Jooju Boobu 第36回

(2005.7.10更新)

Really Love You(1997年)

 今回の「Jooju Boobu」は、少しマニアックかもしれません。今回は、よく「名盤」という声を耳にする1997年のアルバム「フレイミング・パイ」から、こともあろうか最もマイナーな(苦笑)『Really Love You』を語ります。この曲は、後で触れるようにジャム・セッションからできた曲であるため、お世辞にもいわゆる「名曲」とは呼べないものですが、注目すべき点があります。そう、皆さんご存知のように、かつてはビートルズとしてポールと共に活動をしてきたリンゴ・スターの参加です。ジョン・レノンとジョージ・ハリスン亡き今、「存命中のビートルズ」のポールとリンゴ。この曲ができるまでの経緯などを振り返りながら、この2人の友情を見てみましょう。

 まずは今回がこのコラム初登場のアルバム「フレイミング・パイ」に関して。「フレイミング・パイ」は、ポールのソロ・アルバムです。「それは言われなくても分かるよ!」と仰る方がいることでしょう(汗)。しかし、このアルバムはポールがほとんど「ソロ」で作り上げたという意味で、真の「ソロ・アルバム」です。前作・前々作がソロ名義でありながら実質はバンドで作り上げたアルバムだったのとは対照的に、「フレイミング・パイ」はごく少数の友人の参加を除いてはポール自らの手で完成されたからです。かつての「マッカートニー」や「ラム」、「マッカートニーII」と同じスタイルといえば分かりやすいでしょうか。あの「ビートルズ・アンソロジー」プロジェクトの合間を縫うような形でレコーディングされた曲を集めたアルバムは、ビートルズの楽曲を改めて聴いてそのシンプルさに感銘を受けたせいか、アコースティックで素朴なアレンジが目に付く、穏やかな作風となりました(その作風のせいか、よく「ポールが老けた」という論調もありますが・・・)。共同プロデューサーに、ジョージ・ハリスンの紹介で「ビートルズ・アンソロジー」で一緒することとなったジェフ・リンが起用されたのが話題となりましたが、それでもジェフ独特の作風に干渉されず、ポールらしさを保っているのが興味深い点です。このジェフの他には、スティーブ・ミラーと数曲で共演しています(ジェフとは別のセッション)。そして、もう1人の目玉ゲストとして話題になったのが、リンゴ・スターだったのです。

 お次はポールとリンゴの関係について。『Take It Away』の項でも触れていますが、またざっとおさらいしてみましょう。ビートルズ・ファンの方には「釈迦に説法」ですけど・・・(汗)。

 ポールとリンゴの出会いは、ビートルズデビュー前の1960年頃に遡ります。クオリーメン時代から下積みを続けてきたビートルズがハンブルグへ巡業しに行っていた時のことです。ポールはもちろん当時からビートルズのメンバーでしたが、リンゴは当時リヴァプールで有名だった別のバンドのドラマーをしていました。この時から既にビートルズとリンゴは意気投合したようで、ビートルズのデビュー直前にはピート・ベストの代わりにリンゴがビートルズに迎えられるという歴史的瞬間が訪れます。その後のことは周知の通り。ポールとリンゴはビートルズとして'70年まで音楽活動を共に行いました。やがてメンバー間に険悪な空気を残しビートルズは解散しますが、解散直後こそ仲が悪かったものの、「ビートルズを解散させた男」ポールと「元ビートルに一番愛された男」リンゴの仲は徐々に回復してゆきました。その証拠に、1973年以降たびたびポールはリンゴに自作曲を贈っています(『Six O'clock』『Pure Gold』など)。『Let 'Em In』や『Take It Away』もリンゴ向けに書いた曲だったことはファンの間では知られています。また、ジョン・レノンの死後、元ビートル間のわだかまりが解消されてゆく中でお返しにリンゴがポールの作品に参加することも増え、アルバム「タッグ・オブ・ウォー」「パイプス・オブ・ピース」に参加したほか、ポール作の映画「ヤァ!ブロード・ストリート」(1984年)には演奏のみならず俳優としても出演しています。

 このようにビートルズ解散後も、他の元ビートル(ジョンとジョージ)に比べれば格段にポールとの仲の良さをアピールしていたリンゴですが、再びポールと一緒することになったのが、言わずもが「ビートルズ・アンソロジー」プロジェクト(1995年)でした。当然ジョージも一緒で、ビートルズの「新曲」と共に3人の友情をファンが再確認できる一大事件でした。この一連のプロジェクトを経て、ポールの心の中では「またリンゴと共演したい!」という思いが募ってきたといいます(ジョージとの共演はその後実現しませんでしたが、こちらはどうだったのでしょうか・・・)。そこで、「アンソロジー」プロジェクト後に始まった「フレイミング・パイ」セッションにリンゴを招きます。曲目は『Beautiful Night』。1987年に書かれ録音されたもののお蔵入りになっていた曲を、リンゴとの共演のために引っ張り出してきたのです。リンゴはドラムス以外にコーラスでも参加。久々に一緒のセッションをして2人ともその出来に満足しましたが、ポールは今度は「これで終わらせたくない」と思うようになります。やはり一番大切な親友のひとりのリンゴ、1曲だけでは物足りなかったのでしょう。そこで思いついたのが、リンゴと一緒にジャム・セッションを行うこと。そして、そのジャムを録音すること。リンゴもOKを出し、ここにポールの「まだやりたい!」という願いが達成されたのでした。そのジャム・セッションの結果生まれたのが、2曲あります。ひとつはシングル「Young Boy」のカップリング『Looking For You』、そしてもうひとつが、今回紹介する『Really Love You』でした。

 この曲のジャム・セッションは、『Beautiful Night』レコーディングの翌日、1996年5月14日に行われています。まさに勢いでレコーディングしたのでしょう。ポールとリンゴの他に、当時のポールの片腕、ジェフ・リンもギターで参加しています。ポールはもちろんヘフナー・ベース、リンゴはもちろんドラムス。行き当たりばったりのセッションで、最初は本当にジャム状態でしたが、30分ほどもするとだんだんと形になってゆきました。それは、単純な3コードのR&B風ナンバー。ポールのヴォーカルはベースを弾きつつ即興で入れています。先に触れたように、このジャムは実際に録音もされ、ポールとリンゴの大切な思い出はちゃんと形に残されたのでした。

 さて、楽しいセッションが終わりリンゴが帰った後、ポールはこのジャムに手を加えます。ポールはギターとキーボードをオーバーダブ、さらにジェフ・リンによるコーラスが追加されました。そしてミキシングを経て、れっきとした楽曲に完成させてしまいました。そしてアルバムにめでたく収録されるわけですが・・・。完成したトラックを電話越しにリンゴに聴かせた所、リンゴは「こいつは容赦ないね!」と言ったそうです(苦笑)。リンゴにとっては、このジャム・セッションを実際に1曲として完成させ、アルバムに収録するなんて思いもよらなかったのでしょう。そして、作曲者はポールとリンゴの2人でクレジットされましたが、これはビートルズ時代を含めても初めてのこと。ポールとリンゴの共作、「McCartney-Starkey」ナンバーがここに初登場したのです。ちなみに、もう1曲の『Looking For You』はポール単独のクレジットとなっています。

 この曲の構成はシンプルそのもの。Eのコードがしばらく続いた後、ちらっと3コード進行になるというパターンの繰り返しです。まぁ、この辺はジャムからできたという感が強いですね。メロディも崩し歌い風で単調で、荒削りの感も否めませんが、これも元をたどれば仕方ないでしょう。その代わり、ここではグルーヴィーなR&Bスタイルの演奏を堪能できます。淡々ながらもしっかりとリズムをキープするリンゴのドラムスと、重厚なポールのヘフナー・ベースとの相性は抜群。さすが元ビートルだけあって、息がぴったりです。たまに共演するくらいになってしまったとはいえ、長年共に演奏してきただけあります。ジャムでもしっかりとした演奏を聞かせてくれます。やはりポールの曲に「リンゴの音」が入っているとうれしくなるものですねぇ。ジャムならではの生演奏を詰め込んだような空気も伝わってきます。もう1人サポートに回っているジェフのギターも、節と節の間でのフレーズが印象的です。『Looking For You』もそうですが、全体的に、タイトで乾いた音作りになっているのがこのジャム・セッションの特徴と言えるでしょう。それゆえちょっと地味ですが(汗)、シンプルな中に重厚感あふれる演奏です。さっきも書きましたが、キーボードが隠し味として入っています。

 これに対して、ポールのヴォーカルはコントラストを成しています。50歳を過ぎてやや声も衰え気味になってきた面もある「フレイミング・パイ」ですが、ここではそんな声をふりしぼってのシャウト混じりで歌われています。年齢のせいかお腹の底からシャウトとまではいきませんが(ただしこの数年後またお腹の底からシャウトするからポールには驚かされます・・・!)、熱のこもった控えめシャウトが淡々とした演奏にマッチしています。ジャム・セッションらしく、緊張感と共にリラックスした雰囲気も同居していて、エンディングの「I really〜love〜you!」と歌う締めくくり方には余裕も感じさせます。そんな中、第3節で素っ頓狂なファルセットヴォーカルを披露しているのが面白いですね(笑)。この辺はまさに七変化ヴォーカルスタイルであり、真剣なものからユニークなものまで、いろんな表情を楽しめちゃうのです。

 歌詞は、先述のように即興で作られています。そのため、内容はあまり深く凝っておらず、とりあえず韻を踏む努力をしているようです(苦笑)。一応タイトルのように「愛してるよ」と歌いかけるラヴソングになってはいますが、後半かなりぎこちない、支離滅裂な内容になって苦しそうです・・・(汗)。でもよく韻を踏んで歌い続けていると思います。私がやれと言われたら途中で思いつかずに歌が続かなくなりそうですから。なんとなく親友リンゴへのメッセージにも取れるのが微笑ましいです。出だしの“We all need you”からしてそうですし。ジェフが追っかけコーラスを入れているのがいいアクセントになっていますが、ちょっとエフェクトをかけているのがジェフ流でしょうか。つい一緒に歌いたくなってきます。

 といった所で語ることが尽きました(汗)。まぁマニアックナンバーの宿命ですね・・・。ちなみに、この曲はアルバムからのシングルカット「The World Tonight」のカップリングにも収録されています。ただし、アナログ盤では『Used To Be Bad』がB面だったり、CDシングルも『Used To Be Bad』がカップリングのものがあったりと、この曲が収録されていない「The World Tonight」もあります。日本にいたっては・・・(苦笑)。

 さて、発表から8年ほどたった2005年、この曲が突如ダンス・アレンジにリミックスされて再発売されました。言わずもが、このコラムでも何度か登場したリミックス集「ツイン・フリークス」です。リミックスを行ったのは、ポールの'04年ヨーロッパツアーのプレショー用のリミックスを担当したDJ.フリーランス・へルレイザー。アナログ盤とネット配信のみで限定発売されたこのリミックス集の、栄えある1曲目を飾ったのがこの曲でした。このヴァージョンでは、オリジナルからはヴォーカルのみが取り出されていて、そこに演奏が新たに加えられています。ヴォーカルとコーラス(第5節以降は使用されていない)はかなりエフェクトをかけていて、かなり聞こえが違います(現代ぽくなったかも)。のっけからゆがませた第1節のヴォーカルで幕を開けます。オリジナルはR&B風ですが、ここでは完全に機械的なダンスナンバーと化しています。曲のメインを成す小刻みなベースラインや、パワフルなドラミングはいずれもオリジナルとは異なります。ドラムスは、一部を『What's That You're Doin'?』(1982年)から取ってきてマッシュアップさせています。つまり、リンゴの演奏は全く入っていません。これを聴いたリンゴの反応を見てみたいものです。また「こいつは容赦ないね!」と言うかどうか(笑)。ただし、クレジットはそのまま「McCartney-Starkey」となっています。その他、バグパイプのような音が入っていたりタンバリンのソロがあったりとオリジナル以上にノリノリでダンサブルな仕上がりです。最後はスタジオ内の会話で締めくくりますが、これがリンゴとのジャムの時なのか、「ツイン・フリークス」の時なのかは不明です・・・。なお、このリミックスはシングルとしても発売されています(アナログ盤のみ、B面は「ツイン・フリークス」唯一の“新曲”『Lalula』)。

 ポールの名盤と呼ばれ、チャートアクションもよかった「フレイミング・パイ」ですが、実は個人的にはあまり好きな曲がありません(好きな曲がないわけではないんですけど・・・)。どうも穏やかすぎて老けてしまった感じが・・・(汗)。そんな中、この曲は当初から好きだった曲です(だいぶマニアックですが!)。ジャム・セッションゆえに一般的にはあまり評価が芳しくない曲ですが、グルーヴ感でいったらアルバム中随一だと思います。何しろポールとリンゴの共演がうれしいですね。今となっては生きているビートルズはこの2人だけですから。これからもどんどん共演をしてほしいものです。リンゴもポールもその後も新作を次から次へと出して、音楽活動を続けていますし。まだまだ現役の彼らの共演があってもいいじゃないですか!最近はあまりお気に入りでもなくなりましたが・・・(汗)、オリジナルよりも「ツイン・フリークス」ヴァージョンが何気にお気に入りだったりします(苦笑)。ああいうダンサブルなリミックスは個人的に聴いていて楽しいですから。

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「一部のCDシングルでこの曲のA面」。さぁ、何だったでしょうか?(ヒントがこのページに・・・)お楽しみに!

 (2008.11.20 加筆修正)

アルバム「フレイミング・パイ」。アットホームな空気が漂う、ポールの「名盤」。リンゴ・スター、スティーブ・ミラー参加。

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