Jooju Boobu 第111回

(2006.4.17更新)

Motor Of Love(1989年)

 今回の「Jooju Boobu」は、第111回。1が3つです。ではなくて、今回はポールお得意のバラードの登場です。1989年のソロアルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」の実質的なラスト・ナンバー、『Motor Of Love』がそれに当たります。「フラワーズ・イン・ザ・ダート」といえばご存知の通り、ポールが'80年代の混迷から「復活」した強力な一枚ですね。ライヴ活動再開を意識したため、ひさしぶりにストレートなポップやロックが多く収録されています。このアルバムが成功に導かれたのは諸要因がありますが、ポール自らとしては、大不評に終わった(と書くのが私にはつらいですけど)前作「プレス・トゥ・プレイ」の作風を反省し、過度な打ち込みサウンドをやめたという所に成功の秘訣があったように思われます。しかし、今回紹介するこのバラードは、なぜかその流れに逆行して、その「プレス・トゥ・プレイ」に入っていてもおかしくないような音作りをしています。なんだか変な感じですね。なぜでしょう?ぼちぼち語ってゆくとしますか。

 アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」は、ポールがライヴ再開とビートルズの見直しのきっかけとなった一枚で、ご存知の通り久々の大ヒットとなった一枚です。前作「プレス・トゥ・プレイ」での打ち込み主体のサウンドが売れず、続いて行われたフィル・ラモーンとのアルバム制作も喧嘩別れに終わったことを反省して、ツアーを意識してバンドサウンドに回帰したことや、エルビス・コステロとの出会いなどをきっかけにビートルズを見直し、昔の頃のテイストを自分の曲に甦らせたことが、曲を生き生きとさせ、大ヒットにつながったといえるでしょう。自分は自分らしく。そんな気持ちの転換が彼の中に起きたのでしょう。

 しかし、このアルバムをよく聴いてみるとポールは打ち込みを捨てたわけでもないようです。さすがに全曲打ち込みで、機械的な感じということはないのですが、『Figure Of Eight』や『Rough Ride』などは打ち込みドラムを使用しています。また、同時期のシングルに収録された『Ou Est Le Soleil?』や『Good Sign』といった曲は、ハウス・ミュージックに影響された実験的な曲で、「プレス・トゥ・プレイ」をほうふつとさせます。こうしたシングルのみの曲は土俵の外と考えておいて、とりあえずアルバム収録曲を見てみると、どうやら過剰にならない程度に、適材適所に打ち込みを使ったことが「今風」の音を出しつつもリズムにメロディが負けないような効果を出しているのだと思われます。「プレス・トゥ・プレイ」での反省点を、ポールはちゃんと踏まえていたのです(私はあまり「プレス・トゥ・プレイ」の悪口は書きたくないのですが・・・)。

 ところがどっこい。そんな「フラワーズ・イン・ザ・ダート」において、唯一その法則から外れた曲があります(CDのみのボーナス・トラックだった『Ou Est〜』はカウントしない)。つまり、「PTP」に入っていそうな打ち込み主体の曲ということです。それが、今回紹介する『Motor Of Love』です。アルバムの実質的なラスト・ナンバー、アナログ盤では完全に最後の曲で、'80年代以降ポールのアルバムの最後を飾るようになった壮大なバラードです。バラードはポールの得意分野であることは周知の通りで、その気になればさらっとバンドサウンドでも完成度の高いものが作れてしまいそうですが、なぜかこの曲は打ち込みを中心にすえた録音をしたのです。不思議な話です。なぜこの曲だけやけに打ち込み主体なのでしょうか。

 それは、このアルバム特有のプロデュース体制にあります。「プレス・トゥ・プレイ」のヒュー・パジャム、その後のセッションのフィル・ラモーンと、1人によるプロデュースに自分の音楽が変な方向に持っていかれることを危惧したポールは、このアルバムのセッションでは曲にあわせて複数のプロデューサーを迎えることにしたのです。セッションは4度に分けて行われましたが、それぞれプロデューサーが異なります。エルビス・コステロとの共作曲4曲はポールやコステロなど、『This One』『Put It There』などはポール自らのプロデュース。この2つはポール自らがプロデュースに関わっていることから、バンドサウンドが強調されています。一方、トレバー・ホーンを迎えた『Rough Ride』『Figure Of Eight』などは先述の通り若干ドラムなど打ち込みが使用されています。ハウス満開の『Ou Est〜』もこの時の録音です。しかし、まだまだ過剰といえるほどではないところに収まっています。

 そしてこの曲は、といえば一連のセッションの一番最後に録音されています。ちょうどシングル収録の『Good Sign』と同時期です。プロデュースはクリス・ヒューズとロス・カラム。ティアーズ・フォー・フィァーズなどのプロデュースで知られるコンビで、ポールもこれを伝に彼らを知ったそうです(作風が気に入ったらしい)。『Good Sign』はどうやらポール単独のプロデュースらしいので、ヒューズ=カラムのプロデュースはこの曲だけということになります。いわば、特注品といえるかもしれません。そう、この曲だけ時期もプロデューサーも全く違うのです。そのためアルバムで唯一、打ち込みを主体とした曲となったのです。

 さて曲を聴けばすぐ分かりますが、ドラムスを中心にコンピュータでプログラミングされたサウンドがあふれています。そのつくりはまるで「プレス・トゥ・プレイ」を思わせます。ただ、全体的にはあれよりかは控えめで、少なくともメロディを負かすほど過剰には入れていません(若干大仰な感じもしますが)。雰囲気はラモーンのプロデュースした『Once Upon A Long Ago』にも似ています。ドラムスは、「PTP」がパシッと軽めだったのに対し、こちらはズシンとした重々しい感じです(変な説明)。ドラムのほかにも、様々な装飾音が多重録音されていて、分厚く仕上がっています。ただし、メカニカルなイメージから来る冷たい印象はなく、スウィープパッドのような音が温かみを出しています。露骨な打ち込みでなく、温かみがあることは、この曲にとってプラス要因となりました。ヒューズ=カラムコンビの作風なのか、ポールが「PTP」の二の舞(涙)にならないように指示したかは不明ですが、バラードらしさを殺さないための配慮がなされています。

 曲自体はアルバムラストにふさわしい壮大なバラードで、3拍子のリズムをしています。『Junk』や『Mull Of Kintyre』など、ポールの書く3拍子のバラードには名曲が多いとはよく言われる話ですが(そんなに言われないか)、この曲も実に美しいメロディをしています。ポールはこの曲でピアノを弾いていますが、ピアノ弾き語りでもいけそうな感じです。サビのメロディは相変わらず覚えやすいですね。そんなきれいなメロディをプログラミング・サウンドが覆っているわけです。このセッションには、ポールの他にヘイミッシュ・スチュワートがギターで参加しています。後にポールのツアーバンドの中心人物となるヘイミッシュですが、この曲ではアウトロで印象的なソロを弾いています。

 歌詞は、越えることのできない人物に対して感謝を述べるものとなっています。人生のつらい時にも手を差し延べてくれるその人物に、何も望まない、ただただ感謝する、という内容です。タイトル部分で出てきますが、“Heavenly father”というキーワードから恐らく神様について歌ったのではないでしょうか。ポールいわく「天の父=亡くなった父ジェームズ」と「神様」のダブルミーニングらしいですが。無宗教だと思われるポールが神を意識した詞作を発表するのはきわめて異例のことです。ジョージ・ハリスンならそんな曲、日常茶飯事に作っていますけど(爆)。急にこんな詞作を書いたことについてポールは「神といるのも悪くないからね」とコメントしています。神聖なオーラ漂う詞作に、この3拍子の美しいバラードはぴったりですね。教会音楽を思わせたりして。そう考えるとシンセの多重録音も、天国の夢うつつな雰囲気を表したみたいに感じられます。ポールのヴォーカルも、その影響かソウルフルにしかし丁寧に歌われています。詞作どおり、心から感謝しているかのようです。ヘイミッシュがハーモニーをつけていますが、彼の声質は当時のポールサウンドに欠かせない要素ですよね。なんか、かっこよさが出てきて、好きですね。あと、エフェクトを通したようなコーラスもあって幻想的です。

 打ち込み主体というサウンドは、ある意味「プレス・トゥ・プレイ」から何にも進歩していない気がしますが、この曲の場合曲のテーマに合わせた音作りになっているのが勝因だったでしょう。同じシンセでも、味付けがいい具合にできているのです(「PTP」は味付けが一辺倒気味であることは認めざるを得ません・・・)。あとは、収録されたアルバムが複数の作風・個性的な曲の集まりだったことも勝因でしょう。おかげで没個性的にならずに済んだのですから。これが「PTP」の間に放り込まれていたらこの曲も現在の「PTP」のようにメロディはよくても過小評価されていたことでしょうに。まぁ、この曲は幸せ者ですな(PTPファンの僻み)。

 この曲で再び打ち込みに挑戦したポール(プログラミングやシンセ音作りはヒューズ=カラムコンビがやったものの)。しかし、ほとほと打ち込みに懲りてしまったようで、「コンピュータを使って音楽をレコーディングするのが大嫌いなんだ」とのコメントを残しています。何しろエンジニアがポールのベースの音を覚え込ませるのに、生演奏の50回分ぐらいの時間がかかったそうですから。ポールだっていらいらしてくるでしょう。元々アナログ志向で「コンピュータに支配されたくない男」ポールには、打ち込みサウンドは毛色の合わないものだったのでしょう。もしかしたらこの曲について内心、「ヒューズ=カラムに依頼したのは間違いだった」と後悔しているのかもしれません。その後のポールは目立った打ち込みを使用することはなくなりました。でも、「ファイアーマン」とかハウスに凝っているんですけどね・・・(苦笑)。

 この曲は、アルバム大ヒットの後に満を持して行われた感動のワールド・ツアーでは演奏されませんでした。やろうと思えばシンプルなアレンジでもできたのですが・・・。コンピュータに懲りた思い出が残ってしまったためでしょうかねぇ。また、この曲をシングルカットする動きもあったようですが挫折しました。あのアルバムからは既に4曲もシングルカットされているので、これ以上カットする意味がなかったからなのでしょうが。しかも、クリスマス用にシングル発売する予定だったそうなのだから驚きです。確かに、シンセの音や神様が登場する辺りクリスマスソングに聞こえなくはないけど・・・ちょっと苦しいかな。

 なんだか「プレス・トゥ・プレイ」を卑屈に書きすぎたので執筆中になんだかいやな気分になってきました(爆)。でもこの曲も素直に好きだから、どっちの味方もしたいので苦しいです(汗)。この曲は、「フラワーズ〜」では異色ですがラスト・ナンバーとしては成功していると思います。やや大仰な感が否めませんが、メロディの美しさに心が洗われるかのようです。歌詞も神聖な感じですが「はは〜っ」とひれ伏してしまうような威圧感はなく、すーっと心の中にやさしく暖かく染みとおってゆく感じがいいですね。神といるのも悪くないからね(爆)。とにかくとても美しい曲なので、打ち込みが嫌いな方もぜひ一度聴いてみてください。そして、もしよかったら「プレス・トゥ・プレイ」も・・・すみません脱線しました。

 まともなレビューが書けているのか不安ですが、まぁこれでいいか。時間もないし。

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「ブラウン・ライス」。お楽しみに!!

アルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」。多彩な音楽性が発揮されながらも、全体のまとまりがきっちり決まったポールの「復活」作!

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