Jooju Boobu 第120回
(2006.5.25更新)
Sweet Sweet Memories(1993年)
またまた更新が遅れて申し訳ないです(汗)。例の如く「オフ・ザ・グラウンド・コンプリート・ワークス」特集です。アルバム「オフ・ザ・グラウンド」期のシングルのみで発表された佳曲の数々を紹介してゆきます。今回は、『Sweet Sweet Memories』です。この曲ももちろんアルバム未収録でシングルのカップリングでのみ発表されたのですが、やっぱりポールらしさ満開です。しかも、前回の『Kicked Around No More』とは正反対の要素でポールらしさが表れています。バラードだった前回とは違い、今度ははちきれんばかりのポップです。シンプルながらも本当にハッピーひと筋の曲です。今日はこの曲を語ってゆきます。
ポールといえばやっぱりキャッチーなポップ、というのは多くのファンが思うことでしょう。ことさらウイングス時代にはキャッチーでポップな曲が多くヒットしたことは周知の通りですね。しかし、'80年代になるとポールはいったんこうしたポップな楽曲を発表しなくなります。それはウイングスの終焉やジョン・レノンの死など、ポールに相次いで環境の変化が押し寄せてきたことや、ポール自身が大人になって落ち着いた作風に変わっていったのもあります。全くポップがなかったわけではありませんが、こうして'80年代の大半は穏やかな作風に転じ、その後ロック色も見せたポール。再び彼に本格的にポップが戻ってくるのは1989年のアルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」でのことでした。久々に「バンド」を組んだことや、ビートルズ時代の味を生かしたことがこのカムバックの要因でしたが、そこからのシングル『My Brave Face』と『This One』は、ポールのポップがひさしぶりに堪能できた曲でした。
その次のアルバムが、「オフ・ザ・グラウンド」。前作およびそのツアーと同じバンドメンバーを従えてのセッションが行われました。結局アルバム本編はそれほどポップにはなりませんでしたが、同時期のシングルのカップリングにはウイングスもほうふつとさせるポップナンバーが垣間見れます。前々回の『I Can't Imagine』もそうですし、『Keep Coming Back To Love』もそうです。そして、一番はつらつとしたポップがこの『Sweet Sweet Memories』です。約10年のブランクを経て復活したポール流ポップが、盛んに炸裂しているのです。
なにしろリズムがとってもはじけています。ポップなのですが、少しロックよりの、しかもアメリカンロックの匂いがする曲です。バンドメンバーの影響なのでしょうか。これは当時のポールの作風のひとつでもあり、『Looking For Changes』と『Style Style』でストレートに表れています。ただ、そちら2曲がロック寄りに対し、あくまでもこっちはポップです。よりポールらしさが表れています。メロディもウキウキするような感じで、ちょっとハーフスポークン的でもあります。タイトルコールの繰り返しが非常に覚えやすく、さすがポールといったところです。アレンジも気が利いていて、単調になりがちな曲を飽きさせずに聴かせます。ひとつは間奏後の転調。無理なく転調するので、転調していることを知らずに過ごしてしまいそうです。そしてもうひとつは、これは分かりやすいですね。後半のリズムチェンジ。ドラムパターンが変わり、スローな感じになります。とはいえテンポ自体は変わっていないので歯切れよいです。普通に終わらずドラマチックに聴かせる、『Junior's Farm』と同じ効果がもたらされています。
演奏自体は非常にシンプルです。キャッチーなポップをあえてシンプルに演奏するとはなんともニクいです。ポールもそれほどこの曲のポップさに自信を持っているのでしょう。過度な装飾なんていらないのです。まさに直球勝負。そういえば『She's My Baby』でもそんなことをしていましたね(あっちのシンプルさの方がもっとすごい・・・)。この曲はギターサウンドが中心で、それも「ポップロック」色を強めています。右から左から、いろんなカラーのギターが聴こえてきます。どれがヘイミッシュで、どれがロビーなのでしょうねぇ?序盤の左から聴こえるギターがいい感じですね。間奏には明確なギターソロがないのも特徴です。シンプルさはこんな所にも表れています。ポールの弾くベースも歌うように飛び跳ねます。ポップ系になるとよく名演を聞かせるポールだけあります。名演に比べれば地味ですが、忘れてはならない音です。キーボードは、前半ではあくまで控えめにオルガンが入っているだけです。スローになる後半からは、大々的にオルガンが入っています。エコーのような音も入って、前半のポップさとは少し違ったミステリアスな感じも漂わせます。
そして、この曲のポップさを出しているのがブレアのたたくドラムスです。適材適所にパターンを変えて繰り広げる彼の演奏が、この曲のはじけた感じを一番出していると思います。“She's got the right amount of passion”の部分で「タン、タン、タン」と歯切れよくなるのが好きですね。節で最初にタイトルが出てくるところでタンバリン中心になるのもいいです。そして後半のリズムチェンジ。これが凡庸なドラムパターンだったら、この曲の魅力は半減していたでしょう。本当に気の利いた演奏です。それにしても、最後の秋の虫のような効果音が、『Once Upon A Long Ago』の冒頭を思わせて仕方ありません(汗)。
ポールのヴォーカルにもポップさがあふれています。はつらつとした歌い方が印象的です。ヴォーカルもどこかアメリカンロックを意識しているような・・・?繰り返しの部分でのアドリブも力強く伸びやかですね。この曲はイントロがありませんが、それもこの曲の快活な始まり方を効果的に演出しています。ポールのからっとした声がいきなり飛び込んできて、聞き手は一気に曲に引き込まれてゆくのです。あまり聞き取れませんが、アウトロではポールはハミングしています。そしていいアクセントになっているコーラス。「ウー」のコーラスや、タイトルコール。これも本当に気が利いています(さっきから気が利いてばかりですね)。ウイングス時代のように本当に効果的で全面に出たコーラスです。やはり、バンドでやるとソロに比べてこういう所もがらりと変わりますね。
歌詞は、ポールにとって「理想的な女性」を歌ったものです。ポールにとってはきっとリンダさんだったのでしょうけど。気品があって機知に富んで、情熱いっぱいで、まじめすぎでも鈍感すぎでもなく、ユーモアと甘い思い出にあふれた人が理想だそうです。『Style Style』でもポールは理想の女性像(=リンダさん)を歌っています。たくさん歌っていそうですが、実は非常にシンプルな歌詞です。後半になるとほとんどタイトルコールで済ませてしまっています。リズムチェンジ後の“Taking me back”は、『Junior's Farm』を意識している!?
あっという間に語ることがなくなったので(爆)、最後に発売状況について。この曲はこれだけポップなのにアルバムには収録されませんでした。収録されていたらアルバムの雰囲気もだいぶ変わっていただけに、非常にもったいないです。代わりにこの曲はシングル「オフ・ザ・グラウンド」に収録されました(英国以外のCDのみ)。現在は、例の如く入手困難です。もちろん、「コンプリート・ワークス」には収録されているんですけどね・・・。
この曲も、なぜアルバム収録曲候補から外されたのかが解せない1曲です。ポールらしいポップセンスがあふれているというのに。バンドらしい演奏に仕上がっているというのに。ドラムパターンやコーラスなどが効果的だというのに・・・。私はここで紹介したほどですから大好きな曲です。地味な存在になってしまっていますが、シンプルなバンドサウンドで聴かせるこのポップにはポールらしさ満載です。一度聴く価値ありです。アルバム本編そっちのけで聴いてください(爆)。個人的にはさらに、曲のイメージとしてマンガ「魔法先生ネギま!」(←またか!)の椎名桜子が浮かんでいるので余計好きな曲になっています。別に桜子が曲で歌われているような理想の女性像だというわけではありませんが(あ、でも案外そうかも)。快活ではじけた感じが桜子らしいのです。かわいいですよね。もちろん、今回のイラストは桜子です。
最後に、この曲を聴いていると、リズムチェンジの直後に反射的に『Jet』のイントロをつなげてしまうのは私だけでしょうか・・・?どうもウイングスライヴの『Rockshow』〜『Jet』の流れに似ている気がしまして・・・。
さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「ハーモニカとアコーディオン」。お楽しみに!
(左)シングル「オフ・ザ・グラウンド」。初出はこのシングルです。英国では発売されませんでした。CDにのみ収録。
(右)限定版アルバム「オフ・ザ・グラウンド・コンプリート・ワークス」。なんとしても手に入れて、CD 2だけを繰り返し堪能してください(爆)。