Wings Over Switzerland

(2008.12.19更新)

 


[DISC 1]
 1.Bip Bop ビップ・ボップ 3'28"
 2.Smile Away スマイル・アウェイ 4'11"
 3.Mumbo マンボ 3'34"
 4.Give Ireland Back To The Irish アイルランドに平和を 4'23"
 5.1882 1882 6'17"
 6.I Would Only Smile アイ・ウッド・オンリー・スマイル 4'20"
 7.Blue Moon Of Kentucky ケンタッキーの青い月 4'18"
 8.The Mess  メス 5'09"
 9.Best Friend ベスト・フレンド 3'46"
10.Soily ソイリー 5'56"
[DISC 2]
 1.I Am Your Singer アイ・アム・ユア・シンガー 3'28"
 2.Say You Don't Mind セイ・ユー・ドント・マインド 3'31"
 3.Henry's Blues ヘンリーのブルース 7'42"
 4.Seaside Woman シーサイド・ウーマン 3'58"
 5.Wild Life ワイルド・ライフ 6'21"
 6.My Love マイ・ラヴ 5'12"
 7.Mary Had A Little Lamb  メアリーの子羊 3'44"
 8.Maybe I'm Amazed 恋することのもどかしさ 4'42"
 9.Hi Hi Hi ハイ・ハイ・ハイ 4'42"
10.Long Tall Sally のっぽのサリー 2'07"

 1971年にポールが結成したバンド、ウイングス。デビューアルバム「ウイングス・ワイルド・ライフ」発売後、1972年2月の英国・大学ツアーに次ぐ「第2のステップ」としてポールが選んだのが、ウイングスにとって初めてのワールド・ツアーでした。それが、1972年7〜8月に9ヶ国で計26公演が開催されたヨーロッパ・ツアーです。このツアーではヨーロッパ本土を回りましたが、本拠地である英国が含まれなかったのは、ポールいわく「英国人は批判的」だからだそうです。このツアーで日々練習を重ねライヴを行ったことにより、ウイングスはその結束力とバンドの演奏能力を飛躍的に高めてゆき、次なるニューアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」の成功につながるわけですが、そういった意味でも成功への転機となったツアーでした。

 そんなヨーロッパ・ツアーからは、『The Mess』(8月21日・ヘーグ公演)のみ音源が公式発表されています。それ以外はブートで各公演の模様が流通していますが、今回ご紹介するブート「Wings Over Switzerland」には、7月22日に開催されたスイス・モントルー公演の模様を収録しています。ヨーロッパ・ツアーは7月に開かれた前半8公演と、8月に開かれた後半18公演とに分けられますが、ブートでは主に後者が出回っています。そんな中、このブートでは貴重な7月のツアーの模様を全曲完全収録しています。

 内容を見てみましょう。ヨーロッパ・ツアーでは若干の曲の入れ替えがあったものの、18〜20曲ほどがコンサートで披露されました。このモントルー公演では20曲が演奏されています。オープニングは、多く流通している8月のツアーでは『Eat At Home』でしたが、数少ない7月のツアーでは『Bip Bop』が選ばれています。セットリストを見て興味深いのが、このツアーのためにポールが書き下ろした新曲が多いこと。当時ポールは、評論家集団からの非難の嵐をはね返すべく精力的に作曲活動をしていましたが、その成果がここで垣間見れます。この中には『My Love』『Hi Hi Hi』『The Mess』『Soily』のように後年公式発表されるものが含まれていて興味深いです。未発表曲もあります。ツアー前後にレコーディングが始まった「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションでポールは多くの新曲を録音しますが、そうした当時の奮闘ぶりを体感することができます。他にも、当時唯一のアルバムだった「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録曲や『Give Ireland Back To The Irish』、そして発売されて間もない『Mary Had A Little Lamb』も披露されています。これらはほとんどが後のツアーで演奏されていないので、大変貴重なライヴ音源です。さらに、ポール以外のメンバーにスポットを浴びせた楽曲も多く、ポールが「メンバー全員が主役」という意志をライヴでも実現していたことがうかがえます。リンダの歌う『Seaside Woman』『I Am Your Singer』、デニー・レインの『I Would Only Smile』『Say You Don't Mind』、ヘンリー・マッカロクの『Henry's Blues』と、各メンバーの個性がたっぷりあふれています。逆に、ビートルズナンバーの披露はなし。当時、ビートルズの幻影から逃れようと試みていたポールらしい選択です。このように、デビューから1年しか経っていないのにもかかわらず、新曲を多くフィーチャーして非常に充実したセットリストで聞かせてくれます。

 演奏面を見ると、多少荒削りの面があるのはデビューしたてのバンドらしいです。しかしながら、「ウイングス・ワイルド・ライフ」よりは格段に向上しています。逆に、新生バンドならではの生き生きとした、ワイルドな演奏を堪能することができます。ツアー序盤だからか、余計その勢いを感じられます。面白いことに、演奏された楽曲の大半がロック系の楽曲。後年のウイングスもロック寄りの選曲がされていますが、このツアーでもそれに劣らぬロックぶりです。こうしたセットリストのおかげで、迫力満点の力強い演奏でぐいぐい聞かせる当時のウイングスの魅力が余すことなく発揮されています。『The Mess』『Best Friend』『Soily』『Hi Hi Hi』そしてアンコールの『Long Tall Sally』などなど・・・。特にこの時期は、ポールやヘンリーがブルースに凝っていた時期で、『Wild Life』『1882』『Henry's Blues』といった楽曲でブルージーな演奏を聞かせています。またアレンジ面では、後のツアーでも演奏される楽曲がここでは違うアレンジで演奏されていることにも注目。特に8ビートロックの『Hi Hi Hi』と、構成が大きく異なる『Maybe I'm Amazed』、ボサノバ風の『I Am Your Singer』は必聴です!ヨーロッパ・ツアーでの観客の反応は場所によってまちまちだったそうですが、このモントルー公演を聴く限り、結構盛り上がっていて受けがよいように聞こえます。もちろん、ウイングスらしいほのぼのしたMCもノーカットで収録されています!

 モントルー公演をおさめたブートは数種類出回っていますが、ここで紹介しているmisterclaudelレーベルのもの(mccd-40/41)にはおまけとしてヨーロッパ・ツアーのパンフレットのミニレプリカがついています。このパンフレットには、ツアー・データをはじめ各メンバー紹介やインタビューなどが収録されており、ウイングスファンとしてはたまらない内容となっています。また、ライヴで演奏された楽曲のリスト・歌詞も掲載されていますが、それによると『Junk』『Mama's Little Girl』もツアーで取り上げる予定だったことが分かり興味深いです。

 一般的にはデビューしたてのラフなイメージからあまり評価の芳しくない初期ウイングスですが、このライヴ音源を聴くと、そうしたマイナスのイメージを拭い去れることでしょう!荒削りな面はありつつも、勢いでぐいぐい迫ってくる力強くロックした演奏は、他時期に比べても遜色しない出来です。ポールの若々しいシャウトも随所で聞かれます!この時期でしか聴けない楽曲も多数収録、ポールはもちろんのこと他メンバーの魅力も余すことなく表れたセットリスト。新生バンドの大いなる可能性を感じさせる、そんな期待膨らむライヴ・アルバムです。初期ウイングスが好きな方はもちろんのこと、ポール・ファンの方全般にお勧めです!ビートルズ偏重型のソロ期のライヴとはまた違う、ウイングスと共に成功に向けて日々奮闘するポールの熱演をお聴き逃しなく!


[DISC 1]

1.Bip Bop

 モントルー公演のオープニングを飾るのは意外なことに、当時唯一のウイングスのアルバム「ウイングス・ワイルド・ライフ」(1971年)からこの曲。自分の子供向けに書いたと言われるお遊び風の曲をオープニングに持ってゆくというのはずいぶん大胆な構成です(苦笑)。しかし、これが意外とかっこよく、スタジオ版以上にグルーヴィーなリズムにのせてポールがラフにシャウトします!リンダの合いの手も健在。ちなみに、これに続く8月のツアーでは『Eat At Home』がオープニングになっている。このツアー以降はライヴ演奏されていない。

2.Smile Away

 続いて始まるのがポールとリンダの共同名義のアルバム「ラム」(1971年)より。オリジナルの雰囲気は残しつつも、かなり重厚な演奏となっている。ポールのシャウト交じりのヴォーカルやリンダのユニークなコーラス、途中静かになるアレンジなどはそのまま再現。エンディングはオリジナルにない転調するアレンジ。このツアー以降はライヴ演奏されていない。この曲の後ポールのMCが入り、「英語話せる人?」「フランス語話せる人?」と観客に呼びかけ、喝采を浴びている。英語のMCですがスイスのファンも言っている内容が分かっているようです(笑)。ちなみにこの後のMCでは一部でフランス語を使っています。

3.Mumbo

 ポールが観客に手拍子を促してスタートするのは、「ウイングス・ワイルド・ライフ」のオープニングナンバー。元々ジャムセッションからできたと思わせるラフな曲だが、ここでは輪をかけてワイルドさに磨きが掛かっている。まるで音の塊のように野太い演奏です。ヘンリーのギターソロもスタジオ版より切れ味たっぷり。ポールのアドリブヴォーカルのかっこよさは言うまでもない!このツアー以降はライヴ演奏されていない。

4.Give Ireland Back To The Irish

 デニーのMCによって紹介されるのは、ウイングスの記念すべきデビューシングル(1972年2月)にして「血の日曜日事件」を歌って話題となったこの曲。まだ事件の余韻が残る中でのライヴ演奏となったが、ここでもMCで紹介されるとそこそこ反応を貰っている。オリジナルよりもかなりラフだが、その分力強さが増している。ポールの気合いの入れ方にも注目。出だしからシャウト気味になるのがオリジナルと異なる点か。曲が終わっての手拍子も心なしか大きい。このツアー以降はライヴ演奏されていない。

5.1882

 '70年代初頭にポールが書いた未発表曲。演奏前のMCで「次のアルバムに収録します!」と言っているものの・・・(汗)、結局公式発表されることはなかった(ちなみにスタジオでのアウトテイクも発見されていない)。当時世間を席巻していたブルースに迎合したかのような、『Wild Life』に似たブルース調の曲で、スローで重々しい雰囲気が漂う。ヘンリーのギターソロが渋くてかっこいい。歌詞は1882年の混沌とした家庭風景を歌ったもの。このツアーでしかライヴ演奏されていない。ヘーグ公演(公式発表された『The Mess』と同日)の音源の方が有名かも。

6.I Would Only Smile

 ポールが「デニー・レインの自作曲」とフランス語交じりのMCで紹介するのは、当時未発表だったこの曲。ポールの言うように「次のアルバムに収録」とはならず、アルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションでポール抜きで録音されたもののお蔵入りになった。その後、デニーのソロ・アルバム「ジャパニーズ・ティアーズ」(1980年)で公式発表された。幻の未発表曲集「Cold Cuts」にも収録予定であった曲。もちろん主役はデニーで、デニーがヴォーカルを取る。ここでは、構成は同じもののスタジオ版に比べるとかなり大雑把な仕上がりである。このツアーでしかライヴ演奏されていない。

7.Blue Moon Of Kentucky

 曲前のMCが小さくて聞こえませんが(汗)、続いて演奏されるのはカヴァー曲。オリジナルは1946年のビル・モンロー。エルビス・プレスリーがカヴァーしたことで有名で、ここでの演奏もエルビスの演奏を元にしている。間奏のハーモニカは恐らくデニー・レインであろう。ウイングス最初のコンサートとなった英国・大学ツアーでも演奏されていた(レパートリー不足のため選ばれた?)。コンサート・ツアーではこの時しか演奏されていないが、1991年にTV番組「Unplugged」に出演した際に演奏し、その時の音源はアルバム「公式海賊盤」で公式発表された。

8.The Mess

 再び「次のアルバムに収録します!」宣言で始まるものの、またもやアルバム未収録となった曲(苦笑)。「一緒に手拍子を!」と促されて始まるのは、このツアーのためにポールが書き下ろした新曲。スタジオ版は「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションで録音されたものの未発表、一方このツアーの音源からヘーグ公演(8月21日)の模様が編集された上で、シングル「My Love」のB面で公式発表された(1973年)。このヨーロッパ・ツアーで唯一音源が公式発表されている。ここではその約1ヶ月前のモントルー公演というわけですが、公式発表版よりかなりラフなイメージが漂うのはツアー序盤だからか、それとも音質のせいか・・・?曲構成は編集前のライヴ音源と同じ構成で公式発表版とは違う。イントロで入るリンダさんの“Oh,no!”がタイミングよくてなんだか微笑ましいです。一方、キーボードが聞こえないのは音が拾われなかったせいか?この後も、1973年全英ツアーで演奏されている。この曲でコンサートの第1部は終了します。

9.Best Friend

 第2部のオープニングに選ばれたのは未発表曲。『1882』と同じく、スタジオでのアウトテイクも発見されていない。このツアーで初披露となった。『Hi Hi Hi』に似たシンプルなコード進行のロックンロール・ナンバー。なお、このツアーの音源からアントワープ公演(8月22日。ちょうどこのライヴの1ヶ月後!)の模様が未発表曲集「Cold Cuts」に収録すべく何回かに分けて編集されているが結局未発表となった、というエピソードもある。そのため、アントワープ公演の方が有名な音源である。ここではソースとなったテープの関係か、イントロが若干切れて始まる。アントワープ公演よりシャッフルのリズムを強調したようにも聞こえる。少しラフに聞こえるのは『The Mess』と同じくやはり序盤戦だからか・・・?このツアーでしかライヴ演奏されていない。

10.Soily

 ポールがこのツアーのために書き下ろした曲のひとつ。このツアーで初演となった。この後、1973年全英ツアーと1975年からのワールド・ツアーでライヴ演奏され、うち後者より全米ツアーの演奏がライヴ盤「ウイングス・U.S.A.ライヴ!!」(1976年)で公式発表された。スタジオ版は公式発表されていない。ここで聴ける演奏は、この後のライヴよりはずいぶんラフな演奏であるが、重厚な音作りでは負けていない。ポールのうなるベースとデニー・シーウェルの独特なドラミングとの相性が抜群である。それにしても、ここまでほぼロックナンバーで占められているのに驚きです。息をつかせぬ展開の前半です。

 [DISC 2]

1.I Am Your Singer

 ここでようやくバラードの登場。そして、ポール以外のメンバーのコーナーが始まる。まずは「ウイングス・ワイルド・ライフ」より、ポールとリンダのデュエット曲。ここでもポールとリンダがヴォーカルを分け合っている。音質は悪いが、2人の相性の良さを再確認できる(リンダの声が聞き取りにくいけど・・・)。また、ここでは思いきりボサノバ風のアレンジになっているのに注目!間奏はリコーダーではなくヘンリーのギターソロに。オリジナルはちょっと不気味なアレンジですが、このアレンジなら気に入る方も多いと思います。このツアーでしかライヴ演奏されていない。

2.Say You Don't Mind

 ここで再びデニー・レインの出番。今度は1967年のエレクトリック・ストリング・バンド在籍時のシングルナンバー。後にデニーのソロ・アルバム「ジャパニーズ・ティアーズ」などでも再演されている。デニーの代表曲として有名な『Go Now』でなく、この曲と『I Would Only Smile』が演奏されるという辺り結構マニアックな選曲かも・・・?ここではかなりラフなバンドサウンドで聴かせる。それにあわせてか、デニーの歌い方もどこかラフ気味である。しかしながらウイングスならではのコーラスワークは健在。なお、この後も1973年全英ツアーでも演奏されている。

3.Henry's Blues

 ポールの紹介で、今度はヘンリーの出番。その名の通り、ヘンリーの作曲によるブルース調のインストナンバー。一部ではブルースらしくヘンリーのアドリブヴォーカルが入る。ポールもそうだが、この時期ブルースにかぶれていたウイングスでした(苦笑)。途中で拍手が入る辺り、意外と好評だった?なお、ツアー・パンフレットではタイトルが「Henrys Blue」となっている。このツアー以降はライヴ演奏されていない。また、スタジオ録音も発見されていない。

4.Seaside Woman

 ポールがMCで触れているように、リンダが'70年代初頭に初めて書いた自作曲。「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションで録音され、1977年に「Suzy & The Red Stripes」名義でシングル発売された。リンダの追悼アルバム「ワイド・プレイリー」(1998年)にも収録されている。ここでは1回イントロで失敗してしまい、もう一度MCからやり直すという微笑ましい一こまを垣間見ることができる。その部分で推測されるにパーカッションはリンダか?レゲエ調のリズムは演奏しにくそうだが、何とか様になっている。テンポはスタジオ版より速め。それにしてもリンダが主役のはずなのに、ポールの声の方がリンダより大きめに入っているような気が・・・(汗)。なお、この後1973年全英ツアーでも演奏されている。

5.Wild Life

 再びポールの出番。続いては「ウイングス・ワイルド・ライフ」のタイトル曲。オリジナルもウイングス随一のブルージーさだが、こちらも負けていません。重々しさはライヴの方がより出ているかも。ポールのヴォーカルもスタジオ版に負けじと迫力満点。リンダ&デニーによる声を上げてのコーラスも聴き所。イントロの弾き語りの箇所はカットされている。なお、この後1973年全英ツアーでも演奏されている。

6.My Love

 ここから3曲はポールはキーボードを弾いていると思われる。まずは言わずと知れたウイングス及びポールの代表曲にしてヒットシングル(1973年、「レッド・ローズ・スピードウェイ」収録)。しかし、実はこの当時は未発表であり、英国・大学ツアーとこのヨーロッパ・ツアーで先にお披露目となった格好である。スタジオ版とは若干構成が違う。スタジオ版にはストリングスが挿入されているが、ここではそれがない分質素な出来である(後のライヴヴァージョンもそうですが)。また、ポールのヴォーカルはかなりラフな崩し歌いとなっている。さらに、ここで聴くことのできる間奏のギターソロはスタジオ版に比べかなり適当である(苦笑)。ヘンリー、思いきり手抜きしていますな・・・。

7.Mary Had A Little Lamb

 デニーとポールの紹介で始まるのは、当時の最新シングル(1972年5月)であったこの曲。冒頭のMCでポールが「ララ、ララ」のコーラスを一緒に歌ってと観客に促している。その後変におどけた声で「ララ、ララ」と歌っているのが面白いです(笑)。本編の演奏では、ポールはオリジナルと同じくピアノを弾いていると思われる(ただしここではエレピか?)。ポールはしきりに観客にコーラスを入れるよう促しているが、ここで聴く限りみんなコーラスを入れていない気が・・・(汗)。まだ新曲のため広く認知されていなかったか・・・?逆にリンダやデニーのコーラスが目立っている。このツアー以降はライヴ演奏されていない。

8.Maybe I'm Amazed

 続いては、ポールの初ソロ・アルバム「マッカートニー」(1970年)収録の一大名曲。このツアーがライヴ初披露であった。当時から注目されていた曲だからか、出だしで既に拍手の嵐である。この後繰り返しライヴで取り上げられている曲であるが、ここではその後のライヴ・ヴァージョンとはかなり構成が異なっている。ポールはエレピを弾いているが、あの印象的なイントロはごっそりカットし、イントロなしで始まっている。インスト部分よりもヴォーカル部分の比率の方が多くなっている構成で、ポールの熱唱を堪能できる。また、エンディングも違うアレンジで締めくくっている。演奏後にはまた大きな拍手が。この声援があったからこそ、この後ライヴの定番となっていったんでしょうね。

9.Hi Hi Hi

 このヨーロッパ・ツアーのために書き下ろした新曲で、当時は未発表だった。ツアー終了後に「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションで録音され、シングル発売されヒットした(1972年12月)。アンコール前最後の曲として演奏された。面白いのは、曲のリズムが公式発表版と大きく違うこと。スタジオ版はシャッフル調のリズムであるが、ここではストレートな8ビートロックのリズムで演奏されている。そのため、どこか『The Mess』や『Soily』に似た感じである。また構成も異なっており、イントロが長いほか、ギターソロによる間奏が追加され、リフレインが1回多い。最後のアップテンポになる箇所はそのままである(この部分ではシャッフル調になる)。アレンジ面で言えばこのツアーで一番興味深く、必聴です!ちなみに、ツアー・パンフレットでは当初のタイトル「High,Hi,High」と記載されている。この後1976年までライヴで演奏されるが、この時はシャッフル調のリズムで演奏されている。

10.Long Tall Sally

 そしてアンコールとして用意されたのが、リトル・リチャードのカヴァーでありビートルズ時代のポールの代名詞的存在でもあったロックンロール。ポールはビートルズ時代にもこの曲を取り上げ、EP盤「Long Tall Sally」で発表した(1964年)。オリジナルではないが、これだけはビートルズ・ファンを意識した?この後1973年全英ツアーでもアンコールで演奏されていて、初期ウイングスの十八番となった。ビートルズ時代ほどではないが、激しいシャウトを聞かせているのがかっこいい。演奏はかなり荒削りであるが、勢いで言えばこちらの方が勝っているかも。ビートルズの時と同じ曲構成だが、ギターソロなどは結構手抜きしています(苦笑)。なお、ここではソースとなったテープの関係上か冒頭が0.5秒ほど欠けて始まる。こうして、ウイングスのワイルドな一夜は幕を降ろすのでした・・・。

 

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