Jooju Boobu 第4回

(2005.3.06更新)

Waterfalls(1980年)

 第4回にあたる今回は、ポールの隠れた名バラードである『Waterfalls』を語ります。数あるポールのバラードの中でも、管理人が特に好きな曲のひとつです。ビートルズ解散後もウイングス・ソロと多彩な音楽活動を続けてきたポールには、それゆえに現在「不評アルバム」がいくつかあるのですが、そういうアルバムに、隠れた名曲があったりします。まさにこの曲もそのひとつで、今回は、普段はなかなか気づかれにくい位置にあるこの曲の魅力に触れていきたいと思います。

 前回取り上げた『Coming Up』と同じく、この曲は1980年発表のポールにとって久々のソロ・アルバム「マッカートニーII」に収録されました。先に語った通り、このアルバムの収録曲は、1979年夏にポールがウイングスの活動休止中を利用して趣味の一環として自宅でひとりで仕上げたものですが、この曲もすべての楽器・ヴォーカルがポール単独によるものです。同アルバムには、当時の流行の最前線だったテクノポップや、ポールがはまっていたブルースの影響を受けた曲が多いのですが、この曲ではあのアルバムでは珍しく、普段のポールらしいバラードを聴くことができます。単調なメロディの繰り返しや、インストゥルメンタルが多い「マッカートニーII」セッションでは、メロディ的にもっとも完成度の高い楽曲のひとつといえそうです。

 お遊び感覚の適当な感じの曲が多いアルバムではシングル向きの曲が少なくなるのは当然で(苦笑)、世界的ヒット『Coming Up』の後にはこの曲がシングルカットされました。英国では最高9位でしたが、米国では106位とチャート・インせず。いくらロック好き、ポップ好きの米国人とはいえ、なぜ!?と首を傾げてしまう結果です。しかも、106位とは実に中途半端な順位ですね。ちなみに、B面はテクノポップ丸出しの『Check My Machine』。この組み合わせ、すごいと思いません!?美しいバラードのB面が、どう聴いても適当なお遊びにしか聴こえない、めちゃくちゃにポールがぶっ壊れた最強ナンバーですから(笑)。

  

 実は、元々この曲はウイングスのために作られたものでした。『Coming Up』もウイングスのライヴで演奏されましたが、あの曲は元々自宅録音で何気に思いついたメロディが元になっていると思われるので、最初からウイングス用に書いたとは考えられません。この『Waterfalls』は、最初からウイングスで録音することを想定して書かれたのです。しかし、ポールの日本での逮捕(1980年1月)によりウイングスの活動が実質的に凍結してしまったため、ポールはソロで発表することとし、当初は発表する予定のなかったソロ・ヴァージョンがリリースされることになったのです。今聴けるソロ・ヴァージョンは、ウイングスで取り上げていたら、デモ・テイクとして未発表になっていたことでしょう。ウイングスで取り上げなかったため、ウイングスによるこの曲の演奏の音源はないようです。もしウイングスで録音していたら、後述するような内省的な印象は薄らいでいたでしょうね。スティーヴ・ホリー(ドラムス)の出番がなさそうですが・・・。『After The Ball/Million Miles』や『Winter Rose/Love Awake』風のアレンジになっていたかもしれません。

 先述の通り、すべての楽器がポールによる演奏ですが、サウンドはきわめてシンプルです。全体的には、オルガンを機軸にシンセサイザーの音色が随所で響くのみで、あとはアコースティック・ギターやタンバリンなどがアクセントとしてほんの一部に登場するのみです。そのため、普段のポールのバラードよりは幻想的な感じが漂っています。ポールはこの曲について、「『Eleanor Rigby』(ビートルズ時代の1966年に発表したストリングス・カルテットのバラード)を作っているような感じだった」と語っています。シンセの音は様々な音色を時に重厚に、時に薄く乗せています。重厚なパートでは少し不思議で不気味な箇所もあります。管楽器のような音もあります。同じ「シンセ」でも多種多様な音色があるわけで、それを上手に使いこなしているのはアレンジャーとしての面目躍如です。幻想的で美しい、何度聴いても飽きない、うっとりさせるバッキングです。

 曲構成は、節とサビを何度も繰り返すだけという、ある意味退屈するようなものです。ポールの曲構成のくせとしてよく挙げられるのが、同じパートを何度も繰り返して1曲を作り上げるというもの。普段であれば、アレンジなどを変化させたり、新たなパートを付け加えたり、あるいは別の曲とくっつけて完成させるのですが、「マッカートニーII」期には、その途上で発表してしまったと思われるものが多く見られます。ことに、シングルB面で発表された曲や未発表となった曲にはそういったものが多いです。

 よくこういうくせは「くどい」「退屈だ」という批評を浴びるわけですが、この曲では、音やコーラスのアレンジが部分部分で変化しています。全体的に同じカラーで、しかも全部で4度「節〜サビ」の流れを繰り返すので、退屈に思える部分もありますが、つまらないと感じたらそういう所を聴くと楽しめるかもしれません。あとは、目をつぶって曲の美しさに浸るだけです。ポールの未発表バラード『Did We Meet Somewhere Before?』も、そういった良質な「くどい」楽曲です(苦笑)。

  

 メロディ・アレンジももちろんですが、歌詞やヴォーカルもとても美しいです。とにかく、この曲には「美しい」という言葉がぴったりです。歌詞は、恋人に「〜しないで」と忠告しながら、「愛が必要なんだ」と訴えかける、せつなげで内省的な響きがあります。日頃の喧騒から逃れるように自宅にこもって、1人スタジオでレコーディングに没頭するポールの当時の心境が表れたかのようです。冒頭の“Don't go jumping waterfalls(滝には飛び込まないで)”は、よく「飛び降り自殺」だと言われますが(苦笑)。このくだりで登場するタイトルの「Waterfalls」は、ポールが自宅につけた名前だそうです。サビでは愛を必要としている自分の様子を、「〜が・・・を必要としているように」と例えていますが、「・・・」の部分が「shower」「hour」「tower」「flower」と韻を踏んでいるのが非常に印象的です。比喩を多用した詞作はポールの詞作の中でも特筆すべき言葉の響きの美しさがあります。第2節の“Don't go chasing polar bears(白熊を追いかけないで)”という歌詞をポールは当初書き直そうとしていましたが、友達に気に入られそのまま残したそうです。確かに白熊は唐突にも聴こえますが、詩的な趣の強いこの曲の歌詞にはぴったりだと思います。「滝」「花」「雨粒」「城」「庭園」「白熊」「車」と、視覚的にも美しい風景を思い浮かべる、幻想的な曲調・アレンジにはぴったりな美しい詞作です。

 それを歌うポールのヴォーカルはせつなげです。心細さをにじませたような歌い方は、当時のポールがそんなに孤独感を持っていたのか・・・と思わせてしまうような、寂しさ・侘しさも感じさせます。コーラスはポールの多重録音ですが、どこか崇高な賛美歌のようで美しいです。最後の方で微妙にヴォーカルとコーラスのタイミングがずれているのは、ご愛嬌ですか(笑)。ポールらしく作りこまない、アナログ的な作風が表れていますね。先述のように、同じサビでも部分部分によってコーラスのアレンジが違っているところ、結構凝っています。この曲では、あまり収録アルバムの特徴である機械的な印象が感じられないですが、3度目の“If you ever should decide to go away”の“away”が曇っていく部分は「マッカートニーII」的ですね。

 このようにすべてが美しく、神秘的な印象のこの曲は、「マッカートニーII」が現在不人気のアルバムということで、目立たない環境にあるのですが、ポールをよく聴き込んでいる一部ファンの間では人気のある曲です。もちろん、私もです。この曲の他にも、『Only Love Remains』(「プレス・トゥ・プレイ」収録)や『Warm And Beautiful』(「スピード・オブ・サウンド」収録)、『Tomorrow』『Dear Friend』(「ウイングス・ワイルド・ライフ」収録)など、人気のないポールのアルバムには隠れた名曲、名バラードが潜んでいることがあります。そしてポール好きのファン、マニアはそこに注目しているのです。むろんそうした曲には賞賛ばかりではなく、この曲に関しても批評的なファンも多い(不自然、くどい、とか)ことも確かで、そこが「問題作」のアルバムに収録された曲の宿命といえるでしょう。「バンド・オン・ザ・ラン」「フラワーズ・イン・ザ・ダート」辺りは手放しで賞賛されていますが・・・。

  

 シングルカットされたため、この曲はプロモ・クリップが作られました。これがまた「美しい」の一言で、詞作の持つ視覚的な美しさを上手く表現しています。監督は前回の『Coming Up』、前々回の『Goodnight Tonight』と同じく、キース・マクミラン監督。『Coming Up』のように見ていて面白い作品から、この曲のように美しい作品まで手がけるマクミラン監督の手腕はすごい。基本的には、歌詞の再現を行っていて、自宅(夜)から始まって噴水、氷原、庭園、メリーゴーランドとポールがいろんな場所を歩き、最後にまた自宅に戻るという構成になっています。「噴水」→「雨粒」、「氷原」→「白熊」、「メリーゴーランド」→「車」(馬でなく車になっている)というわけです。ポールが自宅で作曲している場面から始まるのですが、どの場面でもポールは不安そうな、寂しそうな顔をしています。内省的な雰囲気がよく出ています。場面が切り替わる部分は編集により、あたかもそれぞれが隣り合わせに位置しているようになっていて、幻想的な歌詞の世界をポールと共に散歩しているような気分です。なぜか、タイトルの「滝」は一切登場しません。

 プロモで特筆すべき点をいくつか。まず、曲はアルバムに収録されたものとは構成が違います。オリジナルにはないキーボードのイントロがついています。これが、「マッカートニーII」セッションで元々ついていたものなのか、それともプロモ用に付け加えたのかは不明。オリジナルでは第1節の後に間奏〜サビという流れがありますが、ここではカットされています(歌詞のない部分は再現のしようがないですし)。また、エンディングも最後の“Please keep to the lake”を待たずにフェイドアウトしてしまいます。次に、第2節は、歌詞の通りに白熊が登場しますが、これは本物(氷原はセットですが)。万が一の時に備えて、撮影時にはハンターが横に待機していたとのこと。万が一がなくてよかったです、ポールはアクシデントに見舞われることの多い人ですから(笑)。そして忘れてはいけないのは、このプロモにはオチがついています。曲が終わった後は、窓越しに、ポールがカーテンを閉め電気を消す様子が見られます。鳥の鳴き声が聴こえる、静かなひとときが始まる、と思いきや・・・。この後は、プロモを見てのお楽しみ(笑)。一言で言えば、「どんがらがっしゃーん」です(笑)。いかにもポールが考えそうなオチです。私の手持ちのブートDVDでは、この「どんがらがっしゃーん」がなぜかカットされています(汗)。なお、ベストを着たこの時のポールは、「マッカートニーII」からの12インチシングル「Temporary Secretary」の裏ジャケットにも使用されています。

  

 アウトテイクとして、当初2枚組だった「マッカートニーII」のアセテート盤からの音源が残っていますが、これはほとんど公式発表されているものと同じです(ピッチが若干高いだけ?)。私の手持ちのブート「The Lost McCartney Album」では、イントロが0.5秒ほど切れて始まっています。なお、当初の曲順では『Check My Machine』の次でした・・・。

 現在この曲は「マッカートニーU」のほかに、ベスト盤「ウイングスパン」でも聴くことができます。このベスト盤に収録した理由についてポールは「友達に勧められたから」と語っていますが、そんなにポールはこの曲に自信がないのでしょうか?いい曲なので、もっと自信持っていいと思いますけど。また、ベスト盤に収録されているヴァージョンは、当時ラジオ局向けに配布された、オリジナルより短いヴァージョン(DJエディット)です。プロモとはまた別の編集で短くしています。1節分(第3節)カットし、エンディングがプロモのようにフェイドアウトしているもので、この曲が好きな人間からするとあっけないです。この曲をくどいと感じる人にとっては適宜なヴァージョンでしょうが(笑)。

 私は、最初聴いた時この曲のよさが分かりませんでした。というのも、「マッカートニーII」を初めて聴いた時、最初の明るい2曲を除いて不気味で今にもお化けが出そうな印象を感じて、とっつきにくかったからです。まぁ私が「バンド・オン・ザ・ラン」に次いで2枚目に聴いたオリジナルアルバムが「マッカートニーII」だったのが悪かったのでしょうが・・・(汗)。普通そんな聴き方する人いませんよね(苦笑)。でも、何度か聴いていくうちに次第にその美しさとせつなさが好きになっていきました。今では指折りのお気に入りで、ポールのバラードでは1,2を争うほどです。ポールが過小評価しているのが気になります。私はもちろん!皆さんにはコンプリートなアルバムヴァージョンを聴いていただきたいのですが、そちらに聴き慣れた後に、第2節からいきなり最後のサビに飛んでしまうDJエディットを聴くと新鮮味を覚えます。ポールにはこの曲、いつかライヴでもやってくれないかなぁ・・・。もし幻の日本公演があったら、この曲も披露してくれたかもしれませんね。

 思えば、これまで紹介した曲はすべてウイングス後期か「マッカートニーII」の曲(1977年〜1980年)ですが、よほど私のお気に入りがそこに固まっているんですね。次にその時代の曲が出てくるかは秘密ですが・・・。あと直接関係ない話なんですけど、今回の曲イラストは我ながら美しく描けたと思います。歌詞に登場するもう1つのキーワード「motor car」(自動車)は私が上手く描けないのでここでは描きませんでしたが・・・。このコラムでは、毎回曲に関したイラストを「オール・ザ・ベスト」のブックレット風に描いていこうかと思っていますが、抽象的な歌詞の曲になるとさすがに難しいなぁ・・・。今のところはなんとか平気ですが。

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「ポール流パンク」。お楽しみに!

  

 どんがらがっしゃーん(笑)。

 (2007.10.13 加筆修正)

    

(左から)当時のシングル盤。プロモでは割愛された滝をモチーフにしています。/アルバム「マッカートニーII」。この曲のロング・ヴァージョンを聴ける唯一のCD。

2枚組ベスト盤「ウイングスパン」。この曲のDJエディットはCD 2「HISTORY」に収録。

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