Jooju Boobu 第105回

(2006.3.22更新)

Friends To Go(2005年)

 更新が大変遅れました(汗)。いつも楽しみに見に来てくださる方には申し訳ございません。さて、久々の更新となる今回は、6曲続けてやってきました最新作「ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード(裏庭の混沌と創造)」特集の最終回にあたる曲です。もちろん、この後も随時私のお気に入りの順番にあわせて最新作の曲が出てきますが、この6曲で本編のお気に入り順に追いついたことになります。

 特集最終回の今回は『Friends To Go』を紹介します。アルバムの中でもことさらポップロックといった感の強いこの曲は、アルバムを通して共通するシンプルさがまたもやあふれています。この曲の面白い点は、ポールがこの曲を書く際に思い浮かべた「ある人物」です。ポールにとって大の親友にあたる彼の作風を意識したということは、とても興味深いです。この点を中心に、『Friends To Go』を紹介します。

 この曲はポップロックといえるでしょう。『Fine Line』もこのカテゴリに入ると思いますが、それよりはロックの色に偏っています。ただし、バリバリのロックではなくビートルズ中期(1965年〜1966年)にありそうな感じのおとなしめのロックです。後半に少しハードになりますが、ポールらしいメロディアスさを失わないくらいです。アルバム「裏庭の混沌と創造」にはこうしたメロディアスさを保ったままのポップロック系の曲が多く、元気だけど自分らしさのあるポールにうれしくなってしまいます。

 この曲は、初回限定盤付属のDVDでポールが語っているように実は「ある人物」を意識して書かれたそうです。その人物はジョージ・ハリスン。言わずもが、ポールと同じ元ビートルズのメンバーで、ポールとは中学時代からの親友でした。ビートルズの前身に当たるクオリーメンにジョージが加入したのもポールを伝ってのことでした。その後、ビートルズ末期以降関係がぎくしゃくしだし、一時は仲たがいした状態が続いていましたが、'80年代以降はよりを取り戻し、一緒に演奏する機会も増えてきました。ジョージはお得意の皮肉でポールと距離をとりつつも、2001年に亡くなるまでよい関係を保ったのでした。

 ポールにとってかかせない友人の1人であるジョージを、自分の曲に意識しだしたのは最近になってからです。1989年には『This One』というジョージに向けたラヴソングを発表していますが、ジョージの死を挟んで彼に対する意識は強まっていきます。彼の死の直前に発売されたポールのアルバム「ドライヴィング・レイン」に収録されているジョージもどきのインド音楽『ジャイプールへの旅』はともかくとして、ジョージ追悼イベント「コンサート・フォー・ジョージ」への出演、2002年ツアーでの『Something』の演奏、さらに2004年ツアーの『All Things Must Pass』、2005年ツアーの『In Spite Of All The Danger』と、コンサートで必ずジョージへのトリビュートを行っています。

 そしてこの『Friends To Go』で、ついに自作曲にジョージが降りてきたのです。ポールいわく「自分がジョージになってジョージの曲を書いている気がした」と発言していますが、あやふやで微妙なコード進行が確かにジョージを思わせます。ジョージ初期の名曲『If I Needed Someone(恋をするなら)』がまっさきに思い浮かぶ感じです。同じジョージの曲でも、お得意のインド音楽ではなく彼ならではの複雑で繊細なポップが意識されているのです。演奏時間の短さや、使用楽器のシンプルさなどからビートルズ時代のジョージの曲、といった趣もあります。それにしても、ジョン・レノンの作風を意識した『Let Me Roll It』ではそれを否定していたポール、この曲では自らジョージの曲との類似性を認めているというのは時の流れを感じうれしいです。

 演奏は相変わらずポールが単独で全部を演奏しています。ギター、ベース、ピアノ、ドラムス、パーカッションはもちろん、フリューゲルホルンまで演奏しているから、改めてポールのマルチプレイヤーぶりに驚いてしまいます。ポールがフリューゲルホルンを持っていることを知っていたナイジェル・ゴドリッチもすごいですが。ポールがすべての楽器を担当することで、上手と下手の中間点のようなサウンドとなり、ビートルズ時代のような雰囲気が出ています。ジョージの曲を意識して書いたので、そこらへんも計算されているのでしょう。

 曲の序盤はアコースティックギターを中心とした穏やかな感じです。だんだんと音が厚くなるのはポールの得意とする所。ピアノが入り、次にパーカッション、そしてエレキギターが入ると一気にハードな感じに変わります。つなぎの短いギターソロとフリューゲルホルンで一気に華やぎます。最後はコーラスも入ります(ビートルズ中期の「ラバー・ソウル」にありそう)。それにしても、演奏時間の短ささ・構成のシンプルさはこのアルバムでのポールの持ち味であり、聴きやすさを生んでいます。

 歌詞にも、ジョージが乗り移ったような感じがあります。なんでもブロック塀に囲まれて暮らす人たちを歌ったそうですが、その内容は読んでみると実は意味不明。ポールいわく「精神科医が研究したくなるような詞作」と語っています。向こう側にいる友達がいなくなるのを待っている、という孤立した考えを歌っているのは分かるのですが、比ゆが多く使われておりすっきりするような分かりやすさがないのが面白いです。ジョージの詞作として、インド思想や自分固有の考えにもとづいた「ジョージ哲学」の世界を歌った、分かるような分からないような詞作が大きな特徴の1つとして挙げられますが、この曲の詞作はまさにそれを狙っているのでしょう。ポールも『Tug Of War』なんかで「ポール哲学」を咲かせていますが、全体から見ればあまり普遍的ではなくきわめて珍しいケースです。今回の場合は本当にジョージがポールの頭脳に降りてきたのかもしれませんね。

 元ビートルズのメンバーをもろに意識した曲というのはポールの歴史では珍しいことで、ことさらここまでジョージを意識した曲というのはこの曲が初めてではないでしょうか。いよいよ紆余曲折のあったポールとジョージですが、ジョージ亡き今もその友情が絶えていないことが感じられてうれしいですよね。もしジョージが生きていたら、この曲を聴いて何と言ったでしょうか。いつもの皮肉で交わしながらも、内心は喜んでいたでしょう。この曲がジョージのヴォーカルで歌われたら・・・と考えるとかなわぬことだとは知りながらも惜しい気持ちがこみ上げてきます。アルバム発売直後の全米ツアーでは残念ながら演奏されませんでしたが、私はこの曲こそジョージ・トリビュートにふさわしい1曲だと思います(『This One』もいいですけど)。確かに『In Spite Of All The Danger』はれっきとした共作ですけど、ツアーのセットリストに入れるほどの曲ではないと思うので・・・。

 曲自体は、ジョージの『If I Needed Someone』の影響もあってかどこか「ラバー・ソウル」に収録されていそうな感じですよね。終盤のコーラスもいかにもあの時期といった感じですし(『You Won't See Me』とか)。歌詞もジョージ流哲学的で面白いし、全体的に薄味なアレンジですが好きな曲です。まぁ、個人的にはアルバムを聴く前に「Create Chaos」で遊びまくっていて、そのマテリアルにこの曲のフリューゲルホルンとギターのフレーズがあったという事実も作用していますが(爆)。今回もイラストは「らき☆すた」からですが、今回は曲の内容とは関係ない「イメージ」になってしまいました(汗)。だって、あのジョージ哲学の詞作でどんな絵が描けますか!?悩みに悩んだ末にこれに決めました。手抜きではないですからね(爆)。

 さて、次回から再び私のお気に入り順にポールの曲を紹介してゆきます。お次は第9層。全部で12曲が紹介されます。シングル曲は2曲(3曲?)、ベスト盤収録曲はそれとは違う1曲。かなり私のお気に入り度が減っていますが、まだまだ好きといった感じの曲たちです。最近好きになった曲もあります。まぁ中間レベルといった感じでしょう。「裏庭」特集でマンネリしてしまった方、次回からの更新をお楽しみに!

 さて、第9層最初の、次回紹介する曲のヒントは・・・「ハードなアレンジの美しいバラード」。お楽しみに!

アルバム「裏庭の混沌と創造」。今話題のポール最新作!

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