Jooju Boobu 番外編(8)

(2006.7.01更新)

Children Children(1978年)

 今回の番外編も、デニー・レインの曲を取り上げます。ちょうど『Don't Let It Bring You Down』を取り上げた所なので、同じアルバムからピックアップしてみました。曲は『Children Children』。アルバム「ロンドン・タウン」収録で、これまたポールとデニーの共作です。しかし、今度は貢献の比重はデニーに傾いています。つまりは、デニー主導で作られ、ポールが手助けした曲ということです。そしてこの曲でもまた、2人のトラッドへの興味が重なり合ってトラッド風のアレンジになっています。しかもしかも、今回の曲もアイリッシュ音楽の影響を受けたサウンドです。そんなこの曲について軽く語ってゆきましょう。

 アルバムのできるまでの過程と、ポールとデニーの共作が与えたものについては、本編の『Don't Let It Bring You Down』にかぶるのでそちらを参照してください。同じことは二度書きません(爆)。『Don't Let It〜』と違う点の1つが、デニー主導で作られたこと。そのせいか、デニーらしい気楽なフォークソングに仕上がっています。のどかな雰囲気は彼のソロアルバムで発表されたポールとの共作『Send Me The Heart』(1974年録音)など、デニーのソロ作品にも通じるものがあります。カントリーやフォークのような曲はデニーがもっとも得意とするところ。同じトラッドでもワルツを発表したポールとはまた違った切り口からトラッドを作ったのです。曲も2分ちょっととコンパクトで、さらりと聞かせます。

 もう1つの違いが、この曲の録音された時期。『Don't Let It〜』はウイングスが5人だった頃ですが、この曲はジミー・マッカロクとジョー・イングリッシュが脱退し、リンダさんが産休に入った後の、ポールとデニーの2人だけで行われたセッションで録音された曲だからです。そのため、バンドサウンドにこだわる必要がなくなり、よりアコースティックでトラッド的なアレンジで演奏されることとなったのです。『Don't Let It〜』で見られた、アコースティックとエレキの不思議な共生がここでは見られません。完全にアコースティックの一人勝ちです。

 曲へ前述の通りケルト音楽の影響をまともに受けていますが、デニーらしいフォーク色が入っています。やはり主役はデニーとポールのアコギ。心が和みます。また、ギターより高く澄んだ音色を出す弦楽器を爪弾くような音も聴こえますがこれは何でしょうか。カントリーで使われていそうな音色です。イントロ・間奏では管楽器の音が入っています。音色的に次曲『Girlfriend』のものに似ているので、きっと同じセッションでの録音でしょう。

 その他の楽器は、全部ポールが演奏。リンダさんが産休で(元から一本弾きキーボードしかできないし)、デニーはあまり楽器ができないので致し方ないことですが、アルバム「バンド・オン・ザ・ラン」やこの時期の他の曲など、メンバーの減った時期はポールのマルチプレイヤーぶりが惜しみなく発揮されたのでした。キーボードは、アトモスフィアのみで最低限に抑えられています。朝もやのような美しい景色が思い浮かびそうです。ベースはもちろんですが、ドラムスも演奏しています。とはいえ、この曲ではバスドラムだけなのでたいしたことはないのですが・・・。それよりもポールのマルチプレイヤーぶりに驚愕してしまうのがヴァイオリン。そう、ポールがヴァイオリンを演奏しているのです!いかにもケルト的な風味漂う演奏ですが、これ実はポールなんです。まぁ、フリューゲルホルンまで演奏してしまうお方ですから普通なのかもしれませんが・・・。ポールがベース、ギター、ピアノ以外の楽器を担当すると「下手っぽいけど、どこか上手い」サウンドになるのですが、この曲のヴァイオリンもまさにそんな感じ。でもいい味出しています。

 このように見てみても、エレキ的な楽器が全くありません。それはバンドサウンドの崩壊であり、逆に言えばトラッドスタイルの成功であるのです。絶頂期ウイングスの崩壊は悲しい出来事でしたが、それがポール&デニーの結束を強め、彼らの作ったトラッド音楽を本格的なアレンジにしてしまったのは実に皮肉的です。そしてバンドサウンドの崩壊は、ポールのワンマン天下に象徴的に表れました。「バンド・オン・ザ・ラン」の何曲かや「ロンドン・タウン」の『Name And Address』なんかは、それが原因で(特にドラムスが)バンドっぽくないチープな感じになってしまい曲の質を落としていますが、この曲の場合はドラムレスのアコースティックナンバーだったためポールの「下手うま」効果が出ずに済んだといったところでしょうか。唯一「下手うま」なヴァイオリンも味あるし。

 デニー主導の曲なのでヴォーカルはデニーですが、彼の繊細で頼りなくて女々しい(苦笑)感じがこの曲にぴったりです。やっぱりデニーの声質にはこうしたアコースティックでトラッド的な曲がよく似合います。'80年代中期のエレクトリック・ポップにはまった彼の違和感ありすぎな様子には耳を覆いたくなりますが(苦笑)、こういった曲を聴くとやっぱり安心します。ポールは裏方に回り、コーラスに徹します。リンダさんも、コーラスだけには参加したようです。注目したいのは、第3節のデニーとポールのハモり。アイルランド風のアクセントで歌われているのです。こうしたさりげない所でも、トラッド風味を出しているのです。デニーとポールがいかにトラッドのアレンジを熟知していたかが分かります。

 歌詞では、まるでおとぎ話のような世界が繰り広げられています。とはいえ言葉少なめですが。ケルト地方に伝わる昔話のような夢物語のようです。魔法のような小さな滝があって、そこで魚のレースを見て、妖精が誘ってくれるお茶会にみんなで参加する・・・ロマンチックな世界です。そして、そんな世界で楽しく遊ぶ子供たち(Children)の姿・・・現代では失われてしまった無垢な生活を歌っています。こうしたわらべ歌のような感じの詞作も、デニーがトラッドをよく理解しているからでしょう。『Deliver Your Children』の語り調の不思議な物語も、そうしたセンスから来ているのです。決して、「小泉チルドレン」の歌じゃあありませんよ(爆)。

 デニーもこの曲を気に入っているようで、後年自作曲やポールの曲をカヴァーしたアルバム「アット・ザ・サウンド・オブ・デニー」でこの曲をセルフ・カヴァーしています。この時は完全なアコギ弾き語り。歌い方もより弾き語りに近く、ケルト的な雰囲気を増したもので、こちらのヴァージョンもいいできです。デニー本来の素質がよく出ていると思います。このアルバムではポールがプレゼントした『The Note That You Never Wrote』もアコギ弾き語りになりましたが、そちらの方がいいできに感じられます。残念ながら2006年1月にデニーが来日した際には演奏されませんでしたが、いつか生で聴いてみたいですね。

 小曲である上にデニーのヴォーカル曲なので、さらりと聞き流してしまいがちですが、デニー流トラッドのこの曲に耳を傾けてみてください。デニーの心からのやさしさや暖かさが伝わってきますよ。そしてとっても和みます。ドライヴなんかで田舎の風景を見ながら聴くといいかもしれません。デニーのセルフ or ポール・カヴァーに関しては正直、できのいいのと悪いのがありますが(汗)、この曲に関してはオリジナルと双璧を成すほどなのでもし機会があれば聴いてみてください。入手困難ですけど・・・。

 そしていよいよ、アルバム「ロンドン・タウン」収録曲で、当コラムで未紹介の曲はあと1曲です!一番私の関心が薄い曲ということになりますが、「あの曲」はいつ出てくるのか・・・!?

 さて、次の番外編は誰でしょうか?デニー?ジミー?それともジョー?それともカヴァー曲?

  

(左)アルバム「ロンドン・タウン」。デニーとポールの共作を多数収録。デニーの作風・貢献がもっとも色濃く表れたウイングスの名盤!

(右)アルバム「ウイングス・アット・ザ・サウンド・オブ・デニー」。デニーが自作曲やポールの曲をカヴァー。アコギ弾き語りの曲はデニー・ファンなら必聴です。

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