Wild Life Sessions

(2010.5.30更新)

 

 1.1882 (Piano Demo) 3'26"
 2.1882 (Piano Demo) 4'25"
 3.Dear Friend (Piano Demo) 4'49"
 4.Dear Friend (Piano Demo) 2'02"
 5.Dear Friend (Piano Demo) 1'03"
 6.Mumbo 3'56"
 7.Bip Bop 4'26"
 8.Wild Life  0'26"
 9.Some People Never Know 6'50"
10.I Am Your Singer 2'14"
11.Tomorrow (Instrumental Version) 3'36"
12.The Great Cock And Seagull Race 4'06"
13.The Great Cock And Seagull Race (with Overdub) 3'38"
14.Seaside Woman (Piano Demo)  3'55"
15.Seaside Woman (Guitar Demo) 2'27"
16.Seaside Woman (Guitar Demo) 4'15"
17.Indeed,I Do 4'08"
18.Blackpool  4'16"
19.African Yeah Yeah 4'47"
全体収録時間:69'23"

 ポールがビートルズ解散後結成したウイングスの記念すべきデビュー・アルバム「ウイングス・ワイルド・ライフ」(1971年)。ギターにデニー・レイン、ドラムスにデニー・シーウェルをメンバーとして迎え制作されたこのアルバムは、よく知られるように3日間ですべてのレコーディングを終えてしまいました。ポールがウイングスの活動を早く開始させたかったゆえの急ピッチぶりでしたが、生まれたばかりのバンドによるラフな感じの演奏が災いしてチャートでは失敗。それゆえに、その後のウイングスの諸作品と比べて地味な存在に甘んじています。しかし、ラフな中にも勢いが感じられるグルーヴィーなロック・サウンドと、『Tomorrow』『Dear Friend』といったバラードの佳曲が現在徐々にですが再評価されつつあります。

 3日間で済まされた「ウイングス・ワイルド・ライフ」のレコーディング・セッションは、短期間ゆえにアウトテイクがほとんど発見されていません。初期ウイングスの雰囲気を知る上で不可欠な音源だけに流出していないのが残念ですが、そんな中で現在発見されているアウトテイクを可能な限り網羅したのが、このブート「Wild Life Sessions」(misterclaudelレーベル、mccd-12)です。このブートには、「ウイングス・ワイルド・ライフ」のスタジオ・アウトテイクはもちろん、収録曲の別ヴァージョン、ウイングス結成前後の1970年〜1972年に録音されたデモテープやジャム・セッションもあわせて収録されています。

 内容を見てゆきましょう。まずは、ウイングス結成以前(さらにはアルバム「ラム」発売前)の1970年に録音されたピアノ・デモで始まります。デモ自体は直接「ウイングス・ワイルド・ライフ」に関係あるものではありませんが、アルバムに収録されることとなる『Dear Friend』が演奏されています。公式テイクよりもシンプルな演奏なのが新鮮です。また、未発表曲『1882』も同時に披露されています。

 続いて、本ブートのハイライトである「ウイングス・ワイルド・ライフ」セッションのアウトテイク。1971年8月のセッションから、曲数は少ないものの現在発見されているものはすべて網羅しています。とはいえ、明らかな別テイクはわずかで、目新しさはそれほどありません。別テイクである『Wild Life』も一部分しか収録されていません。しかし、オリジナルのスピードでのヴォーカルが聴ける『Bip Bop』や、ミックスがかなり異なる『Some People Never Know』は注目に値します。また、関連音源として収録曲『Tomorrow』のインスト・ヴァージョンを収録。この時期の録音ではないですが、コアなファンの間では有名なものです。

 その次は、ウイングスのシングルに収録予定だったインスト『The Great Cock And Seagull Race』を2ヴァージョン収録。1971年12月の録音と言われています。ウイングスの実験的アプローチが楽しめます。そして最後は、ウイングス結成当初の1971年〜1972年に録音された数々のデモテープやジャム・セッションを一挙網羅。いずれも未完成状態だったり気ままな即興だったりするので、マニアでないと少し退屈する面もあるかもしれません(汗)。しかし、曲が完成するまでの舞台裏や、初期ウイングスの和気あいあいとした雰囲気を垣間見ることができる貴重なテイクです。中でも、ポールのポップな魅力が満載の『Indeed,I Do』、後年もたびたび取り上げている未発表曲『Blackpool』のオリジナル・ヴァージョンは割と完成度が高く、公式発表されてもおかしくないレベルで必聴です。

 このブートに収録されている音源のほとんどは未完成のデモテープやジャム・セッションのため、ブート初心者の方にはあまりお勧めできません。スタジオ・アウトテイクも、公式テイクとさほど変わり映えのないものが大半で、過度な期待をすると裏切られます・・・。しかし、このブートを通じて、'70年代に大活躍を遂げるウイングスが最初に翼を広げた、まさにその時の知られざる裏側を知ることができます。ウイングスのファンにとっては重要な資料的記録なのです。また、ポールがどのようにして曲を書き、仕上げてゆくかもよく分かります。いくつか注目すべきテイクや未発表曲も収録されていて、ポールのことをもっと知りたい方には必携となります。もちろん、「ウイングス・ワイルド・ライフ」が好きな方にもお勧め。ポールのスタジオ・アウトテイクを収集されている方にもお勧め。ウイングス黎明期の魅力をお楽しみください。


1.1882 (Piano Demo)

 まずは、1970年に録音されたピアノ・デモ。ウイングス結成以前、アルバム「ラム」セッション直前と思われる。自宅での録音と思われ、ポールのヴォーカルやシンプルなピアノ演奏、そして自宅の物音が生々しい。この曲は、後にウイングスのアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションで正式に取り上げられたと言われているが未発表のままである(スタジオ・アウトテイクはブートでも発見されていない)。初期ウイングスのライヴで演奏されており、ブルースの影響をもろに受けたハードなバンドサウンドになっているが、ここで聴かれるのはピアノ弾き語りでイメージが全く異なる。1882年の混沌とした家庭環境を歌った物語風の歌詞はほぼ完成している。

2.1882 (Piano Demo)

 同じく、『1882』のピアノ・デモ。基本的には前トラックと変わりない演奏だが、一番の違いはリンダがコーラスをつけている点であろう。あまり明瞭ではないが、ポールのそばにはいつもリンダがいたことをうかがわせる。また、この時点で歌詞がすべて完成している。

3.Dear Friend (Piano Demo)

 「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録曲で、実質的なラスト・ナンバー。公式テイクは既に「ラム」セッションで録音されていたと言われる。1970年にこのピアノ・デモが録音されていることでそれが証明された格好。公式テイクはピアノ弾き語りに中盤以降オーケストラが入るアレンジだが、ここでは完全にピアノ弾き語りで公式テイク以上に物悲しさが漂っている。単純な曲構成や、ファルセット風ヴォーカルは公式テイクに通じるが、アドリブによるスキャットもふんだんに入れている。後ろでは子供たちのはしゃぎ声やリンダの話し声が聞こえていて、いかにもホーム・レコーディングといった感じである。

4.Dear Friend (Piano Demo)

 同じく、『Dear Friend』のピアノ・デモ。基本的には前トラックと変わりない演奏だが、ここでは演奏時間が約2分と短い。雰囲気はかなり公式テイクに近い。

5.Dear Friend (Piano Demo)

 引き続き、『Dear Friend』のピアノ・デモ。リンダが電話している声がはっきりと聞こえる。演奏の方は、ここではさわり部分しか演奏していなく、ヴォーカルは入っていない。

6.Mumbo

 続いては、1971年8月にロンドンで行われた「ウイングス・ワイルド・ライフ」セッションのスタジオ・アウトテイク。まずこの曲は、「ウイングス・ワイルド・ライフ」のオープニング・ナンバー。ここに収録されているのはラフ・ミックスで、基本的には公式テイクとは変わりないが部分的に公式テイクでは聴くことのできない演奏やヴォーカルを楽しむことができる。後半にポールのワイルドなアドリブ風シャウトがあったり、リズミカルなピアノ・フレーズがあるのが新鮮。また、冒頭は公式テイクのようにエンジニアへの掛け声“Take it,Tony!”では始まらず、ポールが“Hello,can you hear me?”と語りかけ、テープを再生するかのように曲が始まるという流れになっている。

7.Bip Bop

 「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録曲。ポールのハスキーで風変わりなヴォーカルが楽しめる曲だが、これはテープの回転速度を落として録音されたもの。ここには、実際にポールが歌ったものと同じオリジナルのスピードでの演奏を収録。ポールの声質がよりナチュラルに響く。一方、演奏やリンダのコーラスは実際よりもスピードが落ちているため、ここでは逆に変に聞こえます(笑)。ラフなモノラル・ミックスで収録。

8.Wild Life

 「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録曲。ここには別テイクを収録している・・・が、残念ながら断片のみで合計30秒ほどしか聴くことができない(イントロと中盤)。完全版が発見されることを願わんばかりです。

9.Some People Never Know

 「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録曲。ここに収録されたのはラフ・ミックス。基本的には公式テイクと同じだが、部分的にミックスが大幅に異なる興味深い音源。1回目の間奏前にはポールの掛け声が入っている。また、公式テイクよりもフェードアウトが遅くエンディングのパーカッション・ソロを長く聴くことができる。そして最大の違いが、3度目の“Some people can sleep at night-time〜”(4分過ぎ)のミックス。公式テイクでは、この部分はポールのヴォーカルがミキシングのミスからかオフ気味になっていてコーラスが強調されているが、ここでは逆にポールのヴォーカル(リンダのハーモニー・ヴォーカルつき)が大きく入っていて、コーラスが全く入っていない。また、キーボードと思われる音がヴォーカルと同じメロディを奏でている(公式テイクにはない)。

10.I Am Your Singer

 「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録曲。ここにはラフ・ミックスを収録。基本的には公式テイクと同じ演奏で変わり映えがないが、各楽器の配置が一部異なる。

11.Tomorrow (Instrumental Version)

 「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録曲。ここに収録されたのは全くの別テイクで、レコーディングされた時期も1975年のアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」のセッションであるが、関連音源として本ブートに加えられている。なぜオリジナルのレコーディングから4年後に突然再演したのかは不明だが、面白いことに、このヴァージョンはインストである上に直球のレゲエ・アレンジで演奏されている。ずいぶん大胆なアレンジです。ヴォーカルのメロディはムーグ・シンセと渋いブラス・セクションで奏でられており、オリジナルと全く違う雰囲気が面白いです(笑)。所々にはポールの掛け声が入る。このヴァージョンは、有名な未発表曲集「Cold Cuts」に収録予定(1978年ヴァージョンのみ)だったこともあり、コアなファンの間では結構知られています。個人的には、オリジナルよりこっちの方がお気に入りです(苦笑)。

12.The Great Cock And Seagull Race

 1971年12月にニューヨークで行われたウイングスのレコーディング・セッションで録音されたと言われている未発表のインスト・ナンバー。シングルのB面用に用意されたという説が一般的。ブートでは「Rooster」「Breakfast Blues」という表記がされる場合もある。ミドルテンポのシャッフル調のブギーで、軽快でテクニカルなギター・サウンドを中心にピアノやキーボードがフィーチャーされた、割としっかりしたバンドサウンド。冒頭には鶏や海鳥の鳴き声が入っており、それがタイトルのゆえんであろう。インストのためあまり評価はされづらいですが、陽気な雰囲気が出ていてシングルB面なら公式発表してもよかったのでは、と思います。

13.The Great Cock And Seagull Race (with Overdub)

 先の『The Great Cock And Seagull Race』に、オーバーダブを加えたもの。演奏のピッチがやや高く、そのためテンポが速くなっている。新たなギター・フレーズ、ポールのカウント、リンダやデニーのコーラスなどが加えられていて、全体的に賑やかになっている。逆に、鶏や海鳥の鳴き声はカットされている。完成度はこちらの方が高いですが、オーバーダブのせいで実験的なニュアンスも高まったような気がします。

14.Seaside Woman (Piano Demo)

 最後に、ウイングス結成当初の1971年〜1972年に録音された様々なデモテープやジャム・セッションの音源。まず登場するのが、愛妻リンダが初めて作曲したレゲエタッチのナンバー。「レッド・ローズ・スピードウェイ」のセッションでリンダがヴォーカルを取る形で正式に取り上げられ、1977年に「Suzy & The Red Stripes」名義でシングル発売された。リンダの追悼アルバム「ワイド・プレイリー」(1998年)にも収録。ここには、ピアノ・デモが収録されている。恐らくポールがピアノを弾き、リンダは歌に専念している。レゲエのリズムは出来上がっているが、まだ公式テイクのような陽気さはない。歌詞は半分くらい完成している。しかし、単調なコードのピアノ演奏が延々と続く上に、肝心のリンダのヴォーカルが下手なので(笑)ずっと聴いているのは正直きつい所があります・・・。

15.Seaside Woman (Guitar Demo)

 続いても『Seaside Woman』のピアノ・デモだが、今回はピアノの上にポールの弾くアコースティック・ギターが重ねてある。ポールはリンダにあわせてコーラスも入れている。しかし、リンダのヴォーカルは相変わらず下手くそな上に、ポールまでもが素っ頓狂に音を外して歌っているので、前トラックより演奏時間が短いのに聴いているのが余計きついです・・・(汗)。公式テイクのリンダの歌い方は味があっていいのに・・・。でも、歌い終える際にリンダがおどけているのは微笑ましいですね。

16.Seaside Woman (Guitar Demo)

 またしても『Seaside Woman』のデモ。前トラックと同じく、ピアノとアコギをバックにリンダとポールが歌う。ポールがコーラスを入れ間違え、それにつられたリンダも歌詞を忘れてしまって演奏はいったん崩れ、もう一度やり直している。やり直したヴァージョンはアコギがかなり目立っている。リンダのヴォーカルの下手加減とポールの素っ頓狂な歌い方は相変わらずですが(汗)、だいぶ歌い慣れたようでハーモニーも徐々にきまりつつあるのが興味深いですね。マッカートニー夫妻の仲睦まじさも再確認できます。この『Seaside Woman』デモを3連続立て続けに聴くことは精神的ダメージを考慮して絶対にお勧めしませんが(笑)。

17.Indeed,I Do

 「ウイングス・ワイルド・ライフ」の頃に書かれたと言われる未発表曲で、当初はアルバムへの収録も計画されていたと思われる。現在聴くことができるのはポールのアコギ弾き語りによるホーム・デモで、リンダがコーラスをつけている。非常にポップ極まりないサビのメロディがいかにもポールらしいが、この時点ではメロが未完成でポールは半ば即興で歌っている。演奏は前半の「Take 1」と、ブレイクを挟んで再開される「Take 2」に分かれるが、メロのメロディ・歌詞は2テイク間で全く異なる。恐らくメロが仕上がらなかったのでボツになったと想像されますが、ポールのポップ節がたっぷりのサビのメロディや、耳に残るほどキャッチーなリンダのコーラスが素晴らしい出来なので、しっかり仕上げて発表してほしかったですね。『Eat At Home』『A Love For You』のようなほのぼの系ポップ・ロックに成長していたこと間違いなしです。

18.Blackpool

 ポールが'70年代初頭に書いたスキッフル風の曲。歌詞は英国・ブラックプールなどの情景を歌ったもの。公式未発表ながらポールお気に入りの曲らしく、「ウイングス・ワイルド・ライフ」の時期以降もたびたび取り上げている。1974年にはピアノ・デモとして残されている他、同年に行われたアビー・ロード・スタジオの裏庭でのアコギ弾き語りセッション(通称「Backyard」セッション)での演奏シーンは公式プロモ・ヴィデオ集「The McCartney Years」のメニュー画面で見ることができる。また、1984年に発売予定だったシングル「The Man」のB面に収録されることになっていた(シングルは発売中止、この時のアウトテイクは発見されていない)。このブートに収録されているのは、1972年頃にウイングスと共に演奏したリハーサル・セッションより。後の「Backyard」セッションなどと比べるとかなりスローでブルージーに響く。また、アコギを中心にしながらもキーボードや力強いドラムスをフィーチャーしたフルバンドのスタイルで演奏されている。ポールのヴォーカルも、中盤以降はシャウト交じりとなる。他にもデニー・レインがハーモニーを入れたり、リンダがわめき散らしたりとやけに楽しそう。自宅スタジオでの録音なのか、途中では犬のほえ声まで聞こえる(それを聞いた瞬間ポールが一気にテンションを高めるのが面白い)。公式発表を意識したアレンジで、この曲の一連のヴァージョンでも一番しっかりした完成度だと思います。初期ウイングスのほのぼのした雰囲気も伝わってくるし。マニアの間では有名な未発表曲なので、ファンなら必聴!

19.African Yeah Yeah

 『Blackpool』と同じ頃に録音されたウイングスのジャム・セッションで演奏された未発表の即興曲。アコースティック基調の単純な演奏の繰り返しにのせて、ポールが出鱈目に“Yeah,yeah,yeah〜”と歌い、それに呼応するかのようにリンダたち他のメンバーが野太い声で“Yeah,yeah,yeah〜”と歌う、何とも楽しい雰囲気の曲。タイトルは歌い方がアフリカっぽいからか?曲が進むにつれ微妙に歌い回しを変えているのが面白い。全体的にはどうってことない即興曲で、公式発表できるレベルではないですが、これは聴いているうちに癖になってきます(笑)。セッションに居合わせて一緒に歌いたい気分に駆られる、和気あいあいとしたウイングスが堪能できる素敵な曲です。

 

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