Jooju Boobu 第49回

(2005.8.25更新)

Hi Hi Hi(1972年)

 今回の「Jooju Boobu」は一転して結構メジャーな曲です。今回取り上げるのは、1972年に発売されたウイングス初期のヒットシングル『Hi Hi Hi』です。数あるウイングスのロック・ナンバーの中でも代表曲のひとつとも言えるこの曲。ウイングスをロックの側面から見る時に、そしてウイングスのライヴ史を語る上では欠かせない曲です。キャッチーなポップナンバーが主流のウイングスにおいて、ハードで力強い面が強調された代表格のこの曲を、今回は語ってゆきます。

 それではまず、この曲が書かれ、世に出るまでの経緯を振り返ってみましょう。1971年の夏にデビューし、その年末にはデビューアルバム「ワイルド・ライフ」を発売したウイングス。翌年早々には急遽書き上げた新曲『アイルランドに平和を』を引っさげて大学を回るツアーに出ています。しかしアルバムが評論家にたたかれ、『アイルランドに平和を』は政治的な詞作が問題となり放送禁止処分となります。ライヴも一定の定評はあったものの、何せ急ごしらえのバンド。まだレパートリーも少なく、バンドを率いるリーダーのポールは、聴衆皆をうならせる強力な新曲を作る必要に迫られました。そこで、大学ツアーが終わるとポールは、次のツアーに赴く前にメンバーのデニー・レインらとスペインで休暇を過ごしている最中に曲をいくつか書き上げます。そのうちの1曲が、今回紹介する『Hi Hi Hi』でした。この後も多くの曲を矢継ぎ早に書いてゆくポールですが、ウイングスを何とか軌道に乗せんと奮闘した毎日の中で生まれた曲でした。

 まさにライヴのために書かれたこの曲ですが、早速1972年夏に敢行した次なるコンサート・ツアーのレパートリーに組み込まれました。ウイングスが初めて海外に出向いた一連のヨーロッパ・ツアーです。この時点では、この曲はまだ公式未発表。同時期に書いた『My Love』や『The Mess』もそうですが、ポールはこのヨーロッパ・ツアーで大量の公式未発表の新曲を投入し、観客を何とかして喜ばせようと努力したのでした。中でもこの曲は、アンコールを除くコンサートのクロージング・ナンバーとして選ばれ、コンサート終盤で盛り上がる観客の心をさらに高める重要な役割を果たしたのでした。

 一方、ライヴでのお披露目に出遅れること2ヶ月、スタジオでのレコーディングでようやくこの曲が取り上げられるに至りました。ウイングスがツアーの合間を縫って制作を始めていた2枚目のアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」のセッションです。このセッションは既に同年春から始まっていましたが、この曲はライヴでの反応を見た後の10月にレコーディングが行われています。そして、アルバムに先駆けて一足先に12月にシングルとして公に出ることとなりました。一連の「レッド・ローズ・スピードウェイ」セッションで録音された曲では最初に陽の目を浴びた楽曲となりました。シングルは『C Moon』との両A面シングルの形でリリース(ただし『Hi Hi Hi』の方がメインサイド)。そして、事前にライヴで演奏していたこともあり、発売されるとシングルは瞬く間にチャートを駆け抜け英国で5位・米国で10位を記録。それまでのシングル(「アイルランドに平和を」「メアリーの子羊」)が不調だったウイングスにとって、初のTOP 5シングルとなりました。ウイングスにとってアルバム発売に向けて幸先よい滑り出しを生み出しました。事実上ウイングス初のヒット曲といってもよいでしょう。そしてこの後、『My Love』『Live And Let Die』といったシングル曲が相次いでヒット、満を持して発売されたアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」も好調な売れ行きを見せ、ウイングスの名声はここに確立することとなったのでした。そう考えると、この曲がウイングスがヒット街道に突き進む大きな原動力となったと言えるでしょう。蛇足ですが、日本ではポールがベースを持つ写真をシングルジャケットに採用していましたが、初回プレスを誤って左右逆に印刷してしまい、普通は左利きのポールが「右利きのポール」になってしまったのは有名な話。その後修正版も出ていますが、コレクターの間では2種類のジャケットが楽しめるということで何かと話題となるシングルです(笑)。

 シングルで先行発売されヒットしたものの、この曲はなぜかアルバムには収録されませんでした。これは、ポールの「シングルとアルバムで同じものは買わせたくない」という信条があったものと思われます。『My Love』のみ例外的に収録されましたが、同時期の『C Moon』『Live And Let Die』も、アルバムには収録されませんでした。面白いことに、これらアルバム未収録曲はみんな揃ってアップテンポの溌剌とした曲調。一方、アルバムに収録された曲のほとんどがスローで穏やかなバラードナンバー。偶然にも、シングルとアルバムではかなり曲のカラーが異なります。もしこの曲はじめアルバム未収録曲もアルバムに入れていたら、きっとアルバムの印象はもっと明るくハイテンションなものになっていたことでしょう。

 このような流れで生まれ、世に出た『Hi Hi Hi』。ここからはそんなこの曲の持つ魅力に触れてゆきたいと思います。

  

 この曲は、冒頭で触れたようにロック・ナンバーです。ライヴ用に書かれたエピソードが示すように、まさにライヴにはうってつけの、ライヴ向けのテンポとリズムを持った曲です。初期ウイングスというと何かと「レッド・ローズ・スピードウェイ」に代表されるようなのんびりまったりしたバラードのほのぼのした印象が強いのですが、実はこの時期のウイングスは意外なほどに大量のロック・ナンバーのマスターピースを残しています。『アイルランドに平和を』『The Mess』『Live And Let Die』はもちろん、『Soily』もこの時期書かれた曲ですし、『Best Friend』『1882』といった未発表曲も残されています。こうした背景にはもちろん、ライヴを意識した面が大きいでしょう。急ごしらえで生まれたウイングスの新生バンドらしいワイルドさを、この時期ポールは大黒柱に据えていました。大学ツアーやヨーロッパ・ツアーのセットリストを見ればそれは一目瞭然。ほとんどがバリバリのロック・ナンバーです。それゆえ、逆に評論家から「バラードは以前より悪くなった」と酷評されてしまうのですが・・・(汗)。ポールが打ち出したロック中心の方針のおかげで、初期ウイングスのライヴは先入観とは裏腹に非常にホットな空気を携えたものとなり、観客のテンションを高めるのに成功したのでした。この曲も、そんな政策の中で生まれた楽曲だったのです。

 面白いことに、実はこの曲。当初は8ビートのストレートなアレンジでした。その証拠がスタジオ入りする前に行われたヨーロッパ・ツアーの音源。このツアーのブート(「Wings Over Switzerland」など)や、公式ヴィデオ「Portrait -The Paul McCartney Special」(現在廃盤)で聴くことができますが、スタジオテイクとは全くニュアンスが違います。イントロで「これが『Hi Hi Hi』か?」と思ってしまうくらいです。どちらかと言えば、『The Mess』や『Soily』のリズムで演奏されている・・・と言えば分かりやすいでしょうか。曲構成も異なっており、間奏が挿入されているなど印象も違います。当時大量生産された他のロック・ナンバーに似た、荒々しさあふれるアレンジでした。しかし、ツアー終了後このアレンジにしっくり来なかったのか、ポールはスタジオでレコーディングする際にアレンジを練り直しました。それが、現在公式テイクはじめ一般的に広く知られるあのアレンジ。シャッフルやブギーのリズムを取り入れたロックスタイルです。これにより、かつては『The Mess』『Soily』の二番煎じのようにも聞こえてしまった(汗)曲が、一気に独創的で刺激的なリズムを持った一大ロック・ナンバーに生まれ変わることとなりました。

 そんなこの曲、なんといってもキャッチーなメロディが印象に残ります。ロックに傾倒していたとはいえ、ウイングスはウイングス、ポールはポール。やはり地であるポップ色あふれるキャッチー路線の影響が感じられます。その根拠とも言えるのが使用されているコードの少なさ。これは他のウイングスのロック・ナンバーにも言えることなのですが、メジャーキーを中心にごく少数のコードで成り立っています。これが、分かりやすく覚えやすい耳なじみのよいメロディを生み出しています。ポールの盟友ジョン・レノンも同時期ロックに傾倒していますが、ジョンのロックと比べてみるとその差は一目瞭然です。ポールのこの曲の方が数段キャッチーな響きを持っています。ロックしようとしても、地のポップ路線が入ってしまうのは本当にポールらしいです。力強く迫力あるロックでも、覚えやすく聴きやすい。これがポールそしてウイングスの一連のロック・ナンバーの長所であり、この曲がヒットしたのも、そうした点が受けたのかもしれません。そして、シャッフルのニュアンスを持つ独特のリズムも、そうしたキャッチーさに貢献していると言えるでしょう。8ビートヴァージョンと聴き比べてみるとよく分かります。その点、アレンジ変更は大正解だったと思いますね。

 さて、演奏の方はシンプルなバンド編成で構成されています。詳しい演奏者データは不明ですが、恐らく後述するプロモ・ヴィデオと同じ布陣で臨んでいると思います。ギター、ベース、ドラムス、そして(わずかながらの)キーボードのみという、ロック・ナンバーにはぴったりのストレートな演奏です。録音は恐らく当時主流だったベーシック・トラック一発録りで行われていると思われ、ライヴ感がよく出ている演奏です。注目すべきが、ベースとドラムスのリズム隊がかなり重低音を効かせた重々しいものとなっている点でしょう。これは初期ウイングスには特徴的な点で、他のロック・ナンバーでも同じ感触を確かめることができます。のっしりしたヘヴィーな演奏は、この後の絶頂期ウイングスの軽快な雰囲気とは違うものがあります。そんなリズム隊が奏でるシャッフルのリズムが耳に残ります。デニー・シーウェルのドラミングは、ここではそれほど派手ではないですが曲の印象を決めています。一方、終始弾きっぱなしのギターはデニー・レインとヘンリー・マッカロク。特にここでは新加入のヘンリーのギターさばきに注目したい所(別にデニーの演奏が悪いと言っているのではないですが・・・)。新参者の面目躍如といった風に随所で印象的な渋いフレーズを弾いています。さすがは生粋のブルース・ギタリスト。ヘンリーの演奏がもたらすブルージーさも、初期ウイングスのロック・ナンバーの魅力です。間奏のひねくれた感じのフレーズが、後述する刺激的な歌詞にはぴったりはまっています(笑)。

 そして、エンディングではもう皆さんご存知でしょうが、突如テンポアップします。ここばかりは曲にも軽快さが出てきます。シーウェルのフィルインに導かれるかのようにダンサブルなリズムにのせて一同盛り上がった演奏になります。ここで隠し味的に登場するのがリンダ夫人によるオルガン。これがこのテンポアップのノリノリな雰囲気を助長していて、何気に欠かせない音なんですよね。これがないといまいちノらないです。まだ音楽的素人のキーボディスト・リンダでしたが、この時期はこの部分のように影ながら名演を披露していて、努力を重ねていたのでした。最後はフェードアウトせずしっかり締めくくっていて、これは夏のヨーロッパ・ツアーで培われたライヴ感覚がそのまま生かされた形となっています。非常にライヴを意識していると思いますね。ちなみに、夏のヨーロッパ・ツアーで演奏された8ビートヴァージョンも最後はテンポアップしており、この時だけはシャッフルのリズムになっていました。

 このように、のっしりしたバッキングとヘンリーの渋いギターフレーズ、そして刺激的なテンポアップと、初期ウイングスのロック魂を最大限生かした内容は、「ワイルド・ライフ」の頃の演奏からは格段にまとまりを成しており、ツアーで磨き上げられレベルアップしたウイングスの力量を感じさせます。この曲は、まさにそんな初期ウイングスのスタジオワークでは名演中の名演と言っても過言ではないでしょう!

  

 そして演奏に負けじと光るのがポールのヴォーカルです。当時ロックを主力にライヴをこなしてきたポールですが、ここでもそんなポールらしいワイルドな迫力ある歌唱を聞かせてくれます。さすがにライヴ・ヴァージョンに比べるとスタジオ・ヴァージョンは丁寧に歌われていますが、終始声を張り上げてのシャウト風の歌い方がされています。溌剌としたヴォーカルが刺激的な演奏を盛り立ててゆきます。そしてここでもキャッチーなのがコーラス。ウイングスはコーラスアレンジが非常に覚えやすく、それが大きな魅力となっているのですが、ここでもそんな強力な武器を手にしています。それがタイトルコール“Hi Hi Hi”の箇所。非常に単純なこのフレーズが随所に盛り込まれていて、耳に残ります。誰しもこれを聴くと一緒に「は〜いは〜いはい」と歌いたくなるはずです(笑)。前回の『Move Over Busker』の時にも書きましたが、本当にコーラスを上手に聴かせるポールです。コーラスはおなじみのリンダとデニー・レインで、ワイルドなこの曲でも割かしきれいなコーラスを入れています(ただスタジオ・ヴァージョンではあまりフィーチャーされていませんが・・・)。どんなにロックしていてもコーラスが美しいのがウイングスの醍醐味であります。そして最後のテンポアップの箇所では、この「は〜いは〜いはい」がますます楽しく挿入されます。ポールもアドリブでシャウト(?)を入れていて実に楽しそうです。演奏中のメンバーのノリノリな様子が伝わってきますね。そして最後にポールが決め台詞“In the midday sun”をシャウトして、ワイルドなヴォーカルで繰り広げてきたこの曲を締めくくります。

 さて、問題なのが歌詞です。これが非常に意味深なもので、当時から物議をかもしました。この曲の仮題(ワーキング・タイトル)は「High,Hi,High」であることが明らかになっています(ヨーロッパ・ツアーのパンフレットに記載された曲目リストより)。つまり、「やぁ!」という挨拶に取れる「Hi」は、「ハイになる」という意味の「High」の隠語であると取れます。と来てもう皆さんお分かりですね。この曲の歌詞はその名の通り、ハイになるもの・・・つまりセックスとドラッグを連想させます(汗)。さらにタイトル以外の歌詞も、実に難解な仕上がりとなっていますが、これも深読みしてみるとセックスとドラッグを連想させる内容がてんこ盛り(汗)。ことに、前者に関してはかなり直球で連想できてしまいます。“sweet banana(甘いバナナ)”や“body gun(体の銃)”なんて、いかにも「何か」を思わせてしまいます(苦笑)。“I want you to lie on the bed(ベッドに横たわってほしい)”とまで言及していますから・・・。

 そして、やはりというか、この曲は検閲に目をつけられてしまいました。発売直前に英国国営放送(BBC)に放送禁止処分を受けてしまったのでした。理由は先に書いたとおり、「セックスとドラッグ」を連想させるため。実はポール、この年の初頭にも『アイルランドに平和を』が政治的な内容を理由に放送禁止になったばかり。偶然とはいえ、このインパクトはすごいです。しかも、その間には批判を交わすべく童謡風の『メアリーの子羊』なんてのんきに発売しているという(笑)。放送禁止→童謡ソング→放送禁止という、実にめまぐるしいポジションの変化だったわけです(苦笑)。これに対しポールは「自然にハイになることを歌っただけ」と弁明、さらに「出版社が“polygon(多角形)”という歌詞を“body gun”と間違えてラジオ局に送ったんだ」と反論しています。しかし、この“polygon”が登場する箇所、どう聴いても“body gun”にしか聴こえません(笑)。おまけにその箇所の文脈を考えると、“body gun”で訳してみると「ベッドに横たわってほしい、僕が射●の準備をしてあげる」(すみません、伏字にしました)とすっきり意味が通じてしまいます・・・(苦笑)。この部分では意味深の「ブー」という効果音も入っているし・・・。また、この曲が放送禁止になった後は両A面シングルのもう片方であった『C Moon』がラジオ局で頻繁に流され人気を得ましたが、この曲と『C Moon』を両A面シングルにしたのは最初からこの曲が放送禁止になることを前提にしての措置・・・と考えられます。このことからもこの反論は言い訳に過ぎず、ポールは最初から意図的にセックスソングとしてこの曲を書いたと考えるのが普通でしょう!それにしても、なぜポールは急にこんな過激な歌詞を書いたのか・・・バリバリのロックンロールだから、歌詞も合わせて刺激的にしたかったのでしょうか。いずれにしても、内容を深読みすると実にはずかしい歌詞でした(苦笑)。

  

 そんなことはお構いなしに、ポールはヨーロッパ・ツアーで受けのよかったこの曲を、公式発表後も引き続きウイングスのライヴのレパートリーに取り入れます。1973年の英国ツアー、そしてメンバーチェンジを経た後の1975〜1976年の一連のワールド・ツアー。いずれもアンコール前の盛り上げ役として、コンサートのクロージング・ナンバーとしてハイライトの1つとなりました。そのため、この曲はウイングスのライヴを語る上で欠かせない、ウイングスのライヴの代名詞的存在になっています。ライヴでは、スタジオ・ヴァージョン以上にワイルドで刺激的な演奏とヴォーカルを楽しむことができ、ライヴならではの醍醐味です。やはり、ライヴのために書かれたライヴ向けの楽曲だからでしょうね。そしてポールは、『アイルランドに平和を』に続きここでも「放送禁止になった曲です!」とMCで語っていたのでした(苦笑)。

 ヘンリーとシーウェルが在籍していた頃の初期ウイングスでは、英国ツアーの他にウイングスにスポットを浴びせたファンの間で有名なTV番組「ジェームズ・ポール・マッカートニー」でも演奏され、ライヴ・コーナーを熱いものにしました。ただし、この演奏は米国放送版でしか公表されず、本国英国ではなぜかオミットされてしまいました。そしてこの2人の後釜にジミー・マッカロクとジョー・イングリッシュを迎えた最強ラインアップによるワールド・ツアーの演奏はもう有名ですね。アンコール1曲目として演奏され、観客の熱狂をさらに高めるのに成功しました。このライヴ・ヴァージョンは音源がライヴ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」に、映像が映画「ロック・ショー」に収録されていますが、もうかっこいいの一言です。リード・ギタリストとドラマーが変わったことで、さらにパワフルで軽快なロック・ナンバーに生まれ変わっています。ジミーとジョーの名演は筆舌に尽きます。テンポもオリジナルよりさらに速めており、終盤のテンポアップもさらに刺激的となっています。そしてポールのヴォーカルがこれ以上ないほどの大迫力のシャウトになっているのは、言うまでもないでしょう!崩し歌い風になっているのがいい感じです。この時の演奏をベスト・テイクと挙げる人も少なくありません。個人的にはリンダのタンバリンがいい味出しているなぁと思っているしだいです。この一連のワールド・ツアー、ことに全米ツアーを経て、ライヴ映えするこの曲はその目的を最大限に全うし、ウイングスのロックの頂点に立ったのでした。

 ・・・が、その後はなぜか演奏されることはありませんでした。1979年のウイングス最後のコンサート・ツアーでレパートリーから外れてしまったのをきっかけに、10年後にポールがソロとして再びコンサートに出向くようになってからも取り上げられていません。ウイングスのライヴに欠かせなかったライヴ映えする曲だけに、これは残念なことです。最近のポールはウイングスの曲をほとんど演奏しなくなっているので望みは薄いですが、それでもファンの間では演奏してほしい曲のトップに挙げられることの多い1曲です。

  

1976年全米ツアーでこの曲を演奏するウイングス。2001年に制作されたプロモ・ヴィデオにも収録されています。

 この曲のプロモ・ヴィデオは2種類存在します。1つは、1972年のシングル発売時に制作されたもの。同年11月28日に、スティーヴ・ターナー監督の元撮影が行われました(同日には『C Moon』のプロモも撮影されている)。ターナー監督はある日急にウイングスのプロモをやらないかという依頼が来て驚いたそうですが、ポールとはすぐ打ち解け仕上がりにはみんな満足したそうです。内容は、3段のひな壇の上でウイングスが演奏するというもので、演奏シーンのみで構成されています。そのため、当時のウイングスのライヴ演奏(ここではマイミングのスタジオライヴですが・・・)を疑似体験することができます。ベースを弾きながらマイクに向かってシャウトするポール、かっこいいです。オリジナルの歌声をほうふつさせる溌剌とした顔です。その隣では2人のギタリスト・・・ヘンリーとデニー・レインが並んで演奏していますが、険しい表情で渋ーくプレイするヘンリーと、余裕の表情で笑顔も浮かべるデニーの表情の差が見ていて面白いです。間奏では2人のギターの手さばきを間近で見ることができ、非常に興味深いです。ヘンリーとデニーも、やっぱりかっこいいなぁと思わせます。私は断然デニー派ですが(笑)。デニーはウイングスのロゴマーク入りTシャツを着ています(『C Moon』のプロモでも同じものを着ている)。裏方のシーウェルはあんまり映っていません(汗)。リンダさんはキーボードを弾く・・・ふりなのか、これは?(苦笑)このプロモ、当時はモノクロ映像で出回っていたようですが、現在はプロモ集「The McCartney Years」で鮮明なカラー映像で見ることができます。

 もう1つのヴァージョンは、2001年にベスト盤「ウイングスパン」が発売された際に改めて作られたものです。こちらは、音源は1976年全米ツアーからのものとなっています。映像は、1972年のオリジナルのプロモの映像に加え、1976年全米ツアーの模様をおさめた前述の映画「ロック・ショー」からこの曲を演奏するシーンなどを挿入したものとなっています。全体的には「ロック・ショー」の方が比率が大きいかもしれません。1972年と1976年をめまぐるしく行ったり来たりするのが見ていて面白いです。同時に、ヘンリーとシーウェルがいたり、ジミーとジョーがいたりと大忙しです(笑)。中には『Helen Wheels』のプロモの一部も・・・。そして思うのは、どっちの時期もポールはかっこいいなぁということです。盛り上がり度からすると「ロック・ショー」の方が勝っていますが・・・。なお、このヴァージョンは「The McCartney Years」未収録です。

 この曲のアウトテイクは発見されていません。ただし、一部ブートにはプロモ・ヴィデオからの音源が収録されています。・・・あまり変わりはないんですがね(汗)。一方、ライヴ・ヴァージョンはもう先に述べたようにいろんな時期の音源が何種類も残っています。中でも1972年ヨーロッパ・ツアーの8ビートヴァージョンは必聴ですね。

 スマッシュヒットしたシングル曲とあって、ベスト盤にも収録されています。ただし、ポールの代表的なベスト盤「オール・ザ・ベスト」(1987年)には英米盤共に収録されていません。これは恐らくカップリングだった『C Moon』を収録してしまったからでしょう。そのため、「オール・ザ・ベスト」からポールを知った人はこの曲を聴くまでに時間が掛かることもしばしばです・・・。これはもったいない。まぁ相手がポールご推奨の『C Moon』ですからこの曲も太刀打ちできなかったのでしょうが・・・。この曲が収録されているベスト盤は「ウイングス・グレイテスト・ヒッツ」(1978年)と「ウイングスパン」(2001年)の2種類です。また、現在は「レッド・ローズ・スピードウェイ」のボーナス・トラックにも収録されており、そこで聴くこともできます。

 私も「オール・ザ・ベスト」から入ったので、この曲を聴いたのは少し後のことでした(「レッド・ローズ・スピードウェイ」で聴きました)。そしてすぐにそのロックぶりの虜になりました。検閲をものともしない歌詞も面白いですが(笑)、それをシャウトしながら歌いこなすポールが魅力的です。やけくそな感じがかっこいいですね。逆にコーラスの方はリズムとあいまって楽しさがあふれていますね。ここら辺がウイングスならではなのでしょう。終盤のテンポアップは最初聴いた時には驚きました。単純に終わらせるのではなく、大きく盛り上げて終わらせるというのが凝っていますね。この部分もまた聴いていて楽しいですね(オルガンの音やコーラスがやけくそになっている所が)。そしてなんといっても、この曲はライヴ・ヴァージョンでしょう!特に全米ツアーの演奏はテンポも速く、演奏・ヴォーカル共にオリジナルを越えるワイルドさ。これがライヴで盛り上がらないわけがありません。ぜひポールにもう1度演奏してほしい、そして生で聴いてみたい曲です。まだまだ現役なのですから、今でもきっとあのシャウトは出せるはずです!ファンは期待していますよ!

 この曲は、ウイングスを知る上でも、ポールのライヴ史を知る上でも絶対に聴いてください!きっとそのロックな魅力に陶酔することでしょうから!

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「マイナーなレゲエ」。お楽しみに!

 (2009.3.01 加筆修正)

    

(左から)当時のシングル盤。有名な「逆刷りジャケット」です。

ウイングス全米ツアー(1976年)の模様を収録したライヴ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」。ここでの演奏は圧巻です!

ベスト盤「ウイングスパン」。これから聴く人はこのアルバムで聴くことになるのでしょうか。

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