Jooju Boobu 第75回
(2005.11.24更新)
Mumbo(1971年)
さて、今回で私のお気に入り順に紹介してきた中の第6層が終了する「Jooju Boobu」。ひとつの時代が終わってゆきます。そんな第6層の最後を飾る(!?)曲は、前々回からの流れを組んでとってもマニアックです(苦笑)。一般的にはまず知られていない曲でしょう。今回は、1971年発売のウイングスのデビュー・アルバム「ウイングス・ワイルド・ライフ」からファースト・ナンバー『Mumbo』を語ります。ウイングスのデビュー作にしては何かと酷評されがちで、忘れ去られがちな(汗)「ウイングス・ワイルド・ライフ」ですが、そのアルバムの特徴が最もよく表れたのが、実はこの『Mumbo』と言えるでしょう。語ることが多いかは別にして・・・、そんなこの曲の魅力について触れてゆきたいと思います。今回は、この曲を基にしてできた小曲『Mumbo Link』もあわせて紹介します。
'70年代のポップ・シーン、ロック・シーンを華々しく飾ったバンドの中でも代表的な存在が、元ザ・ビートルズのポール・マッカートニーが中心となって活躍したウイングスです。メンバーチェンジを幾度か繰り返したものの、1971年の結成から1981年の解散までの約10年間数々のヒット曲・名盤を世に送り込んだグループです。・・・という解説は、このコラムをご愛読頂いている方のほとんどは「分かってるよ、そのくらい!」状態ですね(汗)。すみませんでした。ポールの'70年代における活動の基盤となったウイングス。それでは、そもそもポールがウイングスを結成した理由は何だったのでしょうか・・・?
それはポールの「もう一度ステージで演奏したい!」という強い気持ちあってのことでした。ポールがウイングス以前に在籍していたバンドと言えば言わずもがビートルズですが、ビートルズは1967年からはライヴ活動を中止しスタジオワークに凝っていました(有名な話ですね)。しかし、やがてメンバー間の個性が対立を生み険悪なムードが漂い出すと、その空気を打破しようとライヴ活動の再開を提唱した人がいました。他でもない、ポールでした。ばらばらになりかけたグループの絆をライヴで再び固くしようとしたのです。しかしこの時は他メンバーの反対に遭ってやむなく頓挫(これが「ゲット・バック・セッション」となるのですが・・・)、おまけにビートルズは1970年に解散してしまいました。こうしてライヴ再開の夢も破れ1人自由の身となったポールは、ソロ活動を開始。2枚のアルバムを出します。そして、一時的なショックから抜け出し徐々に輝かしい頃の感覚を取り戻してゆきます。しかし、そんな時もポールのライヴ活動への意欲は消えることはありませんでした。「僕は常にバンドの一員でいたいんだ」とはポールの弁ですが、ポールはソロ活動から再びバンド活動へ密かに舵を切ろうとしていました。その原動力となったのが、愛妻リンダの存在でした。ビートルズ後期のいざこざに疲れ果て、家に閉じこもってしまったポールを励まし癒してくれたリンダですが、リンダの手助けに感謝したポールはやがて彼女と一緒に音楽活動をしたいと強く思うようになりました。そこで早速、ポールは音楽面では全くの素人だったリンダにキーボードを教え、夫婦でステージに立つ準備をしました。
数年来の思いは、「新たなバンドの結成」として実現に至りました。ポールはまず、アルバム「ラム」のセッションに参加したドラマーのデニー・シーウェルをバンドのメンバーに招き、続いてギタリストとして旧知の親友デニー・レイン(元ムーディー・ブルース)を誘います。こうして4人が揃った1971年8月3日、ポールは4人編成のグループ、その名も「ウイングス」の結成を公表します。そう、ここに、ポール筆頭に'70年代を駆け抜けることとなるウイングスが誕生したのです。それもつかの間、そのままの勢いで新生バンドはスタジオ入り。リハーサルを兼ねてデビュー・アルバムの制作に着手します。これがウイングスの記念すべき最初の活動となるのですが、ここでポールの「早くライヴがやりたいよ!」というわくわくした気分が大きな影響を及ぼします。結成してまだ1ヶ月という時期に行われたこのレコーディング・セッションにかけた時間は、なんとたったの3日!ビートルズ時代にじっくり時間をかけたレコーディングを誰よりも先んじて実践してきたポールとは思えない、異例の短期間セッションでした。まぁ、ポールの場合ビートルズのデビュー・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」のレコーディングを1日で終わらせたという過去があることはあるのですが・・・。しかし、ビートルズはデビュー前に数年間下積み時代を経て十分にバンドの実力と結束力を高めていました。それに比べてウイングスはそれこそメンバーが顔を揃えたばかりの即席バンド。まさに練習もままならない中でのセッションだったのです。その差は誰が聴いても歴然としていました。
このスピーディーなセッションで完成したウイングスのデビュー・アルバムは、「ウイングス・ワイルド・ライフ」というタイトルで1971年12月に発表されました。グループ結成から半年経った頃のことです。しかし、結成したてのバンドが3日間でレコーディングを済ませてしまったことが災いし、リスナー誰もが満足するような質の楽曲は残念ながら提供できませんでした。リハーサルをそのまま収録したかのようなラフなつくりの曲たちは、すぐさま評論家集団の非難の的となります。当時のポールは「ビートルズを解散させた男」として不当に非難され続けていた頃だったので、その攻撃は余計すさまじいものでした。チャート上でも失敗に終わり、ウイングスの船出はポールの期待とは裏腹に大変厳しいものとなったのでした・・・。まぁ結局ポール念願のライヴ活動は、新メンバーにヘンリー・マッカロクを迎えて翌年実現しますし、その後のウイングスの大躍進ぶりはご存知の通り。ポールにとっては悔いの残らないアルバムになったのでしょうか。後年、一時期は「作るべきじゃなかった」と発言したり、収録曲『Bip Bop』を「うへっ、聴けたもんじゃない」とこき下ろしていましたけど・・・(汗)。
ポールがライヴ活動再開を急いだゆえに生じたラフさ。まだまだ十分に意気投合していないメンバーによるたどたどしい演奏。これが当時は悪い結果を生んでしまったのですが、現在は前作「ラム」ほどではないですがそれなりの再評価を受け始めています。特に、ポールの音楽の奥深い素晴らしさを深く知る人ほどその評価は高いです。中でも、『Tomorrow』や『Dear Friend』といった佳曲が収録された「バラード・サイド」ことアナログ盤B面は再評価が進んでいます。それでは、一方のA面といえば・・・、こちらは4曲しかないのですが残念なことに現在も評価が上がったとはあまり言えません(汗)。それはなぜかといえば、このアルバムのセッションが生んだラフさがA面では色濃く出ているからです。A面の収録曲の特徴として、比較的アップテンポでダンサブルなリズムのものが多いことが挙げられます。リンダが「パーティーでも楽しめるように作ったのよ。立ち上がってダンスをしたい時にはA面がぴったりよ」と発言していますが、まさにその言葉が示すとおりの曲調が並んでいます。B面のバラード尽くしとは一線を画しますが、じっくり聞かせるバラードに比べてアップテンポの作品はどうしても作りこみが中途半端で、それゆえに荒削りな面が強いです。A面の評価がイマイチなのは、B面の完成度の高さに劣ってしまっていることが要因でしょう。また、録音状況の面で言っても、A面の方がB面よりかなり大雑把なミックスがされていて、さながらデモテープのような仕上がりになっているのも、この印象に拍車をかけています。何だかテープ・レコーダーで手軽に録音した感じです(苦笑)。ビートルズ時代にあの「サージェント・ペッパー」や「アビー・ロード」を作った人と同じ人のアルバムとは到底思えないです。
しかし、演奏やミックスがラフとはいえ、それが魅力になってしまうのだからポールは、ウイングスは侮れないのです。「ウイングス・ワイルド・ライフ」には、結成したばかりのバンドが即スタジオ入りしてさっさと録音しました、と言わんばかりの勢いが強く感じられるからです。メンバーそれぞれにとって新鮮な人間関係・環境下でのセッションとあって、たとえ演奏は拙くてもやる気だけは満々だったことは確かでしょう。意気投合はまだ十分にできなくても、和気あいあいとした楽しいセッションには既になっていたのです。そんなバンドにかける強い思いと連帯意識が、収録曲の荒々しい、たどたどしい演奏に潜むグルーヴに浮き彫りとなっています。この後名盤を多く生むウイングスですが、燃え盛るエネルギーだけで見れば一番活発なのは「ウイングス・ワイルド・ライフ」と言っても過言ではありません。ことにA面4曲にはそのやる気に満ちた勢いであふれ返っています(B面は一転して後のウイングス・サウンドにつながるポップ・スタイルが散見されます)。質は決してよくないし見劣りもするけど、それを新生バンドらしいノリでカヴァーしている。まさにそれが魅力ですね。『Bip Bop』や『Wild Life』が今なお新鮮に耳に入ってくるのは、そうしたパワーがどの時代にも通じるものを持っているからでしょう。
さて、そうしたラフだけど勢いだけはある「ウイングス・ワイルド・ライフ」の「ダンス・サイド」ことA面4曲の中で、今回ご紹介する『Mumbo』は最も荒々しい1曲です。そして、アルバム中最もアップテンポで最もグルーヴィーなダンス・ナンバーです。先のリンダの「ダンスにぴったりよ」発言は、主にこの曲のことを指しているのかと思ってしまうほどです。・・・といっても、タイトルが連想させるようなマンボのリズムではないのであしからず(笑)。まぁ、つづりも“Mambo”でなく“Mumbo”ですし、ね。ただ、ラテンのマンボにも通じるリズミカルでダンサブルな側面は十二分に持っています。ファンクぽさが混じっているのが特徴的ですが、ファンキーなリズムは後年の『Big Barn Bed』などでポールがたまに見せる味付けです。メロディに目を向けてみると、極めてシンプルな2コード進行で成立しており、その中でできた2つのメロディを何度も繰り返すだけという何とも分かりやすいものです。メロディよりもリズム重視であることが丸分かりです。「リハーサルに時間がかけられなくて、最初はほんの少しのコードだけでやりたい曲をやった」とポールも語っています。恐らく、3日間のセッションの序盤で、バンドで即興で演奏したジャム・ナンバーがそのまま1つの曲に成長したという経緯ではないでしょうか。それほど、ポールの楽曲の中でも極めて単調でぶっきらぼうなメロディです。次曲『Bip Bop』もお遊びで作ったものが曲になったかのような印象ですが、こういう即興性の高い曲が多いためにA面のいい加減さがますます強調されています(苦笑)。
そんなノリノリなリズムと単純明快なメロディを披露する演奏は、お世辞にも「上手い!」と太鼓判を押せるまでには至りません(汗)。そこはまだ結成して1ヶ月のバンドだから仕方ないことでしょう。まだテクニカルなプレイやバラエティ豊かなアレンジには到底及ばず、ただただがむしゃらに演奏している感があります。しかし、先述のようにそんな荒削りの演奏が生み出す力強いグルーヴが、この曲には欠かせない素材です。むしろ、ダンサブルなリズムにはこうした勢いだけの適当な演奏の方がぴったりなのです。これがバラードだと違和感がありますが・・・(汗)、この曲のようなジャム・セッション的な曲を楽しく聞かせる特効薬となっています。自由気ままに楽しく録音しているのがよく伝わってきます。面白いことに、不十分ながらも実は結構まとまりのあるバンドサウンドとなっていて、何気に聴き所も多いです。ベーシック・トラックは一発録りで行われており、バンドのノリがよく出ていてそこも好感を持てます。ファンキーなグルーヴの源となっているのが、シーウェルによるドラミング。タムを駆使したフィルインが曲のリズミカルさを前面に押し出しています。さすが、ポールに「タムのたたき方が上手い!」と見初められてバンド入りしただけあります。ベースはもちろんポール。シンプルながらもなかなか図太い低音で演奏を支えます。ギターはデニー・レインとポールの2人で、ハードめな演奏を聞かせてくれます。所々でフィードバックしかけな辺りに、即興セッションの生のフィーリングを感じさせます。中間部に登場するリフが印象的で耳に残ります。ポールが弾くピアノも後ほどオーバーダブされており、グルーヴの補強につながっています。そして、キーボード習いたてのリンダさんは、ここではオルガンを演奏。といっても、単音が何度か出てくるだけなのですが・・・(苦笑)。まぁ初心者だから大目に見てあげましょう。ポールはリンダの上達具合に合わせてシンプルで弾きやすいフレーズを考えるようにしていたそうで、なんだか微笑ましいですね。単純なコード進行も、リンダのためも半分あったことでしょう。意外とこのオルガンの音色がなくなるとノリが弱まってしまうので、結構重要なパートというわけです。このような力の入った演奏が、例によって中途半端なミキシングがされているのですが、ノリ重視の荒々しさを強調する上では、この粗悪なミックスこそこの曲には必要不可欠なのです。
演奏に並んで、ポールのヴォーカルも荒々しさたっぷりです。たまに入る間奏を除いて終始歌うポールですが、これがずいぶんめちゃくちゃな歌い方です。普段とはちょっと違う風変わりなトーンなのが印象的ですが、ノリノリの演奏にのせて「とにかく歌おう!」といった趣です。これがいつものポールならロック・ナンバーでももっと丁寧な歌い方をするはずですが、ここではその様相を全く見せません。書き殴るならぬ「歌い殴る」と言えば雰囲気が伝わるでしょうか・・・?荒削りですが、こちらも突っ走ってゆくかのような勢いがたっぷりで演奏と共に聴くと実に痛快です。お粗末と言えばそれまでですが(汗)、バンドと一緒に演奏できる喜びが先行して暴走してゆく姿もなかなかかっこいいものです。曲が始まるや否や、“Take it,Tony!(いいかい、トニー!)”という掛け声を叫んでいる所も勢いづいたポールの姿を想起させてくれますが、これはエンジニアのトニー・クラークに向けて言ったもの。トニーは、この「ワイルド・ライフ」セッションでアラン・パーソンズと共に作業を任されていました。ちなみに、過去にもポールが書いてバッドフィンガーがカヴァーした『Come And Get It』を手がけた人物です。オルガンが入る所では、リンダとデニーの「フー」というコーラスが入っていますが、これが何とも絶妙な間で何とも滑稽です。単調な曲ではいいアクセントになっていますね。一方、歌詞はポールが歌いながら即興で作ったらしく、内容も何もない出鱈目なもの・・・どころか風変わりなトーンもあいまってほぼ聞き取り不可能な状況です・・・!そのせいで、ポールの曲の歌詞を掲載している様々なサイトでも、この曲の歌詞だけは載せていない・・・という例が多いほどです。恐らく、歌った本人すら何を歌ったか忘れているのではないでしょうか(笑)。この曲がまさにジャム・セッションの果てにできたことを証明してくれます。
このように、演奏もラフでヴォーカルも出鱈目で、歌詞も即興・・・と、ポールの曲の水準で見れば「並み以下」に分類されそうな曲ですが(汗)、ウイングスという新たなバンドが羽ばたき始めたまさにその瞬間を一番色濃く残した注目すべき曲です。ここには、小ぎれいなアレンジもありませんし、おしゃれな演奏も歌詞もありません。しかしその代わりに、エネルギーだけは誰にも負けない生まれたてのバンドによる、ライヴ感あふれるホットな空気がたくさん詰められています。まさに初期ウイングスの魅力が堪能できるわけです。そして逆に言えば、こうした勢いがリズミカルでグルーヴィーなこの曲の魅力を最大限に高めているとも言えます。ウイングス黎明期にレコーディングされたからこそ、この曲は生きたと言ってよいでしょう。当時は不評に終わりましたが、例えばこの曲が後の「バンド・オン・ザ・ラン」や「タッグ・オブ・ウォー」の時期に録音されたとしましょう。この曲が生きるアレンジがされたと思いますか・・・?恐らく、「ウイングス・ワイルド・ライフ」ほどではないでしょう。いい加減で中途半端だけど、荒々しくて新鮮。とにかく前に進もうとしていたバンドの連帯感と自信こそが、この曲を生み、その魅力を生んだと言えるでしょう。良くも悪くも、この曲でウイングスは幕を開けたのでした。
3日間でレコーディングを済ませたがゆえにアウトテイクの少ない「ウイングス・ワイルド・ライフ」セッションですが、この曲のラフ・ミックスが発見されており関連ブート(「Wild Life Sessions」など)で聴くことができます。このヴァージョンは、基本的には公式テイクと同じものですが、後半で公式テイクでは聴けない箇所を聴くことができます。ポールのアドリブが炸裂したシャウトや、よりリズミカルなピアノ演奏など聴き慣れぬものも多く新鮮です。また、冒頭は“Take it,Tony!”で始まらず、“Hello,can you hear me?”というポールの語りかけで始まり、テープを再生するかのようにこの曲が始まる・・・というものになっています。
さて、この『Mumbo』が収録された「ウイングス・ワイルド・ライフ」ですが、B面を締めくくるバラード・ナンバー『Dear Friend』が終わってから少し経つと、短いインスト・ナンバーが始まります。この曲は、アナログ盤の当初はタイトルがつけられていませんでしたが、1987年に初CD化された際に『Mumbo Link』と名づけられました。タイトルからして『Mumbo』と何か関連性が・・・?と思わせますが、『Mumbo』の中間部に登場するギター・リフを基にしたジャム・セッションの一こま、といった印象の曲であり、それがタイトルのゆえんと思われます。内容と言えば、やけに重低音を効かせたベースが響く中、ハードなエレキ・ギターが取り留めないメロディを奏でるもので、そこにドラムスのリズムが入ったかと思うとリズムチェンジした直後にあっけなく終わってしまう、たった45秒程度しかない断片的な音源です。「ウイングス・ワイルド・ライフ」の他曲では録音状況のせいかこもった音をしているシーウェルのドラムスがやけにシャープに聞こえるなぁ、という程度で、それ以外はあまり感動しない・・・というのが実情です(苦笑)。アルバムの最後を感動的なバラードで終わらせずに、こういう小曲を収録して一ひねり効かせる・・・という手法はポールのアルバムではよく取られますが、個人的にはこの『Mumbo Link』は要らないような気がしてなりません・・・(汗)。何というか、『Dear Friend』の雰囲気ぶち壊しの上に、何だかよく分からないうちに終わってしまうので・・・。曲もなぜかカットアウトしているし。もっと別の位置に収録されていたら、まだ違和感がないのですが。まぁこういう気まぐれがポールのストレンジな所なのでしょう。
ポールの「またライヴしたい!」という願いから生まれたウイングス、そして「ウイングス・ワイルド・ライフ」。その願いがまもなく達成されたという話は先述しましたね。年が明けて1972年2月に始まったウイングス初のコンサート・ツアー、通称「大学ツアー」です。国内の大学を渡り歩き、その場で交渉してコンサートを開くという、元ビートルズとは到底思えないポールの裸一貫の再スタートだったわけですが、これでバンドの結束力を固め自信をつけたウイングスは、7月からは今度は予定を組んだ本格的なコンサート・ツアーに出ます。それが夏のヨーロッパ・ツアーです。大量の新曲を投入して観客を盛り上げんと奮闘したこのツアーで、この曲もセットリストに取り上げられました(一部公演では演奏されなかったようです)。新曲を量産したとはいえ、まだ「ウイングス・ワイルド・ライフ」1枚しかアルバムを出していない状況では、この曲を演奏するのも当然と言えるでしょう。アルバム随一のダンサブルなリズムを持つこの曲は、ワイルドなロック節の熱演が発揮されたこの時のツアーの一翼をしっかり担いました。この時のライヴ・ヴァージョンは各公演の模様をブートで聴けますが、私の手持ちのブート「Wings Over Switzerland」(1972年7月22日、スイス・モントルー公演)では、スタジオ・ヴァージョン以上に荒削りで白熱した演奏が聴けます。例えればまるで「音の塊」が押し寄せてくるかのようです。ギター・ソロもヘンリーが加わってますます鋭角になっていますし、ドラミングもよりパワフルに。オリジナルでは風変わりだったポールのヴォーカルも、ここでは地声によるシャウトとアドリブ交じりの熱唱で実にかっこいいです!・・・相変わらず歌詞は出鱈目で聞き取り不可能ですが(汗)。エンディングもしっかり締めていて、ロック色を濃くしています。観客のリアクションもよく、ポールに促されてイントロから手拍子を入れる盛り上がりぶり。コンサート序盤の火付け役となりました。
しかし、ヨーロッパ・ツアーが終わった後はライヴのレパートリーに取り上げられることはなくなり、さらにはウイングスの成長と崩壊、ポールのソロ活動といった時代の変遷の中で、この曲の存在はいつしか忘れ去られていきました・・・。ウイングスのデビュー・アルバムのファースト・ナンバーというのに、マイナーに甘んじてしまうこととなります。そんなこの曲に、突如スポットライトが浴びせられる時が訪れました。それは、2005年にアナログ盤とネット配信のみで発売されたリミックス・アルバム「ツイン・フリークス」です。このアルバムは、『Temporary Secretary』『Darkroom』などの項でも触れたように、2004年のポールのヨーロッパ・ツアーのプレショーのBGMとしてポールの既発の楽曲をリミックスした音源を一挙収録したもので、マッシュアップの名手であるDJ.フリーランス・ヘルレイザーが手がけたことが話題となりました。リミックスに使用された曲の大半が、ダンサブルなリズムを持つ上に比較的マイナーでマニアックという曲で占められましたが、そんな中この曲もリミックスされたのです。元々ダンサブルですから、「ツイン・フリークス」にはうってつけ。選ばれたのも納得ですね。
この曲のリミックスは、あのギター・リフのメロディをシンセが奏でる所から始まります。そこにパーカッションが入り「何か始まるな・・・」と思わせるのですが、ここからが面白いです。登場するのは2つめのメロディのヴォーカルと「フー」のコーラス、そしてリンダのオルガン。それが、なんと延々と繰り返されるのです!しかもオリジナルよりキーが高くなっていて、テンポも速めになっています。そして、そこに1つめのメロディのヴォーカルが重なるという荒業。元々2つのメロディは同じコード進行ですから、同時に流すことも可能なのです。それだけでも「おっ!」と思いますが、同じ箇所ばかり延々と繰り返しているので何だか滑稽で笑えてきます(笑)。風変わりな歌い方がより際立ってきますね。特にコーラスとオルガンが笑えます!一方バックは『Mumbo』のギターフレーズを取り入れつつ、シンセを多用した打ち込みサウンドを展開し機械的な雰囲気たっぷりです。どこかウイングスを現代のディスコ・ミュージック風によみがえらせた感があります。さらに、ここで「ツイン・フリークス」ならではの複数のマッカートニー・ナンバーのマッシュアップが登場。シンセとバスドラムは、なんと!『Front Parlour』(1980年、アルバム「マッカートニーII」収録)から取ってあります!これが違和感なくはまっているのがすごいです。リズミカルな側面をますます補強してくれます。これぞマッシュアップの醍醐味。曲は途中でいったんブレイクを挟みますが、その後再び先の繰り返しが復活してまた笑えてきます(笑)。演奏もますますダイナミックに。ヴォーカルにエフェクトがかかったりして面白い工夫もされています。・・・とまぁ、こんな感じでウイングス・ヴァージョンの面影は薄くなっていますが、代わりに強力なダンス・ナンバーと化していますので入手困難ですがぜひ一度聴いてみてください!(MPLのサイトでなぜかこれだけは試聴できます)ヴォーカル面でかなり笑えますよ!
この曲、私はやはりグルーヴィーでファンキーな所が好きですね。ちょっと変てこな雰囲気が面白くて。出来立てほやほやのウイングスの演奏は、まだまだ成長し始めたばかりですが聴いていて素直に楽しめると思います。和気あいあいした感じがよく出ていますよね。特にこの曲はそれが成功した恰好の例でしょう!最近ようやく「ウイングス・ワイルド・ライフ」A面の評価が少しながら上がってきましたが、これも時代の流れでしょう。いつの時代もそうですが、ポールは時代を先取りしすぎている面があるのです。それが、発表当初は不当評価→後年になって再評価という流れを生むのでしょうね。それにしても、上手な演奏やきれいな歌詞など気にせずに単純に「踊る」ということだけを追求すれば、これほど優秀なダンス・ナンバーはポールの曲でもあまり例を見ないのではないでしょうか?リンダさんの言うとおり、パーティーにはぴったりの曲だと思います。それを、「ツイン・フリークス」ヴァージョンが証明してくれたと思います。ちょっとあれはクレイジー気味ですが(苦笑)。バンドでやっても楽しそうですよね。ポールも、ウイングス最初の曲なんだし、またライヴでやってくれたらちょっとうれしいかも・・・?その前に、歌詞が実際どんなものなのか真相が知りたいですが(笑)。あれは私も聞き取れずにいます・・・。
今回のイラストは、意味不明なタイトルと聞き取り不可能な歌詞から何も描くものが思い浮かばなかったので(笑)、仕方ないのでデビュー当時のウイングス4人を描いてみました。・・・誰が誰だか分かりますよね?デニー・シーウェルは資料がなかったのでちょっと適当です。「ウイングスパン」のブックレット見ればよかったな、そういや・・・。
さて、私のお気に入り第6層はこれにて終了!大ヒット曲『Jet』があったのですが、蓋を開ければほとんどがマニアックな曲(しかもインストばかり!)という結果でした(苦笑)。これも管理人の個人的趣味の影響か・・・?そして、今回まで紹介した全75曲+3曲を、アルバム別に検証してみました!こちらからどうぞ!これで管理人の嗜好がよく分かると思います。特に「LT」と「PTP」の2枚は多い・・・?
そして、新たに始まる私のお気に入り第7層。だんだん「お気に入り」という概念からかけ離れてきていますが、それでも「まだこんなに好きな曲あったんだ!」と、新鮮な気持ちでいっぱいです。全部で10曲。シングルナンバーが2曲(B面も2曲)、ベスト盤収録曲が4曲です(3曲はシングル曲とかぶっている)。今回の『Mumbo』までのマニアック・ソングは姿を消し、かといって大ヒット曲もなく、中堅的な人気曲がずらり。例えて言えば、「ウイングスパン」の「HISTORY」サイドといった感じです。どれくらい「ウイングスパン」に収録されているかは秘密ですが・・・。しかも今度はバラードが中心です。前回までマニアックな選曲に呆れていた皆様も安心して楽しめます(苦笑)。お楽しみに!
早速、その第7層最初の曲のヒントですが・・・「デュエット」。お楽しみに!
(2009.12.07 加筆修正)
(左)アルバム「ウイングス・ワイルド・ライフ」。ラフだけど今聴くと意外と楽しめる、正真正銘のウイングスのデビュー・アルバム。佳曲もダンス・ナンバーもあり!
(右)アルバム「ツイン・フリークス」。この曲をはじめ、クレイジーなリミックスがいっぱい!この曲のリミックスはかなり笑えます(苦笑)。