Jooju Boobu 第110回

(2006.4.15更新)

So Glad To See You Here(1979年)

 今回もお約束どおり木曜更新を過ぎてしまいました(爆)。もはや定期更新ではなくなっている気が・・・(汗)。なんとかしなければとは思っているのですが、期待してくださっている方には申し訳ございません。「Jooju Boobu」だけを更新しているわけにはいかないので、どうぞそのまま見守っていてください・・・。

 さて、今回は番外編の『Time To Hide』の方が先に紹介されてしまいましたが、本編の方は『So Glad To See You Here』を取り上げます。この曲は1979年発表のウイングスのラストアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」に収録されたのですが、なんといっても「ロケストラ」による演奏が特筆されますね。'70年代を締めくくる一大ロックプロジェクトとしてポールが立案したロケストラによるきらびやかな演奏は、あれから25年も経つ今でも新鮮味を失わず輝き続けています。ポールがロックに目覚めていた時代だけあって、ポールのロック要素が光っています。そんなこの曲を、今回は語ってゆきます(語ることが少ない予感もしますが)。

 「ロケストラ」とは、ポールが作った造語で「ロックによるオーケストラ」との意味。つまり、オーケストラのように順番にソロを披露するロックバンドのことで、多数のミュージシャンによって重厚なロックを仕上げてしまおうという感じの企画ものです。ポールは1974年には既にその考えを胸の内で温めていたようで、そのテーマ曲『Rockestra Theme(ロケストラのテーマ)』をデモで作っています。その後、本格的に実現に向けて動き出すのが1978年。クリス・トーマスをプロデューサーに迎えてアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」を制作していた時です。ポールは親交の深い人物を中心にいろいろなロック・ミュージシャンにロケストラへの参加を呼びかけます。その結果集まったのが18名(+ウイングスで23名)で、ピート・タウンゼント[ザ・フー]、デヴィッド・ギルモア[ピンク・フロイド]、ジョン・ボーナム、ジョン・ポール・ジョーンズ[レッド・ツェッペリン]、ロニー・レイン[元スモール・フェイシズ]などそうそうたる顔ぶれでした。実際にセッションが行われたのは1978年10月3日。アビーロードスタジオで6時間にも及んだこのスーパー・セッションは、ピート・タウンゼントに「毎年クリスマスにはロケストラだ」という名言を残させるほど成功に終わりました。

 このロケストラ・セッションで演奏されたのは、先述のテーマ曲『ロケストラのテーマ』と、今回紹介する『So Glad To See You Here』です。いずれもポールの曲です。前者はロケストラのために作られたのは明らかですが、後者はタイトルからして恐らくロケストラに集まったミュージシャンたちにお礼代わりに書き下ろしたものだと思われます(作曲時期が不明なので断言できませんが)。「ロックのオーケストラ」だけあって、みんなが喜びそうなロック・ナンバーです。「バック・トゥ・ジ・エッグ」で見られるように当時のポールは再びロックに目覚めていますが、それを考えるとちょうどいいタイミングでのセッションだったといえます。ロック色が濃い時期のポールによって、ロケストラに提供する曲が作られたのですから。ロケストラにふさわしい1曲です。

 『ロケストラのテーマ』と同じく、演奏はロケストラ23名による演奏です。ギターがデニー・レイン、ギルモア、タウンゼントなど5名。ベースがポールなど3名。ピアノ・キーボードがリンダ・マッカートニー、ジョン・ポール・ジョーンズなど4名。ドラムスがジョン・ボーナム、ケニー・ジョーンズなど3名。パーカッションがレイ・クーパーなど4名。そして、中期ウイングス以降アルバムやライヴでおなじみだった4人のブラス奏者というラインアップです。『ロケストラのテーマ』ではポールはピアノを演奏していましたが、この曲ではベースを弾いています。それ以外はテーマ曲と同じ演奏体系です。23名が集まれば、当然分厚いサウンドになることは必至で、度肝を抜くような重厚さはいつ聴いても新鮮です。重厚さでいったら『ロケストラのテーマ』よりインパクトが強いと言っても過言ではないです。ロックのオーケストラが目的なので、この曲でもすべての演奏者がそれぞれのパートで決められたメロディを演奏しています。ひとりひとりの個性あふれたソロといったものがないため、つまらないと言ってしまったらそれまでですが、普段は一緒に演奏する機会のない者同士が集まって同じパートを演奏するというのはなかなか興味深いことであります。

 この曲では、特にブラス・セクションが印象的に聴こえます・・・と思っていたら、じっくり聴いてみたら実はそうではなかった・・・。イントロのフレーズがブラスかと思っていましたが、ギターだったんですね(汗)。ギターは、『ロケストラのテーマ』ではインストという性格上明確なソロが中心にすえてありましたが、この曲ではただただ音を分厚くするための道具として演奏されている感があります。ブラス・セクションは後半になるとようやく目立ってきて華やかさをかきたてます。ドラムスも3台分あるのでさすがに力強く聴こえます。こちらも3台が同じ演奏をしています。一番自由に演奏しているのはピアノでしょうか。所々で大きくミックスされていて、中盤にはグリッサンドも登場します。名ミュージシャンたちの中で一番素人のリンダさんがどんなパートを演奏していたのかが興味あるところですが、残念ながら聞き取れません。テンポが速いこともあってか、『ロケストラのテーマ』より迫力満点に感じられます。

 『ロケストラのテーマ』と一番異なる点は、こちらには歌詞があるということです。歌詞があるということは、ヴォーカルがあり歌があるということです。そのため、自然とメインは音楽よりも歌になります。先述しましたが、シャウトや掛け声しかないテーマ曲の方はメロディをギターソロが代行していますが、こちらはメロディはヴォーカルが歌えばそれで十分なのです。ヴォーカルはこの曲の作曲者でロケストラの立案者・ポール。やはり主役はポール、といったところです。みんなと演奏できてうれしいのか、この時期再解禁したシャウトにも力がこもっています。分厚い演奏にも負けないくらいインパクトのある歌声です。コーラスはウイングス(デニーの声が中心)が担当。基本的にはポールと一緒にシャウトでハモっているだけですが、タイトル部分では普段の落ち着いたコーラスに戻っています。ヴォーカルがポールで、コーラスがウイングス・・・と考えれば明白ですが、この曲は「ロケストラ」というよりは「ウイングス&ロケストラ」ないしは「ウイングス with ロケストラ」といった感じがします。最近流行のコラボにも似た感じ、といえるでしょうか。テーマ曲の方は100%ロケストラですが、こちらはヴォーカルがメインの分ウイングスの方が主役でロケストラはさながらバックバンドなのです。同じ23名で、同じ方式で演奏した2曲でも、実はこんな大きな違いがあるのです。

 歌詞は、タイトルどおり「君たちにここで会えてうれしいよ」と、ポールがロケストラのメンバーに対して謝辞を述べているかのようです。ポールはロケストラのためにミュージシャンが集まるか心配だったのですが、その不安を払拭して素晴らしい演奏を聞かせてくれたミュージシャンたちの集結がよほどうれしかったのでしょう。先述しましたが、この曲は元から作ってあったのではなく、ミュージシャンが一通り決まった段階でポールがお礼代わりに書き下ろしたものだと思われます。『ロケストラのテーマ』を録音し終えて、「ではもう1曲」といった感じだったのでしょう。しかし、いまいち意味が通じない歌詞で、サビの部分はいろんな人が今夜行おうとしていることを歌っているだけです。また、シャウト混じりヴォーカルなので歌詞が聞き取りづらい部分も多々あります。

 面白いのは、この豪華な演奏の後に連結される形でちょっとした部分が付け加えられていることです。2分31秒以後がそれで、明らかに前半部分とは違うテイクです。それもそのはず、この部分はロケストラ・セッションとは別の日にウイングスだけで独自に録音したものだからです。演奏ももちろん当時のウイングス5人(ポール、リンダ、デニー、ローレンス・ジュバー、スティーブ・ホリー)だけによるもので、それまでの重厚さに比べてスカスカな音作りが印象的です。まるで長い長いトンネルを抜けたかのような爽快感があります。この部分には『So Glad To See You Here』本編のメロディは全く登場しません。逆に、当時のウイングスのアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」収録曲『We're Open Tonight(今宵楽しく)』のフレーズと歌詞で成り立っています。これは、ポールがアルバムにコンセプトを持たすために加えたものです。「バック・トゥ・ジ・エッグ」は、『Reception』や『The Broadcast』を聴いていただければ分かるようにちょっとしたコンセプトが通してある半コンセプトアルバム。この曲でさらにその色を濃くしようとする狙いがあったものと思われます。

 この部分では、ポール・リンダ・デニーの3人が“We're open tonight for fun”というフレーズを歌うものが重なり合いながら何度も繰り返されるというもので、『So Glad』本編の歌詞にもぴったりです。『Silly Love Songs』でもこの3人は3声のコーラスで見事な歌声を披露していましたが、ここでもそれをほうふつとさせるような美しいハーモニーです。右側にデニー、真ん中にポール、左側にリンダさんと、凝ったステレオ配置をしています。さてこのフレーズ、全員で何回言っているでしょう?(答えはドラッグして見てください→)(答え:9回)

 初期段階では、この曲がアルバムラストを飾る予定でした。というのも、公式盤でラストの『Baby's Request』は当初アルバム収録の予定がなかったからです。例の『Cage』追放事件によって『Baby's Request』がアルバムのラストに収録されたため、前に1つずれることになったのです。そのため、この時期のブートでは『So Glad』がラストになっていることがあります。もしラストだったら、ロケストラで華やかに締めくくっておしまい・・・ということになっていたはずです。

 驚くべきことに、この曲はアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」で発表されても、一度もライヴで演奏されることはありませんでした。まして、1979年12月29日のカンボジア難民救済コンサートでロケストラが若干のメンバーチェンジで再結成された時にも演奏されませんでした。『ロケストラのテーマ』はもちろん、『Let It Be』や『Lucille』も演奏されたというのに・・・。本場「ロケストラ」のこの曲が演奏されなかったのは意外です。さらに、1979年のウイングス全英ツアーでも演奏されませんでした。この上なくライヴ映えする曲なのに・・・。

 ウイングスのアルバムに収録されてしまったことで、特にこの曲は「ロケストラの曲」というよりは「ウイングスの曲(あるいはポールの曲)」といった色が強くなってしまいましたが、ロケストラ総勢23名によるパワフルな演奏は「エッグ」収録曲の何よりも負けません。この曲が今でもその重厚さと迫力に新鮮味を覚えるのは、ウイングス自身の力もありますが、やはりロケストラに集まった面々の力が大きいでしょう。個人的にはテーマ曲の方が好きですが、ポールのヴォーカルもあってテンポの速いこの曲の方が人気が高い気がします。ライヴでも演奏されず、ベスト盤にも収録されていないので認知度は低いですが、歴史的セッションから生まれた1曲としてぜひ注目していただきたいと思います。もちろんポール・ファンのみならず、ザ・フーのファンにもピンク・フロイドのファンにも(ソロプレイはありませんけど・・・)。

 私にとって「バック・トゥ・ジ・エッグ」は大好きなアルバムの1つですが、この曲はその中ではあまり好きではありません(とはいえ、110曲目で紹介されているのだからだいぶ上の方です)。というか、「エッグ」の曲はほぼ紹介しつくしたと思います。あと1曲目、3曲目、4曲目、10曲目、11曲目、12曲目が残っていますけど、ほとんどの曲が最初のうちに消化されています。余談ですが、実は『So Glad』はもうちょっと前にこのコラムに紹介される予定でした。しかし、いろいろ生産調整があったのでリストからもれてしまいました(汗)。ですから実際の順位はもうちょっと上です。まあ、このコラムがいくら大好きな曲順に紹介されているとはいえ、順位なんて徐々に変わっていくものですから。(『Wild Life』や『Simple As That』をあんな上位で紹介している自分が信じられない・・・)

 さて、次回紹介する曲のヒントですが・・・「若干大仰なAOR風バラード」。お楽しみに!!

アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」。ロケストラの演奏も2曲収録。ポールがロックに目覚めたウイングスのラスト・アルバム。

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