Wings/ウイングス
Wings Greatest/ウイングス・グレイテスト・ヒッツ
ザ・ポール・マッカートニー・コレクション (9)
 1.Another Day  アナザー・デイ  3'42"
 2.Silly Love Songs  心のラヴ・ソング  5'52"
 3.Live And Let Die  007/死ぬのは奴らだ  3'11"
 4.Junior's Farm  ジュニアズ・ファーム  4'21"
 5.With A Little Luck  しあわせの予感  5'44"
 6.Band On The Run  バンド・オン・ザ・ラン  5'09"
 7.Uncle Albert/Admiral Halsey  アンクル・アルバート〜ハルセイ提督  4'48"
 8.Hi,Hi,Hi  ハイ・ハイ・ハイ  3'07"
 9.Let 'Em In  幸せのノック  5'09"
10.My Love  マイ・ラヴ  4'07"
11.Jet  ジェット  4'06"
12.Mull Of Kintyre  夢の旅人  4'42"
発売年月日:1978年12月1日(英国・Parlophone PCTC 256)
チャート最高位:英国5位・米国29位
全体収録時間:54'30"
本ページでの解説盤:1995年再発売版(日本・東芝EMI TOCP-3132)
最新リマスター盤:2018年再発売版(日本・ユニバーサルミュージック UICY-78803)
『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』

 

 ポールが愛妻リンダと共に結成したバンド、ウイングスが活動期間中に発表した唯一のベスト盤。同時に、ポールにとってはビートルズ解散後のソロ・キャリアで初めてのベスト盤でもあります。1984年の初CD化以降何度か再発売されており、1993年の「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズではベスト盤として唯一ラインアップに加えられ、デジタル・リマスタリングされました(ボーナス・トラックの追加はなし)。また、2018年にも最新のリマスター音源を使用する形で再発売されています(日本盤のみSHM-CD・紙ジャケット仕様)。

 【アルバム制作・発売】

 ビートルズ解散後、ポールがベスト盤を発売する契機はまず1974年に訪れました。ビートルズ時代に自ら設立したアップル・レコードとの契約が切れたためです。実際、同時に契約切れを迎えた元ビートルズのジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターはこの時期ベスト盤を相次いでリリースしています(ジョージとリンゴは他レコード会社に移籍、ジョンは音楽活動を休止)。一方、ウイングスを率いていたポールは英国ではパーロフォン、米国ではキャピトル・レコードと同じEMI系列のレーベル間の移籍にとどまったため制作は見送られました。本格的な検討に至ったのは、ウイングスがアルバム『ロンドン・タウン』を発表した1978年のことです。『ロンドン・タウン』の制作過程でメンバーの脱退により3人編成になっていたウイングスは、新たにローレンス・ジュバーとスティーヴ・ホリーを招き入れ次なるアルバム(後の『バック・トゥ・ジ・エッグ』)のレコーディングに勤しみますが、アルバムの完成は年末のクリスマス商戦には間に合いそうにありませんでした。リハーサル不足のためコンサートも予定されず、音楽活動に空白期間が生じてしまうのは必至でした。折しもポールは、キャピトルが『ロンドン・タウン』の宣伝に消極的だったことに不満を抱いて他社への移籍を考えており、キャピトルでの最後の新譜として初のベスト盤を発売することに決めます。

 当初このアルバムは2枚組になる予定で、『ホット・ヒッツ・アンド・コールド・カッツ(Hot Hitz And Kold Kutz)』のタイトルで1枚目に既発表のヒット曲を、2枚目に未発表の新曲を収録するという構成でした。1974年頃からポールは、『ラム』や『レッド・ローズ・スピードウェイ』といった過去のアルバムのセッションでお蔵入りになってしまった曲たちをまとめた未発表曲集の構想を温めていて、それが実現する絶好の機会だったのです。ポールが揃えた15曲の未発表曲には、後年陽の目を浴びることとなる「ママズ・リトル・ガール」「マイ・カーニヴァル」「セイム・タイム・ネクスト・イヤー」や、リンダやデニー・レインが歌う曲が含まれていました。しかし、2枚組では高価になって売れなくなると判断したキャピトルによってこの計画は拒否され、結局はヒット曲のみに絞った1枚組に見直されます。取り残された未発表曲集は『コールド・カッツ』に改名してその後も断続的に編集が試みられましたが、'80年代後半に完全に頓挫しています。

 

 アートワークはポールとリンダが自らデザインし、『ロンドン・タウン』と同じくヒプノシスのオーブリー・パウエルらが協力しています。アルバム・ジャケットに写る彫像はデメートル・シパリュス作で、リンダが購入したもの。この彫像が青く澄んだ空を背に雪の吹き溜まりにたたずむ所をジャケットにしたいと考えた2人は、オーブリーをアルプス山脈(スイス)に派遣して1週間かけて人工の吹き溜まりを作らせ、彫像を置いた上でそれをヘリコプターから空撮させました(カメラマンはアンガス・フォーブス)。この1枚のために4000ポンドも費やしたのだから驚きです。なお、この彫像はウイングスの次作『バック・トゥ・ジ・エッグ』のジャケットにも登場します。裏ジャケットには収録曲各曲を示す画像(主に初出のアルバム/シングルのジャケット)と共に、クライヴ・アロウスミスが撮影したウイングスのグループ写真が印刷されています。元々は、撮影当時のメンバーであるジミー・マッカロクとジョー・イングリッシュも一緒に写っていましたが、脱退したためトリムされています。インナー・スリーブは黒地で、中央に彫像の写真を配置。また、片面に前述のグループ写真を、もう片面に室内の風景写真を配したポスターが付属していました。

 クリスマス商戦に合わせて、『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』は12月(米国では一足早く11月)に世に送り出されます。ローリング・ストーン誌が「『バンド・オン・ザ・ラン』を例外として、ウイングスのどのアルバムよりも素晴らしい」と絶賛するなどおおむね好評で、チャートでは英国で最高5位を記録しました。米国では29位止まりに終わりましたが、それでもミリオン・セラーになっています。アルバムの宣伝のためTVCMが制作されました。その内容は、街の人たちが職場や風呂で思い思いにウイングス・ナンバーを歌い、最後にトラックの運転手がを口ずさんでいる所にポール、リンダ、デニーの3人が車ですれ違い、ポールが「ちょっと音痴だね!」と声をかけ、運転手が「今朝チェックしたばかりだよ」と返す・・・というものでした。

 【収録内容】

 「グレイテスト・ヒッツ」の名の通り、このベスト盤に収録された12曲はいずれもシングル発売されヒットを記録しています。全曲が英国または米国でベスト・テン入りを果たしていて、うち半数の6曲が英国または米国でNo.1ヒットとなっています。ウイングス名義のベスト盤ですが、グループ結成以前にポールがソロ名義やリンダとのデュオ名義で発表した曲が2曲()含まれています。整頓下手とも受け取れますが、ポールにとってはリンダと一緒に作ったという意味でウイングスの延長線上なのでしょう。12曲のうちアルバム収録曲は7曲(『ラム』1曲、『レッド・ローズ・スピードウェイ』1曲、『バンド・オン・ザ・ラン』2曲、『スピード・オブ・サウンド』2曲、『ロンドン・タウン』1曲)で、シングルカットのないアルバムを除けばほぼ満遍なく選曲されています。残る5曲(12)はシングルのみに収録された曲で、ポール/ウイングスのアルバムに収録されるのはこれが初めてのことでした。

 一方、ウイングスが1978年の時点で2枚組のベスト盤が容易にできてしまうほどのヒット曲を持っていたことを考えると、アナログ盤1枚という制約下においてはシングル曲に限っても収録漏れをいくつも挙げることができます。特に全米1位の「あの娘におせっかい」(1975年)が未収録なのは意外です(アルバム『ヴィーナス・アンド・マース』からも1曲も収録されていない)他にも「メアリーの小羊」「愛しのヘレン」「ヴィーナス・アンド・マース〜ロック・ショー」といったヒット・シングルも割愛されています。また、シングルにならなかったアルバム・ソングは1曲も選ばれていません。

 【管理人の評価】

 ウイングスの名曲をいっぺんに聴け、5曲のアルバム未収録曲を簡単に集められるということで発売当時は大変重宝がられたこのベスト盤。しかし、各オリジナル・アルバムがCD化され1993年の「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズでボーナス・トラックが追加されると、その価値は薄らぎます。さらに、12曲すべてをカヴァーした上で1979年以降の楽曲も収録したベスト盤が相次いで登場したことにより、現在ではあえてこのアルバムを最初に買うメリットはなくなってしまいました。ここでしか入手できない音源もありませんし、曲数も少ないため物足りなさをどうしても感じてしまいます。よって、これからポールのソロ&ウイングスを聴こうと考えている方には『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』など後続のベスト盤をお勧めします。

 とはいえ、コレクター向けの「過去の遺物」と切り捨ててしまうには惜しい魅力があるのも事実です。収録曲すべてがヒット曲なのは疑いの余地がありませんし(つまり「外れ」がない)、後続のベスト盤では収録範囲の広さゆえにソロ時代とウイングス時代のごった煮になっている反面、このアルバムは前述の通りほぼウイングス・ナンバーで占められ統一感があります。ポールがウイングスと共に'70年代をどう歩んできたかをざっと確認するにはもってこいの1枚と言えます(1979年がごっそり抜けますが・・・)また、アートワークにはポール自ら積極的に関与していて、音だけでなくデザイン面でも凝った仕上がりなのも長所です。ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンなど'70年代名盤のジャケットを数多く手がけたデザイナー・チームのヒプノシスが協力しているのですから、そのセンスはお墨付きです。「曲の寄せ集め」という側面以外の付加価値は、ポールのベスト盤では最大です。ウイングスが好きなら、オリジナル・アルバムを全部揃えた後に手を伸ばしておきたい所です。

 

 冒頭で触れた通り、このアルバムは2018年に最新のリマスター音源を使用する形でキャピトルから再発売されました。日本盤は紙ジャケット仕様で、インナー・スリーブやポスターを含めアートワークが忠実に再現されているので、今から買うとしたらそちらの方がお勧めでしょう。

 


 【曲目解説】

 1.アナザー・デイ(1971年/ポール・マッカートニー)

  ポールにとってビートルズ解散後初のソロ・シングル(1971年2月発売)となった曲で、英国で最高2位・米国で最高5位。ポールとリンダのコーラスワークが美しいアコースティックなポップ・ナンバーで、ミドル部分は3拍子のリズムに変わる。ウイングス結成前の曲だが、この後ウイングスの初代ドラマーになるデニー・シーウェルがドラムスで参加している。エレキ・ギターはデヴィッド・スピノザ。

  歌詞はポールお得意の第三者について客観的に歌ったもので、「他人のための歌は書けない」と常々口にしていたジョン・レノン(当時ポールとの仲は最悪だった)は気に入っていなかったようである。『オール・ザ・ベスト』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 2.心のラヴ・ソング(1976年/ウイングス)

  ウイングス5枚目のアルバム『スピード・オブ・サウンド』収録。絶頂期ウイングスを象徴するナンバーで、大成功に終わった全米ツアーに出る直前の1976年4月にシングル発売され英国で最高2位・米国で計5週にわたり1位を記録する大ヒットとなった。当時台頭しつつあったディスコ・サウンドを予見させるベース・プレイや、3つの異なるメロディが同時に歌われる後半のコーラス(ポール、リンダ、デニー・レイン)などが高評価を得た。

  「ポールはバラードばかり書いている」と非難する評論家たちに対し「バカげたラヴ・ソングのどこが悪い?」と反論した歌詞も力強い。意外にも、ライヴで披露されたのはソロ時代も含め1976年のみである。『オール・ザ・ベスト』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 3.007/死ぬのは奴らだ(1973年/ウイングス)

  同名の007映画の主題歌。1973年6月にシングル発売され、英国で最高9位・米国で最高2位。ビートルズ時代のプロデューサー、ジョージ・マーティンが久々にポールとタッグを組み、オーケストラを多用した衝撃的なアレンジに仕上がった。複数のパートから成る組曲形式で、途中レゲエっぽくなるパートはリンダのアイデア。1991年にガンズ・アンド・ローゼズがカヴァーしたヴァージョンも有名。

  現在に至るまでポールのコンサートでは定番曲であり、毎回マグネシウム花火とレーザー・ビームによる派手な演出が施される。『オール・ザ・ベスト』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。1993年の「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズでは、このアルバムでしか聴くことができない。

 

 4.ジュニアズ・ファーム(1974年/ポール・マッカートニー&ウイングス)

  ジミー・マッカロク(ギター)とジェフ・ブリトン(ドラムス)を加えたラインアップでのウイングス最初のシングル(1974年10月発売)で、英国で最高16位・米国で最高3位。しかしジェフはほどなく脱退してしまう。ナッシュビル(米国)でのセッションで録音された軽快なロックで、現地の作曲家が所有する農場について歌っている。ジミーのギター・ソロが光り、エンディングはポール渾身のシャウトで締めくくる。

  『オール・ザ・ベスト』(米国盤のみ)『ザ・グレイテスト』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』(後者はデラックス・エディションのみ)の各ベスト盤にもこのアルバムと同じフル・ヴァージョンが、『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』にはDJエディットが収録されている。1993年の「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズでは、このアルバムでしか聴くことができない。

 

 5.しあわせの予感(1978年/ウイングス)

  アルバム『ロンドン・タウン』収録曲で、このアルバムが発表された時点での最新ヒット。1978年3月にシングル発売され、英国で最高5位・米国で2週連続1位。レコーディングはカリブ海に浮かぶヨットの上で行われた。後期ウイングスを代表するポップ・ナンバーで、波音のようなシンセサイザーやユニークなコーラスが心地よい。ポールらしいポジティブな詞作も魅力の1つ。

  ここに収録されているのは6分ほどのアルバム・ヴァージョンで、ベスト盤では他に英国盤『オール・ザ・ベスト』(アナログ盤のみ)でしか聴くことができない。米国盤『オール・ザ・ベスト』と『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』にはDJエディットが収録されている。私が一番好きなマッカートニー・ナンバーで、このアルバムでのフル収録にご満悦です。

 

 6.バンド・オン・ザ・ラン(1973年/ポール・マッカートニー&ウイングス)

  ウイングス3枚目のアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』収録。1974年6月(米国では4月)にシングルカットされ、英国で最高3位・米国で1位を獲得。アルバムの大ヒットとの相乗効果でウイングスの代表曲となった。曲調が異なる3つのパートを1つにつなぎ合わせている。ナイジェリアで録音され、メンバーの相次ぐ脱退を受けてドラムスを含むほとんどの楽器をポールが演奏している。ムーグ・シンセはリンダ。

  公式発表後、ポールはウイングスとソロ双方のコンサート・ツアーで必ずこの曲を取り上げている。『オール・ザ・ベスト』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。アナログ盤はここまでがA面。

 

 7.アンクル・アルバート〜ハルセイ提督(1971年/ポール&リンダ・マッカートニー)

  リンダとのデュオ名義で発表したアルバム『ラム』収録。1971年8月に米国でのみシングルカットされ見事No.1ヒットに。ウイングス結成前の曲だが、ドラムスはデニー・シーウェルがたたいている。エレキ・ギターはヒュー・マクラッケン。2曲をメドレーにした構成で、前半の「アンクル・アルバート」はアコースティック基調のバラード。多彩なSEや、ニューヨーク・フィルハーモニックによるオーケストラが印象的。後半の「ハルセイ提督」は行進曲風の曲で、途中でテンポがめまぐるしく変わる。

  このアルバムには、オリジナル・アルバムでの次曲とクロスフェードしないシングル・ヴァージョンが収録されている。『オール・ザ・ベスト』(米国盤のみ)と『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』の各ベスト盤にもシングル・ヴァージョンが、『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』にはアルバム・ヴァージョンが収録されている。

 

 8.ハイ・ハイ・ハイ(1972年/ウイングス)

  ウイングス3枚目のシングル(1972年12月発売)で、英国で最高5位・米国で最高10位。歌詞が猥褻であるとして英国BBCで放送禁止になったいわくつきの曲。セックスとの関連性についてポールは「自然にハイになることを歌っただけ」と弁明している。ブギウギ風のリズムや、テンポ・アップするエンディングが楽しい。刺激的なギター・フレーズはヘンリー・マッカロクとデニー・レイン。

  ウイングスのコンサートでは主に終盤の盛り上がるタイミングで演奏され、ポールは「次は放送禁止になった曲です」と紹介していた。さらに、ウイングス解散後も2013年から再びセットリスト入りしている。『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』(後者はデラックス・エディションのみ)の各ベスト盤にも収録されている。

 

 9.幸せのノック(1976年/ウイングス)

  アルバム『スピード・オブ・サウンド』収録。1976年7月(米国では6月)に「心のラヴ・ソング」に続きシングルカットされ、英国で最高2位・米国で最高3位と健闘した。そんなヒット曲の正体はポールらしい「お遊び歌」で、メロディも歌詞も単調だがアレンジの変化で楽しく聞かせる。足音のようなドラムロールと意外なエンディングも面白い。肩の力を抜いて聴くとよいでしょう。ブラス・セクションは当時ウイングスのワールド・ツアーに同行していた4人組が演奏している。

  パーティーに誘いたい人のリストを基にした歌詞にはジョン・レノンやキング牧師のほか、弟マイクやジンおばさんなどポールの親族の名前が登場する。『オール・ザ・ベスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 10.マイ・ラヴ(1973年/ポール・マッカートニー&ウイングス)

  ウイングスのセカンド・アルバム『レッド・ローズ・スピードウェイ』収録。1973年3月にシングル発売され、英国で最高9位・米国で4週連続1位。初期ウイングスの代表曲であり、ポールのソロ・キャリア全体でも屈指の名バラード。歌詞はリンダに捧げられている。リチャード・ヒューソンがアレンジしたオーケストラが曲の甘美さを強調している。ポールはエレクトリック・ピアノを弾き、ベースはデニー・レインが担当。

  最大の聴き所はヘンリー・マッカロクによる間奏のギター・ソロで、レコーディング本番でヘンリー自身が急遽考案したもの。ポールはこのプレイをたびたび絶賛している。『オール・ザ・ベスト』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 11.ジェット(1973年/ポール・マッカートニー&ウイングス)

  アルバム『バンド・オン・ザ・ラン』収録。1974年2月にシングルカットされ、英国・米国共に最高7位。ウイングス、ひいてはポールのロック・ナンバーでも最高傑作との呼び声も高い。重厚なブラス・セクションとムーグ・シンセをフィーチャーし、終始ハイテンションに疾走してゆく。タイトルは当時ポールが飼っていたラブラドール犬の名前から取った(最近のインタビューではポニーの名前だと発言している)。ウイングスが3人編成だった頃の録音で、ドラムスはポール。

  ウイングス以来ずっとライヴでは定番で、ほぼすべてのコンサート・ツアーで取り上げられている。セットリストでは2曲目に位置することが多い。『オール・ザ・ベスト』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 12.夢の旅人(1977年/ウイングス)

  1977年11月にシングル発売され、英国で9週連続1位を記録し、同地でのそれまでのシングル売上最高記録をも更新してしまった空前の大ヒット・シングル。ウイングスでポールの右腕を担っていたデニー・レインとの共作で、スコットランドにあるキンタイヤ岬への郷愁を題材にしている。曲もアコースティック・ギター主体のスコティッシュ・ワルツで、地元のバグパイプ・バンドの演奏をフィーチャー。あまりのご当地ソングぶりに米国ではB面扱いとなり、全くヒットしなかった。

  この曲によりウイングスは人気のピークに達したが、その一方で絶頂期を支えたメンバー(ジミー・マッカロクとジョー・イングリッシュ)をほぼ同時に相次いで失ってしまう。『オール・ザ・ベスト』(英国盤のみ)『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

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