Jooju Boobu 第83回
(2005.12.23更新)
Bluebird(1973年)
今回の「Jooju Boobu」は、ファンの間でも結構知られているポールの曲を紹介します。それは・・・、ウイングスの代表作「バンド・オン・ザ・ラン」(1973年)収録曲で、2001年のベスト盤「ウイングスパン」にも収録されているバラード『Bluebird』です!シングル発売されていない、いわゆる「アルバムナンバー」の中ではその知名度は指折りでしょう。そして、この曲はただ有名なだけでなく、実際に人気の高い名曲なのです。また、ウイングスを語る上でも結構重要な曲でもあります。ポール、そしてウイングスは決してシングル曲だけでは語ることができないことを示す恰好の例と言えるでしょう。今日はそんな『Bluebird』の魅力をいろいろと語ってゆきます。
既にここでも何度か触れてきたことですが、ウイングスの“名盤”・“最高傑作”として世界中に広く知られているアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」について、またちょっと思い出してみましょう。このアルバムは、セッション直前にメンバーを相次いで2人も失って3人編成となってしまったウイングスが、残されたメンバーで団結力を固めて完成させた起死回生の一枚です。ウイングス絶体絶命のピンチの中、ポールにとってはここで転んだらバンドの命運にかかわる事態に発展しかねないというプレッシャーを抱きながらのセッションでしたが、これが発売されるや否や至る所で爆発的に大ヒットしたことは周知の通り。それまでのポールのアルバムを超越するセールスを記録したのはもちろん、グラミー賞を3部門も受賞する栄冠も手にし、ここにウイングスの名声を確固たるものにしました。その立役者は、やはり何と言っても2つのシングル曲・・・つまり『Band On The Run』と『Jet』ですが、このアルバムの注目すべき点として、ポールのソロ・キャリアにおいて初めて全曲がしっかりとした構成の非インスト曲で固められたことが挙げられるでしょう。シングル曲のみならず、他のアルバムナンバーもいずれもメロディ・演奏・歌詞・アレンジすべてにおいて丁寧に作りこまれており、完成度が大変高いです(一部ちょっとした例外はあるものの・・・)。ポールがセッションに用意していた曲が隙のない名曲揃いだったのは偶然の産物だったのか、ポールの創作意欲がよい方向に炸裂したからだったのかは不明ですが、これらの出来がよいことは、今でもファンの間で高い人気を誇る曲が多く存在することが何よりの証明となっています。また、ベスト盤に収録されたり、ライヴで演奏されたりする確率が多いことも、人気をのし上げる要因となっています。このことからも、ポール自身もアルバムの仕上がりには発表当初から今に至るまで満足しているようです。そんな名盤「バンド・オン・ザ・ラン」の1曲として、今回ご紹介する『Bluebird』は重要な役割を果たしているのです。
アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」のレコーディングが、なんと!アフリカはナイジェリアのラゴスで行われたことは、有名な話ですね。これは、ポールの「休暇を兼ねたレコーディングをしたい」という思いから、EMIのスタジオ・カタログから突発的発想で選んだもので、別段ナイジェリアに深いこだわりがあったわけではないようです(苦笑)。これが元で、ドラマーのデニー・シーウェルが「アフリカなんぞに行きたくない!」とウイングスから脱退したのは通説です(汗)。おまけに、ナイジェリアの異常なほどの猛暑やデモ・テープの盗難、スタジオの未完成といった災難が相次いでポールを待ち受けていて、休暇気分には到底なれなかったようです・・・。しかし、メンバーの結束は固く、これらがセッションに影響を与えることが何らなかったのは救いだったでしょう。アルバムが大ヒットしたこともあってか、結局の所ポールはナイジェリアにいい思い出を持っているようです。面白いことに「バンド・オン・ザ・ラン」では、そんなナイジェリアでの作業を通じて現地の風土に触発されてか、アフリカに影響を受けたかのような作風を所々で垣間見せています。例えば、アフリカンビートのようなリズムにのせて原住民ぽい掛け声を入れた『Mrs.Vanderbilt』や、パーカッションを多用した『Mamunia』、グラムロックとアフリカンビートの融合とも取れる『Helen Wheels』など、普段のポールにはないエキゾチックな側面を強調しています。ポールが、レコーディング・セッションの地でいろいろインスピレーションを得ていることの表れと言えますね。
それでは、この曲についていよいよ語ってゆきましょう。この曲は、ポールがお得意とするバラード・スタイルの楽曲です。それもメロディアスさに磨きがかかっていて、「天才メロディ・メイカー」の名をほしいままにしているポールらしい美しいメロディを持つバラードです。洗練されたメロディの曲が多いのも、「バンド・オン・ザ・ラン」の長所の1つです。さらに、美しいのみならず、この曲のメロディには甘〜い香りが充満しています。甘美なバラードと言えばポールが最も得意とする所であり、ポールの一般的イメージを作り上げているのですが、恐らくこの曲はそうした中でも指折りに甘さたっぷりなのではないでしょうか?この曲と同年に発売された前作「レッド・ローズ・スピードウェイ」には『My Love』はじめ多くの「アマアマバラード」が収録されていましたが(苦笑)、その系譜を継いでいるとも言えます。聴く者が思わずうっとりしてしまう、実にポールらしい味わいのバラードです。アルバムでは、『Band On The Run』『Jet』と怒涛のアップテンポ・ナンバーが終わった後に登場するので、この曲で一息ついてクールダウンするといった趣です。ポールのアルバム(特にウイングス時代)には、このように3曲目付近にバラードを挟み緩急をつける曲順が多く興味深いですね。
しかし、この曲が単なる月並みのバラード作品に終わらず個性的な面を見せている要因があります。それが、先述したアフリカン・テイストです。『Mrs.Vanderbilt』や『Mamunia』で見られたナイジェリアの影響が、この曲にも及ぼされているのです!その結果は、この曲を貫く心地よいリズムを聴けばお分かりになるかと思います。・・・分かりますよね?そう、この曲はボサノバ風のトロピカルなムード漂うアレンジに仕上がっているのです。・・・厳密に言えばボサノバはブラジル発祥の音楽であり、アフリカ発祥ではないので、ちょっとこじつけ的論評になってしまうのですが(汗)。でも、ボサノバのリズムは大陸は違えど同じ赤道直下のナイジェリアをほうふつさせる所が多々ありますし、この曲から感じられる南国風味は、ポールを気絶させたくらいの猛暑だったナイジェリアの天候を思わせます。ジャングルのような乾いた空気感あふれる曲調も、アフリカっぽいです。実はこの曲、1971年頃にジャマイカで休暇を取っている間に書いたそうなので(思えばジャマイカも熱帯地方だ!)、全部が全部というわけではないでしょうが、ポールはこの曲を録音する際ナイジェリアから少なからず何らかの影響は受けていたはずです。ポールはナイジェリア滞在中に現地の音楽に興味を示しいろいろ吸収してきたそうですが、この曲もアフリカ音楽をポールなりに解釈した結果・・・とも言えそうです。民俗音楽というよりボサノバの色の方が濃いので、相変わらずポールの勘違いが反映されてはいますけど(苦笑)。
そんなラテン・テイストとアフリカン・テイストが絶妙に交じり合ったバラード『Bluebird』ですが、演奏はアコースティック主体のサウンドで構成されています。やはり、これもアフリカの素朴な音楽性に影響されたのでしょうか・・・?基調となるのは、ポールが唯一ウイングスに残留した「相棒」デニー・レインと2人で一緒に弾くアコースティック・ギターです。「バンド・オン・ザ・ラン」収録曲は、『Mrs.Vanderbilt』『Mamunia』『Picasso's Last Words(Drink To Me)』とアコギ中心の音作りが意外にも多く、それが大ヒット作なのにちょっと地味な感じを出しているのですが(汗)、ここでもアコギが主役です。アコギだけ切り出して、そのまま弾き語りでも行けそうなスタイルですね。乾いた音色で強弱をつけつつ切々と奏でてゆきますが、淡々とした中に情感があふれているのがいい味です。静寂だけど情熱的なのはラテンぽいかもしれません。こうした曲でのポールとデニーの腕の確かさは言うまでもないでしょう!後に「ロンドン・タウン」期でタッグを組む2人の息の合ったギター・プレイを堪能できます。そこに他の楽器がかぶさってゆくのですが、「バンド・オン・ザ・ラン」セッションではリード・ギタリストとドラマーが脱退して欠員だったため、この曲でもデニーのギターを除くすべてのベーシック・トラック(ベースとドラムス)をポールが演奏しています。さすがマルチプレイヤー、あまり違和感を残さずしっかり聞かせます。
アコギ以上にサウンドでひときわ耳に残るのは、パーカッションです。ボサノバ風を狙ってか、それともアフリカ音楽を目指してか、この曲ではパーカッションが幅を利かせています。その量、半端じゃありません!リズムを取るボンゴを中心として、カウベルのように硬いものをたたく音、洗濯板を引っかいたような音のギロ、さらには透き通った響きが美しい鈴などが入っていて、多彩で凝っています。この曲のアコースティック感を助長していますが、これを演奏したのは現地ナイジェリアの人というからその徹底ぶりには感服しています。その名はレミ・ケバカ。実はこのケバカ、デニーがウイングス結成以前に所属していたジンジャー・ベイカーズ・エアフォースというバンドでパーカッションを担当していました。何かとウイングスに接点のある人だったのです。面白いエピソードとして、ポール一行がナイジェリアにやって来た頃、現地のミュージシャンから「ポールはラゴス・サウンドを盗みに来た」と疑われて対立する事件が起きた時に、デニーと面識のあるケバカが仲介を買って出て一件落着した・・・という話があります。どうやら、この曲でのケバカの参加は、その時のお礼の意味もあってのようです。そして、そのパーカッションよりも印象的なのが、何と言っても間奏のサックスでしょう!中低音中心に、この曲の甘美なムードを否応にも高める味わい深いソロを、ゆったりとアドリブっぽく吹いています。これはポールのリバプール時代からの旧友、ハウイー・ケイシーによる演奏です。後に1975年から1979年までウイングスのコンサートを支えるブラス・セクションの一員となるハウイーですが、この曲で披露しているソロはサックス自体が歌といった趣の完璧な内容です。これ以外のフレーズはありえないほど、耳に残るメロディですから!まさに名演と呼ぶにふさわしい、この曲のハイライトでしょう。これがあるとないとでは曲の印象ががらりと変わってしまう、それほど重要な位置づけなのです。ちなみに、現在聴くことのできる演奏はリハーサル・テイクを採用したそうで、リハーサルでこの完成度とは脱帽ですね。これに関しては興味深い裏事情がありますが、後述します・・・。
この曲の間奏で名演のサックス・ソロを披露するハウイー・ケイシー。
歌詞は、タイトルの通り「青い鳥」を題材にした曲です。ちなみに、「bluebird」とは北米に生息するルリツグミという青い羽の鳥のこと。ポールがそこまで知っていたかは謎ですが・・・。童話のお話でも、日産の車でもないのであしからず(笑)。ここで面白いのは、ポールがビートルズ時代に「青い鳥」ならぬ「黒い鳥」の『Blackbird』(1968年)という曲を発表している点です。そのため、タイトルの類似性からよくこの曲は『Blackbird』の姉妹曲あるいは続編と言われることが多いです。確かに、鳥の色違いだからシリーズなのかもしれませんね(苦笑)。しかし、「鳥シリーズ」でも実はサウンドはそれほど似ていないのがミソです。この曲も『Blackbird』もアコギ中心という点では一緒ですが、『Blackbird』がビートルズでは珍しいポールの単独録音でアコギ一本での作品だったのに対し、この曲はベースやドラムスも入っているれっきとしたバンド・サウンドです。よく誤解される方が多いのですが、決して『Bluebird』はアコギ弾き語りではないのです。むしろ、2005年に登場したもう1つの「鳥シリーズ」、『Jenny Wren』(タイトルはミソサザイの意)の方が『Blackbird』に近いです。面白いことですね。
「鳥」のお話はここまでにして(苦笑)、『Bluebird』の歌詞は、自分と恋人を青い鳥に例えて愛の力強さを歌うラヴ・ソングです。この点も、女性解放運動の隠喩であった『Blackbird』の歌詞とは異なります。で、このラヴ・ソングがとても美しく絶品なのです。まるで、詩を読んでいるかのような端正さです。青い鳥たちが鬱蒼とした森から海へ向かって飛んでゆく・・・そんなシーンが浮かんでくるような風景描写は繊細ですし、その一方で「魔法のキスで君の唇に触れよう」などロマンチックな一節も登場します。「僕は青い鳥、君も青い鳥」と恋人に歌いかける辺りは、サウンドに負けじとポールのバラードの中でも指折りに甘美です。どれだけ深く恋人を愛しているかがよーく伝わってきます。ポールのアマアマな歌詞をしたラヴ・ソングといえば、「レッド・ローズ・スピードウェイ」で再び炸裂したことが知られていますが、この曲でもその勢いは止まっていないようです。同時に、純粋なラヴ・ソングである上に“愛”そのものの素晴らしさも歌い上げており、ポールの恋愛観が見て取れます。いずれにせよ、果てしなき愛で満ちあふれた、ちょっと大人な歌詞でありました。
そんな極上に甘いラヴ・ソングを、ポールは実に甘〜く歌ってくれます。ちょっと低めの声で、イントロなしにやさしく歌いかけるのが実に味わい深いです。解放感あふれる大空の鳥のようにリラックスしながらも、非常に丁寧に歌われている点に好感を持てます。メロディに演奏・歌詞と来て、ヴォーカルまでもがアマアマなのですから、これでうっとりしない人の方がおかしいでしょう!ファンならもちろん、誰もが思わず聞きほれてしまう、そんな貫禄のついた歌声はまさにバラード職人の本領発揮ですね。さらに曲をより美しく彩るのが、リンダとデニーの美しいバッキング・ヴォーカル。これがまた絶妙のハーモニーなんですよね。ウイングスといえばコーラスも大きな醍醐味ですが、この曲ではポール・リンダ・デニーの声の相性のよさを再確認できます。特に、タイトルフレーズをポールのヴォーカルと掛け合いで歌う箇所は聴き所です(最後の回だけ、デニーが高音を歌っているのがやたら印象的)。
ここからは発表前後のこの曲について触れてゆきます。さっき、この曲が1971年に書かれたことをお話しましたが、実は公式発表以前にポールがこの曲を披露したことがありました。それが、1973年4月にTV放映されたウイングスの特別番組「ジェームズ・ポール・マッカートニー」です。まだ当時は未発表のこの曲が既にお披露目されていたこと自体驚きですが、歌詞もほぼ完成していることが分かります。ただ、この時はまだアコギ弾き語りの形をとっており、ボサノバっぽいアレンジはアフリカに飛んでから生まれたのかな・・・と思わせます。番組中では、『Blackbird』『Michelle』『Heart Of The Country』とのメドレーでポールがアコギを弾き語るシーンで登場し、リンダがその脇でポールの写真を撮りながらコーラスをつけています。何気に「黒い鳥」と「青い鳥」が続けて演奏されているのが面白いですね。
公式発表後は、まず1974年のウイングスのリハーサル・セッション「One Hand Clapping」で取り上げられています。新たにメンバーを2人増やした新生ウイングスの日々練習を重ねる様子を記録に残すべく映像作品化する予定でしたが、結局の所お蔵入りになってしまったセッションです(ブートでは有名ですが・・・)。この曲では、バンド・スタイルのベーシック・トラックをウイングスで録音後、オリジナルのようにハウイー・ケイシーのサックスをオーバーダブしていて、その様子も撮影されています。で、ここからが面白いのですが、本番前にハウイーが間奏のソロのコードを確認している所にポールがやって来て、ソロのフレーズをあれこれ指示しているのです!さらに録音中も、ハウイーの横にポールが陣取って妙な振り付けをつけながら(苦笑)じーっと見守っています。ハウイーのサックス・ソロが名演であることは先述の通りですが、この映像を見る限りフレーズはポールが決めたのか・・・と思わせます。そして、ハウイーを徹底指導してまで自分の脳内で出来上がったメロディを再現しようとするポールの完璧主義者ぶりに呆れてしまうのでした(汗)。もうちょっと自由にさせてやってもいいと思うのですが、それほど気に入ったフレーズだったのでしょうか・・・。ハウイーもきっとやりにくかったことでしょう。この時の様子は、公式プロモ・ヴィデオ集「The McCartney Years」のメニュー画面に一部抜粋されているので、ぜひご確認ください。なお、この時ポールはベースを弾いています。この曲としては珍しいシーンです。
1976年全米ツアーでこの曲を演奏するウイングス。まるで元祖「アンプラグド」です。
そして、ついにこの曲がコンサートで披露される時がやって来ます。1975年から翌1976年にかけて行われた一連のワールド・ツアーです。英国、オーストラリア、ヨーロッパそして米国をめぐったこのツアーで、この曲が晴れてレパートリー入りしたのでした。大ヒットアルバムの収録曲ということで、この曲が取り上げられるのはさほど想像に難くはなかったでしょう。アコースティック主体の曲ということで、セットリスト中盤のアコースティック・コーナーで演奏されました。ポール、デニー、そしてジミー・マッカロクの3人がアコギを弾いていて、より生の肌触りが味わえるアレンジになりました。その姿は、まるで元祖「アンプラグド」と言えそうですね。なお、キーはオリジナルより高めに設定されています。それだけでがらりと印象が変わるのが面白いですね。でも、全体的に甘〜く大人っぽい雰囲気であることは変わりありません。オリジナルで多彩だったパーカッションも再現されていますが、ベーシックとなるのはリズムボックスです。これは後の打ち込みドラムスの原型と言えるもので、この当時は革新的な楽器でした。ウイングスの先見の明を思い知らされます。画一的なリズムはどこか機械的ですが、生のパーカッションに近い音でそれほど違和感は感じさせません。曲前のMCでちゃんとリズムボックスのことを紹介しているポールが面白いですね(笑)。そして、間奏のサックスは当然!ハウイー・ケイシー本人が再現しています。やはり、このソロを上手に再現できるのはハウイーしかいないでしょうから。このツアーの模様は、1976年全米ツアーの音源がライヴ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」に、映像が映画「ロック・ショー」に収録されています。また、「The McCartney Years」でも見ることができます。リズムボックスのMCと共にお楽しみください(笑)。
さらに、このワールド・ツアー中、薬物使用の前科のためポールの入国許可が下りずウイングス来日公演(1975年11月予定)を中止せざるを得なかった際に、ポールは日本のファンへのお詫びのメッセージを送ったのですが、その際にこの曲のアコギ弾き語りヴァージョンを添えています。これは、オーストラリアのホテルで録音したものでコンサートの模様ではないものの、来日公演をふいにされた日本のファンにとってはつかの間の慰めとなったのでした。この映像は、来日中止を受けて急遽企画された当時の日本のTV番組「ポール・マッカートニーのすべて」でもオンエアされました。蛇足ですが、この番組は私も見たことがありますが(もちろんリアルタイムではありません・・・!)、全然「すべて」じゃない所が肩透かしを食らわされる、でも微笑ましい内容です(笑)。ウイングスのメルボルン公演のダイジェストも世界に先駆けて同番組で放送されましたが、テロップの日本語訳には大爆笑します(笑)。意訳のしすぎです、あれは(苦笑)。で、話を戻して、この弾き語りヴァージョンは現在アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」の25周年記念盤(1999年)に収録されています。断片的であっという間に終わってしまいますが、当時の日本のポール・ファンにとっては思い出深い音源であることでしょう。映像の方は、DVD「Wingspan」に収録されています。
あと補足しておくと、この曲のアウトテイクは見つかっておりません。「バンド・オン・ザ・ラン」セッション自体、アウトテイクがブートレベルでもほとんど見つかっていないのです・・・。それと、この曲は一部ヨーロッパでのみシングル発売されています(B面は「Mrs.Vanderbilt」)。
この曲は、悲しいことにウイングス解散後はライヴなどで披露されることはなくなります。しかし、ウイングスのライヴでは記憶に残る、印象深い曲です。また、完成度の高い名盤「バンド・オン・ザ・ラン」の一翼を担っており、さらにポールらしさがたっぷり詰まったバラードです。そのおかげか、今もファンの間で人気はかなり高いです。冒頭で触れた通り、ポールのソロ・キャリアのうちアルバムナンバーでは非常に有名な曲の1つと言えるでしょう!現在では「バンド・オン・ザ・ラン」のみならず「ウイングスパン」でも聴けるようになりましたので、どちらで聴いてもOKです。「天才メロディ・メイカー」「ラヴ・ソングの名手」というポール像を思い浮かべる方にとってはぴったりの甘〜いバラードなので、ぜひ一度聴いてみてください!すぐにその魅力のとりこになっていることでしょう!
個人的には、この曲は3番目に聴いたポールのソロナンバーとなります。なぜなら、最初に買ったアルバムが「バンド・オン・ザ・ラン」だったからです。聴き始め当初の私は、「ウイングスを含めたポールのソロはキャッチーでアップテンポな曲だらけ」と変な勘違いをしていたので、バラードであるこの曲の登場に少しびっくりしたものでした(この幻想は『Let Me Roll It』を聴いた時点であっさり打ち砕かれる・・・)。そんなトラウマがある曲ですが(苦笑)、今は普通にお気に入りの曲です。やはり、ハウイーのサックスが味わい深くて一番好きですね。ポールが決めたフレーズだったとは知りませんでしたが(汗)。あれを吹けたらどれだけ素晴らしいことか・・・。ヤマハの「イージートランペット」で吹きますか!(笑)あと、歌詞もアマアマで好きな要素ですね。やっぱりポールは「バカげたラヴ・ソング」が一番です。それにしても、この曲をはじめ多くの珠玉の名曲を、3人で仕上げてしまうのですからウイングスはすごいです。ポールにはまたライヴで取り上げて頂きたいと思います。「黒い鳥」とのメドレーなんか、いいかもしれませんね。
さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「クリシュナと白鳥」。鳥つながりではないですが(笑)、お楽しみに!
(2010.2.01 加筆修正)
(左)アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」。1曲1曲が磨きぬかれた名曲、3人ながらも力を合わせて完成させたウイングスの名盤!
(右)ベスト盤「ウイングスパン」。現在ではこのアルバムでも聴くことができます。