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2007年にアルバム「追憶の彼方に」をリリースしたポール。その勢いで、新曲を引っさげてライヴ活動を再開します。コンサート・ツアーは組まれませんでしたが、2007年から2009年にかけてポールは、世界各地で一夜限りの単発コンサートを開催し、相変わらずの健在ぶりを示しました。リヴァプール、ウクライナ、カナダ、イスラエル・・・ポールは世界中を駆けめぐりました。そして2009年夏。ついに、ポールのコンサート・ツアーが始まりました。カナダのハリファックスに始まり、7月〜8月の間全米各地を回った全11公演の全米ツアー「サマー・ライヴ09」です。2002年のワールド・ツアー以来のツアーバンド[ラスティ・アンダーソン(ギター)、ブライアン・レイ(ギター)、ポール・“ウィックス”・ウィッケンズ(キーボード)、エイブ・ロボリエル・ジュニア(ドラムス)]を従え、ポール(ベース)は米国のファンを感動させるコンサートを繰り広げることとなります。
そんなツアーで最も注目を浴びた公演が、7月17日・18日・21日の3日間、ニューヨークのシティ・フィールドで開催されたコンサートでした。なぜなら、シティ・フィールドはポールにとって思い出深い場所だからです。シティ・フィールドはニューヨーク・メッツの本拠地として知られる野球スタジアムですが、その前身は2008年に建て替えのため取り壊されたシェア・スタジアムでした。そして、そのシェア・スタジアムこそ、ポールがビートルズ時代の1965年に大規模なコンサートを開いた場所だったのです。そのコンサートと言えば、当時の観客動員数の世界記録を保持した上に、初の野球場でのコンサートの開催という、ロック史に名を残した、伝説のライヴ。そのシェア・スタジアムでの最後のライヴは2008年のビリー・ジョエルのコンサートでしたが、この時はポールが飛び入り参加するという出来事もありました。そんな思い入れの強い地に新たに建てられたシティ・フィールドでの最初のライヴに、ポールが抜擢されたのです。シティ・フィールドの初演を飾るという名誉ある役割をポールが担うこととなったのです。ポールにとっては感無量の出来事だったに違いありません。その話題性もあって、3日間のコンサートで総観客動員10万人以上を記録。ポールはこの地で、新たな伝説を生んだのでした。
その記念すべき3日間のライヴの模様を、各公演のベスト・パフォーマンスからセレクトしたのが、このCD・DVDです。CD・DVD共にコンサートで演奏された33曲をセットリストの曲順どおりに全曲網羅しています。CDは2枚に分けて収録。MCなどはカットされていますが、違和感のない編集が施されています。一方、DVDは1枚に全曲を収録。こちらは、曲間のMCも完全収録しています。また、ポールたちの演奏のみならず、観客の盛り上がりの様子なども映されており、ライヴの様子が全体的に視覚的に体感できるようになっています。
このコンサートで演奏された曲目を見てみると、なかなか興味深いです。なぜなら、ポールの「ビートルズ、ウイングス、ソロ」というオール・キャリアから選曲されているからです。セットリストに入れられた全35曲(33トラックだが、2トラックは2曲のメドレー)中、最も多いのがビートルズナンバー(21曲)。ポールのビートルズへの思い入れの強さを感じさせます。うち1曲はジョージ・ハリスンの『サムシング』で、ジョージを追悼するためにポールがカヴァーしました。また、『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』『アイヴ・ガッタ・フィーリング』『デイ・トリッパー』もジョン・レノンとポールの共作です。ポールが取り上げるビートルズナンバーのほとんどは既にソロ・ライヴでの定番曲となっているものですが、中には今回がライヴ・ヴァージョン初CD化となる『アイヴ・ガッタ・フィーリング』『ヘルター・スケルター』や、「サマー・ライヴ09」でビートルズ以来ライヴ演奏した『デイ・トリッパー』、2001年に一度だけ披露したものの、ひさしぶりにセットリスト入りした『アイム・ダウン』などこれまでのライヴ盤では聴けない新鮮な曲目も多いです。『アイム・ダウン』は、先述のビートルズのシェア・スタジアム公演でも取り上げられていた曲で、DVDではその時の演奏シーンと絶妙にシンクロさせた映像編集がなされています。また、『アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア』では、ビリー・ジョエルが特別にゲスト参加し、共演を果たしました。これは、先述のビリーのライヴへのポールの飛び入り参加へのお返しという意味合いがあってのことでしょう(その時にも『アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア』を共演)。
一方、ビートルズ以外の曲を見てみると、ウイングス時代の曲が6曲。この中では、2008年がライヴ初披露の『ミセス・ヴァンデビルト』が目新しい所。'80年代以降のソロ・ナンバーは5曲で、新作「追憶の彼方に」からは2曲が演奏されています。また、「ザ・ファイアーマン」名義の新作「エレクトリック・アーギュメンツ」(2008年)からも2曲を披露。ポールの自信をうかがわせます。そして、『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』とのメドレーで演奏された『平和を我等に』は、盟友ジョン・レノンへのトリビュートを込めてカヴァーしたもの。このようにオール・キャリアから選曲された背景には、ポールのビートルズやウイングス、ソロ活動への強い思いが反映されています。例えば、『ヒア・トゥデイ』『ア・デイ・イン・ザ・ライフ〜平和を我等に』はジョンへの追悼ですし、『サムシング』ではジョージのことを思いつつ自らウクレレを披露します。そして『マイ・ラヴ』は亡き妻リンダに捧げています。60歳を過ぎたポールですが、先に逝ってしまった友達への思いを、ポールは演奏やMCで熱く語ってくれます。
こうした楽曲を、パワフルで若々しいツアーバンドに支えられて、ポールは元気よく演奏し、歌ってくれます。その勢いは、ますます衰えることはありません。CDで聴くことのできる、DVDで見ることのできるその姿は、まさに新たな「伝説」です。ただ過去の懐古趣味に浸るのではなく、新たな解釈で生き生きとしたパフォーマンスによみがえらせているのが、このコンサートの魅力です。フルバンドでの迫力たっぷりの熱演から、ピアノやアコースティック・ギターの静かな雰囲気を楽しめるコーナーまで、充実ぶりは相変わらずです。また、ジャム・セッション風の演奏を聞かせるパートも随所に設け、楽しませてくれます。ポールは過去を振り返りつつも、今も現在進行形で前を見つめて突っ走っているのです。
このライヴ盤は、ポールの近年のコンサートの中では、最高のパフォーマンスとセットリストを兼ね揃えています。ビートルズナンバーが相変わらず多いのは、ウイングスやソロ時代のファンにとっては寂しい所でもありますが・・・それでもライヴ初披露やライヴ・ヴァージョン初CD化の曲も多く、以前のライヴ盤では味わえない魅力がいっぱいです。また、新作の曲を披露していて、現在進行形な面も強調しています。演奏面も数年間共にしてきたバンドだけあって息の合い方も迫力も満点です。そしてやはり、ポールにとっては思い出深いシティ・フィールドの記念すべき初演という点で、このライヴ盤は大変重要な意味を持っています。特にDVDではMCや観客の盛り上がり方も余すことなく収録しており、見逃すことのできない重要な記録となっています。ビリー・ジョエルのゲスト参加も、大きな見所です。これだけの魅力たっぷりのコンサートを音・映像双方で楽しめる。ビートルズ・ファンの方はもちろん、ウイングスやソロ時代が好きな方にも十分お勧めできる、ポール・ファンにとってはマスト・アイテムと言える作品です!
なお、初回限定盤は、CD2枚とDVD1枚に加え、ボーナスDVDを1枚追加したデラックス・エディションです。こちらには、2009年7月15日にTV番組「レイト・ショー・ウィズ・デヴィッド・レターマン」にポールが出演した際にエド・サリヴァン・シアターの特設ステージで開催した野外コンサートの模様を収録しています。ここではツアーでは演奏されなかった『カミング・アップ』含む7曲を演奏しました。また、ボーナス映像として、「グッド・イヴニング・ピープル」と題された観客を映したドキュメンタリー・フィルムと、ビートルズの映像がシンクロしない『アイム・ダウン』のフル・パフォーマンスを収録しています。デラックス・エディションは今後入手困難になりますが、そちらの方がお勧めです。
CD-1
1.ドライヴ・マイ・カー・・・コンサートのオープニングを飾るのは、1965年のビートルズのアルバム「ラバー・ソウル」のオープニング・ナンバー。1993年のワールド・ツアーでもオープニングを飾り、以降ポールはしばしば演奏している。1993年の再演に比べてよりタイトなバンドサウンドに。
2.ジェット・・・続いてはウイングスの名盤「バンド・オン・ザ・ラン」(1973年)からのヒット曲。ポールのライヴでは定番で、今回のツアーのように2曲目に演奏されることが多い。リンダが弾いていた間奏のムーグ・シンセはウィックスが再現。ポールのヴォーカルはオリジナル以来の熱唱を聞かせます。
3.オンリー・ママ・ノウズ・・・この時点で最新のポールのスタジオ・アルバム「追憶の彼方に」(2007年)収録のハードロック・ナンバー。2007年以降欠かさずライヴで取り上げられている、ライヴ向きの1曲。イントロ・エンディングのストリングスも再現されているが、スタジオ・ヴァージョンよりは短い。
4.フレイミング・パイ・・・1997年の同名のソロ・アルバム「フレイミング・パイ」より。2004年のヨーロッパ・ツアーよりポールが好んで演奏している曲で、ソロナンバーでは近年の定番曲とも言える。間奏の軽快なピアノはウィックスの演奏。オリジナルはフェードアウトするエンディングもここではしっかり締めくくっている。ライヴ・ヴァージョンは今回が初CD化。
5.ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ・・・ビートルズの1966年のアルバム「リボルバー」収録曲。ウイングス以降ポールがたびたび取り上げている。ビートルズナンバーとだけあって観客の盛り上がりも大きくなります。スクリーンには、ビートルズのTVゲーム「ロックバンド」の映像が登場。
6.レット・ミー・ロール・イット・・・アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」収録のブルース・ナンバー。ポールがソロになって盛んに取り上げる定番曲。ポールはこの曲ではリード・ギターを演奏、ラスティと共に印象的なリフを弾いている。エイブの荒々しいドラミングも印象的。曲が終わると、続けてジミ・ヘンドリックスの『フォクシー・レディ』という曲がジャム・セッションのように演奏されるが、このメドレー的な流れが初登場したのは2003年のツアーでのこと。ポールはMCでもジミについて触れている。
7.ハイウェイ・・・2008年に「ザ・ファイアーマン」名義で発表したアルバム「エレクトリック・アーギュメンツ」より。2009年のコンサートから取り上げている。オリジナルのロック色の濃い演奏をそのまま再現しつつ、実験的な箇所はライヴで演奏しやすいようアレンジしている。ドラムソロの部分も短くなっているものの登場。イントロのハーモニカはウィックスが吹いている。
8.ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード・・・ここからはピアノ・コーナー。ポールはピアノに移動する。まずは、1970年のビートルズのラスト・アルバム「レット・イット・ビー」より。ポールのライヴでは定番。ここでは短いアドリブ風のイントロに始まり、オリジナルよりジャジーな演奏となっている。ポールがオリジナルの重厚なアレンジを嫌った話は有名だが、ここでもストリングスがキーボードで再現されている。
9.マイ・ラヴ・・・初期ウイングスのアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」(1973年)より、大ヒットシングルナンバー。愛妻リンダに捧げた曲で、MCでもその旨を述べている。名演のリード・ギターはラスティがほぼそのままコピーして再現。一時期セットリストから外れたが、2008年のコンサート以来再び取り上げるようになった。
10.ブラックバード・・・次はアコースティック・コーナー。ポールはアコギに持ち替える。ジョージ・ハリスンとの思い出話をした後に演奏するのが、1968年のビートルズのアルバム「ホワイト・アルバム」収録のこの曲。ウイングス時代以来の定番曲で、観客の反応も大きい。構成は若干ビートルズ・ヴァージョンと異なる。
11.ヒア・トゥデイ・・・前曲に続いてポールの完全弾き語り。1982年のソロ・アルバム「タッグ・オブ・ウォー」収録曲で、ジョン・レノンへの追悼歌。2002年のワールド・ツアー以来、ポールはジョンを追悼するためにこの曲を演奏している。ライヴではオリジナルにあったストリングスは再現されていない。
12.ダンス・トゥナイト・・・しんみりした後「明るくしよう」の一言で始まるのは、アルバム「追憶の彼方に」からのファースト・シングル。再びバンドでの演奏となり、ポールはマンドリンを演奏している。オリジナルよりダンサブルなリズムになっているのが印象的。オリジナル同様、ポールは口笛も披露している。
13.カリコ・スカイズ・・・アルバム「フレイミング・パイ」収録曲。2002年のワールド・ツアー中、日本公演で突如初演して以来しばしばポールがライヴで取り上げる曲となっている。ライヴでは、アコギ弾き語りではなくアイルランド音楽を強く意識したバンドサウンドとなっている。ウィックスはアコーディオンを披露。
14.ミセス・ヴァンデビルト・・・アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」収録曲。ウイングス時代含め長い間ライヴ演奏されていなかったが、2008年にウクライナでのフリー・コンサートで初めて取り上げ、以降セットリストに入れられている。オリジナルそのままのアレンジで、ポールが生み出した独特のドラムパターンもエイブが再現。観客は「ホ、ヘイホ!」のコーラスを共に歌い盛り上がる。ライヴ・ヴァージョンは今回が初CD化。
15.エリナー・リグビー・・・ビートルズ時代のアルバム「リボルバー」より。ポールのライヴではおなじみ。ウィックスがキーボードでストリングスを再現し、ポールはアコギを弾き語る。コーラスは他のバンドメンバーが担当。
16.シング・ザ・チェンジズ・・・ここからは再びヘフナー・ベースに持ち替え、バンドサウンドを繰り広げる。まずは、ザ・ファイアーマン名義のアルバム「エレクトリック・アーギュメンツ」より。これも2009年からライヴに取り上げている。セットリスト入りしたのは、アルバムの中でもライヴ映えしているからか。もやもやっとしたエコーも再現されている。
17.バンド・オン・ザ・ラン・・・ウイングスの同名アルバムのタイトル・ソング。ポールのライヴでは欠かさず取り上げ続けている曲で、オリジナルよりしっかりした演奏を聞かせる。スクリーンにはアルバム・ジャケット撮影時のウイングスの様子が映される。
CD-2
1.バック・イン・ザ・USSR・・・アルバム「ホワイト・アルバム」のオープニング・ナンバー。最近のポールのライヴではおなじみの曲で、ライヴでも最も盛り上がる曲の1つ。スクリーンには旧ソ連の映像が流されるのが印象的。ここでは、オリジナルよりややテンポが遅くなっている。
2.アイム・ダウン・・・ビートルズ時代のシングル「ヘルプ!」のB面曲。ビートルズ時代にコンサートのラストを飾っていた曲で、シェア・スタジアム公演でも取り上げていた。ポールがビートルズ解散後この曲を演奏するのは「コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ」以来で今回のツアーが2度目。シティ・フィールドで再演したのは、シェア・スタジアムの思い出あってのことであろう。激しいシャウトを聞かせる曲だが、ポールもオリジナルに負けじと何とか頑張って熱唱している。ジョン・レノンがひじでオルガンを演奏していたのを、ウィックスが再現している。本DVDでは、ビートルズ時代のライヴ映像とシンクロさせていて、20代のポールと60代のポールが夢の共演を果たしている。映像のシンクロがないフル・パフォーマンスは初回限定盤のボーナスDVDに収録。
3.サムシング・・・ビートルズのアルバム「アビー・ロード」(1969年)に収録されたジョージ・ハリスンの代表曲。ポールは、ジョージを追悼するため2002年のツアーよりこの曲をライヴでカヴァーしている。当初はポールのウクレレ弾き語りアレンジだったが、今回のツアー含む最近は前半がウクレレ弾き語りで後半がフルバンド・スタイルという感動的な構成になっている。スクリーンにはジョージの写真が映り、ポールもジョージへの思いを熱く語る。
4.アイヴ・ガッタ・フィーリング・・・アルバム「レット・イット・ビー」より、ジョン・レノンとの共作曲。2004年のツアーで初演されて以来、しばしばポールが取り上げている。これまたシャウトがきつい曲だが何とかこなしている。オリジナルでジョンが歌うパートはポール以外のバンドメンバー全員で歌っている。演奏終了後は、ジャム・セッション風のパートが続き、ポールがアドリブでこの曲を歌う。ライヴ・ヴァージョンは今回が初CD化。
5.ペイパーバック・ライター・・・ビートルズ時代の1966年のヒット・シングル。1993年のワールド・ツアーでビートルズ以来のライヴ演奏を果たしたが、その次に取り上げたのは2009年のコンサートであった。この曲でも、途中でジャム・セッション風のパートが登場し、ポールがアドリブで歌う。
6.ア・デイ・イン・ザ・ライフ〜平和を我等に・・・ジョン・レノンが書いた2曲によるグランド・メドレー。ジョンへの追悼の念を込めてポールが2008年のコンサートから取り上げている。『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』はアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(1967年)に収録されたジョンとポールの共作で、ジョンがヴォーカルを取った箇所もポールが歌う。ライヴで演奏されるのは2008年が初めて。オリジナルを忠実に再現したアレンジである。同曲のポールが書いたパートを挟んで登場する『平和を我等に』は、ジョンのソロ・デビューシングル(1969年)。ポールは1990年のワールド・ツアーで「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」「ヘルプ!」とのメドレーで披露していたが、それ以来のカヴァーである。その時と同じく、タイトルコールを繰り返すのみ。途中で観客に歌うよう促し、大合唱が起きる。ポールのジョンへの想いが詰まった感動的なメドレー。
7.レット・イット・ビー・・・同名アルバムに収録された、ポールのビートルズ時代の代表曲。ここからはポールはピアノを演奏。ウイングスやソロのコンサートでの定番曲である。
8.007/死ぬのは奴らだ・・・同名の007映画の主題歌で、1973年にウイングスが発表したヒット・シングル。ライヴでは定番中の定番。毎回衝撃的な演出が見ものだが、今回のツアーでもマグネシウム花火を大胆に使用した豪華なステージである。
9.ヘイ・ジュード・・・続けてポールのピアノ演奏により、ビートルズの最大ヒット・シングル(1968年)が登場。ソロ・ライヴではコンサートを締めるにはうってつけの曲で、ポールは好んで演奏している。感動的な後半のリフレインは、観客にコーラスを促す。「男の人!」「女の人!」と指示があると、大合唱が起きる。
10.デイ・トリッパー・・・ここからはアンコール。まずは、1965年のビートルズのヒット・シングルでジョンとポールの共作。実は、この曲をポールが取り上げるのは今回のツアーがビートルズ時代以来初めて。サプライズな選曲に観声が上がる。オリジナルに忠実なバンドサウンドで、ポールの若々しいヴォーカルが印象的。
11.レディ・マドンナ・・・ポールがピアノに移動して演奏するのは、1968年のビートルズのヒット・シングル。ウイングス以降ポールが好んで取り上げている曲である。最近ではアンコールで演奏されることが多くなっている。ここでのポールのヴォーカルはやや崩し歌い気味である。
12.アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア・・・ビートルズのデビュー・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」(1963年)のファースト・ナンバー。ポールのライヴでの定番で、観客が盛り上がることのできる1曲。このコンサートでは、ビリー・ジョエルが特別にゲスト参加し、ピアノと一部ヴォーカルを担当している。実は、シェア・スタジアム最後のライヴとなったビリーのコンサートにポールが飛び入り出演し、この曲を歌ったという経緯がある。
13.イエスタデイ・・・ここからはセカンド・アンコール。ビートルズ時代のアルバム「4人はアイドル」(1965年)より、ポールの代表曲が演奏される。ライヴではビートルズ、ウイングス、ソロとほぼ欠かさず取り上げられている。ポールはアコギを弾き語り、ウィックスがストリングスをキーボードで再現。
14.ヘルター・スケルター・・・アルバム「ホワイト・アルバム」収録曲。2004年のツアーで初演して以来、セットリストに入れられている。オリジナルはビートルズ随一のヘヴィーさを持つロックナンバーでポールのシャウトが聴き所だが、ここでは構成を変えつつも何とかシャウト・ヴォーカルを再現している。エンディングはオリジナルに比べてかなりあっさりしている。ライヴ・ヴァージョンは今回が初CD化。
15.ゲット・バック・・・1969年発売のビートルズのシングルナンバーで、アルバム「レット・イット・ビー」にも収録されている。ポールのソロ・ライヴではしばしばアンコールで取り上げられる定番曲で、ここでもオリジナル以上の熱気あふれるバンドサウンドを聞かせる。
16.サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド〜ジ・エンド・・・ライヴを締めくくるのは、2002年のツアー以降おなじみの2曲メドレー。『サージェント・ペパー』は同名アルバム収録のリプライズで、コンサートの最後にはぴったりの歌詞である。ポールがオリジナルでうっすら聞こえるアドリブを再現している。続く『ジ・エンド』はアルバム「アビー・ロード」の有名なメドレーの最終楽曲。エイブのドラムソロの間にポールはギターに持ち替え、ラスティとブライアンの3人でギター・バトルを繰り広げる。そして、最後は感動的なフィナーレで幕を閉じる。