Jooju Boobu 第23回

(2005.5.26更新)

Check My Machine(1980年)

 今回の「Jooju Boobu」は、恐らく現時点においてポール史上で一番「奇妙」な曲であろう、『Check My Machine』を語ります。1980年のシングル「Waterfalls」のB面のみに収録されていた曲で、アルバム「マッカートニーII」がCD化された際にボーナス・トラックに収録される前はシングルでしか聴くことのできない音源でした。そのため、ただでさえ世間一般に知られない曲なのですが、この曲にはさらにマニアックである理由があります。実は、この曲は完全に「お遊び」で作られた曲なのです。世界に類を見ない天才メロディ・メイカー、ポール・マッカートニーの、知られざる遊び心が堪能できるこの曲を、今回は取り上げることとします。非常にマニアックなお話になりますので、その点はご了承ください(苦笑)。

 この曲が発表されたのは1980年のことですが、録音されたのは1979年夏のこと。前回ご紹介した『Temporary Secretary』と同じく、結果的に1980年春に発表されることとなったソロ・アルバム「マッカートニーII」の収録曲と同じセッションで取り上げられました。(散々触れていますが)全曲がポールの自宅スタジオで、しかもすべての楽器をポールが担当したことで知られるこの「マッカートニーII」セッションでは、アルバムに収録された11曲の他に、8曲が録音されています。1曲は先行発売されたクリスマス・シングル『Wonderful Christmastime』で、この曲はアルバム収録候補から早くも脱落しています。残る7曲のうち、『All You Horseriders』『Blue Sway』『Mr.H Atom』『You Know I'll Get You Baby』『Bogey Wobble』の5曲は未発表に終わりましたが、同時期のシングルB面でかろうじて陽の目を浴びたのが、『Secret Friend』と、今回紹介する『Check My Machine』でした。この曲は、アルバムからのシングルカット「Waterfalls」のB面でしたが、ポール屈指の美しいバラード作品である『Waterfalls』のB面が、(後述するように)ポールのお遊び感覚が最大限に炸裂したこの曲という辺りにマッカートニー・ミュージックの幅広さを感じるというか、なんだかものすごいですな。まるでビートルズのラスト・シングル「Let It Be」のような取り合わせです。

 「マッカートニーII」では、(これも前回含め散々触れていますが)ポールは当時の流行の最前線だったテクノ・ポップに果敢に挑戦すべく、シンセを導入した無機質で機械的な音作りや、ヴォーカルへの大々的なエフェクト処理を手がけました。それが結果的にポールの「音楽フィルター」が原因でまんまテクノ・ポップにはならず、逆にポールらしさを随所に垣間見れるポール独自の作風に仕上がったことと、ポールの一人芝居がアルバムを「よくできたデモ・テープ」的なチープな音作りにしてしまい、アルバムがテクノ・ポップもどきの作品になったことは、前回詳しくお話したのでここではもう触れません。(そんな話したっけ?という方は『Temporary Secretary』のページ参照!)こうした作風は、シンセを使用した『Temporary Secretary』『Darkroom』や、『Front Parlour』『Frozen Jap』といったインストナンバーに顕著ですが、果たして『Check My Machine』はどうなのか・・・といえば。もちろん本格派テクノ・ポップではありません。ではこれはテクノ・ポップもどきかといえば・・・実はそうとも言えません。

 では何かと言われると・・・ずばり「何でもあり」の様相を見せています。答えになっていないかもしれませんが(汗)、私が聴いた限りでは「何でもあり」です。「何でもあり」というのは、一言で言い換えれば、いろんなジャンルの音楽がめちゃくちゃに混ざり合っているということ。追い追いフォローしますが、ポールが作ったこの変てこな曲は、テクノを通り越して異様なムードを醸し出しているのです。そしてなぜこの曲は他の曲と違いそんなことになっているかと言えば・・冒頭でも述べたとおり、この曲は完全な「お遊び」から生まれた楽曲だからです。

 「マッカートニーII」の収録曲は、基本的には自宅スタジオでのセッション中に行き当たりばったりに作っていった曲が収録されていますが、この曲は輪をかけて行き当たりばったりだったと思われます。というのもこの曲は、セッションの最初に録音機械のテスト用に即興的に作られたものではないか、と推測されるからです。仕事とプライベートを分ける理由で、当時は自宅に録音機材を持っていなかったポールは、この引きこもり単独セッションにあたって録音機材を人から借りるのですが、恐らくこの曲は、機材を自宅に持ち帰った後、具体的なレコーディングを始める前に演奏を録音しながらその場で作り上げていったのでは?と考えられます。まさに、タイトル「Check My Machine」がそれを裏付けています。また、この曲が単純なコード進行で、サビを繰り返すだけで単調に展開する点も、即興で作られたことをうかがわせます。新たに出会った機材とご対面した喜びのまま、ドラムを叩きながら歌を入れ、録音状況を確認しながら今度はそこにシンセなんかを加えていく・・・というポールの行動が目に浮かぶかのようです。本腰を入れるのはその先の話で、この時は曲を作る・・・というより、その下準備の段階だったわけですが、ちょうどポールの中で「何かやりたい!」という気分がもたげてきた頃合いだったでしょうから、ついでに思いきり遊んでみました、という経緯なんでしょうね。そして、そんなことをしているうちに、ポールは自身史上最強に奇妙な楽曲を生み出してしまったわけです。以上の経緯を考えると、本来であればレコーディングをしていくうちに下手すれば「消去」されかねない録音が、シングルB面で発表され、現在はCDで容易に聴けるほどになって、後世まで聴き継がれてゆく・・・ということで、これは非常にものすごいことなのです。

 曲構成は、先述のようにサビ(タイトルフレーズ)を繰り返すだけという単調なもの。それが公式発表版では延々と6分近く続きます(実はこの後驚愕の事実が出てきますが・・・)。れっきとした曲というよりジャム・セッションに近い雰囲気です。歌詞も、そのほとんどがタイトル「Check my machine」を繰り返すだけで、残りもアドリブで歌われていて、内容的には全く意味がありません。[ちなみに、アナログ盤では歌詞の表記が一切なく、ボーナス・トラック収録時もアドリブ部分の多くが記載されていないのですが、これはポールが何を歌ったのか忘れてしまったためなのか、ディクテイターが聞き取れなかっただけなのかは不明です。]しかし、ただ単調なだけでなく、後半にかけては歌い回しを変化させているのがちょっとした聴き所です。

 そして、強烈なのがポールのメイン・ヴォーカルです。これが、普段のポールからは想像がつかないような変てこな声なのです!恐らく、元からファルセット調で歌っているのでしょうが、さらにエコーなどのエフェクトがかかっていて、さらに変てこぶりに磨きがかかった形。ポールがファルセット・スタイルで歌うスタイルは他の時代でも散見されますが、この曲では明らかにお遊びでふざけているとしか思えません(笑)。そんな変てこボイスで後半はシャウトまで披露するのですから・・・!恐らく、ポール史上で一番変てこな声を出しているのではないでしょうか?どんなものかは、これはもう一度聴いていただくのをお勧めします。思わず笑ってしまうと思います。

 さらに、この曲は出だしが強烈です!最初は、さっきの変てこファルセットとは違う2人の男性の声が聴こえます。言わずもが2人ともポールの自演なのですが、「ジョージ」と「テリー」が挨拶している設定のようです。それに続いて機械のような声が応答するように「ウーイ」と言い、サッカーの実況中継みたいなアナウンスが「Go,Go,Go!」とまくし立て、曲が始まる・・・という構成です。さらに歌が入る前に変な声で“Sticks and stones may break my bones/But names will never hurt me”という台詞が入ります。訳すと「棒切れや石コロに骨折られても/悪口なんかにゃ傷つかない」という意味不明な内容。曲のリズムに絶妙にマッチしているこの台詞ですが、実はこれにも元ネタがあり、アメリカのTVアニメ「The Flintstones(原始家族フリントストーン)」の一台詞らしいのです・・・!どうも、アニメでバーニー・ラブルというキャラクター(声:メル・ブランク)の台詞を、テープ速度やエフェクトをかけてそのまま収録してしまったらしいです。いろんな所から発想を得たり引用したりするポールですが、いやぁ恐れ入ります・・・。以上、ここまでの約15秒の出だしの流れが、強烈すぎます。これもぜひ曲を聴いて実感していただくのをお勧めしますが、ポールがとことん遊んでいるなぁ〜と感じさせられます。ちなみに、エンディングも(イントロほどではないですが)面白い終わり方で、ここでも2人の男性(?)による会話が入っています(もちろん双方ともポール)。1人はメイン・ヴォーカルと同じ声、もう1人は冒頭の挨拶に似た声ですが、これが何を話しているのかよく聞き取れません(汗)。ここでも、かなりのエフェクトがかけられています。そのバックで続いている歌が、変なスキャット(?)が入ってくるのも強烈ですが(笑)。

 ヴォーカル以上に異様なのがリズムとサウンドです。これはもう一概にテクノともテクノ風とも言えるレベルではありません。シンセと東洋音楽を混ぜたような不気味な世界を醸し出す『Darkroom』よりさえも異様です。まずリズムですが、前回の『Temporary Secretary』と同じくポールの生ドラムが使用されています。ここでは、かなり単調なドラムパターンとなっていて、その辺はテクノを意識したのでしょう。ただ、ポールの生ドラムではテクノぽくは聴こえませんが(苦笑)。また、リズムがどことなくレゲエっぽくもあり、そこが面白い点です。途中で、機械を動かすような衝撃音が入っていますが、これはシンセによるものでしょう。その上に、ベースとシンセが重ねられています。ギターはなぜかバンジョー風の音になっており、微妙にカントリーも混じっています(シンセによるものかポールの生演奏かは不明)。シンセはテクノを意識して無機質な音作りなのですが、これまた普通のテクノとは違う音です。なんてたって、管楽器のような音が奏でるメロディが、日本のお囃子みたいになっているのですから・・・(笑)。途中ビートのなくなる箇所なんか、音頭を踊りたくなるような雰囲気です。この曲も、『Temporary〜』と同じくシンセは意外にも最低限しか使用されていません。ここでも本場テクノのような作りこみにはしなかった(できなかった)ポールでした。ここまで語っただけで、「テクノ」「レゲエ」「カントリー」「お囃子」と、単なるテクノもどきでなく、いろんな要素が加わっていることが分かります(人それぞれ違うとは思いますが・・・)。混沌とした奇妙な雰囲気は、どのジャンルにも形容しがたい独特のリズムやサウンドに影響を受けていることは確かでしょう。元々お遊びだったにしても、ここまで異様な世界を作り出してしまったのは、ポールの創作意欲の表れでしょう!

 さて、ここで1つマニアックな話を。『Coming Up』の時にも触れましたが、「マッカートニーII」は元々2枚組で発売される予定で曲順もいったんは決まっていたのですが、結局は曲数を11曲に絞って1枚組で発表されるに至りました。当初の2枚組ヴァージョンは、ポールがテスト・プレスのため制作したアセテート盤がブート(「The Lost McCartney Album」など)で出回っていますが、それを聴くと数曲は公式発表される際に一部を編集して短くした上で発表されたことが分かります。そして、その2枚組ヴァージョンでは、この曲の未発表ロング・ヴァージョンが収録されているのです!(ちなみに2枚目B面の1曲目でした)そして、その演奏時間ときたら、8分半以上にも及びます・・・!

 公式発表の際に編集で演奏時間を短くした曲は、他に『Coming Up』や『Darkroom』なんかもそうですが、この曲が一番大胆に編集されています。編集ポイントを調べるだけでも、実に8箇所に及ぶほどです(当然編集ポイントも一番多い)。以下、曲の流れに沿ってその8箇所を見てゆきましょう(編集ポイントの演奏時間は公式発表版のものを記載)。まず出だし(〜0'06")ですが、これは逆に公式発表する際に新たに付け加えられています。公式発表版は先述したとおりの流れなのですが、ロング・ヴァージョンではいきなり“Go,Go,Go!”から始まり、台詞につながります。続いて登場するのが、0'56"の箇所。ここでは、「パラッ、パッパッ・・・」がちょっとだけ長くなっています。次は最初のアドリブが出る1'19"ですが、ここには実はもう1つアドリブを歌う箇所があって、それとサビ1回分が公式発表版では根こそぎ削られてしまっています。なので、実際には「マママママー」の次は“I had a woman〜”といかないわけです(カットされたアドリブも同じことを歌っているのですが・・・)。その次が少し先に進んで3'13"で、タイトルコールの繰り返しがかなり削られています(8回分)。カットされた箇所では、変な声でシャウトするのが痛快なのと、いったんブレイクを挟むのが特徴です(一部「パパラ」というアドリブになります)。さらに、目いっぱいポールがシャウトした後の4'01"も、実はもう1回ブレイクが登場するものの、カットされています。その次のサビが終わった4'22"でもタイトルの繰り返しが6回分カットされています。その後も、またブレイクがカットされている箇所つまり4'50"があり、ここでは「パラッ、パッパッ・・・」がより変な声になって復帰しています(笑)。

 最後にエンディング(5'13"〜)ですが、ここが公式発表時に一工夫されていることが分かります。公式発表版では演奏をバックに2人の男の台詞がかぶさりフェードアウトする構成ですが、アウトテイクでは台詞がかぶさりません。なので、後ろでポールがどんなアドリブを発していたかクリアに聴くことができます。「パラッ、パッパッ・・・」を詰まりながら歌っているのが確認できます(笑)。そして、演奏はフェードアウトせずしっかりと終了するのがロング・ヴァージョン。このお遊び録音の結末を知ることができます。さらにおまけとして、シンセによる即興演奏があるのですが、そのバックで登場するのが、さっきはオミットされていた台詞です。実際は曲の終了後にあったものを、公式発表の際にフェードアウトするエンディングにくっつけた、というのが正解です。

 ・・・いかがだったでしょうか?まぁ、この曲を熱心に聴いている方は少数派でしょうから、そう言われても分からない方が大勢でしょう。いやむしろ、長くなるとますます退屈すると思っている方が多いかもしれません(苦笑)。こうして見てみると、かなり編集を加えて短くしていることが分かります。そこまでして、ポールは公式発表したかったのでしょうか・・・?ちなみに、このロング・ヴァージョンはラフ・ミックスのためかなりバンジョーの音が大きく入っており、その点も聴き所です。

 この曲は、「お遊び」の要素が非常に強い、曲ともいえないような曲です。そのため、単調な演奏とヴォーカルが6分も続くこの曲を退屈に思い、好まない人は多いです。しかしその反対に、普段のポールからは想像できないようなこの曲の魅力にはまっている、マニアックな人が少数ながらいることも確かです(むろん、私もその一人です)。ポールの魅力は、一般的に知られているようにポップやバラード、ロックなどで天才的なメロディを紡ぎ名曲を生み出す所にあるのは当然ですが、この曲のように肩を張らずに気軽に遊びながらレコーディングした、いわゆる「お遊び」もまた、彼の魅力ではないでしょうか。隙のない完璧な名曲だけでなく、こういうとてつもなく奇妙な曲まで作ってしまう。それがポールの本当のすごさなのです!もちろん、それを発表してしまうもすごいです。ですから、ポールの天才ぶりを知るには、「タッグ・オブ・ウォー」や「バンド・オン・ザ・ラン」といった名盤はもちろんのこと、「マッカートニーII」も聴かねばならない・・・と言えましょう(笑)。『Hey Jude』や『Let It Be』や『Band On The Run』を作った人が、こんな曲も作って発表する・・・ポールの音楽性の幅広さに改めて脱帽です。一つの型に囚われないポールの方針の賜物ですね。

 私は、初めてこの曲を聴いた時はぶったまげました。「マッカートニーII」自体、夜に聴くとお化けでも出るんじゃないかと思ったくらい不気味に聴こえましたが、やはり一番この曲には驚かされました。以来、私はこの曲のマニアックなファンになっています(苦笑)。私が一番好きなポールの曲は『With A Little Luck』とか『Only Love Remains』とか『Tough On A Tightrope』とかですが、この曲は別の意味(「壊れている」という観点)で一番好きな曲ですね(笑)。『Darkroom』はその子分的存在と言えるかもしれません。皆さんはきっと飛ばし聴きすることが多いと思いますが(汗)、私はこの曲を並以上の頻度で聴いている気がします。そのおかげで、曲の構成やドラミングのパターンまで覚えてしまっています(アウトテイクの方はまだ覚え切れていませんが・・・)。特に、出だし15秒がもう面白くて仕方ありませんね。アルバムを聴く際も、その瞬間が来るのが楽しみで仕方ありません。個人的には、一夜限りでいいからポールにはこの曲をコンサートのオープニングで演奏してくれたら面白いなぁと(苦笑)。 

 現在、この曲は「マッカートニーII」のボーナス・トラックで聴くことができます。皆さんもぜひ、ポールが最大限に「壊れた」この曲を一度聴いてみてください!何度も聴けば中毒性の強い曲になること間違いなしでしょう(笑)。

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「マイケル・ジャクソン」。お楽しみに!!

  

(左)シングル「Waterfalls」。このシングルのB面として発表された。ジャケットも美しいA面とは裏腹に、B面がこの曲とは・・・!

(右)アルバム「マッカートニーII」。自宅スタジオで単独で作った異色の問題作。チープなテクノもどきの曲がいっぱい!

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