Jooju Boobu 第39回

(2005.7.21更新)

Heather(2001年)

 今回の「Jooju Boobu」は、2001年のアルバム「ドライヴィング・レイン」に収録された曲『Heather』を語ります。邦題は「愛するヘザー」(時代に逆行して、なくてもよい邦題をつけるなんて・・・)。実はビートルズ時代にデモ録音した同名異曲(未発表)がありますが、その時の「ヘザー」はポールの娘ヘザーのこと。しかしながら、今回語るソロ・ナンバーの方の「ヘザー」は、娘のことではありません。もう皆さんご存知、ポールの“2番目の”奥さん、ヘザー・ミルズのこと。1998年4月に愛妻リンダを失ったポールが見つけた新たな伴侶・ヘザーを歌った曲なのです。このヘザーに関してはまぁいろいろあり、ポールとのその後の展開は言わずもが、なのですが・・・(苦笑)、とにかく今回はそんな曲について語ってゆきます。

 まずは、この曲を語る上で欠かせないヘザー・ミルズについて。私自身、この人については詳しくないので(汗)、今回ヘザーの公式サイトやwikipediaで調べてみました。すると、人並み以上に波乱万丈な人生を過ごしてきたようだ、ということが分かりました。以下に彼女のポールと結婚するまでの人生をざっとまとめてみました。

 ヘザーは1968年・英国生まれ。家庭環境は悪かったようで、9歳の時には母親が家を出て行きました(!)。残された兄弟たちと共に待ち構えていた父親も気の荒い性格で、子供たちに万引きを促すほどだったそうですが(!)、ついには詐欺容疑で逮捕されるに至り、彼女は母親の元に行くことに。これだけでも既に荒んだ暮らしであることが想像できますが、15歳にして今度はよりを戻した母親と暮らしていたロンドンの家を飛び出すことに。その後は一転してモデルとして活躍するのですが(この時後にスキャンダルとなる写真も撮られるのですが・・・)、1993年8月に運命を変える大きな事件が起きます。それが交通事故で、道路を渡っていた時に、猛スピードで走ってきた警察車両と衝突した結果ヘザーは左足を失ってしまいました。「不運を克服することが私の人生を通して永遠のやる気となった」とヘザーは語っていますが、この後片足が義足となった彼女は「ヘザー・ミルズ基金」を通して戦争などで同じように手足を失った人たちへの救済活動を展開していきます。

 そんなヘザーと、ポールが出会ったのは1999年4月のこと。ロンドンで開かれたチャリティ・イベントの表彰式の席上でした。ポールはプレゼンターとして参加しましたが、ヘザーも違う部門のプレゼンターとしてスピーチをしていました。障害者とは思えない動きや、スピーチの内容にいたく感動したポールは5ヶ月後、ヘザー・ミルズ基金に15万ポンド(約2,500万円)を寄付しました。それを機に2人の関係はだんだん接近していったようです。ポールが公にヘザーと付き合っていることを認めたのは2000年3月のこと。前妻リンダが亡くなってそれほど経っていないことや、年齢が26歳も離れていることからファンのみならず世界中で波紋を呼び、話題を集めました。一部メディアなどからはヘザーと、リンダとの間に生まれた子供たちとの不和なども噂されました。しかしポールの意志は固く、2001年7月にプロポーズ、2002年6月11日にアイルランドで結婚式を挙げました。こうして晴れてヘザーはリンダに次ぐポールの奥さんとなったのでした(ちなみにヘザーもこれが2度目の結婚であった)。2003年には2人の間にベアトリスという娘が生まれています。

 以上、ヘザーの話をしてきましたが、この後の展開は後述します。まぁどうなったかは皆さんご存知でしょうが・・・(苦笑)。ここからは実際に今回紹介する『Heather』について語ってゆきます。

 まず、なぜこの曲のタイトルが「Heather」になったかについて。それにはこういうエピソードがあります。ある日、ポールが自宅のピアノで適当なメロディを弾いていると、ヘザーが「何の曲?ビートルズなの?」と尋ねたそうです。ヘザーのビートルズへの無知ぶりを表しているかのようですが(苦笑)、この発言を印象深く感じたポールは、「“Heather”という曲だよ」と伝えたそうです。そして、この時できたメロディを元にしてできたのが、『Heather』だったわけです。いかにも仲のよい夫婦(この時は恋人だったか・・・)の日常会話からできたタイトル・曲といった感じですね。この時から2人の仲のよさを知らしめてくれるエピソードです。なお、歌詞では「Heather」という言葉自体は最後の最後に小声でささやいているだけで、大々的には登場しません。

 曲は、優雅で鮮やかな雰囲気に仕上がっています。やはり一番はメロディのメロディアスさが大きいでしょう。いわゆる節の繰り返しで成り立っているシンプルな内容ですが、いかにもポールらしいポップなメロディが光っています。収録アルバム「ドライヴィング・レイン」は、ポールが当時の流行の最前線を見据えてアメリカン・ロックに傾倒した作品として知られますが、ここではいつものポール節が詰まっています。

 曲構成の上で面白いのが、曲の大半(前半部)がインストになっていること。ヴォーカル(つまり歌詞)は後半にちょっとだけ出てくるだけという、ポールにしては珍しい構成となっています。そのため、初めて聴く時はこの曲がインストだと勘違いするはずです(苦笑)。そんな構成のため、前半部のインストでは、文字通り演奏のみをじっくり楽しむことができます。音作りは華やかですが、意外にも使用されている楽器は少ないです。それはいわゆる「飾り物」の楽器が、プログラミングによるストリングスと、ヴァイオリン(聞き取りにくいですが・・・)しかないことに象徴されています。普段のポールならもっとアレンジを加えてみずみずしいオーケストラ・サウンドになりそうですが、そこまで至らなかったのは、アルバム「ドライヴィング・レイン」がバンド・サウンドのアルバムだからでしょう。ハードなギターサウンドやドラミングがこの時期らしいです。とはいえ、他の収録曲とは違い無機質にならず、音に広がりがあるような感じがするのは、ロック・テイストの曲が多いアルバムで珍しくポップ寄りだからでしょう。

 もう1つ面白いのが、バンド・サウンドを意識して特定のミュージシャンと一緒に録音したアルバムというのに、なぜかここではポールのほぼ単独録音となっている点でしょう!やはり、恋人を題材にした曲だけあって、他人の演奏は許せなかったのか・・・?ここでは、ドラムスとストリングス以外のすべての楽器をポールが演奏しています。一番印象に残るのが、ヴォーカルのメロディラインと同じメロディを弾くピアノでしょう。これは先述のエピソードを思わせますね。アコギのやさしい音色と、エレキギターのハードな演奏との対比も印象的ですが、これもポールの演奏。唯一ポール以外の演奏となったドラムスは、後年ポールのツアーバンドのメンバーとして大活躍するエイブ・ロボリエル・ジュニア。そのため、彼独特の力強いロック魂あふれるドラミングとなっています。中盤ではテンポアップする箇所もあり、普段なら甘くなりそうなポールのラヴソングにメリハリを生んでいます(この辺、アルバムから浮いているように聴こえないのかも・・・)。これがポールの「ヘタウマドラムス」だったらどうなっていたでしょうか・・・。ストリングスはプロデューサーのデヴィッド・カーンによる打ち込みですが、違和感なくすっと入ってゆくアレンジはお見事です。

  

ヘザーとキスをするポール。もはやこんな姿は期待できない・・・。

 後半になってようやく入る歌詞は、久々に「バカげたラヴソング」が再来しています。これもヘザーが大きく影響しているのでしょう。リンダの死を乗り越えられたポールの姿も見られます。短い歌詞ですが、ポールがヘザーのことが大好きなことは十分伝わってきます(笑)。前妻・リンダのことを歌った『The Lovely Linda』(1970年)と比べてみると面白いかもしれません。ポールのヴォーカルも、ヘザーとの幸せな生活に影響されてか余裕の表情で歌われます。この曲ではシャウトこそ登場しませんが、歌につやが戻ってきているのがうれしいですね。前半のインスト部分ではコーラスも入りますが、これはポールに演奏させてもらえなかった(笑)当時のバンドメンバーたちによるもの。美しい歌声はウイングスでのハーモニーも思わせます。

 さて、早速これで書くことがなくなりました(汗)。それでは続いて、先のヘザーとポールとの関係のその後に関して触れてゆきましょう。前妻のリンダが、ウイングス含めポールの音楽活動、そしてポールの人生にとって大きな支えとなったことは周知の通り。それを知っているファンにとって、ヘザーは果たしてポールの生涯の伴侶としてやっていけるのか?と疑問に思う時もあったのではないでしょうか。リアルタイムでリンダの活動を見てきたファンにとっては余計複雑だったのではないでしょうか?まぁ、ポールが愛しているのならそれを尊重すべきでしょうし、ヘザーがポールに創作意欲をわかせるのであればそれはよいこと。と思ってみんなで2人の仲を見守ってきたのですが・・・いやはや。心配が現実のものになってしまいました。

 そう、2人の関係は徐々に険悪になり、2006年に別居状態に(汗)。その後は幸せな結婚生活から一転して離婚に向けて裁判が続き、2008年3月の裁判でポールは慰謝料2,430万ポンド(約47億円!)を払うよう命じられています。2人の間に生まれた娘の処遇も問題となり、法廷では思わずヘザーがカッとなるシーンもあったそうな・・・。ポールも『Riding To Vanity Fair』(2005年)でヘザーに対する怒りをあらわにするなど、徐々にヘザーへの愛を失ってゆきました。やはり、年齢差が激しかったから分かり合えなかったのか?それともリンダの存在感が大きかったのか?どうやら、ヘザーがいろいろ問題発言をしてファンやスタッフとの間に波風を立てていたのが要因らしいですが・・・(ヘザーがファンに対しきつく叱ったこともあったそうです)。多忙ゆえのすれ違いもあったようですし・・・。メディアによるヘザーへのバッシングも相次ぎ、すっかり世間から悪者扱いされることとなったヘザー。ポールもヘザーとの付き合いにうんざりしているようですし、もはやこの曲の出る幕は終わったようです(汗)。そしてポールは、ここに来て初めて「離婚」を経験することとなったのでした・・・。

 こんな経緯があるので、ヘザー消極論者の私ですが、この曲は大好きです(まぁどんなに悪くなっても曲は無罪ですから・・・)。アルバム「ドライヴィング・レイン」では個人的にTOP3に入ります。アルバム自体が似通った雰囲気の曲が多く、退屈してしまうこともあるのですが、この曲はそんな中独自の雰囲気を持っているからです。華やかなインスト、ちょっとだけ出てくる歌詞。昔からそうですが、こういう小粒なバラードタイプの曲にポールの本領が発揮されると思います。ポールらしさを感じるなら、こういう曲を聴くのが一番ですね。無機質な雰囲気のアルバムで大きな華となっています。それにしても、この曲はライヴではついぞ演奏しませんでしたよね。新たな奥さん(当時)の名前を冠した曲だというのに・・・。『Your Loving Flame』で満足したのでしょうか?今となっては永久に「封印」の憂き目となるであろう楽曲なので(汗)、せめて当時演奏してくれたらよかったのに・・・。よい曲だけに残念です。

 さて、次回で第3層は終了します。そんな最後の曲も、ぶっちゃけバラードです(笑)。そのヒントは・・・「カーネーション」。お楽しみに!!

 (2008.12.13 加筆修正)

  

(左)アルバム「ドライヴィング・レイン」。若返ったポールがバンド・メンバーとロック・スタイルで健在ぶりをアピール!

(右)ポールの“2番目の”奥さん、ヘザー・ミルズ。ポールとの関係悪化は残念な結果。今回いろいろ調べてみて、とてもよい活動をしていると見直したのに・・・。

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