Jooju Boobu 番外編(2)

(2005.8.07更新)

Deliver Your Children(1978年)

 前回の『Again And Again And Again』から約3ヶ月。お待たせしました(誰も待っていない?)、番外編の第2弾の登場です。今回も、第1弾に引き続きウイングスのメンバー、デニー・レインの作曲・ヴォーカルナンバーをお届けします。今回取り上げる曲は『Deliver Your Children』。同時紹介となったコラム本編の『London Town』と同じく、ウイングスのアルバム「ロンドン・タウン」に収録されています。邦題は「子供に光を」。「ロンドン・タウン」には多数の邦題が存在しますが、その中でもあまり使わない邦題ですね(苦笑)。この曲では、『London Town』とは趣向が異なるものの、当時のデニーそしてポールが目指していた「英国回帰」現象の影響がもろに感じられます。その点を中心に、今回はこの曲の魅力を語ってゆきます。

 アルバム「ロンドン・タウン」については同時紹介の『London Town』の項を参照してください(笑)。そこでも触れましたが、「ロンドン・タウン」にはデニーとポールの共作曲が多く収録されています。『London Town』もそうですし、『Children Children』『Don't Let It Bring You Down』『Morse Moose And The Grey Goose』もそう。そして、今回紹介する『Deliver Your Children』もデニーとポールの共作曲。つまり「ロンドン・タウン」には「McCartney-Laine」ナンバーが5曲収録されているということです。そのため、このアルバムはいつも以上にデニーとポールのタッグが強調されていて、2人の協力体制を体感することができます。そしてもちろん、ウイングスの諸作品の中でもデニーの露出度が大変高く、その貢献度も大変高いアルバムとなっています。

 1977年にはシングル『Mull Of Kintyre(夢の旅人)』という一大ヒット作品まで世に出しているデニー&ポールのコンビですが、こうした共作曲は実は作曲された時期はまちまちです。たとえば『Mull Of Kintyre』は1974年に原型ができていますし、『London Town』も1975年頃から書き始められています。そしてこの曲はといえば、実は1975年には着手されていたようです。ウイングスが絶頂期に向かいつつあったアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」セッションの頃に書かれていたという事実には素直に驚かされます!しかし、こうした楽曲はこの時点では未完成状態であり、後年デニーとポールがそれぞれ持ち寄ってお互い手直しを入れ、結局のところ1977年〜1978年に集中砲火のごとく発表されるに至りました。この時期は、ちょうどデニーとポールが休暇などを利用して共作活動に入っていた時期であり、これらが固まって発表されたのは単なる偶然ではなく、デニーとポールの協力体制がゆるぎないものになった時期がこの時期だったからでしょう。

 そしてもう1つ、デニーとポールの共作曲が1977年〜1978年に固まっている要因が、当時のデニーとポールの指標でした。『London Town』の項にも書きましたが、それが「英国回帰」現象とでも言える、英国・アイルランドのトラッドナンバー(伝統音楽)に影響を受けた作風です。ポールの場合、それは全米ツアー(1976年)でウイングスを世界の頂点に至らしめた後、祖国に立ち返り自らのルーツを再確認する旅に出た・・・というのは『London Town』の項に書きましたが、デニーの場合は彼自身が関心を持ち、好んで聴いている各国のフォークソング(民謡)に起因します。デニーも当然ながらウイングスの一員として世界中を駆け巡ってきましたが、ポールと同じく原点を振り返った際、自らの発祥の地の音楽を自らも書いてみよう・・・と思ったのでしょう。こうして、自らのルーツを探す旅に出たポールと、フォークソング嗜好の強いデニーがタッグを組んだこの時期、2人は「英国回帰」という共通項を元に未完成だった曲に英国風・アイルランド風の味付けをして手直しした上で、一連の「ロンドン・タウン」セッションで録音、発表することとしたのです。このように、デニー&ポールの共作活動の本格化と各自の「英国回帰」現象が同時期に重なったことで、トラッドの香り漂う共作曲が一気に放出されることとなったのでした。まさにアルバムタイトル「ロンドン・タウン」が示す通りとなったのでした。

 こうした「McCartney-Laine」ナンバーのうち、主にデニーが書いたと言われるのが『Children Children』と、今回紹介する『Deliver Your Children』です。どちらも「Children」ソングです(笑)。そのため、リード・ヴォーカルもデニーが取っています。一般的にこの曲が「デニーの曲」として認識されるのはこうした所にあるといってよいでしょう。というわけで、ここからは曲そのものについて触れてゆきましょう。

 この曲は、聴いてみればお分かりの通り、フォークソングの趣が強いです。まさにデニーの本領発揮、得意分野です。英国で古くから歌い継がれている民謡をデニーなりに消化した曲と言ってよいでしょう。その根幹を成すのが、ポールとデニーが弾く2本のアコギでしょう。この曲では、エレキ・ギターは使われておらず、このアコギが曲を引っ張ってゆきます。そのまま弾き語りでもできそうなスタイルのアコギは、「ロンドン・タウン」ならではのアコースティックな響きが心地よいです。このアコースティックさがあのアルバムの魅力なんだよなぁ(笑)。そして、もう1つギターが入っていてこれはスパニッシュ・ギターです。随所にアクセント的に挿入される、普通のアコギとは違う独特の響きを聞かせて、こくのある味わいを見せます。間奏ではソロも聞かせます。このスパニッシュ・ギターのおかげで、単なる英国フォークではなく、どこか南国スペインの風味も混じって独特のエスニックな世界観を成しています。ちょっとフラメンコを意識した・・・?(確かにそれらしい掛け声と手拍子も入っているし・・・)しかし、英国フォークもフラメンコも西欧のトラッドであることには違いなく、ちょうどいい融合といった所です。ちなみに、スパニッシュ・ギターを弾いているのはポール。どうもポールはこの時期スパニッシュ・ギターを仕入れてきたらしく、この後自作曲でたびたび使用して効果的な音作りを繰り広げます。・・・たとえば『Goodnight Tonight』とか、ね。

 フォークソングにもいろんなスタイルがありますが、ここでは疾走感あふれるリズムで演奏されます。歯切れのよい、ちょっと固めなリズムは聴いていて楽しいです。つい手拍子を入れてしまいたくなります。「ロンドン・タウン」セッションでは途中で2人のメンバーが脱退し、当時はウイングスは3人編成となっていた(さらにリンダは産休に入っていた)ため、演奏はポールとデニーの2人だけが担当しています。ドラムスは、このコラムでも何度も登場のマルチ・プレイヤー・ポールの出番。ちょっと単調なドラムパターンですが、逆に疾走感にはしっくりはまっているかなぁと思うしだいです。本業のベースも好調で、このベースラインを高く評価する人も多いです。よくポールは他人のヴォーカル曲でのベースがさえることが多いのですが、この曲もその例に漏れず、といった所でしょうか。演奏面でもポール&デニーのお互いを信頼しあった強力なタッグが感じ取ることができます。リンダもそうですが、ウイングスが度重なる危機にもめげず10年間やってこれたのもポールとデニーの深い絆あってこそでしょうね。それをよく知ることができるのがこの時期です。アレンジ面では、途中で転調したり、エンディングのテンポを落としてスロー気味に締めくくるなど、ただ単調に疾走するだけではない工夫がされています。

 デニーとポールの深い絆を確認するなら、この曲のヴォーカル面を挙げておかずばなりません。この曲のリード・ヴォーカルは先述の通りデニーですが、全編にわたってポールがハーモニー・ヴォーカルをつけています。デニー特有の枯れた感じのへろへろヴォーカルと、その上を行くポールのヴォーカルとの相性は抜群で、デニーだけではちょっと弱めになってしまう所をうまくポールが補強しているといった感じでしょうか。その点は『Again And Again And Again』にも通じますね。ポールにしてみれば'70年代きっての相棒であったデニーとの男性ヴォーカル同士のデュエットはこの時期ならではの魅力となっています。『Mull Of Kintyre』しかり『Don't Let It Bring You Down』しかり。同時紹介の『London Town』なんか、まさにそうですね。この曲では、そんな男同士のハーモニーを全編にわたって堪能できる、恰好の1曲なのです。

 歌詞は、デニーとポールどちらが書いたのか、それとも一緒に書いたのかは不明ですが、物語風の詞作になっています。一人称にあたる人物が、ちょうどその物語の語り部(というより弾き語りの歌い手?)になっています(エンディングのスローになる箇所で「こういう歌だったのさ」という風に歌われるため)。タイトル「Deliver Your Children」は、「子供を導いてくれ」と訳せますが、これは神様に「子供」である人間をよい生活に導いてくれるよう懇願する内容となっています。そんな切実な願いを裏付けるかのように、この曲で歌われる世界は混沌とした様相を見せています。人々は降り続く雨によって引き起こされた洪水から逃げ惑い、語り部の(元)恋人もみすぼらしい姿を街中に見せています。そして語り部の生活も金欠で苦しいようで、トラックが壊れてしまうとディーラーに修理を依頼するのですが、この語り部は相当気性が荒いのか、「金はないが銃は持っている」と無償で修理するよう脅しにかかっています(苦笑)。どうやら以前このディーラーに物を盗まれたことがあるようで・・・。お互いが物を盗みあい口争いが絶えない、まさにすさんだ世界なのです。そんな苦境をどこかいやいやながら神様に訴えるのですが、ここでも語り部の口使いの悪さが光っています。だって神様に「You'd better〜」と使っているんですから!しかしこれが、泥臭いフォークソングの雰囲気に合うんですよね。デニーもフォークソングの雰囲気をうまくつかめていると思います。物語の世界もちょっと昔話のようで、トラッドぽいです。

 ここからは補足的な話題を。まずアウトテイクのお話。「ロンドン・タウン」収録曲は割かしアウトテイクが多く発見されているのは『London Town』の項でも触れましたが、この曲に関してはラフ・ミックスが残っています。基本的には公式テイクと同じ内容なのですが、各楽器のミックスが異なっています。そして特筆すべきが、オリジナルでは同じチャンネルにまとめられているデニーとポールのヴォーカルが、ここでは完全に分離されていることでしょう!左チャンネルにデニーのヴォーカル、右チャンネルにポールのヴォーカルが配置されていて、双方をクリアに聴き比べできる面白いミックスです。どちらか片方を落とせば、どちらかの単独ヴォーカルのヴァージョンが作れるというわけですね(笑)。私はどうしても左に耳が行ってしまいますが(苦笑)。枯れた味わいのデニーと高音を歌うポール、それぞれの魅力を再確認できます。エンディングには話し声が聴こえます。「Water Wings」「London Town Sessions」といったブートで聴くことができます。

 この曲は、アルバムからの第2弾シングル「I've Had Enough(別れの時)」のB面としても発売されています。アルバムとは同内容です。アルバムと同じものを入れるなら、どうせならアルバム未収録の未発表曲でも入れてほしかった気もしますが・・・。その方が売り上げにも貢献すると思いますし。「ロンドン・タウン」の洋上セッションで録音されたデニー作・ヴォーカルの『Find A Way Somehow』を入れてほしかった!

 この曲はデニー自身も気に入っているようで、ウイングス解散後もたびたび取り上げています。1996年にデニーはウイングス時代の自作曲などをカヴァーしたアルバム「ウイングス・アット・ザ・サウンド・オブ・デニー・レイン」を発表していますが、その中でこの曲もセルフ・カヴァーされています。ここでは半バンド・サウンドスタイルで、オリジナルよりもアコースティックさが際立っています。ドラムスはボンゴに変更となり、スパニッシュ・ギターのパートはフィドルが演奏しています。オリジナルとは別の意味でトラッドぽい仕上がりです。デニーの元々の素質が出た素朴なアレンジが聴いていて心地よいです。ヴォーカルもデニー単独となっており、やや衰えはあるものの味わい深い枯れた歌声は健在です。いろいろ賛否両論あるデニーのカヴァー集の中でもよい出来ではないかと思うしだいです。フィドルがちょっとお化けが出てきそうな音をしていますが・・・(苦笑)。

 コンサートでもよく取り上げているらしく、2006年1月に来日公演を行った際も当然取り上げていました。熱心なデニー・ファンの1人である(笑)私も見に行ってきましたが、確か前振りのMCで「アイルランドや英国、ジプシーのルーツがある」と説明していたような覚えがあります・・・。この時はセルフ・カヴァーとは逆にオリジナルの原曲に忠実なアレンジでの演奏で、疾走感あふれる演奏に観客は一斉に手拍子を入れていました。あのコンサートでは指折りに盛り上がったのではないでしょうか?私も、大好きな「ロンドン・タウン」収録曲だけあって演奏に釘付けとなっておりました。生デニーが、生演奏を聞かせてくれたという、いい思い出です。

 この曲は、一般的に「地味」と評されることの多いアルバム「ロンドン・タウン」でもアナログ盤B面の目立たない位置にあり少し地味な面もありますが、デニーの枯れた味わいとフォーク趣味、そしてポールとの相性を確認するにはもってこいの1曲です。デニーの楽曲の中でも、定評の高い1曲ですがそれにも納得です。デニー・ファンはもちろん、ポール・ファンの方も「英国回帰」現象を体感する上では重要な1曲です。アルバム「ロンドン・タウン」自体、この「英国回帰」とデニーの貢献を十二分に堪能できる名盤ですので、まだ持っていない方はぜひお買い求めを!(笑)

 さて、次の番外編はいつになるやら・・・。リンダ、ジミー、ジョー、それともまたまたデニー!?それともカヴァー曲か・・・?

 同時紹介の「Jooju Boobu」第44回『London Town』もご覧になってください。

 (2009.2.01 加筆修正)

  

(左)アルバム「ロンドン・タウン」。デニーはここで本領発揮!彼らしい民謡調テイストが味わえます。ポールの曲も秀曲が多く、名盤です!お勧め!!

(右)アルバム「ウイングス・アット・ザ・サウンド・オブ・デニー・レイン」。デニーがウイングス時代の自作曲・ポールの曲を味わい深くカヴァーしています!

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