|
「再びステージに立ちたい!」こうした思いをポールが再び抱き始めたのは1987年頃のこと。プリンス・トラストのコンサートで久々にロックンロールを熱唱したポールは、1979年以来途絶えていたコンサート・ツアーを行おうと計画を練り始めます。ロックンロールのカヴァーアルバム「バック・イン・ザ・USSR」(1988年)でリハビリを行うと、早速新たな「バンド」のメンバーを集めます。その結果、ヘイミッシュ・スチュワート(ギター)、ロビー・マッキントッシュ(ギター)、クリス・ウィットン(ドラム)、ポール“ウィックス”ウィッケンズ(キーボード)の4人が揃います。これに愛妻リンダ(キーボード)とポール本人(ベース)を加えた6人が、実際にコンサート・ツアーに出ることとなります。
ポールは1989年にツアーを意識したアルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」が大ヒットすると、即座にツアーメンバーとリハーサルを重ね、1989年9月のオスロ公演を皮切りに翌年7月まで約1年間、大規模なワールド・ツアーを行いました(14ヶ国・計103公演)。ウイングス以来実に10年ぶりのポールのコンサートに全世界のポール・ファンが興奮に酔いしれました。訪問した国の中には、2度もライヴをお預けされた日本も含まれていました。悲願の来日公演は、1990年3月に東京ドームで計6回行われました。
世界にポール旋風を巻き起こした、そんな記念すべきコンサート・ツアーの模様を2枚組で収録したのが、このアルバムです。ワールド・ツアーの基本的なセットリストはすべて網羅されています。他に一部公演のみで演奏された曲に、『幸せのノック』『夢の旅人』『PSラヴ・ミー・ドゥ』『グッド・デイ・サンシャイン』『オール・マイ・トライアルズ』そして「ジョン・レノン・メドレー」がありますが、これらはいずれも当時のシングルで聴くことができます。
収録曲はほぼセットリスト順に並んでいます。一番よかった公演の演奏を寄せ集めています。興味深いのが演奏された曲目。このアルバムのライヴ本編の30曲中、実に15曲がビートルズ・ナンバー。ウイングス時代にはビートルズ・ナンバーを避けてきたポールですが、ジョン・レノンの死や他メンバーとの和解などを通じてビートルズに正面から向き合えるようになったことからか、初期から後期まで実に多彩な選曲がされています。逆にウイングス・ナンバーはたったの3曲と激減。'70年代、'80年代のソロ・ナンバーも3曲。ビートルズ・ナンバーを重視した結果ともいえますが、この比率はこの後現在に至るまでポールのコンサートのセットリストに反映されます。新作「フラワーズ・イン・ザ・ダート」からは6曲演奏されていて、ポールの自信が伺えます。『トゥエンティ・フライト・ロック』『エイント・ザット・ア・シェイム』『イフ・アイ・ワー・ノット・アポン・ザ・ステージ』はオールディーズ・ナンバーです。
さらにこのアルバムには、ツアーのリハーサル中に演奏された曲も6曲収録されています(他にシングルには『C・ムーン』を収録)。サウンドチェックのためのリラックスした演奏のため、すべてオールディーズや即興で作った曲です。普通この手の音源は入手ができないのでとても貴重なのですが、ライヴ本編の合間を縫うように収録されているので流れを断ち切っている感も否めません。また、収録時間の関係上か、曲間のMCはほとんどカットされています。
このライヴ・アルバムは、'80年代の不調から見事にポールが復活したことを示す何よりもの証しです。ひさしぶりのコンサートだけあって、ポールも非常に張り切っている様子が伝わってきます(声はあいにくながら不調な時もありましたが・・・)。ツアー・メンバーも、この後のツアーにも参加する顔ぶれだけあって素晴らしい演奏・コーラスを随所で聴かせています。特にヘイミッシュ・スチュワートの貢献は注目です。セットリストも、これまでのキャリアが生んだ名曲の数々ばかりを散りばめた総決算的で、ポールの意気込みを感じさせます。『ヘイ・ジュード』『バック・イン・ザ・USSR』『ゲット・バック』といった、この後のポールのコンサートに欠かせないビートルズ・ナンバーもすべてこの時初めてツアーでライヴ演奏されたのです。ポールのビートルズへの愛が感じられる曲目です。新作に対する愛ももちろん感じられます。
そして、何より悲願の来日公演の時の音源も4曲収録されています!リアルタイムでその興奮と感動を味わった方たちには懐かしい一枚となっています。このアルバムを聴くたび、初めて生で見たポールに感動したあの時を思い出す方も多いでしょう。もちろん、リアルタイムで知らない人にとっても、十分興奮と感動を届けてくれるアルバムです。この後ポールのライヴ・アルバムは「ポール・イズ・ライヴ!」「バック・イン・ザ・US」「バック・イン・ザ・ワールド」と続きますが、その中でももっとも人気の高い一枚かもしれません。
なお、このアルバムのダイジェスト版として、「ポール・マッカートニー・ライヴ・ハイライツ!!」という1枚組のアルバムも出ています(17曲収録)。もちろん、どちらを買えばいいかは一目瞭然ですよね・・・(笑)。「ハイライツ」ではなく、ぜひ2枚組で完全収録のこのアルバムを買ってくださいね。(確かに、「ハイライツ」にしか入っていない曲も約1曲ありますけどね・・・)
(*のついている曲はアルバム「ポール・マッカートニー・ライヴ・ハイライツ!!」にも収録されています)
CD-1
1.ショウタイム・・・オープニング前のショート・フィルムで流れていたBGM。よく聴くと当時の新曲『ふりむかないで』が流れています。
2.フィギュア・オブ・エイト・・・スクリーンに「NOW」という文字が映し出され、いよいよポール登場!オープニングナンバーは、当時の最新作「フラワーズ・イン・ザ・ダート」から。オリジナルに比べタイトなバンドサウンドで聴かせます。このライヴ・ヴァージョンを聴くと懐かしさに涙腺が緩む方も多いのでは?
3.ジェット・・・このツアーで演奏された数少ないウイングス・ナンバーの1つ。1973年のアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」に収録されたヒットナンバー。ウイングス以来、この曲は2曲目に演奏されることが多いです。オリジナルよりも迫力のある演奏で、観客のテンションも上がってゆきます。
4.ラフ・ライド・・・アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」より。オリジナルはコンピュータ・サウンド中心で演奏しにくそうですがうまくこなしています。コーラスも細部まで再現。
5.ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ*・・・ビートルズのアルバム「リボルバー」(1966年)より。1979年以来の演奏となった。ブラス・セクションはウィックスのキーボードで再現。しかし、ポールの声がかすれている・・・(汗)。
6.バンド・オン・ザ・ラン・・・同名アルバム収録のウイングスの代表曲。曲中、スクリーンにはアルバムジャケットが映った。ムーグ・シンセはオリジナルと同じリンダ。リンダさんのコーラスは大きめに入っています。
7.バースデー*・・・1968年のビートルズのアルバム「ホワイト・アルバム」より。ライヴではこのツアーが初登場。オリジナルより速いテンポで演奏されている。このライヴ・ヴァージョンはシングルカットされている。
8.エボニー・アンド・アイボリー・・・1982年のソロアルバム「タッグ・オブ・ウォー」収録。オリジナルはスティービー・ワンダーとのデュエットが注目されたが、ここではヘイミッシュとのハーモニーを聴かせる。ロサンゼルス公演では、観客席にいたスティービーが飛び入りで参加、デュエットの再現となった。
9.幸せなる結婚*・・・アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」より。ヘイミッシュがスパニッシュ・ギターを演奏。フラメンコ風の掛け声も入りムード満点。
10.インナー・シティ・マッドネス・・・リハーサルからの音源で、ツアー・メンバー全員の共作名義となっている。アバンギャルドなインストで、あまり意味ありません(苦笑)。
11.メイビー・アイム・アメイズド・・・ここからはピアノ・コーナー。ポールのファースト・ソロアルバム「マッカートニー」(1970年)収録曲。ポールがコンサートで必ず演奏する曲の1つで、ピアノを弾き語りしながら熱唱するポールが毎度のことながら印象的。
12.ロング・アンド・ワインディング・ロード*・・・「'60年代に戻ろう!」のMCの後始まる。ビートルズのラストアルバム「レット・イット・ビー」収録のバラードの名曲で、1976年ツアー以来のライヴ演奏。ポールがオリジナルのストリングスアレンジを嫌ったのは語り草だが、ここではなぜかオリジナルに近いアレンジがされている。このライヴ・ヴァージョンもシングルカットされた。
13.クラッキン・アップ・・・リハーサルテイク。アルバム「バック・イン・ザ・USSR」(1988年)でもカヴァーしたことのあるボ・ディドリーの曲で、ここではすぐに終わってしまう。
14.フール・オン・ザ・ヒル・・・1967年のアルバム「マジカル・ミステリー・ツアー」収録のビートルズナンバーで、ライヴ演奏は1979年以来。「ジョージ、リンゴ、ジョンに捧げます」というMCの後始まる。リコーダーなどもキーボードで再現されている。アウトロで聴こえる声はキング牧師の演説。
15.サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド*・・・ここからは再びバンドサウンドへ。「ロックの金字塔」と呼ばれる1967年のビートルズの同名アルバムより。ライヴでは初登場。冒頭・間奏の歓声のSEも再現されている。途中、長く熱いソロを挟んで「リプライズ」へ。この後のツアーではこのリプライズのみが演奏されている。
16.キャント・バイ・ミー・ラヴ*・・・1964年のビートルズのアルバム「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」収録のヒット曲。ライヴではビートルズ以来となった。誰もが待望していたであろうこの曲に観客は一気に有頂天。
17.マッチボックス・・・サウンドチェックより。オリジナルはカール・パーキンスで、ビートルズではリンゴ・スターのヴォーカルでカヴァーしたことがある。ポールとヘイミッシュのツイン・ヴォーカルが印象的。
18.プット・イット・ゼア・・・アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」より。ポールがアコースティックギターで弾き語る。エンディングにはなぜか『ハロー・グッドバイ』の最後の部分が付け加えられている。『ハロー・グッドバイ』自体は、2002年のツアーまでライヴ演奏されなかった。米国盤「ハイライツ」には、『オール・マイ・トライアルズ』の代わりにこの曲が収録されている。
19.トゥゲザー・・・リハーサルテイクで、これまたツアー・メンバーの共作名義。レゲエ風なのが面白いだけの、なんともない曲です。
CD-2
1.今日の誓い*・・・アルバム「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」収録。ライヴ演奏はビートルズ以来。ヘイミッシュのハーモニーが印象的。アウトロはロビーのギターソロで、次の曲へそのままつながる。
2.エリナー・リグビー*・・・アルバム「リボルバー」より。ライヴ演奏は初めて。ウィックスがストリングスを再現、ポールはアコギを弾き語る。
3.ディス・ワン・・・アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」より。この曲より、ポールはヘフナーベースを演奏。幻想的なイントロもシタール入りで再現されている。
4.マイ・ブレイヴ・フェイス*・・・アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」より。エルビス・コステロとの共作が話題となった当時の最新ヒット。しかし、歓声がないのはなぜ?
5.バック・イン・ザ・U.S.S.R.*・・・アルバム「ホワイト・アルバム」より。初めてのライヴ演奏となった。この後ポールのコンサートに欠かせないナンバーとなる。ジェット機の離陸音もシンセで再現。観客も一気に盛り上がる。日本公演の音源です!
6.アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア*・・・ビートルズのデビューアルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」(1963年)のオープニングナンバー。ポールがツアー再開を思い立ったプリンス・トラストのコンサートでも歌われた。オリジナルに負けん位のシャウトです。
7.トゥエンティ・フライト・ロック・・・エディ・コクランのオールディーズナンバーのカヴァー。ポールとジョン・レノンの出会いの1曲でもある。1979年ウイングスツアーでも演奏されたほか、アルバム「バック・イン・ザ・USSR」でもカヴァーしている。
8.カミング・アップ・・・1980年のソロアルバム「マッカートニーII」収録。1979年ウイングスツアーで先に披露されていたのは有名(米国版「オール・ザ・ベスト」収録)。ここではディスコ風のアレンジが成されている。そして、このアルバムに収録されている音源は日本公演です!!
9.サリー・・・オールドスタイルのナンバーのカヴァーで、リハーサルから。ピアノとオルガンをバックにポールが変な声で歌います(ピッチが速いらしい)。
10.レット・イット・ビー*・・・同名アルバム収録の一大名曲。ここからは再びポールはピアノを演奏。最初は弾き語りでイントロなしに歌う。これ以前にも1979年ウイングスツアーや1985年「ライヴ・エイド」でも演奏された。
11.エイント・ザット・ア・シェイム・・・ファッツ・ドミノの曲のカヴァーで、アルバム「バック・イン・ザ・USSR」でもカヴァーしている。ジョン・レノンもカヴァーしたことがある。この音源も日本公演です!!
12.007/死ぬのは奴らだ・・・ウイングス時代の1973年にシングル発売された大ヒット曲で、007映画の主題歌。ウイングス以降ポールがほぼ毎回ツアーで演奏している定番曲で、マグネシウム花火の演出が今回もされている。
13.イフ・アイ・ワー・ノット・アポン・ザ・ステージ*・・・オールド・ジャズ・ナンバーだが、次の『ヘイ・ジュード』のフェイントとして少しだけ演奏している。フェイントはポールの得意技です。
14.ヘイ・ジュード*・・・1968年にシングル発売されたビートルズ最大のヒット曲で、ポールの代表曲。実はこのツアーでライヴ初登場。そのためか、観客のテンションも高く上がる。「オーディエンスも参加できる曲がやりたかった」(ポール)だけあって、最後のコーラスの繰り返しはポールが「右の人!」「真ん中の人!」など観客に歌うよう促し、大合唱となった。
15.イエスタデイ・・・ここからはアンコール。ビートルズのアルバム「4人はアイドル」(1965年)収録の、誰でも知っているポールの代表曲。ライヴではビートルズ、ウイングス、ソロとずっと演奏され続けている。ポールがアコギを弾き語り、ウィックスがストリングスを再現。
16.ゲット・バック*・・・1969年にシングル発売され、アルバム「レット・イット・ビー」にも収録された後期ビートルズのヒットナンバー。日本公演の音源で、曲の前ではポールと観客が「Woh woh woh yeah」と言い合っている。リアルタイムでそれをやった方にとっては懐かしいでしょう。プリンス・トラストのコンサートでも歌われていた。
17.ゴールデン・スランバー〜キャリー・ザット・ウェイト〜ジ・エンド*・・・ビートルズの実質的なラストアルバム「アビー・ロード」(1969年)の感動的なB面メドレーの最後の3曲で、いずれもポールが作曲。このツアーで演奏されたのは、リハーサルで演奏した所スタッフが感動のあまり泣きじゃくったためだとか。このツアーでライヴ初登場を果たした。ポールは冒頭の2曲はピアノを、『ジ・エンド』ではギターに持ち替えロビーとヘイミッシュとギター・バトルを繰り広げている。このメドレーでライヴ本編は終了。
18.ドント・レット・ザ・サン・キャッチ・ユー・クライング・・・リハーサルでの演奏。オリジナルはレイ・チャールズ。スローなジャズバラード。リンダさんのサックスが・・・(苦笑)。