A Garden Full Of McCartney Roses
(2010.5.25更新)
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ポールのウイングス時代・ソロ時代のスタジオ・アウトテイクは、これまでに大量にブートとして出回っていることは周知の通りですが、最近になってからは目新しい未発表音源が発掘されることは極めて少なくなり、ごくたまに少量が発見される程度という状態が続いています。アウトテイクを収集しているポール・マニアにとっては、刺激が足りないといった所でしょうか。
ところが、2010年。世界中のコレクターを震撼させる一大事件が起きます。ウイングスのローディーをつとめていたトレバー・ジョーンズのコレクションだった未発表音源が大量に外部に流出し、ブート市場に出回ったのです。ひさしぶりにまとまったアウトテイクの登場に、歓喜の渦が沸き起こりました。その中には、ウイングスのアルバム「スピード・オブ・サウンド」の初登場となるスタジオ・アウトテイクの数々、1975年ワールド・ツアーに備えたウイングスのスタジオ・リハーサル音源も含まれていました。
さらに、流出したのはそれだけにとどまりませんでした。ビートルズを解散しポールがソロ活動を始めた1970年から、初期〜絶頂期〜後期ウイングス、そして「'80年代不振のどん底」から這い上がろうと奮闘していた1988年に至るまでの、あらゆる時期の様々なスタジオ・アウトテイクが大量に発見されたのです。そのほとんどが、これまでブートでも聴くことのできなかった初登場音源。コレクターにとっては、まさに夢のようにうれしい出来事でした。
早速、これらの音源を確保した各レーベルがこぞってスタジオ・アウトテイク集と銘打ったブートを発売しましたが、今回ご紹介するのは、オリジナルのマスター・テープからダイレクトに音源を取ったプレスCD2枚組「A Garden Full Of McCartney Roses」(misterclaudelレーベル、mccd-168/169)です。タイトル通りバラをあしらった美麗なジャケットとCDレーベルが魅力的です。
それでは、本ブートの気になる収録内容を順を追って見てみましょう。詳細は各曲解説をごらんください。
まずはDISC 1から。冒頭の『Another Day』『Hi Hi Hi』はアセテート盤収録のラフ・ミックスです。公式テイクと大差ないですが、微妙に違います。続いて初期〜絶頂期ウイングスのセッションでのアウトテイクが収録されています。この中で注目すべきは、007映画の主題歌で大ヒットした『Live And Let Die』のアウトテイクでしょう!これまでこの曲のスタジオ・アウトテイクは見つかっていなかったので大発見です。複雑な展開を見せる曲ができるまでの意外な側面が分かります。また、『Soily』は有名な「One Hand Clapping」セッションでの別テイク。レアなリミックス・ヴァージョンの『Junior's Farm』と、一大ヒット曲『Mull Of Kintyre』はオリジナル・カウントつき。
DISC 1の後半は、ウイングスのラスト・アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」セッションのアウトテイクがたっぷり収録されています。ここでも大発見があって、これまたスタジオ・アウトテイクが見つかっていなかった『Goodnight Tonight』の初期ヴァージョンは驚きの音源です。公式テイクをも凌駕するダンサブルぶりには目からうろこです。『Cage』『Getting Closer』『So Glad To See You Here』の3曲はヴォーカルなしのベーシック・トラックを収録。これももちろん初登場です。『Daytime Nightime Suffering』の初期ミックスも、既発ブートよりも若干長く聴くことができます。
続いてDISC 2には、'80年代を迎えたポールのスタジオ・アウトテイクが並びます。まず登場するのが、1980年に行われたウイングスのリハーサル音源。結果的に「タッグ・オブ・ウォー」となる次作アルバムのためのセッションで、これまでもいろいろブートで音源が出回っていましたが、ここに収録されているのはいずれも初登場音源です。ポールがメンバーにコードを教える『Take It Away』があったり、他の時代にポールが取り上げている『Mama's Little Girl』(エレクトリック・ヴァージョン!)や『Fabulous』があったりと実に興味深いです。そして中でも驚きなのが、1984年の映画「ヤァ!ブロード・ストリート」で発表される『No Values』のウイングス・ヴァージョンでしょう!この時期に既に曲があったこと自体驚きですが、それをウイングスで演奏しているのだから・・・!
その次の3曲はブートの定番としてあまりにも有名な未発表曲集「Cold Cuts」収録曲のラフ・ミックス。既発ブートより格段に音質がよくなっているのがうれしい限り。そして、ウイングス解散後仕切り直された「タッグ・オブ・ウォー」セッションのスタジオ・アウトテイク。モニター・ミックスの『Take It Away』はフェードアウトせずにしっかり締めくくる驚きのテイクです。また、単調なインストながら『New Rack』という初お目見えの未発表曲もあります。そして、恐らく本ブートで最も感動するのが、1982年にバルバドスで行われたセッションで録音された未発表曲『Runaway』でしょう!現地のグループにポールが提供した曲ですが、その存在はマニアの間でもほとんど知られていません。ここに収録されているのはそのポール・ヴァージョンですが、ファルセット・ヴォーカルが光るミドル・テンポの美しいバラードで思わずうっとりしてしまうはずです。音質も公式発表曲並みのハイクオリティ。ポール・ファンにはぜひ聴いて頂きたい、隠れた名曲です!
本ブートの最後を締めくくるのは、旧ソ連向けに発売されたロックンロールのカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」のプロモーション用に制作されたメドレーです。アルバム収録曲を紹介するために作られたメドレーですが、これが単なるメドレーと侮れないものがあります。というのも、アルバムに収録されていない未発表曲・アウトテイクがいくつか混じっているからです!例えば、後にトリビュート・アルバムのみで発表された『It's Now Or Never』、ロックンロール・アルバム第2弾「ラン・デヴィル・ラン」でカヴァーすることとなる『No Other Baby』、ビートルズ時代のカヴァーを軽く圧倒する迫力の『Lend Me Your Comb』などなど・・・。「こんな曲もカヴァーしていたの!?」とびっくりしてしまう音源がひょこっと顔を出してきます。極め付けにメドレー最後の『Ain't That A Shame』はアルバム収録のものと全く違う別テイクで、ポールがシャウトしまくっています・・・!
このように、今までの常識を軽く覆してしまうようなものすごいアウトテイクが本ブートには大量に収録されています。そのほとんどが初登場音源というのだから、未発表音源のコレクターなら必携の1枚でしょう!音質も一部を除けば極めて良好で、公式発表レベルのものも含まれています。マニアックなアセテート盤音源やベーシック・トラック、微妙なヴァージョン違いやラフ・ミックスが多いので、ブート初心者向けではないですが(汗)、ポールの未発表音源を一通り持っている人なら間違いなく魅力に感じるでしょう。ぜひこのブートで新たなコレクションを増やしてみてください。
[DISC 1]
-ORIGINAL ACETATES-
1.Another Day
このブートの冒頭を飾るのは、ポールのソロ活動初期のシングルナンバー2曲。初登場音源である、オリジナルのアセテート盤に収録されていたラフ・ミックスを収録。まずこの曲は、1971年に発売されたポールのビートルズ解散後初のシングル。基本的には公式テイクと同じで、はっきりとは分からないが微妙な別ミックス。・・・すみません、私には違いがよく分かりません(汗)。
2.Hi Hi Hi
1972年に発売されたウイングス3枚目のシングル曲。ウイングス初のヒット曲としても知られる。これまたラフ・ミックスで、基本的には公式テイクと同じだが、『Another Day』よりは違いが鮮明で分かりやすい。まず、曲の随所でギター・フレーズが一部消去されていて、オリジナルで聴き慣れていると新鮮に響く。また、テンポアップするエンディングに入っていたリンダのオルガンが完全になくなっていて、かなり印象が変わっている。ヴォーカル面にも違いがあり、リンダやデニー・レインによるコーラス(「ウー」「アー」)や、間奏前のポールの一声(「ブー」みたいな声)がなくなっている。ポールのヴォーカルには公式テイクより若干深めにエコーがかけられている。
-WINGS STUDIO SESSIONS-
3.Live And Let Die
続いては、初期〜絶頂期にかけてのウイングスの様々なスタジオ・アウトテイク。まず登場するのが、1973年のヒット・シングルでご存知007映画の主題歌。ここに収録されているのは、1972年10月に行われたアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションでの初期テイク。これまで、このテイクはおろか、この曲のスタジオ・アウトテイクは一切発見されていなかったので大変貴重である。ポールのピアノとデニー・シーウェルのドラムスのみで構成されたシンプルな演奏が新鮮。ヴォーカルやコーラスもまだけだるい雰囲気が出たラフなもの。面白いのが、中間部のレゲエタッチのパート(リンダが書いたと言われる)がこの時点では未完成であり、この部分に差し掛かると演奏がぐたぐたになってしまい終了してしまうという点。複雑な曲構成がセッション中の試行錯誤を経て完成したことをうかがわせる。ポールはメンバーと打ち合わせをした後、もう一度間奏から演奏をやり直すものの、2度目もぐだぐだになって終わってしまう。そして、3度目の正直でようやくコード進行が出来上がる(歌詞はない状態)ものの、テープが途切れているせいか残念ながらその先を知ることはできない。2度目に曲が終わった後、ポールが変な声でおどけるのが面白いですが(笑)、“Japanese ladies”と言っているように聞こえるのは気のせいでしょうか?
4.Soily
ウイングス初期に書かれた曲で、1972年〜1976年の間ウイングスのライヴで必ず演奏されていたロック・ナンバー。1976年全米ツアーの模様を収録したライヴ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」で公式発表された。ここに収録されているのは、1974年秋にアビー・ロード・スタジオで行われたウイングスのリハーサル・セッション、通称「One Hand Clapping」より。「One Hand Clapping」セッションは、この曲を含め既に数々のブートで発売されているが、ここには初登場の別テイクを収録。ロック色が色濃く出た荒々しい演奏とポールのシャウト・ヴォーカルがかっこいい。
5.Junior's Farm
1974年にジミー・マッカロクとジェフ・ブリトンを加えた新生ウイングス初のシングル曲。ここに収録されているのは、ウイングスがレコーディングの地・ナッシュビルを離れた直後にアーニー・ウィンフレーが制作したリミックス・ヴァージョンで、当時コレクター間でのみ出回った。既にブートとしても発売されているものだが、ここでは既発ブートでは聴くことのできなかったオリジナル・カウントがついている。これがまたかっこいい!アーニー・ウィンフレー・ミックス自体そうはお目にかかれない音源なので、このブートで揃えてしまいましょう。各楽器のミックスが違う上に、後半は公式テイクにはないシャウトやコーラスがたっぷり入っています!
6.Letting Go
1975年のアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」からのセカンド・シングル。ここに収録されているのはプロモ・エディット。・・・というより、シングル・ヴァージョンそのままです(汗)。もちろん、公式発表されているものであり初登場でも別段レアでもありません(ただし、公式未CD化ではありますが・・・)。
7.Mull Of Kintyre
1977年にシングル発売され英国でウイングス最大のヒットを記録した有名曲。ここに収録されているのは公式テイクのラフ・ミックスで、基本的には公式テイクとは変わりない。しかし、公式テイクではカットされてしまったオリジナル・カウントがついている(ブート初登場)。あの一大ヒット曲の元々の出だしを知ることができるのはうれしい話です。ラフ・ミックスのため、音質面で劣っているのは否めず、バグパイプのソロなんかはかなりよれよれになってしまっているのが残念ですが・・・(汗)。
-BACK TO THE EGG SESSIONS-
8.Goodnight Tonight
ここからは、ウイングスのラスト・アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」(1979年)セッションのスタジオ・アウトテイクを多数収録。まずは、アルバムに収録されず先行シングルとして発表されたヒット曲。ここには、セッション序盤の1978年に録音された初登場となるデモ・ヴァージョンを収録。これまで、この曲のスタジオ・アウトテイクは一切発見されていなかったので、歴史的な大発見と言えよう。既に構成や歌詞、基本的なアレンジは完成しているが、実験的要素をたっぷり詰め込んだこの曲の初期段階を知ることができる。全体的に12インチシングルに収録されたロング・ヴァージョンと同じ曲構成で、「幻の第2節」も登場。しかし、随所で公式テイクとは異なる演奏・ヴォーカルとなっている。まず、曲全体を通してリズムマシーンが大々的にフィーチャーされ前面に出ている。ブレイク部分もずっとリズムマシーンが鳴り続けていて、ある意味公式テイク以上にダンサブルで刺激的です!公式テイクとは異なるパーカッションがリズミカルさを強調している。2度目のスパニッシュ・ギターのソロでは、別のソロがかぶさっていて新鮮。ポールのヴォーカルも別テイクで、前半はエコーがかかっていない状態。リンダやデニーのコーラスはまだ入っていない。そして聴き所は後半。後半は公式テイクとは異なる構成で繰り返しが中心となるが、この部分ではポールが崩し歌いでシャウトします!多少流して歌っている感もありますが、実に熱くて実にかっこいい!さらには、ふざけ声がいろいろと入っていて終盤にかけて盛り上がりを見せています。エンディングはハードなギターを交えつつフェードアウトせず終了。公式テイクよりも斬新で現代的なアレンジが施されたこのヴァージョンは、このブートでも必聴の音源でしょう!『Goodnight Tonight』好きな方はぜひ!
9.Cage
「バック・トゥ・ジ・エッグ」セッションで録音されたもののお蔵入りとなり、後に幻の未発表曲集「Cold Cuts」にも収録される予定だった、知る人ぞ知る未発表曲。ファンの間では人気が高い。ここに収録されたのは、初登場となるインスト・ヴァージョン。ポールのヴォーカルと、ウイングスのコーラスが入っていない。演奏は当初のヴァージョンであり、「Cold Cuts」収録ヴァージョンとは異なる。中間部(『He Didn't Mean It』)で、ヴォーカルに隠れがちだった細かなギター・サウンドを堪能できるのがうれしい所。さぁ、みんなでカラオケしましょう!(笑)
10.Daytime Nightime Suffering (1979 Early Version)
「バック・トゥ・ジ・エッグ」セッションで録音され、シングル「Goodnight Tonight」のB面で発表された、ポールお気に入りの隠れた名曲。ここに収録されているのは初期テイク。一番の違いは中間部の追っかけコーラスが全く入っていない点であろう。これはかなり新鮮です。他にも、アカペラになる部分のミックスが違ったり、繰り返し部分のポールのヴォーカルが違ったりと、いろいろと別ヴァージョンです。既に「バック・トゥ・ジ・エッグ」もののブートに収録済みの音源だが、既発ブートにはなかったイントロ前の楽器を調整する音が入っている。
11.Daytime Nightime Suffering (Rough Mix)
『Daytime Nightime Suffering』のラフ・ミックス。ソースが違うものの、基本的には前トラックと同じ内容です(汗)。イントロ前の楽器を調整する音はない。よって、既発ブートともほぼ同じ内容。
12.Getting Closer
「バック・トゥ・ジ・エッグ」収録曲で、シングルカットもされたロック・チューン。ここに収録されているのはインスト・ヴァージョンで、初登場音源。ポールのヴォーカルと、ウイングスのコーラスが入っていない。このヴァージョンはベーシック・トラックのため、エンディングのギター・ソロなど一部の楽器がまだ入っていない。そして、エンディングはフェードアウトせずしっかり締めくくる。既に出回っているアウトテイク(デニーとポールがヴォーカルを分け合うヴァージョン)も完奏しますが、それでもフェードアウトしながらだったので、このインスト・ヴァージョンは10秒ほど長く、ようやく完全版を聴くことができるわけです。なかなかかっこいい締め方ですね。
13.Rockestra - So Glad To See You Here Again
「バック・トゥ・ジ・エッグ」収録曲で、数々のロック・アーティストが大集結したスーパー・セッション「ロケストラ」で録音された2曲(公式タイトルは『Rockestra Theme』『So Glad To See You Here』)。ここには初登場のインスト・ヴァージョンを収録。元々インストの『Rockestra Theme』はミックス違いで、エンディングではブラス・セクションが目立っていて迫力満点。ポールのアドリブ・ヴォーカルは公式テイクそして既発ブート収録のラフ・ミックス以上に出番が少なく、音量も小さい(ブレイク部分はポールのみ)。後半の『So Glad To See You Here』は、序盤にポールのラフなヴォーカルがうっすら聞こえるのみで、あとはインスト状態。インストでも迫力が落ちることがないのは、さすがロケストラといった所か。後半には公式テイクではカットされてしまった未発表の箇所が1節分存在する(既発ブート収録のラフ・ミックスと同様)。そして特筆すべきは、このインスト・ヴァージョンでは最後に連結されていた別録音の『We're Open Tonight』のリプライズが全く存在せず、そのまま終わってしまうこと。ロケストラでの演奏のみを純粋に楽しむことができます。
14.Reception
「バック・トゥ・ジ・エッグ」のオープニング・ナンバー。公式テイクは1分ほどの短い演奏だが、ここでは2分半の完全版を収録。ブレイクを挟みつつ繰り広げられるファンキーな演奏が新鮮。ラジオ放送のSEも登場箇所が違う上に未発表となってしまったものが大幅に含まれている。その中には、『The Broadcast』の朗読&BGMも大々的にフィーチャーされていて、2曲間が強くリンクされていることをうかがわせる。既に「バック・トゥ・ジ・エッグ」もののブートに収録済みの音源と同じ。
[DISC 2]
-WINGS TUG OF WAR & PIPES OF PEACE STUDIO REHEARSALS 1980-
1.Take It Away (Paul teaching the song to members)
DISC 2は、1980年のウイングスのリハーサル・セッションでのアウトテイクで幕を開ける。このセッションは、当初はウイングスとして制作が開始された次作アルバム(後の「タッグ・オブ・ウォー」となる)のために行われたものである。この時の音源はこれまで数々のブートで出回っていたが、今回発掘された音源はいずれも初登場。まずは、「タッグ・オブ・ウォー」に収録されセカンド・シングルとなるこの曲から。ウイングスで取り上げていたこと自体驚きだが、ここではポールが他のメンバーたちにエレピを弾きながらメロディやコードを教えているという興味深い音源を聴くことができる。終始メンバーやスタッフの雑談が聞こえるのが生々しい。最初はポールがサビを繰り返し繰り返し歌い(リンダがコーラスをつけている)、続いてコードを解説している。その後はメロのコードも解説し、この部分も披露。この時点で第2節までの歌詞が完成しているのが興味深い。後半になるとギター(デニー?ローレンス・ジュバー?)も加わって、メンバーが曲構成やコードを理解したことがうかがえる。
2.No Values
続いて登場するのは、1984年の映画「ヤァ!ブロード・ストリート」で発表され、同名のサントラに収録されたこの曲。それがなんと!1980年にウイングスのリハーサル・セッションで演奏されているのである。これまでの常識を覆す驚きの音源である。このテイクは、プギンズ・ホールで1980年11月7日に録音されたと言われている。公式テイクは、リンゴ・スターらが参加して荒々しいロックンロールに仕上がっているが、ここではリハーサルということもあってかずいぶんスローでまったりした演奏である。ポールのヴォーカルも即興っぽく流し歌いの状態。しかし、それでもなかなかかっこよく仕上がっているのはウイングスならでは。歌詞はこの時点で大半が完成している。構成は大きく異なり、間奏後の中間部がここでは第1節と第2節の間に入っている。中間部は未完成で、メロディ・歌詞双方がまだ出鱈目。サビのコーラスアレンジは公式テイクに似ていて、リンダやデニーがコーラスをつけている。てっきり映画のために書いた曲と思っていたので、この音源には大変驚きです。
3.Moma's Little Girl - Average Person
前半の『Moma's Little Girl』(公式タイトルは『Mama's Little Girl』)は、ウイングス初期の1972年に録音されたもののお蔵入りとなり、未発表曲集「Cold Cuts」にも収録されたが、結局は1990年のシングル「Put It There」で陽の目を見たバラード。ここでは、なんと!エレキ・ギター主体のエレクトリック・ヴァージョンで演奏されている。元々のテイクがアコギ弾き語りなので一線を画す大胆なアレンジである。しかし、これはこれで味があってなかなかいけます。ポールがお気に入りの曲らしいので、それでこの時期即興で演奏したのでしょうか?後半はポールがアドリブで歌う曲が登場するが、アルバム「パイプス・オブ・ピース」(1983年)収録の『Average Person』と言われている。確かにこの時期ウイングスでリハーサルしていた曲だし、“Average Person”という単語も登場するけど、ちょっと似ていないような・・・。テープが途切れてしまっているので全貌を知ることはできない。
4.Fabulous - Teddy Bear
チャーリー・グレイシーが1957年に発表したロックンロール。ポールは1999年にロックンロールのカヴァー・アルバム「ラン・デヴィル・ラン」のセッションでこの曲をレコーディングし、シングル「No Other Baby」のカップリングでのみ発表した。このヴァージョンは、その19年前の録音ということになり、興味深い。シンプルなバンドサウンドで、リハーサルならではの力の抜けた演奏となっている。しかし、ポールのベースラインは秀逸。ポールは軽く流しながらエルビス・プレスリー風に歌い、デニーがコーラスをつけている。
-COLD CUTS SEP. 1980 PARK GATES ROUGH MIXES-
5.Did We Meet Somewhere Before
続いては、コアなファンの間では有名な幻の未発表曲集「Cold Cuts」関連の音源。アルバムの発表に向けて1980年に2度目のリミックスが行われた際のもので、ブートでは既に定番となっているが、ここに収録されたのは初登場のラフ・ミックス。既発ブートで聴くことのできる音源と大差はないが、いずれも別ソースのため音質が格段に向上しているのがうれしい所か。まず、この曲は1978年頃にアルバム「ロンドン・タウン」セッションで録音された非常に洗練されたバラード。1979年に映画「Rock'n'roll High School」に提供されたものの、公式には未発表のままである。
6.A Love For You
1971年のアルバム「ラム」セッションで録音されたもののお蔵入りになり、「Cold Cuts」に収録された後、2003年に映画「The In-laws」のサントラでようやく公式発表された陽気なロックナンバー。公式発表されたヴァージョンとは異なるミックス。
7.Waterspout
『Did We Meet Somewhere Before?』と同じく、「ロンドン・タウン」セッションで録音されたポールらしいキャッチーなポップナンバー。1987年のベスト盤「オール・ザ・ベスト」にも収録予定であったが、現在まで未発表のままである。このまま公式発表してよいくらいの高音質に感動してしまいます。
-McCARTNEY'S TUG OF WAR SESSIONS-
8.New Rack
ここからは、ウイングスが活動を停止した後(その後解散)、ポールのソロ・アルバムとして仕切り直されたアルバム「タッグ・オブ・ウォー」セッションのスタジオ・アウトテイク。まずは、これまでブートでも聴くことのできなかった初登場の未発表曲。モニター・ミックスを収録している。パーカッシブなリズムマシーンをバックに、甲高いムーグ・シンセによるメロディが奏でられるという単調なインスト・ナンバー。お蔵入りになったのは想像できるが、ポールらしく分かりやすいメロディなので好感が持てます。前作「マッカートニーII」のような実験的アプローチが楽しめる。
9.Take It Away (Monitor Mix-Rough Take-complete)
『Take It Away』の初登場モニター・ミックス。既にほぼ完成した状態であり、基本的には公式テイクと同じだが、大きな違いがいくつかあり驚かされる。1つは、2度目のサビ以降に登場するリンダとエリック・スチュワートによるコーラス“Down,down”が全く入っていないこと。これは曲の印象をがらりと変えてしまっています。最後の最後まで存在しなかったアレンジだったのでしょうか。また、ポールのヴォーカルの音処理が微妙に違っており、最後の“till the evening is complete”にエコーがかかっていないことから分かる。そして一番の驚きが、このヴァージョンではフェードアウトせずしっかり締めくくっているという点であろう!公式テイクでフェードアウトする箇所の後は、しばらくコーラスとブラス・セクションによる華やかな演奏が続き、しばらくして跳ねたドラミング(by リンゴ)をバックにピアノ演奏が聴かれるジャジーなエンディングを迎える。冒頭やエンディングでは再生中のスタジオの音声が入っており、いかにもモニター・ミックスといった所。
10.What's That You're Doing
「タッグ・オブ・ウォー」収録曲で、ジャム・セッションから生まれたポールとスティービー・ワンダーの共作曲。ここには初登場のモニター・ミックスを収録。まだレコーディング初期段階での音源のため、基本的な演奏・構成は完成しているもののかなりラフな仕上がりである(音質もラフ)。演奏は中盤から唐突に始まり、以降は公式テイクと同じ構成で進み、最後はなんとフェードアウトせずにドラムソロで終わる。歌詞は完成しているものの、ヴォーカルは全くの別テイクでジャム・セッションそのままといった感じのアドリブ風。ポールとスティービーの歌い分けもまだされていない。また、後にオーバーダブされるコーラスは入っていない。この曲のアウトテイクが発見されるのは初めてなので、このような形でも大変貴重ですね。
11.Denny's Song
これまたブートでも聴くことのできなかった初登場の未発表曲。1981年に、『Ebony And Ivory』などが録音されたモンセラット島で行われたレコーディング・セッションで録音された。タイトルの通り、デニー・レインがヴォーカルを取る曲で、曲を聴く限りセッション中にデニーが即興で作った曲であろう。ウイングスは事実上崩壊していたものの、デニーはポールのレコーディングを引き続き手伝っていて、モンセラット島にも同行していた。セッションに参加した面子は不明だが、フルバンドによるしっかりとした演奏である。後半に不協和音のようなキーボードが入るのが少し斬新だが、ブルースっぽい曲調はいかにも即興といった感じでちょっと退屈します(汗)。デニー好きな人なら必聴・・・?
-BARBADOS 1982 SESSIONS-
12.Runaway
このブートの白眉であり、ポール・ファンなら必聴と言える感動の音源がこれ!この曲は、1982年にポールがバルバドスのグループ、アイボリーのために書き下ろした2曲のうちの1つで(もう1曲は『Freedom Land』)、ポールはバルバドスにて実際にアイボリーと共にレコーディングを行った。ポールから「曲は提供するけど、僕の演奏の入ったテイクは発表しないで」と頼まれたアイボリーは、再録音した上で1984年にバルバドス国内のみでシングル発売している。ここに収録されたのは、ポールによるオリジナル・ヴァージョンで、今回がブート初登場。アイボリーへの曲提供、アイボリー・ヴァージョンの発売自体がコアなファンの間ですらほとんど知られていない事実のため、ポール・ヴァージョンの登場は大変衝撃的である。曲自体は、'80年代ポールらしいミドル・テンポのソフトなバラードで、ピアノやシンセなどが美しいアレンジ。間奏のアコギ・ソロも爽やか。ポールは終始ファルセット・ヴォーカルで歌っており、これがまた美しい。メロディも最高で、ポールのバラードの中でも珠玉の出来ではないでしょうか?まさにこういうのを「名曲」と言います。さらに、音質は公式発表レベルの超ハイクオリティ!この曲をポールが自らのレコーディングで取り上げて、公式発表していたらどれほどよかったか・・・(「パイプス・オブ・ピース」辺りに入っていたら最高だったのに)。これはファン必聴のお勧め音源と断言できます!ポールの数ある未発表曲でも最も完成度の高い曲の1つと言っても過言ではないでしょう!ぜひ聴いてみてください!
-CHOBA B CCCP SESSIONS PROMOTIONAL MEDLEY-
13.Midnight Special 〜 32.Ain't That A Shame
本ブートの最後は、1988年に旧ソ連(当時)限定で発売し、後に全世界で発売したロックンロールのカヴァー・アルバム「CHOBA B CCCP」セッションより。アルバムの宣伝のために制作されたメドレーである(本ブートで初登場)。アルバム収録曲を紹介すべく、各曲からの抜粋がメドレー状につながって次々と登場する仕組み。しかし、これが単なるメドレーとは侮れない理由が、アルバム未収録の未発表曲やアウトテイクがいくつか混じっている点である(もちろん初登場音源)。今まで知られていなかった「CHOBA B CCCP」セッションの裏側が明らかになった、興味深い音源である。
『Midnight Special』『Kansas City - Hey Hey Hey Hey』は、「CHOBA B CCCP」収録曲。
『I'm Gonna Be A Wheel Someday』のドラムソロを挟み、『Lawdy Miss Clawdy』も「CHOBA B CCCP」収録曲。
続く『Cut Across Shorty』は未発表曲。オリジナルはエディ・コクランで、ポールは1980年ウイングスのリハーサルや、TV番組「Unplugged」(1991年)のリハーサルでも演奏したことがある。アコギが軽快な曲。
『Twenty Flight Rock』『Lucille』『Don't Get Around Much Anymore』は、「CHOBA B CCCP」収録曲。
『It's Now Or Never』はエルビス・プレスリーがオリジナルで、ポールは「CHOBA B CCCP」セッションで録音したヴァージョンを、1990年にエルビスのトリビュート・アルバム「The Last Temptation of Elvis」に提供し、公式発表した。ここで聴くことのできるのは公式発表されたものと同じだが、トリビュート・アルバムがレアで入手困難なので、初めて聴く人も多いことでしょう。
『Crackin' Up』『That's Alright Mama』『Bring It On Home To Me』『Summertime』も、「CHOBA B CCCP」収録曲。ここでいったんメドレーは終わります。
『I'm In Love Again』は旧ソ連盤「CHOBA B CCCP」には未収録となり、全世界で発売されたCD版に追加された曲。シングル「This One」にも収録されている。
『Just Because』は「CHOBA B CCCP」収録曲。
このメドレーで一番驚かれるのが『No Other Baby』であろう。オリジナルはバイパーズで、ポールは1999年にロックンロールのカヴァー・アルバム第2弾「ラン・デヴィル・ラン」で取り上げ、公式発表した(シングルカットもされている)。その曲を、この時点でカヴァーしているのである!ポールが1993年ワールド・ツアーのサウンドチェックでこの曲を演奏したことは結構有名だが、さらに遡ってこの時点で演奏しているのは面白い。さらに、「ラン・デヴィル・ラン」ではゆったりとしたテンポにアレンジしているのに対し、ここではラテン風に跳ねたリズムにアレンジしているのが面白い。公式テイクとは全く印象が異なる。
『Poor Boy』は未発表曲。オリジナルはエルビス・プレスリーで、ここでもエルビス・ナンバーを取り上げていたことに驚かされる。とってもノリのいい曲。
『I'm Gonna Be A Wheel Someday』は「CHOBA B CCCP」収録曲。
『Take This Hammer』も未発表曲。オリジナルは古くから伝わるフォーク・ソング。ポールはビートルズ時代にも取り上げていたと言われている。ここではアップテンポのロックンロールのアレンジになっていて、「CHOBA B CCCP」にぴったりである。後半にかけてのポールのシャウトが聴き所。
『Lend Me Your Comb』も未発表曲。オリジナルはカール・パーキンス。ポールはビートルズ時代にレパートリーにしており、BBCラジオでの演奏が後にアルバム「アンソロジー1」で公式発表されている。また、パーキンス本人とも1993年にこの曲を演奏したことがある。ポールにとって永遠のアイドルであるパーキンスの曲をこのセッションでもカヴァーしていたのには驚き。さらにここではアレンジがすっかりロック化していて、ポールの太いヴォーカル含めてすごくかっこいい!これを聴くとビートルズ・ヴァージョンすら物足りなくなってしまうことでしょう。これは公式発表してほしかった・・・。
そしてメドレー最後は『Ain't That A Shame』。「CHOBA B CCCP」収録曲ではあるが・・・、なんと!アルバムに収録されたものとは全く別の初登場テイク!残念ながら一部しか聴けないものの、公式テイクの10倍以上ポールがシャウトしまくっています!崩し歌いでアドリブ交じりにお腹の底から声を出していて、眉間にしわを寄せて叫ぶポールが目に浮かんでくるかのよう。