Jooju Boobu 第137回

(2006.8.27更新)

Nobody Knows(1980年)

 なんだかんだいってまた更新が途絶えていました(汗)。もはや週2回ではありませんね・・・。見てくださる方には本当に申し訳ないです。最近は更新を続ける気力がありませんで・・・。いや、それは言い訳になってしまいますね。なるべく週2回更新を心がけるようにします。

 さて、今回で第1回の『With A Little Luck』から始まった私のお気に入り順の第10層が終わります。いよいよもって私の関心度が薄れてゆくわけですが(爆)、そんな中紹介するこの曲も、私の中では上位の曲に比べればだいぶ遜色しています。でも、それなりに好きだからここで紹介します。それにしてもマニアックな曲を選んできました。だって、1980年のアルバム「マッカートニーII」収録曲ですから。今回は、『Nobody Knows』です。テクノ・ポップに影響を受け、自宅で行ったプライベートなワンマンレコーディングを発表した「マッカートニーII」は、当時から大変な話題を呼び、今でも異色の作品として見られています。どうしてもテクノもどきのサウンドに目が向きがちですが、実はブルース調の曲も入っています。今回の『Nobody Knows』も、そうした曲の1つです。

 ポールが「マッカートニーII」の収録曲を録音した1979年夏に、折からの大流行だったテクノ・ポップに興味を示し、音楽的にも影響を受けたことは間違いありません。それはアルバム全体のカラーに色濃く表れました。チープだと言われるあのシンセサウンドがまさにそれですね。それはよく知られることですが、この時期もう1つポールが影響を受けた音楽があります。それが、ブルースです。テクノほどにディープにはまったわけではないようですが、ポールはアレクシス・コーナーが出演したブルースのTV番組を見て大きなインスパイアを受けたそうです。そしてすぐに、その番組に影響を受けた2曲のブルースを書き上げました。そしてどちらとも「マッカートニーII」で発表されました。1つは以前このコラムでも紹介した『On The Way』で、もう1つは今回の『Nobody Knows』です。

 『On The Way』がスローテンポでもろにブルース色が表れているのに対して、この『Nobody Knows』の方はシンプルな8ビートが基調となっています。『On The Way』に比べればビート的にはブルース色が幾分薄らいでいるわけですが、演奏はポールがTV番組を見て感じ取ったフィーリングを率直に表現しています。その大きな表れとして、ポールはいたるところでブルース的なエレキギターを弾いています。このブルースギターがこの曲で最大の聴き所でしょう。ポールは「ブルース・マンになったつもりで弾いた」と語りますが、ポールなりにブルースを吸収して消化しているのが分かります。私はブルースに詳しくないのでこの曲がどれほどブルースに近いのか分からないのですが、どうやらポールらしいポップなエッセンスがにじみ出た演奏になっているようです。この曲ではブルースギターの他にも、バンジョーのような音のリズムギターや、ハードなエレキギターの演奏などが絡み合っていて、ギター大活躍です。逆にキーボードが(ほとんど)使われていなく、「マッカートニーII」にしては珍しく非シンセナンバーとなっています。

 ポールがアレクシス・コーナーのTV番組から影響を受けたのは、ブルースギターだけではありません。ブルースにありがちな曲構成もちゃんとこの曲で再現しています。ポールが「面白いのは、ブルースでは12小節の曲のはずなのに、タイミングがいい加減っぽいことなんだ。たとえば、1つのコードをずっと弾き続けることがあるんだけど、“正しい”曲よりも、あるいは普通に演奏するよりも1小節分長く弾く、といったようにね」と解説していますが、これは節の間のつなぎの部分の小節の中途半端さに表現されています。特に間奏でリズムを取っているとそれがよく分かります。音楽的な理屈を抜きに自由奔放にジャム的な演奏を楽しむブルースの特徴を、ポールは見事に捕らえています。ポールは元々多くのブルースのレコードを聴いてきたのですが、ある晩に見たTV番組でこれだけブルースを自分のものにしてしまうとは、ポールにしかできない芸当ですね。乱雑な感じの演奏も、ポールなりのブルース像なのかもしれません。

 ブルースギター炸裂で、非シンセ曲ということで「マッカートニーII」収録曲の中ではテクノ・ポップ色が全く感じられないのですが、それでもテクノ的なアプローチが出ているのがドラムスです。先述のように8ビートを刻んでいるのですが、シンバル類の使い方はブルースっぽいのに対し、ドラムビートは機械的にほぼ一定のリズムをずっと繰り返しているだけで、あたかもテクノのようです。一聴してテクノとは別世界のように感じられてもテクノの影響を何かしら受けている、それが「マッカートニーII」のポールなのです。一方ベースは典型的なブルースのコードを弾いているようです。「ブーン、ブーン」という響きが印象的です。

 ポールは演奏のみならず、ヴォーカルも乱雑でジャム的な感じを出そうとしています。そもそもメロディ自体ハーフ・スポークンなのですが、それをさらに雑に歌っています。前曲の『Waterfalls』と同じ人が歌っているとは思えません。そしてこの時期お得意の多重録音が大活躍。ポールは声を変えつつ1人で何役もこなしています(『Coming Up』のプロモのように)。完成したトラックを聴けば、あたかも3,4人で歌っているような感じに仕上がっています。しかも全部がでたらめな歌い方&声!それぞれがばらばらにタイミングを無視して勝手に歌っています。第1節と第2節でも、歌っている人が違うように聴こえさせます。それでいて、終盤は上手にヴォーカルとコーラスの対比が決まっていてニクいアレンジです。『On The Way』でも、わざと変な声でカウントをしていますが、ポールにとってブルースはこうしたイメージなのでしょうか。変なおっさんが居酒屋(パブ)にたむろしてべらぼうに歌っている様子が浮かんできそうなヴォーカル部分です(爆)。

 歌詞もかなりでたらめで、タイトルフレーズに当たる「誰も知っちゃいない(Nobody knows)」の繰り返しが中心です。節ごとの歌詞も意味不明で(そことなく意味は分かるけど・・・)、深い意味はなさそうです。ただし、「誰も知っちゃいない」というくだりには、ポールの心境が反映されているかもしれません。何せ『One Of These Days』で自身の心の内を吐露していますから。もし反映されているとしたら、あの日本での逮捕事件より前の録音ですから、ウイングスに関して「誰も知っちゃいない」になるのでしょう。

 もう書くことがなくなりました(汗)。まぁ、アルバムソングですから。「マッカートニーII」ですから(爆)。この曲は、ポールがこの時期テクノのみならずブルースにも多大な影響を受けたことをよく証明しています。テクノにしてもブルースにしてもそうですが、まんまコピーするのではなく自分なりに吸収し、解釈を与えた上で「マッカートニー・ミュージック」として出力してゆくのがポールらしいです。そして、ブルース風に仕上げようとしながらも、ヴォーカルの多重録音を行ったり、ドラムスをテクノ風にたたいたりと、他の収録曲の要素が混じっているのも面白いです。「マッカートニーII」のチープなシンセが嫌い、という人でもこの曲なら気軽に「マッカートニーII」のでたらめな雰囲気を味わえることでしょう。そしてブルースを知らない人でも、変な声のヴォーカルワークを聴いて思わず楽しい気分になることでしょう。

 元々「マッカートニーII」はお気に入りな私ですが(マニアック!)、この曲は全体的に見るとあまり好きではありません。でも、あのべらぼうな歌い方が面白いので今回の紹介に至りました。改めて聴いてまた面白く思えました。『One Of These Days』の時にお話しましたが、個人的には「マッカートニーII」は夜ヘッドホンで聴くとお化けが出そうなアルバム、といった感じが最初聴いた時からずっとしていますが、この曲も賑やかだけど変な歌い方なのがかえって不気味に感じられます。本当、あのアルバムは不気味さは天下一品です。

 さて、この曲で第10層は終了です。次回からは第11層が、計12曲続きます。ちなみにシングルナンバーは3曲、ベスト盤収録曲は1曲かぶって2曲です。まだ私の関心をひきつけている曲が集まっていますが、かの有名な「あの曲」や、ファンに人気の「あの曲」もあります・・・お楽しみに!

 そして次回紹介する曲のヒントですが・・・「ワイン色」。お楽しみに!!

アルバム「マッカートニーII」。テクノ・ポップに影響を受けながらも、バラードありブルースありな異色作。

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