Jooju Boobu 第77回

(2005.12.01更新)

Daytime Nighttime Suffering(1979年)

 前回から始まった第7層では、「ヒットしたわけでもないし別段有名でもないけど、ファンの間では人気の高い佳曲」が自然と集まる形となっていますが、今回はその中でも象徴的にして最大級に当たる曲と言えるでしょう。しかもその曲はアルバム未収録曲で、おまけにシングルのB面だったのですから、その威力は凄まじいものがあります。と来れば、ポール・ファンの皆さんならもうお分かりでしょう!そう、今回は1979年に発表された、ファンの間で大人気のナンバー『Daytime Nighttime Suffering』を語ります。数あるマッカートニー・ナンバーの中でも断然ポップなメロディと、計算されたアレンジを持つこの曲は、世間一般的に有名でもなく大ヒットしたわけでもないのに、ファンのみならずポール自身をもとりこにする魅力を持っています。今回は、そんな人気絶好調のこの曲の魅力について語ってゆきます。ちなみに、この曲の日本語表記はタイトルの一部を省略した「デイタイム・ナイトタイム」という一種の“邦題”が発表当時つけられていました。その後CD化の際には「デイタイム・ナイトタイム・サファリング」となっていましたが、なぜか最新のベスト盤「ウイングスパン」では先の「デイタイム・ナイトタイム」表記に戻っています・・・。

 ポールと言えばビートルズの元メンバー。そのビートルズは、デビューから解散まで22枚のシングル(英国)を世に送りました。シングルのA面となった曲が軒並み1位を獲得した大ヒット曲で、今でも世界中で親しまれ続ける名曲であることは何を今さら、説明不要でしょう。しかし、一方のB面に収録された曲の多くも、ヒットこそしなかったもののビートルズをよく知るファンを中心に「名曲」「佳曲」としてA面に劣らぬ高い人気を誇っています。その中には、B面に収録されたのみならずオリジナル・アルバムに未収録に終わった曲もいくつかあります。まさに一番目立ちにくい位置にあるのですが、そんな曲がきらりと光るものを持っていることがあるのです。『This Boy』『Rain』『Revolution』『Don't Let Me Down』・・・、挙げればきりがありません。ビートルズでは主にジョン・レノンの曲にそうした例が多いのですが、ポールの曲も『She's A Woman』『I'm Down』なんかがそれに該当しますね。「これがシングルB面!?しかもアルバム未収録!?」と疑いたくなるようなクオリティのものがずらりと並んでいます。ビートルズがシングルのA面はもちろんのことB面に至るまで一切手抜きしなかったことの表れでしょう。

 そしてビートルズ解散後のポールも、ビートルズほどではありませんが、ウイングスやソロ・キャリアにおいて「この曲がB面!?」といった感じの曲をしばしばアルバムに収録せずシングルのB面のみで発表しています。シングルのB面になるということは、当然チャート上で記録されませんし、有名になることもありません。さらにアルバム未収録となれば、聴くことのできる機会も減ってしまうことでしょう。まして、長年ほぼシングルA面曲だけでベスト盤が構成されてきたポールならなおさらです。アルバムで聴くことができず、陽の当たらない状態となってしまうのが常のB面ソングですが、そのうちの何曲かは独特の魅力を発揮して、ポールのことをよく知るファンから絶賛の論評を頂くに至らしめています。

 そんなポールのB面ソングの代表的かつ最高水準の曲といえば、今回紹介する『Daytime Nighttime Suffering』を挙げるしかないでしょう!これぞまさに「シングルB面!?」状態の曲だからです。この曲は、ウイングスのラスト・アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」(1979年)の時期に作られたものの、アルバムには収録されず先行シングルの『Goodnight Tonight』のB面として発表された曲です。A面の『Goodnight Tonight』(ちなみにこれまたアルバム未収録曲)も多くのファンを抱える人気ナンバーであり実際に英米5位を記録したヒット曲ですが、その影に隠れる形となってしまったB面のこの曲も、多くのファンからそのよさを高く評価され、絶大の人気を誇っています。それを証明するかのように、ファンのみならず作曲者であるポール本人もこの曲をたびたび「一番のお気に入り」に挙げています!(ただし、時によって『You Know My Name(Look Up The Number)』や『C Moon』『Yesterday』などに変わりますが・・・)シングルB面という地味な位置に甘んじているというのに、昔から今まで無数の曲を書き上げてきた多作家のポールに一目置かれ、リスナーも含め多くの人々をこれほどまで惹きつける、この曲『Daytime Nighttime Suffering』の魅力・・・それは一体何なのでしょうか?

 その魅力を語る前にひとまず、この曲が作られた1979年当時のポール、そしてウイングスについておさらいしておきましょう。

 1979年と言えば、10年近く活動を続けたウイングスが活躍した実質上最後の年に当たります。そして、メンバーチェンジの繰り返しがあったウイングスが最終ラインアップを見た時期でもあります。1978年に新メンバーとしてローレンス・ジュバー(ギター)とスティーブ・ホリー(ドラムス)を相次いで加えたウイングス。再び5人になって、早速ニュー・アルバムのレコーディング・セッションにかかります。ポールも新生ウイングスで心機一転、前作「ロンドン・タウン」でおとなしく過ごした反動で高まる創作意欲を思い切り全開させて多くの新曲を連日取り上げました。その意欲に満ち溢れた曲たちが、新メンバーに刺激されて久々にロック・スピリットがたっぷり味わえるハードなものや、当時流行の最前線であったニューウェーブやパンク、テクノ・ポップを強く意識した実験的な作風のもので多くを占めたことは、有名な話ですね。クリス・トーマスを共同プロデューサーに迎え、ロック史に残る一大プロジェクト「ロケストラ」も実現させたこの有意義なセッションを経て完成したのが、1979年6月発売のアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」です。結局アルバムは謎の不振に陥りポールを落胆させ、ウイングス崩壊への序章となってしまうのですが(汗)、アグレッシブな仕上がりはこの時期のウイングスでしか味わえない独特の魅力です。そんな自信満々の意欲作と同じセッションで取り上げられたのが、1979年3月に先行発売された新生ウイングス初のシングルに収録された『Goodnight Tonight』とこの曲『Daytime Nighttime Suffering』であります。まさに、ウイングスが最も革新的だった頃に生まれた曲でした。この2曲は、一連の「バック・トゥ・ジ・エッグ」セッションも最終戦である1979年1月〜2月のセッションでようやく取り上げられました。場所は、ポールがアビー・ロード・スタジオを模してMPL(ポールの音楽版権会社)オフィスの地下に作った通称「レプリカ・スタジオ」。ウイングス最先端のレコーディングが駆使された地です。怒涛のセッションの最後の最後で出来上がった2曲の完成度にウイングスは相当満足したのか、先に録音したアルバム収録曲を差し置いて間を置かずすぐに世に送り出されることとなりました。

 それでは、ウイングスの時代背景を振り返った上で、『Daytime Nighttime Suffering』の魅力をひとつずつ紐解いてゆきましょう。

 まず、この曲の魅力の大きな要素となっているのが、この曲の持つポップなメロディでしょう。ビートルズの頃から現在に至るまで、「天才メロディ・メイカー」の名をほしいがままにしているポールは、ことさらポップ・ソングにおいては素晴らしいメロディを紡ぎ出します。ウイングスに限っても、『Band On The Run』『Listen To What The Man Said』『Silly Love Songs』『With A Little Luck』・・・、ポップの名曲はごまんとあります。前回語った『I Am Your Singer』はその先鞭でしたね。そして、この曲もまた、「これをポップと言わずして何をポップと呼ぼう?」といったマッカートニー・ポップ節が炸裂したメロディです。歌いだしの跳ねるような、思わず心も体もウキウキしてくるようなメロディアスさは、ポップ職人ポールだからこそ生まれた秀逸なものです。「ポップ」=「弾ける」という意味を思い出させてくれる躍動感があります。もちろん、ポールのお得意とするキャッチーさ、つまり覚えやすさはここでもピカイチ。後半登場するタイトルコールの繰り返しは、初めて聴いてしばらくしたらすぐ覚えてしまうことでしょう!しかし・・・、この曲のすごい所はこれだけではありません。ポールは、いつものポップナンバーでの力量に加え、この曲ではさらに一工夫を施しているのです。

 それが、サビのメロディ(“What does she get〜”)とミドルエイトのメロディ(“Come on river〜”)との違いです。じっくり聴くと、どこか曲の持つ表情が違って聞こえませんか・・・?そう、これがポールの施した一工夫です。実は、サビがメジャー調で進むのに対して、ミドルエイトでは一転してマイナー調で貫かれているのです!メジャー調のパートと、マイナー調のパートが、この曲では介在しているというわけなのです。ポールといえば、よく言われるのがマイナー・キーをあまり使用せずメジャーべったりで曲を作ってしまうという癖があることです。それが、ウイングスやソロで聞かれるポップ・ナンバーやロック・ナンバーをシンプルでキャッチーなものにしている原因となっているのですが、ここではそれで終わらせず大胆にもマイナー・キーを多用したセクション(つまりミドルエイト)を導入したのです。ポールにとってはちょっとした冒険だったことでしょう。その結果、サビではいつものポールに特徴的な明るい雰囲気がいっぱい漂うのに対し、ミドルエイトではどこか哀愁も感じられる雰囲気に切り替わる、ちょっと不思議な曲構成が生まれることとなったのです。サビが「明」とすればミドルエイトは「暗」。コード進行についてよく知らないリスナーが聴いてもその表情の変化は分かります。ポールの曲では実験的とも言えるこの試みですが、それでいて全く違和感は感じさせないのがポール流。さらっと聴いただけでは、「曲の明暗が急に変わった!何かおかしい!」と意識することはないはずです。よくよく聴いてみて、「あ、なんか雰囲気違うなぁ」と思う程度です。メジャーからマイナーに転じるコード進行は、この曲では大っぴらに出ることなく隠し味として機能して程よいアクセントを生んでいるのです。異なる表情の複数のパートを自然に組み合わせて曲を構築してゆくのが元より得意なポール。ここでは、冒険をしつつも無茶はせず、曲の統一感を壊さない程度の味付けをしています。マイナー中心になるミドルエイトもサビに劣らぬメロディアスさを出しており、曲全体に渡ってウキウキ感が持続しているのも、その手助けとなっていますす。これだけでも、天才メロディ・マイカーの非凡な才能が駆使された1曲と言えるでしょう。

 そしてさらに、この曲の素晴らしさを揺るぎないものにしているのが、アレンジ面です。前述のように「バック・トゥ・ジ・エッグ」の頃のポールは、ウイングスに新たなメンバーが加入したこと、「ロンドン・タウン」がおとなしめに仕上がったことへの反動、そして音楽シーンの変貌への強い意識があって気持ちを新たに創作意欲を沸かせていたのですが、それはこの曲においても例外ではありませんでした。パンクやニューウェーブといった流行音楽の直接的な影響はないものの、この曲でも、いろいろな要素を1曲に詰め込むという大胆なアレンジを施しているのです。先にお話したメジャーとマイナー、2つのパートが交互に登場すること自体既に斬新なアレンジですが、この曲はアレンジがどんどんめまぐるしく変わってゆく構成となっています。例えば、冒頭はイントロなしでピアノ伴奏にアカペラ・コーラスを重ねるという静かな始まり方をしている一方で、歌いだしからはミドル・テンポのポップ・チューンとして展開してゆきます。そして異なる雰囲気のサビとミドルエイトを交えつつ進行するのですが、その間にもブレイクのように登場する中間部、そして極めつけとも言える後半のアカペラ・スキャットに至るまで、効果的なアレンジがバラエティ豊かに随所に挿入されてゆきます。そしてエンディングは再び静かに締めくくる・・・。3分半弱という割かし短い演奏時間の中で、こうした変化に富んだ実験的な試みが繰り広げられています。

 こういろいろ詰め込むと、セクションごとに個性が強くなりすぎて違和感を持ちそうな印象がありますが、メロディ面に引き続き不自然さを決して感じさせないのがポールのマジックです。これぞポールのアレンジャーとしての面目躍如といった所ですが、その完成度はまさに「完璧!」。そう、あれほど様々な要素があるのにもかかわらず、この曲には全く隙がないのです。数あるポールのポップ・ソングでもここまで隙がないのはそうそうないでしょう(『Listen To What The Man Said』『Silly Love Songs』くらいか?)。逆に隙がないのがちょっと味気ないかな・・・と思ってしまうほど(そんなことを言うと罰が当たりますが)、この曲のアレンジは無駄が一切ありません。すべてが上手くはまっています。しかも、『Listen To What The Man Said』『Silly Love Songs』がある意味「王道」の無難なアレンジで済ませているのに対し、こちらはそれに加えて冒険的なアレンジに挑戦しています。多様なアイデアを取り入れて冒険をしつつも、見事マッカートニー・ポップの枠内に落としこんでいる、これがこの曲のすごい所です。「バック・トゥ・ジ・エッグ」ではパンクやニューウェーブ風のアプローチからアグレッシブなアレンジを施していましたが、一見単なるポップ・ナンバーに見えるこの曲も負けず劣らず試行錯誤が行き交っています。シングルA面の『Goodnight Tonight』は、それにさらに輪をかけて多様な要素を詰め込んだ上、大きなインパクトを加味した点でこの曲よりさらに一枚上手なのですが・・・。そういうことを考えると、あのシングルが本当に強力盤だったことが思い知らされますね。

 演奏は、新たなラインアップで再出発したウイングスによるもの。ウイングスらしいしっかりしたバンドサウンドとなっています。曲調はミドル・テンポのポップながら、ロック色も感じさせる切れ味抜群の演奏になっているのは、新規加入したローレンスとスティーブの影響が大きいでしょう。「ロックへの回顧」を標語にしていたポールらしいです。特に、マイナー調のミドルエイトではそんなハードめなロック・フレーバーが堪能できます。この時期のポップ・ナンバーは、テクノ・ポップなどに感化されてギター・サウンドをあまり目立たせずキーボードをメインにするという革新的な編成もありますが(その最たる例が『Arrow Through Me』)、この曲ではギターの存在感も強いです。ただ、それほど大々的にフィーチャーされているわけでもなく、淡々としているのは興味深い所。しかしながらデニー・レインとローレンスによるフレーズは全体的な印象が薄いながらも(汗)欠かせない音です。キーボードもこの曲では随所で登場しますが、ちょっとした隠し味程度に抑えているのがこの曲のさっぱりしたキャッチーさにはうってつけです。冒頭のピアノや、ブレイク部分でのハープのような美麗なサウンドがいいアクセントです。このようにギター・サウンドとキーボード・サウンドを上手く両立させているのが極上ポップに聞かせる秘訣ですね。一方、革新的な演奏も散見されます。スティーブのドラミングは、ここでは曲を通してほぼ同じパターンで堅実にリズムを支えますが、それはあたかも当時流行っていたディスコ・ビートのようです。ディスコといえばA面の『Goodnight Tonight』で見事にポールが消化していますが、このトレンド・ミュージックにポールは深い関心を寄せていたようです。ポールの相変わらず躍動感たっぷりのベースラインが大きめにミックスされているのも、ディスコの影響かもしれません。

 ヴォーカル面はもっと面白いです。ここでのポールのヴォーカルは、一連のポップ・ナンバーとしては意外と熱くシャウト交じりに歌っています。やはり、「ロックへの回顧」の旗印の下、ロック色を濃くしていたからでしょうか。ポールのこの曲に対する自信もうかがわせます。サビはそれほどでもないですが、ミドルエイトの後半は若干力みながら歌われます。ちょうど演奏がロックぽくなる箇所なので、ぴったりですね。聴き所はことさら、アドリブ気味に熱くシャウトする後半のリフレインでしょう!これを聴くと、「あぁ、やはりロックに入れ込んでいた時期なんだなぁ」と思わせます。これがいつものふんわり柔らかく甘ーいヴォーカルスタイルでも十分聴き応えがあると思いますが、あえてそうしなかったのは当時ならではですね。また、コーラスワークにおいてはウイングスは天下一品。いつものポール、リンダ&デニーの息の合ったハーモニーがこの曲でも堪能できます。静かに始まる冒頭のコーラスは「さすがウイングス!」といった感じです。これの右に出る者はそういないでしょう。ポップ調に転じた後も、タイトルコールでのバック・コーラスはキャッチーさを強調させるのに一役買っています。中盤のブレイクでは、ポールのリード・ヴォーカルに対する追っかけコーラスが挿入されており、これまたキャッチーです。思わず“No less!”“No more!”と一緒に歌いたくなってくるはずです(韻を上手く踏んでいるのがいい感じ)。そして、こちらの聴き所は、やはり!後半突如登場するアカペラ・スキャットでしょう!一瞬ドキッとする急展開のアレンジですが、この美しさの妙は筆舌に尽きます。リンダの女性らしい高音と、ポールやデニーの男性陣らしい低音を巧みに利用したパート配分は効果的。この部分だけ取り出してじっくり聴いてみたい気分です。このように、ヴォーカル面でも様々なアイデアを詰め込んでいますが、それを自然に聴かせるのは何度も申しましたが、ポールのマジックです!

 そして、ウイングスのメンバーの他にもう1人、この曲には「ゲスト・ヴォーカル」がいます。といっても、彼は自発的に参加したわけではありません。この曲の2'04"付近で一声上げているだけです。・・・コアなポール・ファンの方ならもうお分かりでしょう。実は、この箇所ではポールの息子・ジェームズが「泣き声」で参加しているのです!後にポールの後を追って父親に負けないギタリストになり、「フレイミング・パイ」や「ドライヴィング・レイン」といったアルバムで親子の共演・共作を披露したジェームズですが、彼は1977年生まれ。ということは、この曲のレコーディング当時は1歳半です!この年齢では到底ギターでは参加できませんね(苦笑)。まだちゃんと歌も歌えないので、代わりに泣き声での参加となりました。これは、偶然ジェームズがスタジオに居合わせていて拾われた声なのか、それともミキシングの段階でポールが意図的に挿入したのかは不明ですが、ブレイクからミドルエイトに戻るつなぎに調子よくきれいに入っています。これがもし偶然だったらすごいタイミングですね!ヘッドホンで聴くとうっすらと「アァ〜」といった声が聞き取れますので、ぜひお聴き逃しなく!誰よりも家族を大切にするポールは、ウイングスのメンバーとしてキーボードとコーラスを担当した愛妻リンダはもちろん、子供たちも積極的に自分の曲のレコーディングに参加させる家族思いの主ですが、そんな姿勢が思わぬ所でこの曲に表れました。そして大変面白いことに、これが長男ジェームズのレコード・デビューとなったのでした(笑)。

 歌詞については、ポールがインタビューで語っています。ポールによると、この曲は「女性讃歌」だそうです。つまり、世の中の女性を応援する内容の詞作なのです。タイトルは、「昼夜の苦しみ」という意味。あくせく働きながらもそれに見合う代償を得られず苦労している女性の姿を描いています。そして、その上でポールは日々苦境に立たされる女性の功績をたたえているのです。ビートルズ時代の名曲『Lady Madonna』も、巷のごく普通の女性の生活を描いたものだとポールが発言していますし、ソロ・デビューシングル『Another Day』ではOLの日常生活の内側に潜む悲哀を描いていますが、ポールは妻を持つ身として自分なりに女性の置かれた現状について常々考えていたのかもしれません。思えばウイングスのスマッシュ・ヒット『Jet』の歌詞にも「女性参政権運動(lady suffragette)」という一節が出てきます(まぁこれは語呂合わせのために入れたものだったのですが・・・)。折しも'70年代以降「ウーマン・リブ」が世界各地で叫ばれ、当時の英国では女性首相のサッチャー政権誕生を挟んで女性の地位向上が進みつつありました。ポールがこの曲を書いたのは、そうした時代背景と関連しているのかもしれません。ただし、こういった政治的・社会的問題に音楽面ではあまり深入りしないのがポールらしい所。'90年代からはその方向性は少し変わってきますが、この曲に関しての「女性賛美にメリットがあろうとなかろうと、この曲は単なるポップ・ソングなんだ」というポールの言葉がその姿勢を象徴しています。あまり歌詞にはこだわっているようでもないようです。

 以上見てきたように、無性にポップなメロディと、実験性を帯びたアレンジ、そしてそれらを無駄なく詰め込んだ隙のなさが、この曲の魅力です。天才メロディ・メイカー、天才アレンジャーのポールも、この曲の完璧な出来には大変満足していたようです。何しろ、ミキシングを49回繰り返すという念の入れようですから!こうして完成した無敵ポップ・チューンを早速シングル発売しようと決めたポールですが、ウイングスのメンバーや周りの友達にも推されて当初はこの曲がA面になる予定でした。ところが、レコード会社がそこに待ったをかけます。ポールがB面にしようとしていた『Goodnight Tonight』が当時のディスコ・ブームの波に乗ってヒットすると画策、こちらをA面にするよう指示したのです。しばらく思い悩んだポールですが、『Goodnight Tonight』もオーバーダブやミキシングを加えてかなりの完成度になっていたこともあり結局は『Goodnight Tonight』をA面に、『Daytime Nighttime Suffering』をB面にすることに決めます。こうして、「なぜこの曲がシングルB面!?」状態が生まれることになったのですが、どうせなら2曲別々のシングルにするか、少なくとも両A面シングルで妥協していたらもっとヒットしていたのでは?と思います(汗)。2曲ともヒット性の強い超強力ナンバーですから・・・。この曲がB面になったことについては、友達から「がっかりした」というお言葉を頂いてしまったようですが、リンダも「これは絶対スマッシュ・ヒットになっていたはずよ」と断言しています。ちなみに、シングル「Goodnight Tonight」はポールのソロ・キャリアで初めて12インチシングルも制作されましたが、そちらのB面にも収録されています。そして、それを追うようにして発売されたアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」には未収録に終わり、この曲はアルバム未収録のシングルB面人生を歩むこととなります・・・。

 それでも、ポールのこの曲に対する思い入れは変わりませんでした。その証拠に、1987年をはじめとしてインタビューではたびたび「僕のお気に入りの曲」に挙げていたり、ポールがDJを担当したラジオ番組「ウーブ・ジューブ」でこの曲を放送したりと、最近もお気に入りぶりを時折見せてくれます。さらに、2001年のベスト盤「ウイングスパン」にも「HISTORY」サイドに見事収録され、シングルB面ながら世間の注目を浴びるまでに至ったのでした。当初置かれた環境から考えるとまさに大出世です。そんなこの曲の魅力は、ポールのみならずファンの心も同時につかみました。アルバム未収録のシングルB面曲がかなりあるポールですが、その中でもこの曲は異様なまでにファンの人気を獲得しています。それも、この曲の絶妙な個性とポールの熱い思いの賜物でしょう!

 この曲のアウトテイクが発見されており、「バック・トゥ・ジ・エッグ」セッション関連のブートに収録されています。これは、レコーディング途中で録音した別テイクです。音からしてラフなミックスであることがよく分かります(苦笑)。既に曲構成やアレンジ自体は決まっているので、公式テイクとさほど大きな違いはありませんが・・・。ポールのヴォーカルはガイド・ヴォーカルとなっていて、公式テイクより軽めに歌われています。特に、リフレイン部分であの熱いシャウトがまだ聴かれないのが一番の違いです(かなり軽めです)。また、中間のブレイク部分では、追っかけコーラスが全く入っていません!ちょっと拍子抜けしてしまいますが、バックの音が聴きやすくなっているので注目です(ハープのような音が目立つ)。アカペラ・スキャットの部分もミックスが異なっており、公式テイクよりもクリアにアカペラ状態を楽しめます。同時期にレコーディングされた『Goodnight Tonight』のアウトテイクが残念ながら残されていないので、これはかなり貴重なテイクです!私自身、この曲のアウトテイクはないものだと信じ込んでいました(汗)。ですので、これを聴ける喜びはひとしおであります。

 最後に興味深い話ですが、これほどまでファンの間で人気で、ポール自身までもが気に入っている曲というのに、この曲は一度もライヴで演奏されたことがありません。ましてや、直近のウイングス・英国ツアー(1979年冬)でも!これは異常事態です。まぁ、シングルB面だったということもありますし、『With A Little Luck』すらライヴで取り上げられていない世界ですから・・・(汗)。ていうかポール、「一番のお気に入り」をライヴ演奏しないというのは一体・・・?この曲はそっちのけで『C Moon』に首ったけなのか・・・?ちょっとコード進行が複雑ですが、ライヴで十分再現できる範囲だと思いますので、ポールには一度取り上げて頂いて、お気に入りの程を再確認・再アピールして頂きたいですね。

 この曲は、ファンの間で大変評価が高い1曲というわけなのですが、個人的にはまだ「大好き!」という所までは行っていません(汗)。まぁ、個人的には(なぜか)『With A Little Luck』や前回の『I Am Your Singer』と同じく愛読のマンガ「あずまんが大王」のキャラクター・千尋(ちっひー)の雰囲気がするので、そういう意味での思い入れはあるんですけどね(苦笑)。というのも、隙がなさすぎて逆にちょっととっつきにくいかな・・・と感じることがあるからです。また、個人的にはA面の『Goodnight Tonight』の方が大のお気に入りであることも要因かもしれません。とはいえ、ファンに愛される理由もよーく分かりますし、文句を言ったら罰が当たるような、素直に「名曲」と呼べる曲だと思います!マッカートニー・ポップの真骨頂ですね。しかも実験的ながら周到に計算された構成とアレンジで、不自然さなくさらっと聞かせるというのが何ともニクい!アレンジャー・ポール、お主もやるよのぉ(笑)。

 この曲は、ポールの音楽を好きになった方なら間違いなく好きになることでしょう!ぜひ一度お聴きになることをお勧めします。ポールの王道ポップに“+a”で刺激的な味付けがされているので、気づいたらやみつきになっているはずです。一般的に認知度が低く過小評価されがちな最終ラインアップのウイングスですが、その魅力を知ることのできる何よりの好材料となることでしょう。現在は、ベスト盤「ウイングスパン」の他に、アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」のボーナス・トラックとしても収録されています。ぜひ1979年ウイングスの魅力をお楽しみください。

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「ポール流ブルース」。これまた今回と同じく佳曲ですので、お楽しみに!!

 (2009.12.19 加筆修正)

  

(左)シングル「グッドナイト・トゥナイト」。今思えば超強力盤!両A面シングルにしていたらどれほど売れていたか・・・。

(右)アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」。新生ラインアップが最高にロックしているウイングスのラスト・アルバム。実験的アレンジが光ります。

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