ディスコグラフィ 〜オフコース・4人時代〜

 

The Best Year of My Life

The Best Year of My Life

(1984年6月21日発売)

1.恋びとたちのように  2.夏の日  3.僕等の世界に  4.君が、嘘を、ついた  5.緑の日々

6.愛を切り裂いて  7.愛よりも  8.気をつけて  9.ふたりで生きている

 Yassさん(鈴木康博)の脱退から2年、オフコースは4人で復活しました。その編成での、そしてファンハウス移籍後の最初のアルバムとなったのがこの『The Best Year of My Life』です。そしてこのアルバムで、オフコースはそれまでとは大きくそのスタイルを変えてしまったのです。そのことは当時のファンにとっては大きな衝撃だったことでしょう。すべてが昔と異なり、あたかも別のグループの音楽を聴いている気分になるからです。

 まず、それまではポップにフォークなどの要素を加えたオフコース独特の作風が大半を占めていたものが、ロック調の曲が目立つようになったこと。これは明らかにロック畑出身の松尾さん・清水さん・大間さんの影響でしょう。事実、このアルバムで松尾さんは(3)(6)(7)の3曲を提供、以前に比べ松尾さんの曲の比率が高まっています。またサウンドでは、当時の流行に乗ってかシンセドラムなど鋭角的なアレンジが成されています。これも曲にハードさ・鋭さを与える要因になっています。詞作も、(1)(4)などそれまでの小田さんに見られなかった「修羅場」的な恋愛を歌ったものが登場。硬派なイメージに拍車をかけています。

 このようにそれまでのオフコースを完全否定したようなサウンドは、4人時代の典型的なパターンとなってゆきます。この方向転換は、小田さんがロック畑の3人と一緒にバンドをしてゆこうという意気込みの表れであり、新たなファン層を獲得することに成功しました。しかし、従来のオフコースファンにとっては決して満足いくものではなく、これ以降のオフコースに冷めてしまった人も多いようです。

 しかしこのアルバムは4人時代の中でもっとも聴きがいのある、「名盤」と言っても過言ではないアルバムです。というのも、1曲1曲のインパクトが強く、質が非常によいからです。実際、(5)は「君住む街へ」と並んで「後期オフコース最大の名曲」と呼ばれていますし、(4)(2)も人気のシングルナンバーです。どうしてもシンセドラムを多用したロックナンバーに目が行きがちですが、(2)(5)(8)(9)はいつもの小田さん節が発揮されているポップやバラード。松尾さんの曲もこれまで以上にパワフルで、(3)の力強さや(7)のファンキーさに注目。この後のアルバムはどうしても散漫さが見え隠れしていますが、このアルバムは非常によくまとまっています。これも、この時のグループの団結力が固かったこと、「自前主義」を崩していなかったことの賜物でしょう。

 私の一番好きなオフコースのアルバムは、実はこのアルバムだったりします。いちいち挙げていられないほど大好きな曲が目白押しだからです。松尾さんのファンである私ですが、このアルバムの松尾ナンバーが一番好きです(特に(7)!カラオケでの十八番です)。若干シンセドラムが気になりますが(小田節に近づけば近づくほど)、それも忘れてしまうような完成度の高さです。ちなみに、次のアルバム『Back Streets of Tokyo』でこのアルバムの(1)(4)(6)(8)が英語ソングとしてリメイクされています。

 

Back Streets of Tokyo

Back Streets of Tokyo

(1985年8月1日発売)

1.FOOL(WHAT DOES A FOOL DO NOW)  2.SECOND CHANCE  3.LOVE'S DETERMINATION

4.HER PRETENDER  5.EYES IN THE BACK OF MY HEART

6.MELODY  7.LOVE'S ON FIRE  8.ENDLESS NIGHTS

 オフコース唯一の英語アルバム。実はオフコースには全米進出する意志があり、このアルバムはそのために作られたものでした。結局米国発売において有利な条件が取り付けられず米国進出は断念、日本でのみ発売されたのですが・・・。それでも米国のラジオで(1)(8)が流れ、小田さんが現地で聴いたのは有名な話。同年のLIVE AIDにオフコースが日本代表として出演した時に演奏したのも(8)と、海外で注目を浴びた一枚です。

 プロデュースはビル・シュネー。前作『The Best Year of My Life』を中心に過去のオフコースナンバー8曲をリアレンジの上全曲英語詞で再録音しました(とはいえ、5人時代の曲である(6)を除いてはほぼ日本語版と同じアレンジです)。英訳はランディ・グッドラムが手がけ、小田さんたちは英語の発音の手ほどきも受けました。さすがはオフコース、ひとつひとつを徹底的に極めます。

 収録曲の日本語版は次の通り。(1)「恋びとたちのように」 (2)「call」 (3)「LAST NIGHT」 (4)「気をつけて」 (5)「君が、嘘を、ついた」 (6)「哀しいくらい」 (7)「愛を切り裂いて」 (8)「たそがれ」

 このように日本語詞を英訳したアルバムですが、決して安直なものにはなっていません。日本語版の歌詞の雰囲気を大切にしながらも、独自の世界を築いています。また、一部を除けばメロディと英詞がマッチし不自然さを感じません。特に音数の少ない(4)(6)(8)辺りは洋楽と聴き間違えても不思議ではないくらいです。全体的にAORの趣が漂っているので、そういう方面で聴くのも面白いかもしれません。

 よく日本語詞を英語詞に直すと、音数の違いや韻の踏み方で不自然さが浮き彫りになることがしばしばですが、このアルバムではほとんどありません。オフコースもさることながら、グッドラム氏の作詞の手腕に脱帽です。さすがにオリジナルを越える!とは言いにくいですが(個人的には(8)は日本語版以上と思っています)、英語が苦手な人でも自然と受け入れられるアルバムだと言えるでしょう。ちなみに、(6)は「CITY NIGHTS」というタイトルでプロトタイプの英語版が作られていて、シングル「緑の日々」に収録されていました。また、全米進出のために制作したデモテープには、「Yes-No」「さよなら」「生まれ来る子供たちのために」などの英語版も存在するそうです。CD化を希望!

 

as close as possible

as close as possible

(1987年3月28日発売)

1.もっと近くに -as close as possible-  2.IT'S ALL RIGHT -ANYTHING FOR YOU-  3.ガラスの破片  4.白い渚で

5.Tiny Pretty Girl  6.Love Everlasting  7.I'm a man  8.心の扉  9.SHE'S GONE  10.嘘と噂

 前作『Back Streets of Tokyo』から1年半ぶりのオフコースのアルバム。前作のリリース後オフコースは活動を休止していて、その間に小田さん・松尾さん・清水さんはそれぞれソロアルバムを発表。その時の経験を持ち寄って生かしたのがこのアルバムです。

 サウンド・アレンジは基本的に前作までと同じ。しかし、大きく変わったことがあります。それは、それまでオフコースの信念であった「自前主義」が崩壊していること。あの「忘れ雪事件」を起こしてまでも自分たちでやるんだ!という姿勢を崩さなかったオフコース。ここで大きく方向転換することになります。

 まず、サウンド的にはシンセドラムからプログラマーによる打ち込みドラムスに重点が置かれています。これは、必ずしもメンバーが揃わなくても曲が完成する・・・という「グループ崩壊」の暗示でした。作詞者として(3)(7)に秋元康、(5)(8)に松本一起を起用。これらの曲はいずれも松尾さんや清水さんの曲です。清水さんは、このアルバムの(5)(8)で初めてリード・ヴォーカルも取っています。これも、小田さんの影になっていた松尾さん・清水さんがソロを経て急速に力をつけてきたことの表れです。これに負けじと、小田さんは(10)で大貫妙子と「教授」こと坂本龍一をゲスト参加させています。大貫さんはヴォーカルまで取っていて、「これがオフコース!?」といった趣を見せています。極めつけは、英語詞による(6)でしょう。セッションギタリストのダン・ハフ作曲で小田さんが歌うこの曲、実は小田さんのソロアルバム『K.ODA』セッションで録音されたもの。したがって松尾・清水・大間3氏は不参加です。なぜソロで録音した曲をアルバムに入れたのか・・・これは小田さんのオフコース観の変化を象徴的に示しています。

 このように、それまでの「自前主義」を大幅に規制緩和したこのアルバムは、それぞれがソロで培ってきた経験の影響もあり極めてバラエティ豊かな曲が揃いました。しかし、それが災いしてか全体的にはバランスの取れていない、統一感のないアルバムであることも否めません。そのせいか多くの人の中で、4人時代のアルバムでは一番存在の薄いアルバムになっているかと思います。

 しかし、名曲がけっこう多いのも事実でそこが見落とせません。(1)(2)は問答無用のヒットシングル。ポップで弾けています。(4)はシングルカットこそなかったものの小田さんらしい美しいメロディが流れるバラード。以上3曲は歌詞の一部が英語で、前作の影響なのか、当時の流行に乗ったのか?松尾さん・清水さんの曲では、なんといっても(5)は必聴!!ライヴでも大きく盛り上がった楽しいロック・ナンバーです。ヴォーカルは清水さんと松尾さんが交互に歌っています。松尾さんのハーモニカが味わい深い(3)、清水さんが野太いヴォーカルを聴かせる(8)も聴き所です。

 全体的には散漫で今ひとつといった感じですが、素敵な曲がいっぱいなので捨てがたいです。ソロでの経験を生かしたアルバムだったのですが、結局、このアルバムで小田さんはソロで音楽活動をする自信をますますつけてしまい、2枚目のソロアルバム『BETWEEN THE WORD & THE HEART』を制作したのかもしれません・・・。

 

Still a long way to go

Still a long way to go

(1988年6月9日発売)

1.君住む街へ  2.she's so wonderful  3.I can't stand this  4.陽射しの中で

5.夏の別れ  6.still a long way to go −また会う日まで−  7.多分 その哀しみは  8.逢いたい

9.悲しい愛を終らせて  10.僕らしい夏  11.昨日見た夢

 泣いてもこれがオフコースのラスト・アルバム。前作と本作の間に小田さんは2枚目のソロアルバムをリリース、ソロでやってゆくことに確かな自信を持ったようです。そしてアルバム完成後のコンサートツアーの後、1989年2月26日の東京ドーム公演を最後にオフコースは20年の歴史に幕を降ろし解散したのでした。

 その記念すべきラスト・アルバムである本作。相変わらず無機質な打ち込みサウンド主体で、結局4人時代はずっと同じスタイルで駆け抜けてきたことになります。前作『as close as possible』では作詞者やゲスト出演もありバラエティ豊かゆえの散漫さが目に付きましたが、このアルバムではある程度に抑えられています。松尾さんのヴォーカル曲(4)(10)と松尾さんと清水さんのデュエット曲(3)の作詞を松本一起が、オフコースで最初で最後の清水さん単独の曲(8)の作詞を吉田拓郎が手がけている以外はすべて自前。小田さんの曲の比率が圧倒的に多くなっています。うちアルバムの流れの中で浮いているのは唯一(8)だけでしょう。[清水さんが(8)の作詞を小田さんに知らせずに吉田拓郎に依頼したことを後年小田さんが愚痴っていますが、「自前」が崩れたゆえのひずみといえるでしょう。]

 このアルバムに統一さを持たせているのは、他でもない小田さんの曲の持つ哀愁です。その悲しい印象は、「解散」というキーワードを思い浮かべさせ感動を与えます。またこれらの曲は詞作も完璧で、オフコースに関心を失っていたといえ小田さんは最後までいい曲を提供していたことが分かります。ファンに向けてのメッセージのような(6)、タイトルどおりさらりと「別れ」を告げる(5)、多くの人が励まされてきたであろうやさしく力強いメッセージソング(1)(7)、そして希望あふれる曲調と共にオフコースを「総括」したようなラスト・ナンバー(11)など。あえてしんみりと始め、最後を明るく締めるのもオフコースらしいです。曲調はそれほどでもないですが、歌詞はれっきと「ラスト・アルバム」しています。

 上で挙げた小田さんの詞作が素晴らしい曲はもちろんこのアルバムの大きな魅力です。特に(1)はオフコース屈指の名バラード。小田さん・松尾さん・清水さんが交互に歌います。(5)(7)の流れはただただ感動です。そんな中悲しいムードを吹き飛ばしてゆくシングル曲(2)もなかなかの快作。松尾さん・清水さんの曲も小田さんに追いつかんと頑張っていますが、特に松尾さんの(4)は爽やかで不思議な雰囲気の美しいバラード。ただ、(8)だけはどうしてもアルバムの流れから浮いている気がしてなりません・・・(野郎的フォークロックですから、ね)。

 

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