Jooju Boobu 第97回

(2006.2.10更新)

Bogey Music(1980年)

 今回の「Jooju Boobu」も、再びマニアックです(笑)。何しろ、アルバム「マッカートニーII」(1980年)収録曲ですから!ウイングス活動休止中にすべてをポールの独力で仕上げた、いわゆる「宅録」のアルバムにして、ファンの間ではその評価をめぐって当時から今までいろいろと議論が成されてきた問題作「マッカートニーII」。それだけでも十分マニアックですが、今回はそんな中からあまり知られることのない1曲・・・『Bogey Music』を取り上げます。実にマニアックですよね(苦笑)。「マッカートニーII」と言えば、一般的にはポールがテクノ・ポップに挑戦した「テクノもどき」満載の1枚という視点のみで捉えられがちですが、実はそう簡単に一言でまとめてしまうことはできません。美しいバラードの佳曲『Waterfalls』や、渋いブルース『On The Way』などはその好例でしょう。そして、この『Bogey Music』は・・・それらともまた違う独自の路線を突っ走っているのです。それでいて「マッカートニーII」ならではのユニークな雰囲気があふれていて、アルバムのカラーにはまっているのが絶妙なのですが・・・。ともかく、ポールの尽きせぬアイデアがいっぱい詰まった、ひたすら陽気で楽しいこの曲の魅力を早速見てゆきましょう。

 このコラムでも既に何度か収録曲を取り上げた際に説明してきましたし、ポール・ファンの皆さんなら周知の通りですが、「マッカートニーII」に収録された曲たちは1979年の夏にポールがスコットランドの自宅で人知れず行ったセッションで生まれたものでした。当時のポールは自身が牽引役になって率いるウイングスの一員でしたが、そのウイングスが再三のメンバーチェンジを繰り返して世に送り出した会心作「バック・トゥ・ジ・エッグ」が予想外の不振に終わり自然と停滞に向かっていた頃に始まったこのセッションは、ウイングスとは全く無関係の、ポールにとってソロ・デビュー作「マッカートニー」以来久々の実質的なソロ・プロジェクトでした。今思えばそこに、ポールの中でのウイングスの位置づけの微妙な変化が見て取れるのですが・・・。そして、友人から機材を借りて自宅をスタジオに変身させたポールが本人いわく「狂った教授」の状態で作り上げていったアルバムは、元々は「カセットに入れて車で聴くため」のものでした。つまり、ポールにしてみれば絵描きや園芸を嗜むように個人的な趣味の世界であり、そもそもこれを公式に発表する気は全くなかったのです。曲の大半がその場の思いつきで書かれ、すべての楽器とほとんどのヴォーカルをたった1人で受け持ち(ごく一部に妻・リンダが参加しているものの・・・)、プロデュースもレコーディングもミキシングも全部他人の手を借りずに自宅で済ませてしまっていることがその何よりの証しです。「ウイングスとは何か違うことがしたかった」とはポールの弁ですが、休暇中の軽い気晴らしとして誰の干渉も受けずに続けられた“自己満足型引きこもりセッション”(苦笑)で残された一連のテープは、その意図通りしばらく放置されていました。

 ところが、この後英国ツアーでウイングスを再始動させたポールに待ち構えていた大きな状況変化により、その運命も変わってゆきます。言わずもが、1980年1月に起きた日本でのポール逮捕事件です。これによって日本公演が幻になったどころか、ウイングスは決定的なダメージを受けて半ば空中分解の様相を見せました。さらに強制送還されたポールは再び自宅に引きこもってしまい、ウイングスが描いていた計画はすべて白紙に・・・。半年前に録音してあった例のセッションの曲たちにスポットライトが浴びせられたのは、そんな折のことです。逮捕事件から丸4ヶ月後、思いを変えたポールの手で少しの編集を加えて体裁を整えられた11曲が、1枚のアルバム─これぞ「マッカートニーII」─として公式発表されたのです。永遠にお蔵入りになるはずだった音源が、一転して陽の目を見る急展開でした。このように紆余曲折を経た末にふとしたことから発表に至ったのですが、それが全英1位・全米3位と、本腰を入れて作った「バック・トゥ・ジ・エッグ」を上回るヒットを記録してしまったのだから実に皮肉的です(さらにウイングスは結局新譜を出すことなく解散、図らずもこれがポールの'80年代ソロ時代の幕開けに・・・)。

 ウイングス謎の空白期間あり、衝撃的な逮捕劇ありで、否応にも世界中の注目を受けた「マッカートニーII」はチャート上の成績が示すように発売当時は大いなる話題を呼びましたが、現在はその評価は賛否両論・・・むしろだいぶ低評価に甘んじてしまっています(汗)。その元凶はやはり、お世辞にも決して質が高いとは言えない音作りにあります。各曲のメロディ自体はポール節が散見される所があるものの、1人ですべての楽器を演奏し、不十分な録音環境でラフなまま仕上げたことが仇となり、他の諸作品と比べるとどうしても詰めの甘さが露呈しているのです。よく「デモ・テープを聴いているかのよう」と例えられるゆえんです。さらに悪いことに、当時ポールが並々ならぬ関心を抱いていた流行りのテクノ・サウンドを模倣してシンセを多用した無機質な曲が顔を揃えたため、ポールに王道を求めるファンを「これがポール!?」といった風に戸惑わせてしまっています。数曲インストや単調な曲があるのも災いして、しばしば「最後に買うべきアルバム」とまで言われているのが現状です・・・。しかしながら、先述の制作経緯を見れば明白なように、「マッカートニーII」は元々趣味の一環で気を抜いて作ったプライベートな作品です。また、“ウイングス”という束縛から一時的に解放されて、久々にポール個人の音楽を追求する機会でもあったことを鑑みれば、他のアルバムとは別の視点から評価を与えるべきでは・・・と私は思います。そう、見方を変えれば「マッカートニーII」は、ポールの創作意欲が自由に爆発した興味深いアルバムと受け取ることができるのです。それは音楽面しかり、詞作面しかり、アレンジ面しかり。常日頃からポールは身近にある様々な事柄に影響され、曲作りのヒントにしてゆく人なのですが、この時は“ソロ”ゆえに特にその傾向が強く表れています。YMOのレコードを聴いてテクノを意識したり、TV番組に触発されてブルースにどっぷり浸ったり、あるいはウイングスの日本公演に備えてか東洋風のナンバーを書いたり・・・。各曲に色濃くにじみ出た影響を見てみるとなかなか楽しめます。そんな観点で肩肘張らずに聴けば、「テクノもどき」で片付けられてしまうようなチープなサウンドの曲にも、ふと微笑んでしまいそうなポールの人柄の妙に気づけると思います。

 そんなポールらしい思いつきのアイデアが、収録曲の1つである『Bogey Music』にもいっぱい詰まっています。しかも、「マッカートニーII」で主流派であるテクノに感化されたものでない所がまたユニークです(ポールがテクノに挑戦するというのも十分異色ですが)。さらには『On The Way』『Nobody Knows』のようにブルース・ナンバーでもなく。では、この曲では一体何にインスパイアされたのか?と言えば、それは音楽ではなく・・・一冊の本でした。

『Bogey Music』のモチーフとなった小説「Fungus The Bogeyman」の原作本。

 その本の名前は「Fungus The Bogeyman」。ロンドン生まれの絵本作家、レイモンド・ブリッグスが1977年に出版した短編小説です。私はこの作品を読んだことがないのですが、小説というよりもイラストを多用した絵本さらには漫画に近い仕上がりだそうです(一応大人・子供両者を対象としているようですが)。英国では結構有名な作品のようで、2004年にはTVシリーズが制作・放送されています。日本でも刊行されていて、「いたずらボギーのファンガスくん」という何だかすごい邦題がついています(笑)。お話に登場するのは「ボギーランド」という架空の海底都市に住む小人、その名も「ボギーマン」たちで、その中の1人であるファンガスというボギーマンが主役です。ボギーマンには、地上に暮らす人間たちとは正反対の生活を送っているという設定があります。泥だらけの服や住環境を好み、音楽を嫌う・・・そして人間のことを“dry cleaners(乾いてきれいなヤツら)”と蔑視します。こうした変てこな嗜好を持つ昔ながらのボギーマンたちに、新たな世代の若いボギーマンたちが対抗してゆく・・・というのが大まかな流れです。ここで微笑ましいのが、対抗手段として武力ではなく、暖かく清潔な服とロックンロールを用いている点です。まさに老いたボギーマンの嫌うものをボギーランド中に伝播することで、平和的に改革を進めようとしているわけですね。そこが絵本らしい魅力かな、と思います。

 そんな夢のあふれる本をポールはどこかで仕入れてきて、ちょうど「マッカートニーII」セッションの頃にスタジオで読んだそうです。ポールが絵本・・・というのは、別作家ながら「Rupert The Bear」の版権を買い取るくらいの人だからまぁ納得行きますね(苦笑)。そして「うわっ、これってロックンロールみたいだ!」と思ったそうです。若いボギーマンたちが好んでいる音楽がロックンロール、ということで字面通りですが・・・彼らの姿勢からポールは、音楽形式だけでないロックの“魂”を感じ取ったようです。思えばポール自身もビートルズやウイングスといったロック・バンドで旧来の固定観念を打破してきた1人ですし、ビートルズのアニメ映画「Yellow Submarine」では(本人のシナリオではないものの)愛と音楽を武器に悪を倒していましたから、この本に共感できる所は多々あったことでしょう。しかし、そこで終わらないのがポールの非凡な才能の賜物。すっかり若いボギーマンたちを応援したい気持ちでうずうずしてしまったのか、「よし、彼らにぴったりのロックンロールをいっちょ作ってやろう!」と、なんと「Fungus The Bogeyman」をテーマに曲を書き下ろしてしまったのです!それこそが、この曲。その名も直球で『Bogey Music』です。突拍子ない些細な事柄に影響を受けて、それを自身の作曲活動に生かしてしまう、この大胆な行動力がポールの強みですね。「マッカートニーII」の歌詞カードには、この曲の歌詞の前書きとして「『Bogey Music』は、拡大しつつあるボギーのレコード市場のために、人間(dry cleaners)によって作られた最初のレコードです」と紹介されています。ポールにとってこの曲は、海底都市で旧体制相手に奮闘する若者たちへの特別なプレゼントだったのでしょう。・・・しかし、原作者のレイモンド・ブリッグスはこの曲を知って何と思ったのやら(苦笑)。

 一冊の絵本からアイデアが生まれた『Bogey Music』は、ポールが語るように「ボギーマンが思わず踊り出してしまいそうな」ロックンロールとなりました。ポールなりのボギーマンへのリスペクトというわけです。しかも、シャッフルのリズムを生かしたアップテンポのブギウギ・ナンバーなのですから、この上なくダンサブルな曲調です。この手のリズムは、『Hi Hi Hi』『Helen Wheels』『I've Had Enough』と'70年代にウイングスでポールがよく手がけていた一種の得意技なのですが、それらと比べても圧倒的にノリノリでウキウキした感じに聞こえるのはテンポだけが理由ではないでしょう。相当の気合いが感じられます。そして、もう1つウイングス時代のブギーと共通しているのがコード進行です。実は、この曲で使われているコードはたった4つしかありません!さらに全体的に見れば3コード進行にも取れ、実にシンプル極まりないのです。まぁ、『Helen Wheels』なんかほぼ1コードで出来上がっているし今さら驚くことでもないのですが(汗)、何もてらいもなく単純明快な点は、典型的な'50年代のロックンロールの数々を彷彿させてくれます。これが無論ポールが狙ってやったアレンジなのは言わずもが。ボギーマンにぴったりの曲を捧げるべく、彼らが大好きなオールディーズをベタな形で徹底的に追求した結果です。コード進行のおかげでメロディも分かりやすく覚えやすく、親しみやすいの3点セット。ポールの曲作りの長所がいい感じに貢献しています。青春期にロックンロールのレコードをたっぷり聴いて育ったという土壌も影響しているかもしれません。ちなみに、ポールはビートルズ時代の『I'm Down』や'90年代ソロの『Get Out Of My Way』についてのインタビューで「メロディがほとんどないに等しいロックンロールは、何もない分バラードよりも書くのが難しい」というコメントを残しています。あの天才メロディ・メイカーですら難しいと公言しているスタイルの曲を、「いかにも!」という形で見事完成させてしまう・・・何気ない曲とはいえ、この曲を書いたということは実はとってもとってもすごいことなのです!ボギーマンのためなら苦手分野にも果敢に挑んでゆくポールの執念、恐るべし。

 演奏面でも、古きよきロックンロールの再現を目指すポールのこだわりが垣間見れます。「マッカートニーII」セッションなので、もちろんポールがすべての楽器を1人でやってのけるワンマン・レコーディングです。そのため、ウイングスのようなしっかりしたスタジオでのバンドサウンドに比べると、どうしてもポールの手癖が強調されたチープな仕上がりになっているのは否めません・・・(汗)。しかし、ワンマンとはいえ'50年代ロックンロールがテーマだけあって「マッカートニーII」の中では生楽器の肌触りが強く感じられる、比較的バンドサウンドに近いシンプルなアレンジに収まっていて、テクノ色むき出しのアルバムでかえって異色になっています。基調となるのはやけにドタバタしたドラムス。最初はドラムソロで始まり、ブギウギのリズムを勢いよく繰り出します。「マッカートニー」「バンド・オン・ザ・ラン」そして「マッカートニーII」などで拝見できるドラマー・ポールの評価は曲によってまちまちですが、この曲に関しては性急なリズム感がダンサブルなノリを高めていて正解のドラミングだと思います。音がいかにもポールという趣なのと、所々でのフィルインが突っかかり気味(『Wonderful Christmastime』でも同様の傾向が見られる)なのは、まぁご愛嬌ですが(苦笑)。そこにパーカッションがいくつかオーバーダブされているので、よく聴くと結構複雑なドラムパターンと化しています。ロックンロールらしさがよく出ているのがギターとベース。コード進行に伴ってシンプルなフレーズの繰り返しですが、そこが上手くツボを押さえています。ギター・ソロの少したどたどしい所が何とも味わい深いですね。そして、オーソドックスなリフを弾くベースは後半にかけて技巧的なプレイも見せ、「さすが本業!」と思われるのでした。一方、「マッカートニーII」で満開したシンセはほんのわずか、サックスのような音色しかありません。例によってポールがキーボードで弾いているのですが、本物でないという妙な胡散臭さが逆にオールディーズにありそうで・・・!間奏のソロはややチープですが(汗)、これも正解の選択です。シンセの占有率が低く、しかも他の曲のように時代に迎合したアレンジを施さなかったのが功を奏し、演奏面での“普段のポール”らしさ・聴きやすさはアルバム屈指となっています。その上でこんなにノリノリで楽しいのですから、多少のチープさは笑って許してしまえるでしょう。

 さらに拍車をかけて曲の楽しさを増幅させているのが、ヴォーカルのアレンジです!ここでもオールド・ロックぶりを徹底したポールは、やたらと低く野太い声で歌っています。ポールの甘く軽やかな歌声を期待している人ならきっとひっくり返りそうな意表をついたものですが、もちろんちゃんと意図があってのことでした。ロックンロールと野太い声、この2つの共通項と言えば・・・そう、エルビス・プレスリーです。'50年代の雰囲気を出すべく、この曲でのポールのヴォーカルはエルビスを意識しています。というより、単なる物真似を越えて完全コピーの領域まで到達しています!それも、真剣にトリビュートするのでなく、エルビスの特徴をわざと誇張して茶化しているのだから面白いです(笑)。エルビスがポールにとって永遠のロック・アイドルの代表格であり、ポールがエルビス・ナンバーを好んでカヴァーしているのは有名な話ですが、ビートルズ時代の『Lady Madonna』の頃からポールはエルビスのヴォーカル・スタイルも自作曲に取り入れてゆきます。しかし、それでもあくまで「エルビスっぽい」程度に抑えてあり、ポールらしさがほんのり香る歌い方がされていました。それが、ここで一気に声帯模写のようなパロディに至ったのだから・・・!2年前の『Name And Address』を軽く越えてしまうほどの、この破壊力は凄まじいです。ポールのアレンジャーとしてのこだわりの強さを思い知らされることでしょう。と同時に、1人で気ままに進めていった宅録ならではの遊び心も存分に汲み取ることができます。ただ純粋に曲作りを楽しんでゆく、「マッカートニーII」の真髄と言っても過言ではありません。そして、これだけで済まさないのだから大変です。何を思ったのか、ポールはリード・ヴォーカルを幾重にもオーバーダブしているのです。しかも、全部エルビスそっくりの野太い声で・・・!文章だけで想像しても、これがさぞ滑稽なものであるかがお分かりかと思います(苦笑)。さらにヴォーカルはそれぞれ微妙にタイミングがずれていたり、ステレオの位置が違ったり、時には唸り声や雄叫びを上げたりと、全く統一感がありません。そして極めつけに、一部のヴォーカルに深いディレイをかけています。おかげで、曲の至る所で微妙に歌い方や声質が違う様々なエルビスがめちゃくちゃに歌う・・・という何とも混沌とした仕上がりになっています。わざと声を変えて、1人で何役も演じた「マッカートニーII」セッションでも、これは特に異常です!その声だけでも笑えるというのに、訳が分からないほどに重ねられていて、おまけに曲調がドタバタなブギウギで、もはや抱腹絶倒するしかありません(笑)。これを曲のモチーフとなったボギーマンに重ね合わせてみれば、小人のエルビス・プレスリーがたくさん集まってブギーにのせて歌いながら踊り回っている姿が思い浮かんでしまい、余計おかしくて仕方ないですね。とにかく、この曲は一聴することをお勧め致します。『Check My Machine』『Darkroom』に負けず劣らずの“ぶっ壊れた”ポールが待っているはずです・・・!

 ボギーランドのレコード市場進出のために書かれた曲だけあって、歌詞ももちろんボギーマンに捧げられています。ボギーマンの若者たちが広める音楽・・・つまり「ボギー・ミュージック」をみんなで聴いて、歌って踊って「クリーンでスイートな」リズムに酔いしれよう!といった感じの、一種のロックンロール推奨ソングです。きれいな服とイかした音楽で新たな時代を切り開こうとする若いボギーマンたちにとっては最高のプレゼントなのです。きっとボギーランドで大流行し、レコードの売れ行きも好調だったことでしょう。旧世代のボギーマンから放送禁止処分を受けたかもしれませんが(汗)。「ボギー・ミュージック/これがなきゃ人生つまらないぜ」の繰り返しが、ちびっ子ボギーのスローガンにぴったりですよね。そんな歌詞が無数のエルビス・ボイスで歌われるのだから、さらに面白さが増します!たくさんの小人たち(もちろん顔はエルビス)がこの曲にのせて通りを踊り歩きながら低音で陽気に歌っている様子が目に浮かんできそうです。一冊の絵本から、ここまで曲想を練り上げて、しっかりとしたコンセプトに裏打ちされた音楽や歌詞を書き上げてしまうポールの創作意欲の旺盛さには本当に脱帽してしまいます。

 こうしてボギーマンたちが拍手喝采で歓迎しそうな素敵なロックンロールを書いたポールですが、「マッカートニーII」のお遊びセッションで実はもう1曲「Fungus The Bogeyman」をテーマにした曲を作っています。タイトルは『Bogey Wobble』。『Bogey Music』と対になる姉妹関係に当たりそうな曲ですが、こちらは同じアルバムの『Front Parlour』『Frozen Jap』のように歌詞のないインスト・ナンバーです。そして、『Bogey Music』がボギーマンの大好きな音楽に焦点を当てたのに対し、この『Bogey Wobble』はボギーマンが住む海底都市・ボギーランドをイメージしたかのようなサウンドトラック風に仕上がっています。「Wobble」とは「不安定な」という意味ですが、その名のように揺れ動くような泡の音のSEが終始鳴り響くのが最大の特徴です。長いイントロをはじめ随所でこのSE(と衝撃音)のみになるので、まるでボギーランドにやって来たかのような錯覚に襲われます(笑)。また、メイン・パートは『Bogey Music』と同じブギウギのリズムですが、ギターとベースの代わりに幻想的なシンセがメロディを奏でるというアレンジになっていて、『Bogey Music』とは一線を画しています。相変わらずポールのワンマン・レコーディングなので、シンセの音色とあいまってチープな感じたっぷりではありますが(汗)、根底となるテーマがしっかりしているので、インストながら比較的聴きやすいし芸術性はかなり高いです。残念なことに、『Bogey Wobble』の方は「マッカートニーII」を公式発表する際にボツとなってしまい、現在に至るまで未発表の憂き目に遭っています。当初「マッカートニーII」が2枚組の構成だった時には、1枚目を締めくくるラストナンバーに位置していたのですが・・・。2枚組当時の曲目を再現したブート(「The Lost McCartney Album」など)では聴くことができますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。「マッカートニーII」セッションで5曲ある未発表曲では一番聴きやすい曲かもしれません。ちなみに、『Bogey Music』は当初2枚目4曲目の位置にあり、これもブートで曲順が再現されています。公式発表されたテイクとほとんど変わらないですが、アセテート盤が音源のせいかピッチが高くなっていて変に聞こえて妙に笑えます(苦笑)。

 ・・・と、こんな所で語ることが尽きてしまうのはマニアックなアルバムナンバーの宿命です(汗)。書くことがなくなってしまいましたね。こう改めて1つ1つの要素を検証してみると、ポールがいかに「Fungus The Bogeyman」の世界観を自分なりに構築しようとしているかが分かって実に興味深いし、ポールの曲作りの手腕に感服してしまいます。それほど、ポールにとっては印象の強かったお話だったのでしょうね。「Fungus The Bogeyman」に関しては今回初めて詳しく調べましたが、作者のレイモンド・ブリッグスが、翌1978年に世界的に知られる「The Snowman(スノーマン)」を書いた有名な小説家だとは知りませんでした。さらに、「Fungus The Bogeyman」自体も日本でよく読まれている、結構有名な作品だということも驚き。ポールが『Bogey Music』を発表したということよりも知られている勢いです(笑)。『Bogey Music』を知らない読者もかなり多いとか・・・(まぁ収録アルバムが「マッカートニーII」ですから)。原作本の表紙には、ブリッグス自らが描いたボギーマンがフィーチャーされていますが、緑色の顔をした奇妙な生物で、私が想像していたものとは違う姿でした。まぁ、ポールから入ったくちだと、ボギーマンは小人のエルビス・プレスリーでしか思い描けないでしょう(苦笑)。曲の方も、幾重にも重ねられたエルビス・ボイスをはじめただただ陽気で楽しいですよね。「マッカートニーII」に抵抗感が全くないというマニアックな私ですが、アルバムではこれと『Temporary Secretary』が最もテンションが上がる瞬間というほどです。もちろん、テクノ丸出しのチープな宅録が苦手な方でも、そうしたカラーが薄いこの曲はきっと純粋に楽しめる1曲になると思います。「マッカートニーII」は基本的に評価の低いアルバムで敷居がやや高めですが、肩の力を抜いて聴くととっても面白く感じられますよ。リズムやヴォーカルがユニークな曲ばかりです。すっかりはまってしまった方は、ブートで『Bogey Wobble』も聴いてみてくださいね(苦笑)。

模写した下書きの方が結構似ていたかなぁと思いますが・・・(特に右から2番目)。

 最後に。今回のイメージ・イラストは、ずばり私の脳内にこびりついている「小人のプレスリー」をテーマに描きましたが、実際に描くと何だかエルビスに似ていないような・・・(汗)。

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「ドライヴ・ソング」。お楽しみに!

 (今回と同時更新予定だった番外編の「あの曲」は、もうちょっとお待ちください・・・!)

 (2010.12.20 加筆修正)

  

(左)アルバム「マッカートニーII」。ポールの多彩なアイデアがぎっしり詰まった、異色ながらも楽しい1枚。

(右)2枚組当時の「マッカートニーII」を再現したブート「The Lost McCartney Album」。未発表の『Bogey Wobble』を聴くことができます。

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