The Piano Tape

(2008.5.18更新、2011.7.10追記)

 

 1.Million Miles 5'58"
 2.Mull Of Kintyre 2'44"
 3.I'll Give You A Ring 3'10"
 4.Baby You Know It's True 3'12"
 5.Women Kind 2'01"
 6.Getting Closer 2'52"
 7.In My Dreams 1'28"
 8.Rockestra Theme  4'24"
 9.Now That She Is Mine (Letting Go) 3'00"
10.Call Me Back Again 1'56"
11.Lunch Box/Odd Sox 2'44"
12.Treat Her Gently/Lonely Old People 2'37"
13.You Gave Me The Answer 2'10"
14.Waiting For The Sun To Shine  1'41"
15.She Got It Good 1'26"
16.Blackpool 1'57"
17.Sunshine In Your Hair 2'26"
18.Girlfriend  2'21"
19.I Lost My Little Girl 2'45"
20.Upon A Hill 0'47"
21.Sea 1'45"
22.Love Is Your Road 1'58"
23.Sweet Little Bird 1'32"
24.Partners In Crime  1'27"
25.Suicide 1'35"
26.Dr. Pepper 0'06"
全体収録時間:60'57"

 ブートでは数々のデモ・テープを聴くことができるポールですが、ピアノ弾き語りのデモ・テープといえば、これでしょう。「The Piano Tape」です(私の手持ちはmisterclaudelレーベル、mccd-64)ポールによる約1時間ほどのピアノ演奏を堪能することができます。カセットテープに録音したものと思われ、所々でテープの録音を止める音が入っていることから、何回かに分けて録音されたものと推測できます。ビートルズ時代から定評の高い、ポールのピアノ演奏の魅力を、素朴ながらも余すことなく堪能できる1枚です。

 それ以上に興味深いのが、演奏されている曲目です。このデモ・テープは、1974年にロサンゼルスの自宅で録音されたというのが通説で、主にアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」(1975年)用の新曲のデモ録音がされています13は実際に「ヴィーナス・アンド・マース」セッションで取り上げられた)しかし何より興味深いのは、「ヴィーナス・アンド・マース」期ではなく、それ以降に陽の目を浴びることとなる様々な時代の曲がこの時点でデモ録音されていることです。たとえば、1977年に発表された大ヒット曲や、1979年にポールが提唱した一大ロック・プロジェクト「ロケストラ」用に書かれたなど、後年何かしらの形で公式発表された曲が9曲14181925もあります。詳しくは下記曲紹介で触れますが、これらすべて1974年にその原形が出来上がっていることに驚かされます。この時期、ポールの創作意欲が高かったことの表れでしょうか。なお、未発表曲もすべて1994年に著作権登録されている、らしいです。

 公式発表されていない曲でも、'70年代初頭に書いた16や、アニメ映画のサントラ用に録音された21といったポール・マニアならおなじみの曲が収録されています。未発表曲の多くはお世辞にも完成度の高くない、お遊び程度の録音が主流ですが、それでもポールの創作意欲を感じさせる演奏です。結構キャッチーなメロディもあったり、いろんなヴォーカルスタイルで歌ったりと、曲作りの過程を垣間見るかのようで興味深いです。その中からのみ、このブートの音源が追って公式発表されるに至りました。

 ピアノ弾き語りのデモ録音で、お遊び風の断片的な未発表曲が多いことから、公式アルバム並みのクオリティはありませんが、公式発表された曲のオリジナル・デモや、素直に楽しめる未発表曲など、ポールの才能を垣間見るには十二分なデモ・テープといえるでしょう。この手のブートではマスト・アイテムといっても過言ではないでしょう。1時間ほどあるので、肩肘張って聴くのではなく、リラックスして聴くのをお勧めします。もちろん、本来のピアノ弾き語りのテクニックも堪能できますし、ポールの創作力&演奏技巧がここに凝縮されています。ポール・ファンはぜひご一聴のほどを!


1.Million Miles

 このデモ・テープの冒頭を飾るのは、1979年のアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」で『After The Ball』とのメドレーの形で発表されるこの曲。『After The Ball』とは全く別の時期に作られた曲だったのかと驚かされる。公式ヴァージョンではコンチェルティーナという鍵盤楽器をバックに歌われているが、このピアノ演奏もなかなかソウルフル。6分も延々と続くのはちょっと勘弁してほしいですが・・・(汗)。ポールのヴォーカルはファルセット調となっている。

2.Mull Of Kintyre

 前曲からメドレー形式で続けて演奏される。ご存知1977年の大ヒット曲。「新しいスコットランド民謡を」と思ってポールが書いた曲だが、この時期から温めていたとは驚きです。そして、発表時期がポールの「英国回帰」路線の時期に重なったのですね。ウイングスのデニー・レインとの共作曲として知られるが、この時点でメロもサビも完成している。ということは、デニーの貢献は詞作面かアレンジ面か・・・?逆に歌詞はサビしか完成していない。オリジナルよりもかなりスローな演奏ですが、イントロでサビのメロディが出てくると「おっ!」と思います。

3.I'll Give You A Ring

 これまた前曲から続けての演奏。急にテンポアップして始まるのは、ポールが16歳の頃に書いた曲。このデモ・テープと同時期のリハーサル・セッション「One Hand Clapping」でも演奏しているが、公式発表されたのはそれから8年後の1982年、シングル「Take It Away」B面でのこと(未CD化)。この時もピアノ演奏を中心に、クラリネットやエリック・スチュワートのコーラスが重ねられているが、ここではシンプルなピアノ弾き語りを堪能できる。途中、演奏が中断してやり直す箇所があるのが面白い。歌詞はさすがに完成している。エンディング付近ではかなり太い声を出している。

4.Baby You Know It's True

 またもや前曲から続けての演奏。初登場の未発表曲。オールディーズ調のコード進行にのせて、太目の風変わりなヴォーカルを聴かせる曲。ブギー風のリズムが楽しい。途中で挿入される変な叫び声も楽しい(笑)。でも、これよりもっともっとすごい曲が控えています・・・。

5.Women Kind

 まだまだメドレー状態で続く演奏。長年未発表曲だったが、このブートの音源を取り返した(テープそのものは盗難に遭ったままのようですが・・・)ポールが2011年に「ポール・マッカートニー・アーカイブ・コレクション」シリーズで再発売された「マッカートニー」のボーナス・トラックに収録したことで公式発表された。[ライナーノーツによると、ポールは1970年の録音だと記憶しているそうだが、テープを止めないまま『Mull Of Kintyre』や『Getting Closer』が続けて演奏されていることを考えると、1970年録音とは思えない・・・。]このピアノ・デモ以外で演奏された形跡のない、ポールが変てこなヴォーカルで歌う曲(曲が進むにつれてますますおかしな声に・・・)。ピアノが刻むリズムとあいまって、昔の英国のコメディ番組にありそうな雰囲気です(苦笑)。途中で低音の合いの手が入る辺り、「1人何役」を意識している?最後の「おなら」のような音も面白い、完全お遊び風の曲。個人的には、このブートでも特にお気に入りです。まさか公式発表されると聞いた時にはびっくりしました(笑)。

6.Getting Closer

 前曲に続けて、テンポを上げて演奏されるのは、1979年の「バック・トゥ・ジ・エッグ」の実質的冒頭を飾り、シングルカットもされたロック・チューン。それが、5年前に、しかもピアノ・ポップの形で残されていたのは衝撃的です(デニーとヴォーカルを分けるアウトテイクも衝撃的ですが)。この時点でサビはメロディ・歌詞共に完成していますが、メロ部分が全く異なる。このデモで聴けるメロは明らかに弱く、公式ヴァージョンに差し替えたのは正解と言えるでしょう。ポールの「アウ!」は痛快ですが(苦笑)。

7.In My Dreams

 これも『Mull Of Kintyre』からずっと続いて演奏されていると思われる(若干余白が空いているのですが・・・)。未発表曲。このブートで最大限にポールが壊れている(笑)楽曲!不気味で暗い演奏にのせて歌うポールのヴォーカルは明らかにお遊び。メロディも抑揚が激しく、それに合わせて大げさに歌われます。エンディングでもノイズのようにタイトルを呟き続けます。これが公式発表されていたらいろいろ議論を呼んでいたと思いますが(苦笑)、個人的にはポールのお遊び感覚がよく表れていて好きです。「マッカートニーII」辺りかシングルB面で出ていても面白かったかも。

8.Rockestra Theme

 前曲のおかしな雰囲気の後は、1979年の「バック・トゥ・ジ・エッグ」より、言わずと知れた一大ロック・プロジェクト「ロケストラ」用にポールが書いたこの曲。ポールが「1974年頃に書いた」というコメントをしていますが、それを裏付ける音源!冒頭で(ついに)テープをいったん停止しています。ここでもオリジナルと同じインストで、既にメロディラインが完成しているのに驚かされる。実際の「ロケストラ」セッションや、「カンボジア難民救済コンサート」でポールがピアノを演奏しているのが、理解できる音源です。

9.Now That She Is Mine (Letting Go)

 前曲で再びテープを停止して、ここからまた録音再開。ここから数曲は当時の次作「ヴィーナス・アンド・マース」(1975年)で実際に取り上げられた曲。この曲も「ヴィーナス・アンド・マース」に収録されシングルカットもされたが、オリジナルのブルージーな雰囲気とは遠いピアノバラードのアレンジである。また、タイトル箇所が「I feel like letting go」ではなく「Now that she is mine」となっているのが最大の違いであろう。歌詞も部分的には完成しているが、オリジナルと違う箇所・構成もある。後半はジャム的なソロ演奏となる。この曲でまた録音を中止しているが、子供たちの騒ぎ声が小さく聴こえる辺り、このデモ・テープの真髄を表現しているかのようである。

10.Call Me Back Again

 「ヴィーナス・アンド・マース」収録曲。オリジナルもポールのピアノ演奏が映える曲だが、シンプルな弾き語りを堪能できる。既にヴォーカルスタイルは確立されている(オリジナルのようなシャウトはないが)。途中で録音を一時中断して、アウトロを追加している。が、テープのせいか途中でぶつっと切れている。

11.Lunch Box/Odd Sox

 この曲も「ヴィーナス・アンド・マース」セッションで録音されたが、結果的には1980年のシングル「Coming Up」B面で発表された。オリジナルもピアノ・インストのため、あまり印象が変わらない。この時点で2つのパートがアレンジ共に完成しているのは興味深い(『Odd Sox』は若干違う?)。ムーグが入っていない分、ポールのテクニカルなピアノ演奏を堪能できる。また、ポールのアドリブヴォーカルがなかなか面白い。特に『Lunch Box』は賑やかになっていて楽しいです。

12.Treat Her Gently/Lonely Old People

 前曲に続いて演奏されるのは、「ヴィーナス・アンド・マース」の実質的なラスト・ナンバー。公式ヴァージョンもピアノ演奏を中心としているため、これもあまり印象が変わらない。『Lunch Box/Odd Sox』同様、この時点で2つのパートが完成している(ただし繰り返しはない)。歌詞もほとんど完成していて、完成度が高かったためすぐの発表となったのではないだろうか。

13.You Gave Me The Answer

 前曲と続いての演奏。これも「ヴィーナス・アンド・マース」で公式発表された。そして、これまた公式ヴァージョンでもピアノ演奏が映える。ひょっとして「ヴィーナス・アンド・マース」にピアノ曲が多いのは、このデモ・テープのため?歌詞は一部しか完成していないが、ヴォーカルの雰囲気はなんとなく公式ヴァージョンに近い。太い声を出したり、アドリブを入れたりと、ポールも楽しそう。

14.Waiting For The Sun To Shine

 前曲と続いての演奏。一見未発表曲のようだが、実はちゃんと発表されている。1987年にフィル・ラモーンのプロデュースで通称「The Lost Pepperland Album」セッションで録音され、1997年のシングル「Beautiful Night」内のCD版「Oobu Joobu」で発表された『Love Mix』のサビ部分なのである。公式ヴァージョンとは全く違う雰囲気だが、陽気な感じはいつの時代も変わらない。歌詞(というよりタイトルフレーズ)は、公式ヴァージョンでもそのまま使用されている。ポール・マニアは、一番この曲で驚いたはず!

15.She Got It Good

 まだまだメドレー形式で続きます。これは完全な未発表曲。ミドルテンポの曲で、のっけからポールの変なシャウトに驚かされます。あんまりぱっとしない曲ですが、タイトルフレーズの繰り返しは結構耳に残るかもしれません。

16.Blackpool

 続いて演奏されるのが、1971年の「ワイルド・ライフ」セッション辺りに書かれた未発表曲。ポール自身何度も取り上げているため、マニアの間では有名な曲である。歌詞は英国の情景を歌ったもの。何度も演奏しているためか、演奏も歌もこなれている。ここら辺は、当時初めて取り上げた曲との差を感じます。ここで再び録音は一時停止します。

17.Sunshine In Your Hair

 未発表曲。『Waiting For The Sun To Shine』(=『Love Mix』のサビ部分)にも似たブギー風の軽快な曲。この曲最大の聴き所は、中盤のポールのファルセット風ヴォーカルと意味不明なシャウトか?(苦笑)メロ部分を書いてアレンジを練れば、『Love Mix』のように公式発表もできたかも?ただし、あの意味不明なシャウトは抜きでお願いします(苦笑)。

18.Girlfriend

 続いて演奏されるのは、1978年のアルバム「ロンドン・タウン」で発表され、マイケル・ジャクソンにプレゼントされたこの曲。1974年にスイスで書いたとされていますが、これを裏付ける音源です。また、ここでもマイケル・ジャクソンを意識したかのようなファルセットで歌われていて、マイケル(ないしはジャクソン・ファイヴ)に提供するつもりが当初からあったことも裏付けています。まだ中盤部が完成していなく、歌詞も第1節を繰り返すだけです(マイケルのカヴァー・ヴァージョンも中盤部は省かれているのですが)。途中で演奏をやり直す箇所も。

19.I Lost My Little Girl

 前曲とのメドレーで登場するのが、ポールが14歳の頃に初めて書いたと言われる曲。処女曲であるこの曲を、ポールは何度も取り上げていますが、公式発表されたのは1991年のアルバム「公式海賊盤」でのこと(TV番組「Unplugged」での演奏を収録)。このピアノ・デモでも『I'll Give You A Ring』同様、歌詞は当然完成している。後半はスローなアレンジで早口で歌います。やはり、この辺りの曲はこなれていますね。

20.Upon A Hill

 前曲と続けての演奏。未発表曲で、リズムは前曲の影響を受けてスキッフル調。このデモ録音中に即興で作った可能性も高い、50秒にも満たない小曲です。なんとなく「ラム」辺りにありそう?

21.Sea

 まだまだメドレーで続きます。この曲も未発表曲だが、後に1980年頃に再度デモ録音されている。その時は、ポールが版権を持つ漫画「Rupert The Bear」のアニメ映画のサントラ用の録音で、当時のウイングスのメンバーも参加しています。私が聴いたことがあるのは1980年ヴァージョンの『Cornish Wafer』とのメドレーですが、ここで聴かれるヴォーカルよりさらに渋さを増しています。1974年当時からアニメ用に書いたのかは不明です。

22.Love Is Your Road

 メドレーで続くのは、これまた未発表曲。ポールらしいポップナンバーで、足踏みでリズムを入れていてなかなか軽快である。このピアノ・デモ収録の未発表曲では比較的完成度が高い。しっかりしたアレンジで聴きたかったものです。

23.Sweet Little Bird

 これまたメドレーで続く、これまた未発表曲。スローバラードのようである。すぐに次曲の導入部(スローな演奏)に移ってしまうため、この曲の演奏は実質的に1分ほどである。ポール敬愛するボブ・マーリーの曲によく似たタイトルの曲があるが無関係と思われる。

24.Partners In Crime

 その導入部を受けて始まるのが、この未発表曲(このブートの後半がすごく地味に聴こえるのは、未発表曲が連続しているため?)。『Admiral Halsey』を思わせる軽快な曲で、ポールは風変わりなヴォーカルで歌う。かなりキャッチーで楽しいメロディライン&歌い方なので、公式発表しても面白かったのでは、と思います。

25.Suicide

 『I'll Give You A Ring』『I Lost My Little Girl』と同じく、ポールが少年時代に書いた曲。ポール自身思い入れが強いようで、いろんな時代で披露しているがようやく公式発表されたのは2011年のこと(リマスター盤「マッカートニー」ボーナス・トラック)。どの時代もピアノ弾き語りで披露している。このデモ・テープでは、途中からの演奏となっている(テープが切れているわけではない)。また、子供たちの騒ぎ声が途中入っている。ポール・マニアの間では前々から有名な曲。そして、いよいよこのデモ・テープもフィナーレを迎えます・・・!

26.Dr. Pepper

 このテープの最後を飾るのは、『C Moon』に似たピアノリフで始まる未発表曲。しかし、テープが途切れているためか始まってまもなく6秒で終わってしまう(汗)。曲の全貌をつかむことができない、既発表曲を演奏しているのかも分からない、謎の音源です。タイトルは、最初のブート制作者がつけた!?ポールの全楽曲で最短の曲!?

 

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