Jooju Boobu 第7回

(2005.3.27更新)

Beware My Love(1976年)

 今回の「Jooju Boobu」は、絶頂期ウイングスの残したロックの佳曲『Beware My Love』を語ります。邦題は「愛の証し」(東芝EMIさん、毎度ですが意味不明です)。1976年に発表されたウイングスのアルバム「スピード・オブ・サウンド」(英語タイトルは「Wings At The Speed Of Sound」)に収録されました。このアルバムで一番知られている点といえば、ポール以外のメンバーが作曲した曲、またはヴォーカルを取った曲が多く収録されていることであり、これが何かとアルバムの評価を落としてきたのですが(苦笑)、この『Beware My Love』はその中でも珍しいポール作曲・ヴォーカルのナンバーです。

 この曲の魅力、それはこの曲を知っている人なら、もう言わずもがでしょう!その通り、ワイルドなシャウトをたっぷり含んだロックの要素です。ポールの一般的(先入観的ともいう)イメージといえばポップとバラード、というのはもう使い古しの表現ですが、ビートルズを含めたポールのキャリアを少しかじればそのイメージは幻想に過ぎないと教わるはずです。ビートルズ時代はもちろん、デビュー前の長い下積み生活のキャリアを考えれば、ポールがロックと無縁だった、軟弱だったというのは大きな間違いです。シャウトいっぱいのロックンロールもたくさん歌ってきたのです。もちろん、ソロになってからもウイングス時代も。そしてそれが、ポールの大きな魅力のひとつなのです(ある程度ポールの音楽を聴いている方に改めて言うようなことでもないですけど・・・)。この曲は、眉間にしわを寄せてシャウトする、そんなポールのロック的な側面がことに強調されて表れた一例です。この曲を聴くと、客観的に皆さんが思っているポールのイメージが大きく覆ることでしょう。何しろ、この曲ではポールはシャウトしまくりですから!一般的には全く有名でないこの曲ですが、今回はこの曲を語りつつポールのロックの魅力を伝えられたら、と思います。

 「ロックンローラー」ポールの本性は、時期によって影を潜めたり、色濃く現れたりしてきました。ビートルズ時代は稀代のロックンローラー、ジョン・レノンと対比される形でポップやバラードの側面がメインでしたし、ビートルズが解散し一人になってからも、基本的にはバラードやポップが中心の作品がメインでした。そんな中、ことのほか「ロック」が強調されたのがウイングス時代、特に1974年〜1977年頃の時期でした(1979年もロック色が濃いですが)。ご存知、ウイングスが「最強のラインアップ」と評される5人編成となった時期にかぶります。この傾向は、ビートルズ解散後ずっと続いてきた悪評を振り払い名声を取り戻したポール自身のさらなるアグレッシブな活動とも無関係ではありませんが、やはりジミー・マッカロク(ギター)とジョー・イングリッシュ(ドラムス)の登場が大きいでしょう。若年ながらも数々のバンドで実績を積んだジミーと、セッション・ドラマーとして地道な努力を重ねていたジョーがウイングスに加わったことにより、それまでとは格段に演奏がパワフルになってゆきました。それに呼応するように、ポールもストレートなロックナンバーを多く書くことになります。ジミーが加入して(ジョーは未加入)初のシングルとなった1974年の『Junior's Farm』を皮切りに、『Letting Go』『Rock Show』『Girls' School』『I've Had Enough』と、ポールが量産したロックナンバーは、シングル・アルバムで発売されただけでなく、多くが過去に発表したロックナンバーと共にコンサートでも演奏され、この時期のウイングスをロック色で彩りました。「バンド・オン・ザ・ラン」の大成功により上昇気流をつかんだウイングスは、ジミーとジョーとの出会いにより、ロックバンドとして一世を風靡することとなったのです。このロック色の勢いは、2人が時を同じくして脱退する1977年まで続き、その後メンバーチェンジを行って再出発した1979年には実験的要素を加えて一時的に復活します。

 今でも多くのファンの心を奪う絶頂期ウイングスのロックナンバーは、主としてポールのポップセンスが垣間見れる軽めのものが多いなのですが(『Junior's Farm』とか『I've Had Enough』とか)、中にはジミーやジョーの影響が色濃く反映されたハードでブルージーな系統のロックも見られました。それがこの『Beware My Love』であり、『Letting Go』であるのです。こうした楽曲では、ことさら力強い演奏とポールのワイルドなシャウトが映えます。これらを聴いた後には、誰もポールが「軟弱」とは言えないはずです。まさに、ポールのロック魂ここにあり、です。ポールの代表曲に比べればヒット性には劣りますが、ポール・ロックの名曲と呼んでも過言ではないでしょう。

  

 さて話を『Beware My Love』に戻します。この曲の冒頭は、ロックとは程遠い雰囲気から始まります。アルバムでは前曲『She's My Baby』とクロスフェードして始まるのですが、アコーディオンのような楽器が奏でる不気味な旋律でつながっています。同じアルバムの『Time To Hide』と『Must Do Something About It』の曲間にも同じようなリンクが登場しますが、これはプログレを意識したそうです。やがてフェードインしてくるのが、これまたロックとは程遠いアコースティック・ギターの澄んだ音色。ピアノを交えてゆったりとした演奏が始まります。なんだか幻想的な雰囲気を保ちつつ、そこではおなじみの3人(ポール、リンダ、デニー・レイン)によるコーラスが入り、タイトルコールを繰り返します。この3人が生み出すハーモニーの美しさは、次々曲の「某曲」を引き合いに出さずとも誰もが認める所。曲の前半は、この不安定に幻想的なイメージが流れてゆきます。その先に何が待っているのかを期待させるような、そんな不安定感です。

 これが、1分27秒にがらっと変わります。そう、ここでウイングスのロック・ショーの登場です!マイナーキーも含めつつ進行し、渋さ・ブルージーさがにじんでいるメロディ。幻想的で不安定な雰囲気を打ち破り、突如としてハードな演奏に切り替わります。ここから活躍するのはエフェクトをかけて歪ませたエレキ・ギター、パワフルなドラムス、そしてポール自身が弾くベースとピアノです。ギターはデニーとジミーですが、あの歪んだ音はジミーでしょう。ジョーのドラミングは力強いだけでなく正確で、バンドのまとまりをキープしています。ハイハットでリズムを取っているのが印象的で、一種の緊張感を生み出しています(この曲のドラムパターンは効果的で好きですね)。それに加えてポールのベースが重厚さを加え、ロックバンドとしてのウイングスのかっこよさを十二分に感じさせる演奏となっています。ピアノが意外にも曲を盛り上げる上で重要な役割を果たしているのにも注目です。

 構成はいたって単純ですが、演奏の勢いと、なんといってもポールのシャウト交じりのヴォーカルがそれをカヴァーし、息をつかせず後半まで導いてゆきます。ウイングス時代の他のロックナンバーでもポールはよくシャウトしていますが、ここまで激しく、しかも頻繁に熱のこもったシャウトを披露している曲もそう多くはないでしょう(特にスタジオ録音で)。後半にかけてのシャウトは絶品です。そして、演奏のワイルドさが強調されるのが、曲がいったん崩れた後のクライマックスの部分。前半の幻想的な部分のタイトルコールが復活し、それを繰り返しながら、演奏の方は以前よりも増して表情を変えつつ激しくなってゆきます。ギターソロの歪んだ音色はジミーならでは。この時期によく聴かれる音です。ピアノもアドリブ的な演奏が増えてゆき、かなり力強い演奏を披露しています。これも、ここまで力強いピアノ演奏はポールでは珍しいのではないでしょうか。最後は、ジョーが繰り広げる激しいドラムを交えて華麗に締めくくります。ここまで強烈なエンディングもポール随一です。しかも、かっこよく決まっているのが、演奏の団結力を感じさせます。全体的に、演奏もヴォーカルも、あたかもライヴ演奏のホットな空気をそのままパックしたようなものになっていて、迫力満点です。どれを取っても、これ以上の迫力はポールのスタジオ録音には存在しないのではないでしょうか。1975年にコンサートを重ねて、お互いきっちりまとまった演奏ができるように急成長したおかげでしょう。この曲のハードな演奏にジミーとジョーが大きく貢献したのは言うまでもありません。逆にデニーの存在感が・・・(苦笑)。

 このように、ハードでブルージーな演奏とポールのシャウトたっぷりの歌声が何より魅力的なこの曲ですが、歌詞はといえば、こちらも緊張感あふれるラヴソングとなっています。もちろん、こんな曲調でハッピーなわけはなく、タイトルにもあるように「気をつけろ!」と恋人に警告する内容です。何に気をつけるかといえば、もちろんその恋人が一緒になった「他の男」のことで、裏切られた形の主人公はこの男の危険性をことごとく指摘している、というわけです。それだけといえばそうで(汗)、単に曲のイメージに合う歌詞としてポールが別段思い入れもなく書いたものなのでしょう。しかし、あのシャウト風ヴォーカルで歌われると非常に説得力がありますよね。

  

 そんなライヴさながらのホットな演奏を、実際にコンサートで披露できるまでには長くはかかりませんでした。1976年のウイングス全米ツアーで早速セットリストに入れられたのです。ポール・ファンならご存知の、ウイングスが最もその輝きを見せたあの全米ツアーです。約1ヶ月半にわたり、全31公演をこなしたこの全米ツアーは、期間中のべ40万人もの観客を動員する記録的な大成功を収め、ジョージ・ハリスンに「ビートルズを見たいならウイングスを見に行け」と言わしめたほどです。この時の模様はライヴ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」として現在聴くことができますが、黄金期ウイングスによる力強い一夜のロック・ショーを堪能できます。1975年からワールド・ツアーを開始していたウイングスにとっての最終目標であった全米ツアー。それを成功させるためには強力な新曲が必要だとポールは思い、これが「スピード・オブ・サウンド」を制作する契機となったのですが、この新作からは4曲が新たにセットリストに加わりました。シングルヒット『Silly Love Songs』『Let 'Em In』、デニーの『Time To Hide』、そしてもう1曲がこの『Beware My Love』だったのです。

 この新曲4曲はいずれもライヴの後半にまとまって挿入される形となったのですが、この曲の後には『Letting Go』そして本編最後の『Band On The Run』が控えるという、クライマックスへつながる箇所に位置してあり、終盤の盛り上がりを手助けする役割を果たすこととなったのです。そのためか、ライヴでは冒頭の幻想的でスローな部分はカットして、ハード一本での演奏となりました。ライヴの流れを考えるとこの判断は正しかったと思います。前半も再現していたら、折角の熱気も冷めてしまうでしょうし、いきなりガツンときた方が盛り上がりますし、ね。さて、このライヴ・ヴァージョン、基本的にはオリジナルと同じ楽器編成ですが、ただでさえスタジオ録音随一のライヴ感・ワイルドさを持ったオリジナルを軽く凌駕してしまうような迫力を持っています。これを聴いてしまうと、あのオリジナルですらいささか貧弱に見えてしまうほどですから、ライヴでのウイングスのノリと演奏力がいかにすごいものかが分かります。テンポも速めになっていますし、ドラムパターンのメリハリはこちらの方がはっきりしています。後半の盛り上がりも一段階迫力を増しています。もちろん!ポールのシャウトも健在。ジミーも自由自在にギターソロを弾いています。

 '76年の全米ツアーは、音源は先のライヴ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」に収録されましたが、映像の方はシアトル公演の模様が1981年に記録映画「ロック・ショー」としてまとめられ、各国で公開されました(日本のみ、ポールの例の逮捕事件のお詫びのため他国ではカットされた7曲を収録した完全版が公開されたのは有名な話)。現在は7曲除きビデオ化、一部だけDVD化されている、ファンの間では完全版のDVD化を希望する声が絶えない映像作品なのですが、その中でこの曲のライヴ演奏を見ることができます(ちなみに、私はブート頼り・・・)。ポールのシャウトする様子、ジョーの迫力満点のドラミングなどがたっぷり見られます。ちなみに、この曲ではデニーはピアノを弾いていますが、後半になると立ち上がって演奏しているのが分かります。ジミーがアップになっている箇所が一部ありますが、やっぱりかっこいいですね。ルックスはもちろんですが、演奏している姿はポール以上に惚れ惚れしてしまいそうです(笑)。ポールのシャウトする様子も「ロック・ショー」随一のかっこよさをアピールしていますけど。全米ツアーの大成功により、ウイングスはまさしく世界の頂点に立ったのですが、ライヴ映えして会場を盛り上げたこの曲も、その成功の一翼を担ったといえるでしょう。

  

 ちょっとマニアックな話を。この曲はアルバムからのシングルカット「幸せのノック(レット・エム・イン)」のB面にも収録されましたが、ここに収録されたのは冒頭のアコーディオンのリンクをカットしたヴァージョン。よって、微妙な別ヴァージョンというわけなのですが、これは公式には未CD化です。一部ブートではご丁寧にCD化しているものもあったと思いますが、ブートでもなかなか入手できません。まぁ、これといって大きく違うわけでもないので血眼になって探すようなものでもないですけど・・・。オリジナルCDを作る分には便利でしょうね。ちなみに、フランス盤シングル(なぜか12インチ)では「Special Disco Mix」という表記がされていますが、他と同じヴァージョンのようです。この曲のディスコ・ヴァージョンというのも聴いてみたいような・・・。

 アルバム「スピード・オブ・サウンド」は、冒頭で述べたようにポール以外のメンバーにスポットを当て、「ウイングス」というバンドのアルバムだということを強調したものでしたが、ポールのヴォーカル曲が少ないことが災いして今では人気のないアルバムになっています。その余波で、この曲の存在も薄くなっているのですが、ウイングスのロックナンバーでは名曲と呼べるでしょう。ロックする、シャウトするポールを聴くことのできる曲として、この曲を聴かずにいるのはもったいないですよ、本当に!

 第7回で取り上げていることから、個人的にはかなり大好きな曲なのですが、最近は他の曲に押され気味でランクが落ちつつあります・・・(汗)。それでも、「スピード・オブ・サウンド」では今でも一番好きですね。この曲は、意外とは思われますが歌詞が特に大好きですね!決してハッピーな内容ではないですが、あの強烈なシャウトから繰り広げられる所がいいですね!私は迫力からするとライヴ・ヴァージョンの方が好きですが、序盤の部分が結構好みなのでそれを考えるとスタジオ・ヴァージョンも捨てがたいです・・・。私は、スタジオ・ヴァージョンはつながっている前曲『She's My Baby』とワン・ペアーにして聴いています(まぁ普通そうですか)。

 思えば、この曲で初めてシングルA面以外の曲を紹介したことになりますね。私のお気に入り順に紹介しているので、これからますますマニアックな曲も出てくるかもしれません(笑)。

 さて、次回紹介する曲、そのヒントは・・・「ピートとフィル」。お楽しみに!

 (2007.12.24 加筆修正)

  

(左)アルバム「スピード・オブ・サウンド」。バンドとしての連帯を意識し、メンバー全員がヴォーカルを取ったアルバム。

(右)ライヴ・アルバム「ウイングスUSAライヴ!!」。ウイングス唯一の公式ライヴ盤。全米ツアーの模様を収録。

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