Paul McCartney/ポール・マッカートニー
All The Best ! [UK Version]
オール・ザ・ベスト[英国盤]
 1.Jet  ジェット  4'08"
 2.Band On The Run  バンド・オン・ザ・ラン  5'11"
 3.Coming Up  カミング・アップ  3'51"
 4.Ebony And Ivory  エボニー・アンド・アイボリー  3'41"
 5.Listen To What The Man Said  あの娘におせっかい  3'54"
 6.No More Lonely Nights  ひとりぽっちのロンリー・ナイト  4'38"
 7.Silly Love Songs  心のラヴ・ソング  5'54"
 8.Let 'Em In  幸せのノック  5'09"
 9.C Moon  C・ムーン  4'32"
10.Pipes Of Peace  パイプス・オブ・ピース  3'23"
11.Live And Let Die  007/死ぬのは奴らだ  3'11"
12.Another Day  アナザー・デイ  3'41"
 * Maybe I'm Amazed  ハートのささやき  3'48"
 * Goodnight Tonight  グッドナイト・トゥナイト  4'18"
13.Once Upon A Long Ago  ワンス・アポン・ア・ロング・アゴー  4'09"
14.Say Say Say  SAY SAY SAY  3'55"
 * With A Little Luck  しあわせの予感  5'45"
15.My Love  マイ・ラヴ  4'08"
16.We All Stand Together  ウイ・オール・スタンド・トゥゲザー  4'23"
17.Mull Of Kintyre  夢の旅人  4'43"
(「ハートのささやき」「グッドナイト・トゥナイト」「しあわせの予感」はCD未収録)
発売年月日:1987年11月2日(英国・Parlophone PMTV 1)
チャート最高位:英国2位・米国62位
全体収録時間:73'00"
本ページでの解説盤:1995年再発売版(フランス・EMI CDP 7 48507 2)
『オール・ザ・ベスト[英国盤]』

 

 ウイングス時代の『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』(1978年)以来9年ぶりとなる、ビートルズ解散後のポールのソロ・キャリアをまとめたベスト盤。英国では、アナログ盤2枚組とCD1枚組の2種類のフォーマットが同時発売されましたが、CDでは「ハートのささやき」「グッドナイト・トゥナイト」「しあわせの予感」の3曲がオミットされ、アナログ盤(及びカセット・テープ)よりも収録曲数を減らした形でのリリースでした。また、アナログ盤・CD共に英国盤と米国盤では収録曲が一部異なり、日本を含む多くの国では英国盤の曲目を採用しています。英国盤は後年何度か再発売されていますが、1993年の「ザ・ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズでは選外となるなどデジタル・リマスタリングされたことはありません。

 以下、このページでは英国盤(=日本盤)を基にアルバムを解説してゆきます。米国盤の解説はこちらから。

 【アルバム制作・発売】

 ポールが自身2枚目のベスト盤を発売したのは、ソロ・アルバム『プレス・トゥ・プレイ』の発表から1年が過ぎた1987年のことです。1986年8月からポールは、フィル・ラモーンをプロデューサーに迎え『プレス・トゥ・プレイ』の次なるアルバムの制作に着手し、1987年春にかけて13など10数曲をレコーディングしましたが、音楽的見解の相違が原因でポールとラモーンが喧嘩別れしたため暗礁に乗り上げてしまいました。しばらくして、エルビス・コステロを作曲パートナーに指名した上でアルバムは仕切り直され、秋にはセッションが再開されたものの、とても年内に新作を送り出せる状況にはありませんでした。

 そこでポールが引っ張り出してきたのが、過去のアルバムのセッションでお蔵入りになってしまった曲たちをまとめた未発表曲集『コールド・カッツ』です。『コールド・カッツ』は1974年頃に構想され、ウイングスのメンバーと共に断続的に編集作業を行ってきた作品で、1978年にはヒット曲と未発表曲による2枚組のベスト盤『ホット・ヒッツ・アンド・コールド・カッツ』として結実しかけたほどですが、レコード会社の反対やウイングス解散によって完遂できずにいました。1986年秋、ポールは『コールド・カッツ』のテープを久々に聴き直し、リチャード・ナイルズに各曲のアレンジを依頼します。収録曲を若干入れ替え、「ママズ・リトル・ガール」「ア・ラヴ・フォー・ユー」「ブルー・スウェイ」など14曲の未発表曲に磨きがかけられると、翌年8月にはロンドンのエア・スタジオで共同プロデューサーにクリス・トーマスを招き再度リミックスが施されました。

 ところが、5月に新マネージャーに就任したリチャード・オグデンが待ったをかけます。『プレス・トゥ・プレイ』がポールのキャリア史上最悪の売上不振に陥ったことを踏まえて、今はコアなファン向けの未発表曲集よりも、知名度の高いヒット曲を集めたベスト盤で挽回を図るのが賢明と判断したためでした。こうして『コールド・カッツ』の計画は放棄され(そのまま数年後に完全に頓挫)、一転してベスト盤の編集に取りかかることに。9月の定例会議でポールがレコード会社のEMIに提示した時点では全21曲を収録予定で、『コールド・カッツ』に収録するつもりだった「Waterspout」という曲(ウイングスのアルバム『ロンドン・タウン』セッションのアウトテイク)が含まれていました。この曲はアナログ盤B面の冒頭(の直前)に配置されていましたが、なぜか土壇場で曲目から外され、その後現在に至るまで公式未発表です。

 

 アルバム・ジャケットのアートワークは表裏が一体で、愛用するリッケンバッカーのベースとたたずむポールをモノクロで写したもの(撮影はティム・オサリバン)。その上に、デザイナーのマイケル・ロスら8人による収録曲各曲をイメージしたイラスト・アイコンが散りばめられています。アナログ盤とCD、英国盤と米国盤ではジャケット・サイズや曲目が異なるため、写真のトリム範囲やイラスト・アイコンの種類と数などにそれぞれ違いが見られます。見開きジャケット内側には様々な時代のポールとリンダの写真の寄せ集めを配し、その横に収録曲のクレジットを初出のアルバム/シングルのアイコンと共に掲載(CDのブックレットでは写真の数を減らした寄せ集めのみ)。インナー・スリーブには各曲の歌詞と先述のイラスト・アイコンが印刷されています。

 実写のポールがイラスト・アイコンのアニメーションと触れ合う、ユニークな演出のTVCMを引っさげて『オール・ザ・ベスト』は11月(米国では12月)に発売されます。CMの宣伝効果が抜群だった英国では、ジョージ・マイケルの『フェイス』とトゥ・パウの『ブリッジ・オブ・スパイズ』に相次いで首位を阻まれたものの2週連続2位を記録するヒットとなりました。ポールのアーティスト・パワーが弱まっていた米国では62位止まりでしたが、後にダブル・プラチナを獲得しています。また、同月にシングルカットされたアルバム唯一の新曲13も英国でベスト・テン入りを果たしました。ポール本人もアルバムの売り込みに意欲的で、発売直後から1988年初頭にかけて世界各地のTV番組やコンサートに頻繁に出演し収録曲を披露。例として日本の音楽番組「夜のヒットスタジオ」(1987年11月18日放送、13を演奏)や英国BBCのトーク・ショー「ウォーガン」(1987年11月20日放送、を演奏)、イタリアで開催された「サンレモ音楽祭」最終日(1988年2月27日、13を演奏)を挙げられますが、そのバック・バンドには、水面下で進んでいた新作『フラワーズ・イン・ザ・ダート』のレコーディングで中心的な役割を担ったヘイミッシュ・スチュアートとクリス・ウィットンの姿もありました。

 【収録内容】

 冒頭で触れた通り、この『オール・ザ・ベスト』は英国盤と米国盤でそれぞれ独自の曲目・曲順を採用しています。具体的には、英国盤に10131617が収録される一方、米国盤には「ジュニアズ・ファーム」「アンクル・アルバート〜ハルセイ提督」「グッドナイト・トゥナイト」「しあわせの予感」が代わりに収録されているのです(ただしアナログ盤では英国盤にも後者2曲が含まれ、さらに米国盤にない「ハートのささやき」も収録)。選曲にあたり英米各国でのシングルのヒット状況を反映させたことがその要因で、特に全米ヒットだけを寄せ集めたいキャピトル・レコードの思惑に配慮した形でした。例えば、英国でクリスマス商戦を制した1017が米国ではB面扱いだった反面、米国でのNo.1ヒット「アンクル・アルバート〜ハルセイ提督」は英国ではシングル自体未発売。に至っては英国でスタジオ・ヴァージョンが、米国でライヴ・ヴァージョンがヒットしており、このベスト盤にはヒットした方をそれぞれ収録しています。

 以上を踏まえて英国盤の収録曲を見てみると、CD収録の17曲はいずれも英国でシングル発売され、同地で10位以上のヒットを記録しています。うち3曲は全英No.1を獲得。13は本作で初めて陽の目を浴びた未発表の新曲で、ボーナス・トラックのような存在でしたが、シングルが最高10位まで上昇し結果的に「オール・ザ・ベスト」の名に恥じぬ成績を収めています。その13を除くとソロ・デビューシングル12(1971年)からウイングス時代を経て16(1984年)までが英国盤CDの収録範囲で、当時の最新アルバム『プレス・トゥ・プレイ』からはなぜか1曲も選ばれていません。ウイングス・ナンバーが9曲(『レッド・ローズ・スピードウェイ』1曲、『バンド・オン・ザ・ラン』2曲、『ヴィーナス・アンド・マース』1曲、『スピード・オブ・サウンド』2曲、シングル3曲)、他アーティストとの共演を含むソロ・ナンバーが8曲(『マッカートニーII』1曲、『タッグ・オブ・ウォー』1曲、『パイプス・オブ・ピース』2曲、『ヤァ!ブロード・ストリート』1曲、シングル2曲、未発表1曲)と米国盤と比較してウイングス解散後の'80年代に比重が置かれているのが特徴です。CDでは3曲オミットされていることは前述しましたが、他にも「メアリーの小羊」「ハイ・ハイ・ハイ」「ワンダフル・クリスマスタイム」「ウォーターフォールズ」といった英国でのトップ10シングルや、シングルにならなかった曲たちが収録漏れなのは惜しまれる所でしょう。

 【管理人の評価】

 まず米国盤との比較ですが、このアルバムはCDでは米国盤の方がお勧めです。というのも、片方にしか収録されていない各4曲を天秤にかけた時、母国外での好成績にさほど恵まれなかった1316がある英国盤に対し、世界的にも幅広くヒットした米国盤の4曲の方が、これからポールのソロ&ウイングスを聴こうとしている方にとってより必聴だからです。アナログ盤には収録されていた3曲(それも後期ウイングスの名曲「グッドナイト・トゥナイト」「しあわせの予感」と、ファンの間で高い人気を誇るアルバム・ソング「ハートのささやき」)をオミットしている点もマイナス要素。アナログ盤の曲目であれば米国盤と比べても決して遜色ないだけに、CDにあと1曲収録可能なスペースがあるのに大変もったいないと思います。

 このベスト盤は長いこと、ビートルズ解散後のポールを知るための最初の1枚として親しまれてきました。しかし現在では、'90年代以降の楽曲やアルバム・ソングをたっぷり詰め込んだ『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』など後続のベスト盤にその役割を譲った感があり、かつ廃盤になっています。よって、今からだと入門編として強くお勧めはしませんが、シングル・チャートを賑わせていた時代のポールの代表曲を1枚に凝縮した本作の手軽さも捨て難いです。意外と、この1枚だけでも多彩なマッカートニー・ミュージックの魅力をお得意のポップやバラードからロック、テクノ、レゲエ、スコティッシュ・ワルツまで楽しむことができます。また、シングル・ヴァージョンでの収録(10)や、この英国盤でしか聴けないヴァージョンの13と、コレクターの観点からも見逃せません。秀逸なアートワークにも注目で、中でもユーモアに富んだイラスト・アイコンは各曲への興味を掻き立てることでしょう。他のベスト盤から入っても、オリジナル・アルバムを揃えた時点でポールの音楽にはまっていれば、英国盤・米国盤の両方に(!)手を伸ばしたくなるはずです。

 

 「英国盤」「米国盤」とアルバムに明記されていないため、買う際には注意が必要ですが、ジャケットのイラスト・アイコンや収録曲(英国盤は1曲目が「ジェット」)で判別が可能です。またフランスでは、1995年にスリーブ・ケース付きの特殊仕様で再発売されました(CD・ブックレットは英国盤と同じ内容)。これがなかなかオシャレで、お得感も倍増です。

 


 【曲目解説】

 1.ジェット(1973年/ポール・マッカートニー&ウイングス)

  ウイングスの最高傑作との呼び声も高いアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』収録。1974年2月にシングルカットされ、英国・米国共に最高7位。ポールの力強いヴォーカルが炸裂するロック・ナンバーで、重厚なブラス・セクションとムーグ・シンセが華を添える。タイトルの「ジェット」は当時ポールが飼っていたラブラドール犬の名前である(ただし、近年のインタビューではポニーの名前から取ったと発言)。ポールによると、カーペンターズのリチャードとカレンはこの曲の大ファンだったという。

  ウイングスのワールド・ツアー(1975年〜1976年)で初めてセットリスト入りして以来、現在に至るまでポールのライヴでは定番となっている。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 2.バンド・オン・ザ・ラン(1973年/ポール・マッカートニー&ウイングス)

  アルバム『バンド・オン・ザ・ラン』収録。1974年6月(米国では4月)にシングルカットされ、英国で最高3位・米国で1位。アルバムの大ヒットもあってウイングスの代表曲に成長した。曲調が異なる3曲を1つにまとめた組曲形式はジョン・レノンを意識したものか。メンバーが相次いで脱退した時期の録音で、ほとんどの楽器をポールが演奏しているが、その独創的なドラミングはザ・フーのキース・ムーンも絶賛した。

  コンサートではおなじみで、公式発表後はウイングスとソロ双方のツアーで必ず取り上げられている。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。オリジナル・アルバムとは冒頭2曲が逆さな英国盤の曲順は、何だか変な感じですね・・・。

 

 3.カミング・アップ(1980年/ポール・マッカートニー)

  ウイングスの活動停止中に発表したソロ・アルバム『マッカートニーII』収録。1980年4月にシングル発売され、英国で最高2位。すべての楽器とヴォーカルをポール1人で多重録音し、単調なベーシック・トラックや、シンセ・ブラスの多用は当時流行っていたテクノ・ポップの影響を受けている。ポールが1人10役を演じたプロモ・ヴィデオが、合成技術を駆使した滑稽な仕上がりで人気を博した。

  米国では、シングルB面のライヴ・ヴァージョン(ウイングスの1979年全英ツアーより)がA面扱いされ、3週連続1位を記録した。そのため、このアルバムの米国盤はライヴ・ヴァージョンの方を収録している。英国盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』と『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にもスタジオ・ヴァージョンが、米国盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』にはライヴ・ヴァージョンが収録されている。

 

 4.エボニー・アンド・アイボリー(1982年/ポール・マッカートニー&スティービー・ワンダー)

  ビートルズ時代以来久々にジョージ・マーティンがプロデュースしたソロ・アルバム『タッグ・オブ・ウォー』に収録された、スティービー・ワンダーとの共演曲。1982年3月にシングル発売され、ポールにとってはビートルズ解散後初めて英国・米国双方のシングル・チャートを制する大ヒットに。ポールとスティービーが並んで1台のピアノを弾き歌うプロモ・ヴィデオも話題を集め、'80年代のデュエット・ブームの先駆けとなった。

  曲はポールが書き、歌詞は黒人と白人をピアノの鍵盤に例えて人類の調和を願ったもの。その内容ゆえに、アパルトヘイト施政下にあった南アフリカでは放送禁止処分を受けてしまった。『ザ・グレイテスト』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 5.あの娘におせっかい(1975年/ウイングス)

  主にニューオーリンズ(米国)で制作されたウイングスのアルバム『ヴィーナス・アンド・マース』収録。1975年5月にシングル発売され、英国で最高6位・米国では首位を獲得した。ラジオ受けを意識した超キャッチーなメロディと曲調は、「ポップ」という概念の具現化そのものと言えよう。完璧なテイクを一発録りしたトム・スコットのリリカルなサックス・ソロ、ウイングスらしい美しいコーラスワーク、愛の尊さを楽観的に歌い上げた詞作など聴き所も多い。

  このアルバムには、イントロ前のポールの語りがカットされ、オリジナル・アルバムでの次曲と連結しないシングル・ヴァージョンが収録されている。『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』の各ベスト盤にもシングル・ヴァージョンが、『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』にはアルバム・ヴァージョンが収録されている。アナログ盤はここまでがA面。

 

 6.ひとりぽっちのロンリー・ナイト(1984年/ポール・マッカートニー)

  ポール自ら主演し脚本・音楽を手がけた映画「ヤァ!ブロード・ストリート」の主題歌で、同名のサントラ盤に収録。1984年9月にシングル発売され、英国で最高2位・米国で最高6位。'80年代ポールを代表するバラード・ナンバーで、甘くせつないヴォーカルを堪能できるが、そこにデヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)のハードなギター・ソロが大胆に絡み合う。コーラスはリンダとエリック・スチュワート(10cc)によるもの。なお、映画の方は大コケに終わった。

  このアルバムには、イントロのないシングル・ヴァージョンが収録されている。『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にもシングル・ヴァージョンが収録されている。

 

 7.心のラヴ・ソング(1976年/ウイングス)

  絶頂期の真っ只中にあったウイングスのアルバム『スピード・オブ・サウンド』収録。1976年4月にシングルカットされ、英国で最高2位・米国で計5週にわたり1位に輝く大ヒットになった。「ポールはバラードばかり書いてやがる」と非難する世間に反論すべく書かれた超強力ポップで、メロディアスなベース・プレイを筆頭に、華やかなストリングスとブラス・セクション、3つの異なるメロディを絶妙に織り交ぜた3声のコーラスなどの緻密なアレンジが随所で光る。

  のべ60万人近い観客動員数で大成功を収めた全米ツアー(1976年5月〜6月)では、当時の最新ヒットとしてステージを沸かせた。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 8.幸せのノック(1976年/ウイングス)

  アルバム『スピード・オブ・サウンド』収録。1976年7月(米国では6月)にシングルカットされ、英国で最高2位・米国で最高3位と「心のラヴ・ソング」に続く好成績を残した。曲自体は「お遊び歌」に近く、メロディも歌詞も至ってシンプルだが、ブラス・セクションやマーチング・ドラムなどの効果的なアレンジに力を入れている。イントロのチャイムはウェストミンスターの鐘と同じ旋律で、ポールの自宅玄関に飾ってあったベルの音。

  歌詞ではキング牧師やジョン・レノン、エヴァリー・ブラザーズなど実在する人物の名前が挙げられ、「ドアを開けて彼らを入れておやりよ」と歌われる。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 9.C・ムーン(1972年/ウイングス)

  1972年12月に「ハイ・ハイ・ハイ」との両A面シングルとして発売されたウイングス・ナンバーで、英国で最高5位・米国で最高10位まで上昇。また、歌詞が猥褻であると判断されたメイン・サイドの「ハイ・ハイ・ハイ」が英国BBCから放送禁止を食らったため、この曲の方がラジオでたくさん流れた。ポールが愛聴するレゲエをほうふつさせる陽気な仕上がりで、トランペットやシロホンが楽しい。タイトルの「C・ムーン」とは「物分かりのいい人」を意味するポール流の造語。

  ポールとリンダはこの曲を常々お気に入りに挙げてきており、その証拠にポールのコンサートではリハーサルやサウンドチェックでの十八番として今なお頻繁に演奏されている。このベスト盤に「ハイ・ハイ・ハイ」を差し置いて収録されているのもポールのご贔屓ゆえ。ベスト盤『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』にも収録されている。

 

 10.パイプス・オブ・ピース(1983年/ポール・マッカートニー)

  『タッグ・オブ・ウォー』の姉妹作にあたる同名のソロ・アルバムに収録。1983年12月にシングルカットされ、見事全英No.1(2週連続)を手にした。米国ではB面に回され注目されず、このアルバムの米国盤にも未収録である。愛と平和の大切さを訴えかけたメッセージ・ソングで、「世界中の子供たちのために書いたんだ」とポールは語る。ワールド・ミュージック風の楽器編成に、様々な音色の「パイプ」や児童合唱団のコーラスをフィーチャーした。

  感動的なプロモ・ヴィデオは、第一次世界大戦時のクリスマス休戦における英国兵とドイツ兵の交流を丁寧に再現したもの。このアルバムには、冒頭のSEをカットしたシングル・ヴァージョンが収録されている。『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』の各ベスト盤にもシングル・ヴァージョンが、『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』にはアルバム・ヴァージョンが収録されている。アナログ盤はここまでがB面。

 

 11.007/死ぬのは奴らだ(1973年/ウイングス)

  ご存知、同名の007映画の主題歌。1973年6月にウイングス5枚目のシングルとして発売され、英国で最高9位・米国で最高2位。共同プロデューサーはジョージ・マーティン。「バンド・オン・ザ・ラン」のように複数のパートを組み合わせていて、ピアノ・バラードで始まりオーケストラを交えたアップテンポのインスト、そしてリンダが思いついたレゲエ調の中間部とスリリングに展開してゆく。

  ポールのコンサート・ツアーでは終盤の盛り上げ役としてほぼ毎回登場し、マグネシウム花火とレーザー・ビームを投入した派手な舞台演出が繰り広げられる。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 12.アナザー・デイ(1971年/ポール・マッカートニー)

  ポールのソロ・キャリアで最初のシングルに選ばれたポップ・ナンバー。1971年2月に発売され、英国で最高2位・米国で最高5位。ビートルズの「ゲット・バック・セッション」の頃に書き始め、ニューヨークのスタジオでデヴィッド・スピノザとデニー・シーウェル(後にウイングスの初代ドラマー)を迎えて録音した。ポールとリンダの最初の共作曲でもあり、2人の美しいハーモニーを存分に味わえる。

  孤独なOLの日常を描いた物語風の詞作はポールならではで、シーウェルは「ニューヨークのエリナー・リグビー」と評している。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

   * ハートのささやき(1970年/ポール・マッカートニー)

  記念すべきソロ・デビューアルバム『ポール・マッカートニー』収録(当初の邦題は「恋することのもどかしさ」)。結婚したての愛妻リンダへの想いを熱唱したソウルフルなバラードで、演奏はポールのワンマン・レコーディングである。1970年当時はシングル発売されなかったが、1976年全米ツアーの音源をまとめたウイングスのライヴ盤『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』から1977年2月にシングルカットされ、英国で最高28位・米国で最高10位まで上昇した。コンサートで息が長いこともあり、ファンの間で最も親しまれているマッカートニー・ナンバーの1つ。

  このアルバムの英国盤CD及び米国盤では、この曲はオミットされている。また、このアルバムではアーティスト名が「ウイングス」とクレジットされているが、収録されているのはライヴ・ヴァージョンではなく、オリジナルのスタジオ・ヴァージョンの方である。『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

   * グッドナイト・トゥナイト(1979年/ウイングス)

  幾多のメンバーチェンジを経て最終ラインアップに生まれ変わったウイングスの第1弾シングルで、1979年3月に発売され英国・米国共に最高5位。新し物好きなポールが折からのディスコ・ブームに乗っかり、スパニッシュ・ギターやパーカッションをふんだんに加えてダンサブルかつ刺激的に仕上げた。一方、プロモ・ヴィデオではオールド・スタイルの正装でステージに立つウイングスが登場する。

  このアルバムの英国盤CDでは、この曲はオミットされている(米国盤はアナログ盤・CD共に収録)。『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 13.ワンス・アポン・ア・ロング・アゴー(1987年/ポール・マッカートニー)

  1987年3月に録音され、このベスト盤で初公開された未発表曲。アルバム発売の2週間後にシングルカットされ、英国で最高10位に食い込んだ。元々はフィル・ラモーンのプロデュースによるニュー・アルバム(通称『The Lost Pepperland Album』)のために用意されたが、その計画が白紙になり、最終的にはジョージ・マーティンにミキシングを任せて完成にこぎつけた。物悲しい音作りが涙を誘うAORバラードで、ナイジェル・ケネディがバイオリン・ソロでゲスト参加している。

  ここに収録されているのは、シングルとはエンディングが異なるいわば「アルバム・ヴァージョン」で、ヴォーカルが入らないままギター・ソロと共にフェードアウトする(このアルバム独自のヴァージョン違い)。米国では新曲に需要はないと判断され、このアルバムの米国盤から収録漏れになったどころか、シングル発売すらかなわなかった。アナログ盤はここまでがC面。

 

 14.SAY SAY SAY(1983年/ポール・マッカートニー&マイケル・ジャクソン)

  アルバム『パイプス・オブ・ピース』収録。同時期に制作されたアルバム『スリラー』で大成功を収めることになるマイケル・ジャクソンとの共作・共演曲で、マイケルの方から「一緒にヒット曲を作りませんか?」と誘ってきたという。その言葉通り、1983年10月にシングル発売されると英国で最高2位・米国では6週連続1位に輝いた。数年後に仲たがいするまで、2人は他にも「ガール・イズ・マイン」「ザ・マン」(前者は全英8位・全米2位)で共演している。

  ポールとマイケルが偽薬売りに扮し、手品やダンスを披露した大がかりなプロモ・ヴィデオも強烈な印象を残した。アルバム『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』には、2015年に発表されたリミックス・ヴァージョンが収録されている。

 

   * しあわせの予感(1978年/ウイングス)

  カリブ海に浮かぶヨットをスタジオ代わりに使用したウイングスのアルバム『ロンドン・タウン』収録。1978年3月にシングル発売され、英国で最高5位・米国で2週連続1位。ユニークなコーラスの繰り返しと、ポールの持ち前である前向きな詞作がヒットの要因であろう。ウイングスとしては数少ないシンセ・ポップで、'70年代後半の英国を席巻していたパンクの潮流に逆らった柔らかなサウンドが心地よい。

  このアルバムの英国盤には約6分のアルバム・ヴァージョンが収録されているが、CDではオミットされている。一方、米国盤はアナログ盤・CD共に約3分のDJエディットを収録している。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』にもアルバム・ヴァージョンが、『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にはDJエディットが収録されている。私が一番好きなマッカートニー・ナンバーで、このアルバムでのイラスト・アイコン(「幸運」つながりで馬の蹄鉄)もかわいらしくてお気に入りです。

 

 15.マイ・ラヴ(1973年/ポール・マッカートニー&ウイングス)

  初期ウイングスの名盤『レッド・ローズ・スピードウェイ』収録。1973年3月にシングル発売され、英国で最高9位・米国ではウイングス初のNo.1シングルとなった。多くの著名アーティストがカヴァーし、いまやスタンダード・ナンバーの域に達したと言えるバラードの傑作で、リンダへの愛をストレートに歌い込んでいる。甘美なオーケストラはオーバーダブではなく、バンドの演奏と同時に録音された。

  白眉である間奏のギター・ソロは、メンバーのヘンリー・マッカロクが本番の最中にアドリブで弾き、完璧主義者のポールをも感嘆させたフレーズがそのまま採用された。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。

 

 16.ウイ・オール・スタンド・トゥゲザー(1984年/ポール・マッカートニー&フロッグ・コーラス)

  ポールが映画化版権を持つ漫画「くまのルパート」を基にした短編アニメ映画「ルパートとカエルの歌」の主題歌。1984年11月に英国でのみシングル発売され、最高3位のスマッシュ・ヒットに。映画の方も1984年度英国アカデミー賞の短編アニメ部門を獲得。レコーディングは1980年に済んでいて、プロデューサーのジョージ・マーティンが瑞々しいオーケストラ・アレンジを施した。ポールのヴォーカルは第1節のみで、後は聖歌隊と合唱団がカエルの鳴き声を模したコーラスを朗らかに歌う。

  このアルバムの米国盤に収録されなかったため、米国では長いこと未発表の状態になってしまった。ベスト盤『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』(デラックス・エディションのみ)にも収録されている。私が英国盤よりも米国盤を勧める理由の1つが、この曲の存在だったりします(汗)。決して陳腐な曲ではないのだけれど、優先度が明らかに低いので・・・。

 

 17.夢の旅人(1977年/ウイングス)

  タイトルの「キンタイヤ岬」はポールの農場があるスコットランドに実在する景勝地で、そこへの郷愁を歌ったアコースティックなスコティッシュ・ワルツ。1977年11月にシングル発売され、ご当地の英国では9週連続1位を記録した上に、それまでのシングル売上最高記録を発売後たった2ヶ月で塗り替える空前の大ヒットとなった。ウイングス時代の相棒だったデニー・レインとの共作で、彼の提案により象徴的なバグパイプ・バンドの演奏が加えられた。

  B面扱いされた米国では全くヒットせず、このアルバムの米国盤にも未収録である。『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』『ザ・グレイテスト』『夢の翼〜ヒッツ・アンド・ヒストリー〜』『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』の各ベスト盤にも収録されている。蛇足ですが、私が所持するすべてのCDの中で初めて傷による音飛びを起こしたのがこの英国盤で、この曲だけが壊滅的な被害に遭ったという苦い思い出があります(苦笑)。それほど聴き込んでいたということですね。

 

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