Jooju Boobu 第43回

(2005.8.04更新)

Band On The Run(1973年)

 ついに、ついに登場です!!今回の「Jooju Boobu」は、今まで紹介した曲の中でもっとも有名な曲でしょう。今回は、1973年のウイングスの名盤のタイトルソングにしてウイングスの代表曲、『Band On The Run』を語ります。'70年代ロック全体としても有名で、ウイングスを知らない人でもこの曲を知っている人は多いことでしょう。ポールのソロ・キャリアでももっとも有名な曲のひとつで、もっともヒットした曲のひとつ。そんな一世一代の名曲を、たっぷり語ってゆきたいと思います。

 この曲は、同名のアルバムつまり「バンド・オン・ザ・ラン」で発表されました。1973年夏頃に書かれたといいます。録音もこのアルバムのセッション(1973年秋)で行われたのですが、そのセッションのためにナイジェリアへ飛ぶ矢先にウイングスがメンバーを2人も失った話は、以前にもお話しました。ウイングス最初の大ピンチを迎えましたが、それでも残った3人は結束を深めてアルバム制作を全うします(現地で様々なトラブルにあいましたが・・・)。ここで転べばバンド崩壊の危機という中、アルバムは年末にリリースされましたが、これが発売されるや否や飛ぶように売れました。英米双方で1位獲得はもちろん、米国で4回1位に返り咲いたり英国で7週1位を記録するなど、それまでのウイングスおよびポールのソロキャリアでは最高の記録を更新しました。また、グラミー賞をはじめ、数々の栄冠も同時に手にしました。メンバーの喪失お構いなしに、ポール、リンダ、デニー・レインの3人編成のウイングスはここで偉業を達成したのでした。

 アルバムがこんなに大ヒットした背景には、ポールやウイングスに対する期待感、ようやく正当に下されるようになったポールへの評価なども挙げられますが、やはりアルバム全体に通じるトータル性を感じさせる名曲揃いの収録曲あってこそでしょう。そして中でも、後にアルバムからシングルカットされる強力な2曲があってこそ、といえるでしょう。それが、ポール・ロックの一大名曲『Jet』と、今回紹介する『Band On The Run』です。非常にキャッチーで、どこにも隙が見当たらない完成度。この2曲に牽引されて、充実したメロディを持つ他の曲も個性をアピール。それがアルバムを過去のウイングス作品に比べしっかり引き締めた完成度の高いアルバムに成長させ、大ヒットに至ったのです。

 この曲を聴いてまず目に付くのが構成です。皆さんご存知の話ですが、曲は『Band On The Run』という1つのタイトルでも、実はこの曲は3つのパートに分かれているのです。この3つのパートはリズムもテンポも全く違い、あたかも3曲のメドレーとも取れる構成です。なぜポールはこんな奇妙な構成の曲を書いたのでしょうか?

 それは、かつての相棒ジョン・レノンにあります。ビートルズ時代、ポールが単純明快なポップやバラードを書いてきたのに対し、中期以降のジョンは複雑な構成を持つ難解な曲を書くようになりました。そんな中に『Happiness Is A Warm Gun』(1968年)という曲があります。この曲も3つのパートから成り立っており非常に複雑な展開を見せる曲なのですが、ポールはその奇抜な構成に大きな衝撃を受けたようで、この後しばしば複数のパートから成り立つ組曲系の曲を書くようになります。ビートルズ後期の『You Never Give Me Your Money』はその最初の例ですし、ウイングスの『Live And Let Die』『The Mess』もそんな組曲形式の曲です。そして、このパターンがポールの中で昇華されたのが、『Band On The Run』だったのでした。

 リズムもテンポも全く異なる3つのパートをくっつけたというと、支離滅裂になっているのではないか・・・?と思われますが、ポールの場合それでいてバラバラな雰囲気は全く漂わせず、ちゃんと1つの曲として違和感なく仕上がっています。この統一感は、ひとえにポールのアレンジ力の賜物と言ってよいでしょう。ビートルズの「アビー・ロード・メドレー」もそうですが、ポールは各パートを適切に配置し、それらをリンクさせる上で効果的なアレンジをつけることによってスムーズにパート間を移動することに成功しています。ジョンは支離滅裂ぶりによって難解で刺激的な組曲形式ぶりを見せましたが、ポールはその反対にきれいに纏め上げることによって完成度の高い、違和感を感じさせない組曲形式を生み出したのです。これは、あくまでも聴きやすく覚えやすい曲作りをする天性がなせる業でしょう。

  

アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」のジャケット撮影の1こま。

 それでは早速、その3つのパートの特徴を順に追って説明してゆきましょう。この曲は、まずスローで気だるい第1パートから始まります。大雑把に言えばバラードスタイルといっていいでしょう。エレキギターと、それに呼応して入るムーグ・シンセのフレーズが印象に残ります。ムーグ・シンセは、前作「レッド・ローズ・スピードウェイ」の頃から導入されましたが、このアルバムでは随所で使用され効果的に挿入されています。この第1パートでは「ぴよいよいよ〜ん」という音が眠くなってきそうです(笑)。長めのイントロを経てポールのヴォーカルが入りますが、演奏にあわせて落ち着いた歌い方です。リンダとデニーのコーラスがそこに気だるさを加えています。ポール+リンダ&デニーのハーモニーの美しさは言わずもがウイングスの醍醐味のひとつですね。歌のバックでも例の「ぴよいよいよ〜ん」が入り実に気だるいのです。

 それが次なる第2パートでがらっと変わります。今度はハードロック調となり、エレキギターが本格的に活躍します。こちらも、しばらくインストが続いてからヴォーカルが入るスタイルですが、インスト部でヴォーカルと同じメロディを奏でるギターが耳に残ります。そして再度ムーグ・シンセが登場し、今度はソロ演奏を響かせます。楽器習いたてのリンダでも弾きやすいシンプルなフレーズですが、第1パートとは違う緊張感を生み出しています。ドラムスも第1パートよりタイトになり、次なる展開をいろいろ期待させます。手拍子のようにワンアクセント入るのが印象的です(後のライヴヴァージョンではこの箇所で観客が手拍子を入れます!)。ここでのヴォーカルスタイルは、先の気だるさはなくこちらも緊張感漂う歌い方です。ここではコーラスは最後の“If we ever get out of here”という低音コーラスのみですが、実はこれはジョン・レノンの声ではないか・・・?という説がいろいろあるようです。声の雰囲気や、当時のポールとジョンの距離を置いた関係を考えて、私にはそうは思えないのですが・・・真実はいかに。

 そしていよいよこの曲のメインにあたる第3パートに移行するのですが、そのリンクにはオーケストラが使用されています。オーケストラはこの箇所でしか登場しませんが、第2パートの緊張感を頂点に達させ、第3パートの開放的な雰囲気にぱっと抜け出すのにはうってつけの効果的な挿入です。このアレンジを担当したのは、アルバム全体のオーケストレーションを担当したトニー・ヴィスコンティ。このリンクに関しては、後年「バンド・オン・ザ・ラン」の25周年記念盤(1999年)で本人が詳しく語っていますのでぜひ参照を!この曲の「壮大な組曲」というイメージは、このリンクにあるといっていいでしょう。ほんのちょっとだけですが、曲全体のイメージを決めてしまうかのような印象的なフレーズです。

 第3パートは、もう皆さんご存知の有名なパートです。爽やかなアコースティック・ギターを基調にした軽快なポップ・ロックで、3つのパートで一番ポールらしさがあふれています。メロディのキャッチーさはあえて言うまでもないでしょう!タイトルを連呼する箇所は聴き覚えのある方は多いはず。第1パートと第2パートはそれぞれ1節分しかありませんでしたが、こちらは間奏含めてしっかりした構成となっており、これだけでも1つの曲として成り立つほどです。演奏面ではアコギの爽やかさと突っ走ってゆく感じのリズムが耳に残ります。エレキ・ギターも、第2パートのようなハードで重々しい雰囲気はなく、この曲の軽快さを強調するようなフレーズを聞かせます。あまり音を詰め込んでいないのが、このパートの聴きやすさの要因の1つでしょうね。ポールのヴォーカルも、それまでとは違い一気に軽やかで元気いっぱいになります。そしてリンダ&デニーのコーラス隊も復帰しますが、ここではタイトルコールのキャッチーさを増幅させるのに大きく寄与しています。このコーラスがあるかないかで結構印象が変わってくるのでは?と思いますね。思わず一緒に歌いたくなってきそうにさせるのは、このコーラスあってこそでしょうね。そして最後は爽快かつ軽快なままフェードアウトせずしっかり締めくくっています。(余談ですが、米国版「オール・ザ・ベスト」では、最後のベースの音が不自然にちょん切れて終わっています・・・ヘッドホンで聴くと分かります)

 このように、気だるい第1パート、ハードで緊張感漂う第2パート、そして軽快でキャッチーな第3パートと、徐々に明るくなってゆく構成となっていて、この配置が非常にドラマチックで効果的です。そして次に何が待ち構えているか・・・?と期待させてしまうリンクの存在。ポールのアレンジャーとしての才能が惜しみなく発揮されています。この曲で、ポールはジョンの組曲形式を自己流に消化し、そのスタイルを極めたのでした。

  

 さて、前述のように、アルバムのセッションの前に2人メンバーが脱退したため、録音は3人で行われました。そこで活躍したのがポールです。アルバムの他の曲もそうですが、デニーのギターとリンダのムーグを除いてはすべての楽器をポールが演奏しているのです。さすが元祖マルチ・プレイヤー。アルバムが完成できたのもポールの力量もあってでしょう。その中でも特筆すべきがドラムス。ビートルズ時代にもドラマー(=リンゴ・スター)の脱退や不在中に『Back In The USSR』『Dear Prudence』『The Ballad Of John & Yoko(ジョンとヨーコのバラード)』などの楽曲でポールがドラムスを担当したことがありましたし、初のソロアルバム「マッカートニー」ではドラムスを含むすべての楽器を1人で演奏していますが、ウイングスではこれが初めて。しかし、ウイングス崩壊を防ぐべくポールは果敢にドラムスに挑戦したのでした。

 ドラマー・ポールの評価ですが、アルバムの他の曲含め、この曲でのドラムスはお世辞にも完璧とはいえません(汗)。というのもどこかスカスカで物足りなさがあるのです。また、録音環境が劣悪だったためか音に迫力はなく、低音がやけに強調された地味な音になってしまっているのです。この曲に関して言えば少し単調な面も見られ、特に第1パート→第2パートへの転換が迫力不足になってしまっています・・・。しかし、この独特な地味な味も捨てたものじゃあありません。特に第3パートのあやふやなフィルインを含めた独創的なドラムパターンは結構くせになります。他のパターンが考えられないくらいに。中には『Let Me Roll It』のようにダメな演奏もある(汗)ポールのドラミングですが、なんともいえない味わい深さを加味すると、やはりポールがあの時ドラムスを担当したのは正解だったでしょう・・・たぶん(皆さんはどう思いますか?)。なお、この曲を聴いたザ・フーのキース・ムーンが「誰がドラムスをたたいているんだ?」と尋ねたというエピソードがあります。これは単に誰がドラマーか聞いたのかもしれませんが(苦笑)、ポールは自分のプレイを「絶賛された」ことにご満悦で、よく引き合いに出していて、世間的にも「キース・ムーンが絶賛した」というのが通説になっています。

 曲構成と並んでポールの才能を感じさせる効果的な3部構成を成しているのが歌詞です。実は歌詞も3部構成になっていて、これもバラバラの3パートに統一感を持たせています。タイトル『Band On The Run』は「逃走中のバンド」という意味で、歌詞はバンドが牢獄から脱出する経緯を歌ったものとなっています。元々は第2パートの“If I ever get out of here(もしここを出られたら)”という言葉から発展させて書いたそうです。そしてその言葉、実は元をたどればジョージ・ハリスンが漏らしたものだったそうです。ビートルズ解散直前の険悪な空気の中、ビートルズが設立したものの経営難でゴタゴタとなっていた(ビートルズ解散の一因ともなった)アップル社の会議中での一言だそうですが、それをポールは何かの拍子に思い出したのでしょう。「アップルから脱出するジョージ」が「牢獄から脱出するバンド」に発展したわけですね(笑)。曲構成をジョンから、歌詞をジョージから着想してポールの一大名曲が誕生するというのもなかなか面白い話です。

 歌詞は各パートの曲調に非常に似合っていて、その点がこの曲を「ロック・シンフォニー」と言わしめるゆえんかもしれません。まるでバンドが脱走するミュージカルを見ているかのようです。気だるい表情漂う第1パートではバンドの面々が刑務所で意気消沈する様子が描かれます。四方を壁に囲まれて愛しい人とも二度と会えない寂しさが、ポールのせつなげなヴォーカル(+リンダ&デニーのハーモニー)にぴったりです。続く第2パートでは先のジョージの発言を元に「もしここを出られたら・・・」と脱獄への希望に思いをはせる様子が歌われます。緊張感あふれる演奏をバックに、思いつめている姿が目に浮かぶかのようです。そして劇的なオーケストラのリンクを経て登場する第3パートでは、脱獄して自由の身となったバンドの楽しげな様子が描かれています。まさに「逃走中のバンド」の姿がここにあります。この様子が、一気に爽快かつ軽快になり元気いっぱいなヴォーカル&コーラスが堪能できる第3パートにぴったりはまっています。この歌詞があり、構成にぴったりはまっているからこそ、第2パート→第3パートへ移る箇所の開放感がたまらないのです。第3パートでは、看守や船乗りサムや葬儀屋といったたくさんの人たちが登場し、ポールの詞作の真骨頂なのですが、うち船乗りサム(Sailor Sam)は同時期に録音されアルバムの先行シングルとなった『Helen Wheels(愛しのヘレン)』にも登場しています(そちらの項でもお話しましたね)。詞作面ではストーリーテラーぶりで知られるポールですが、そんな物語風の詞作でもぴかいちの出来といっていいでしょう。なお、ポールはこの曲の詞作に関して「ある意味では、僕がビートルズという牢獄から脱出を企てるという意味も込められているよ」とも話していますが、この曲とアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」でポールは、確かにビートルズ・サウンドから脱却することに成功したのでした。(その後もビートルズの「幻影」はつきまといましたが・・・)

 そしてそんな歌詞を元にしてできたアルバムのジャケットは、皆さんもうご存知ですね。架空の囚人バンドに扮したポールたちが、脱走を企てたものの見つかってしまいライトを浴びせられ壁の前で立ちすくむ・・・というコンセプトで撮影された、あれです。元々はリンダのアイデアだったそうですが、ウイングスの他にジェームズ・コバーン、ケニー・リンチ、クレメント・フロイドなどといった各界の有名人が多数「バンド」に参加したことが話題となりました。詳細は「バンド・オン・ザ・ラン」の25周年記念盤で各自がインタビューに答えているのでそちらを参照あれ!アルバムの宣伝に使用されたプロモーション・ヴィデオでは、ジャケットの撮影風景を見ることができます。また、裏ジャケット(下写真)はポール・リンダ・デニーの3人の写真(スタンプ付)が書類の上に置かれるというもので、こちらも「逃走中のバンド」といった趣です。

 さて、アルバムが先述のように大ヒットすると、シングルカットが行われました。実はポール、当初アルバムからのシングルカットは考えていなかったそうですが・・・あまりにもの売れ行き(と、人からのアドバイス)に心が動きます。第1弾の「Jet」は、英米で最高7位とスマッシュヒットに。そして第2弾に選ばれたのがこの曲でした。アルバムの発売から半年経った1974年6月に発売されましたが、なんとこれが「Jet」を上回る記録を生み出しました。英国では3位、そして米国では堂々の1位!第2弾シングルというのに1位を獲得とは相当アルバムとこの曲の反響がよかったのでしょう。この曲が歴史に残る名曲になることはこれで確実になりました。そして現在では、ウイングスの代表曲であるのみならず、ポールの代表曲、ひいては'70年代ロックの名曲としても世界中の大勢の人に親しまれています。なお、当時のシングルのB面は国によって異なっていて、英国ではアルバム未収録のインスト『Zoo Gang』を収録しましたが、米国・日本ではアルバムから『Nineteen Hundred And Eighty Five(西暦1985年)』を収録しました。

 この曲のアウトテイクは、『Helen Wheels』の時にも話しましたが、セッションのアウトテイクが発見されていないため見つかっていません。「バンド・オン・ザ・ラン」の25周年記念盤には、記念盤のために新たに録音されたテイクが収録されているほどです。2種類あって、1つは「Nicely Toasted Mix」という名で冒頭に収録されています。雷鳴に導かれてポールがアコギを弾き語るもので、断片的演奏です。もう1つは「Northern Comic Version」という名で、こちらは最後に収録されています。これまたポールがアコギの弾き語りです・・・が、なぜかポールは滑稽な声で歌っています(笑)。これが「Comic」と題されるゆえんか・・・?まぁ、お遊び的な演奏であまり聴く価値はありません(笑)。

 この曲は、ポールの代表曲だけあってライヴでも定番中の定番で、なんと!発表後のすべてのコンサート・ツアーで演奏しています。ウイングス時代はもちろん、ソロになってからも今なお必ず演奏される曲です。ライヴではよく後半になってから演奏され、後半を盛り上げる形で登場するようです。第1パート・第2パートはライヴ映えしそうでなく、カットしてもよさそうなのですが、どのライヴでも第1パートから通して演奏されています。それでも観客は、この曲のイントロが流れると大きな拍手と歓声を送り、第3パートでは一緒にコーラスを歌いつつノリノリとなるのでした(笑)。ライヴ・ヴァージョンの醍醐味は、やはりスタジオ版ではイマイチ欠けていたメリハリがついていることでしょう!各パート間のリンクなども緊張感あふれる仕上がりになっています。特にロック風味を効かせる第2パートは目に見えてかっこよく変貌しています。現在、CDとして公式発表されている音源は1976年全米ツアー(「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」収録)、1989年〜1990年「ゲット・バック・ツアー」(「ポール・マッカートニー・ライヴ!!(Tripping The Live Fantastic!)」収録)、2002年〜2003年ワールド・ツアー(「バック・イン・ザ・US」「バック・イン・ザ・ワールド」収録)の3種類と、先の25周年記念盤に収録された「ゲット・バック・ツアー」時のリハーサル音源(「Barn Rehearsal」)の計4種類です。ライヴ・ヴァージョンの中で個人的に好きなのは、未発表ですが1979年全英ツアーの時の音源ですね。このツアーではコンサートのラストを飾ったのですが、そのためかエンディングを長いドラムソロにしてタイトルコールを繰り返し、観客に合唱させるという粋な計らいがついているんですよね。これがたまりません。もちろん私が最終ラインアップのウイングスが大好きというのもあるんですが・・・(苦笑)。

 この曲は意外なことに、発売当時プロモーション・ヴィデオがありませんでした。当初アルバムからのシングルカットが予定されていなかったからか、アルバムのプロモーション・ヴィデオがあったから作る必要がないと判断したのか・・・。『Jet』も一応作られてはいますがお粗末な出来でしたし(苦笑)、あまりにもの大ヒットで宣伝する必要がなかったのか・・・?

 しかし後年、プロモーション・ヴィデオが複数制作されるに至りました。1つは1999年に「バンド・オン・ザ・ラン」の25周年記念盤が発売された際に作られたもので、主に1976年の全米ツアーの模様を中心に構成されています。つまりここでは絶頂期ウイングスが「逃走中のバンド」というわけですね。映画「ロック・ショー」で使用された演奏シーンはもちろん、楽屋裏や移動中の映像も満載で興味深い内容となっています(ドキュメンタリー「ウイングス・オーヴァー・ザ・ワールド」からの抜粋らしく、そのためか『Silly Love Songs』のプロモとかぶる映像もある)。一番興味深いのは、なんといっても楽屋裏にリンゴ・スターが訪れてのポールとリンゴのツーショットでしょう!これは珍しいです。以下のような感じです。

 そしてもう1つが、プロモ集「The McCartney Years」に収録されたプロモです。これが実に不可解な内容で、ウイングスの「ウ」の字も出てきません。逆に堂々と登場するのがビートルズです。「逃走中のバンド」が、なぜかビートルズにすり替えられています・・・(汗)。映像は全編ほとんどモノクロで、第1パート・第2パートはビートルズのアニメ映画「Yellow Submarine」のようなアニメーションによる街の様子を中心に構成されており、第3パートになるとビートルズの写真のコラージュがたくさん出てくるという内容です。演奏シーンはなし。コラージュの中には「サージェント・ペパー」のジャケットの観客や、オノ・ヨーコ、マハリシの姿までも・・・。ウイングスの曲なのになぜかビートルズ一色という本当に不可解な映像です(苦笑)。このプロモの制作時期は不明ですが、ポールのビートルズ観を考えると、恐らく近年になって制作されたのではないでしょうか?ウイングスの当時なら、ビートルズの「幻影」を取り払おうと必死になっていましたから・・・。以下のような感じです。

  

 この曲のカヴァー・ヴァージョンは名曲だけあって山ほどあるのですが、その中で1つ紹介しておきましょう。それが、デニー・レインです。そう、あの元ウイングスのデニー・レインです!実は1996年に自作曲などのセルフカヴァー・アルバム「ウイングス・アット・ザ・サウンド・オブ・デニー・レイン」でこの曲をカヴァーしているのです。ただし、お世辞にも原曲よりよいかといえば・・・(苦笑)。演奏者は無名のミュージシャンを安上がりに呼んできたらしく、確かにオリジナルに忠実にコピーしていますが迫力がありません(汗)。そして肝心のデニーの声が・・・。やはりポールのキーはデニーには厳しいのでしょうか。そんなデニーは、ライヴでもこの曲を演奏することがあるらしく、2006年に来日した際にも演奏していました(一部公演では代わりに『Live And Let Die』を演奏していたようですが・・・!)。私が見に行った時はこの曲を演奏してくれましたが、エンディングは1979年全英ツアーの再現というべくドラムソロになり、観客に1人ずつマイクを向けてタイトルコールを歌わせてましたが残念ながら私までは届かず・・・。観客が歌うとその声を真似して「ば〜んどお〜んざら〜ん」とおどけるデニーを今でも覚えています。あと、「ンド・オン・ザ・ラン(Hand On The Run)」と言っていたことも(笑)。

 ここからは個人的な話を。実は、この曲が私が初めて聴いたポールのソロ・キャリアのナンバーです。それまでビートルズは深く聴いていたのですが、数年関心がそれたためブランクが空いていました。しかし、ある日TVで流れていたNHK(だったと思う)の番組の予告で「ポール・マッカートニー&ウイングスの曲」としてちらっと曲が流れたのに出会い、「ポールのソロってなんだかキャッチーで楽しそう・・・」と思ったのです(実は後々それがこの曲だと気づくことになるのですが・・・)。で、ポールのソロといえばどのアルバムを買えばいいか、になって、まぁまずは「最高傑作」(実際には議論の余地がある言葉ですが)のアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」でも聴くか!ということで同アルバムを買いました。この時私の頭では、先の番組でちらっと聴いた影響で「ポールのソロ=キャッチーな曲ばかり」という勝手な公式が成り立っていました。そしていよいよアルバムを聴き、最初にこの曲が。そしてチンタラした第1パートにあっけに取られました(笑)。「えっ!?大ヒット曲だという『Band On The Run』がこんなスロー・ナンバーだったとは・・・!」と。しかし、その不安は第3パートですっ飛ぶことになるのですが。で、次の『Jet』もキャッチーだな〜と思ってたら、その後がずっとゆったり目。ここで初めて「ポールのソロ=キャッチー」の幻想はすっ飛びました(汗)。まぁ、こんな感じでポールのソロとの出会いのきっかけとなった意味で、思い入れのある曲です。今でも、ベスト盤やライヴの常連級の曲では好きな方です。

 一世一代の名曲『Band On The Run』。そこには、ポールのジョン・レノンの作風への憧れ、ビートルズの「幻影」からの脱出、ドラムスへの愛着、ライヴでの定番的な演奏・・・などポールの様々な思いが巡っています。また、曲としてもウイングス随一のキャッチーさを持っていますし、壮大な構成も先を読ませないスリリングなものです。この曲を知らねばポール・ファンではない!というほどですので、ぜひ一度聴いてみてくださいね!ベスト盤で簡単に聴くことができますよ。代表曲とだけあってすべてのベスト盤に収録されています(「ウイングス・グレイテスト・ヒッツ」「オール・ザ・ベスト」「ウイングスパン」)。蛇足ですが日英盤の「オール・ザ・ベスト」では、アルバムではこの曲の次にある『Jet』と順序が逆になっていて面白いです(米国盤ではアルバムと同じ順序になっている)。

 さて、次回紹介する曲のヒントは・・・「霧の街」。久々の番外編として、デニー・レインがヴォーカルを取る「あの曲」もあわせて紹介しますので、お楽しみに!!

 (2009.1.18 加筆修正)

  

(左)当時のシングル盤(日本)。/(右)アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」。大ヒットを記録したウイングス起死回生の名盤。この曲と『Jet』の2大名曲を収録!!

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