Jooju Boobu 第100回

(2006.2.28更新)

Fine Line(2005年)

 ついに!ついについに、「Jooju Boobu」は第100回を迎えることができました。2005年2月から約1年かけて、100曲を紹介してきたことになります(番外編含めると100曲以上!)。これも常日頃からこのコラムをごらんになっている皆様あってこそです。本当にありがとうございます。まだまだ続きますので、これからも毎回の更新を楽しみにしてください。

 そして区切りのいいことに、今回からはしばらく私のお気に入り順をお休みして、コラムスタート時にはなかったポールの最新アルバム「ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード(裏庭の混沌と創造)」から、私のお気に入りの第8層までに値するほど思い入れのある6曲を紹介してゆきます。このアルバムは今の私の大のお気に入りのアルバムになっていることから、好きな曲がたくさんあります。

 そして今回は、その「裏庭の混沌と創造」の先行シングルとなった最高のポップ・チューン『Fine Line』を語ります。この曲が「Jooju Boobu」第100回を飾ります!まさにタイムリーです。グラミー賞の候補にまで挙がった曲ですが、4年ぶりに新作を発表したポールにとって、ひさしぶりに彼らしいメロディアスでポップなナンバーで多くのファンに「らしいポールが帰ってきた!」と思わせた1曲となりました。しかし、これまでポールが世に出してきたポップ・チューンと違う一面も見せています。どこかストレンジな、アルバムタイトル通り「混沌と創造」といった感じの雰囲気が曲のいたるところに流れているのです。それは、ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースと、ポールが1人で演奏したことが影響しているでしょう。そんな所などを中心に、ポールらしいけどどこか変な感じのこの曲を語ります。

 2005年9月に発表されたアルバム「裏庭の混沌と創造」は、ポールが何年もかけて仕上げた自信作で、4年ぶりとなったポールの最新アルバムです。63歳になったポールが待望のアルバムを出したのですから、瞬く間にファンのみならず世界中の注目を集めました。ポールにとっては久々にチャートで成功した作品となりました。2001年に発表した「ドライヴィング・レイン」とは違い、ポールの得意とするメロディアスなポップを中心としたことで、「ポールの最高傑作の1つ」との呼び声も既に上がっているほどです。グラミー賞にもノミネートされたほどの作品となり、今後も長く長く愛されるであろう一枚です。

 その中でも、このアルバムを代表するかのような1曲が、『Fine Line』です。まさしく彼の代名詞である「メロディアスなポップ」であり、多くのファンが待ち望んできた曲なのです。思わずうきうきしてしまうような、そして思わず口ずさんでしまうようなメロディは、新曲を発表する間隔が長くなっているポールにとってひさしぶりとも言えます。「ドライヴィング・レイン」がロック方面だったこともありますし。そして、「天才メロディ・メイカー」ポールが、この歳になってもこんなポップな曲を作ってしまうのですから、ポールの体にあるポップ魂は死んでいなかったのです。これはファンにとっては大変うれしい話です。

 しかし、これまでたくさん生まれてきたポールらしいポップ、『Listen To What The Man Said』とか『Silly Love Songs』など(突発的にこの2曲が思いついたw)とは違い、この曲にはどこか不思議な空気が流れています。ポップながらどこかメロディがあやふやな感じがするのです。いや、メロディがあやふやに聴こえるのです。そうさせているのは、アレンジです。そのアレンジには、2つの要素が影響しています。

 1つは「ナイジェル・ゴドリッチのプロデュース」。レディオヘッドのプロデュースとして知られるゴドリッチがこの作品のプロデュースを始めたのは、ジョージ・マーティンがポールに紹介したことがきっかけですが、ポールと全く接点のないゴドリッチは、ポールの音楽に他には見られない独特の雰囲気を生み出すことに成功しました。ポールに対してはかなり厳しく、「殴ってやろうか」とポールが思ったこともしばしばだったそうですが・・・。そんなゴドリッチがこのアルバムに下した決定的な事柄が、もう1つの要素である「ポール単独演奏」です。元々は2002年のツアーバンドと共に新作の作業をしていたポールでしたが、ゴドリッチの勧めで1人ですべての楽器を演奏することに。まるで過去の「マッカートニー」「マッカートニーU」を思わせます。とはいえ、その2作とは違い「裏庭〜」にはしっかりとしたプロデューサーがいます。ゴドリッチがポールの暴走(爆)を止めることで、一定以上の質をキープすることに成功したのです。こうした要素の結果、ストレンジで混沌とした独特の雰囲気が生まれたのです。

 では曲自体の話に。ポップな曲をポールの単独演奏で聴かせるといえば、『Coming Up』(1980年、「マッカートニーU」収録)を思い出します。変てこな雰囲気は共通しますが、こちらはゴドリッチの監視下で音作りはしっかりとしています。ポールはこの曲でピアノ、ベース、ギター、ドラムス、パーカッションをすべて1人で演奏しています。さすがマルチ・プレイヤー!曲はアンニュイなカウントから始まります。これも変てこな雰囲気に一役買っています。軽快にリズムを刻むピアノを中心に曲は進んでゆきます(元々ピアノで書いた曲らしい)。どこか『Flaming Pie』(1997年)に似たような雰囲気も漂っています。ドラムスはポールらしく乾いた感じの音ですが、以前のような違和感はありません。タンバリンやシェイカーをつけてリズミカルにしている部分もあり、ポップな感じを引き立てています。そして、ブリッジでは滑らかなストリングスが入り、「混沌」さを出しています。一筋縄でいかないサウンド、というのがこの曲含めアルバムの特徴です。また、構成も少しユニークで、おまけにシンプルです。フェイドアウトしないでしっかり終わるのも特徴でしょう。後半からは素っ頓狂な声で“It's a fine line”というコーラス(もちろんポール)が入りますが、これがまた覚えやすく、耳から離れないのです。気づいたら一緒に歌ってしまっています。

 歌詞は、意思決定について歌っています。冒頭の“There's a fine line between recklessness and courage”(無謀さと勇気には明らかな違いがある)という一節が示すように、人の行動は「無謀さ」と「勇気」の選択で成り立っている、ということを言いたいようです。う〜ん、分かるような分からないような・・・。ちなみに、この曲の歌詞に出てくる“chaos and creation”こそが、アルバムタイトルの元となった語句です。

 この曲は、アルバムからの先行シングルとして、8月に発売されました。まさに、ひさしぶりのポールの新曲でした。そしてそのポップな曲調にポールらしさを感じた人々の間で注目を集め、中ヒットしたのです。ただし、'80年代中期以降チャートの上位に姿を見せなくなったポール、この曲も上位に入ることはありませんでした。というか、結局この曲は最高何位だったんでしょうねぇ?ひとまず、「裏庭〜」のヒットへの布石となったことは確かです。日本ではアルバム共々セキュアCDという曲者(東芝EMIさんご推奨)で発売されましたけど・・・。

 シングル発売されたことで一躍アルバムの「顔」となったこの曲は、当然ながらアルバム発売後のツアーでも演奏されました。そしてついには、第48回グラミー賞の「最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス」にノミネートされてしまいました!グラミー賞ノミネート作品を集めたオムニバスにまで収録されてしまい、63歳のグラミー賞獲得の期待もあいまってますます注目されました。残念ながら、その座はスティービー・ワンダーに奪われてしまい、それどころかグラミー賞のどの部門も獲得できず、ポールはかなり落胆している様子でしたが・・・。ちなみに、このグラミー賞授賞式(2006年2月8日)の席においても、この曲は演奏され、ポールの健在ぶりをアピールしました。まさにこの曲は、現在のポールの代名詞的ナンバーとなってしまったのです。

 アルバム「裏庭の混沌と創造」の初回限定版には、付属DVDがついていて、ポールやゴドリッチがアルバムを語る模様を見ることができますが、このDVDにこの曲のミュージック・ヴィデオが収録されています。これはスタジオでこの曲を演奏するポールを編集したもので、ピアノ・ベース・ギター・ドラムスを演奏する姿が映っています。ベースがヘフナーなのにも注目です!(って、最近のポールはヘフナーか・・・)主にピアノを弾く姿が中心で、この曲のメインはピアノであることを改めて思わせます。それにしてもポール、老けたなぁ・・・(爆)。

 というわけで、一躍有名に(!?)なってしまったこの曲ですが、そうなるにふさわしい曲だと思います。何にしても、ポールらしいポップなメロディなのが素直に喜ばしいです。「ドライヴィング・レイン」で困惑した方も、この曲には両手を上げて喜んだでしょう。こういうポールを、待っていたのかもしれません。'90年代以降のポールの曲に魅力を感じない私でも、この曲そして「裏庭〜」全体には「傑作」のオーラを感じます。特にこの曲は、ポールらしくて大好きです!アルバムどころか、ポールの曲全体の中でも上位に入るほど好きです!この曲が、ポールの新たなスタンダード・ナンバーとなりますように・・・。

 今回のイラストは、私の大好きなマンガ「らき☆すた」のキャラクター・柊つかさです。ただし、作中で泉こなたというキャラが描いたものですが(爆)。一筆書きみたいな、シンプルな鉛筆画というのがシングル「ファイン・ライン」のジャケットに似ていると思ったもので。

 さて、次回も当然ながら「裏庭の混沌と創造」からです。次回紹介する曲のヒントは・・・「裏庭」。お楽しみに!!

  

(左)シングル。シンプルなラインアートのジャケットです。でもセキュアCDはいただけません(苦笑)。CCCDでない分まだましか。

(右)アルバム「裏庭の混沌と創造」。63歳にして、メロディアスなポールが戻ってきた!最高のポップ・ロックアルバム!!

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