Jooju Boobu 第107回

(2006.4.01更新)

Girls' School(1977年)

 またもや更新が遅れてしまい申し訳ございません(汗)。最近は週に2回更新になっていない気もしますが、今後も長いお付き合いをよろしくお願いいたします。

 さて今回は、前回紹介の『It's Not True』の「プレス・トゥ・プレイ」と並んで私が大好きなポールのアルバム「ロンドン・タウン」の時期からです。このアルバムからもかなりの曲が語られそろそろ完全制覇に近づきつつあるわけですが(爆)、今回はボーナス・トラックに収録された『Girls' School』です。「ロンドン・タウン」のセッションで録音されたものの、アルバム発売前の大ヒットシングル「夢の旅人」にのみ収録された曲なのですが、黄金期ウイングスが最後の輝きを見せた曲として注目できます。また、詞作や発売状況などにも興味深い点の見られる曲です。ぼちぼち語ってゆきましょう!

 このコラムでも何度も語ってきていることですが、アルバム「ロンドン・タウン」はそのセッション期間中にウイングスのメンバーが2人(ジミー・マッカロクとジョー・イングリッシュ)脱退するという事件があるなどして、時期によって多彩なカラーを持つことになりました。大きく分けて、ウイングスが5人編成だった頃[1977年2月〜5月]と、脱退後3人(実質ポールとデニー・レインの2人)で活動を続けた頃[1977年10月〜12月]の2つの時期となりますが、この曲は前者に当たります。ちょうどヴァージン諸島に浮かべたヨットで優雅にセッションをした時に録音されました。ウイングスは5人編成で、前年に全米ツアーを大成功させた黄金期のラインアップ。数々のコンサートをこなしすっかり脂の乗ったこのバンドの元録音されたのです。

 この洋上セッションでは、そんな彼ら(特に脱退してしまうジミーとジョー)が得意とするロック・チューンが多く演奏されています。アルバムに収録されることになる『I've Had Enough』『Cafe On The Left Bank』『Morse Moose And The Grey Goose』などなど。そして、この『Girls' School』もそんなロックの1つです。1974年の大幅なメンバー追加以来、ウイングスはハード・ロックの曲を演奏することもうまくなりましたが、その集大成と言えるかもしれません。中でもこの曲は一番ノリがよく、『Junior's Farm』や『Rock Show』の直系の子供と言えるでしょう(その先が続かなかったのは残念なことです)。ビートルズナンバーで言えば『Back In The USSR』に一番近いでしょうか。しかしこうした作風はウイングスならではで、ビートルズにはありません。ハードな中にもビートの軽快さを忘れない。絶頂期ウイングスの持ち味が、この曲でも十分に堪能できます。

 ストレートさと軽快さが持ち味のこの曲ですが、やはり演奏面ではジミーのギターとジョーのドラムスが大活躍です。この2人あって、初めてウイングスがロックバンドに生まれ変わったのですから。さすがこの時期の牽引役!といった素晴らしい演奏を聴かせています。エレキ・ギターはデニーも弾いていて、さらにオーバーダブされているためか重厚さが出ています。イントロやつなぎで聴かれるフレーズが印象的です。ポールのベースも負けじと重低音を効かせています。ジョーのドラミングは単純そうに見えて実はけっこう複雑だったりします。特に歌のある部分は起伏に富んだ演奏です。他にはピアノが入っています(後半グリッサンドが入るのでよく分かる)。名目上はリンダさんになっているみたいですが、けっこう長く演奏されているのでポールなのかもしれません。さらに、隠し味として渋い感じのブラス・セクションが入っています(サックスが目立つ)。これは洋上で一緒に録音したものではなく、あとでオーバーダブしたのでしょう(ツアーでおなじみの4人組の演奏?)。これが、ギターの重厚さをさらに強調しています。とはいえ、先ほどから繰り返しますが軽快さを損なわない程度。全体的にはノリノリに仕上がっています。歌のない部分が曲の半分を占めているのにも、演奏に対する自信が伺えます。

 演奏ではジミーとジョーが主役なら、ヴォーカルではポールが大活躍です。この曲では熱のこもった歌声を披露しています。『Hi Hi Hi』『Jet』『Junior's Farm』『Beware My Love』と、ウイングスのロックでは必ずといっていいほどシャウトを聴かせてきたポールですが、この曲でもシャウト風ヴォーカルがフィーチャーされています。しかし、軽快さを考えてなのか今までよりかは少し控えめです。逆につなぎでは「アウ!」という素っ頓狂なシャウトを出しています。しかし、ポールだからこの曲だから似合っています。思わず一緒に叫んでしまいたくなりそうです。つなぎの「オー、ウウウウー」というコーラスは『Back In The USSR』を少しだけほうふつさせます。曲が似ているからそう感じさせるだけなのでしょうか。また、後述のように歌詞が女子校を題材にしているため、整列の合図のようなカウントで始まります。最初の声がリンダさんで、あとはポール?

 ポールのこの手のウイングス・ロックは、「かっこよく聴かせる」ことが最優先されるために歌詞が意味不明だったりすることが多いのですが(『Jet』が典型的な事例)、この曲もその例に漏れません。しかもこの曲の歌詞は、なんとポルノ映画の広告に触発されて書いたそうです!なんでも、1975年のウイングス日本公演が中止になった際、ふてくされてハワイへ飛んだポールがそこで見つけた新聞で見つけたそうなのですが・・・。つまり、Hな歌詞というわけです(『Hi Hi Hi』でやっているのであまり驚きませんが)。タイトルはその名の通り「女子校」であり、歌詞には学校の女先生や女生徒の様子が描かれていますが、直接的な描写はないもののどこかHな響きを持っています。日本人先生「ユキ」が登場する点が、我々としては興味深いところでしょうか。「東洋のお姫様」だそうな。第3者の登場人物を設定するのはポールの得意技ですが、この曲の登場人物がやっていることはなんとなく奇行にも見えなくないのですがいかがでしょう。まぁ、歌詞に深い意味はなさそうですし、リスナーにとっては曲がかっこよければそれでいいのです。

 この曲は、洋上セッションの曲としてはいち早く発表されることになります。1977年11月、シングル「夢の旅人」のB面に収録されたからです。A面の『夢の旅人(Mull Of Kintyre)』は、洋上セッションの後(1977年8月)に録音されたスコティッシュ・ワルツで、ジョーが参加した最後の曲となりました。そう、このセッションを挟んでジミーとジョーは相次いで脱退してしまうのです(絶頂期ウイングスの崩壊)。そのため、シングルが発売された頃にはウイングスは3人となっていました。そして皮肉にも、そのシングルは英国で空前の大ヒットを記録。全英1位はもちろんのこと、当時のシングル売り上げ記録を塗り替えてしまったのです。まぁ、スコットランド民謡丸出しのご当地ソングだったので無理もないことでしたが・・・。A面のヒットに乗じて、この曲は英国の多くのリスナーの元へ渡っていったのです(爆)。

 しかし、このシングルに納得のいかなかった国があります。アメリカです。米国のレコード会社は、ポールにAB面を逆にするよう依頼したのです。無理もないでしょう、スコティッシュ・ワルツじゃあ米国では売れませんから(苦笑)。それよりは、米国人好みのロック・チューン『Girls' School』を宣伝した方が売れると計算したのです。晴れて、米国でのみこの曲がメインサイドとしてシングル発売されました。ポールのシングルで国によってAB面が逆になるのは1974年の『Junior's Farm』『Sally G』に次いで2度目となります。お国柄によって、ヒット性も変わってくるわけなんですね。しかし、レコード会社の意に反して33位までしか上昇しませんでした。『夢の旅人』の大ヒットと比べると雲泥の差です。元々B面に似合う曲として選ばれたものをA面にして発売するのに無理があったのでしょうけど・・・。

 シングルで発売されてしまったため、この曲は1978年に発売されたアルバム「ロンドン・タウン」には収録されませんでした。もし収録されていたら、まったりムードで癒し系のあのアルバムももう少しロック要素が濃くなっていたでしょう。そして時は過ぎ1989年。ポールのアルバムが相次いでCD化されましたが、アルバム「ロンドン・タウン」にはこの曲がボーナス・トラックとして収録されました。しかし、この時にはなぜか途中をカットした3分ちょっとのエディット・ヴァージョンが収録されていました。これはDJエディットで、1回繰り返しが少ない上にエンディングが短くなっています。一方、1993年に「ポール・マッカートニー・コレクション」として『夢の旅人』も加えてリイシューされた際には、シングルに収録されていた4分強の通常版が収録されました。現在は通常版が一般的に流通しています。ただし、1993年以前の「ロンドン・タウン」(『夢の旅人』が入っていない)にはDJエディットが収録されています。私は持っていないので聴いていません。でも、大好きなアルバムだからこれだけのためにもう1枚買ってもいいかなぁ・・・。アルバム未収録曲を集めたブートにも収録されているそうです。

 この曲は、個人的には「ロンドン・タウン」の収録曲でもあまり好きではないです。といっても、全体で見たらかなり上なんですけどね(爆)。黄金期ウイングスが大好きな方にはたまらない1曲でしょう。ジミーとジョーの脱退直前ということで、一番脂の乗った頃の演奏を聴くことができます。このラインアップが終わってしまったのは残念です(1979年のウイングスも大好きですけど)。ジミーが程なくして死んでしまうので黄金期ウイングスは再現不可能ですし・・・。この曲はライヴで演奏されたことがないですが、ぜひライヴでも聴きたいですね。『Back In The USSR』くらい盛り上がると思いますよ(曲の知名度がないのが痛いですが)。「ロンドン・タウン」は田舎道(私的には房総半島を縦断する国道297号線の市原市牛久〜勝浦間)のドライヴに非常に似合いますが、この曲に限っては海岸線沿いが似合いますね。ドライヴの時には次が『夢の旅人』なので、「いよいよ次が・・・!」と思わせる1曲です。(『夢の旅人』が私の房総半島ドライヴでいかに感動的かは歴代の「ドライヴ・レポート」を参照してください) ヒットはしませんでしたが、ウイングスらしいロックなのでぜひ聴いてみてくださいね。

 さて、アルバム「ロンドン・タウン」も気づいてみればあと3曲!!さすが、お気に入りだけあります。残るは6曲目、10曲目、13曲目です。これらはいつ出てくるのか・・・?

 そして、次回紹介する曲のヒントですが、「『Cold Cuts』収録のレゲエインスト・ヴァージョン」。ヒントのヴァージョンは個人的に最強です(爆)。お楽しみに!!

  

(左)当時のシングル盤の、この曲サイドのジャケット。誰かが覗きをしています(爆)。

(右)ボーナス・トラックとしてこの曲が収録されているアルバム「ロンドン・タウン」。1989年のファースト・イシューと1993年のリイシューでは収録ヴァージョンが違うのに注目!

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