Paul McCartney & DJ.Freelance Hellraiser
ポール・マッカートニー&DJ.フリーランス・ヘルレイザー
Twin Freaks/ツイン・フリークス
 1.Really Love You  リアリー・ラヴ・ユー 5'48"
 2.Long Haired Lady(Reprise)  ロング・ヘアード・レディ(リプライズ)  4'55"
 3.Rinse The Raindrops  雨粒を洗い流して  3'22"
 4.Darkroom  ダークルーム  2'29"
 5.Live And Let Die  007/死ぬのは奴らだ  3'29"
 6.Temporary Secretary  テンポラリー・セクレタリー  4'15"
 7.What's That You're Doin'  ホワッツ・ザット・ユア・ドゥイン  4'04"
 8.Oh Woman,Oh Why  オー・ウーマン・オー・ホワイ  4'19"
 9.Mumbo  マンボ  5'29"
10.Lalula  ラルラ  4'30"
11.Coming Up  カミング・アップ  4'49"
12.Maybe I'm Amazed  恋することのもどかしさ 6'12"
発売年月日:2005年6月13日(英国)
全体収録時間:54'04"
「ツイン・フリークス」

 ビートルズ、ウイングス、ソロ各時代を経て、常に当時の最先端の音楽に刺激を受け、自らの作風に取り込み、自分なりに消化していったポール・マッカートニー。'80年代になると、それだけでは飽き足らず、当時流行のリミックスに挑戦したり、ハウスに影響された音楽を作ったりと、流行の音楽に果敢に挑戦していきました。そんなポールは、'90年代に入るとさらに前衛的でアグレッシブな音楽に手を染めます。YOUTHことマーティン・グローバー(キリング・ジョークのベーシスト)との共同プロジェクト「ファイアーマン」名義で出した2枚のアルバム、「ストロベリーズ・オーシャンズ・シップス・フォレスト」(1993年)と「ラッシズ」(1998年)は、普段のポールが作る作風とは大きく異なった、全編トランス・ミュージックのアルバムでした。

 そして2004年。ポールのヨーロッパツアーのプレショーで、興味深いBGMが話題を呼びました。それは、ポールがこれまでに発表してきた曲、しかし今まで聴いたことのないリミックスだったのです。ポールのコンサートを見に来た誰もが、「この音源は何だ!?」と思ったことでしょう。実は、この音源は、フリーランス・ヘルレイザーというDJが作ったリミックスでした。そして、その制作にはもちろん、ポールの後押しがあったのでした。

 この一連のリミックスは、ヨーロッパツアーが始まる前後に、フリーランスとポールの2人で密かに作られていました。どちらから声をかけたのかは不明ですが、フリーランスはクリスティーナ・アギレラとストロークスをマッシュアップした「A Stroke Of Genius」(2002年)で話題を呼んでいたので、そこにポールが目をつけたのかもしれません。当初は1980年の「マッカートニーII」と同じく、お遊び感覚で作ったものだったと思われますが、プレショーでの反響がよかったことから、一連のリミックスはアルバムとして公式に発表されることになります。それが、翌2005年に全世界で発売されたリミックス集「ツイン・フリークス」です。一応アルバムと同じ名前の「ツイン・フリークス」名義となっていますが、クレジットには「ポール・マッカートニー&DJ.フリーランス・ヘルレイザー」と明記されています。

 これまでこの手のリミックスや、変名名義でのダンス・ミュージックのアルバムは先述のように何度かありましたが、「ツイン・フリークス」にはそれまでにない大きな特徴があります。それは、ポールが過去に発表した曲がサンプルとして使用されていること。そして、そうした既発表曲のフレーズ(1部分)を複数組み合わせて新たなミックスを作っていることです。「ファイアーマン」の時のように、ただ似通ったようなトランス・ミュージックが続くのではなく、耳なじみのあるポールの曲が、しかも2〜3曲のフレーズが合体した形でリミックスされているため、ファンの間では大きな話題を呼びました。

 既発表曲の組み合わせとなると、リズムもテンポもキーもまちまちで、いくらポールの曲が大量にあるからといって、それをきれいに合体させるのは容易なことではありません。ところが、フリーランスはこれをいとも簡単にやってしまいました。たとえば、『オー・ウーマン・オー・ホワイ』では、同曲の上に、『ヴィーナス・アンド・マース』『バンド・オン・ザ・ラン』『ループ』の3曲から抜粋されたフレーズが、同時進行で乗っかっています。『ロング・ヘアード・レディ』では、エンディングのコーラスの繰り返しに、『ウー・ユー』のギターフレーズがぴったりとかぶさっています。そして、圧巻は『カミング・アップ』。なんと、バックの音楽は『モース・ムースとグレイ・グース』そのままなのです!複数のポール・ナンバーを、これだけ違和感なくぴったりと合体させてしまったフリーランスの手腕には脱帽です。

 さらにポール・ファンを喜ばせたのは、その選曲にあります。実は、サンプルとして使用された曲のほとんどが、一般的には知られていない、いわゆるマニアックな曲。ポール自身ですら忘れてしまっているかのような楽曲たちが、このリミックスで見事甦ったのです。たとえば、1980年にポールがひとり自宅で録音したアルバム「マッカートニーII」は、テクノ・ポップに影響されたチープなサウンドゆえに一般的に人気がなく、ポール自身も近年否定的な発言をしていますが、このアルバムでは実に3曲がリミックスされています。また、『マンボ』『リアリー・ラヴ・ユー』『オールド・サイアム・サー』といった、ポールの最近の活動では見捨てられがちなマニアックな曲が、リミックスされたり、フレーズが使用されたりしています。その選曲範囲、ソロデビューの1970年から2001年の「ドライヴィング・レイン」まで実にさまざま。まさに、タイトルのようにポール・フリークが喜びそうな、マニア向けのプレゼントでもあるのです。よくこんなにもマニアックな曲を引っ張り出してきたと、フリーランスのマニアックぶりを伺わせます。

 このアルバムは、リミックス集のため、一般受けするものではありません。リミックスですので、斬新なアレンジも多く取り上げられていて、普段のポールの作風とは異なっています。また、マニアックな曲がサンプルに使用されているので、ポールの楽曲を一通り知らないと楽しめません。このアルバムは、主にポール・マニア向けといっていいでしょう。特に、一般的にあまり人気でないアルバム(特にロック・テイストのアルバム)が好きな人にはお勧めです。耳になじんだあの曲が、あんな、こんなフレーズと一緒になって出てくると、思わずにやっとしてしまうでしょう(笑)。特に『オー・ウーマン・オー・ホワイ』『カミング・アップ』はお勧めです!他の曲と合体していない曲でも、『テンポラリー・セクレタリー』『ダークルーム』といった曲が現代風にかっこよくリミックスされているのでこちらも注目。

 なお、このアルバムは、リミックス集という性格からか、CDでは発売されず、レコードとPC配信のみの発売でした。そのため、このアルバムを聴こうとすれば、PCで音楽ファイルを購入するのが一番でしょう。なお、ヨーロッパの一部ではCDで発売されていて、私はこのCDで入手しました(¥15,000しましたが・・・)。個人的には11がお気に入りです。


 1.リアリー・ラヴ・ユー・・・オリジナルはアルバム「フレイミング・パイ」(1997年)収録のリンゴ・スターとの共作曲。ここではドラムを『ホワッツ・ザット・ユア・ドゥイン』(1982年)から抜粋し、よりダンサブルなアレンジに。ヴォーカルにもエフェクトがかけられている。オリジナルよりかっこよく仕上がっています。単独で12インチシングルも発売された。

 2.ロング・ヘアード・レディ(リプライズ)・・・オリジナルはアルバム「ラム」(1971年)収録。同曲のエンディングの部分を元にリミックス。冒頭で聴こえるのは最後の最後の部分。やがて、左ステレオに『ウー・ユー』(1970年)のギターフレーズが入り、そのあと右ステレオに『ロング・ヘアード・レディ』のブラス・セクションが混じり、さらにコーラスが入る、効果的な構成。

 3.雨粒を洗い流して・・・オリジナルはアルバム「ドライヴィング・レイン」(2001年)収録。これが一番オリジナルに近いリミックス。オリジナルは10分以上あるが、ここでは3分ちょっとに短縮。主にテンポの速い部分を使用し、ノイズなどがかぶさっている。

 4.ダークルーム・・・オリジナルはアルバム「マッカートニーII」(1980年)収録。オリジナルのシンセやヴォーカル・コーラスを再配置して、現代風にリミックス。なかなかかっこいい。オリジナルに抵抗を覚えている人にもお勧め。

 5.007/死ぬのは奴らだ・・・オリジナルは1973年のシングルで、ご存知映画「007シリーズ」の主題歌。ここでは、冒頭の「When you were young」の部分をしつこく繰り返しながら、スローなビートや話し声がかぶさるという、クレイジーな構成。中盤以降、『グッドナイト・トゥナイト』(1979年)のエレキギターの一部が入る(パーカッションもこの曲っぽい)。ところで、冒頭の話し声はジョン・レノンのものではないかと思いますがどうでしょう?

 6.テンポラリー・セクレタリー・・・オリジナルは「マッカートニーII」収録。オリジナルよりもダンサブルで強力な仕上がり。オリジナルとは構成を変えていて、タイトルコールもコーラス抜きで新鮮に感じられる。オリジナルではタイトルコールに戻る所に挿入されていた「I need a!」が、このリミックスでは至る所に挿入されていて面白いです。もちろんシンセのシークエンス音も健在!

 7.ホワッツ・ザット・ユア・ドゥイン・・・オリジナルはアルバム「タッグ・オブ・ウォー」(1982年)収録のスティービー・ワンダーとの共作・共演曲。オリジナルよりもテンポが速く、ノリもよくなっている。スティービーのパートが多く使用され、スティービー色が濃いリミックス。サビには『オールド・サイアム・サー』(1979年)のシンセ・リフが入っている。第3節の新たなアレンジが面白い。終わりの方のスティービーのアドリブがめちゃくちゃ早口になっていて面白いです(笑)。個人的にすごくはまったリミックス。

 8.オー・ウーマン・オー・ホワイ・・・これがアルバム中一番多くのサンプルを使ったリミックス。オリジナルはシングル「アナザー・デイ」(1971年)のB面。冒頭は幻想的な雰囲気で始まり、『ヴィーナス・アンド・マース』(1975年)の冒頭の一節が歌われる。その後、ポールとリンダの話し声(インタビュー?)をバックに『ループ(ファースト・インディアン・オン・ザ・ムーン)』(1973年)のドラム&ベース、『バンド・オン・ザ・ラン』(1973年)の第2パートのギターフレーズ、そして『ヴィーナス・アンド・マース』のイントロのムーグが同時進行で絶妙に絡み合い、そこに『オー・ウーマン・オー・ホワイ』の中間部のヴォーカルとギターが入るという構成。よくここまでたくさんの曲を組み合わせることができたと感心してしまいます。聴いていてとっても面白いです。

 9.マンボ・・・オリジナルはアルバム「ウイングス・ワイルド・ライフ」(1971年)収録。主にヴォーカル部分を延々と繰り返すのみで、オリジナルよりキーが高くなっている。バックにはシンセが加えられている他、『フロント・パーラー』(1980年)のバスドラム&シンセが入っている。何度も繰り返されると歌い方が滑稽に感じられます。

 10.ラルラ・・・この曲のみ、新たに作られたオリジナル曲。といっても、この曲もいくつかの既発表曲のフレーズを取り入れている。前半は斬新なドラムソロにストリングスが加わるが、そこに入ってくるのが『オールド・サイアム・サー』のエレキギター。後半は、そのイントロの有名なギターフレーズを挟んで『オー・ウーマン・オー・ホワイ』のギターをバックにしたパートへ。こちらにも『オールド・サイアム・サー』のギターフレーズと、シンセリフが入っている。実質的『オールド・サイアム・サー』というタイトルでも通るような曲です。12インチシングル「リアリー・ラヴ・ユー」のB面。

 11.カミング・アップ・・・これが一番強力なリミックス!!オリジナルは「マッカートニーII」収録。ここでは、なんと!『モース・ムースとグレイ・グース』(1978年)の演奏をバックに歌われます!!これがぴったりはまっていて、フリーランスの神業に脱帽です。イントロは、(若干違うものの)もちろん『モース・ムース』のイントロ!でも歌われるのは“You want a love〜♪”です(笑)。これはポール・ファンなら必聴!私も大好きなリミックスです。

 12.恋することのもどかしさ・・・オリジナルはポールのソロデビュー作「マッカートニー」(1970年)収録。前半は、オリジナルの演奏をテンポを上げてそのまま使用。アウトロ前まで来た後、新たに付け加えられたパートへ。ドラムとベースだけから、徐々に音が加わって、最後に壮大になるという、ちょっと感動的なアレンジ。この部分では、オリジナルで次曲だった『クリーン・アクロア』のSEが使用されています。ポールのシャウトもふんだんに使用。

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