Jooju Boobu 番外編(1)
(2005.4.28更新)
Again And Again And Again(1979年)
「Jooju Boobu」では、ビートルズ解散以降のポールの曲を語ってゆくのですが、まれに例外があります。それは、ポール以外のウイングスのメンバーが、ウイングス在籍時に発表した作曲曲・ヴォーカル曲です。また、ポールがビートルズ解散後に取り上げたカヴァー曲(ビートルズ・ナンバーは除く)も含まれます。これらは、本編とは違い、「番外編」として別途紹介してゆきます。もちろん、こちらもポールの曲と一緒にお気に入り順に並べてあります!そして今回は、その「番外編」の栄えある第1号として、デニー・レインがウイングスのアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」(1979年)で発表した『Again And Again And Again』を語ります。本編の第15回と同時に紹介されていることからも、私の相当のお気に入りであることが伺えるかと思います。
デニー・レイン。彼の存在は意外と知られていないかもしれません(ポールのファンならご存知のはずでしょうけど・・・)。ウイングスではポール、リンダに次ぐ「第三の男」的イメージがあり(リンダは男じゃないけど・・・)目立たなく、なかなか第一線で語られることがないからです(汗)。しかしデニーは、ウイングスにとって、そして'70年代のポールにとって欠かすことのできない人物なのです。「Jooju Boobu」では初紹介となるデニーの曲ですから、まずはざっと彼の経歴をたどってゆきます。
この男こそ、ウイングス「第三の男」デニー・レインだ!!(笑)
デニーの本名は「ブライアン・アーサー・ハインズ」。1944年、英国はバーミンガムに生まれました。18歳でバンドを結成して以来、数々のバンドを転々とします。中でも一番有名なのは、1964年に彼が中心となって結成したムーディ・ブルースでしょう。何枚かのシングルと1枚のアルバムを発表した後の1967年に脱退していますが、『Go Now』がカヴァーではあるものの全英1位を獲得するなど、デニーの名は英国でそれなりに知られるようになりました。またこの頃、ビートルズの米国公演に前座として同行した際にポールと出会っています。'60年代後半はめまぐるしくバンドを渡り歩いていたデニーがポールから電話で結成したてのウイングスに誘われたのは1971年。それ以来、1981年に彼自身が脱退しウイングスが解散するまで、デニーはずっとこのバンド、ウイングスにとどまったのです。ウイングスで活動する傍らソロアルバムも何枚か出しており、ウイングス脱退後は(第一線を退いた形ではありますが)地味にソロ活動を続けています。ウイングスへの愛着も強く、何度かトリビュート・コンサートを開いています。ポールとは不仲説がささやかれた時期もありますが、最近も再会するなど親しい間柄のようです。2006年には、アラン・パーソンズと共に来日して東京でささやかなコンサートをしたのがちょっとしたニュースです。そして、当サイトをごらんになっている方ならご存知でしょうが(笑)、私が大変尊敬している、お気に入りの人物です(もちろん2006年の来日公演にも足を運びました!)。
そんなデニーがウイングスで残した重要な功績。まずは、彼が結成から解散までずっとウイングスのメンバーであり続けたことでしょう。メンバーチェンジの激しかったウイングスですが、デニーの存在あって初めて、ポール&リンダが中核となって始めたウイングスがグループとして成り立っていたのです。特に、「バンド・オン・ザ・ラン」や「ロンドン・タウン」の各アルバムを制作していた頃は、マッカートニー夫妻を除いた唯一のメンバーであり、ポールの危機的状況を救っていました。また、ポールとは音楽的にも性格的にも賛同できる点が多く、'70年代ポールのよき相棒として活躍しました。最終ラインアップのウイングスのメンバーだったローレンス・ジュバーとスティーブ・ホリーは、いずれもデニーの紹介だったことを考えても、ポールがデニーにとって信頼の置ける人物であったことは確かでしょう。そしてその信頼関係をバックに、ポールとは何曲か曲を共作しています。特にアルバム「ロンドン・タウン」では、デニーのケルト音楽への関心がいい形でアレンジに反映されています。バンドでも、ギタリストとしてはもちろん、ハーモニカやコーラスでの参加など、ウイングスの音作りに欠かせない一翼も担っていました。中でも、味のある歌声を聴かせるヴォーカル曲では、ポールにはない独特の枯れた味わいを発揮しています。決して自分を積極的にアピールするような人ではなく、グループの歴代メンバー内でも地味な方ですが、デニーがウイングスの、ポールの音楽史に残した足跡は大変重要なものでした。
さて、そんなデニーがウイングスで残した自作曲・ヴォーカル曲は少ないながら結構あります。『Go Now』のイメージが強いですが、それだけではありません!デニーがウイングス在籍中に公式発表したヴォーカル曲は6曲で、それに加えライヴのみの曲が2曲あります(さらに公式未発表曲が何曲か)。作曲面では、ポールとの共作曲が7曲(あの名曲『Mull Of Kintyre』も!)、そしてデニーが単独で作曲した作品が2曲。その単独作品のうち1曲はデニーの一大名曲とも評される『Time To Hide』で、もう1曲がこの『Again And〜』です。
この曲は、デニーによれば「僕が作ったんだけど、バンド全体で仕上げた」とのこと。クレジットではデニー単独名義ですが、ポールはじめウイングスのメンバーの手助けがかなりあったものと思われます(少なくともデニーにとっては)。ジャム・セッションが元になってできた曲とも言われています。また、元々は「The Little Woman」と「Again And Again And Again」という2つの別曲を、1つに纏め上げたとも言われており、確かにそのように聴こえなくもありません。しかし、ポールと同じく、交互が入れ違いに出てきて違和感なく1曲に仕上がっているのはさすがデニー。前作「ロンドン・タウン」でポールと大量の共作曲を残していますが、その反動か、「バック・トゥ・ジ・エッグ」ではデニーの曲はこの曲のみとなりました(後にデニーがソロで発表することとなる『Weep For Love』が録音されてはいますが・・・)。
曲はポップ・ロック調で、1979年当時のウイングス(先述の最終ラインアップ)が目指していた「ロックへの回顧」を受けてか、極めてストレートなバンドサウンドに仕上がっています。「ロンドン・タウン」ではトラッド調の穏やかな作風の曲を提供したデニーですが、ポールがロックに回帰してゆくのにあわせてバンドサウンドに仕上げています。曲のメロディアスさはポールにも負けないものがあり、親しみやすいメロディで比較的覚えやすくなっています。どこか哀愁が漂い、カントリーやトラッドっぽくも聴こえるのは、デニーらしいですね。
デニーの曲ですが、ヴォーカルはほぼ大半の部分でデニーとポールがデュエットしています。デニーの声はかなりか細くよれよれであることが多いのですが(苦笑)、まるでそれを補強するかのポールのヴォーカルです。中間部のシャウトなんかはデニーよりポールの方が勝っているので、このアレンジは正解だと思います。そして、相変わらずデニーとポールの相性のよさを感じることができます。デニーが単独で歌う部分はかなり少ないのですが、中間部で聴かれる枯れた味わいのヴォーカルは「これぞデニー」と思える歌声です。この声質がいいんだよなぁ(笑)。間奏に入る所では、デニーが“Take it away!”と掛け声を掛けるのですが、ポールの『Listen To What The Man Said』と比べると歴然と違いが見られ、デニーらしさが伝わってきます(苦笑)。気が抜けていていい感じです。エンディングの盛り上がり方も、リラックスした感じで聴いていて楽しくなってきます。バンドで演奏しながら仕上がった曲らしく、全体的に楽しげな様子が伝わってくるような陽気でほのぼのとした雰囲気があります。そのためか、デニーの楽曲でもかなり明るい部類に入ります。
歌詞はその反面、せつなげなラヴソングとなっています(女々しいと言ったらデニーに叱られますか)。ただ、それほどしっかりとした内容もなく、少し謎な節もあり(“You don't wanna stay at my school”など)、そこら辺はやはりジャム・セッション生まれといえるでしょう。一応冬が舞台のようで、夏にうまくいっていた恋が終わりを告げる内容、らしいです。デニーらしくて個人的には好きな詞作です。タイトルは少し長くて書くのが面倒ですが(汗)。
サウンド面では、ストレートなバンドサウンドとなっており、実験的要素も強い「バック・トゥ・ジ・エッグ」の中でも比較的シンプルに仕上がっています。イントロは「ジャーン、ジャーン、ジャーン」の3音で始まりますが、これが随所で使用されていて印象的です(タイトル部分でも使われている)。デニーとローレンスによるエレキ・ギターが前面に出ていてロック色を強めていますが、それにも負けずに主張しているのがオルガンです。リンダさんの演奏なのか、ポールの演奏かは不明ですが、単純なメロディなのでリンダさんかもしれませんね(笑)。これが結構耳に残ります。あまり意識しないのですが、よく聴くと曲を通して使用されており、この曲にとって重要な音であることがわかります。間奏はギター・ソロとなっていますが、ハードながらもどこかほのぼのとした雰囲気です。スティーブのドラムロールを交えたドラミングも効果的。結構クラッシュシンバルを多用していて、こちらも効果的です。ジャムからできた曲としては、非常にバンドのまとまりを感じさせるソリッドな演奏です。デニー本人も、ローレンスと一緒に随所でギターフレーズを挿入しており、かなりノリノリなセッションだったのかなぁ、と思わせます。
そんなほのぼのしたバンドの雰囲気を味わえるのが、この曲のプロモ・ヴィデオです。ポールの主導により、当時のウイングスは集中的にプロモ・ヴィデオを量産していましたが、デニーのこの曲もその対象に挙がりました。「バック〜」収録曲中実に7曲のプロモ・ヴィデオが作られたほどですから、デニーにもスポットを・・・ということでしょう。プロモの監督はポールのプロモでおなじみのキース・マクミラン。
面白いのが演奏の舞台で、なぜか(本当になぜか!)菜の花畑でウイングスは演奏しています。レコーディングもアフリカやヨットの上やお城の中で行ってしまうウイングスですから今さら驚くこともないかもしれませんが(苦笑)、プロモを初めて見た時は「おおっ!」と意表をつかれることでしょう。当時レコーディングをしていたリンプ城の周辺でプロモを撮影したため、というのが真相のようですが・・・。菜の花畑のど真ん中なのでアンプをつなげない、ということでメンバー全員アコースティックな楽器で演奏しています。まさに「アンプラグド」な世界です。ポールもここでは珍しくアコースティック・ベースを抱えての演奏です。音の方はエレクトリック・セットなのに、映像はアコースティック・セットというギャップが見ていて面白いです。
そしてそれに輪をかけて面白いのがメンバーの表情。屋外でのリラックスしたムードの中、各自ほのぼのと実に楽しそうに演奏しています。この曲の主役であるデニーはもちろんご満悦で終始ニコニコしています。アコギ片手なので、ポールたちと一緒に自由に辺りを行き来しています。唯一ドラムセット(これを畑に持ち込むのはさぞ大変だったろう・・・)の前で移動できないスティーブも、のっけから笑顔で見ている側も思わず笑ってしまいます(笑)。元々ぽっちゃり顔で面白い顔をしているのですが、ここでは輪をかけて面白い表情のスティーブです。そして、メンバー中一番はしゃいでいるのがリンダです。唯一楽器を持っていない手持ち無沙汰か、菜の花を摘んでローレンスの頭につけてみたり、おどけた表情をしたりと、実はデニー以上に目立っています(苦笑)。私は、歴代ウイングスのラインアップでも特に最終ラインアップがお気に入りなのですが、その理由として、このプロモのように表情豊かで見ていて楽しい、というのがありますね。和気あいあいさがよーく伝わってきます。かっこよくロックするのももちろんよいですが、この時期はおどけたり笑顔を振りまいたり、というシーンが多く見られそこが好きなのです。
というわけで、このページにもいくつかプロモから抜粋してみましたので、その楽しげな様子をごらんください!プロモは残念ながら「The McCartney Years」未収録(デニーの曲だから仕方ないですが・・・)ですが、デニーが主役をつとめるウイングス時代唯一のプロモですのでデニー・ファンの方は必見!
この曲のスタジオ・アウトテイクは発見されているようで、「エッグ」関連のブートに収録されているそうです(私は未聴)。そしてもう1つ重要なのが、1979年後半の英国ツアーの音源。「エッグ」収録曲を大々的に取り上げたこのツアーで、デニーのこの曲も演奏されています。ブートの名盤としてこのコーナーでもたびたび取り上げている「LAST FLIGHT」(最終日・グラスゴー公演を収録)などで聴くことができます。'79年英国ツアーでは、デニーがかなりクローズアップされており、この曲の他に『No Words』『Go Now』『Mull Of Kintyre』でスポットを浴びています。中でもデニーにとって当時の新曲であるこの『Again〜』は、アップテンポであることもあり会場の盛り上がりがひときわ大きくなっています。序盤戦の4曲目での登場のため、デニーの自己紹介の役割を果たしていて、グラスゴー公演ではデニー自らが曲紹介をしているMCを聴くことができます。そして肝心の演奏ですが、基本的にはスタジオ版に忠実な演奏ですが、若干テンポを上げてライヴにはぴったりです。ライヴの方が、デニーの声がよく出ているのは気のせいでしょうか・・・?ドラミングもこちらの方がドラムロールがはっきりしていて迫力あります。エンディングもしっかり締めくくるアレンジで聞かせてくれます。ロック色が濃かった英国ツアーにあわせて、この曲もしっかりロック色を強めています。
ファンの間でも『Time To Hide』や『Deliver Your Children』と並んで人気のデニー・ナンバーですが、デニー自身もこの曲のことを気に入っているようです。そのためか、ウイングスを脱退しソロになってからもデニーはしばしばこの曲を取り上げています。コンサートでも取り上げることが多いようで、2006年に来日した際もちゃんと演奏していました。ウイングス全英ツアーの時に似た、オリジナルに比較的忠実なアレンジで盛り上がりました。私が見に行った公演(2006年1月14日、pm7:00開演)では、デニーがかなりノリノリで変なジェスチャーなんかを披露して笑いを誘っていましたが、この時は「バック・トゥ・ジ・エッグ」を馬鹿の一つ覚えのように(苦笑)何度も何度も繰り返していたのを覚えています。そんな中、ちゃんと歌詞を覚えていたのには素直にすごいと思いましたが。
また、1996年に発表した自作曲などのセルフ・カヴァー集「ウイングス・アット・ザ・サウンド・オブ・デニー・レイン」では、オリジナルとは異なるアコギ弾き語りで披露していました。オリジナルのポップで楽しい雰囲気はありませんが、デニーにぴったりな枯れた味わいを存分に堪能できます。崩し歌い風に歌っているのがまた味があります。エンディングも渋くていいですね。原曲の方がどうも明るすぎる!と思っている方にはこっちがお勧めかも。あまり声が出ていないため評判が芳しくない(汗)同カヴァー集の中でもなかなか聴き応えがあります。
私は先述のように、デニーの大ファンであり、ウイングスのメンバーでは(ポールは別として)一番好きなのですが、この曲はデニーの曲(ヴォーカル曲含む)の中でも特に好きです。デニーのソロ時代の曲はまだ一部しか聴いていませんが、デニー随一のポップ・ナンバーではないでしょうか(『Say You Don't Mind』なんかもいい線行っていますが)。デニーの楽曲の中でもキャッチーでとっつきやすく、これからデニーを知る方にはお勧めの楽曲です。個人的には、ほとんどポールとのデュエットの中で、あの枯れた歌声がソロで登場する瞬間(“Winter time is・・・”の箇所など)が好きです。「バック・トゥ・ジ・エッグ」では、ポール作の実験的なロック・ナンバーに挟まれる形で、ちょっとした息抜きになっています。デニーの朗らかなムード・メイカーぶりが楽しめますよ。
というわけで、今回の番外編はここらへんでお開きです。次に番外編が出るのはいつの日かは、まだ不明です(汗)。次はリンダさんかジミーかジョーか?それとも再びデニーか!?何度も何度もデニーなのか・・・?
同時紹介の「Jooju Boobu」本編・第15回『Getting Closer』も、ご覧になってください。
(2008.6.21 加筆修正)
(左)アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」。デニーはこの曲を提供しています。ウイングスのラスト・アルバム。
(右)今回の主役、デニー・レイン。地味だけどウイングスで果たした役割はとても大きいです!(写真は1978年頃)