らこの曲の歌詞を対訳してみました。こちらに掲載しています。

 そんなこの曲のヴォーカルですが、実は意外にも終始穏やかでやさしい歌い方はされていません。出だしはこの曲のイメージにぴったりな、リラックスした雰囲気の歌い方ですが、徐々にヴォーカルに力が入ってきて、そしてリフレイン部分で一気にシャウト交じりに変わります。ここでようやく、全米ツアーで駆け巡っていた時期の歌声が垣間見えます。この部分ではポールは崩し歌いになります。眉間にしわを寄せてシャウトするポールの顔が浮かんできそうです。そして、そこで一緒に入ってくるのが、おなじみの“With a little luck-a,little luck-a・・・”というコーラスです。あのユニークでキャッチーなメロディは、一度聴いただけですぐ口ずさんでしまいそうです。リンダさんとデニーの声が目立ちますが、この2人のコーラスはウイングスの醍醐味の1つです。前半ではやさしく、後半で一気にアドリブ交えてのシャウト(+ユニークなコーラス)というアレンジ、このコントラストが非常に効果的で、シンプルな構成の曲にメリハリをつけています。シャウトが入っているのに曲の雰囲気に不思議とマッチしているのが心地よいです。ポールのヴォーカル七変化に脱帽です。もちろん、リンダさんとデニーのコーラスワークも必聴。あのコーラス以外にも、前半部分で幾重にも絶妙に重なり合うハーモニーは、ウイングスならではの魅力です。このように、ヴォーカル面・コーラス面でも十二分に魅力を堪能できるこの曲です。

  

 この曲の魅力を余すことなく語った(つもり)後は、この曲の補足的な解説に。トラッド風味の楽曲や、メンバーチェンジの影響を受け未完成の楽曲が多く収録された「ロンドン・タウン」の中でも、この曲が断トツにキャッチーでポップだったことからか、冒頭で触れたように先行シングルとしてアルバムより一足先に発売されました。そして、英国で5位・米国で1位を見事獲得しました。英国ではあの『Mull Of Kintyre』に続く新作だけあって、期待も大きかったと思いますが、当時はパンクやディスコがブームだったようで思うようには伸びませんでした。それでも、米国1位はすごいですね!なお、シングルには間奏をカットしたショートヴァージョン(DJエディット)が収録されました。具体的には2分32秒から5分5秒の間を大幅にカットしたもので、3分ちょっとで終わってしまいます。アルバムヴァージョンの半分ほどです。間奏をカットしたため、一気にエンディングに着いてしまい、あっけなく感じられますが、まぁこちらの方がすっきりはしていますよね。聴きやすいといえばそれまでですが・・・。でも、アルバムヴァージョンの間奏の魅力も捨てがたいので、DJエディットだけを聴いていたらもったいないです。間奏ではバンド・サウンドが堪能できるのですから。個人的には、いったん曲が終わる部分以降をカットするという編集の仕方もあったのでは・・・と思っています。

 シングル発売されたことで、この曲もプロモーション・ヴィデオが制作されました。ポールの場合、ほとんどのシングル曲にプロモが制作されています。面白いのは、この曲のレコーディングに参加したジミーとジョーが途中で脱退しているため、プロモには参加していないということです。ここでは代わりに、ドラマーにスティーブ・ホリーを迎えています。スティーブがこの前後にウイングスに加入し、後期ウイングスで活躍したのはご存知の通りですが、スティーブの初仕事となったのが、この曲のプロモでした。そのため、実際の演奏はジョーなのに、プロモではスティーブがドラムをたたくという状態が見られます。肝心の内容ですが、スタジオで演奏するウイングスの周りで、たくさんの人たち(エキストラ)が楽しそうに踊る、という極めてシンプルなもの。楽器編成は、デニーがキーボードを弾いている以外は通常通り。ポール・リンダ・デニーの3人+スティーブという構成です。冒頭にポールの笑顔から始まるのが印象的(このページ一番上の左側の写真)。演奏はさすがに6分も続くのはまずいので(苦笑)、DJエディットが採用されています。後半にはポール・リンダ・デニー3人が1つのマイクでコーラスを歌う様子も見られます。ポールは終始楽しそうに歌っています。演奏の様子以外はたいしたことのない(苦笑)プロモですが、微笑ましい光景です。下に一部をピックアップしておきます。(私の大好きなデニーの様子も!)演奏終了後、キーボードに近づく子供をデニーが抱え上げているのが印象的です。

  

  

 意外なことに、この曲はコンサートで一度も演奏されていません。全米1位なのに、信じられません!この曲ほど演奏されていないのが不思議なのは『No More Lonely Nights』くらいではないでしょうか。しかもこの曲の場合、非常に残念なことに、ポールも一度この曲をツアーのセットリストに取り入れようとしたことがありました。それは、言わずと知れた1980年の日本公演です。ポールが大麻不法所持で成田空港で逮捕された、あの時のツアーです。その証拠として、日本公演のリハーサルとされる映像(ブートで見ることができる)にこの曲を演奏している様子が収録されています。恐らく、スティーブがプロモ出演の際演奏したことがあるから、ということでセットリストに加えようとしたのでしょうが(もちろんヒット曲ということもありますが)、ポールの不注意により、この曲のライヴでのお披露目はついぞなくなってしまいました。ポールには一度でいいからこの曲を生で演奏してほしいものです。今のビートルズ偏重型ではまず無理でしょうが・・・。一番好きな曲なのに!

 ブートつながりで(笑)、この曲のアウトテイクについても触れましょう。私は、ブートに関しては初心者で、まだ一部しか持っていませんが、入手している音源についてはこの「Jooju Boobu」でも随時触れてゆきたいと思います。この曲のアウトテイクは、先述のリハーサル音源の他に、「ロンドン・タウン」セッションでのアウトテイクがあります。ここでは、ドラムマシーン(打ち込みドラム)をバックに、オリジナルに近い構成での演奏がされています。しかし、シンセの多重録音も少ない上、なんといってもコーラスがないためどことなく地味です。ポールも淡々とした歌い方で、シャウトもほとんど交えていません。私のお気に入りの曲が、こんな風に作られていったんだ!と感心してしまいます。これを洋上でやってしまったウイングスはやはり奇抜ですね(笑)。

 この曲は、もう皆さんご存知ですがポールの曲では私の一番のお気に入りです(って冒頭でも触れてましたね)。何と言っても、この心地よさ・爽快感が大好きです!かわいらしいシンセの音も大好きです!楽観的でやさしい歌詞も大好きです!あのユニークなコーラスも(以下略)。とにかく、好きな点を挙げたらきりがありません(笑)。最初聴いたのは「ロンドン・タウン」ですが、アルバム自体「結構自分好みだなぁ」と思って聴いていて、この曲でビビッと来たものでした。おかげ様で「ロンドン・タウン」は私の愛聴の一枚となりました。ゆっくり、まったりしていていいアルバムです。大好きすぎて、この曲のタイトルをサイト名に、後に自身のHNにしてしまいましたが、後悔なんて全然していません!今でもこの曲には本当癒されています。アナログ盤ではB面の最初でしたが、CDで聴いている私は、『I've Had Enough』のスパッと切れるエンディングが来ると「ついに・・・!」といつも楽しみです。 あと、私的な話ですが、個人的にはこの曲が、「あずまんが大王」というマンガの(よりによって)サブキャラ[脇役]の千尋というキャラクターの雰囲気がしてなりません。って言われても何のことだか皆さん分からないかもしれませんが・・・(汗)。

 カラオケでも歌ったことがありますが、ポールのヴォーカルのコントラストを再現するのは難しいです(特に後半のアドリブ!)。ポールの力量を改めて思い知らされます。デニーを真似てコーラスを歌うだけの方が楽です(笑)。また、カラオケの機種によっては、ご丁寧に間奏まで再現しているものがあって、そんな場合は必然的に間奏部分はトイレ休憩タイムとなります(苦笑)。ポールを知らない人たちの前で歌ったら、場をしらけさせること間違いなしですね(笑)。一部機種では、間奏だけを上手にカットしたものもあります。

 これほどまでに私がお気に入りのこの曲ですが、皆さんにも当然のごとくお勧めします!ポールらしいポップセンス、コーラスワーク、ポジティブさを堪能できるはずです。この曲を嫌いという人は、そうはいないはずです。ぜひ、リラックスしたい時、落ち込んだ時に聴いてみてください。本当に癒されます。もちろん、究極の癒しの一枚「ロンドン・タウン」で聴くのがベストです!ベスト盤にも収録されていますが、現在入手できる「オール・ザ・ベスト」「ウイングスパン」にはDJエディットが収録されています(「ウイングス・グレイテスト・ヒッツ」にはアルバムヴァージョンが収録されていました)。また、CD版「オール・ザ・ベスト」では、英国・日本盤には未収録ですので要注意!(アナログ盤には収録されていました)なんで、日英盤にはこの曲を入れずに「カエルの歌」(=『We All Stand Together』)なんて入れたんだ・・・!

 最後に、この曲がポールのライヴで一度演奏されることを願いましょう!

 さて、次回の曲ですが、ヒントは・・・「5位」。何が出てくるかはお楽しみに!!

 (2007.9.09 加筆修正)

         

当時のシングル盤(左が英国、右が日本)。個人的には日本版ジャケットの方が好き。これがスーパーヒットだ!(笑)

アルバム「ロンドン・タウン」。とてもお勧めできる一枚です。癒しの名盤!/ベスト盤「オール・ザ・ベスト」米国版。DJエディットを収録。(日英盤には未収録!)

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