WATER WINGS
(2009.5.03更新)
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ウイングスのアルバム「ロンドン・タウン」(1978年)。落ち着いた感じの作風と、当時大ヒットにつながらなかったことから、ウイングスの諸作品の中でも地味な存在として語られることの多いアルバムです。しかしながら、ポールの英国回帰路線と、デニー・レインとの共作の大きな貢献により、英国・アイルランドの伝統音楽(トラッド)風の佳曲が散りばめられた「ロンドン・タウン」は、ポールをよく知るファンの間では「癒し系」のアルバムとして隠れた人気を放っています(私もそのひとりです)。突出したヒット曲は少ないですが、絶頂期ウイングス最後の栄光を感じさせるバンド・サウンドと、ポール&デニーのタッグによるプライベート・サウンドの融合した、独特の空気感を味わえます。
その「ロンドン・タウン」のレコーディング・セッションは、よく知られるように様々な紆余曲折を経て行われ、比較的長期間に及びました。そのため、多くの未発表曲や未発表テイクが残されています。一連のセッションをざっと分けてみても、最初期のアビーロード・スタジオでのセッション(『London Town』などを録音)、有名な洋上セッション(『With A Little Luck』などを録音)、キャンベルタウンでの『Mull Of Kintyre』レコーディング、2人のメンバーの脱退後の一連のレコーディング(『Backwards Traveller』などを録音)、といった風に様々なセッションがあり(厳密には6つに分けられる)、時・場所によりいろんな音源が残されています。これに1977年初頭のホーム・レコーディングを加えると、「ロンドン・タウン」期の未発表音源は結構な数にのぼります。
そんな「ロンドン・タウン」セッションのアウトテイクを収録したブートはいくつか出ていますが、その中でも決定盤と言えるものが、今回ご紹介する「Water Wings」(VIGOTONEレーベル、VT-500×2 BEAT)でしょう。このアルバムでは、一連のすべてのセッションから、残された膨大なアウトテイクやデモはもちろん、公式発表されたヴァージョン違いやアセテート盤音源、インタビュー、さらにはTVライヴ音源まで、「ロンドン・タウン」に関係する音源をCD3枚組という分量でほとんど網羅しているからです。まさに、「ロンドン・タウン」セッションの全貌を知る上では大変うってつけのコンピレーションなのです。ちなみに、本タイトルの「Water Wings」は、当初「ロンドン・タウン」につけられた仮題から。ジャケットは「ロンドン・タウン」のジャケットと同じフォト・セッションで撮られたものです。
本作の内容を見てみましょう。DISC 1は、セッションが本格的に始まる前の1977年初頭のホーム・レコーディングから始まり、アビーロード・スタジオでのセッションなどウイングスがヴァージン諸島に赴く前の音源が収録されています。この時期には多くのホーム・デモが残されておりポールの創作意欲の高さをうかがわせますが、ここではその一部のみ収録というのは残念な点。しかし、ポールが少年時代に書いた有名な『Suicide』の完奏版や、『Love Awake』の初期ヴァージョンが収録されているのはうれしい所。『Sea Melody』と『A Fairy Tale』はヴァージン諸島に場を移してのピアノ演奏。『Sugartime』はリンダがジャマイカで録音したレゲエタッチの曲。後半は、テスト・プレス用に制作されたアルバム「ロンドン・タウン」のアセテート盤を丸ごと収録。ラフ・ミックスながら基本的には公式発表版と同じですが、貴重な音源資料です。さらに、DISC 1にはシークレット・トラックとして『With A Little Luck』と『I've Had Enough』のリハーサル音源が収録されています。ブックレットに記述はありませんが、恐らく1980年の日本公演用のリハーサルと推測されます。
続くDISC 2には、5人編成だった頃のウイングスがヴァージン諸島に浮かぶヨットで録音した洋上セッションで取り上げた曲が収録されています。オーバーダブを加える前のラフ・ミックスや、リハーサル・テイクが中心ですが、中でも歌詞が未完成の『I've Had Enough』や、アコギ完全弾き語りの『I'm Carrying』、ポールとデニーのヴォーカルが分離された『Deliver Your Children』は聴き所です。『Find A Way Somehow』はデニーのヴォーカルによる未発表曲。いずれも、アルバム制作の舞台裏を垣間見るようで興味深いです。後半は、歴史的大ヒットとなった『Mull Of Kintyre』はキャンベルタウンでのセッションのアウトテイク。ファンに人気の未発表曲『Waterspout』はDISC 3含め5ヴァージョンを収録しています。また、『Girls' School』のDJエディットや、『B-side To Seaside』のリミックスなど同時期の関連音源も収録。
最後にDISC 3では、3人になったウイングスによるセッションを収録しています。ここでのお勧めは、なんといっても『Backwards Traveller』の初期テイクです。公式テイクは1分に編集されていますが、ここでは3分半ほどの演奏で、ファルセット・スタイルを堪能できます。これをはじめ、『Boil Crisis』や『After You've Gone』は複数ヴァージョンを収録しています。ポールの気ままなデモ・セッションの雰囲気を味わうことができます。デモ・テイクのため完成度は高くないですが、ポールの作曲過程を知ることができる貴重な音源です。中盤にはポールが「ロンドン・タウン」発売にあわせて行ったインタビューの模様が収録されています。第1弾シングル『With A Little Luck』のプロモ音源も収録され、当時の宣伝の様子が分かります。そして最後は、この時期唯一のライヴとなったTV番組「マイク・ヤーウッド・ショー」での『Mull Of Kintyre』で締めくくります。
このように「ロンドン・タウン」セッションの全貌が分かる大変詳しい内容なのですが、その膨大さゆえに「ロンドン・タウン」に深くはまっていない方や、ブート初心者にはちょっときつい内容でもあります。アセテート盤音源やインタビューは、貴重な資料であるものの目新しさはないですし、別ヴァージョンを複数収録しているものは各音源間でさほど違いがなく、音質が悪いなど「?」な内容もあります。そのため、「ロンドン・タウン」のディープなファンの方向け、と言えるでしょう。逆に、「ロンドン・タウン」をこよなく愛する方にとってはこのアルバムは大変重宝するマスト・アイテムです!一気に聴くと食あたりを起こす可能性があるので(汗)、1枚ずつ少しずつ聴くことをお勧めします。資料的価値は極めて高いので、研究用にぜひともどうぞ。ブックレットの写真もいい感じですね。あまりディープに聴かない方には、1枚もののダイジェスト版的なブート「London Town Sessions」(misterclaudelレーベル)をお勧めします。
このブートで特にお勧めする音源は、『I've Had Enough』の初期テイクと、『Backwards Traveller』の初期テイク・完全版です!
[収録曲解説]
[DISC 1]
1.Suicide
1977年2月に録音されたスコットランドの自宅スタジオでのデモテープより。ポールがピアノで弾き語るのは、デビュー前の少年時代に書いたバラードナンバー。フランク・シナトラにプレゼントする予定だったがボツとなった曲で、ポールはこれまで何度も取り上げているものの公式発表されたのは2011年のこと(アルバム「マッカートニー」の『Hot As Sun/Glasses』のエンディングでチラッと登場したヴァージョンの完全版。リマスター盤「マッカートニー」のボーナス・トラックに収録)。ここでは冒頭のスローな導入部も含めて完奏している貴重なヴァージョン。ある種完成形と言えるでしょう。
2.I Keep On Believing/Love Awake
これも自宅スタジオでのデモテープより。ポールがDJをつとめたラジオ番組「ウーブ・ジューブ」で公開された2曲のメドレー。断片しか収録されていないのが残念。前者は未発表曲。ドラムマシーンをバックに歌われる穏やかなタッチのバラード。「I Can't Write Another Song」というタイトルで表記されている場合もある。個人的にお気に入りの曲で、完成させた上で発表してほしかったです。後者は1979年のアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」で『Winter Rose』とのメドレーで発表されることとなる。ここではアコギの弾き語りで、構成も若干異なる。
3.London Town
1977年2月、「ロンドン・タウン」セッションの前哨戦となったアビーロード・スタジオでのセッションより。「ロンドン・タウン」収録曲で、アルバムからの第3弾シングル。ここに収録されているのは、同月に放送された番組「Count Down 77」で取り上げられたリハーサルの模様。断片のみだが、曲後半で聴かれるギターフレーズが登場する。
4.Sea Melody
1977年5月のヴァージン諸島での洋上セッションより。未発表のピアノ・インストナンバー。しかし、この曲はポールによってたびたび取り上げられている。1978年にはアニメ映画「Rupert The Bear」用の未発表サントラのために録音された。また、クラシック作品「スタンディング・ストーン」(1997年)でメロディが準用されていたり、2002年のワールド・ツアーのリハーサルで演奏していたりしている。別名「Celebration」。
5.A Fairy Tale
これもヴァージン諸島での洋上セッションより。未発表曲。洋上セッションの舞台となったヨットの中に置かれたピアノを使って、ポールが子供たちにおとぎ話を弾き語るというもの。キャッチーなメロディの繰り返しはポールらしいです。子供たちも楽しそうに歌っています。ここでも前曲『Sea Melody』のメロディが登場する。
6.Sugartime
1977年6月にジャマイカで録音されたリンダのヴォーカル曲。ジャマイカらしい、リンダお気に入りのレゲエタッチの曲で、リー・ペリーがプロデュースしている。リンダ没後のアルバム「ワイド・プレイリー」(1998年)で公式発表された。ここに収録されているのは、ラジオ番組「ウーブ・ジューブ」で流されたヴァージョン。そのため、冒頭にリンダの料理コーナーが丸ごと収録されている他、イントロと終わりにポールの語りが入っている。よって「ウーブ・ジューブ」の雰囲気がよく伝わってきます(笑)。
7.London Town
8.Cafe On The Left Bank
9.I'm Carrying
10.Backwards Traveller
11.Cuff Link
12.Children Children
13.Girlfriend
14.I've Had Enough
15.With A Little Luck
16.Famous Groupies
17.Deliver Your Children
18.Name And Address
19.Don't Let It Bring You Down
20.Morse Moose And The Grey Goose
1978年に制作された、アルバム「ロンドン・タウン」のテスト・プレス用のアセテート盤より、全曲分を丸ごと収録。基本的には公式発表されたものと同じで大差はありませんが、すべてラフ・ミックスで収録されています。そのため、ちょっと聞こえが違います。アルバム制作の裏側を知ることができる貴重な資料ですね。注目すべきは、『Backwards Traveller』と『Cuff Link』の曲間が空いている所でしょうか。
21.With A Little Luck
ここから2曲は、曲目リストに記載のないシークレット・トラック。いずれも「ロンドン・タウン」収録曲。2曲ともリハーサル・テイクが収録されているが、恐らく1980年初頭に予定されていた日本公演に向けてのリハーサルだと推測される。この曲では、オリジナルのようにシンセをフィーチャーしたアレンジだが、だいぶラフな格好となっている。演奏は出だしでトチり一度やり直し、その後はアルバムヴァージョンと同じ進行で、間奏の途中でフェードアウトする。結局はこの曲が来日公演はおろかポールのライヴでお披露目されることはなくなってしまった。非常に残念なことです。
22.I've Had Enough
この曲も、恐らく日本公演向けのリハーサル音源だと思われる。こちらもオリジナルに比べるとかなりラフな格好の演奏である。ただ、なかなかかっこいい。この曲は1979年全英ツアーでレパートリー入りし、演奏されていた。
[DISC 2]
1.Cafe On The Left Bank
「ロンドン・タウン」収録曲。この曲から『Find A Way Somehow』までは、ヴァージン諸島での洋上セッションより。この曲はラフ・ミックスを収録。全体的には公式テイクと大差ないが、ミックスがかなり大雑把で、パーカッションやコーラスの聴こえ方が違う。いかにも本番前といった感じの、気の抜けたポールのヴォーカルやリンダのコーラス(もちろん公式テイクではカット)が微笑ましいです。
2.I'm Carrying
「ロンドン・タウン」収録曲で、ポール単独の録音。オリジナルには美しいギズモ(ストリングス風の音色を出すギター・アタッチメント)がオーバーダブされているが、ここでは完全アコギ弾き語りのテイクを収録。この曲のメロディの美しさを純粋に楽しめる、聴き応えあるヴァージョンです。
3.I've Had Enough #1
「ロンドン・タウン」収録曲で、アルバムからの第2弾シングル。公式テイクのハードな雰囲気は見られない、気だるい感じの軽く流した演奏を収録。しかし、この時点で曲構成や間奏のギター・ソロなどのアレンジが決まっているのは興味深い。ポールは歌いながら曲構成を指示している。中でも注目なのが歌詞で、ここではサビを除いて全く完成していなく、ポールは適当な歌詞や「ナナナナー」といったハミングをつけている。とりわけ面白いのが間奏後のハーフ・スポークンの部分で、公式テイクとは全く違う。「It isn't milk shake, honey」という一節が唐突で面白いです(笑)。ポールが「歌詞はロンドンに戻ってから書き上げた」というコメントを残していますが、それを裏付けるアウトテイクです。個人的には(曲自体もそうですが)お気に入り&お勧めのアウトテイクです!
4.I've Had Enough #2
こちらはかなり公式テイクに近い(というよりほとんど同じ?)。ただし、ピッチが高いので聞こえが違う。さらに、このヴァージョンでは間奏の後急にエンディングを迎える。
5.With A Little Luck #1
「ロンドン・タウン」収録曲で、アルバムからの先行シングルとなったヒット曲。ここでは、ドラムマシーンをバックに演奏されたアウトテイクを収録。シンセを多用したオリジナルに比べるとはるかにシンプルなアレンジで、ユニークなコーラスもまだ入っていない。ポールのヴォーカルも、後半アドリブを交えたシャウト風のアレンジは聴かれない(間奏含め後半も普通に歌っている)。しかし、『I've Had Enough』と同じく全体的な曲構成・アレンジは既に決まっているのが興味深い。個人的に一番好きなポールの曲ですが、シンプルなアレンジのこのヴァージョンも違った味わいがあってお気に入りです。
6.With A Little Luck #2
『With A Little Luck』の、ラジオ向けに制作されたプロモ・エディット(DJエディット)。間奏などを大幅にカットして約半分の長さに編集したもの。このショート・ヴァージョンは「オール・ザ・ベスト」(米国版)及び「ウイングスパン」でCD化済み、容易に入手できます。スティーブ・ホリーのウイングス初仕事となったプロモ・ヴィデオもこのヴァージョンです。オリジナルのロング・ヴァージョンももちろんですが、このショート・ヴァージョンもお気に入りです。まぁ、曲自体一番好きなポールの曲ですから、どう転んでも悪くなるはずがありません(笑)。
7.Famous Groupies
「ロンドン・タウン」収録曲。ここではリハーサル・テイクを収録。ポールのヴォーカルがオリジナルに比べかなりリラックスしていて、緊迫感は大幅に薄れている。最後の台詞も完成こそしているものの気が抜けています。ポールは『I've Had Enough』に続きこの曲でも曲構成を指示(「Pause!」と言っている)。コーラスも入っていなく、間奏・エンディングでは代わりにコーラス風のシンセが聴かれます(公式テイクでも隠し味で入っているかも?)。その他、歌詞に合わせて挿入される楽器がまだ入っていない。
8.Deliver Your Children
「ロンドン・タウン」収録曲。ジミー・マッカロクとジョー・イングリッシュのウイングス脱退後に仕上げられた曲で、ここではラフ・ミックスを収録。共作者のデニーとポールのハーモニーヴォーカルが味わい深い曲だが、ここでは2人のヴォーカルが左右に分離された面白いミックスがされています(左がデニー、右がポール)。聴き比べができて面白いです。私はどうしても左に耳が行ってしまいますが(苦笑)。曲が終わった後には話し声が聴こえる。
9.Don't Let It Bring You Down
「ロンドン・タウン」収録曲。ポールの静かなカウントから始まるリハーサル・テイク。この時点では、印象的なフラジョレット(縦笛)や、ジミーのエレキ・ギターが入っていない。そのためか、アコギを中心としたアコースティック感たっぷりの演奏となっている。第1節は低音で、それ以降はファルセットで歌う構成は完成している(ただしオリジナルほど高音は出していない)。この曲のアコースティックな魅力を再確認できる、味わい深いテイクです。
10.Morse Moose And The Grey Goose
「ロンドン・タウン」収録曲。ラフ・ミックスを収録している。ここでの最大の特徴は、なんといってもインスト状態であること。ポールのヴォーカルやコーラスが全く入っていない。ジャム・セッションから発展してできたと言われているが、それを裏付けるかのよう。また、派手なブラス・セクションやストリングスも挿入される前の状態であるため、オリジナルでは聞き取りづらい演奏も鮮明に聴こえ、アドリブ的なバンド・サウンドが堪能できる。特にポールのピアノ演奏は後半テクニカルで驚きます。「Grey Goose」部分は未完成で、ノイズが入っているだけの状態。インストなので、『Coming Up』を歌えば「ツイン・フリークス」ヴァージョンが再現できます(笑)。
11.Find A Way Somehow
デニー・レインの作曲・ヴォーカル曲で、洋上セッションで録音された未発表音源。とはいっても、デニーのソロ・アルバム「アー・レイン!」(1973年)に収録されていて、シングル発売もされた発表済みの曲。ウイングスでは未発表ということになる。「ロンドン・タウン」セッションで取り上げたのは軽いリハーサルのためか。私はデニーのオリジナルは聴いていませんが、彼の個性あふれるのびのびした雰囲気&へろへろしたヴォーカルがデニー・ファンにはたまりません(笑)。ここで聴ける音源はちょっと冗長な気もしますが(汗)、シングルB面でもいいのでウイングスでも発表してほしかった、と思うような佳曲です。
12.Mull Of Kintyre #1
「ロンドン・タウン」セッション中、キャンベルタウンで録音された曲で、アルバムに先駆けてシングル発売され英国で空前の大ヒットを記録したスコットランドご当地ソング。「ロンドン・タウン」期を代表する名曲で、デニーの貢献が一番高くトラッド嗜好が一番よく表れた楽曲です。このヴァージョンは、1977年8月にポールがアコギで弾き語るデモ・テイク。断片しか収録されていないが、デニーもコーラスをつけているのが分かる。
13.Mull Of Kintyre #2
続いてもキャンベルタウンで録音されたデモ・テイク。こちらも断片のみ。ポールのアコギ弾き語りにリンダ・デニーがコーラスをつけている。ポールのヴォーカルは途中高い音程を歌っている。こちらは間奏にバグパイプが入っており、その上にポールの話し声がかぶさる。
14.Girls' School
シングル「Mull Of Kintyre」B面(米国ではA面)。現在は「ロンドン・タウン」のボーナス・トラックに収録されている。洋上セッションでの録音。ここでは、ラジオ向けに制作されたプロモ・エディットを収録。エンディングが大幅にカットされて1分半短くなっている。実は、1989年に最初に「ロンドン・タウン」がCD化された際には、このエディット・ヴァージョンが収録されていて容易に入手可能だったという、いわくつきの音源です(1993年以降の再発時には本来のロング・ヴァージョンを収録)。現在は入手困難でブートでもなかなか入手できない音源ですが、初回版CD「ロンドン・タウン」を買うのであれば、このブートで揃えてしまいましょう!
15.B-side To Seaside
リンダが生前発表した唯一のシングル「Seaside Woman」(1977年)のB面曲。『Sugartime』と同じく後に「ワイド・プレイリー」に収録された。この曲は「ロンドン・タウン」セッションの序盤に録音された。レゲエ風のリズムにのせて、単調なメロディの繰り返しというシンプルな曲。ここに収録されているのは公式発表されたものと同じ。
16.B-side To Seaside
『B-side To Seaside』のリミックス・ヴァージョン。1986年に、A面の『Seaside Woman』共々アルヴィン・クラークの手によりリミックスされシングル発売された。未CD化。いかにも'80年代風の打ち込みドラムスとシンセが印象的。しかし、何をやりたいのか分からない感じのオリジナルに比べ、このリミックスはメリハリがついていて聴きやすい。ギターソロもよく映えて聴こえる。個人的にはこっちのリミックスの方が(しかもかなりの)お気に入りです。
17.B-side To Seaside
リミックス版『B-side To Seaside』の、さらにリミックスしたヴァージョン。これまた1986年に、A面の『Seaside Woman』共々アルヴィン・クラークの手によりリミックスされ12インチシングルで発売された。未CD化。このヴァージョンは、間奏に大仰なドラムソロが入っている。いかにも'80年代風のリミックスです。こちらはちょっと鼻につくかもしれません。
18.Waterspout #1
ジミー&ジョーの脱退後に録音された未発表曲。ポールらしさ満開のポップ・ナンバーで、未発表曲集「Cold Cuts」に収録予定だったため何度もリミックスされている。また、1987年のベスト盤「オール・ザ・ベスト」に収録予定だったがお蔵入りとなってしまった(代わりに発表されたのが『Once Upon A Long Ago』)。ポール・マニアの間では非常に有名で非常に定評の高い曲です。このヴァージョンは、「Cold Cuts」の最終ヴァージョンに収録された、いわば完成ヴァージョン。ブラス・セクションやコーラスがオーバーダブがされ、しっかりしたアレンジになっています。数種類あるこの曲のミックスでも一番有名なヴァージョンかもしれません。個人的には、HN名にするほどのお気に入りです。ちなみに、旧サイトでは「With A Little Luck」でした(笑)。いかに私が「ロンドン・タウン」好きかが分かる一瞬です。
19.Waterspout #2
続いては「ロンドン・タウン」セッション期に録音されたベーシック・トラックで、インスト・ヴァージョン。いろんな音色のキーボードが使用されているのが分かる。このヴァージョンはフェードアウトせず、ハープシコードの演奏が延々と続きます。
20.Waterspout #3
21.Waterspout #4
この2ヴァージョンは、いずれも「#1」と同じテイクであるが、ソースが違うようでピッチが異なる。特に「#4」はめちゃくちゃなピッチで甲高くなっており笑えます(苦笑)。なお、両ヴァージョンとも完奏していない。
[DISC 3]
1.Waterspout
続いては、「Cold Cuts」に収録する以前のデモ・テイクを収録。後のヴァージョンに比べるとかなりラフで、パーカッションが目立つ音作りです。メロディラインも微妙に異なります。このヴァージョンはフェードアウトせず完奏している。
2.Backwards Traveller #1
3.Backwards Traveller #2
「ロンドン・タウン」収録曲。ジミー&ジョーの脱退後に録音された。公式テイクは2人のメンバーを失った痛手を影響させてか、1分で終わってしまう演奏だが、ここでは3分半にも及ぶ完全版のデモ・テイクを収録。オリジナルでは登場しない歌詞も出てくる。また、オリジナルではロック調の演奏にのせてポールのシャウトが聴かれるが、ここではドラムマシーン(&ポールのドラムス)をバックにほとんどファルセット風で歌っていて全く印象が違う。また、おふざけ風のシャウトが入っていたりと、オリジナルの緊迫感とはまた違う、気ままなセッションの雰囲気が味わえます。このブートでは1,2を争う必聴音源でしょう!私も、この初期テイクを聴いてこの曲を一段と好きになりました。ここでは、イントロの長いヴァージョンと、エンディングの長いヴァージョンの2種類を収録。大差はないですが・・・。
4.After You've Gone #1
5.After You've Gone #2
6.After You've Gone #3
これまた、ポール(&デニー?)によるデモ・テイクより。未発表曲だが、ポールの曲ではなくトラディショナル・ナンバー。ポールによれば家族とよく一緒に歌った曲という。なお、この曲の版権はポール(MPL)が所有していて、ポールのお気に入りの程が分かる。ここでは、ドラムマシーンをバックに前半はバラード風のポップで、後半はシャッフルのアレンジで歌っている。ポールがDJをつとめたラジオ番組「ウーブ・ジューブ」でもこの音源が紹介されているが、そこでは一部しか聴けない(恐らく「#3」のことであろう)。MPLのサイトでは、この曲のオリジナル・ヴァージョンを聴くことができますが、「同じ曲でも人とアレンジによってずいぶんと変わるもんだなぁ」と思わせます。ここでは、3つの違うソースを収録。「#3」のみ完奏していない。
7.Boil Crisis #1
8.Boil Crisis #2
未発表曲。ポールが、娘ヘザーのパンク・ロック好きに感化されて「自分もパンクを書こう!」と思い立って作ったロックナンバー。タイトルは「オイル・ショック(Oil Crisis)」をもじったもの。ハーフ・スポークンで歌われる物語風の詞作が面白い。ここで聴けるのは、ポールによるデモ・テイク。なお、1982年のアルバム「タッグ・オブ・ウォー」用に再録音されていて、そちらの方が完成度が高いですが、個人的には荒っぽさが楽しいこちらのヴァージョンの方が好きです。変てこなコーラスが入っているのがよい味付けです(笑)。ここでは、イントロの長いヴァージョンと、エンディングの長いヴァージョンの2種類を収録。大差はないですが・・・。
9.Jamaican Hilite
ポールとデニーによるデモ・テープに収録された未発表曲。録音は「ロンドン・タウン」セッション前の1977年初頭と思われる。ムーグのリフを中心とした単調なインスト・ナンバー。未発表になったのは分かりますが、個人的にはなぜか気になってしまう曲です。リフのメロディが意外にキャッチーだからかもしれません。それとも、「ロンドン・タウン」マニアだから?(苦笑)なお、「ロンドン・タウン」セッション前後に、ポールとデニーは数多くのデモ・テープを残しており、「ロンドン・タウン」関連ブートに未収録のものもかなりあります(『Hello,How Do You Like The Lyrics?』『Emotional Moments』などなど)。こうした音源を全部揃えるのは至難の業ですが(私もほとんど揃えていません)、マニア以外は手を出さない方が無難でしょう(笑)。
10.Mull Of Kintyre #1
『Mull Of Kintyre』のスタジオ・デモ。恐らくキャンベルタウンでの録音と思われる。アコギをバックに、リコーダー風の音色のムーグでメロディラインが演奏されるインスト・ヴァージョン。短いですが、この曲の牧歌的な雰囲気を味わうことができます。キーはオリジナルより高めです。
11.Mull Of Kintyre #2
同じく、『Mull Of Kintyre』のスタジオ・デモ。こちらはポールがアコギ弾き語りで歌い、デニーがハーモニーをつけている。歌詞は既に完成している(ただしエンディングは早めにフェイドアウトしている)。バグパイプの部分は再びリコーダー風ムーグで演奏されているが、チープ感は抑えられています。この時点でバグパイプのメロディラインも確立している。
12.〜23.Promo Spot Talk #1〜#12
ここからは、アルバム発売にあたってポールが行ったインタビューの模様を収録。ここでは、途中途中で流れる新曲はカットし、インタビュー部分のみを聴くことができます。なぜヴァージン諸島をセッションの地に選んだのか?ジミーとジョーの脱退後の音楽活動は?『Mull Of Kintyre』の大ヒットについては?そして各曲の解説も含めて、ポールがアルバムの話を積極的にしています。なぜかテーマ曲が『Nineteen Hundred And Eighty Five』なのが面白いですが(笑)。周りの雑音が入っているせいで聞き取りにくいのが難ですが、貴重な資料です。最後の「#12」のみ別のインタビューで、リンダとデニーも参加しています。
24.With A Little Luck #1
25.With A Little Luck #2
26.With A Little Luck #3
アルバムからのシングル第1弾として盛んに宣伝に使用された『With A Little Luck』の、当時のプロモーション用音源を3つのソースから収録。といっても、公式テイクのDJエディット(本ブートDISC 2の「#2」)と内容的にはほとんど同じなのですが・・・。「#1」には当時の音楽番組(?)の司会のMCも入っている。
27.Mull Of Kintyre
28.12 Bar Blues
このブートの最後を飾るのは、1977年12月10日に放送されたTV番組「マイク・ヤーウッド・ショー」にウイングスが出演した際のライヴ音源。既に国内で記録的な大ヒットとなっていた『Mull Of Kintyre』を、ポール・リンダ・デニーがバグパイプバンドと共に演奏する。曲構成はプロモ・エディット(スタジオで撮影したプロモ・ヴィデオで使用されているもの)と同じ長さである。「ロンドン・タウン」期はコンサートに出向かなかったウイングスですが、これは貴重なライヴ音源というわけです。ちなみに映像も残っています。最後の『12 Bar Blues』は、ポールが番組中にピアノで即興に演奏した曲だと推測される。観客の笑いを誘っています。