Jooju Boobu 第18回

(2005.5.08更新)

One More Kiss(1973年)

 今回の「Jooju Boobu」より、今まで紹介してきた「私がもっとも好きな17曲+a」に次いで大好きな曲11曲の紹介に突入します。むろん私の曲に対する思い入れは常に変わっていますので、今回からの11曲もかなりのお気に入りであるといえます(現に今日の段階では、紹介済みの『Getting Closer』や『Spies Like Us』などよりも好きな曲があったりする)。これまで紹介してきた曲は、そのほとんどがそこそこ知られたシングルナンバーでしたが、今回からの11曲はかなりマニアックな曲が多いです。管理人の趣味が露呈してきています(苦笑)。予告しておきますが、シングルのA面に収録された曲は11曲中たったの2曲しかありません。さらに、普通に考えて「有名な曲」と呼べる曲はたった1曲しかありません!!(笑)このコラムを毎度ごらんになっていただいているポール・ファンの皆さん!マニアックですが今後ともよろしくお願いいたします(笑)。

 さてその先陣を切るのは、今日紹介する『One More Kiss』。いきなりマニアックなアルバムナンバーです(苦笑)。演奏時間が2分ちょっとしかない、実にかわいらしいバラードですが、そういう曲こそに「ポールらしさ」があふれているのです。初期ウイングスの「名盤」として知られるアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」(1973年)に収録されました。このアルバムは、ポールの歴代諸作品の中でもバラードの比率が非常に高いアルバムで、地味ながらも美しい佳曲が詰まっています。この曲もそのひとつで、目立たないゆえに見逃されがちですが、ポールをよく知るコアなファンには人気の高い曲です。(蛇足ですが、正式タイトルは『One More Kiss』ですが、公式に発売されている楽譜を筆頭にタイトルを『Only One More Kiss』としているものをよく見かけます。もしかして原題・・・?)

 それでは、このコラムで今回初登場となったアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」について、簡単に振り返ってみましょう。ポールはビートルズ解散以来、ウイングスを結成するにいたっても「ビートルズを解散させた男」として世間の風当たり(主に評論家集団からではありましたが・・・)が非常に激しく、厳しいバンド運営をせまられていました。ポールは早くも酷評を浴びせられたウイングスの起死回生を図るべく、ヨーロッパ中を回るコンサートツアーに赴きウイングスの演奏能力とバンドの結束力を高めんと奮闘します。また、休暇などを利用してメンバーのデニー・レインと協力しながら新曲を多数書き下ろしてそれらを積極的にライヴのレパートリーに加え、ブレークを狙ったのでした。

 そんなポールの、ウイングスの努力が報われ始めたのが1972年のシングル「Hi Hi Hi」であり、ポールにとってしばらくぶりのヒットソングとなりました。そして翌1973年のシングル「My Love」が見事大ブレーク。その次のシングル「Live And Let Die」も含めて、ヒットシングルの連続はウイングスの名声を確立するには十分でした。そして、これらシングル曲も含めたレコーディング・セッションで生まれたアルバムが、「レッド・ローズ・スピードウェイ」でした。ポールの創作意欲の高さをうかがわせるエピソードとして、当初アルバムを2枚組で発売する予定があった、という話があります。判明しているだけでもこのセッションでは20数曲が録音されており、それらはアルバムに収録された他にシングルで発表されたり、お蔵入りになって後年発表されたり、未発表のままだったりするのですが、結局は1枚組アルバムに9曲が収録されるに至りました(ちなみに、このことがきっかけでポールは未発表曲集「Cold Cuts」の制作を思いつきます)。

 面白いことに、「レッド・ローズ・スピードウェイ」収録曲のほとんどが穏やかなバラードで構成されることとなりました。シングルでヒットした『Hi Hi Hi』や『Live And Let Die』をアルバムに入れなかったこともそうですが、未発表曲でもかなり賑やかな曲があること(『Night Out』とか)を考えると興味深い結果です。また、ヒット曲『My Love』を除けば全曲シングル未収録のいわゆる「アルバムナンバー」であり、その点でも非常にこじんまりとした(悪く言えば地味な)選曲がされています。しかし、こうしたことがポールの本領であるポップやバラードをたっぷり聴けるアルバムに仕上げていて、ポールのメロディ・メイカーぶりを堪能したい人にはたまらない内容になっているのです。

 ・・・と、ざっと「レッド・ローズ〜」について触れたところで、本題である『One More Kiss』の話に移りたいと思います。

 曲は大雑把に言えば「バラード」の部類に入るもので、その意味では「レッド・ローズ〜」の作風を代表するといえるでしょう。そしてさらに言えば、この曲にはカントリーのようなテイストも感じられます。実は、当時のポールそしてウイングスを語る上でのキーワードに「カントリー」も重要な要素です。ポールはビートルズ解散前後から1974年頃まで、特に「ラム」から「バンド・オン・ザ・ラン」までの間、カントリータッチの曲(その多くは小曲に値する曲ですが・・・)を多く残しています。ビートルズ解散後しばらくはスコットランドの自身の農場に引きこもりしていたポールですが、カントリー風のアコースティックな曲が増えているのは農場暮らしをしていたポールの生活の影響があるといえるでしょう。『Heart Of The Country』『Mama's Little Girl』『Country Dreamer』などなど・・・アコギ一本で弾き語れるようなこうした曲からは、田舎のほのぼのした雰囲気が伝わってきます。この曲も、アコギを中心にシンプルなアレンジがされた小曲で、このようなリラックスした感じが漂っています。他の時期(とりわけウイングス在籍中)ではなかなか見られない、ゆるーりとした作風は、癒されますね。

 そんなカントリーチックな雰囲気をかき立てているのがもちろん演奏面なのですが、興味深いのはウイングスの面々の楽器編成。通常とは少し違っているのです。これは、ベーシック・トラックを一発録りしているためと思われますが、当時のウイングスはこの「ベーシック・トラック一発録り」を頻繁に採用しています(結成して日が経たないので、バンドの結束を高める上でも必要な措置だったでしょうし)。そして、ただそれだけで終わらないのが凡人バンドとは違う所であり、メンバー各人が曲によっていろんな楽器を担当しているんですから驚きです。先述の『My Love』しかり、アルバム終盤の4曲メドレーしかり・・・。『C Moon』ではプロモ・ヴィデオでもその離れ業を披露します。楽器を演奏できない筆者にとっては、ただただその敏腕ぶりに驚くのみです。

 この曲でポールは、アコースティック・ギターを弾いています。このことからも、この曲はアコギを弾きつつ書いたのではないか・・・と思わせます。ポールのアコギがカントリーの雰囲気の中心格ですね。ポールのアコギ弾き語りの腕に関しては言うまでもないでしょう・・・!普段ポールの立ち位置であるベースは、ここではデニー・レイン(蛇足ですが、単に「デニー」と書くと初期ウイングスでは混乱しかねません[笑])が担当。ちなみに『My Love』でもベースを弾いているデニー・レインです。デニー・シーウェルはいつも通りドラムスですが、リンダが電子ハープシコードを演奏している点が少し特筆でしょう(あまり目立ちませんが・・・)。この時点ではまだまだ素人同然のキーボディストだったリンダですが、「レッド・ローズ〜」ではかなり健闘していて、いろんな曲で地味に活躍しています。

 そしてもう1人、カントリー風味の立役者がヘンリー・マッカロクです。いつも通りエレキ・ギターを弾いていますが、ヘンリーのギターなくしてはこの曲の魅力が半減すると言っても過言ではないほど、この曲のイメージ作りに貢献しています。まろやかで柔らかい、やさしい音色で奏でられるフレーズは、カントリーなのにどことなくトロピカルで、そのせいかよく「沖縄音楽風だ」「ハワイアン風だ」との評論を目にします(苦笑)。確かに聴こえなくもないですね・・・。間奏を挟んで後半にはスライド・ギター(左ステレオから聴こえる)もフィーチャーしています。同時期の『Country Dreamer』もそうですが、ヘンリーのギターはこの手の曲ではカントリー・フレーバーをたっぷり味わわせてくれます。ハードでブルースっぽいロックも初期ウイングスの魅力ですが、やはりこの時期のウイングスはほのぼのしたカントリーで本領を発揮していると思います。そして、ヘンリーはそんな音作りに欠かせない存在であったことは確かでしょう。

 歌詞はいたって普通のラヴソングで、「これぞポール!」と思っている方も多いのではないでしょうか。前作「ウイングス・ワイルド・ライフ」までは、当時喧嘩中だったジョン・レノンを意識したかのような、過激的で意味深な、暗いムードの歌詞が主流でしたが、「レッド・ローズ〜」の時期にはそのような曲は姿を消し、代わりに本来のポールらしい楽観的なラヴソングが戻ってきています。ようやくジョンとのいさかいを忘れて、音楽活動に打ち込めるようになった証拠でしょう。楽観的で前向きで、物語性があるラヴソングは、ポールの得意部門です。この曲では、恋人に失言してしまい一人旅に出ようとする男が、「もう1回キスをして」と願う、少しセンチメンタルで実にアマアマな内容となっています。「キス」という単語が出てくるだけで、どうしてこうしてキャンデー菓子のように甘くなってしまうのでしょう(苦笑)。ポールも、甘く甘く歌っています(人によって感じ方は違うとは思いますが)。しかしながらただ甘いだけでなくどこかユニークな歌い方で、なんとなく一種の訛り・・・アメリカンアクセントのようにも聴こえます(確かではないですが)。カントリーだからアメリカを意識した?・・・そんな単純じゃないですか。リラックスした雰囲気はヴォーカルにもよく表れており、冒頭のカウントからエンディングの「Hey,yeah」まで、ゆるーい空気が漂っています。癒されます。あとは・・・サビから始まるのが印象的な構成でしょうか。何度か登場するそのサビで、歌詞が「I didn't〜」と「I never〜」に分けられているのが印象的ですね。

 さて、早くも書くことが尽きてしまいました(苦笑)。これまでの曲と違い、特筆すべきことが少ないアルバムナンバーの宿命でしょうか(汗)。しかもこの曲の場合、アウトテイクなども一切発見されていません。「レッド・ローズ〜」関連の音源を集めたブートでも、しばしば公式テイクが収録されているほどですから・・・。また、同時期含めコンサートでも取り上げられていません。先にも述べましたが、初期ウイングスらしさたっぷりなので、何らかの機会でライヴ演奏してくれてもよかったのでは、と思いますね。

 私は、「レッド・ローズ・スピードウェイ」を最初に聴いた時に、一発でこの曲のとりこになりました。短い曲ではあるけれど、とってもかわいらしいなぁと。すぐに歌詞を覚えてしまったくらいです(思えば『Only Love Remains』もそうでした)。一言で言えば「甘い!」、以上です(笑)。でもただ甘いだけでなく、リラックスした雰囲気がたまらないんですよね。ただ甘ければフランク・シナトラでもいいわけですが、「+a」があるのがポールの魅力ということで。ヘンリーのスライド・ギターも絶品です。

 この曲はコンサートで演奏されたこともなく、シングルやベスト盤に収録されたこともなく、知らない人は多いと思います(当然ですが・・・)。しかし、ソロ活動→ウイングス結成を経て、ポールがようやく自分本来の曲作り・詞作を取り戻した時期のこの曲には、「ポールらしさ」が十分に詰め込まれています。「ほのぼの」「甘い」「楽観的」。これらはポールの持ち味といえるでしょう。むろんポールは他にも様々な顔を覗かせることもあり、一概には言えませんが、最も得意とする分野は、間違いなくこの曲に代表されるメロディアスなバラードでしょう。この曲、そして「レッド・ローズ・スピードウェイ」にはそのポールのバラードの真髄があります。アルバムが「ウイングスではなくて、ポール個人のアルバム」と比喩される(揶揄される?)ゆえんです。ぜひ、今一度この曲と「レッド・ローズ・スピードウェイ」で、スイートな「ポール節」を味わってみてはいかがでしょうか。

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「ロールス・ロイス」。お楽しみに!!

 (2008.7.21 加筆修正)

アルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」。ポールらしい甘くて楽観的なラヴソングを存分に堪能できます。

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