The Alternate Press To Play Album

(2006.3.15更新)

 

 1.Move Over Busker 4'05"
 2.Good Times Coming/Feel The Sun 7'08"
 3.It's Not True 4'31"
 4.Press 4'29"
 5.However Absurd 4'42"
 6.Stranglehold 3'34"
 7.Footprints 4'30"
 8.Yvonne  4'14"
 9.Write Away 3'06"
10.Tough On A Tightrope 4'29"
11.Pretty Little Head 4'55"
12.Spies Like Us #1 4'56"
13.Spies Like Us #2 4'39"
14.Only Love Remains  4'27"
15.Talk More Talk #1 4'05"
16.Talk More Talk #2 3'42"
全体収録時間:71'32"

 アルバム「プレス・トゥ・プレイ」(1986年発表)といえば、ポール史上最悪の失敗作と呼ばれることが多く、ポール自身も最近になってその存在を嫌っているほどの「駄作」というイメージがまかり通っています。その最大の要因は、チャート不振の原因ともなった「ポールらしくない」サウンドでしょう。打ち込み主体のエレクトリック・ポップでリズム重視の曲が多く、過剰なオーバーダブや機械的な音作りが成されていたからです。中にはポールらしいメロディアスな曲もけっこう多く含まれているのですが、「アレンジがメロディを殺してしまった」とよく言われるように、もろに'80年代サウンドの影響を受けたこのアルバムはある種の「風評被害」も作用して多くの人々の関心の外にあるままです。

 しかし、実際このアルバムに収録された曲たちは驚くほどにポールらしいメロディを持つ曲が多く、その魅力はいまだに多くの人が知らないまま。ポールらしいバラードやポップ、そしてロックンロールと、「隠れた名曲」が揃っているのです。これらの曲の半分ほどは10ccのエリック・スチュワートとの共作曲で、エリックのサポートを感じさせるポップ職人的メロディがちりばめられています。そう、曲自体は決して悪くないのです。アレンジの段階で、好き嫌いの分かれる'80年代サウンドを取り入れてしまい不評の要因となったのです。

 さて、このページではあなたの持つ「プレス・トゥ・プレイ」への固定観念を払拭させてしまうようなCDを紹介します。その名は「The Alternate Press To Play Album」(ORANGEレーベル、ORANGE Thirteen)。数多く存在するポールのブート盤のひとつであり、公式盤ではないのですが、「プレス・トゥ・プレイ」セッションのアウトテイクを収録しています。全部で16曲入りで、初回版CD収録曲のうち『Angry』を除いた全曲分が収録されています。その代わりに、同じセッションで録音され先行してシングル発売された『Spies Like Us』と、当時のセッションで未発表となり後年10ccが発表した『Yvonne』を収録しています。なお、『Only Love Remains』のみ「ロイヤル・バラエティー・ショー」でのライヴ音源です。

 ここに収録されているアウトテイクはいずれも公式発表されるよりも初期段階のテイクで、既に構成や歌詞はほとんど出来上がっている状態なのでレコーディング中途といった感じです。これらはポールのヴォーカルがガイド・ヴォーカルだったり、オーバーダブがされていなかったりしています。いわゆるデジタル音をかぶせる前の、あっさりとしたものなのです。そしてそれこそ、「プレス・トゥ・プレイ」を見直すきっかけとなるのです。あの'80年代サウンドのきつい雰囲気は遠くへ消え、ここではありのままのメロディアスなポールらしい曲になっているのです。たとえば『Talk More Talk』や『However Absurd』は全くイメージが違います。あの『Pretty Little Head』でさえ断然聴きやすくなっています。余計な音声を省いた曲たちは、多少味気なさがあるもののオリジナルよりよい出来具合というものも少なくありません。まさに本来あるべき姿が、ここにはあるのです。

 このブートは、「プレス・トゥ・プレイ」を嫌う方たちにぜひ聴いてもらいたいです。これまで「打ち込みだから嫌い」だとか「機械的で無機質」だとかいう理由で避けてきた方たちにとってこのブートは新たな発見を与えてくれるでしょう。まさに新曲を聴いた感じになるでしょう。本当はこんなにポールらしい曲の集合体だったんだ!と、少しは見直すことができるでしょう。そしてそこから、公式発表されたヴァージョンも徐々に好きになってくれますと、「プレス・トゥ・プレイ」が大好きな私のような人間にとっては光栄です(苦笑)。この「The Alternate Press To Play Album」のほかにも、ブートの名盤「Pizza And Fairy Tales」(2枚組、1987年のフィル・ラモーンとのセッションも収録)や「Played To Press」などのブートにもこれらの音源は収録されていますので、こちらもチェックしてみてください。

 お勧めは、なんといっても『Feel The Sun』の完全版に尽きます!オリジナルは大幅にカットされていますが、実際はすごくかっこいいロックなんです!他にはオーバーダブ前でポールらしさの残る『Talk More Talk』や『It's Not True』、そしてライヴ音源の『Only Love Remains』がお勧めです。音質もクリアで聴きやすいです。


1.Move Over Busker

 ほぼオリジナルと変わりないが、初期テイクといった趣がある。

 〜サウンド・構成〜

 ほとんどオリジナルと同じ。しかしミックスのせいか音が薄くなっている。そのため迫力には欠けるかも。ギターソロが入っていないのがその原因だろう。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 ポールのガイド・ヴォーカルは勢いあるもののラフな感じ。オリジナルで印象的なコーラスが入っていない。後半のイメージはかなり違って聴こえます。ライヴで歌ったらこんな感じになるのかも。

2.Good Times Coming/Feel The Sun

 2曲ともオリジナルと異なる初期テイク。なんといっても『Feel The Sun』の完全版!これを聴くためだけでも買いです!

 〜サウンド・構成〜

 2曲は元々ばらばらに録音されたと思われるが、ここでもノイズを介してつなげられている。

 『Good Times Coming』は冒頭の波の音&コーラスも全く違う(クリアで長い)。また、不気味なシンセやギターソロがかぶせられる前の状態。

 『Feel The Sun』はオリジナルと全く違う録音で、ラフな感じ。理路整然さは全くない。オリジナルでは短く編集されているが、ここでは3分半もの完全版!オリジナルで聴けないメロディが炸裂、新曲を聴く感じ!中盤以降のキーボードが印象的。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 『Good Times Coming』はガイド・ヴォーカルで、バッキング・ヴォーカルもオリジナルとは入る位置が異なる。のびやかでラフな感じ。第3節の歌詞は、まだない。

 『Feel The Sun』は友達を慰めるような歌詞であることが分かる。このテイクでは“All the beauty,all the pain”のくだりが登場しない。

 そしてポールのシャウトが炸裂!!後半に向けてかっこいいです!単体で発表していてもよかったのでは?シングルでも売れ線だったかも。あのような形で発表してしまったのは正直残念。

3.It's Not True

 7インチヴァージョンが元になっている。メロディの持つ美しさが再確認できる。

 〜サウンド・構成〜

 ゆったりで一定なドラムビートとエレピを中心にシンプルなアレンジ。ギターは入っていない。サックスをフィーチャーしている。ちょっと気だるい演奏かも。12インチヴァージョンに顕著な、ハードで大げさなイメージが払拭されます。ベースラインも聴き所。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 この曲もガイド・ヴォーカル。まだオリジナルのようなはりつめた歌い方はされていない。コーラスも入っていない。シンプルそのまま。

4.Press

 7インチ収録のシングルヴァージョン(ヒュー・パジャムのミックス)が元になっている。

 〜サウンド・構成〜

 シンプルな7インチをさらにシンプルにしたようなバッキングで、リズム含めラフな点が多い。華やかで理路整然としたアルバムヴァージョンとは明らかに異なる。ただし構成はアルバムヴァージョンと同じ。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 こちらもガイド・ヴォーカル。歌い方もラフで、アルバムヴァージョンでは間奏に当たる部分でも歌っている。歌詞も微妙に異なる。

5.However Absurd

 大仰なアレンジが入る前のテイクでとっつきやすい。この曲がポールらしいバラードであることを確認できる。

 〜サウンド・構成〜

 ストリングスやシンセ音をオーバーダブする前のテイクで、ベーシックトラックはオリジナルと同じ。アウトロも短い。変なサイケ色が減り、ピアノバラードぽさが出て聴きやすい。オリジナルでは隠し味になっていた終盤のトランペットが、露骨に聴こえるのが面白いです。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 ガイド・ヴォーカル(だと思う)で、一部歌い方が違ったりスキャットが消えている。ただし、既に声にエフェクトがかかっている。大仰なコーラスは入っていない。

6.Stranglehold

 このブート中、一番オリジナルに近いアレンジ。

 〜サウンド・構成〜

 ベーシックトラックは全く同じだが、エコーがかかっていないので生っぽさが出ている。サックスがオリジナルと違い低い音で入っている。間奏にオリジナルにない音が入っている。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 全く同じ(サビの最後が若干違う?)。コーラスも完全収録。唯一、間奏のスキャットがないだけ。

7.Footprints

 アコースティック感が強調されたヴァージョンで、かなり違って聴こえる。この曲を好きな方には朗報?

 〜サウンド・構成〜

 ベーシックトラックは同じだがエフェクトが入っていない。非常にシンプルにはなっているが、サビのダイナミックさが欠けるなど感動が薄れている気も・・・(人によりますが)。スパニッシュギターのミックスが薄い。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 ガイド・ヴォーカルで、かなり歌い方・音程が違う(“fire”の部分など)。オリジナルほどには枯れていない。メロ部分のバッキング・ヴォーカルがない。

8.Yvonne

 「プレス・トゥ・プレイ」セッションで録音されたポールとエリック・スチュワートとの共作だがお蔵入りに。10ccが『Yvonne's The One』のタイトルでアルバム「ミラー・ミラー」(1995年)で発表して日の目を見た。オリジナルはレゲエアレンジ(ポールもギターで参加)だが、こちらのテイクはポールらしいバラード。同じくこの時期のアウトテイク『Don't Break The Promises』とは全く逆のパターンなのが面白い。

9.Write Away

 このブート中一番オリジナルと異なる一曲。

 〜サウンド・構成〜

 オリジナルと同じベーシック・トラックだが、イントロの打ち込みドラムがなく、多少ラフ。また間奏の印象的なエレピも入っていない。さらに、アウトロのおまけがついている。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 完全な初期段階で、歌詞もほとんど完成していない。タイトルすら「all the way」になっている。ポールもほとんどでたらめに歌っている。とにかく録音したかったのだろうか。

10.Tough On A Tightrope

 オリジナル自体あっさりしたアレンジだが、さらに輪をかけたあっさりさ。ファンが増える?

 〜サウンド・構成〜

 ベーシックトラックは同じだがストリングス・フルートと間奏のギターソロ、後半のハープシコードが入っていない。ピアノポップ色が濃く出ている。メロディアスさを素直に堪能できる。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 ガイド・ヴォーカルを収録。歌詞は完成しているがまだまだラフな歌い方。エンディングのコーラスもまだ入っていない。アウトロの「Up on a tightrope」って・・・(苦笑)。

11.Pretty Little Head

 ほとんど同じなのに、オリジナルとは何かが違う。既に当初のインストだった頃は脱出している。

 〜サウンド・構成〜

 アルバムヴァージョンとほとんど同じだがミックスが異なる。テンポが若干速い?後半が完全にインストとなるのが、ちょっと退屈するかも。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 ガイド・ヴォーカルで、声はポールそのまま。まだ第2・3節の歌詞が完成していなく、第1節を繰り返し歌っている。“Ursa major,Ursa minor”と最後の語りは入っていない。

12.Spies Like Us #1

 まだまだラフな感じ。

 〜サウンド・構成〜

 冒頭にノイズのようなものが入っている。シンプルなベーシックトラックのみ。かなり薄っぺらに聴こえる。曲の終了後にちょっとしたギターのおまけつき。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 ガイド・ヴォーカルでかなりラフな歌い方。歌詞も微妙に異なる。コーラスは入っていない。つなぎでの「ジュッドゥクドゥク」が面白いです(苦笑)。[←この部分は12インチ収録のリミックス“Alternative Mix”で聴くことができます。]

13.Spies Like Us #2

 「#1」に音を加えたもの。

 〜サウンド・構成〜

 「#1」にリードギターとブラス・セクション、パーカッションを追加。ただし、まだ間奏のエフェクトが入っていない。また、こちらのヴァージョンは完奏せずフェイドアウトする。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 まだガイド・ヴォーカルのままで、コーラスもまだ入っていない。歌詞もそのままで「How do you do?」と「ジュッドゥクドゥク」が相変わらず面白いです。

14.Only Love Remains

 この曲だけはスタジオのアウトテイクではなく、1986年11月24日にポールが出演した「ロイヤル・バラエティ・ショー」からのライヴ音源。「宝石じゃらじゃら発言」で有名なビートルズ時代以来23年ぶりの出演だった。サックスをフィーチャーしたシングルヴァージョンに近いアレンジで、ポールはピアノを弾き語りながら歌う。映像版も残っており、リラックスしたムード。妻のリンダもコーラスで参加している。ロック番組「チューブ」でも演奏していて、「プレス・トゥ・プレイ」でもこの曲を盛んにプロモートしていたことが分かります。

15.Talk More Talk #1

 過剰なオーバーダブをカットして聴きやすい。曲の良さ・ポールらしさが分かる。意外にもポールらしい陽気なポップなのです。

 〜サウンド・構成〜

 イントロの語り&シンセを丸々カット。その他はほぼオリジナル通りだが、間奏のドラミングとギターソロが違い、一部シンセ音がない。最後は繰り返しが1回少ない。ちょっと違うだけなのに、圧倒的に聴きやすい。個人的にはオリジナルより好きかも。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 イントロ・アウトロの語りをカット。間奏の語りも一部が消えていて、タイミングがずれている(ミックスも違う)。ヴォーカルはほとんど同じ(若干抜けている)。

16.Talk More Talk #2

 「#1」をもとに曲構成を編集したもの。曲作りの過程が垣間見れる。

 〜サウンド・構成〜

 「#1」の曲構成を編集し直したもので、オリジナルとはかなり異なる。乱雑な編集なので、どこがつなぎ目かはっきり分かる。かなり起伏の激しい構成なので却下されたのだろう。

 〜ヴォーカル・歌詞〜

 間奏の語りはタイミングが直っているがやはり一部なくなっている。イントロ・アウトロの語りは今回も不採用。ただし、ヴォーカルは全く同じ(つまり「#1」と微妙に違う)。

 

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