Jooju Boobu 第113回

(2006.4.22更新)

Off The Ground/Soggy Noodle(1993年)

 ようやく追いついた・・・(汗)。ようやく普段あるべき更新日に追いつきました。今週何曲紹介したやら・・・。更新しないと大変なことになることを思い知らされました(汗)。これからはちゃんと木曜と日曜に(無理だったら週2回)更新しますのでどうぞよろしくお願いします・・・。

 さて今回は、「裏庭〜」シリーズを除けばひさしぶりに'90年代以降のポールです(爆)。今までこの時代の曲がほとんど紹介されていないことも考えると、つまりそれほど私がこの時期の曲を好きでないということになるのですが・・・(汗)。そしてなんと!今回紹介する曲は、この「Jooju Boobu」で初登場のアルバムからです!その名は、「オフ・ザ・グラウンド」(1993年)。はい、私が一番苦手なアルバムです。ポールがツアーバンドと一緒に作った、きわめてシンプルなアレンジのアルバムなのですが、メロディやアレンジに潜むどこか煮え切らない感じが私には苦手に感じられるのです。某曲とか某曲とかは個人的にはポールの曲の中でも最下位レベルですし・・・(爆)。しかも、この時期のシングルカップリング曲を収録した「オフ・ザ・グラウンド コンプリート・ワークス」を最近聴いたのですが、こちらはいいメロディの曲ばかりで私の大好きな曲がたくさんあるという皮肉的な結果になっています(「コンプリート・ワークス」の曲はいずれ特集組んで一挙に紹介します)。そのためか、私はこのアルバムの曲を「Jooju Boobu」で一度も紹介してきませんでした。

 そんな中、今回ようやく初めて紹介されることとなった曲が、タイトルソングの『Off The Ground』。アルバムの中でもかろうじて私が好きな曲です。現時点でアルバム中一番好きな曲です。ただし、時によって『Biker Like An Icon』だったり『Looking For Changes』だったり『Peace In The Neighbourhood』だったりするので、この曲に飽きてしまうのも時間の問題かもしれませんが・・・(汗)。まぁ、このコラムで紹介されてよかったねということにしてください。今考えれば「コンプリート・ワークス」の曲に比べ私のお気に入り度が低いしねぇ・・・。と、先行きが早くも不安なこの曲ですが、やはりポールらしいポップなメロディがいいですね。とりあえず語ってゆきましょうか。今回は、プロモの冒頭で流れた『Soggy Noodle』も語ります。

 アルバム「オフ・ザ・グラウンド」は先述の通り、1989年〜1990年のポールのワールド・ツアーに参加したツアー・メンバーと共に制作されました(ドラムがクリス・ウィットン→ブレア・カニンガムにトレードされていますが)。プロデューサーはジュリアン・メンデルソン(『It's Not True』の大げさリミックスでおなじみ)。ポールはバンドとアルバムを制作することに喜びを覚えていたのか、できるだけバンド色が濃くなるようシンプルなアレンジにこだわりました。そのため、リハーサル音源や一発録りが収録されていることもあります。レコーディングは1991年に始まり、1992年には終わっていましたが、ポールのこだわりもあって1993年にようやく発表されることとなりました。しかし、不思議なことにアルバム収録曲より同時期のシングルに収録された曲の方が質がよいのです。『Looking For Changes』と『Kicked Around No More』を比べてみれば分かります(爆)。収録曲はメンバーの人気投票で決めたそうですが、みんなセンスがなかったのでしょうか(爆)。個人的には、一発録りのような感じがラフなのと、メロディやアレンジに煮え切らない部分を感じてしまいます。

 そんな「シンプル」がキーワードのアルバムにおいて、『Off The Ground』はタイトルソングなのにそれとは少し違います。オーバーダブがたくさん成されたサウンドは、'80年代ポールに比べればシンプルですが他の収録曲に比べ明らかに色彩が豊かです。アルバム中唯一派手なプログラミングがされているのも異色です。それもそのはず、この曲だけ録音された時期や環境が少しだけ異なるのです。実はこの曲、アルバムが完成に近づいた頃にようやく取り上げられているのです。つまり、もう少し時機を逸していたら収録もれになっていたかもしれないのです。アルバムタイトルが全く違うものになりかねなかったのです。さらに、この曲はポールが「シンプルなバンドサウンドの曲ばかりになったから、ちょっとばかりコンピュータを使った曲があっても罰は当たらないだろう」という思いつきで録音されたもので、そうした経緯があったことが、この曲が他の曲とは毛色の異なるアレンジが施された原因となったのです。

 元々、この曲はフォーク調の曲だったそうですが、コンピュータを通じたことでエレクトリック・ポップに大変身しました。バラード→ロックの『Getting Closer』しかりロック→トラッドの『Famous Groupies』しかり、ポールの曲にはたまにこうした変身が起きますが、いずれも変身後の姿の方が似合っているのがポールの直感の鋭さを感じます。ポールがスタジオで先の「ちょっとばかりコンピュータを(以下略)」を持ちかけた相手は、ポール・“ウィックス”・ウィッケンズ。ツアーメンバーで、キーボード担当。恐らくプログラミングに関して一番興味を持つのでは・・・と思ったのでしょうね。ちなみにウィックスは1989年のツアー以降現在までポールのコンサートに欠かせない人物となっていてポールの信頼の厚いことを思わせます。「オフ・ザ・グラウンド」当時のツアーメンバーの中では、共作までしたヘイミッシュ・スチュワートに並んでポールに重用された人物といえます。「コンピュータ・アレンジ!面白いね」と意気投合した2人の「ポール」は、早速数人のスタッフと共にコンソール・ルームにこもってまだフォーク調のこの曲にいろんなプログラミング処理を施します。それがはまって有頂天のポールはギターにシンセベースと、次から次へとオーバーダブをしてゆきます。その結果、今CDで聴けるような限りなくポップでファンキーな1曲になったのです。基本的な録音はその一日でポールとウィックスの2人によって仕上げられてしまったので、残るツアー・メンバーは全員後付け録音に参加しただけです。ロビー・マッキントッシュはギターソロのみ、ヘイミッシュとリンダはコーラスのみ、ブレアにいたっては不参加という結果です。これも「バンドが一体となって作ったアルバム」としては異例で、ポール&ウィックスによる作品といえます。

 こうして出来上がったこの曲は、プログラミングによるオーバーダブを重ねたサウンドやバンドの一部しか参加しなかったということもあって、アルバムの中では異色です。しかしながら、アルバムの中では非常にマッチしています。それは、アルバムタイトルになったことや1曲目に収録されたこともありますが、やはり異なる環境があってもバンドのカラーが守られていることが要因でしょう。よく聴けばギター・ベース・ドラムといったバンドの基本的サウンドを中心として構成されていて、打ち込みドラムもビートを強調しているにとどまっています。打ち込みに関しては「プレス・トゥ・プレイ」や『Motor Of Love』でポールが懲りたのは以前のコラムで話したところ。いくらコンピュータ・アレンジが面白いと感じても、ポールに、そしてバンドに似合うスタイルにとどめたのはポールが学んだ教訓が生かされた、といえます。そして、なんといってもメロディがポール節!やはりこの人はメロディアスなポップがうまいですね、と感じさせるそのメロディ。ポールらしさが出ないわけにはいきません。1曲目に置かれたことで、さらに「ポール節」としての存在が大きく出ることになったのです。恐らくリアルタイムでアルバムを聴いた方は、最初にこの曲を聴いた時「ポール節だ!」と喜んだことでしょう。他多数の収録曲が弱いのには進むにつれてがっかりしたかもしれませんが・・・(苦笑)。誰でも覚えやすく、キャッチーなのもいいですね。

 曲は、そんなことでヘヴィー・ポップというかエレクトリック・ポップになっています。カラー的には同時期のシングルに収録された『Long Leather Coat』に近い感じです。耳に残るのが手拍子のようなドラム。明らかに打ち込みなのですが、思わず一緒に手をたたきたくなってしまいます。最後の最後で字余り的なのはちょっと変ですが・・・。そして他はギターサウンド、と言っていいほどギターが強調されています。ポールが2人のセッションで入れたものと、ロビーが後付けで入れたものの2種類となりますが、一緒に録音したんじゃないの?というほど相性がよいです。ヘヴィーでハードな演奏が印象的です。イントロ・間奏でのロビーのスライド・ギターがいいですね。ほぼ全編でずっと演奏されていて、やっぱりギターサウンドです。キーボード類はウィックスが初期段階でかなりたくさん入れたと思いますが、このギターを前にかき消されています・・・。最初は「ポール&ウィックス」でも、最後は「バンド」となっていることを印象的に示しています。ウィックスの立場がないですが・・・(汗)。

 こうした後付された「バンドの一体感」は、ヴォーカルにも表れています。リード・ヴォーカルのポールは非常に気持ちよく歌っているようです。力むことなく、タイトルのように「空を飛んで」いるかのような感じです。「バンドの一体感」は、後付されたコーラスです。リンダさんとヘイミッシュによるものですが、タイトルコールの後ろで「ラララララ」と歌っているのが楽しげです。メロディ同様覚えやすいフレーズで、思わず一緒に歌いたくなってしまいます。透き通った歌声が爽快です。ポールのリードとほどよいハーモニーを築いていて、これが別録音とは思えません。バンドとしてのまとまりを、本当は擬似的なのに否が応にも感じさせます。リラックスした様子は、「ハー」という溜息や、エンディングの笑い声などにも出ています。こういったヴォーカルのラフな雰囲気がアルバムに共通していますが、他の曲(某7曲目とか)のようにそれが悪い結果になっていないのが素晴らしいです。

 歌詞も、これまたポール節がはちきれんばかりに発揮されています。「空を飛ぼう」と繰り返し歌われるのが印象的ですが、本質的には「愛」を歌ったものです。その内容は『心のラヴ・ソング』や『Coming Up』と比べてもなんら遜色ありません。「僕にも君にも愛は必要さ」と歌われていて、愛をはぐくむのは簡単なことさ、と言っています。本当に、ポール流の愛があふれかえっているのです。アルバムタイトルになったことで、「空を飛ぼう」というキーワードはアルバムジャケットにも使用されました。例の、6人の足が上方にちらっと見えるやつです。ちなみに、アルバムタイトルに決まった理由は、娘と電話していた際に「いいタイトルじゃない?」と言われたからだそうです。

 さて、この曲のその後です。まず、アルバムからの第3弾シングルとしてシングルカットされました。英国では発売されませんでした。既にチャート争いの第一線を退いて久しいポールでしたから、このシングルはランクインすらしませんでした。シングルにはアルバム未収録曲がずらりと並び、アルバムでは最後にシークレット・トラックとして収録された『Cosmically Conscious』の完全版や、後述する『Soggy Noodle』も入っていました。ちなみに、EU盤と日本盤ではこの曲はシングル・ヴァージョンが収録されていました。これはキース・コーヘンが手がけたリミックス・ヴァージョンで、私は聴いたことがないですが、リズムが強調されているそうです。また、「ラララララ」のコーラスから始まっているそうです。この時期のアルバム未収録曲は日本とドイツのみで限定販売された現在入手困難な2枚組アルバム「オフ・ザ・グラウンド コンプリート・ワークス」に収録されていますが、「コンプリート」と題されているわりにはこのリミックスは収録されていません。(厳密に言えば、『Hope Of Deliverance』のリミックスに当たる『Deliverance』や、『Biker Like An Icon』のライヴ・ヴァージョンも入っていませんが・・・)そのため、このリミックスは輪をかけて入手困難のレアアイテムです。

 次にプロモ・ヴィデオです。このアルバムからのシングルカット曲はすべてプロモが制作されています。この曲は、当然ながらタイトル通り「空を飛ぼう」を題材にしたプロモになっています。どういうことかといえば、ポールが空を飛ぶのです!といっても、翼があるわけではないのでCG処理で飛んでいるだけですけど。まずポールがスタジオでギターを弾いていると、窓が開き風が入ってきます。するとヘフナーのベースが宙に浮くではないですか!ここで曲が始まります。ヘフナーに刺激されたポールは、ピアノに寝そべり飛ぶ格好をしているうち、いつしか本当に宙に浮いてしまいそのまま外へ飛び出します。その後ポールは空を飛びながら高原や渓谷、ナイアガラの滝といった感じに世界一周旅行を楽しみます。リラックスした顔で両手を広げ飛ぶポールと、壮大で美しい景色とのコラボが、CG処理によって実現していてすごいです。夜になり、スタジオでは飛び立ってしまったポールを呆然と見送ったツアーメンバーが。「そろそろ帰るのでは・・・?」と窓から外を見ていますが、ポールはなんと、その背後でギターを持ってソファに座って浮いているではないですか!そんなポールを見たメンバーたちも宙に浮いて、アルバムジャケットのように足だけが映ったところでこの楽しいプロモは終わります。ポールらしい能天気な感じがよく表れた、見ていて面白いプロモです。上記のストーリーの合間にはスタジオ演奏シーン(モノクロ&カラー)もありますが、手拍子をたたいたり楽しそうです。ちなみに私は、去年(2005年)BSで放送されたポール特集番組(司会:松村雄策氏)でこのプロモを見ました。そして、私が手元に持っている数少ないポールのプロモとなっています。

 さて、このプロモの冒頭でポールがギター弾き語りしている曲。実は、これが先述の『Soggy Noodle』です。書くことがないほど単純なインストですぐ終わってしまうのですが、なんとシングル「オフ・ザ・グラウンド」や「オフ・ザ・グラウンド コンプリート・ワークス」で聴くことができます(いずれにしろ入手困難ですが)。アコギの弾き語りはポールの曲にごまんとありますが、エレキギターの弾き語りは異例です。タイトルは「のびた麺」という意味ですが、なんでそういう名前になったのでしょうか。ちなみに、ポールのオリジナルスタジオアルバム&シングルとしては『Hanglide』以来のインストで、長い間この曲が最後のインストでしたが『I've Only Got Two Hands』(2005年、アルバム「裏庭の混沌と創造」収録)がそれを更新しました。以上、『Soggy Noodle』の解説終わり!(爆)

 アルバム発売後、ポールは同じツアーメンバーでコンサート・ツアーに出かけますが、そこではアルバムからの新曲が多く演奏されました。この曲も演奏されたのですが、ライヴ盤「ポール・イズ・ライヴ!」には収録されませんでした。

 今回この曲を取り上げてみて、聴きながら執筆してみましたが、前よりも一段とこの曲が好きになってきました。最近私の中で「コンプリート・ワークス」ブームが起きているので、ちょうどいいタイミングでした。やっぱりポールらしくて、バンドのよいところが表れていて非常にいいです。アルバム本編はいまだに私は苦手で好きになれませんが(汗)、この曲は好きだなぁ。

 そして、ようやく「Jooju Boobu」は普通の更新に戻りました(また崩れるかもしれないけど)。次回紹介する曲のヒントは・・・「偽薬売り」。お楽しみに!!

  

(左)シングル「オフ・ザ・グラウンド」。EU・日本盤のこの曲はリミックス。『Soggy Noodle』の他、『Cosmically Conscious』『Style Style』『Sweet Sweet Memories』を収録。

(右)アルバム「オフ・ザ・グラウンド」。バンドが一体となって制作したアルバム。個人的には苦手です(汗)。どうせ買うなら限定版「コンプリート・ワークス」がお勧め!(入手困難)

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