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ウイングス唯一の公式ライヴ盤。絶頂期ウイングスのメンバーであったポール(ベース)、リンダ(キーボード)、デニー・レイン(ギター)、ジミー・マッカロク(ギター)、ジョー・イングリッシュ(ドラムス)の5人が、1975年9月〜1976年10月までの約1年間の間に断続的に行ったワールド・ツアー(12ヶ国、64回)のうち、1976年5〜6月の間行われた全米ツアーの模様を収録したものです(演奏は各地で録音したものを編集で自然につなげている)。アナログ盤は3枚組で発売され、3枚組としては異例の英国8位、米国1位を記録。CD化の際に2枚組に編集し直されましたが、曲目はアナログ盤と同じです。
全米ツアーは1974年にジョージ・ハリスンが失敗に終わっている前例もあり、ポールがもっとも神経を使ったツアーでした。しかしながら、新しいサウンドシステムの導入や最先端の技術を使ったコンサートの演出を駆使し、ロック史上に名を残すライヴとなりました。またウイングスのセッションに参加したブラス奏者4人も同行させ、演奏を彩りました。30公演で延べ60万人の観客を動員し、結果的には大成功に終わったのでした。この全米ツアーの模様は後に「ロック・ショウ」という映画にもなりました。
演奏された曲は28曲。基本的にはワールドツアーが開始された1975年の曲目と同じで、当時の最新アルバム「ヴィーナス・アンド・マース」から8曲も選ばれていますが、全米ツアーを含め1976年は数曲(『リトル・ウーマン・ラヴ/C・ムーン』『ジュニアズ・ファーム』)をリストから外すかわりに最新アルバム「スピード・オブ・サウンド」からの新曲を加えています。ビートルズ時代のポールの曲も選曲されていますが、5曲のみとなっています。というのは、当時のポールは自分を「ビートルズのポール」と見る世間にうんざりしていて、「メンバー全員が主役」のウイングスを見てほしいと躍起になっていたからです。それは、「スピード・オブ・サウンド」収録曲の大半がポール以外のメンバーの歌う曲であることからも明らかです。このツアーでも、デニーの歌う曲が5曲、ジミーの歌う曲が1曲含まれています。公式発表されていない曲は3曲。うち『ソイリー』はスタジオヴァージョンが公式発表されていないウイングスナンバーで、貴重な音源となります。
さて内容ですが、ポールが今まで作ってきた様々なスタイルのナンバーを聴くことができます。ヴォーカルもシャウト系からバラード系まで様々です。またポールのベース、ピアノ、ギター弾き語りなども聴き所。他のメンバーの演奏も見事で、さすが絶頂期ウイングスのラインアップ。特にジミーとジョーのロック系の演奏はかっこいいです。もちろんオリジナル・アルバムを先に聴いてからの方がいいですが、当時のウイングス人気をこのアルバムで堪能することができますよ。最後に、日本盤についている歌詞はあまり信用しないように。
DISC ONE
1.メドレー:ヴィーナス・アンド・マース〜ロック・ショー〜ジェット・・・3曲にわたる豪華なメドレー。『ヴィーナス・アンド・マース』と『ロック・ショー』は元からウイングスのアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」のオープニングを飾るメドレーで、アルバムでは未来のコンサートをイメージして作られているが、このツアーで実際にオープニングを飾った。絶頂期ウイングスのライヴとくればすぐ思い浮かぶ力強い演奏である。続く『ジェット』も力強い曲で、ウイングスのアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」に収録されたロックの傑作で、ライヴでは2番目に演奏されることが多い。本当に、これだけでお腹いっぱいになってしまうメドレーだ。
2.レット・ミー・ロール・イット・・・「バンド・オン・ザ・ラン」収録の激しいブルース。やはり2本のギターによるリフが聴き所だ。オリジナルではどちらもポールによる演奏だったがここではデニーとジミー。オリジナルよりブルージーな演奏になっている。
3.遥か昔のエジプト精神・・・「ヴィーナス・アンド・マース」収録曲。オリジナルと同様、デニーがヴォーカルを担当している。オリジナルより長い演奏が聴ける。ポールのベースが聴き所。
4.メディシン・ジャー・・・同じく「ヴィーナス・アンド・マース」収録。ジミーの曲でここでもヴォーカルはジミー。イントロで曲にのせて観客が手拍子をしている様子が聴こえる。
5.メイビー・アイム・アメイズド・・・ポール初のソロ・アルバム「マッカートニー」の代表曲。ファンに一番人気のある曲で、すべてのライヴで演奏されている。ここから5曲でピアノを弾くポールはオリジナルに負けない力強い歌を聴かせる。ベースはデニー。このライヴ音源は後にシングルカットされ米国で10位を記録。このときの邦題は「ハートのささやき」だった。
6.コール・ミー・バック・アゲイン・・・「ヴィーナス・アンド・マース」収録曲で、ここでもシャウトするポールのヴォーカルが聴ける。ただ、前曲に続くシャウトとあって、ポールはあまりシャウトしていない。歌うのがつらいからだろうか。ブラス・セクションを連れてきた甲斐あり、インパクトの強い演奏となっている。
7.レディ・マドンナ・・・ビートルズ後期の1968年にシングルカットされたポールの曲。さすがビートルズナンバーとあって歓声も大きい(ポールは苦笑いだったでしょうけど・・・)。オリジナルと同じくブラス・セクションがフィーチャーされた演奏。
8.ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード・・・ビートルズ最後のアルバム「レット・イット・ビー」収録のポールの有名なバラード。オリジナルではプロデューサーによる分厚いアレンジに対しポールが激怒したのは有名な話。ここではブラス・セクションをフィーチャーしたのみの比較的シンプルなアレンジ。この曲をポールは'80年代に何度かリメイクしているが、オリジナルより分厚いアレンジをしているものもあって、「あれ?」とか思っちゃいます。
9.007死ぬのは奴らだ・・・ウイングス初期の大ヒットシングル。さすが全米2位で007シリーズの主題歌とあって歓声も大きい。スクリーンに映画のハイライトシーンが映され、曲に合わせてマグネシウム花火がたかれるという心憎い演出。衝撃的な音作りが見事再現されている。
10.ピカソの遺言・・・ポールのピアノ・コーナーが終わり、ポール、デニー、ジミーの3人はアコースティックギターを演奏。ベースは入っていない。この曲は「バンド・オン・ザ・ラン」収録曲。オリジナルと同じくポールがフランス語のアドリブを入れている。オリジナルではテンポが変わる部分以降はカットされ、次の『リチャード・コーリー』に続く。
11.リチャード・コーリー・・・前曲に続くこの曲はポール・サイモンの曲。ヴォーカルはデニーで歌詞の一部を変えて「ジョン・デンバーになりたい」と歌い観客の笑いを誘っている。ウイングスはこの曲を公式発表していない。いわばアメリカのファンに対するサービス曲。
12.ブルーバード・・・「バンド・オン・ザ・ラン」収録のアコースティックバラード。オリジナルに入っているパーカッションが再現されている(聴こえにくいですが)。オリジナルより少しキーが高くなっている。ポールとデニーは12弦ギター、ジミーは6弦ギターを演奏。
13.夢の人・・・ビートルズのアルバム「4人はアイドル」収録のポールの曲。オリジナルと同じくカントリーのアレンジだが、オリジナルが影を持ったものに対しこちらはいたって陽気。構成が微妙に違っている。
14.ブラックバード・・・ビートルズ後期のアルバム「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」収録のポールの曲。ポール以外のメンバーはいったんステージから姿を消しポールの6弦ギターによる弾き語り。オリジナルもポール1人で録音したことがあるので、この曲はポールお気に入りだろう。ビートルズナンバーのせいか、この曲でも歓声が大きい。
15.イエスタデイ・・・言わずと知れたポールの名バラード。オリジナルは「4人はアイドル」収録。オリジナルでは弾き語りにストリングスアレンジだがここでは弾き語りにブラスアレンジとなっている。
DISC TWO
1.幸せのアンサー・・・再びメンバー全員が揃っての演奏。まずは「ヴィーナス・アンド・マース」収録のボードビル風ナンバー。オリジナルにあった間奏のアドリブがないのが少し寂しい。
2.磁石屋とチタン男・・・続いても「ヴィーナス・アンド・マース」収録。オリジナルよりテンポが速い演奏だ。
3.ゴー・ナウ・・・オリジナルはベッシー・バンクスだが、デニー・レインの所属していたバンド、ムーディー・ブルースのヴァージョン(1964年)は全英1位を獲得した。ポールがそのヴァージョンを気に入ったためウイングスのライヴで長く演奏された。デニーがピアノを弾きながら歌っている。
4.マイ・ラヴ・・・アルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」収録の初期のウイングスの名曲。この曲から再びポールがピアノを担当。オリジナルにフィーチャーされていたストリングスがないのでシンプルな印象もある。
5.あの娘におせっかい・・・「ヴィーナス・アンド・マース」からのシングルで全米1位を記録した曲。オリジナルとは違い、ポールのピアノ・ソロから始まるというアレンジ。それにしても全米1位の曲というのに歓声がそれほど聴こえないのはなぜ?
6.幸せのノック・・・全米ツアー当時のニューアルバム「スピード・オブ・サウンド」収録。全米ツアー直後にシングルカットされ全米2位と驚異的な記録となった。なんてことない曲なのに・・・。この年迎えた米国建国200周年を祝って作られた曲で、最後にデニーが"Happy birthday,America!!"と叫んでいる。デニーは太鼓も演奏し曲を盛り上げた。イントロのベルの音も再現されている。
7.やすらぎの時・・・「スピード・オブ・サウンド」収録のデニーの曲でヴォーカルもオリジナルと同じくデニー。ポールは他人の曲でベースの名プレイを聴かせることが多いがこの曲もそのうちのひとつ。デニーはハーモニカでも大活躍。
8.心のラヴ・ソング・・・「スピード・オブ・サウンド」収録曲で、シングルでは全米1位を獲得、全米ツアー直前のウイングス人気を盛り上げた。ブラス・セクションが華やか。オリジナルと同じく、ポール、リンダ、デニーの3人によるコーラスが再現されている。
9.愛の証し・・・「スピード・オブ・サウンド」収録のハードロックのナンバー。オリジナルにあるゆったりとした長いイントロをカットしたため、いきなりガツンとくる演奏に息をのむ。オリジナルも迫真の演奏・ヴォーカルだがこちらもすばらしいの一言。
10.ワイン・カラーの少女・・・「ヴィーナス・アンド・マース」収録。前曲と同じくハードなナンバーでとってもクール。アウトロにはオリジナルにはないバッキング・ヴォーカルがついている。この曲もブラス・セクションがあるからこそ生き生きしている。
11.バンド・オン・ザ・ラン・・・同名アルバム収録のウイングスの代表曲。ライヴでもおなじみのナンバーだ。3つの部分ごとの雰囲気にあった演奏がされている。この曲でいったんメンバーはステージを去る。
12.ハイ・ハイ・ハイ・・・この曲からはアンコール。ウイングス初期のシングル曲で放送禁止になったことでも有名。オリジナルより少しテンポが速く刺激的。問題になった歌詞は、このヴァージョンでもポールが主張する"polygon"に聴こえず指摘されたとおり"body gun"に聴こえる。
13.ソイリー・・・コンサートのクロージングナンバーは、ポールのワイルドなヴォーカルの聴けるロックンロール。初期ウイングスからのライヴの定番曲で、1974年ナッシュビルで行われたセッション「ワン・ハンド・クラッピング」でスタジオ録音されたウイングスの曲だが、スタジオ録音は今も未発表のまま。公式にはここでしか聴くことができない。