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1998年、EMIが100周年を迎えたのを記念して日本の東芝EMIは「ザ・グレイテスト」シリーズを発売しました。これはEMIに所属する36もの海外のアーティストのベスト盤シリーズで、その中にはジョン・レノンやビーチ・ボーイズなども含まれています。この「ポール・マッカートニー/ザ・グレイテスト」はそのうちの一枚で、他のシリーズと同じく日本のみの発売で、しかも初回生産のみという世界規模で見ても超レアアイテムとなっています。帯に「輸出禁止商品」と書いてあることからもそのことがうかがえます。
さてこのポールのベスト盤ですが、収録曲はすべてビートルズ解散後のポールのソロ・キャリアから選ばれています。ご存知の通りポールは'70年代のほとんどをウイングスというバンドの一員として過ごすのですが、このアルバムにはウイングスナンバーが9曲収録されています。残り8曲は純然たるポールのソロナンバーで、その収録範囲はファースト・ソロアルバム「マッカートニー」('70年)から「フレイミング・パイ」('97年)までと実に長期にわたっています。
他のベスト盤に比べて、このベスト盤が明らかに優位な点はなんといっても'89年以降のごく最近の曲が収録されていることでしょう。'01年発売のベスト盤「ウイングスパン」でさえ最近の曲が収録されていないのでその価値は大きいです。このアルバムには'89年以降の作品が3曲も収録されています。『ヤング・ボーイ』('97年)に始まり『明日への誓い』('92年)で終わるのもこのベスト盤でしか味わえない醍醐味。
さらに、このベスト盤に収録された17曲はポールの名曲中の名曲、と言える珠玉のヒットナンバーを凝縮したもので、英米どちらかのチャートで10位圏内に入った曲が実に13曲もあります。また、月並みのベスト盤に収録されているあまり重要でないナンバー(その当時のウイングス熱気で奇跡的にヒットしてしまった『幸せのノック』、ファンには大不評の『セイ・セイ・セイ』、ポールご推薦でベスト盤入りした『C・ムーン』など)を潔くオミットしているので、本当に心に残る名曲だけがぎっしり詰まったベスト盤になりました。またシングル発売こそされなかったものの、人気投票では必ず1位を獲得する『恋することのもどかしさ』が収録されているのもおいしいところ。まさに「ベスト・オブ・ザ・ベスト」と言えるベスト盤でしょう。
ということで、このアルバムは「オール・ザ・ベスト 米国版」に匹敵するほど素晴らしいベスト盤であり、初心者の方にとてもお勧めできます。「オール〜」はヒット曲を聴きたいときに最適の一枚として、このベスト盤は20世紀最大の作曲家・ポールの歩みを知る最適の一枚としてぜひ聴いていただきたいです。それではまった方はポールのオリジナル・アルバムを2,3枚買ってみるとよいでしょう。ただ、このベスト盤は前述のように初回生産のみなので現在大変入手困難です。見つけたら即買いましょう。もしめぐり会えなかったら「オール・ザ・ベスト 米国版」を買いましょう。個人的には、あと10分くらい曲を入れられるので「ザ・グレイテスト」には『しあわせの予感』と『カミング・アップ』(この2曲も名曲です!)も入れてほしかったのですが、それを言うと罰が当たるほど素晴らしいベスト盤です(『ヴィーナス・アンド・マース〜ロック・ショー』なんて奇抜に入れてもよかったかも)。最後に、ブックレットに記載されている歌詞はけっこう間違いだらけなので信用はしないように。
1.ヤング・ボーイ(1997年、ポール・マッカートニー)・・・アルバム「フレイミング・パイ」収録。シングルカットされ英国で19位。リンダが料理の仕事で取材を受けている最中に書き上げた曲。ギターはスティーヴ・ミラー。初期ビートルズのようなシンプルな音作り。映画「ファーザーズ・デイ」の主題歌にもなった。このベスト盤の収録曲で最新の曲で、他のベスト盤には未収録。
2.マイ・ラヴ(1973年、ポール・マッカートニー&ウイングス)・・・アルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」収録。シングルでは英国9位、米国1位。愛妻リンダに捧げた甘美なバラードでストリングスのアレンジが印象的。ソロ時代のポールを代表するバラード。
3.心のラヴ・ソング(1976年、ウイングス)・・・アルバム「スピード・オブ・サウンド」収録。シングルカットされ英国2位、米国1位。ラヴソングばかり作るポールを批判する人たちへの反論。ブラス・セクション、コーラスのアレンジや、ポールの弾くベースに注目。
4.バンド・オン・ザ・ラン(1973年、ポール・マッカートニー&ウイングス)・・・同名アルバム収録。シングルカットされ英国3位、米国1位。ウイングス時代のポールを代表するキャッチーな曲で、3つの部分をくっつけた傑作。
5.ジェット(1973年、ポール・マッカートニー&ウイングス)・・・アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」収録。シングルカットされ英米ともに7位。コンサートの定番曲ともなっている痛快なロックンロールで、タイトルは当時飼っていた犬の名前から。
6.007/死ぬのは奴らだ(1973年、ウイングス)・・・同名の007シリーズの映画の主題歌。シングル発売され英国9位、米国2位。衝撃的な展開を持つユニークな曲で、プロデューサーはビートルズ時代と同じジョージ・マーティン。
7.アナザー・デイ(1971年、ポール・マッカートニー)・・・ポール初のソロ・シングルで英国2位、米国5位。リンダとのコーラスが心地よいアコースティックナンバー。
8.エボニー・アンド・アイボリー(1982年、ポール・マッカートニー&スティービー・ワンダー)・・・アルバム「タッグ・オブ・ウォー」収録。シングルでは英米ともに1位。黒人と白人をピアノの鍵盤にたとえその調和を願って歌った曲で、スティービー・ワンダーと共演して話題になった。
9.あの娘におせっかい(1975年、ウイングス)・・・アルバム「ヴィーナス・アンド・マース」収録。ポールらしいポップでファンには人気が高い。シングルカットされ英国6位、米国1位。サックスはトム・スコット。このアルバムにはシングルヴァージョンを収録。
10.ひとりぽっちのロンリー・ナイト(1984年、ポール・マッカートニー)・・・ポールが自作自演した劇場用映画「ヤァ!ブロード・ストリート」の主題歌で同名サントラ収録。シングルでは英国2位、米国6位。ポールお得意の甘いムード漂うバラード。このアルバムにはシングルヴァージョンを収録。
11.恋することのもどかしさ(1970年、ポール・マッカートニー)・・・ファースト・ソロアルバム「マッカートニー」収録。シングルカットはされなかったがファンの間でもっとも人気の高い曲。ピアノを弾きながら歌う力強いヴォーカルが印象的なバラード。
12.グッドナイト・トゥナイト(1979年、ウイングス)・・・シングル発売され英米ともに5位。当時の流行だったディスコを下敷きにしながらもスパニッシュ・ギターを入れるなどポール流の音楽になっている。ウイングス末期のヒットナンバー。
13.パイプス・オブ・ピース(1983年、ポール・マッカートニー)・・・同名アルバム収録。シングルカットされ英国1位。平和への願いを込めた曲で、少年合唱隊によるコーラスをフィーチャーしたワールド・ミュージック風のポップ。プロデューサーはジョージ・マーティン。このアルバムにはシングルヴァージョンを収録。
14.夢の旅人(1977年、ウイングス)・・・シングル発売され英国1位、当時の売り上げ記録を更新した。デニー・レイン(ウイングス)との共作で、いかにも英国受けしそうなスコティッシュワルツ。地元バンドによるバグパイプをフィーチャーしている。タイトルはポールの農場のあるスコットランドの岬の名前。
15.マイ・ブレイヴ・フェイス(1989年、ポール・マッカートニー)・・・アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」収録。シングルカットされ英国で18位、米国で25位。エルビス・コステロとの共作で、ポール自身'60年代風と言う曲。他のベスト盤には未収録。
16.ジュニアズ・ファーム(1974年、ポール・マッカートニー&ウイングス)・・・シングル発売され米国3位。当時レコーディングのために赴いていたナッシュビル(米国)で知り合ったセッション・マンの農場について歌った曲で、ポールのスキャットが楽しいロックンロール。
17.明日への誓い(1993年、ポール・マッカートニー)・・・アルバム「オフ・ザ・グラウンド」収録。シングルカットされ英国で18位。ポールらしい楽観的な歌詞を持つ希望にあふれた曲。邦題はビートルズ時代の『今日の誓い』にちなんだものか。他のベスト盤には未収録。
ところで思ったんですけど、このアルバムの曲順の一部(4〜5、6〜7、8〜10)が「オール・ザ・ベスト」の曲順と同じことにびっくり。でも全体的な順番はシャッフルされていて、あまり不自然さは感じさせません。