Jooju Boobu 第3回
(2005.2.27更新)
Coming Up(1980年)
「Jooju Boobu」第3回目の今回は、これまた私のお気に入りのひとつであり、ポールにとって'80年代最初のヒット曲『Coming Up』について語ります。この曲でも、前回の『Goodnight Tonight』同様、ポールが流行の音楽を常に意識し、それを自分なりに消化した曲を作ってきたことがわかります。新たな音作りの冒険をしながらも、見事に「マッカートニー・ミュージック」としてポールらしい曲に完成させてしまうのは、前回見てきたようにポールの得意とする所。そして、見事ヒットに結び付けてしまうのですから、これまたすごい。そんな代表例の1つの『Coming Up』。語ることが大変多く、とても長文になりそうですので覚悟して読んでいってください(笑)。
この曲は、1980年5月に発売された、ポールにとって久々のソロ・アルバム「マッカートニーII」に収録されました。その前月には一足早くシングルリリースもされています。「マッカートニーII」は、ウイングスの活動休止中の1979年夏に、ポールが自宅に引きこもってすべての楽器を単独で演奏・録音した音源が元になったアルバムですから、'79年夏の時点でこの曲は存在していたことになります。それを裏付けるように、'79年11月に始まったウイングスの英国ツアーでは公式リリース前のこの曲が演奏されました(これについては後述します)。本来ならこの曲はウイングスとしてレコーディングされるはずだったのでしょうが(もともとポールは「マッカートニーII」をリリースする気はなかった)、翌'80年1月16日に日本公演のため来日したポールが、例の大麻不法所持のかどで逮捕・強制送還されたためにウイングスの活動が完全に凍結してしまい、結局この曲はポールのソロとして発表となったのでした。恐らく、あの事件さえなければ、ウイングスがちゃんとスタジオ録音したものが公式発表され、「マッカートニーII」収録の方はデモ・テイクとなって未発表のままだったことでしょう。いやぁ、人の運命のみならず曲の運命をも左右してしまう大麻は怖いものですなぁ(苦笑)。
さて、'79年夏の「マッカートニーII」セッション。このひとり気ままなレコーディングで、ポールはウイングスとは違う「何か新しいことをしてみたかった」そうで、先述のように演奏・ヴォーカル・録音を単独で行ってしまいます(一部楽曲に愛妻リンダのコーラスは入ってますが)。マルチプレイヤーとしてのポールが、ここでは発揮されることになりました。この曲に関しても、ギター、ベースはもちろん、キーボードやドラムスもポールが演奏しています(ブラス・セクションはシンセによるもの)。ヴォーカルも、コーラス含めポール、だそうです(コーラスがリンダさんに聴こえなくもないが・・・)。「マッカートニーII」全般に言えますが、ポール単独演奏であること、自宅での録音(いわゆる宅録)であることなどから、お世辞にもサウンドのクオリティでは通常のレコーディング並みとは言えません。単調でグルーヴ感があまり感じられない、デモテープ並みの録音、と言っても差し支えないものなのですが、ここは「元々ポールが発表する気がなかった」「アルバムとして発売するために作ったわけではない」ことを念頭に置けば理解できることでしょう。ルーティン化しつつあったウイングスとは違った形で、思いついたメロディを思いついたままに録音してゆく。音楽の原点といえそうなものがこの自宅引きこもりセッション(苦笑)ではうかがい知れます。
もう1つ、この時のセッションに特徴的なのは、当時世界を席巻していたテクノ・ポップ風の曲がたくさんレコーディングされていること。ちょうど日本のYMOが欧米でもTVなどでたくさん登場し、ポールも当時YMOをたびたびTVで見たといいます(さらにYMOのレコードを好んで聴いていたらしい)。そうしたテクノ・ポップの流行に影響されて、「マッカートニーII」にはリズムを強調しキーボードを多用した、それまでのポールの曲とは別世界のサウンドがあふれています。『Frozen Jap』『Front Parlour』といったインストや、『Temporary Secretary』などに代表されます。また、ヴォーカルも声質を変えたものがたくさん聴かれます。この『Coming Up』も、そうした一連のテクノ・ポップ風の楽曲の1つです。わざと音数を減らしたベースラインや単調なリズム、エコーをかけたようなブラス・セクション。そして、ヴォーカルにもエフェクトがかけられています。普段のポールとは一味違った作風になっています。
「マッカートニーII」は、当時は逮捕事件の話題もあってか、英国1位、米国3位と非常に売れました。もちろん、久々のポールの新譜、しかもソロアルバムということで、話題性は十分だったといえるでしょう。誰もがポールの次のステップに注目していましたから。しかし、内容が内容(苦笑)、現在では「らしくない」ポール全開、ということでファンの間でも不人気のアルバムになっています。それでも、この曲は今でも人気の高いポールナンバーです。もちろんシングルであることも理由の1つですが、この曲が完全テクノ・サウンドではなく、ポールらしさが表れていることが人気の秘訣でしょう。
『Goonight Tonight』の時にも述べましたが、ポールはその時々の流行の音楽を積極的に取り入れています。が、それと同時にポールはいったんそれを自分の「音楽フィルター」に通して自分流に解釈し、ポールらしく消化しているのです。テクノ・ポップの影響を受けても、決して本格的にそれを模倣したりはしないのです。「テクノ・ポップ」ではなく、「テクノ・ポップ風」。ここが重要です。テクノ流のアプローチを取ったアレンジなどもありますが、この曲で聴かれるのは、完全にポールらしいポップのエッセンスです。ポールがテクノをよく理解していないこともその要因の1つかもしれませんね(笑)。同時期にテクノが席巻していた事実や、演奏のチープさを無視してしまえば、単純にメロディを切り取ってみると、そこにはいつものポール節しかありません。「マッカートニーII」の他の曲(テクノ・ポップの影響が見られるもの)も、ポールらしさがキラリと光る瞬間がありますが、特にこの曲におけるポール節の純度はきわめて高いです。この曲では、明るく楽観的なポールらしいポップのエッセンスが、テクノ・ポップの斬新さと融和していて、目新しさを覚える一方で従来のポールファンの心をしっかりつかまえているのです。
歌詞もきわめて楽観的です。ポールといえば楽観的な歌詞が印象的ですが、この曲では未来への希望を歌っています。「よりよい未来が必要なんだね」「花のように咲いてゆく」などと歌われる歌詞には、やがて来る'80年代を迎える世界へのポールからの希望のメッセージとも取ることができます。ポール自身はそこまで意識はしていなかったのでしょうけど。かつて『We Can Work It Out』では「恋はうまくゆく」と歌いかけ、『With A Little Luck』では「ちょっとした運があれば」と歌ったポールが、今度はさらに視野を広げて、誰もに訪れる未来は「花のように咲いてゆくんだ」と歌いかける・・・そう考えると、ポールの詞作が徐々に個人的な歌から社会的な歌に広がりを見せていった・・・というのは深読みのしすぎでしょうか。この推測では、'90年代の『Hope Of Deliverance』はまさにその延長線上・・・というわけですね。とにかく、希望感あふれる、ポールらしい楽観的な歌詞は、楽しいメロディにのせて思わずハッピーになってしまいますね。
この曲が主夫時代のジョン・レノンに音楽活動再開を促したことは有名な話ですが、活動を再開した矢先にジョンが射殺されたことを考えると、未来への希望を歌ったこの曲がジョンを「殺して」しまった風に取れてしまい、あまりにも皮肉的です。もっとも、ジョンの復帰には息子ショーンの「Yellow Submarine発言」も寄与しているようなので、一概に『Coming Up』のせいとはいえませんが(笑)。
さて、ここでちょっとマニアックなお話を。実は、現在「マッカートニーII」などで聴けるあのスタジオ・ヴァージョン。実は、編集で5分半から4分弱に短くされているものなのです!「マッカートニーII」は元々発表する意図がなく、気ままな録音だったため、1曲の演奏時間が長いものが結構あります。公式発表することに決まった際、当初ポールは2枚組での発売を検討していたほどだったのですが、結局1枚組の現行の形に収まることとなり、5曲はオミットされてしまいました。さらに、収録時間の都合上、4曲(シングルB面の『Check My Machine』含めると5曲)は一部を削って短く編集して収録することとなりました。この『Coming Up』も、実はそうした理由で短くされています。
ではオリジナルの完全版はどんな風かと言いますと、まず第3節の後にもう1節分(+間奏)があります。編集ポイントは公式発表版の2分25秒です。この幻の第4節、実は公式版の終盤に登場する“You want a better kind of future・・・”のくだりを、崩し歌いでない普通のメロディで歌っています。公式発表版で聴かれるあれは、実はリフレインだった、というわけです。次に、エンディングの繰り返しも、完全版は異様に長いものでした。編集ポイントは公式版の3分30秒(ちょっと中途半端な箇所ですが)。この間に、本来は繰り返しが続いているのですが、この部分はサックスのアドリブなど結構ぐちゃぐちゃした演奏になっています。さらに、この繰り返しの後、なんと!第1節の“You want a love to last forever・・・”が再登場しています!公式版に慣れているとこれだけでも驚きですが、なんとウイングスのライヴ・ヴァージョン(後述)で登場する“Pretty baby,I say”のくだりが出てくるのは感動です。ライヴでのアドリブではなく、最初から歌われていたということになります。他にも、間奏の一部がカットされていたり、公式版とはミックスが異なっています。現在はもちろん未発表でブート(「The Lost McCartney Album」などに収録)でしか聴けない完全版ですが、いろいろな発見があってこれは結構感動しますよ。ただし、編集して公式発表したのには納得します。ぐちゃぐちゃした演奏の箇所もありますし、5分半だとちょっとダラダラして、しつこい気もしますので。ちなみに、公式版「マッカートニーII」ではアルバム冒頭に収録されていますが、当初の曲順(2枚組時)には2枚目の最後に位置していました。当初「マッカートニーII」の冒頭を飾るのは・・・実は『Front Parlour』という意外さです。
さらにこの曲の人気を上げているのは、プロモ・クリップです。ポール・ファンなら誰も知っている、嫌いな人は恐らくいないだろうと言われる、一番人気のポールのプロモ・クリップです。これは、日本の逮捕事件後に、引きこもり中に制作されました。監督はキース・マクミラン。彼は'70年代後半以降ポールのプロモをたびたび担当し、前回紹介した『Goodnight Tonight』や、『Ebony And Ivory』『Pipes Of Peace』など有名なプロモも手がけています。そんなマクミランの手腕が多大に貢献したのがこの『Coming Up』のプロモです。「The Plastic Macs」(ジョン&ヨーコの「The Plastic Ono Band」を意識していると思われるが、「レインコート」の意味)というバンドの演奏シーンが登場しますが、すべての楽器を単独で演奏したことに引っ掛けて、バンドのメンバーは10人のポールと2人のリンダによる構成となっています。同時に10人もポールがいるのは、当時の最新技術の賜物。まだ映像技術もさほど発達していなく、プロモも黎明期であった頃ですから、マクミランの作業は神業と言うしかありません。脱帽です。しかも、各演奏者は不自然さなく曲にのせて演奏していますし、ポールが別のポールと目配せするシーンもあり、ポールの演技にもこれまた脱帽です。全10人(+リンダ2人)を録るのに2日かかったそうですから・・・。
面白いのは、10人のポールがそれぞれいろんな人物に扮していることです。舞台のセンター手前で普通ポールが歌い、その後ろで各演奏者がいる格好なのですが(上写真参照)、正面から見て左手にはデヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)とポールお気に入りのバディ・ホリー(シャドウズのハンク・マーヴィンという説もあり)。後に何度かポールと共演することとなるギルモア扮するポールが、日本語で「プラスチック・マックス」と書かれたシャツを着ているのは、明らかに逮捕事件が影響しているはず(苦笑)。真後ろには4人のブラス奏者がいますが、1人はアンディ・マッケイ(ロキシー・ミュージック)のようです。また、このブラス奏者たちは演奏中前後に移動しているのですが、1人だけが他の3人とタイミングがずれているのが大変面白いです(笑)。ブラス奏者の奥には、ドラマーがいます(これまた面白い顔をして演奏している)。右手にはリンダさん扮する2人(男性&女性)がいて、その後ろにロン・メイル(スパークス)と、ビートルズ時代のポール自身がいます。15年くらい前の自分自身に扮するポールもすごいです(顔が本当にビートルズ時代)。ロン・メイルはつまらなそうにキーボードを弾いていますが(笑)。ただでさえ、10人のポールが一堂に会して演奏しているのが面白いのに、それぞれが扮したキャラクターの表情や仕草が、曲の雰囲気にあいまって滑稽さを生み出しています。見ていて楽しくなる、そんなプロモ・クリップです。一番人気なのもよく分かります。このページにも、一部を抜粋してみましたのでその面白さを感じ取ってください。
この曲は、アルバム収録前に先行シングルとして発売され、英国で2位・米国で1位を記録しました。逮捕事件もあったかもしれませんが、それ以上に曲のよさが伝わったのでしょう。'80年代最初のシングルとして、幸先よい滑り出しとなりました。シングルのB面にはウイングスの未発表曲『Lunch Box/Odd Sox』と、ウイングスによる『Coming Up』のライヴ・ヴァージョンが収録されました。ライヴ・ヴァージョンは1979年12月17日の英国ツアー最終日・グラスゴー公演からの音源を一部カットして収録したもの。前回の『Goodnight Tonight』の際触れたライヴ盤ブート「LAST FLIGHT」の音源と同じです。ウイングスのライヴ・ヴァージョンには、テクノ・ポップさは微塵も感じられません。当時のラインアップらしいロック・テイストあふれる、若干速い演奏で、ブラス・セクションも本物による演奏です。ポールのヴォーカルも、原曲のような滑稽な雰囲気はなく、シャウトを交えたかっこいいものとなっています。ライヴでの熱気が伝わってきます。なお、歌詞・構成は若干異なります。スタジオ・ヴァージョンよりも、こちらのライヴ・ヴァージョンの方が好きという人が多いのにも納得です。米国では、「リスナーは生のポールを聴きたいんだ」というキャピトル・レコードの(勝手な)見解により、ライヴ・ヴァージョンをA面にして発売、そちらがヒットしています。「ポール・マッカートニー」のシングルなのに、「ウイングス」の演奏をA面にするなんて、ずいぶん強引ですね・・・。ポール自身も、この差し替えには反対したそうですが、ライヴ版の方が好成績だったのは皮肉の限りです。まぁ、リスナーからしてみるとチープなデモ録音より、前年に全英を熱狂させたホットなライヴ音源の方がいいでしょうけど・・・。
なお、このグラスゴー公演のライヴ音源は、編集のされ方により、ブートも含めるとこれだけで3つのヴァージョンがあります。1つは、ブート「LAST FLIGHT」収録の完全版。5分近い演奏となっています。演奏開始前のMCで「今まで公式発表したことのない曲をやります」とポールが発言しているのが印象的。この時はまだあのヒット曲も、未発表だったんですね。コンサート終盤に向かうタイミングに演奏され、次曲『Goodnight Tonight』と共に大いに盛り上がりました。これをシングルB面(米国ではA面)に収録する際には、途中の1節分(原曲の第3節)と曲前のMCをカットしました。これが2つめのヴァージョン。演奏後のMCがそのまま残されていて、観客が「ポール・マッカートニー!」コールを続け、ポールがそれに呼応する微笑ましい1こまを聴くことができます。ちなみに、これは公式では未CD化です。現在公式で唯一CD化されているのは、そこから演奏後のMCをカットした3つめのヴァージョン。「オール・ザ・ベスト」「ウイングスパン」の2種類のベスト盤に収録されています・・・ただし米国だけ!(歌詞はなぜかスタジオ・ヴァージョンのものが掲載されている)英国・日本などではスタジオ・ヴァージョンが収録されています。ここでも、シングル差し替え以来のキャピトル・レコードの意地が見えてきます(苦笑)。しかし、この意地のおかげで、英日では未CD化のライヴ・ヴァージョンが、手軽に聴くことができるようになっています。スタジオ・ヴァージョンよりも定評の高い、ライヴ・ヴァージョンは必聴です!ですので皆さん、「オール・ザ・ベスト」はぜひ米国版を!上記のベスト盤でしか聴くことのできないレア・トラックです。演奏後のMCがなくなっているのは残念ですが・・・。ポール・マッカートニー、ダダンダンダンダン!(笑)
さて、ウイングスでの演奏後も、ポールはたびたびこの曲をライヴで演奏してきています。そのため、ライヴ・ヴァージョンは公式発表されているものだけでもかなりの数になります。'79年ウイングスの音源は、先のシングルに収録されましたが、もう1つ、ウイングスの演奏が公式発表されています。言わずもが、ウイングス最後のコンサートとなった「カンボジア難民救済コンサート」(1979年12月29日)です。あのロケストラの再演が行われた華々しいステージですが、この時の演奏が同コンサートを収録したオムニバス盤に収録されました。未CD化なのが残念ですが、グラスゴー公演とは違いノーカットでの収録なので要注目。ちなみに、先述のブート「LAST FLIGHT」にボーナス・トラックで収録されています。
ポールが久々にコンサート活動を再開した'89〜'90年のワールド・ツアー(通称ゲット・バック・ツアー)でも取り上げられましたが、この時にはクリス・ウィットンのドラムに打ち込みドラムが絡まったディスコ風のアレンジで演奏されました。イントロ・間奏が極めて斬新ですが、同時期のポールの『Ou Est Le Soleil?』『Good Sign』などハウス風の楽曲に通じます。オリジナルよりもテクノに近いかも(笑)。結構、このアレンジも様になっていると思います。ちなみに第2節のヴォーカルをヘイミッシュ・スチュワートが取っています。このツアーでの演奏は、ライヴ盤「Tripping The Live Fantastic!」(東京公演!)と、オムニバス盤「Knebworth The Album」(ネブワースでのチャリティ・コンサートでの演奏、入手困難)に収録されています。'93年の時も、ドラマーを交替の上、似たアレンジで取り上げていますが、こちらは公式発表されていません。'02〜'03年のツアーでも取り上げられ、若手中心のバンドによるかっこいい演奏に生まれ変わりました。こちらはライヴ盤「バック・イン・ザ・US」「バック・イン・ザ・ワールド」に収録。最近も、サウンドチェックなどで演奏しているようです。元々シンプルな構成な曲だけに、時期によって全く異なるアレンジで演奏されていて、そのどれもがはまっているのが面白いですね。今でもポールが演奏する数少ないウイングス・ソロの楽曲となっています。思えば、'03年まですべてのツアーで演奏されていますね。
もう1つ最後に、マニアックなヴァージョンを紹介しておきましょう。知る人ぞ知る、アルバム「ツイン・フリークス」のヴァージョンです。「ツイン・フリークス」は、'04年のポールの欧州ツアーのプレショー用にフリーランス・ヘルレイザーというDJが制作したポールの楽曲のリミックス・ヴァージョンを集めたリミックス集で、'05年にアナログ盤及びPC配信のみで発売されました。このリミックス集では、ポールが過去に発表した(割かしマニアックな)楽曲の2〜3曲の断片が、1つの曲としてうまく編集されているのに脱帽してしまうのですが、中でもこの『Coming Up』のリミックスは圧巻です!なんと、バックが『Morse Moose And The Grey Goose』(1978年、アルバム「ロンドン・タウン」収録)そのまんまなのです!出だしはまんま『Morse Moose〜』なのですが、そこに『Coming Up』のヴォーカル&コーラスが乗っかるのです!これは、一度聴いてもらうしかありません。本当に面白いです!入手困難なのが残念ですが・・・。YouTubeには、先述の『Coming Up』のプロモに、このヴァージョンをかぶせてうまく編集したものがアップされていますが、これがまた上手くはまっていて笑えます。
他にも、英日盤「ウイングスパン」収録のスタジオ・ヴァージョンが、未発表の完全版と同じミックス(曲の長さは公式発表版と同じ)だったりと、『Coming Up』はヴァージョン違いの宝庫です。しかも、リミックスなどで意図的に増産しているわけではなく、ライヴ・ヴァージョン、微妙なヴァージョン違いなど多種多様なのに驚きです。それほど、長い間愛されている証しでしょう。
私はこの曲のどちらのヴァージョンも好きですが、選ぶとしたらライヴ・ヴァージョンの方が好きです。アップテンポでダンサブルになっている点、ポールのアドリブヴォーカルがたくさん聴ける点、そして末期ウイングスのラインアップが好きだから、など理由はいろいろあります。一番好きな部分は(公式発表版で)3度目の間奏。ちょっとしたドラムソロにのせてポールが観客に手拍子を促す部分です。ビームのようなキーボードの音が面白く、ここを毎回楽しみに聴いています(笑)。スタジオ・ヴァージョンでは、これまた3度目の間奏で、素っ頓狂な声で「カミングアップ、カミンア〜ァップ」と歌う部分(「ウイングスパン」ではリミックスがされていてこの部分のビートが非常に強調されている)とか、"I feel it in my bones"の次の「イェ、イェ、イェヘイ〜」とか、声質を変えたポールのヴォーカルが好きです。もちろん、プロモ・クリップの印象も強烈です。あのプロモでは何気に後ろのドラマーの表情がおかしくて仕方ありません(笑)。あとは、バディ・ホリー辺りでしょうか・・・。スタジオ、ライヴ両ヴァージョン共にそれぞれのよさがあって、しかも両方とも未発表の完全版があって(苦笑)、なかなかどちらか選びづらいです。「ツイン・フリークス」ヴァージョンも、これまたお気に入り。『Morse Moose〜』が大好きな「ロンドン・タウン」収録というのも大きいです。あれを聴いて以来、『Morse Moose〜』を聴くと反射的に“You want a love〜♪”と歌いたくなってきます(笑)。
そういえば、「Jooju Boobu」はこれまで『With A Little Luck』『Goodnight Tonight』、そして今回の『Coming Up』を紹介していますが、よく考えたらこれは「オール・ザ・ベスト」米国版の曲順を遡っています。このコーナーでは私のお気に入りの曲から紹介しているため、これは全くの偶然であり、逆説的に言えば「オール・ザ・ベスト」米国版のこの区間は私のお気に入りが密集していると言えます。うち最初の2曲は同ベスト盤の米国版以外には未収録ですが、私が米国版をやたらと勧めるのはそのせいもあるかもしれません。ちなみに、次回の「Jooju Boobu」で『Uncle Albert/Admiral Halsey』が紹介される保障はありません(笑)。それにしても、今回は書くことが多くて大変でした。疲れた・・・(苦笑)。
さて次回紹介する曲のヒントですが、「クマが登場」。お楽しみに!
(2007.10.08 加筆修正)
(左から)当時のシングル盤。A・B面差し替えはキャピトル・レコードの独断でしたが、皮肉的に成功してしまいました。
アルバム「マッカートニーII」。テクノ・ポップを取り入れた異色の問題作。/スタジオ・ヴァージョンの完全版を収録したブート「The Lost McCartney Album」。
ベスト盤「オール・ザ・ベスト」米国版。ライヴ・ヴァージョンを収録。現在公式ではこれと「ウイングスパン」米国版でしかCD化されていません!