Jooju Boobu 第130回

(2006.7.11更新)

Lunch Box/Odd Sox(1980年)

 今回の「Jooju Boobu」は、一気にマニアックになります(爆)。なんてったって、シングルB面曲ですから。なんてったって、インストゥルメンタルですから。そしてなんてったって、変てこな曲ですから(爆)。今回は、1980年のポールのソロシングル「Coming Up」のB面で発表された『Lunch Box/Odd Sox』を語ります。ここで誤解してはいけないのは、実はこの曲ポールのソロシングルに入っているものの、ポールのソロではないのです。というのも、実はこの曲が録音されたのは発表より5年も遡った1975年のアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」セッションでのことだからです。つまり、ウイングスによる録音なのです。なぜ変な時期の発表になったのかは後述するとして、発表時期も変なこの曲はそれ以上に曲自体が変てこです。そんなこの曲の特徴と、魅力(爆)を語ってゆきます。

 天才メロディメイカーとして知られるポールは、ご存知の通り今までに数多くの曲を残しています。その中でもヒット曲はじめ完成した曲として今聴くことができるものが多いのはもちろんですが、デモ段階でボツになってしまったものや、完成を見ずに不完全なまま発表されてしまったものも多くあります。多くはもちろん前者の未発表曲であり、ブート盤でしか聴くことのできないのですが、後者の「不完全なまま発表されてしまった」ケースもまれにあり、私達はそこからポールの作曲過程を知りえるのです。たとえば、『Backwards Traveller』(「ロンドン・タウン」収録)や『Check My Machine』(シングルB面)などはそれに該当するでしょう。前者はレコーディング中途で収録してしまった例ですし、後者にいたってはお遊び用に作られたもので単調な繰り返しで構成されています。さらに、歌詞のないインストで収録されてしまった例も見られます。「マッカートニー」や「マッカートニーII」で多く見られるのがまさにそれです。こうしたものはスタジオでお遊び的に演奏したものが多いです。そして、この『Lunch Box/Odd Sox』も、そうした不完全インストの例に漏れないのです。

 ただ、この曲に関しては「マッカートニー」シリーズのインストとは違い、予めポールの頭の中で構成などが練られていたと思われます。その証明が、1974年頃に録音されたと言われているピアノ・デモテープであり(ブート盤「The Piano Tapes」)、このデモの時点で既に公式テイクと同じ構成を聴くことができます。ウイングスの面々と一緒にスタジオで録音する前に、ポールは自宅でこの曲を仕上げて温めていたわけです。とはいえ、この曲はポールの中では歌詞のついたれっきとした歌にはならなかったようです。結局のところ、ウイングスのセッションの合間のジャム・セッション(たぶんそうでしょう)で軽く演奏したにとどまり、しかもその当時はお蔵入りの憂き目を見たのです。この曲が録音されたのは、冒頭で触れたとおり新生ウイングスのヒットアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」(1975年)のセッションですが、このセッションではこの曲の他にも『My Carnival』(1985年にシングルB面で発表)や『Tomorrow』(1971年の曲のレゲエ・インスト、未発表)といった取り留めのない曲が録音され、お蔵入りになっています。こうした曲はレコーディングの合間のちょっとした息抜きやお遊びだったのでしょう。

 さて、この曲はタイトルが示すとおり、2つの曲をつなぎ合わせた感じになっています。もちろん双方ともインストで、前半が『Lunch Box』・後半が『Odd Sox』といったところでしょう。こういうメドレー形式の曲をポールはしばしば発表していますが、この曲の場合は1曲だと場が持たないのでくっつけてみた、といったところでしょう。そのせいか、2曲のつながりはテンポやリズムが違って少し不自然です。どちらも特に明確なメロディはなく、いかにも即興的に弾いて、その後いいアイデアが思い浮かばなかったといった感じです。2曲ともマイナーというか地味で暗い感じのコード進行で、変てこな感じがますます漂ってきます。タイトルも適当につけたようで、前半が「お弁当箱」で後半が「奇妙な靴下」と、「なんだこりゃ?」と思ってしまいます。「Box」と「Sox」で韻を踏んで言葉遊びでもしたかったのでしょうか。

 ピアノデモの時と同じく、ウイングスのレコーディングも2曲を同じレコーディングで続けて演奏しています。この時のウイングスのメンバーはポール、リンダ、デニー・レイン、ジミー・マッカロク、ジョー・イングリッシュですが、ジョーではなく前任者ですぐ脱退したジェフ・ブリトンでは?という説もあります。また、ジミーがこの曲のセッションに参加していない説もあります。確かにギターが目立ちませんが・・・。気まぐれなインストだけに、参加していなくてもおかしくはなさそうですね。

 演奏の中心は、やっぱりポールの弾くピアノ。デモ段階のアレンジがそのまま踏襲されてしまったようです。まぁレコーディングもポール主導だと思われるので当然なのでしょうけど。暗いコード進行のためか中低音を中心に演奏されています。『Odd Sox』ではアドリブ的に高音部も登場します。変てこな曲ですが、ポールのピアノ演奏を否応なしに堪能できる曲です。そしてもう1つ目立っているのが、ムーグ・シンセ。一本弾きの演奏からしてこれはリンダさんでしょう。ムーグといえばこの時期のポールのトレンドで、様々な曲のいたるところに実験的に、効果的に挿入されています。この曲では主旋律を弾くことで存在が光っています。ちょっとあやふやな感じが曲の奇妙さにぴったり。ドラムスはジョーかジェフか分かりませんが、フィルインなども交えたリズミカルな演奏です(特に『Lunch Box』)。『Odd Sox』ではクラベスのようなパーカッションも入っていますが、これは後録りの可能性があります。ギターは右チャンネルから聴こえますが、注意深く聴かないと気づかないほど目立ちません。演奏も単調で、恐らくデニーによるものと思われます。ジミーなら、もっと豪快な演奏をしそうですからね・・・。

 前半の『Lunch Box』は、ポールのピアノに導かれるように始まります。リズミカルで跳ねるようなビートは、お弁当箱を持ってうきうきハイキングしに行く時の気持ちを表したもの・・・なのでしょうか(苦笑)。どこか暗い感じはうきうきしているといえるのでしょうかねぇ。主にピアノの演奏で、途中にあやふやなムーグが入る構成。後半になるとピアノにアドリブ演奏が入ってきます。『Lunch Box』の方はすぐ終わってしまいます。ブレイクの後、後半の『Odd Sox』がスタート。曲の雰囲気はますます暗くなります。テンポも半減し、ピアノの演奏も重々しく響きます。奇妙な靴下にはぴったりかな(爆)。『Odd Sox』は同じパターンが何度か繰り返される形になっていますが、主旋律はムーグの頼りない演奏が奏でています。出だしの音を外したかのような演奏がなんともリンダさんらしいです(苦笑)。ドラムスはクラベス&ハイハットの後にビートを刻んでゆくパターンで演奏されますが、最後の方には豪快な(豪快でもないか)フィルインも聴けます。『Lunch Box』と同じくピアノは後半になるにつれアドリブが増えてゆきます。高音部の使い方が効果的です。そしていったんのブレイクの後、なにやら話し声(笑い声?)が聴こえて再開、すぐにフェイドアウト・・・という感じで終わります。このフェイドアウト部でようやく右チャンネルのギターが目立ちます、一瞬だけですが。最後の最後でもリンダさんのムーグが変な音を出しています。

 さて、お蔵入りになってしまったこの曲。曲のクオリティからしてそのまま未発表となってもおかしくはなかったのですが、奇跡的に公式発表曲の地位を得ることになります。その重要な転機となったのが、未発表曲を収録した未発表アルバム「Cold Cuts」の存在でした。ポール・マニアなら周知の通りですが、ライトなファンの方のために今一度説明しますと、「Cold Cuts」の構想が最初に出てきたのは1973年頃で、未発表曲が大量に発生したことが原因でした。ポールはファンを楽しませるような企画アルバムを作りたいと考えており、未発表曲集の発売を思いついたのです。具体的に動き出したのは1978年にウイングス初のベスト盤を発売する際。1枚目をヒット曲集、2枚目を未発表曲集という2枚組アルバムにしようとポールは考え、未発表曲のリミックスを行います。結局これは頓挫し、その後もポールは1980年や'80年代中頃にもこの「Cold Cuts」の発売を企てリミックスをしていますが、結局現在に至るまで未発表のまま。しかしながら、ブート盤では基本中の基本といわれるほど多く出回っているもので、マニアの間では「名盤」とも呼ばれています。

 そんな「Cold Cuts」に、当時未発表であったこの『Lunch Box/Odd Sox』も収録予定だったのです。1978年のラインアップではこの曲も入っていて、リミックスが行われました。「ヴィーナス・アンド・マース」の曲に比べて音質がよいのは(特にドラムス)このリミックスのおかげです。順調にゆけば1978年にベスト盤の一部で発表されていたのですが、残念ながらこの時もお蔵入りになってしまいました。しかし、この曲が発表されるに至ったのは、ポールの方針転換がありました。当初は「Cold Cuts」で一挙に未発表曲を出してやろうと思っていたのですが、まず下準備として1,2曲発表してからアルバムを発売しようと考えるようになったのです。そこで第1弾として槍玉に上がったのがこの『Lunch Box/Odd Sox』だったのです。「Cold Cuts」の前触れという使命を帯びて、この曲は1980年にシングル「Coming Up」のB面でついに発表されました。アルバム「マッカートニーII」セッションからのシングルですが、これはウイングスではなくポールのソロでした。実に変な所で発表してしまったものです。「マッカートニーII」の曲でB面にする曲がなかったので穴埋め的に入れたのもあったのでしょうか。変てこなインストなので「マッカートニーII」の雰囲気にはぴったり符合しているのが皮肉的です。きっとリアルタイムで聴いた人はこの曲をポール単独による当時の最新録音と勘違いしたことでしょう。

 しかし、「Cold Cuts」が発売されることはありませんでした。1985年には同じ「ヴィーナス・アンド・マース」セッションの未発表曲『My Carnival』がシングル「Spies Like Us」のB面で発表されましたが、これまた単発に終わってしまいました。「Cold Cuts」の前触れという使命はついに果たせなかったのです。その後は『Mama's Little Girl』『Same Time Next Year』『A Love For You』のリリース以外、未発表曲が陽の目を浴びることはありません。中途半端に世に出てしまった『Lunch Box/Odd Sox』は、ポールの未発表曲のイメージと「Cold Cuts」の名残りを知ることのできる数少ない曲なのです。

 というわけで、元々即興的に作られて、スタジオでの息抜きで録音されて、そのおかげでしばらく未発表になって、奇跡的に発表されたこの曲。お世辞にも出来のいい曲とは呼べません(汗)。インストである時点で未完成なのに、特に目立ったメロディも方向性もなく、未発表にされていても納得できます。しかし、結果的に発表されたことで、普通なら未発表にされるそうした未完成の曲を聴くことができるという価値は大きいです。ポールの曲作りの過程や、セッション中の楽しい雰囲気はよく伝わってくると思います。曲自体もポールのピアノが堪能できますし、ムーグもいかにもこの時期といった音ですし・・・と一応擁護しておきましょう(爆)。個人的にはポールのインストの中でも好きな方だったりします。後半の『Odd Sox』がどこか時代劇の冬の雪のシーンにありそうで面白いです(爆)。

 現在この曲は「ヴィーナス・アンド・マース」にボーナス・トラックとして収録されていますが、同じボーナス・トラックに『Zoo Gang』や『My Carnival』があることからも、当時のウイングスがこうしたお遊び的セッションもしていたことがよく分かります。『Tomorrow』のレゲエ・インストと『Proud Mum』でも加えたらさらに強力になりそうですね。

 さて、次回紹介する曲のヒントは・・・「雨の降る季節」。お楽しみに!!

  

(左)シングル「Coming Up」。この1980年のポールのソロシングルで初めて発表されました。アルバム「マッカートニーII」の雰囲気にはぴったり!?

(右)アルバム「ヴィーナス・アンド・マース」。現在ボーナス・トラックとして収録されており、このアルバムのセッションで録音されました。ムーグ・シンセがいかにもこの時期。

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