Jooju Boobu 第104回

(2006.3.13更新)

English Tea(2005年)

 さぁ引き続き最新作「ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード(裏庭の混沌と創造)」からですよ。今回は、『English Tea』です!ビートルズのアルバム「リボルバー」にありそう、とよく言われるこの曲は、シンプルに徹して初心に戻ったアルバム中もっとも「ビートリー」な曲と言えるでしょう。「ポールの自己パロディではないか?」という憶測も流れているほどです。その通り、ポールらしさがいっぱい詰まったこの曲の魅力を語ってゆきます。

 「ポールが初心に戻った」。「フレイミング・パイ」「ドライヴィング・レイン」の時もこう言われていましたが、最新作「裏庭の混沌と創造」を聴いてリスナーはそれを改めて思ったことでしょう。一曲一曲を短くし、アレンジをシンプルにしたこのアルバムは、まさにビートルズ時代をほうふつさせてくれます。もちろん、プロデューサーのナイジェル・ゴドリッチがきちっと機能していることでビートルズに完全に回帰していませんが、メロディアスな曲たちに往年の名曲の数々を思い起こした人も少なくないでしょう。

 そして、ことさらこの曲『English Tea』は「ビートリー」だと言われています。それも、1966年の人気アルバム「リボルバー」の作風に似ていると、誰もが口を揃えて言うのです。『C'mon People』『Beautiful Night』といったこれまでの「ポールのビートリーソング」が『Hey Jude』『Let It Be』といった後期のバラードの作風に似ているのと切り口が違っています。「リボルバー」といえば、ビートルズサウンドが革新的に変貌したことを世界に知らしめた衝撃の1作で、活動休止前最後のアルバムでした。名曲が詰まっているのは周知の通りで、ファンの間では「一番好きなアルバム」に取り上げる人が多い人気の一枚です。ポールもお気に入りのようで、自分がヴォーカルをとった5曲(『Eleanor Rigby』『Here,There And Everywhere』『Good Day Sunshine』『For No One』『Got To Get You Into My Life』)はすべて1989年以降のツアーで演奏されているほどです。

 ポール自身思い入れのアルバムなので、その作風に似た曲ができるのは自然のことだったのでしょう。そしてその「リボルバー」収録曲でも、この曲に特に作風が似ているのが、『For No One』です。フレンチホルンをフィーチャーしたクラシカルなこのピアノバラードは、ファンの間でも人気がある上、かのジョン・レノンも「いい曲だ」と絶賛したほどのお墨付きの名曲です。実は『English Tea』、『For No One』に雰囲気どころか構成が酷似しているのです。弾き語り中心のピアノバラードで、短い間奏に管楽器がフィーチャーされていて、短くまとめられている構成・・・『For No One』そっくりなのです。そう考えると、ストリングスのイントロも「ヤァ!〜」のヴァージョンを模倣したのかな・・・と思わせてしまうので不思議です。「『For No One』のセルフ・パロディではないのか?」という声まで既にささやかれているほどです。聴き比べると、その酷似ぶりがすぐ分かるはずです。

 ビートルズの『For No One』に似ているとなると、当然ビートリーになるのは必至です。しかも、「リボルバー」的ビートリーに。ストリングスは、ちょうど『Eleanor Rigby』を皮切りに本格的に使い出したあの時期を思い起こさせますし、ポールが自作曲でメインでピアノを弾き出すのも「リボルバー」の頃からですし、4人がレコーディングに顔を揃えなくてもよくなったのもこの時期からですし・・・。そう考えてゆけば、いかに『English Tea』が「リボルバー」の頃と作風が似ているかを思い知ることになります。そう、「リボルバー」発表から39年、ポール本人からパロディのように雰囲気そっくりの曲が生まれたのです。こういう優雅でお上品な曲は、元ビートル4人ではポールが一番上手。マーティン先生に習ったことを、ここでもちゃんと再現できているな、と思わせます。

 楽器は例によってほとんどをポールが演奏しています(ストリングス以外)。曲のメインは『For No One』同様ピアノです。ギターは入っていなく、そこも似ている点です。間奏の「フレンチホルンもどき」なリコーダーもポール。さすが、『The Fool On The Hill』で演奏していただけあります。ベルまでポール自身が演奏しているのですから、いかにゴドリッチがポールにいろんな楽器の演奏を指令したかが分かります。ポールが演奏していない唯一の楽器、ストリングスはいかにもクラシカルな雰囲気が出ています。アコースティックな音色を出している弦楽四重奏は、いかにもこじんまりとした感じです。冒頭のゆったりした部分が印象的。構成は、イントロを足して最後をカットした『For No One』、といった感じで非常にシンプルです。こういった小曲というのはポールの得意とする分野で、『Martha My Dear』なんかもほうふつとさせます。それでもやっぱり『For No One』のパロディなんですが(爆)。

 さてこの曲、ストリングスのクラシカルな雰囲気のせいか、どことなく英国の香りを漂わせます。それもそのはず、この曲のタイトルは『English Tea』だからです!そして歌詞はその名の通り「イギリスのティータイム」を歌ったものです。アルバム付属のDVDでポールが語っていますが、元来英国では「tea」と言うと紅茶のことを指していたのが、今はいろんなお茶(例:緑茶)が入ってきたので「English tea(英国のお茶)」と言わないと紅茶であると理解されないそうです。それを考えた時に「English Tea」の響きに感銘したポールが、それを題材に作ったのがこの曲、というわけです。1978年にずばり「ロンドン・タウン」という名のアルバムを発表、その前年にはスコティッシュワルツの『夢の旅人』を英国で大ヒットさせたポールの、母国の伝統への愛情がうかがい知れます。

 歌詞は、そういうわけで昔懐かしいティータイムを思い浮かべながら書いたものです。そのためか、「葵」「柳」「バラ」といったような「英国庭園」にありそうな植物や、「教会の鐘」「ケーキを焼くばあや」といった英国伝統の風景が歌いこまれています。「クロッケー」なんかは、英国の国技・クリケットの前身で「不思議の国のアリス」にも登場する英国古来のスポーツですし。さらに、使用されている語句・文法がやけに古めかしい英語です。出だしの“Would you care to sit with me?”(私と一緒に座りませんか?)なんか、相当な紳士でなければ今となっては使用しないような話し方です。しまいに「twee(おしゃれな)」や「peradventure(たぶん)」などは古語に該当します!ポール、よくこんな単語知っていますね!(英国人だから当然なのかもしれませんが)昔の英国の雰囲気を心得ています。ポールが「自分を誇らしく思うね」と言うのも当然ですね。我々日本人からすると聞き慣れない単語でいっぱいのこの曲、ますます英国の世界に紛れ込んだ感じを感じさせます。DVDでポールが飲んでいる紅茶、おいしそうですね。

 さてこの曲、アルバム発売後の全米ツアーで早速演奏されています。中盤のピアノコーナーで、バンドの演奏をバックに登場しました。ストリングスのパートは恐らくキーボードのウィックスでしょう。面白いことに、『Fixing A Hole』を挟んでこの曲の前が『For No One』です(爆)。ポール、やはり意識したのかも・・・。この曲に関しては、ツアー中に重要なエピソードがありました。11月12日、世界初となる宇宙へのライヴ演奏配信をこの曲で実現したのです。これは国際宇宙ステーションに滞在している米国人とロシア人、2人の宇宙飛行士に対し、アナハイム公演の模様をNASAテレビを通じてライヴ演奏で送ったもので、『Good Day Sunshine』とこの曲の2曲が演奏されました。これは、同年8月に宇宙船ディスカバリーの乗組員の目覚ましの曲として、宇宙管制センターが『Good Day Sunshine』を流したことがきっかけでした。ディスカバリーといえば、日本人の野口聡一さんも乗っていた宇宙船です。ポールはこの知らせに感動し、そのお返しに宇宙にいる飛行士に演奏を送りたいと思ってライヴ演奏配信に至ったのです。ここでもまた、この曲と「リボルバー」の曲との接点があって面白いです。この曲を宇宙で聴いた2人の宇宙飛行士は、「英国のお茶」の歌をどう受け取ったのでしょうか(どちらも英国人じゃないし・・・)。宇宙ではお茶も固形になってしまうろうに(爆)。

 この曲は、いかにも英国風、そしていかにも「リボルバー」(特に『For No One』)というのが印象的ですが、ポールが今でもビートリーなテイストを忘れていないことはビートルズファンとしてはうれしいことですね。新たな音楽に挑戦しながらも、昔からの持ち味を持ち続けることは大変ですが、それをできているポールはすごいです。そして、この英国風のサウンド。アルバム「ロンドン・タウン」の好きな私にとってはなじみやすいアレンジです(趣向は少し違いますが)。きっと本国では大人気の曲になるんでしょうね。ライヴでも演奏されているので、これからもっと注目が集まり、もっとファンの増える曲になるのでしょう。これからの活躍に期待ですね。ちなみに今回のイラストから柊つかさ@「らき☆すた」が復活しています。

 さて、次回で一連の「裏庭の混沌と創造」シリーズはひとまず終了です。次回紹介する曲のヒントは・・・「ジョージ・ハリスン」。お楽しみに!

アルバム「裏庭の混沌と創造」。ビートリーな曲あり、斬新な曲ありと、多彩ながらもカラーの統一された将来の名盤!

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