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ポールにとって久々のコンサート・ツアーとなった1989年〜1990年のワールド・ツアーは、いつしか「ゲット・バック・ツアー」として世界中の注目を浴び、大成功に終わりました。この結果に満足したポールは、同じバンドでアルバム「オフ・ザ・グラウンド」のレコーディングに取り掛かります。クリス・ウィットンの脱退がありましたが、代役としてブレア・カニンガム(ドラム)を迎え入れます。残るヘイミッシュ・スチュワート(ギター)、ロビー・マッキントッシュ(ギター)、ポール“ウィックス”ウィッケンズ(キーボード)、愛妻リンダ(キーボード)とポール本人(ベース)はそのままに、この6人のバンドはTV番組「アンプラグド」に出演する(アルバム「公式海賊盤」収録)など、演奏を重ねながらその結束をますます固いものにしたのでした。
そして1993年2月にバンドで作ったアルバム「オフ・ザ・グラウンド」を発表すると、すぐにポールは同じ面子でワールド・ツアーへ旅立ちます。それが1993年3月のパース公演から12月のサンディエゴ公演までのニュー・ワールド・ツアーです(18ヶ国・計75公演)。この中には東京・福岡であわせて5回行われた日本公演も含まれていました。環境問題や動物保護について真剣に考えるようになったポールですが、その信念がよく表れたツアーでした。そのニュー・ワールド・ツアーの模様を収録したのが、このアルバムです。
収録曲はほぼセットリスト順に並んでいて、それぞれ一番よかった公演の演奏を寄せ集めています。ただし、「ゲット・バック・ツアー」の模様を収録したアルバム「ポール・マッカートニー・ライヴ!!」と違い、セットリストのすべては網羅されず、収録もれになった曲が多くあります(全公演共通の曲でも13曲、全部だと18曲)。そのため、ライヴの全容を知ることができないのが残念な所です。コンサートのラスト・ナンバーの『ヘイ・ジュード』すら収録されていない有様です。MCも前作同様カットされていて、無理やりつないでいる感もあります。
曲目を見てみると、9曲がビートルズ・ナンバーで、ポールのビートルズ偏重ぶりが感じられます(未収録曲含めると16曲)。ウイングスナンバーは3曲(5曲)、'70年代&'80年代のソロ・ナンバーは1曲と、前回に引き続き少なめです。新作「オフ・ザ・グラウンド」からは実に5曲も演奏されていて、ポールの自信が伺えます(さらに『オフ・ザ・グラウンド』も演奏された)。『ロビーのギター・ソロ』はロビーによる即興曲、『グッド・ロッキン・トゥナイト』『カンサス・シティ』はオールディーズ・ナンバーで、後者はカンザス・シティ公演での特別演奏です。
前作同様、ツアーのリハーサル中に演奏された曲が4曲収録されています。今回は3曲が即興曲で、もう1曲はビートルズの『彼氏になりたい』。楽しい感じが伝わってくるのですが、本作の場合「どうせなら収録もれになった演奏を入れてくれ・・・」という感が非常に強いです。ただ、前作と違い最後にまとまって収録されているのでライヴ本編の流れを切っていることはありません(それ以前に、セットリスト全部が入っていないんですけどね・・・)。
このライヴ・アルバムは、ポールが満を持して出したアルバム「オフ・ザ・グラウンド」を引っさげて、おなじみのバンドメンバーと一緒に世界を駆け抜けた記録で、もちろん世界中で大きな注目を集めました。しかし、1枚組がゆえにセットリストをカヴァーできていないことや、リリースを急いだがためにツアー前半の公演の録音しか収録されていないなど、不完全さが浮き彫りになっています。もっと完全な形で、たっぷり聴かせてほしかった・・・というのがファンの本音ではないでしょうか。日本のファンにとっては、日本公演の演奏が全く収録されていないのにも物足りなさを感じているはずです。ですので、あまりお勧めできません。ポールのビートルズ愛はよく伝わってきますがね(笑)。同じバンドでのライヴなら「ポール・マッカートニー・ライヴ!!」を先に聴きましょう。
ちなみにアルバムジャケットは、ビートルズのアルバム「アビー・ロード」のジャケットの背景に、現在のポール+愛犬を合成したもの。これと「Paul is live」→「ポールは生きている」を合わせて、'60年代後半に騒がれた「ポール死亡説」を皮肉っています。
1.ドライヴ・マイ・カー・・・ビートルズのアルバム「ラバー・ソウル」(1965年)のファースト・ナンバーで、このワールド・ツアーでもファースト・ナンバーとなった。ライヴで演奏されるのは初めてで、オリジナルより速いテンポやすぱっと終わるエンディングがかっこいいです。
2.レット・ミー・ロール・イット・・・ウイングスの傑作アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」(1973年)収録のブルース。ウイングス以来の演奏で、これ以降ポールがライヴでしつこく演奏し続ける定番曲となる。オリジナルとは曲構成が異なる。
3.ルッキング・フォー・チェンジズ・・・このツアー開催時の最新作「オフ・ザ・グラウンド」収録曲。動物愛護を訴えた詞作のこの曲をツアーで演奏したのは、世界中に動物愛護について考えてほしかったからだろう。曲の方は、オリジナルより幾分ポールのシャウトがおとなしめになっている。
4.ピース・イン・ザ・ネイバーフッド・・・アルバム「オフ・ザ・グラウンド」より。オリジナルよりしっかりした演奏で、こっちの方がよいかも。しかし、わざわざオリジナル通りに5分近く演奏しなくても・・・。短くしてもよかったのでは。
5.オール・マイ・ラヴィング・・・ビートルズのアルバム「ウィズ・ザ・ビートルズ」(1963年)より。ビートルズ解散以降初めてライヴで取り上げた。ビートルズの曲だけあって歓声もひときわ大きいです。
6.ロビーのギター・ソロ・・・楽器のセットを変える時にロビーが即興で演奏したギターナンバー。チェット・アトキンスに捧げた曲だそうだ。
7.グッド・ロッキン・トゥナイト・・・オリジナルはロイ・ブラウンで、ポールはアルバム「公式海賊盤」にて同じ面子でカヴァーしている。
8.恋を抱きしめよう・・・1965年のビートルズのシングル曲で、ポールとジョン・レノンの共作。解散後は「公式海賊盤」で初めて取り上げた。ウィックスのアコーディオンが印象的で、ジョンのパートはヘイミッシュが歌っている。
9.明日への誓い・・・アルバム「オフ・ザ・グラウンド」収録曲で、最新ヒット曲だった。オリジナルと同じくアンプラグド形式での演奏。歓声が少ないのは気のせいですか?
10.ミッシェル・・・アルバム「ラバー・ソウル」収録のバラードの名曲。コンサート・ツアーではこれが初めて。ウィックスのアコーディオンがいかにもフランスっぽい。
11.バイカー・ライク・アン・アイコン・・・アルバム「オフ・ザ・グラウンド」より。オリジナルよりワイルドな仕上がり。このヴァージョンはシングル「バイカー・ライク・アン・アイコン」にも収録された。
12.ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア・・・ビートルズのアルバム「リボルバー」(1966年)収録。映画「ヤァ!ブロード・ストリート」やアルバム「公式海賊盤」でも再演されたが、ライヴではこれが初めて。ここでもウィックスのアコーディオンが大活躍。
13.マイ・ラヴ・・・アルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」(1973年)収録のウイングスのヒット曲。ロビーがオリジナルよりハードなギターソロを聞かせる。ポールが若干崩し歌いになっている。
14.マジカル・ミステリー・ツアー・・・1967年の同名アルバム収録のビートルズナンバーで、初めてライヴ演奏された。イントロの掛け声や、掛け合いコーラス、後半のテンポダウンも再現。
15.カモン・ピープル・・・アルバム「オフ・ザ・グラウンド」のラスト・ナンバー。壮大なオーケストラはウィックスが再現。ポールはオリジナルにも負けない力強い歌声を聞かせる。スクリーン上にはビートルズ時代のポールとジョンなどリンダが撮影した写真が映された。
16.レディ・マドンナ・・・1968年のビートルズのシングル・ヒット。1976年のウイングス・ツアー以来の登場。ブラス・セクションはウィックスが再現。ブレアのドラムスも力強い。
17.ペイパーバック・ライター・・・1966年にシングル発売されたビートルズ・ナンバー。ライヴで演奏されるのはビートルズ以来。複雑なコーラスなど再現が難しい曲だが、なんとか様になっている。エンディングで聴こえるハミングはビートルズの『ノルウェーの森』。
18.ペニー・レイン・・・1967年のビートルズのシングル・ヒット。ライヴで演奏されるのはこれが初。ブラス・セクションやピッコロなど、ライヴでの再現が難しい曲だが、ウィックスがキーボードで再現。技術の進歩による実現ですね。
19.007/死ぬのは奴らだ・・・1973年のウイングスのシングル曲で、映画「007/死ぬのは奴らだ」主題歌。ライヴではウイングス以来の定番曲で、おなじみのマグネシウム花火も多く炸裂。ポールのアドリブも炸裂。
20.カンサス・シティ・・・オリジナルはリトル・ウィリー・リトルフィールドのオールディーズナンバー。ビートルズもポールのヴォーカルでカヴァーしている(アルバム「ビートルズ・フォー・セール」収録)。ポールはビートルズ解散後アルバム「バック・イン・ザ・USSR」(1988年)でもカヴァーしているが、この時の演奏と同じく『カンサス・シティ』を中心にリトル・リチャードの『ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ』も交えている。この音源は、カンザス・シティ公演で特別演奏されたもの。ご当地ソングあっての実現となった。
21.サウンドチェックへようこそ・・・ここからはサウンドチェックでの演奏。この曲は、虫の鳴き声とヘリコプターの音によるサウンド・コラージュで、最後にポールが「サウンドチェックへようこそ!」と言う。
22.ホテル・イン・ベニドーム・・・ボールダーでのジャム・セッション。即興で作られた曲で、エスニック色の濃いアコースティック・ナンバー。
23.彼氏になりたい・・・ローリング・ストーンズのためにポールとジョン・レノンが書いた曲で、ビートルズとしてはリンゴ・スターのヴォーカルでアルバム「ウィズ・ザ・ビートルズ」(1963年)で発表した。ニュー・ワールド・ツアーの序盤では演奏されていたが、ここに収録したのはシドニーでのサウンドチェック。ボ・ディドリー風に歌うポールのヴォーカルが新鮮。
24.ア・ファイン・デイ・・・ニューヨークでのサウンドチェックより。ポールが即興で作った曲で、スローポップ・ロック。長たらしくて退屈します(笑)。最後はまた虫の鳴き声が・・・。