Jooju Boobu 第62回
(2005.10.09更新)
You Gave Me The Answer(1975年)
今回の「Jooju Boobu」は、ウイングスのヒット・アルバム「ヴィーナス・アンド・マース」(1975年)から、『You Gave Me The Answer』を語ります。邦題は「幸せのアンサー」。この後「幸せのノック」や「しあわせの予感」に続く、東芝EMIさんの「幸せ」シリーズです(笑)。ちなみに、発売当初はさらに別の邦題で、その名も「やさしいアンサー」だったそうな・・・!意訳しすぎて原題とはかけ離れたタイトルにしてしまった(しかも2種類!)東芝EMIさんの迷訳ぶりは、すごいものです(苦笑)。まぁ、これも'70年代という時代的背景あっての微笑ましい結果ですし、同じアルバムにはもっと迷訳なのがまだ2曲ありますから・・・(言わずもが「あれ」と「あれ」)。
少し脱線しました(汗)。さて、今回紹介する『You Gave Me The Answer』では、ロックンロールと並んでポールが自身の曲作りをする上で大きな影響を受けた、とあるジャンルのテイストが色濃く表れています。唯一無二のメロディ・メイカー、ポールのいわば「もう1つのルーツ」を、この曲では実感できるのです。それは、何10年にも渡って様々なスタイルの音楽に果敢に挑戦してきたポールが扱う音楽の幅広さを再確認できる曲であることを意味します。これまでこのコラムで紹介してきた曲にはない、おそらく初めてご紹介するスタイルですので、ポールとのつながりを掘り起こしながら、この曲の独特の魅力を伝えてゆければ、と思っております。
その前に、この曲が発表されたアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」について若干おさらいしておきます。「Jooju Boobu」では『Venus And Mars/Rockshow』以来2度目の紹介となるので、もう概要を忘れてしまった方もいらっしゃるかもしれませんので・・・。「ヴィーナス・アンド・マース」が発売されたのは1975年のこと。前作「バンド・オン・ザ・ラン」がポールにとってはビートルズ以来の快挙となる一大ヒットを記録したことを受け、さらなる飛躍を目指したウイングスがその土台となるコンサート・ツアーのためのセットリスト増強のために制作したアルバムです。また、「バンド・オン・ザ・ラン」の頃は3人編成だったウイングスが、再び5人編成に立ち戻ったアルバムでもあり、前年の1974年には新たにジミー・マッカロク(ギター)とジェフ・ブリトン(ドラムス)をメンバーに招き入れています(ただしジェフは程なく脱退し、代わりにジョー・イングリッシュが加入する)。ポールの創作意欲が高い中、米国はニューオーリンズを舞台に、ジミーとジョーという若手メンバーの強力なバックアップでこれまで以上にロック・バンド色が濃くなった楽曲が次々と生まれてゆき、ライヴで演奏することを意識した内容となりました。ポール以外のメンバーのヴォーカル曲も登場し、「ウイングス」というグループの団結力をアピール。そして、強い自信を持って発売されるや否や全英・全米1位の大ヒットを記録しました。ここに、絶頂期と評される黄金のラインアップによるウイングスの快進撃が始まったのでした。そんな華々しいアルバムに、今回紹介する『You Gave Me The Answer』は収録されているのです。
それでは、この曲を語る上で欠かせない「とあるジャンル」のお話に入ってゆきます。ポールの作る音楽のルーツといえば、皆さんは何を思い浮かべますでしょうか?よく知られているのが、当然ながらロックンロールやR&Bですね。リトル・リチャードやチャック・ベリー、ファッツ・ドミノなど、憧れのアメリカ・シンガーたちのレコードを子供の頃から好んで聴いていたことはビートルズ・ファンなら周知の通り。ポールがこよなく敬愛するバディ・ホリーや、前回ご紹介したカール・パーキンスもその1人ですね。これらのアーティストの曲をポールは多数カヴァーしていますし、それがデビュー初期に代表される「ロックンローラー」ポールのイメージを作り出しています。しかし、これだけがポールの音楽のルーツではありません。実は、まだもう1つ重要な要素があるのです。それが「もう1つのルーツ」であります。一体何なのか?といえば・・・それは、「ジャズ」です。いわゆる「ボードビル・ナンバー」と呼ばれるジャンルです。激しく騒がしいロックンロールとは好対照を成すスタイルを持つジャズ。ステレオタイプ的なポールしか知らない人なら「ポール・マッカートニーがジャズ!?」と思うことでしょう。確かに、ビートルズなどでよく知られているポールのイメージとはちょっと違います。しかしながら、このボードビル・スタイルは、ポールの音楽性に結構大きな影響を与えているのです。ちょっとその例を挙げてみましょう。
たとえば、ポールがデビュー前の10代に書きビートルズ時代に発表した『When I'm Sixty-Four』は、完全なデキシーランド・ジャズです。ビートルズ時代にはこの他にも、ノスタルジックな『Your Mother Should Know』や、ボードビルとシンセ・サウンドを混ぜた『Maxwell's Silver Hammer』を発表しています。最も有名なのは『Honey Pie』でしょう。この曲を聴かれた方なら分かるはずですが、よほど聴き込まない限りできない本格的なボードビル・スタイルを取り入れています。さらにウイングス時代・ソロ時代になってもこうしたスタイルは随所で見られ、『Bridge Over The River Suite』『Baby's Request』『Goodnight Princess』といったジャズ・ソングを発表しています。実は、ポールの書いたジャズ・ナンバーは結構あるのです。
それでは、なぜポールは、失礼な言い方をすれば「前時代的」にも取れるジャズ路線をしばしば使用するのでしょうか?なぜ、どんな経緯でポールはジャズを愛好するようになったのでしょうか?そもそも、誰がポールにジャズを教えたのでしょう・・・?
それは、他でもないポールの親父さん、ジム・マッカートニーです。ジムは実は若き頃にはセミプロ・バンドのリーダーで、パブなどで音楽活動をしていたことがあり、ポールに遺伝されることとなる音楽好きを体現していたのですが、そこで演奏していたのがジャズ・ナンバーだったのです。後にポールが「カントリー・ハムズ」名義で発表した『Walking In The Park With Eloise』は実は親父さんの曲ですが、それもれっきとしたジャズ・スタイル。そのためか、マッカートニー家にはジャズがあふれていたのです。また、ジムはジャズのレコードをたくさん所持していたそうで、幼少のポールは自宅で毎日のようにジャズを聴く機会に恵まれていました。ポールがそんな親父さんの影響を受けないはずもなく、少年時代からジャズ・ナンバーに興味を示すようになりました。一説によれば、ポールはロックよりも先にジャズに親しんでいたとも言われています(ギターよりも先にトランペットを買ってもらっている)。まだ10代の若い頃に『When I'm Sixty-Four』を書き上げていることからもその影響は実証されます。結局、バディ・ホリーに代表されるスキッフルとの出会いを果たし、ロックの洗礼を受けたポールはボードビル路線を頻繁に書くことはなかったのですが、下手したらポールはロックンローラーではなくジャズ・アーティストになっていたかもしれないほど、親父さん、そしてジャズとの出会いの影響は強かったのです。ポール自身、「僕が最初に聴き始めた音楽はフレッド・アステアやコール・ポーターみたいな曲なんだ」と回想していることからもそれが分かります。コード進行などの曲作りの上でも大きな参考になったようで、後に数多く書き上げるポップやバラードのメロディの礎となりました。いわば「メロディ・メイカー・ポール」が生まれたのは親父さんのおかげと言って過言ではありません。
また、ポールはそんな親父さんのジャズ、さらにはクラシックへの嗜好が影響して、若い頃から様々なジャンルの音楽に興味を持つようになりました。同年代の若者ならロックンロール一辺倒だったのかもしれませんが、マッカートニー家の音楽環境は他とは違う、豊かなものでした。そんなことあってかポールは、デビュー前後のビートルズのライヴで『Till There Was You』や『A Taste Of Honey』といったミュージカル・ナンバーを堂々と演奏して他メンバーの顰蹙を買ったほどです(苦笑)。そして、こうしたポールの視野の広い音楽嗜好性が、ポールがロックンロールやポップのみならずジャズやクラシック、果てにはレゲエにテクノにハウスに前衛音楽・・・といった幅広いスタイルに挑戦してゆく原動力となったのです。ポールの楽曲がバラエティ豊かなのも、親父さんのおかげと言って過言ではありませんね。
そして話を戻して、いよいよ今回紹介する『You Gave Me The Answer』に目を移すと、この曲もそうした親父さんの嗜好の血が流れるジャズ・ナンバーなのです。ウイングス時代、つまり'70年代になってもポールのジャズ嗜好は健在だということが分かります。この曲は、他のポールのジャズ・ナンバーと比較すれば、『Honey Pie』に一番雰囲気が似ているかと思います。つまりは、先述したようによほどジャズを聴き込まない限りできない本格的なボードビル・スタイルのアレンジが施された本格派デキシーランド・ジャズなのです。ポールが、少年時代から蓄積してきたジャズ知識が、ここに至ってますます磨かれていることが分かります。ポールも相当なジャズ・マニアになったものですね(笑)。この曲は、ポールが見たフレッド・アステアの映画にインスパイアされて書いたそうですが、確かにアステアのような古きよき時代が思い浮かぶ感じに仕上がっています(私はアステアの映画を見たことないので詳しくは分かりませんが・・・でも雰囲気は分かります)。ポールいわく「ネクタイに燕尾服って感じだよ」というレトロな雰囲気が楽しめます。
そんなジャズ・スタイルどっぷりのこの曲の演奏を見てみましょう。ここで再確認しておきたいのが、この曲がウイングスで発表されていることです。つまり、演奏はウイングスのメンバーによって行われています。それも、「ヴィーナス・アンド・マース」ということですから、先述の通りジミーとジョーが加わったいわゆる「絶頂期」を体験した5人編成です(この曲の録音時にはジェフは既に脱退している)。先程も触れた通り、「ヴィーナス・アンド・マース」はロック・バンド色の濃いサウンドのアルバムであり、それに大きく貢献したのは若手のジミー&ジョーのロック魂あふれる大迫力の演奏だったのですが、そんなロック畑の2人を含んだウイングスが、一転して本格派デキシーランドであるこの曲を難なくこなしているのです!これには驚き。さっきまで一大ロック・ショーを飾るかっこいいハードな演奏をしていたと思ったら、今度はほのぼのしたジャズですから!相変わらず1つのアルバムに幅広いスタイルの曲を放り込むポールもすごいですが、各メンバー(特にジミーとジョー)の適応ぶりは目を見張りますね。後のメンバー、ローレンス・ジュバーとは違い、ジャズの演奏経験のない人たちですから!さすが、稀代のメロディ・メイカーのバンドに所属する人は一味違います。ジャズをやってぴったりはまるロック・グループなんて、そうそういませんよね。腕はもちろん、適応能力もすごいというわけです。「ヴィーナス・アンド・マース」のきらびやかな雰囲気は、こうした幅広いスタイルへの挑戦あってかもしれません。
イントロはスローなピアノ・ソロから始まります。その前に(誰のものか不明の)咳払いが入るのがいい雰囲気!です。このピアノを演奏しているのはポール。この静かな導入部はそのピアノでテンポアップして、本編に入ります。そこからはもういかにも陽気なデキシーランドで、軽快なリズムが印象的です。持ち前のパワフルなドラミングとは一線を画すジョーのドラムスは曲にぴったり。ポールは引き続きピアノで演奏をリード。ジミーはギターを、そしてデニー・レインはポールに代わりベースを演奏。ジミーのギターはジャズ・ソングだけあって控えめ。目立たないほどです(汗)。途中ストリングスが入ってくるパートがありますが、これが曲の軽快さを強調するようで爽やかです。個人的にはお気に入りのアレンジです。そして最も印象的で華やかな演奏なのがブラス・セクション。これがもういかにも古きよきジャズ・ソングといった趣。ぴったり決まったアレンジです。各楽器の使い分け方も、さすがポール分かっていますね。実はこのブラス・セクション、ポールの知り合いの4人組で、「ヴィーナス・アンド・マース」セッションではこの曲以外にも『Letting Go』や『Call Me Back Again』などにも参加してもらっています。これらの曲がブラス・セクションをフィーチャーしたおかげでぱっと印象が映えるようになったのはご存知の通りですが、演奏してくれるプロが身近にいるとは、ポールも幸運でしたね。人脈の広さの賜物です。この後1979年まで何かとウイングスを手助けしてくれる4人でした。この曲では特にクラリネットが印象に残るのですが、これはそのうちの1人、タデオス・リチャード。曲によってはサックスやフルートまで演奏してしまう達人です。圧巻は長めの間奏です。この間奏を聴くだけで皆さんアステアの映画に紛れてしまったかのような錯覚に陥ることでしょう!(アステアの映画を見たことはないですが・・・)そのジャズっぽいムードは『Honey Pie』に負けず劣らずです。パーカッションもいかにも!といった感じ。間奏後は華やかなスタイルのまま爽やかに終わります。その演奏時間、たった2分ちょっと。あっという間に終わってしまうのも、昔懐かしいジャズ音楽を思わせます。
そして、ジャズのテイストを心得ているのは、ポール自身が歌うヴォーカルもまたしかり。ポールは、ジャズに影響を受けた曲作りをするだけでなく、それをきっちり歌いこなしてしまっているのです。親父さんの影響はそれほど強かったのです。並大抵のものじゃありません。他のジャズ風ナンバーでもそうですが、ポールはジャズを歌わせても天下一品、大変似つかわしい歌いっぷりを聞かせてくれるのです。これがポールの曲と知らずに聴いたら、「どこのジャズ・シンガーが歌っているの?」となりそうです。ここまでジャズの似合うロック・アーティストはそうそういないと思います。さらに、この曲ではジャズの雰囲気をもっと楽しめるように一工夫がされています。この曲でのヴォーカルを聴くと、あたかも昔のマイク(『Goodnight Tonight』のプロモで見られるような、あれ)を通して歌っているかのように感じられますが、これはフィルターを通して録音したから。そのため、出力が抑えられたかのような効果が得られているのです。録音技術の賜物と言えそうですが、まるで昔のレコードを聴いているような錯覚を起こさせてくれます。『When I'm Sixty-Four』では若々しさを出すためヴォーカルのテープ速度を上げ、『Honey Pie』ではレコードの雑音を入れたポール。こうした一工夫が、ますますジャズの世界に入れ込んでくれるのです。伊達にジャズ・スタイルを使用しているわけではないのです。そして、ポールのジャズ・ヴォーカリストとしての力量が発揮されているのは間奏のアドリブ。曲全体も肩の力を抜いたような歌い方がされていますが、特にこのアドリブは軽々とこなしています。これがまたいかにもジャズやミュージカルっぽいんですよね。これも『Honey Pie』でも似たことをしていましたが、本当に上手いです。きっとポールもアステアとかポーターを聴いて研究したのでしょう。おまけに口笛も披露します。
歌詞は、ハッピーなジャズの曲調に合わせて、ハッピーなラヴソングに仕上がっています。これまたどこかの昔懐かしい銀幕にでも出てきそうなほのぼのとした雰囲気で、歌詞でもジャズの世界を体現したポールです。「君のこと大好きさ、君も僕のこと好きだよね」と、相思相愛のカップルが登場します。冒頭の邦題「幸せのアンサー」は、そういう点では雰囲気をつかめているかもしれません(苦笑)。まさに幸せな世界。ポールが一番得意とする楽観的なラヴソングの典型例といってよいでしょう。こうしたエンターテインメント性の高い普遍的なラヴソングの詞作は、「ヴィーナス・アンド・マース」では大炸裂していて、ファンの人気を集める要因の1つです。しかしながら、『Letting Go』や『Listen To What The Man Said』と並んでどこかおせっかい的な、もっと言えばエッチな(苦笑)雰囲気がほのかに香っているのは気のせいでしょうか・・・?
ここでちょっとマニアックなお話。お待たせしました(誰も待ってない?)、アウトテイクの情報です。この曲にはいくつかのアウトテイクが発見されていて、ブートで聴くことができます。まずは、1974年に自宅で録音されたと言われるピアノ・デモです。これは、既にこのコラムでも何度もご紹介したブート「The Piano Tape」で聴くことができますが、ポールが次アルバムとなる後の「ヴィーナス・アンド・マース」のために新曲を怒涛の勢いで1時間あまりもピアノで弾き語ったデモ音源です。この中には、だいぶ後になって発表されたり、未発表のままだったりする曲もあるのですが、「ヴィーナス・アンド・マース」セッションで取り上げられることとなる曲が5曲演奏されています。これはいずれもデモ録音の時点で完成度が高く、そのおかげですぐに公式に取り上げることとなったと思われますが、この曲もまた、この時点でかなり骨組みが仕上がっています。メロディはすべて完成しており、歌詞も間奏以前はすべて完成しています(間奏以前を繰り返す格好となっている)。太い声やアドリブも入れて楽しそうです。そして、この時のピアノ弾き語りのアレンジは、公式テイクでのピアノメインのアレンジに引き継がれることとなります。もしかして、「ヴィーナス・アンド・マース」期の曲にピアノメインの曲が多いのは、このデモテープのせいか?
一方、「ヴィーナス・アンド・マース」セッションでのアウトテイクも残されています。しかも2つも!これは「Venus And Mars Sessions」など「ヴィーナス〜」関連のブートで聴くことができます。まず1つめはラフ・ミックスで、基本的には公式テイクと同じなのですが、ミックスが違っていて結構違った風に聞こえます。イントロのピアノ・ソロにベースが入っている点からしてミックス違いと分かります。全体的にクリアなサウンドになっているのがうれしい所か。ポールの間奏のアドリブも大きめに入っています。各楽器を楽しみたい方にはうってつけですね。そしてもう1つは、なんと!インスト・ヴァージョンです!つまり、カラオケということで、ポールのヴォーカルは全く入っていません。演奏は基本的に公式テイクと同じですが、ここでもまたミックスが異なります。こっちは、ブラス・セクションとストリングスのミックスがとても大きくなっていて、逆にベースやドラムスといったバンド演奏がとても小さくなっています。ここまで来ると、本当にミュージカルのサントラのような趣です。なんか昔の銀幕のBGMにありそうな雰囲気(笑)。なぜこんなテイクが作られたのかは不明ですが、この曲の昔懐かしい雰囲気を味わうにはまたとないテイクです。ヴォーカル抜きですので、これがあれば自宅でカラオケも楽しめます(苦笑)。まぁ、日本ではこの曲、カラオケで歌えるんですけどね・・・。
さて、発表後のこの曲について。まず、この曲はアルバムからのシングルカット「Letting Go」のB面に収録されました。「ヴィーナス・アンド・マース」からのシングルは、ポールの「シングルとアルバムではそれぞれの楽しみ方を与えたい」という信条の元、A面はすべてアルバムとは別ヴァージョンで収録されていますが、この曲はアルバムヴァージョンと同じものが入っています。どうせなら、別ヴァージョンでもよかったのでは?と思うのは私だけでしょうか。先述のインスト・ヴァージョンとか入れたら面白かったのに・・・(苦笑)。ちなみに、シングルは中ヒットに終わりました。
この曲をピアノで演奏するポール(映画「ロック・ショー」より)。
そしてさらに、この曲は1975年から始まったウイングスの一連のワールド・ツアーでも演奏されています。結局翌1976年まで、かの有名な全米ツアーを含めて世界中で披露されることとなりました。このツアーでは、ニュー・アルバムの宣伝のため「ヴィーナス・アンド・マース」からは実に9曲が取り上げられていますから、この曲がセットリストに入ってもおかしくはないのでしょうが、それにしても一聴してライヴにはふさわしくない、しかも本格派ジャズ・ナンバーをさらりとライヴで取り上げてしまう辺り、ウイングスが単なる「ロック・バンド」でない、幅広いジャンルの音楽を取り扱ったバンドであったことを示しています。その中核は間違いなくポールなのですが。ビートルズもそうでしたが、ウイングスもこうした何でも演奏できる体制のおかげで世界的なバンドとして大成したのかもしれませんね。ライヴでは、アコースティック・コーナーが終わり、再びフルバンドで演奏が始まる、そのトップバッターで演奏されました。ライヴ・ヴァージョンは、スタジオ・ヴァージョンを基本的に再現していますが、また違ったニュアンスがあります。まず、ライヴならではかオリジナルよりテンポが速めになっているのが一番印象的です。いくら何でも取り上げるとはいえ、ライヴにちゃんと合わせてあります。そのためか、冒頭のスローな部分はカットされています。ピアノはライヴでもポールが弾いていますが、イントロのフレーズを慣れた手つきで速々と弾きます。ブラス・セクションは、スタジオ・ヴァージョンで参加した4人組がライヴでも同行して、見事再現しています。「ヴィーナス・アンド・マース」の楽曲がライヴでも華々しく再現できたのも、この4人のおかげでしょう。ここでも、身近にブラス・セクションの友達を持っていたウイングスの強みが生かされています。同時期の他バンドではなかなかできなかったアレンジです。スタジオ・ヴァージョンよりきらびやかな演奏を聞かせてくれます。このライヴ・ヴァージョンも、オリジナル以上にあっという間に終わってしまうのですが、ライヴ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」などを聴いていると意外と観客の拍手が大きいのが印象的です。何せ、この時のライヴではビートルズ・ナンバーに対する拍手がやたら大きい気がするので・・・(まぁいつの時代もそうですけど・・・)。
ポールは、そのキャリアの中で様々なジャンルの音楽に手を染めていて、そのどれもが魅力的に完成しているのですが、とりわけこのボードビル路線は実にはまっています。ここまで似合っていると、嫌いになんて到底なれませんよね。私もこの路線はかなり好きです。『When I'm Sixty-Four』なんかビートルズ・ナンバーでも大好きな方ですし。そして、今回紹介した『You Gave Me The Answer』も好きですね。「ヴィーナス・アンド・マース」がポールのソロで最初の方に聴いたアルバムだったこともあり、ポール聴き始めの頃かなりはまった曲でした。歌詞のほのぼのさもいいですね。ポールのボードビル路線は最近少なめですが、またこの路線の新曲を聴いてみたいですね。64歳になっても『When I'm Sixty-Four』をついぞライヴで演奏しなかったし・・・。この曲もライヴで復活してほしいなぁと淡く思っています。今のビートルズ偏重型セットリストには飽きたので・・・。それにしても、ウイングスのメンバーは(ローレンス・ジュバーはともかく)よくポールのジャズ嗜好についてゆけたものです。わざわざナッシュビルに赴いてジャズ・セッション(しかもポールの親父さんの曲)でしたからねぇ・・・。いろんなジャンルを吸収するポールについて演奏するのは大変な気もします。相当な力量がないと挫折しますね、ジェフ・ブリトンのように。
さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「ポールの親父さんの曲」。今回をよく読めば絶対分かるヒントです(笑)。お楽しみに!!
また、今回は「番外編」としてデニー・レインのヴォーカル曲の「あの曲」も紹介していますので、そちらもどうぞ!!
(2009.7.14 加筆修正)
アルバム「ヴィーナス・アンド・マース」。ウイングスのバンドサウンドが堪能できるヒット・アルバム。曲のきらびやかさが半端ではありません。