Jooju Boobu 第136回

(2006.8.21更新)

Your Way(2001年)

 お待たせしました、「Jooju Boobu」再開です(汗)。いやぁ、実は9月にポール関連の「とあるページ」を公開するので、その作業に忙しくてこちらはないがしろにしてしまいました(汗)。でも、お盆休みも終わったことですし、このたび再開となりました。更新遅れがちですが、今後ともよろしくお願いします・・・。

 さて、今回はひさしぶりに2001年のソロアルバム「ドライヴィング・レイン」から取り上げてみましょう。これまでに『Rinse The Raindrops』『Heather』『Driving Rain』を紹介していますが、100曲以上紹介したのにまだ13曲も残っているのは私がこのアルバムに興味がわかないからです(苦笑)。どうも似たり寄ったりの曲調・カラーのものが集まってしまったのがピンとこなくて・・・。そして、今回ようやく取り上げられた曲も、あのアルバムの中では「異色」の非ロックナンバーとなりました。

 そう、今回はカントリー調の『Your Way』だからです。ロックやブルース系の曲が多いアルバム中、珍しくのどかな雰囲気を出しているこの曲、「異色」を逆説的に言えばとてもポールらしい曲です(つまり「ドライヴィング・レイン」はポールらしくないということ・・・)。そしてこの曲を聴いていると、ポールのアルバムを聴いている誰しもが「あの時代」を思い出さざるをえません。まるであの頃に書かれたかのような、そんなこの曲を今回は語ってゆきます。

 この曲は、ジャマイカで休暇中に書かれたそうです。1997年に発表されたアルバム「フレイミング・パイ」以来、ポールはよく本国イギリスではなく、休暇中の各地でいろいろインスパイアを得ているみたいですが、この曲もそうして生まれました。しかし、なぜかジャマイカで生まれた曲は、カントリーでした。以前『How Many People』を書いたときのように「あそこに行ったらレゲエをやらないとね」にはならなかったようです。よく作曲の地の影響を受けやすいポールですが、これは意外なパターンです。

 さて、そのカントリーといえばポールがお得意とする路線の1つです。そして、ポールファンならご存知でしょうが、そのピークとなったのが'70年代前半(1970年〜1974年)でした。もう石を投げればカントリーに当たるほどの量産をしていて、しかもそのいずれもがポールらしくかわいらしいメロディをしているから彼の才能を感じます。『Heart Of The Country』『Bip Bop』『Mama's Little Girl』『Country Dreamer』・・・しまいにはカントリーの中心地のナッシュビルに飛んでいって地元ミュージシャンと『Sally G』なんて曲まで書いています。ポールのカントリーへの没頭がよく分かりますね。

 ピークが過ぎた後も、ポールのカントリーナンバーは忘れた頃にやってきます。一番有名なのが1989年の『Put It There』でしょう。1997年には'70年代に書いた曲ですが『Great Day』という曲も発表しています。そしてその次にやってきたのが今回の『Your Way』だったのです。そしてこの『Your Way』を聴くと、『Put It There』よりもはるかに、'70年代初期のポールの香りが心地よく漂ってくるのです。まるで、スコットランドの農場で家族や動物に囲まれながらアコギで作ったかのような、当時のままの作風なのです。かわいらしく親しみやすいメロディは健在ですし、リズムにいたってはまさに『Bip Bop』や『Hey Diddle』の世界です。

 そう思わせるのは、言うまでもなくポールのカントリーの作風が当時と変わっていないからなのですが、シンプルな曲構成もその1つでしょう。'70年代中盤より徐々にポールの曲も構成が複雑化してゆきましたが、ここでは1つの節の繰り返しのみで成立する単純な構成です。これは、'90年代後半の「ビートルズ・アンソロジー」プロジェクトを経てポールが「ビートルズのようなシンプルさ」に再び立ち返ったことが表れていると思います。それは「ドライヴィング・レイン」収録のロック系の曲やバラード系の曲にも当てはまっていますが、中でも元々ポールの十八番だったカントリーでそれが顕著に出たのです。その証拠に、この曲はアルバムでも最短レベルの3分に満たない演奏時間となっています。

 また、「ドライヴィング・レイン」では、プロデューサーのデヴィッド・カーンの手によって、シャープでデジタルな最新鋭のアレンジがなされているのが耳に残りますが、この曲ではそうしたアレンジは加えられていません。そのため、他曲に見られる「21世紀のポール」といったイメージも薄くなっています。また、このアルバムの特徴としてもう1つ、一発録りのようなホットなライヴ録音をラフに聴かせる手法がありますが、そうした効果がこの曲の場合、'70年代初期のポールの諸作に見られるラフさを再現しているのです。この曲を「ウイングス・ワイルド・ライフ」に混ぜてみてください。違和感を感じないどころか、下手したらアルバムの一部だと錯覚してしまうことでしょう。以上のような効果もあり、この曲は「'70年代初期ポールのカントリーの再来」を強く私達に印象付けてくれるのです。ここまで'70年代風だとアルバムで「異色」になるのも当然でしょう。もちろんこうなるのは、ポールのカントリーの作風が当時と変わりないのが大前提なのは先にも書いたとおりです。

 さて、演奏までも当時のポール、そして初期ウイングス風に聴かせてくれるのだから余計に'70年代初期ムードたっぷりです。とても『Rinse The Raindrops』や『Spinning On An Axis』と同じ演奏者とは思えません。さてはポールがわざとそういう風に演奏するよう頼んだのでしょうか。ラフでお世辞にも悪い音質なので余計です。演奏はシンプルなバンドサウンドで、いずれも初期ウイングス(特に「ワイルド・ライフ」期)を思わせるようなものになっています。イントロのエレキギターの気だるくて頼りない感じが『Bip Bop』そっくりです。ドラムスは前半はバスドラムのみで、後半にようやくやや硬質なリズムが入るといった感じです。そこにポールお得意の膝たたきが入って、いかにも!です。思わずデニー・シーウェルが演奏しているのではないかと勘違いしてしまいそうです。

 いかにもポールが作りそうな親しみやすいメロディを歌うヴォーカルは、60歳に届かんとするポールとは思えない、老いを見せない柔らかな声質です。ここでもお得意のアレンジが光ります。第2節からオクターブ上げて歌う、あの手法です。ポール流カントリーの名曲『Country Dreamer』でも使っていた方法を、ここで再び取り上げたのです。ちなみに同じアルバムでは『I Do』もそんなアレンジとなっています。そしてまたまた、初期ウイングスらしさ満点なのがポールと一緒に歌うハーモニーです。ポールはこのハーモニーを録音した時「ビートルズらしい」と思ったそうですが、ビートルズらしさよりもむしろウイングスらしさがたっぷり出ています。この曲のコーラスを歌っているのはもちろん男性ですが、これを頭の中でリンダさんの声に置き換えてみてください。ものすごくはまる気がしませんか?あと、ちょっとデニー・レインが混じって聴こえる感じで。まさに初期ウイングスのアレンジです。無意識か故意的か不明ですが、ポールはハーモニーのアレンジまでも'70年代初期風にしてしまったのです。ここまで仕組んであると逆にポールがわざとやったようにも感じられますが・・・どうなのでしょう。

 ここまで徹底的に'70年代を思わせるアレンジになると、最新鋭のロックやブルースを取り入れたアルバムからは少し浮いてしまいます。しかし、そうならないのはこの曲も他の曲も地味だからなのでしょうね(苦笑)。それはさておき、この曲はあのアルバムの中では非常にポールらしいです。のっけから『Lonely Road』でついていけなそうと感じた人も、この曲ではほっとしたのではないでしょうか。小曲のためイマイチ印象が薄い曲ですが、ポールらしい佳曲であることは否定できませんね。何しろポールお得意のカントリーで、ご親切に'70年代の作風を再現しているのですから。本当、「ウイングス・ワイルド・ライフ」か「レッド・ローズ・スピードウェイ」に入れても違和感ありませんね!「ドライヴィング・レイン」は聴くことがない、という方が多数だと思いますが(苦笑)、たまにはポールらしいこの曲なんかを聴いてみましょうね。とか言う私自身が全然聴いていないんですけど(汗)。この曲も今回非常にひさしぶりに聴きました。コラムに取り上げたの自体「ただ、なんとなく」だったのですが、聴いていて「いいなぁ」と思えたのが幸いでした。ぜひリンダさんのコーラスで聴きたかったですね!!

 ちなみに、今回のイラストは泉こなた@「らき☆すた」です、なぜか。しかも模写。

 今回の執筆を通じて、私がいかに「ドライヴィング・レイン」を聴いていないか改めて痛感しました(汗)。だって、いいなぁと思える曲が極端に少ないんだもん(爆)。『Rinse The Raindrops』は病み付きに好きなんですけどねぇ・・・。今度このアルバムの曲がいつ出るか・・・恐らく200曲過ぎても1曲も出ないんだろうなぁ・・・(汗)。

 さて、次回紹介する曲のヒントは・・・「騒がしいブルース」。今度もまたマニアック路線です。お楽しみに!!

アルバム「ドライヴィング・レイン」。評価が芳しくありませんが、いい曲もちらほらありますよ!

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